アッシュ・ランチャーの野望~終わりと始まりの境界線

    作者:長野聖夜

    ●万軍襲来
     ――5月1日、深夜。
     東シナ海に集結した、人民解放軍の艦艇は沖縄本島に向けて進軍を開始した。
     総兵力100万という洋上の大軍勢が、正規の指揮系統から切り離され、たった一人のノーライフキングの意志に基づき日本への侵攻へと舵を切ったのだ。
     いや、もしかしたら本来はこの100万の軍勢こそが『正規の指揮系統に従う軍勢』でだったのかもしれない。
     サイキックアブソーバーの稼動により多くのダークネスが消滅或いは封印されるまで、ノーライフキング『アッシュ・ランチャー』こそが、この地域の全ての軍隊を支配下に収める『世界のミリタリーバランスを調整するクリスタル・ミラビリス』であったのだから……。

     数時間後、沖縄本島に近づいたノーライフキング艦隊は沖縄本島へと上陸作戦をいまかいまかと待ち構えていた。
     その中には、アンデッドの戦闘能力を飛躍的に上昇させる人型兵器『人甲兵』の姿もある。
     彼らの前に姿を現すは、スーツ姿の威厳あるノーライフキング。
     かの者こそ、元老『アッシュ・ランチャー』。
     世界を支配するべく定められた、ノーライフキングの一人。
    「これまでの情報から、灼滅者達が人間社会に大きく依存しているのは間違いない。であるならば、その人間社会を制圧する事こそが、灼滅者への最大の攻撃となる。『人甲兵』部隊出撃せよ。まずは、沖縄本島を橋頭堡として、日本本土の制圧に向かうのだ。
     統合元老院クリスタル・ミラビリスが再び地球を管理下に置き支配する、正常な世界を取り戻す為に!」

     元老『アッシュ・ランチャー』の号令と共に、揚陸艦が海岸へと接岸し次々と兵士達が沖縄へと上陸していく。
     今、アッシュ・ランチャーによる日本侵略作戦の幕が切って落とされた。

    ●それは、滅びの光なるか
     それを見つけたのは、一人の漁師だった。
     今日は偶々早朝から漁に向かう予定だったので、今の内から漁に出る準備をしておこう、と外に出ていた。
     彼が見つけたのは、小さな光。
    「あれは、ヌーヤガ?」
     漁師が首を傾げる間に、光は1つ、また1つ、と次々に増えていく。
     船から差し込む数百の光が、漁師の目を焼き、漁師は思わず光から逃れるために、顔を光で覆う。
     ――タン、タン、タタン。
     数発の銃撃の音と同時に、瞬く間に蜂の巣にされてしまう、哀れな漁師とその愛船。
     ほぼ残骸となり果てた船と、既にそれが人と判別することさえ難しい漁師の姿。
     けれども、加害者たちはその様子に何の感慨も抱いた様子もなく。
     船をつけ、そして浜辺に上陸する。
     ――ザッ、ザッ、ザッ。
     凡そ3000人ほどの規模と思われる武装した兵士達が、群れを成して進軍する。

     ――目指すは、この近隣にある、寝静まった住宅街。

     そう……そこに存在するすべての生命を、根絶やしにする為に。

    ●日本侵略作戦、開始
    「自衛隊のアンデッド達の灼滅お疲れ様。これで、アンデッドに成り代わられた自衛官達も浮かばれるだろう」
     軽く黙祷を捧げる様に目を瞑る北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)の言葉に、灼滅者達が其々の表情を浮かべる。
     が、程なくして優希斗の表情が、険しく苦いものになった。
    「……とは言え、この事件について調査してくれた皆のお陰で、重要なことが判明した。予想していた人もいるとは思うんだけれど、あの自衛官のアンデッド達自身が、独自の作戦を行おうとしていたわけでは無かった。彼らの動きは、大きな作戦の為の布石に過ぎなかったんだ」
     そこまで告げたところで一つ息をつく、優希斗。
     無意識に、であろうか。その手に汗を握っているのか、そっと服の裾で手を拭っている。
    「そう……皆の調査を裏付ける様に、東シナ海で、100万人規模の大規模な艦隊の終結が確認されたんだ。この軍隊を率いているのは、ノーライフキングの首魁の一人である、統合元老院クリスタル・ミラビリスの『アッシュ・ランチャー』」
     優希斗が告げたダークネスの名に、灼滅者達が其々に息を呑む。
    「そしてその目的は、『日本侵略』以外にないだろう」
     何故なら、日本を制圧すれば、一般人の社会に深く根差していると思われる灼滅者組織の活動を阻害出来るとアッシュ・ランチャーが考え行動している可能性の高さが推測されているからだ。
    「その為の第一歩として、5月2日未明に沖縄本島に上陸、市街地の制圧と虐殺を行った上で、虐殺した一般人をアンデッド化させて戦力を拡充する。その戦力によって日本制圧に乗り出すつもりの様だ。……当然だけど、こんなことを許すことは出来ない。だから、皆には、沖縄に向かって、アッシュ・ランチャーの軍勢を迎え撃ってくれ」
     優希斗の言葉に、灼滅者達が其々の表情を浮かべて、返事を返した。

