駐屯地のアンデッド~ミッドナイトスニーキング

    「諸君、新たな仕事だ」
     教室へとやってきた宮本・軍(大学生エクスブレイン・dn0176)が、予知の内容を説明し始めた。
    「日本各地の自衛隊基地で、アンデッドが自衛官に成り代わっていることが判明したのだ。しかも驚くべきことに、そのアンデッドたちはまるで生者のように振舞い、自衛官として普通に生活を続けていたようなのだ……」
     この入れ替わりはサイキック・リベレイター使用の前から行われていたらしく、察知ができなかったようだ。それが今回予知に引っ掛かったのは、彼らが何らかの作戦を実行しようとしていることが予想される、と軍は言う。
    「今回諸君には、このアンデッドたちがいるという基地の一つに潜入し、敵を灼滅してきてほしいのだ。
     彼らがどのような目的で自衛隊基地に潜伏しているのかは定かではないが、我々にとっても看過できないことなのは間違いない。敵が動き出す前に、なんとしてもその戦力を削ぐことが必要だ」
     次に軍は、潜入の方法について説明する。
    「自衛隊駐屯地と言えば、国家機密中の機密。当然関係者以外は立入禁止だ。諸君のバベルの鎖の力があれば、強引に突入することも可能ではある。が、今回はESPなどを駆使して、できる限り穏便に潜入してもらいたい」
     一番に考えられるのは、一人が『旅人の外套』を使って監視装置を無力化するといった方法だろうか、と軍は言う。
     またこのアンデッドたちは、真っ当な自衛隊員として振る舞うために、夜は他の隊員と同様駐屯地内の寮で就寝した振りをしているらしい。
     加えて、一般人との同室はさすがに誤魔化せないと判断したのか、アンデッドがいる部屋は同室者が全員アンデッドにされているようだ。
    「敵がいるとされる寮の部屋はこちらで指示するので、諸君は深夜にその部屋へと踏み込んでくれ。そして部屋にいるアンデッドを全て灼滅したのち、撤退してほしい」
     残るは敵の戦力についてである。
    「敵は六体のアンデッドだ。自衛隊駐屯地の寮の定員がその数らしいのでな」
     またアンデッドたちは、いずれも若い男性のようだ。自衛隊員ということもあり、生前から戦闘力が高い『個体』であること、そして協力して戦うことに習熟していることから、ただのアンデッドとはいえ油断できない相手だという。
    「ちなみに、今回のアンデッドは敗色が濃厚となっても逃走をしたり、周囲の一般人を人質にするといったことはしないようだ。どうも主であるノーライフキングから、指示があるまで目立たずにいるよう命じられているらしい」
     この情報が役立つものかは定かではないが、作戦を立てるうえで活用してほしい、と軍は言う。
     行動を開始しようとする灼滅者たち。そこへ、軍の激励とも危惧とも取れる言葉がかけられる。
    「自衛隊が有する兵器は、一般人にとっては脅威だが諸君やダークネスには効果がないものだ。にも関わらずのこの状況は、今後の人間社会への介入のための布石かもしれない……。なんとしても灼滅してきてくれ」


    参加者
    聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)
    小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)
    天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)
    マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)
    聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)
    野乃・御伽(アクロファイア・d15646)
    迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)
    セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)

