そこは、とあるレジャー施設内の温泉であった。そこの設備の一つである露天風呂にて、昼下がりの空の下、数名の若い女性が入浴していた。
近隣の大学に通う彼女らは、同じ研究室に配属となった縁故から、親睦を深めるためにと週末を利用してやってきていたようだ。
まだぎこちなさもあるが、次第に打ち解けながら話が弾む女学生たち。そんななか、ふと周囲から気配を感じた。
そちらの方を向いてみると、一体どこから現れたのか、恰幅のいい五名の男性が近付いてきていた。
この施設は水着着用の混浴であるため、男性がいること自体は不思議ではない。しかし彼らの虚ろな表情は普通ではなかった。
距離が詰まるにつれ見えてくる彼らの体は、肉がところどころ裂け、皮膚も変色しつつある。明らかに、尋常な人ならざる者たちだった。
非現実的な状況に硬直する女性たちへと、男ら――ゾンビは襲い掛かった。レジャー施設の平穏な賑わいを、餌食となった女学生たちの悲鳴が破るのだった。
「諸君、新たな事件だ」
そう切り出すのは、教室へとやってきた宮本・軍(大学生エクスブレイン・dn0176)である。
「最近、白の王セイメイの生殖型ゾンビの模造品が事件を起こしているというのは諸君も知っているな。今回も同様のものだ」
セイメイが生み出した本来の生殖型ゾンビが、襲撃した一般人をゾンビに変えるという能力だったのに対し、この模造品にそのような能力はなく、ただ生殖活動を行うためだけに異性を襲撃するというものだ。
「この生殖活動によって子どもができるといったことはないようだが、被害者が出ないに越したことはないからな。現地へ赴いて、なんとしてもこのゾンビを撃破してきてほしい」
今回ゾンビが出現するのは、温泉やプールがいくつか併設された大型レジャー施設のようだ。その中の露天風呂の一つに入っていた女学生が、突如出現したゾンビに襲撃されるという。
「敵は五体と数は多いが、戦闘力はそれほどでもない。特殊な効果を持った攻撃もしてこないので、諸君なら苦もなく撃破できるだろう」
このゾンビたちは、ノーライフキングの迷宮から一方通行の方途で送られてくるので、出現そのものを阻止するといったことはできない、と軍は言う。
「そしてこのゾンビたちは、どうやらデータを取ることだけが目的らしく、敗色濃厚となっても撤退したりはしないらしい。
それと注意してほしいのは、出現予定の場所から『五名程度の襲いやすそうな格好の女性』がいなくなると、別の場所に出現してしまうようだ」
そうして行動を開始しようとする灼滅者たちへと、激励の言葉をかける軍。
「現状は諸君の脅威ではない相手だが、データの蓄積によってどんな恐しいゾンビが完成してしまうか分かったものではない。だから、なんとしても灼滅してきてくれ」
参加者 | |
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古室・智以子(花笑う・d01029) |
ハノン・ミラー(蒼炎纏いて反省中・d17118) |
陸・舞音(大学生ご当地ヒーロー・d35449) |
有馬・南桜(星屑の剣士・d35680) |
華上・玲子(鏡もっちぃこ・d36497) |
吾門・里緒(リンゴもっちぁ・d37124) |
風上・つらら(剣士・d37429) |
風車・琉愛(気まぐれスネークガール・d37580) |
●
予知の現場であるレジャー施設へとやってきた灼滅者たち。まずは各々水着に着替えて、一般客に混じって入場する。
「さ、さすがに大勢の前でこのような格好は、恥ずかしいですね……」
メタリックブルーの競泳水着に身を包む陸・舞音(大学生ご当地ヒーロー・d35449)。肉付きのいい身体のラインがはっきり出てしまうことに困惑しながらも、これも人助けのためと気を引き締めている。
「こんなに大きな温泉があるところは初めて来ましたです。これでアンデッドがいなければ、ゆっくりと楽しめたのですが……」
本来なら溌剌とした性格の有馬・南桜(星屑の剣士・d35680)だが、今日の目的は罪なき人を襲うアンデッドとの戦いとあって、表情を曇らせている。
そんな南桜の頭にポンと手を乗せるのは、傍らの風上・つらら(剣士・d37429)である。
「そう気負うな、俺たちがいれば被害者なんて出ないさ。なんなら、終わってからゆっくりしていけばいい」
普段はなかなか感情を表さないつららだが、妹分の南桜を撫でる手付きには、親愛の情が見てとれる。
