駐屯地のアンデッド~闇に紛れ使命を果たせ

    作者:陵かなめ

    ●依頼
     教室に現れた千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)が説明を始めた。
    「みんな、聞いてほしいんだ。日本各地の自衛隊基地で、アンデッドが自衛官に成り代わっていることが判明したんだよ」
     何と、成り代わったアンデッドたちは、まるで生きている人間のように振る舞い、自衛隊で生活し続けていたと言うのだ。
     サイキック・リベイダーを使用する前からすでに成り代わりは行われていたらしく、これまで察知できなかったのだ。
    「今回予知できたのは、アンデッドたちが何らかの作戦を行うために動き出したからって、想定されるんだよ」
     太郎が言うには、アンデッドの目的は不明だが、悪事であることは間違いない。彼らが動き出す前に自衛隊機地に潜入して、灼滅してほしいとのことだ。

    ●潜入せよ
    「それで、注意事項なんだけどね、自衛隊の駐屯地は、当然、関係者以外立ち入り禁止になっているよ」
     灼滅者の力があれば、無理やり押し入るのは簡単だろう。だが、できるだけ穏便な方法で潜入できるとなお良いとのことだ。
     ESPの旅人の外套があれば、見張りも監視装置もフリーパスとなる。旅人の外套を利用した灼滅者がまず潜入、監視装置などを切った後に、他の灼滅者が潜入するという方法がよいかもしれない。
    「アンデッドは自衛隊員として行動しているから、夜は駐屯地内の寮で就寝しているふりをするために、寮の一室に戻っているよ。同室に一般人がいると誤魔化すのが難しいと思ったのかな、アンデッドがいる寮の部屋の入寮者は、全部アンデッドに成り代わっているようなんだ」
     太郎はそこまで言ってから、アンデッドのいる寮の部屋への地図を皆に配った。
    「みんなには、深夜に寮に踏み込んで、アンデッドを撃破した後、撤退してほしいんだ」
     最後に太郎はアンデッドの戦闘力についても説明をした。
    「今回みんなにおねがいするのは、4体のアンデッドだよ」
     すべて若い男性型のアンデッドのようだ。彼らは、鋼糸や解体ナイフを使い攻撃を仕掛けてくる。
    「どうやら、人間だったころから戦闘力が高めの個体のようだよ。協力して戦闘することに慣れているようだね」
     話を聞く限り、自衛隊員アンデッドは、アンデッドにしてはそれなりに強いらしい。
    「駐屯地への潜入や基地にいる一般人への対応、撤退するときの方針なんかも話し合って決めてね。やることが多いけどきっとみんななら大丈夫だよ」
     そう言って、太郎は信頼の目を灼滅者へと向けた。
    「殺されてアンデッドに成り代わられた自衛隊員のためにも、この事件を無事に解決してほしいんだ」
     成り代わられていると言うことは、元居た自衛官を殺害したと言うことだ。灼滅者たちが顔を見合わせる。
     太郎は皆の顔をしっかりと見て、説明を終えた。


    参加者
    森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)
    葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)
    エメラル・フェプラス(エクスペンダブルズ・d32136)
    蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)

    ■リプレイ

    ●侵入
    「もも、大丈夫か?」
     エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)は気遣うように葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)へ囁いた。緊張していないだろうか、少し心配になったのだ。
    「ほら、怖いのは苦手だろう。今回はアンデッドが相手だし」
    「……ん、だいじょぶ。ありがとう、えあんさん」
     百花が控えめに頷く。
     恥ずかしいけれど、やっぱり、アンデッドは怖い。けれど、彼が傍に居てくれるから大丈夫だと思う。
     暗い夜。
     まさに、これからアンデッドとの戦いが待っている。
     灼滅者達は、侵入して安全な通路を確保してくれる仲間からの連絡を待っていた。
    「自衛隊にアンデッド、か。何ともキナ臭い話だ」
     比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)が呟く。
    「んー、いったいいつ頃から入れ替わっていたのやら……」
     月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)は首をかしげた。
    「狙い……は、まあ自衛隊員に成り代わる時点でまあ碌でもないんだろうけど」
     玲がそう続けると、柩が頷く。
    「これがアッシュ・ランチャーって奴の策略なのかはまだわからないけど、随分と厄介なことを考えていそうだね」
     統合元老院が、世界の均衡を保つもの、戦争と平和の創造者であるのなら、と。柩は考える。
    「戦争……とかのコントロールとかしたいんだろーなー。人類の管理者を自称してるし」
     同じように考えたのか、玲もそう言って空を見上げた。
     まだ仲間からの連絡はない。
    「まぁ奴等が何を企もうと、ボクのやるべきことは変わらないのだけど」
     柩がそう言うと、待機している仲間たちが静かに頷いた。

