●成り代わったものは
「来てくれてありがとう」
灼滅者達を教室で出迎えた神童・瀞真(大学生エクスブレイン・dn0069)は、いつものように和綴じのノートを手に話を始める。
「日本各地の自衛隊基地で、アンデッドが自衛官に成り代わっていることが判明したよ。成り代わったアンデッド達はまるで生きている人間のように振る舞い、自衛隊で生活し続けていたようだね」
サイキック・リベレイターを使用する前から既に成り代わっていたらしく、これまで察知ができなかったのだ。今回サイキックアブソーバーの予知が得られたのは、彼らが何らかの作戦を行う為に動き出そうとしたからと想定される。
「アンデッドの目的は不明だけれど悪事である事は間違いないから、アンデッドが動き出す前に自衛隊基地に潜入して、灼滅をお願いしたいんだ」
瀞真はそう告げ、灼滅者一人ひとりの顔を順に見ていった。
「自衛隊駐屯地は、当然、関係者以外立ち入り禁止となっているよ。灼滅者の力があれば無理矢理押し入るのは簡単だけど、できるだけ穏便な方法で潜入できると尚良いね」
ESPの旅人の外套があれば見張りも監視装置もフリーパスとなるので、旅人の外套を利用した灼滅者がまず潜入、監視装置などを切った後に他の灼滅者が潜入するという方法がよいかもしれない。
「アンデッドは自衛隊員として行動している為、夜は駐屯地内の寮で就寝しているふりをする為に、寮の一室に戻っているよ。同室に一般人がいる場合誤魔化すのが難しいと考えたのか、アンデッドがいる寮の一室の入寮者は全てアンデッドに成り代わっているね。アンデッドのいる寮の部屋への地図は用意するから、深夜に寮に踏み込んでアンデッドを撃破したあと、撤退して欲しいんだ」
そう告げて瀞真は和綴じのノートをめくる。
「今回敵となるアンデッドは4体。どれも若い男性型だよ。殴る、蹴るといった攻撃方法の他、腐敗したような匂いの息を吹きかけてきたりするね」
瀞真によればアンデッドの戦闘力はそれほど高くないが、普通の雑魚アンデッドよりは高い戦闘力を持つという。
「人間だった頃から戦闘力が高めの個体である事と、協力して戦闘する事に慣れているといった特徴がある為、自衛隊員アンデッドはアンデッドにしては、それなりに強いと思うよ」
けれども『アンデッドにしては』強い、ということなので、雑魚よりは強いと思っておけば間違いないだろう。
「また、今回のアンデッドは逃走することはなく、周囲の一般人を人質にするようなこともしないようだから、その点は安心してほしい」
そう告げて、瀞真は和綴じのノートを閉じた。
「今回のアンデッド達は指揮官ではなく、下っ端の隊員だよ。殺されてアンデッドに成り代わられた隊員達の為にも、この事件を無事に解決してほしい」
そう告げた瀞真がぽつりと、呟く。
「自衛隊の武器は灼滅者にもダークネスにも全く効果がないけれど、ノーライフキングは人間社会を裏から操る手法に長けているため、何らかの作戦に使用するつもりなのかもしれないね」
なんだか暗雲が広がり始めているような、灼滅者たちの間にそんな予感が渡っていくのだった。
参加者 | |
---|---|
鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181) |
叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779) |
灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085) |
月雲・悠一(紅焔・d02499) |
狩野・翡翠(翠の一撃・d03021) |
蔵座・国臣(病院育ち・d31009) |
平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867) |
オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448) |
●潜入
夜風が気持ち良い季節になってきた。だが、今の灼滅者達にそれを味わっている余裕はない。
(「自衛隊内部にアンデッドをね。情報収集か、はたまたもっと大規模な企みか、キナ臭いわね」)
闇を纏った鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)は頭に叩き込んだ寮までの地図を思い出し、詮索は後ね、と自分を律する。