    ■リプレイ


     アンデッドがいるとされる自衛隊駐屯地へとやってきた灼滅者たち。そのうち二名が、ESPで姿を隠して駐屯地内へと潜入する。
     小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)は、特殊な気流によって周囲の一般人や監視装置の目から逃れている。
     同じく周囲の目を欺くべく、闇を纏うセレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)。彼女は今日も、鳥人間の姿を崩しはしない。
     優雨とセレスはまず、監視装置を管理している部屋へと向かった。室内にいた隊員を、優雨が手加減攻撃で昏倒させ、拘束しておく。
    「こういうことにも、だいぶ慣れてしまいましたね……」
    「灼滅者をやっていると、この手の仕事もままあるからな。さて、仲間に知らせる前にできるだけ装置の電源を落としておこうか」
     セレスは施設内のカメラやセンサーなどの位置をメモに記してから、可能な限りそれらを無力化した。そして駐屯地の外で待機している仲間へと連絡をする。
    「――あっちは完了したようやな。ほな、俺らも行くとしょうか」
     セレスらから、携帯にて連絡を受けた迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)。他の仲間たちへと、内部での準備が整ったことを伝えた。
     そうして、外で待機していた灼滅者たちも駐屯地内へと潜入する。
    「行くとするか。雑魚が一塊になってるとは有り難い、鏖の夜の始まりだ」
     念のためにと闇を纏いつつ、きたる敵との戦闘に若干興奮している聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)。
    「これは仕事だぞ凛凛虎。はしゃぎ過ぎるな」
     そんな凛凛虎を、姉である聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)が諫める。
    「先行しての潜入が手間取るようなら、強行突入もと考えていたが、上手くいったようで助かったな」
     そう言う天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)は、周囲に気を張り巡らせている。先行組から比較的安全なルートを示されているとはいえ、巡回している隊員と出会ってしまう可能性は捨て切れない。
    「一応殺界形成は使うとるが、注意するに越したことはないなぁ」
     炎次郎は殺気を振り撒きつつ、しかし警戒を怠らない。
     そうして灼滅者たちは、先行していた優雨やセレスとも合流しつつ、アンデッドがいるとされる寮を目指す。
    「……にしても、またきな臭いことになったもんだ。ノーライフキングは最近アフリカンパンサーとも組んだって聞いたしよ、知恵があるぶん何しでかすかわからねぇよな」
     野乃・御伽(アクロファイア・d15646)は気怠そうに呟きながらも、眼光鋭く考えを巡らせている。
    「うーん、ずーっと前から潜んでたってことは、リベレイターでエナジー貰って、何かできるようになったってことだと思うんだおっ」
     御伽の言葉に、マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)が応じる。
    「だな。問題は、その『狙い』が何かってことだが……」
     まずは眼前の敵を排除するのが先だ――と、疑問をひとまず捨て置く御伽。アンデッドの待つ部屋の前へと、辿り着いたのだから。


     黒斗がサウンドシャッターを展開した直後。それまでの隠密行動から一転して、灼滅者たちは部屋へと突入した。
     するとベッドに横たわっていた六つの人影が、驚いた様子もなくむくりと起き上がる。一見すると尋常なる人のようだが、その表情はあまりに虚ろだった。紛うことなきアンデッドの姿である。
     突如現れた灼滅者たちを敵と認識したようで、臨戦態勢で灼滅者たちの方へと向かってきた。
     だが寮の室内は、この人数で戦闘を行うにはあまりにも狭い。灼滅者たちは、より広く戦えるよう敵を誘き寄せながら、寮の外にて敵を迎え撃つ。
     アンデッドたちも、すぐさま迎撃態勢を取った。前衛と後衛が半分ずつという布陣である。
    「おっおー♪ 一番乗りだおっ!」
     掲げたチェーンソー剣を唸らせながら、マリナが前衛の一体へと斬り掛かった。
    「――私も、行くとするか」
     続いてセレスも木槍『ツグルンデ』を大きく振り回しながら、前衛の三体へと突撃を掛ける。
     そして、氷獄の名を持つ槍『Cocytus』を構える優雨。彼女は槍で螺旋を描きながら、痛烈な刺突を敵へと見舞う。
    「お前らが一体なんのためにここにいるのかは知らん。ただ今は、速やかにお前らを灼滅するだけだ」
     御伽は冷徹に言い放ちながら、シールドで敵を殴打する。
     灼滅者たちの猛攻を受けながら、アンデッドたちは怯むことなく反撃してくる。前衛が攻撃を引き受けて隙を作り、そこへ後衛の敵が続け様に攻撃を仕掛けてきた。
     そんな敵の前へと、深紅の斬艦刀『Tyrant』を手にした凛凛虎が飛び出す。
    「雑魚が……集まったぐらいで調子に乗るな?」
     凛凛虎は大剣で、敵の攻撃の悉くを防ぐ。反撃とばかりに、眼前の一体へと鋼の如き正拳を繰り出した。
     忍魔も弟に続き、龍が描かれたロングブーツ型のエアシューズ『黒龍』を唸らせながら、敵へと肉薄する。
     忍魔による、流星の如き漆黒の飛び蹴りが炸裂する。だが、彼女の蹴りを受けながらも敵は健在である。
    「……雑魚とはいえ数が多い、これは時間が掛かるな。凛凛虎も、油断するなよ」
     思ったよりも難儀な相手に、忍魔は思わず溜息を吐く。
     そして炎次郎は、霊犬の『ミナカタ』を召喚しつつ縛霊手の祭壇を展開する。構築された結界が、後衛の敵を捕らえた。さらにそこへ、ミナカタの六文銭の弾雨が見舞われる。
    「……同室の仲間が揃ってアンデッドにされたのは気の毒だけど、倒さなきゃいけないことに変わりはないからな。さっさと終わらせるよ」
     黒斗は、最もダメージが蓄積している様子の敵へと肉薄すると、WOKシールドを振りかぶる。
     すると、別の一体が黒斗の前に立ちはだかり盾となった。そして庇われたアンデッドと共に、黒斗へと反撃を仕掛けてくる。
    「――っ!」
     僅かながらも負傷した黒斗は、一旦敵との間合いを取った。
    「……一対一の形を避けたいのか、それともダメージ分散のためか。いずれにしても厄介な作戦だな」
     庇い合ったアンデッドたちを観察しながら、その意図について考えを巡らせている黒斗。
     炎次郎は黒斗の後退を援護するように、敵との間に割って入った。そして刃と化した影業で敵の一体を斬り付ける。その隙に、ミナカタが浄霊眼で黒斗の傷を癒す。
     さらに御伽は、杖を振るって雷を巻き起こした。
    「地力ではこちらが勝ってんだ、どんなに連携しようと必ず綻びは出る。俺たちはそこで各個撃破していくだけだ」
     御伽の放つ雷撃が、弱っていた敵を狙い打つ。その雷を受けて、アンデッドはその場に倒れ伏した。
     マリナは戦線を維持すべく、ナイフから夜霧を放って前衛の仲間を支援する。
     そして他の灼滅者たちは、この有利な流れを失速させまいと、残る二体の前衛へと攻撃を仕掛けるのだった。
     優雨は蛇腹剣『Fragarach』を展開し、目にも留まらぬ斬撃の嵐で、眼前の二体を斬り付ける。
     そこへすかさず間合いを詰める凛凛虎。雷と化したオーラを拳に込めながら、一体のアンデッドへと狙いを定めた。
     そして、凛凛虎の強烈なアッパーカットが敵へと見舞われる。さらに続け様に、得物を手にした忍魔が斬り掛かる。
     忍魔が掲げるのは、鋸の如く鋭利な蒼き斬艦刀『鋸引鬼・斬魔』である。その斬撃が、深々と敵を切り裂いた。
     そしてセレスの愛槍から放たれた妖気が、冷気となって敵を穿つ。その一撃を受け、さらに二体目のアンデッドが沈黙した。
    「――これで前衛はお前だけだな。これでどうやって連携を取る?」
     負傷を十分に回復した黒斗が、解体ナイフを手に敵の背後へと回り込む。そして死角から、鋭い斬撃を見舞った。