     一方、ひそかに自衛隊基地へ潜入した灼滅者たちは、それぞれ相談していた通りに進んでいた。
    「そこに見張りが二人、迂回したほうがいいだろう」
     森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)は小声でそう言いながら周辺を確認する。
    「しかし、生殖型の出来損ないが出てきたと思ったら今度は入れ替わりか」
     かなりの規模のようだが、人間と同等の活動ができるアンデッドなんてものがそう簡単に用意できるものなのだろうか、と。
    「んー……。
     友達とか、知り合いとか、気付かない内に成り代わられてたら、びっくりしちゃうね」
     見張りの位置や人数を地図に書き込みながら、エメラル・フェプラス(エクスペンダブルズ・d32136)が頷いた。
    「……それで、きっと、悲しいね」
     今回はこっそり倒してしまうから、誰も気付かないとは思う。けれど、それはそれで、やっぱり何だか、悲しいとも思う。
     手元の地図は、すでにかなり完成している。
     監視装置を切りに行った仲間は無事終わっただろうか。
     エメラルは携帯を操作して、皆へ連絡した。

    「……何故、成り代わり、なのでしょう、ね。
     ……いろいろ、方法は、あるはず、です、のに。……考えていても、答えは、出ません、ね」
     監視装置のスイッチを切りながら神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)は言った。一般人を人質にするわけでもなく、害を加えるわけでもなく。何を考えているか、分からないからこそ怖いと思う。
     そのまま社会に溶け込んで、混乱でも招くつもりだったのだろうか?
     その呟きを聞きながら、蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)は一層息を潜めて周囲を警戒した。
     自分たちがこれから倒すのは、確かに呼吸し生活していた人たちだ。おそらく、自分の仕事に誇りを持っていた人たちだ。
    「大丈夫、緊張せず落ち着いて」
     榛名が蒼を見る。
     見たところ監視装置はこれが最後だ。
     二人は頷き合い、待っている仲間達に連絡を入れた。