南桜とつらら――小学生と中学生という年少な方の二人だが、その肢体の豊かさは年齢離れしていた。特につららの赤い紐ビキニは、発育のいい胸と臀部を覆い切れていない。
――そうして灼滅者たちは、アンデッドが現れるとされる露天風呂へと向かった。
「はい、何も言わずに立ち去ってください」
被害者になる運命だったであろう先客の女性たちを、王者の風で威圧しつつ追い返すハノン・ミラー(蒼炎纏いて反省中・d17118)。囮は他の仲間たちで十分との判断か、露出の少ないフィットネスタイプの水着を纏っている。
さらに古室・智以子(花笑う・d01029)が、殺気を放って一般人を遠ざけた。これで、他の客らが戦闘に巻き込まれることはないだろう。
「それにしても今回のメンバー。みんな女子なのはいいけど、ちょっと成長がよすぎる人が多いの……」
殺界を形成しながら、他の仲間たちが軒並見事なプロポーションであることに、暗い気持ちになる智以子だった。
そしてアンデッドが出現するまでの間、灼滅者たちはただの客のように振る舞うべく入浴する。
「いゃ~、プールに温泉にといいとこだべさー。新学期早々こんなところでのんびりできるなんて贅沢だべ」
吾門・里緒(リンゴもっちぁ・d37124)は、一般客らしく見えるようにとはしゃいでいるが、露出の多い紐水着姿のせいで若干恥ずかしそうでもある。
「はぁー、こんないいところにゾンビはいらないべさ」
と、湯につかりながら苦笑する里緒だった。
「まったくねぇ。どうせなら、ただ楽しくレジャーに来たかったなり……」
里緒と共に湯につかる華上・玲子(鏡もっちぃこ・d36497)は、まだ戦闘前だというのに若干憔悴したようにも見える。
実は昔着ていたスクール水着を事前に試着したところ、サイズが合わず見事に破れてしまった。ぴったりのものが市販で見付からなかったことがショックなのだった。
「……あっちのプールもいいっすねぇ、ウォータースライダーとかあって」
風呂の縁に腰掛けた風車・琉愛(気まぐれスネークガール・d37580)は、足で湯を掻き回しながら、楽しげなプールの方を眺めていた。
●
「なあ、古室さん……。饅頭は怖いなあ、あと餅も。いやあ怖い怖い」
露天風呂の隅の方で、ハノンは傍らの智以子へと呟く。普段はそれほど雄弁ではない彼女だが、眼前の光景にはぼやかずにおれなかった。
「うん……。年上の人だけじゃなく、わたしより年下の子まですごいの」
智以子は湯の中で、膝を抱えて小さくなっている。
小学生離れした発育の南桜。豊かな胸の曲線を競泳水着に浮き上がらせている舞音。紐水着をはち切れそうにしているつららと里緒。
そして極めつけは、凶悪なほどの肢体に急拵えの貝殻ビキニを纏った玲子である。背面が不安になる危険なデザインの水着だが、ちゃんとお尻もカバーするお洒落な代物らしい。
「そう気にしないっすよ、古室さん。大っきいのも小っちいのも、それぞれ魅力があるっす!」
そう言うのは、黒い蛇柄フレアトップに赤のパレオという姿の琉愛だった。玲子らに及ばないまでも、なかなかの胸の膨らみやくびれた腰回りは、バランスの取れた健康的な美容である。
「むぅ……」
琉愛も、智以子から見れば十分に魅惑的なプロポーションである。そんな彼女を、智以子は不服そうに見やる。
「で、でもバランスは大事ですよ? 大きすぎると目立っちゃいますし、新体操のときに動きにくかったりも……」
琉愛らの会話が耳に入ったのか、舞音がそう言った。最近さらに成長中とあって、舞音としても切実な悩みであった。
「それにあんまり大きいと、サイズが合う水着がないなり……」
昔のスクール水着を破いてしまった玲子は涙目である。今の貝殻水着も、先輩に頼み込んで作ってもらったものなのだ。
そんな玲子の言葉に、つららも続く。
「俺も水着なんて普段着ないからな。華上先輩が用意してくれなかったら、探すのに苦労したと思うぞ」
(「そういえば、南桜もつららも玲子さんと同じ寮なの。もしやその寮での生活に、色々大きくなる秘密があるの……?」)
ふとそんなことを考えた智以子。これは是非とも、大きくするための秘訣を教えてもらわねば、と決意するのだった。
――そうして青空の下、しばしの入浴を堪能する灼滅者たち。
すると突如、何処からか五つの人影が姿を現わした。ゆらりゆらりと歩み寄る彼らは、紛うことなきアンデッドであった。
(「……まだ遠いですね。もう少し、誘き寄せてから」)