     そうして、敵は状況に合わせ隊列を変更しつつ、なんとか多対多の状況を維持しようとする。
     しかし灼滅者たちは、動きに隙を見せた敵や、最も弱っているアンデッドを狙い、着実にダメージを与えていった。
    「ほらよ、そんなにトロいと後ろから狙い撃ちだぞ?」
     敵との間合いを保ちつつ戦っている御伽。漆黒の炎の如きオーラを両手に集め、敵の死角から放出する。
     アンデッドたちは距離のある御伽には目もくれず、今は眼前の凛凛虎を標的としたようだ。
     だが多数の敵に狙われながらも、凛凛虎は不敵に笑いながら両の拳にオーラを込める。そして手近なアンデッドへと、猛烈な乱打を叩き込む。
    「――貴様らを丁寧に破壊し、葬る。それが俺の優しさだ。嬉しく思いな」
    「俺も、貴様らアンデッドに容赦はない。ただ、あの世に送り届けてやる」
     凛凛虎の猛攻によってよろめく敵へと肉薄し、ロッドを構える忍魔。そしてその杖による殴打で、敵に膨大な魔力の暴威を流し込んだ。
     そこへ、銀色のローラーのエアシューズ『Aranrhod』で疾走する優雨が飛び掛かった。白銀の閃光のように鋭い優雨の蹴りを受けて、そのアンデッドは絶命した。
     残る三体のアンデッドたちは、この不利な局面にも臆することなく、再び隊列を組み直そうと試みている。しかしそのいずれも、既に灼滅者たちの攻撃を受けて満身創痍である。
     そしてその一体へと、ミナカタを伴った炎次郎が素早く接近する。ミナカタの斬撃によってよろめく敵を、炎次郎の巨大な影が一飲みにした。
     影に苛まれるアンデッドへと、黒斗も炎を纏ったシューズで蹴り付ける。敵は最早死が目の前であった。
     そして後衛にて支援に徹していたマリナも、ここは畳み掛けるべきだと判断し、得物を手に敵へと肉薄する。
    「よーし! マリナもそろそろ暴れさせてもらうんだおっ!」
     両手にチェーンソーとナイフを掲げるマリナ。両者を打ち合わせ火花を散らせながら、瀕死のアンデッドへと斬り掛かった。チェーンソー剣の刃が、敵を両断寸前まで斬り裂き、絶命せしめる。
    「残り二体か。ならば、まとめて攻めるとしよう」
     まるで魔法使いの杖のように、掲げたツグルンデを振うセレス。残る二体のアンデッドへと、熱量を奪い去る死の魔法を浴びせた。
     セレスの魔法によって凍て付いた敵へと、御伽も魔力を込めたロッドを叩き込む。
     さらに凛凛虎と忍魔が、共に斬艦刀を手に斬り掛かった。
    「姉さん、仕留めるぞ!」
    「ああ。凛凛虎、手加減はするな」
     凛凛虎の深紅の刃と、忍魔の蒼き刃――二人の一糸乱れぬ斬撃が、不死身の敵へと死をもたらした。
    「おっおー、あとは最後の一体だおっ♪ このまま一気に終わらせるんだおーっ!」
     残るアンデッドへと、再びチェーンソーで斬り掛かるマリナ。優雨も、勝負を決すべくCocytusで螺旋の刺突を見舞う。
     だが、敵は未だ健在である。凍て付き、斬り裂かれた身体で、なおも灼滅者たちへと襲い掛からんとしている。
    「……なかなかしぶといな。いい加減、眠りな」
     黒斗はナイフを手に、敵を背後から斬り付ける。その斬撃によって敵の防御を崩し、仲間の攻撃へと繋げるのだった。
    「――もういいだろ、てめぇはそもそも死体なんだ。ここらで終わりしやがれ」
     炎次郎の槍が、敵の胸を貫く。そして、最後のアンデッドは遂に沈黙するのだった。