    ●開戦
     再び灼滅者達全員が顔を合わせたのは、それからすぐ後の事だ。
     潜入を二手に分けたことにより、かなりスムーズに基地内を調べることが出来た。待機していた者たちは、指示に従い無事寮の前までたどり着いたのだ。
    「みんな揃ったようだね。それじゃあ」
     エアンが一同を促すと、仲間たちが静かに寮へと突入した。
     監視の目も無く、指定の部屋を真っ直ぐ目指す。しかし、静かに闇に紛れ、灼滅者達は音も無く扉に手をかけた。
     一つ呼吸を置いて扉を開ける。
     部屋の中には四人の若い男の姿。
     すでに寮は就寝の時間だが、眠ることなく部屋の中央でたたずんでいるようだ。
    「やれやれ、いつの間にやら同僚や隣人が死人に入れ替わっているという今の現実の方が、よほどの怪談なんだがな」
     他の一般人を近寄らせないようにしながら、煉夜は言う。
    「敵襲」
    「テキ……シュウ」
     迷彩服を着込んだアンデッド達が一斉に武器を構えた。
     ナイフや鋼糸を構える様を見て、戦いなれているのだと感じる。
    「成り代わりなんて……絶対に許せないの」
     百花はウイングキャットのリアンを呼んだ。
     殺されてしまった人達を、大切な人達の元に帰せるように、……アンデッドとして、悪事を起こしてその人達を穢す前に、せめて尊厳を護りたい。
     百花は前方のエアンへ視線を延ばした。
    「リアン、えあんさんが無茶しないように……しっかり援護してね?」
     こっそりそのように耳打ちして、リアンを前衛へ送り出す。
     灼滅者たちがそれぞれ武器を構えた。
    「敵だ」
    「敵は、滅ぼす」
     中衛のアンデッドが糸の結界を張り巡らせ、前衛の灼滅者達を絡め取る。その間を縫って、アンデッド二体が最前線に躍り出て来た。
    「おっと、早いね」
     ライドキャリバーのメカサシミに庇われていた玲がさらにステップして一歩引く。だが、さらにアンデッドが踏み込んできて、斬撃を放った。
     玲の身体が切り刻まれる。
    「たしかに、見事な連携なのです」
     足の止まった玲に代わり、榛名が飛び出す。片腕を巨大に異形化させ、ディフェンダーを狙って振り下ろした。
     ナイフを構えていたアンデッドが吹き飛び、床に転がる。
    「けど、わたし達だって」
    「……はい、です……」
     続けて蒼が帯を射出し、転がったアンデッドの身体を貫いた。
     そこから畳み掛けようとしたのだが、敵はナイフを地面に突き立て反動で立ち上がる。
    「なるほど、腐っても軍人なら、油断はできないね」
     そんなアンデッドの動きを観察しつつ、柩はしっかりと後方から狙いを定めていた。
    「せいぜい楽しませて貰うとしようか。さあ、ボクが癒しを得るための糧となってくれたまえ」
     言ってから一気に距離を詰め、フォースブレイクを叩き込む。
    「まだ、倒れ、ナイ」
     だが、後もう一手のところで、アンデッドが夜霧を展開させた。敵の傷が回復し、守りも高まったようだ。
    「でも、やっぱり、まずはディフェンダーから集中狙いだね!」
     攻撃が途切れたとしても灼滅者の手は止まらない。
     次はエメラルが槍を構え、地面を蹴った。
     螺旋の如き捻りを加えて槍を突き出し、アンデッドの身体を穿つ。
     灼滅者とアンデッド。
     両者の戦いは続いた。

    ●破壊
     確かに、アンデッド達は協力して戦いを挑んできた。
     糸を絡ませ、隙を見て踏み込み、息のあったコンビネーションを見せてくる。
     とは言え、コンビネーションならばこちらも負けてはいない。
     エアンは前線に上がってきたリアンの頭を撫でて言った。
    「リアン、頼んだよ」
     リアンが魔法で攻撃する姿を追いながら、チラリと後方の百花を見る。
    「終わりにしよう。死者には祈りを」
     十字架の全砲門を開放し、光線を乱射しながら前衛の敵を薙ぎ払った。
     アンデッド達が傷を負い、散り散りに弾き飛ばされる。
     エアンの視線を感じ取って、百花はこくりと頷いて見せた。
     だいじょうぶ、背中は護るからと言う思いを込めて、回復のサイキックを準備する。
     それから、霊力を指先に集め玲に向けた。
     今の状況を見ると本当は前衛の仲間をまとめて回復させたいのだが、あいにく射程の適うサイキックを持ち合わせていない。
    「回復します、頑張ってください!」
     百花は祭霊光を撃ち出し、玲の傷を回復させた。
    「ん、ありがとー。っと、もう一手回復いるよね」
     玲は自分の周辺を見回し、剣に刻まれた『祝福の言葉』を風に変換し開放させる。
    「お願いするのです」
     榛名からの返答を受け、風を吹かせて前衛の仲間を回復させた。
    「攻撃は俺達が」
     風の間から、飛び出したのは煉夜だ。
     標的は変わらず、そろそろ体力の残り少ないディフェンダーのアンデッド。その背後に素早く回りこみ、死角から斬り込んでいく。
    「……はい、続きます」
     続けて蒼が激しく渦巻く風の刃を生み出した。
     風は渦巻き、アンデッドを包み込む。
     風は切り裂き、アンデッドは沈み込んでいく。
    「く……」
    「今でも務めを果たそうとする姿。皆様の、それまでの人生。全てわたし達がうけとります」
     榛名が鬼の腕を振りかぶり、最後の一撃を放った。
    「皆様は十分戦い抜きました。とても立派だったのです。だからもう。皆様は眠ってもよいのです」
     確かに生きていた人たちの最後を。
     榛名は腕を振り下ろし、ナイフを落としたアンデッドを倒した。
    「うん。じゃあ次に行こうか」
     敵の消滅を確認し、柩は次のアンデッドに照準を合わせる。
    「そうだね。次に狙うのは――」
     頷き、エメラルも柩の後を追った。
    「あの敵だよね」
     前衛の糸を持った敵を狙い、エメラルは冷気のつららを打ち出す。アンデッドの身体に傷が付き、氷が纏わり付いた。
     柩もクルセイドソードを抜く。
     その剣は非物質化させており、霊魂と霊的防護だけを狙って突き出した。
    「そう、狙いを定めて、順番にだよ」
     柩はアンデッドの霊的防御を破壊して、蹴倒した。