    ●戦闘情報
    「今回の作戦、皆には、深夜に漁師が朝漁の為の準備をしているところに、3000名程の完全武装した軍勢がやって来て彼を殺害する直前に介入してもらうことになる」
     もし、これよりも早く攻撃を仕掛けた場合、他の軍勢の動きが変わる可能性が高くなる。つまりそれは……。
    「予知の範囲外、だ。もしかしたら、最悪沖縄本島への上陸を取りやめて、離島の制圧に向かう作戦に切り替えてしまう可能性もあるから、このタイミングをずらすのは愚策だろう」
     幸い、と言うべきだろう。
     その殆どは一般人の兵士の為、ESP等による無力化が可能となっている。
    「皆にはバベルの鎖もあるから、一般兵の攻撃は届かないから、君達の敵にはならない。けれども、もし見逃してしまえば沖縄市民に犠牲が出てしまう。……要するに、無力化する必要があるってことだな」
     勿論、範囲攻撃で一掃することも不可能ではない。
     ただ……そこにはリスクがある。それは……。
    「一般兵達のアンデッド化だ。だから一般兵に関しては、殺すことよりも無力化することを考えたほうがいいだろう。問題なのは、軍隊の中に含まれているアンデッド兵と、人型兵器『人甲兵』だ」
     彼らは当然ながら眷属である。
     故に、彼らを簡単に無力化することは難しいだろう。
    「特に『人甲兵』は危険だ。これは、アッシュ・ランチャーが第二次世界大戦時に実用化させた、アンデッドを超強化する特殊武装らしい。……シャドウの中にいたタロット兵、みたいだな。流石にあれほどではないとは思うけれど、『人甲兵』を装備しているアンデッドは、並のダークネスを越える戦闘力を持っているのは確かみたいだ」
     一部隊につき『人甲兵』は凡そ5体程配備され、アンデッド兵は20体程、配備されているようだ。
    「と言っても大凡だから、正確じゃない。特にアンデッドは作戦中に死亡してアンデッド化する兵士もいるだろうから、数が増える可能性が高いことを考慮に入れておくべきだろう」
     尚、人甲兵とアンデッドを全滅させた後は、無力化した兵士達を捕縛しながら、洋上のアッシュ・ランチャーとの決戦に備える必要もある。
    「……いずれにせよ、非常に危険な任務であることは重々承知しておいてくれ。最悪の覚悟も必要になるかも知れないから」
     優希斗の言葉に、灼滅者達が其々に返事を返した。
    「……此処まで大掛かりな作戦を立てて統合元老院の元老が直接動き出してきた。……間違いなく、相手は本気だろう。だからこそ、此方もこの作戦に成功すれば、敵首魁、元老アッシュ・ランチャーへと直接攻撃を行える可能性がある。でも、それは生半可なことじゃない。だから、これだけは約束してくれ」
     ――死なないで。
    「この戦いは、一つの通過点に過ぎない。勿論、死戦になるのは間違いないけれど。それでも、俺にできることは、この作戦を皆に託すことだけだ。だから……この約束だけは忘れないで欲しい」
     小さくそう呟く優希斗に背を向け、灼滅者達は静かにその場を後にした。


    参加者
    レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)
    狂舞・刑(その背に背負うは六六零・d18053)
    師走崎・徒(流星ランナー・d25006)
    獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)
    白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)
    有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751)
    荒谷・耀(一耀・d31795)
    氷上・天音(微笑みの爆弾・d37381)