「潜入任務か。何事もなく済むといいが」
ぽつり、呟いたのは蔵座・国臣(病院育ち・d31009)だ。
「灼滅者の自衛隊襲撃を引き起こすことによって、一般人から灼滅者への疑惑を……いや、バベるか。潜入させたゾンビによって人類同士での戦争の火種を起こす?」
続けてひとりごちたのは、自分の推測を整理するため。
「……」
国臣と同じく旅人の外套を纏った灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)は暗視装置をつけ、ふたりに身振り手振りで進行を促した。文字通り闇に紛れるようにして、三人は自衛隊基地の中を行く。立哨の動きに念のため注意をはらいつつ、監視カメラなどの有無を確認しながら目指すは監視装置の集中制御盤や制御電源等のある場所。
寮までの道程にある監視システムは一つではないだろう。だが大本は同じ可能性が高い。先に道中の一つを潰してもそれがきっかけで異常に気づかれては、後発組が潜入できなくなってしまう。
けれどもメインの警備システムを潰せば、サブに切り替わって復旧する可能性はあるもののそれまで時間が稼げるだろう。どちらにせよ時間を無駄にはできない。狭霧は念のために頭のなかに保存した地図に、監視装置や警報装置の位置を記す。
「!」
フォルケが停止のハンドサインを出したのは、制御盤のあると思しき建物内の曲がり角。耳をすませば曲がり角の向こうで足音が聞こえた。
闇纏いと旅人の外套の効果で一般人の目には映らないが、できるだけ接触は避けたい。それに立哨などが側にいるところで制御盤をいじれば、異常事態に気が付かれてすぐに復旧させられてしまうおそれがある。
幸い、足音はだんだんと遠のいていく。国臣も待機を了承した旨ハンドサインで返しながら、自分たちが来た方向を警戒している。
しばらくして、足音が聞こえなくなった。狭霧が進行を促し、ふたりもそれに従う。制御装置のある界隈にたどり着いた時、3人は手分けして警備システムの制御装置に向かった。3人でひとつひとつ順に解除していく必要はないし、そうしてる時間がもったいないからだ。
なるべく壊さぬ方向で行きたいと考えていた狭霧とフォルケは、それぞれ制御盤と思しきものの電源をオフにしていく。と、その時。
「誰か居るのか?」
扉が閉まるところでも見られたか、ひとりの男が扉を開けて中を覗き込んできた。もちろん3人の姿は見えないはずだが、電源が切られていることに気づかれてはまずい。
「頼む」
「任せてください」
幸い、一番扉に近い場所にいたのは国臣だった。短く言葉を交わし、彼は手加減攻撃で男を伸して、その首筋から血を奪う――吸血捕食だ。これで廊下にでも寝かせておけば、男の記憶は曖昧になるはずである。
その作業の間にフォルケが国臣の担当だった幾つかの制御盤に触れ、狭霧は寮までのルートの警備システムが落ちているのを確認すると、素早く無線を取り出した。
「こちらネーベル・コマンド、警備システムは殺しといたわ、今のうちよ、急いで」
後発組に連絡を入れ、3人もまた寮へと向かうのだった。
●待機→潜入
「ゾンビを増やそうとしていたと思ったら、今度はゾンビを潜入させて居たなんて……本当に何を企んでいるのでしょうか」
「リベレイターの照射前から動いていたということは、これが計画の第一段階とは限らないかもしれないですね。場当たり的な対処ではなく、もっと積極的な攻勢に出なくてはならないのかもしれませんね……」
先行して潜入した3人からの連絡を待つ後発組の狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)の言葉に、オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)が溜息をつくようにして返した。
「駐屯地はさ、子供の頃、近所の基地祭で入った事はあるんだけど、まさか、こんな形でまた入る事になるとは思いもしなかったなぁ……」
複雑な思いのこもった月雲・悠一(紅焔・d02499)の言葉をそばで聞いていた平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)。
「自衛隊員の中に、アンデッド、か……ノーライフキングの連中、何を狙ってやがるんだ?」
悠一の独白に和守は言葉を返さない。自衛官一家の次男であり陸上自衛隊のご当地ヒーローである彼にとっては、自衛隊は身内に等しい組織である。そこにアンデッドが侵入しているとしたら、複雑この上ない気持ちを抱くのも当然。