    ●消滅
     盾役を失ったアンデッド達を灼滅者達が崩していく。
    「皆さんを支え護ります。どうか、あと少し頑張ってください」
     百花は必死に仲間達を癒し続けた。単体の回復だが、できるだけ仲間と声を掛け合い、ここまで持たせている。
    「私もキュアを手伝うよー。なかなか敵の攻撃も多彩だよね」
     続いて、玲も近くの仲間を回復させた。セイクリッドウインドの風で仲間を包み込み、悪い効果を打ち消していく。
    「ありがとうございます」
    「うん。命中下がっちゃうと辛いもんね」
     頭を下げる榛名を、玲が送り出した。
     榛名は走り、断罪転輪斬を繰り出す。狙ったアンデッドがぐらりとよろめいた。
    「すでに氷付けでぎりぎりの体力だろうな。これで最後だ」
     じっと、敵の様子を窺っていた煉夜がその後に続く。
     回転して敵を切り刻んでいる榛名とは反対側からアプローチし、最後の一撃を浴びせた。
     煉夜が急所を断ち切ると、アンデッドは静かに倒れ絶えた。
    「抜けた、穴を、カバーする」
    「了解」
     残り二体のアンデッドは、互いの背を守るように背中合わせになる。だが、うち一体、前衛で糸を操る個体はあまり体力が残されていないはずだ。
    「……こちらも、あと少し、です、ね……」
     蒼はそれを見て取り、エアシューズを煌かせ走った。
    「何を……」
    「……逃がしま、せん」
     防御の構えを敵が取る前に、蒼が足に力を込めた。懐まで飛び込み、一気に蹴り上げる。
     流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りをまともに食らい、アンデッドが崩れ落ちた。
    「たとえ、一人に、なろうとも」
     最後の一体のアンデッドが、糸を操り攻撃を仕掛けてくる。
    「おっと、やらせないよー」
     とっさに玲が飛び出てエアンを庇った。
    「助かったよ。さあ、最後の一体だ」
     エアンは短く礼を言い、仲間に向かって呼びかける。攻撃できる仲間たちが次々に攻撃を繰り出しアンデッドを追い詰めた。
     エアンはジェット噴射で飛び込み、蹂躙のバベルインパクトを叩きつける。
    「そうだね。さあ、最後の攻撃にしようか」
     畳み掛けるように、柩がフォースブレイクを叩き込んだ。
     魔力を流し込んだ敵の身体が爆ぜ、よろめくのが見える。
    「いくよ! これで、倒せそうだね!」
    「が……」
     もはやアンデッドには、攻撃する体力も残っていないだろう。
     エメラルはそんな敵に引導を渡すべく、最後の攻撃を仕掛けた。
     全力で踏み込み、殴りつける。同時に魔力を流し込めば、見事にアンデッドが爆ぜて消えた。

     四体のアンデッドの消滅を確認し、灼滅者達は簡単に後始末をして部屋を出た。念のためと、煉夜が先導し、撤収時にも気を使い基地を後にする。
     裏で何が起こっているのか、気になることはあるけれど、ひとまず、灼滅者達は仕事を終えた。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年4月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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