    ■リプレイ


    「あれは、ヌーヤガ?」
     夜明け前の曇り時。
     ポツポツと海の向こうで瞬く光。
     その光を見ながらキョトン、とした表情で漁師がそれを見つめている。
     ――その時。
    「此処にいたら危ないっすよ!」
     不意に、後ろからグイ、と服を掴まれ、そのまま黒い小型のバイクに乗せられると同時に、優しい風が漁師を包み深い眠りへと陥る。
    「天摩、よろしく頼む!」
    「勿論っすよ、徒っち!」
     漁師を魂鎮めの風で眠りにつかせた師走崎・徒(流星ランナー・d25006)の言葉に頷き、目の前に迫ってきている船に背を向けて、黒い小型のバイク……ミドガルドに跨った獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)がアクセルを踏み漁師を戦場外へと離脱させる。
    「……」
     青髪青瞳の筋肉質の巨漢へと姿を変えた有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751)が無表情のままに上陸して来ている軍勢を睨みつけている。
    「どうして……こんな……!」
     無数の弾幕を張り、此方の接近を阻止し、確実に上陸してくる3000人ほどの軍勢の姿を見つめ、ギリリ、と唇を噛み締めて呻く荒谷・耀(一耀・d31795)。
     耀の絶望とも取れる呻きを、雄哉は当然の様に受け入れている。
    (「これが、ダークネスだから」)
     悪意によって人々を脅かす、人類の敵。
    「有城、張り詰めすぎるなよ? ……荒谷もな」
     白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)の気遣いが2人の耳に入ったかどうか、それは誰にも分からない。
     胸元のブローチに触れて軽く祈りを捧げるは、氷上・天音(微笑みの爆弾・d37381)。
    (「この作戦を誰一人欠けることなく無事に完遂できますように」)
     別れ際に、優希斗が言った通り。
     自分達には、帰りを待ってくれている人達がいる。
     その人達を悲しませない為にも、誰一人欠けさせるわけにはいかなかった。
     ――だからこそ。
     最後まで抗い、戦い続ける。
    「このまま野放しにしていたら、アンデッドが大量に増えそうだな……放置するわけにはいかないだろう」
    「そうだな」
     状況を冷静に観察するレイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)の呟きにカズミをスレイヤーカードから解放していた狂舞・刑(その背に背負うは六六零・d18053)が小さく頷き返して叫ぶ。
    「これより宴を……開始する!」
     刑の叫びを引金に、灼滅者達は上陸を果たした軍勢へと突撃した。