     アンデッドを全て撃破した灼滅者たちは、残された敵の死体の処置について相談する。
    「さて、こいつらどうするよ。俺の炎で焼き尽してもいいが、一応擬死化粧は活性化してきてるぜ」
     そんな御伽の言葉に、セレスが首肯する。
    「いたはずの自衛隊員が消えてしまうよりも、できるだけ穏便そうな死因に偽装して、部屋に戻しておくのがいいだろうな。バベルの鎖があるとはいえ、少しでも騒動の火種は排除しておきたい」
     御伽らの意向に賛同した仲間たちは、死因を偽装したアンデッドの死体を元の部屋へと運んだ。
     そしてその場から撤退する前に、念のためにと室内や敵の死体からの情報収集も試みておくことにした。
    「本当に、自衛隊員の中にアンデッドがいるとは。旧GHQ基地のようにダークネスが関わっていたのなら、自衛隊にもダークネスが関わっていてもおかしくはないんですけど……」
     室内に怪しいところはないかと探りながら、そんなことを呟く優雨。
    「とはいえ、そこらの銃火器で俺らを殺せはしないんだぜ」
     そんな凛凛虎の言葉に、忍魔が応じる。
    「俺たちじゃなく、一般人狙いなら、そこらの銃火器でもいいけどな。つまり、ダークネスが敢えて自衛隊に関わる意味があるとすれば」
     戦争への準備、だろな――と、姉の言葉を引き継ぐ凛凛虎。
    「ノーライフキングから指示があるまでは動かないってことは、その時期がいずれは来るってことだしな。もしかすると別の場所で起きてる迷宮化の事件とも何か関わりがあるのかもしれねぇな……」
     御伽も、今後起こりうるであろう厄介な状況を想像したのか、どこか億劫そうに言う。
    「他の駐屯地にもアンデッドはいるみたいだし、結構大規模なことを企んでるっぽいんだおっ。だから、ここで何か掴んでおかないと、後々面倒なことになるのは目に見えてるんだおっ」
     そうマリナは言うが、どうやらこの場の調査でできることには限界があるようだった。
    「とりあえず、見える範囲のことは全て記録して学園に戻ろうぜ。いつからアンデッドになっていたのか、何か道具などを準備していなかったかとか、学園に持ち帰って調べれば、何かしら判明するかもしれない」
     たとえ無駄かもしれなくとも、できるだけのことをしよう――そう黒斗は言う。
     そうして灼滅者たちは、可能な限りの情報収集をしたのち、速やかに駐屯地から撤退するのだった。

    作者:AtuyaN 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年4月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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