和守はひとつ、息をついた。複雑さは拭えないが、今、この場に己の身があることが僥倖になるように動こう、そう決めて。先行して潜入した者達が通る予定の経路にもアドバイスをした彼は、エクスブレインから預かった地図を開いて仲間たちを呼ぶ。
「伊達に陸上自衛隊のご当地ヒーローやってる訳じゃないんでな。巡回パターンや警備の配置なんかは概ね見当がついている」
駐屯地によって多少の違いは出てくるだろうが、大本のところは共通するものがあるだろうということで、和守は自身の知識を惜しげもなく使う。
「……本来は機密事項だ。こんな形で、生かす事になるとはな……」
それでもこれで安全に侵入できるならば、駐屯地に巣食うアンデッドを駆逐できるなら、安いとも思える。
「そろそろか?」
駐屯地内に視線を向けて、叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)が呟いたその時、無線機が音を立てた。
――こちらネーベル・コマンド、警備システムは殺しといたわ、今のうちよ、急いで。
それを聞いて宗嗣と和守が先行して走り出す。他の3人もそれに続いて走り出した。
音を立てないような靴、目立たないような服を選んだ一同は、基地の中を駆けていく。監視カメラを気にしている余裕はない。先行した3人がうまくやってくれているのを信じるのみ。システムの異常に気づかれ、復旧させられるのが早いか、彼らが寮に着くのが早いか――そればかりは神のみぞ知る。
「!」
「! 狩野」
和守と宗嗣が足を止め、それに倣って悠一とオリヴィアと翡翠も足を止めた。そして翡翠は自分が宗嗣に呼ばれた意図を理解して頷いてみせる。
進路にイレギュラーな人影があるのだ。何の理由でこんな夜にそこにいるのかは分からないが、見つかると厄介なのは事実。
「すみません、見逃して下さいね?」
翡翠が喚んだのは魂鎮めの風。その風にさらされて、男はがくりと膝をついてその場に倒れ伏した。
「……念には念を入れましょう」
こちらの足音や人影を見られた可能性もある。オリヴィアは膝をついて男の首筋に噛み付いた。吸血捕食で記憶を曖昧にするためだ。けれどもオリヴィアは、吸血行為に嫌悪感をいだいていて。
(「吐き気を催す活力……でも耐えないと……」)
吸血によって充溢する生命力に、明らかに顔色が悪くなる。
「大丈夫ですか?」
「……はい」
心配そうに翡翠に問われたが、ここは我慢しなくてはならないと、オリヴィアは立ち上がって皆に頷いてみせた。
●入れ替わりし者
「間に合ったようね」
アンデッドたちのいる寮の部屋の前に後発組がやってくるのを見て、狭霧は胸をなでおろした。とりあえずのところ、潜入は成功した。次はこの部屋の中の敵を倒すというメインだ。
「行こう」
悠一がドアノブに手をかけて、皆の反応を見る。そして扉を開けると同時に灼滅者たちは順になだれ込んでいく。サウンドシャッターは戦場でしか効果をあらわさないため、宗嗣は仲間たちがなだれ込むと同時にそれを展開した。
「右手前!」
悠一が短く狙いを告げて『戦槌【軻遇突智】』を振り下ろした。いつもの覇気を前面に出すスタイルは封印して、今回は的確に手早く仕留めることを狙う。
攻撃音とぐももった悲鳴で他の3人も何事かと動き出したようだ。だが、敵がまだまごついている間にフォルケは死角に入り込んで悠一と同じ男を狙う。続けて素早く死角に入り込んだ狭霧が『Chris Reeve “Shadow MKⅥ”』で斬りつける。国臣の射出したリングが、常以上の威力をもって男にぶつかると、衣服をずたずたに切り裂かれた男はその場で動かなくなった。まず1体。
「夜分にすみません!」
告げて翡翠が鞭剣を振り回して男たちを傷つけつつ自分を強化する。国臣のライドキャリバーの鉄征が指示に従って翡翠を追うように攻撃を仕掛ける。部屋を壊したり隣室を巻き込まないよう気を使いながら、オリヴィアが炎を纏った回し蹴りを食らわせた。男は苦しげに声を上げるが、外から応援が来ることはない。
「一凶、披露仕る」
片腕を半獣化させた宗嗣が、壁を蹴るように仲間を避けて接敵し、男を鋭い爪で引き裂く。こうした閉所は宗嗣にとって戦いやすい場所である。
「……」