    (「怒りに呑まれたら、死に繋がる。だから感情は熱く、心は冷静に……」)
     自己暗示を掛けながら、天音が音を遮断する結界を張る。
    「なるほど。こういう軍勢の分け方をしていたか」
     上陸した敵部隊を王者の風で蹴散らしながらレイが小さく呟く。
     敵部隊は、数十人単位で1部隊を編成し、そこに指揮官を配置するという構図になっているようだ。
    「……まずは一般兵の無力化が先っすね、レイっち」
     漁師を安全圏に逃がして戻ってきた天摩にレイが頷く。
     2人が同時に威風堂々たる風を吹かせ、迫りくる軍勢を一気に無力化していく。
    「さあ、こっちへ!」
     無力化された兵士たちに、愛嬌ある笑顔を向ける徒。
     その笑顔が無気力化された人々を虜にし、彼の指示に従って、予め想定していた避難場所へと誘導していく。
    「カズミ!」
     誘導されている兵士達を未だ無力化されていない一般兵達が脱走者と判断したか、射殺しようとするが刑がカズミに庇わせている。
     ――その頃。
     ズン! という鈍い音が、海岸へと上陸してきていた兵士達を釘づけにしていた。
    「海に戻りなさい! さもなければ、この岩と同じ末路を辿ることになります!」
     まるで、自らの絶望に抗うように。
     パニックテレパスと同時に行われた耀の岩を叩き切るという脅しが、多数の兵士たちをパニックに陥らせ、海の方へと逃走させていく。
    「怯むな! 殺せ!」
     そんな耀に向けて、放たれた銃弾。
     恐らくアンデッド兵の一体。
    「荒谷! お前はそのままそいつらを避難させろ!」
     バベルの鎖によってその相手がアンデッドと確信を得た明日香が、抵抗しようとしてくる一般兵達を手加減攻撃で無力化しながら、一気に肉薄する。
     その背後から飛び出した巨漢……雄哉が、アンデッドに向けてその腕につけたWOKシールドを叩きつけた。
    「……どけ」
     敵の左腕をひしゃげさせる、雄哉。
    「……!」
     冷徹なその一撃に僅かに息を呑みつつも、天音が追随して百鬼夜行を召喚する。
     バベルの鎖の力でアンデッドと一般兵を見分け、アンデッドのみを対象に攻撃。
     天音のその一撃は、雄哉の一撃を受けていたアンデッドの他に、周囲の隊を指揮していた何体かのアンデッド兵達を巻き添えにしていた。
    「アンタ達の相手は、オレ達だ!」
     刑も交通標識から蒼白い光線を撃ちだし、アンデッド兵士達へと攻撃を仕掛けている。
     雄哉の一撃を受けていたアンデッドがカズミの起こしたポルターガイスト現象に飲み込まれ力尽きた。
     アンデッド兵士たちが、怒声と罵声を叩きつけながら刑達へと迫って来る。
     一方でその影響を逃れたアンデッド兵達が数百人の部隊を率いて市街地へ向かって進軍しようとするが……。
     ドスンッ、と交通標識を突き立て、天摩がその前に立ちはだかった。
    「此処から先は通行止めっすよ!」
    「君達をここから先に行かせるわけにはいかないな」
     言葉と同時に畏怖を感じさせる風を放つレイ。
     風が300m以内に集結してきた一般兵達を覆い、彼らを瞬く間に無力化させている。
     その中央に位置していた指揮官らしきアンデッド兵が一喝して立ち直らせようとするが、それよりも先に天摩が地面に突き立てた交通標識から青い光条を撃ちだし、アンデッドの意識を自分へと強制的に向けさせる。
     怒りのアンデッド兵が銃を乱射して無力化した一般兵ごと天摩に攻撃を仕掛けるが。
    「やらせないよ!」
     徒が自ら銃弾に身を晒して庇い、ミドガルドが体当たりをアンデッド兵に敢行。
     乱戦状態の最中でも耀達は諦めずに一般兵の無力化に務めている。
     その甲斐あってこの数分で、数百人程近くを無力化できた筈だ。
     最も、全ての一般兵を鎮圧するにはまだ時間が掛かりそうだが。
     海の側へと逃走した兵士達を耀が魂鎮めの風で眠りにつかせながら、静かに目を伏せ、小さく首を横に振る。
    (「これが……ダークネスが人間を操り人間を害する『見えざる圧政』の本領、ということですか……! でも、これじゃあ……!」)
    「結局不死王も六六六人衆と変わらない……これじゃ、共存なんて出来ないじゃないですか……!」
     穏やかに眠りについている人々……これから、ダークネスの手によって殺戮をさせられそうになっていた罪なき人々の寝顔が、耀の胸に鋭い棘となって突き刺さった。