アンデッドたちに気付かれぬよう、水面下で武器を解放しつつ、機を窺う舞音。
敵との距離が詰まるなか、他の仲間たちも各々戦闘に備える。
――そして十分に敵を引き付けたところで、一斉に攻撃を仕掛けた。
「咲け、初烏」
宣言と共に、バベルブレイカー『貪欲の黒』を解放する智以子。ジェットを噴かせながら敵に飛び掛かり、渾身で杭を叩き込んだ。
舞音も続くように、水面下からウロボロスブレイドを振り上げると、アンデッドたちへと斬り掛かった。
「いくら子供ができないとはいえ、その……生殖活動だなんて! 絶対に許せません!」
鞭剣を、さながら新体操のリボンのように操る舞音。自らの意思を昂らせながら、敵の悉くを斬り付けた。
翻弄されるアンデッドたちへと肉薄するハノン。展開したWOKシールドで、手近な敵を殴り付けた。
「よーし、ウチも負けてられないっすよ!」
開脚や前屈といった体操で体をほぐしつつ、肢体を見せ付ける琉愛。そんな彼女に、敵の一体が向かってくる。
琉愛は若干オーバーな側転で、敵との距離を取った。そして右手首に仕込まれたナイフ『蛇毒』の刃を抜き放ち、広範囲に毒の風を巻き起こした。
こうしてアンデッドとの戦いは、灼滅者たちの奇襲によって始まるのだった。
●
「ど宿敵――ノーライフキングがデータ集めに、罪なき一般人を襲うとは許せません!」
手にした日本刀をデモノイド寄生体に飲み込ませながら、アンデッドたちに言い放つ南桜。異形の刃と化した片腕で、敵の一体を斬り付ける。
反撃とばかりに数体の敵が迫った。そんな敵の眼前へと、前衛の玲子が割って入る。
「その通り! そんな野望は潰すべし!」
まるで鏡餅のようにふわふわとしたナノナノ『白餅さん』を解放しつつ、クルセイドソードを振り被る玲子。
敵の一体に、破邪の光を纏った上段斬りを見舞った。さらに白餅さんも、しゃぼん玉で別の敵を攻め立てる。
――そんな乱戦の最中。つららは、一体のアンデッドにしがみ付かれていた。
億劫そうな様子の彼女だが、内心では若干の――そう若干の好奇心も抱いていた。だが敵の手が水着の紐に伸びたところで、得心したのか武器を解放する。
「……調子に乗るな」
緋色のオーラを纏わせた斬撃で、敵を後方へと弾き飛ばす。
突然の抵抗に激昂したのか、つららへと拳を振り上げ向かってくるアンデッド。
「もー、なにやってるんだべ!?」
その攻撃を、里緒の鬼と化した片腕が受け止めた。さらにそのまま、鬼の腕で敵を殴り付ける。
「悪い悪い。……それより、隠した方がいいぞ」
「あ――っ!?」
慌ててやってきたため、里緒の水着がずれかけて胸が溢れそうになっていた。つららに指摘され、真っ赤になりながら水着を直す里緒。
――他方。智以子が、桔梗の花を模したオーラ『従順な黒』を両手に込める。そして猛烈な拳の乱打を、敵の一体へと叩き込んだ。その暴威は、どこか猛っているようで――。
「……決して八つ当たりなんかじゃないの」
感情的にも見えるが、芯ではきちんと冷静に戦っている。だが、やはりその姿は猛々しかった。
さらに追い撃ちをかけるように、ハノンは砲台と化した腕を構え、毒の光線を浴びせ掛ける。
そうして灼滅者たちは、智以子とハノンを攻撃の要に据え、他の仲間たちで援護しながら着実に敵へとダメージを重ねていった。
アンデッドたちも、智以子やハノンを脅威と感じたのか、彼女らのもとへと押し寄せてきた。
そこへ、玲子と舞音が立ちはだかる。
舞音は敵の攻撃を防ぎながら、ダイダロスベルトを広範囲に展開する。舞い踊るかのように華麗に駆けながら、敵全体を縛り上げた。
玲子もアンデッドの攻め手を受け流しつつ、槍で続け様に敵を薙ぎ払う。
そして彼女らの傷は、後衛の白餅さんと南桜がすぐさま癒やした。
動きの鈍った敵へと、里緒とのダイダロスベルトが撃ち込まれる。
「ちょっと浅かったべ!?」
「でも確実に弱らせてるっすよ!」
敵の合間を派手に駆け抜けながら、蛇を模した影業『殲影牙・バジリスク』を肥大化させる琉愛。巨大な影の口が、アンデッドの一体を一飲みにした。
つららも別の敵へと素早く肉薄すると、鞭剣で狙い過たず急所を切断してのける。
そしてそこへ、ジェットの轟音と共に智以子の『貪欲の黒』が叩き込まれた。杭で貫かれたアンデッドは絶命し、塵一つ残さず消え去ってしまう。
「――次なの」
一分の隙もなく命中させた智以子は、なんとすぐさま次の攻撃に移った。バベルブレイカーを一時手放すと、新たな獲物を鋭い視線で探す。