ライドキャリバーのヒトマルが攻撃しているのを見たとき、一瞬、和守の中に迷いが生じた。表には出さないものの内心今回の出来事に怒りを燃やしいてる彼だったが、狙うべき男がアンデッドになりかわられたとは言え自衛官であるということが、その手を鈍らせたのだ。けれど、迷いよりも彼の強い意志が勝った。
「……っ、畜生ォッ!」
手にした『ジョイントクラッシャー』で断ち切れば、男はその場にうずくまり、動かなくなった。
「敵だ、敵だ、敵だ――」
「倒す倒す倒す――」
残った二体のうち、片方がオリヴィアを狙ったのを寸でのところで鉄征が庇った。もう一体はフォルケに拳を打ち込む。
「手前!」
短く、けれども全員に聞こえるように告げて、悠一は手前の男の懐に入った。なるべく部屋を荒らしたくない気持ちは同じ。『闘気【赤焔】』を纏った拳で無数の打撃を繰り出す。
(「生死に関わる職業柄覚悟はあるでしょうが……こういう形は無念でしょうね。せめて望まぬ事をさせられないよう防いであげないと」)
「手前了解です」
傷はそれほど深くない。フォルケは返答しつつ影を放とうとする。
「合わせるわよ」
聞こえてきたのは隣に立つ狭霧の声。
「さて、アンタ達の任務が何か知らないけど、ここまでよ。ま、こーゆー事態になるのも、お互い納得済みでしょ? 覚悟して貰うわよ」
フォルケの影が男を縛り上げるのに合わせて、狭霧が死角から刃で斬りつける。
「手早く片付けよう。これ以上事が大きくなる前に」
国臣と鉄征が息を合わせて攻撃をし、服の裾を気にしつつ、跳んだ翡翠が『刹那』を振り下ろすことで男は動かなくなった。
「お、お、お、お……」
ひとり残されたことで焦ったのか、残った男が後衛へと息を吐きかける。素早く接敵したオリヴィアは、杭を打つように突きを繰り出した。彼女の背後から男の不意をつくように現れた宗嗣が、非物質化させた『大神殺し』で男を斬る。和守はヒトマルとタイミングを合わせるようにして『Bayonet Type-64』による一撃を繰り出した。
「畳み掛けてください」
男の弱り具合から判断して、フォルケが告げた。それに応えるように悠一が『戦槌【軻遇突智】』を構え、力いっぱい振るう――男が動かなくなったのが、終わりの合図だった。
●きな臭さを感じつつ
オリヴィアが擬死化粧で死因を急性アルコール中毒に見えるように偽装している間、残った仲間たちは一般人に対する警戒と、何か残されているものがないかと探す者に分かれていた。
「何かありましたか?」
「ううん。やっぱ何も出ないか……ま、期待もしてなかったけどね」
偽装しているオリヴィアの横で遺体を調べていた狭霧だったが、予想通り特に情報になるようなものは見つからなかった。それは他に室内を探していた者達も同じで。
「屍王が眷属を通じて人間社会に影響を与えてるのは知ってる……じゃあ、自衛隊の、敢えて末端に潜ませる意味は何なんだ……?」
警戒をしつつ思考を整理する悠一の言葉を、偶然フォルケが耳に留めていたが、もちろん彼女が答えられるわけもなく、彼女も警戒を続ける。
「何を計画していたのか、わかりそうにありませんね」
「だが今回の任務が無駄になることはない」
「そうですね」
翡翠の言葉に答えた宗嗣は、擬死化粧の終わった遺体へと向かう。遺体の側にはすでに国臣が立っていた。
「死してなお利用されたか、利用するために殺されたか、その職務と真逆の事に利用される。辛いものだな……せめて、やすらかに」
「眠れ……凶方の果てで」
国臣と宗嗣の弔いの言葉に続けて、灼滅者たちは脱出のために動き始める。制御装置を壊さなかった以上、すでに復旧させられている可能性が高いが、その場合は潜入時と同じようにすれば脱出の時間を稼げるだろう。
基地を脱した後、戦闘が終わってからそれまで黙っていた和守が口を開いた。それは、怒りという炎の灯った声色で。
「不死王には大して興味も無かったが……気が変わった」
握りしめた拳。浮かぶのはアンデッドとなってしまった自衛隊員たちの姿。
「身内に手ェ出したツケは、必ず払わせてやる……!」
その痛みと怒りは、彼にしかわからないものだろう。
けれどもノーライフキングを相手にするのはひとりではない、仲間たちも一緒なのだから。
作者:篁みゆ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年4月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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