そして別の弱っているアンデッドに標的を定め、オーラを拳に込めながら突撃した。智以子の閃光の如き乱打を受け、さらに一体のアンデッドが灼滅される。
「す、すごいっすね、古室さん……」
圧倒されながらも、残る敵へと毒の竜巻を吹き荒れさせる琉愛。
そしてハノンの射出したダイダロスベルトが、さらに一体のアンデッドを絶命させた。
残る敵は二体、だが彼らはアンデッドだ。次々と仲間を撃破されながらも、怯むことなく灼滅者たちへと向かってくる。
「これ以上の蛮行は許しませんよ、ここで眠って下さい!」
踊るように敵を翻弄しながら、歌声のサイキックで攻め立てる舞音。
そして玲子の槍から放たれた冷気と、白餅さんのしゃぼんが畳み掛けた。主従の狙い澄ました攻撃を受け、また一体のアンデッドが灼滅される。
「ど悪いアンデッドは退治です! 先輩たちに遅れは取りません!」
寄生体の刃で、残る敵へと斬り付ける南桜。しかし敵は満身創痍になりながらも、眼前の南桜へと反撃せんとする。
「――ほら、こっちだべよ!」
南桜と敵との間に、寸前で割って入る里緒。鬼と化した腕の突きを、渾身で叩き込んだ。
「もう十分だろ、いい加減面倒だぞ。それにお前ら、実は臭くて堪らないからな」
そして止めとばかりに、巨大な影で敵を飲み込むつらら。彼女の影に食われながら、最後のアンデッドが息絶えるのだった。
●
ようやく全てのアンデッドを撃破した灼滅者たち。ひとまず、戦闘の痕跡をできるだけ片付けておくことにした。
幸いなことにアンデッドの死体は消滅しており、屋外だったこともあり施設への被害も軽微だった。これならば、恐らく営業にも支障はないだろう。
「他のお客さんのご迷惑にならずよかったです。それで皆さん、せっかくですし帰る前にゆっくりしていきません?」
そんな舞音の言葉に賛同した仲間たちは、この施設を満喫してから帰還することにした。
「よーっし、これで自由気ままに遊べるっす! 波の出るプールにウォータースライダー、待ってるっすよー!」
一目散にプールコーナーへと向かう琉愛。囮のためにと露天風呂に釘付けになっていたので、ずっとうずうずしていたのだ。
同じくプールへと向かったハノンだが、彼女がやってきたのは25メートルプールだ。そして黙々とクロールで往復する。これも、彼女なりの過ごし方だった。
一方、しばし戦いを忘れて、温泉を楽しむ者たちの姿も――。
「大っきい温泉ー! これでゆっくり堪能できますです!」
湯の中で足を伸ばしながら、上機嫌の南桜。ちょっと無茶はしたが、先輩たちの前でいいところを見せられたのも、彼女としては嬉しかった。
つららも南桜と共に湯につかり、疲れを癒やしている。心から楽しそうな妹分の様子を見ながら、微かに笑みを浮かべた。
「……ところで、皆さんに質問だけど、何を食べたらそんなに色々育つの? 是非ご教示願いたいの!」
つららたちのもとへとやってきて、智以子は切実な様子で問い掛けた。
するとそんな彼女の質問に、ギラリと目を光らせるのは、玲子と里緒である。
「そこで餅、お餅なりよ。日本人にとってお米は血であり肉だからねー、いっぱい食べて大きくなろう!」
「いや、りんご餅を忘れてもらっては困るべ。女の子にとって甘いものは別腹だべ。三食しっかりご飯を食べて、さらにおやつにりんご餅も食べれば完璧だべさ!」
玲子に続いて、目を輝かせながら智以子へと詰め寄る里緒。
「えー、でも普通のお餅だって色々工夫しておやつにできるよ? あべかわとかぁ、おはぎとかぁ」
「んだども――」
そう、彼女たちは、各々愛する食材を奉ずるご当地ヒーローなのだ。そんな彼女らが、食べ物について問われたのである。これは語らずにはいられない。
熱くなるヒーロー二人と、気圧される智以子。そんな様子を、困ったように眺める舞音たち。
それから智以子は、しばらくそれぞれの餅の素晴らしさについて教え込まれるのだった。
とにもかくにも、アンデッド事件を解決した灼滅者たち。各々レジャーを満喫してから、学園へと帰還した。
作者:AtuyaN |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年4月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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