    「……消えろ」
     レイ達による一般兵の無力化を何処か他人事の様に感じながら、雄哉が一般兵の壁を破られその姿を晒したアンデッド兵に裏拳を叩きこんでいる。
     アンデッドの頭部が鈍い音と共に、ぐらりと傾いだ。
    「有城! 無理はするな!」
     最前線に立ち続け最も負傷が多い明日香が叫びながら、アンデッド兵の死角から不死者殺しクルースニクを振るい止めを刺す。
     ――そんな時。
     上空から凄まじいと音と共に、無数のミサイルが降り注ぐ。
    「!」
     カズミが明日香の前に立ちはだかるが、爆風は容赦なく周囲を巻き込み、刑達の動きを阻害。
     ――ズーン、ズーン。
     鈍い足音と共にその姿を現した3メートルのパワードスーツ型のロボットに、天音が息を呑んだ。
    「人甲兵……!」
    「来たか……!」
     耀達が一般兵を避難させることと並行して、アンデッド兵を集中攻撃によって各個撃破していた刑達の存在を危険と判断したのだろう。
     目の前に現れた巨体は、異様な重圧感があった。
    「……ニライカナイの地、殺戮の朱で染めさせるものか!」
     先のミサイルに巻き込まれ、動けなくなった人々を避難班の徒達が回収し、素早く逃がしていくのを確認しながら、天音がマリーゴールドの花を象った炎を叩きつける。
    「行くぞ」
     刑が自らの左腕に巻き付けた影、殺影器『偏務石』を刃に変えて、ズタズタに人甲兵を斬り裂き、カズミがそれに連携して自らの腕を人甲兵に叩きつけている。
     だが、人甲兵はその程度で揺らがない。
     周囲の兵士達で無力化されていない者達も、まだまだと言わんばかりに銃を乱射しながら、立て続けに攻撃を行っている。
    「此処からが本番ってわけか!」
     明日香が叫びながらダイダロスベルトを射出し、人甲兵を締め上げている。
     徒達に一般兵は任せているが、まだ全ての兵士達を無力化しきれていない。
     彼らが合流するまでは、自分達の力だけで、この人甲兵を止めなければならないのだ。
    「邪魔だ」
     冷たく一瞥し、雄哉が巨大な十字架、クロスブレイブで容赦なく敵を乱打する。
     敵の装甲が凹むがそれでも堪えた様子を見せずに、大振りで拳を振るう人甲兵。
     巨大なその腕による一撃は、一撃離脱した雄哉ではなく刑を確かに打ちのめしていた。
    「ぐっ……!」
     今までアンデッド兵達を屠っていた時の疲労の蓄積もあり、ギリッ、と唇を噛み締めながら刑がシャウト。
     それまで仲間を守り続けていたカズミの体力も限界が近いが、もう少し耐えてもらう必要があった。
    「この位で、あたし達を止められると思うな!」
     叫びと共に、天音が悲しみと怒りの蒼のオーラを無数の雪の結晶の様に変化させて叩きつける。
     雪の様に舞い散る残滓を残しながら閃光百裂拳が消えていくが、人甲兵はまだ倒れない。
     ――そんな、時。
    「死になさい、人類の敵!」
     海側への一般兵の避難を完了させた耀がまるで落雷の如き速さと共に、ブラックサンダーの異名を持つ、『雷』による炎を纏った蹴りを叩きつけた。
    「荒谷!」
    「すみません、遅くなりました。……天摩先輩達ももう直ぐ合流できるはずです」
     明日香の言葉に、耀が短く答える。
     気付けば周囲の一般兵達はかなり鎮圧されていた。
     一部アンデッド兵士達に率いられた戦力がまだ存在するだろうが、一般人を無力化するのと並行して行われた灼滅作戦が功を奏し、最初の混戦状態は解消されている。
     最も、まだ目の前の敵も含めて、5体近くと思われる人甲兵が健在である以上、油断はできないが。
     目の前の人甲兵が、無数のミサイルを耀達に向けて撃ちだす。
     咄嗟の攻撃に回避が間に合わず、明日香と耀がその攻撃に体を焼かれ、限界の来たカズミが消滅した。
    (「カズミ……よく頑張ってくれた……!」)
     ビハインドに内心で礼を述べながら、刑が、大上段から日本刀を振り下ろし、人甲兵達を叩き切る。
     片腕を両断され、鈍い音と共に腕が落下し、僅かに後退する人甲兵の装甲を明日香がティアーズリッパ―で斬り裂き、ほぼ同時に雄哉が貪欲な咢を開いた影に人甲兵を喰らわせた。
    「御免! お待たせ!」
    「此処からはオレ達も加勢するっす!」
     一般兵の部隊の鎮圧を完了させた徒がミドガルドの後ろから飛び出しその拳に雷を纏って正拳突きを叩き込み、天摩もまた、Oath of Thornsで上空から蹴りを叩きつけ、ミドガルドが同時に体当たり。
     避難班が合流したことにより一気に形勢が変わり、人甲兵が倒れる。
    「君達も無事なようだな」
     辿り着いたレイが気遣う様に小さく呟きながら、黄色信号を灯して、明日香達を回復。
    「助かったぜ、荒谷、獅子凰、師走崎、レイ。このままオレ達だけで戦い続けていたらじり貧だった」
    「気にするな。此方こそ、一般兵達の無力化に時間が掛かってしまい、すまない」
    「流石に、これだけの人数になると……僕達だけだと大変だね」
     明日香の言葉に、レイが軽く謝罪を述べ、徒が額の汗を拭う。
    (「でも……」)
     兵士達は普通の人間だ。
     だから、彼らの命を護りたい。
     それが……自分達灼滅者の矜持だと思うから。
     だからこそ、時間が掛かってでも一人でも多くの人の命を護りたかった。
    「そうっすね、徒っち」
     徒の想いを天摩は読み取ったのだろう。
     小さく呟き微笑を零していた。
    「……急ぎましょう。まだすべてが終わったわけじゃありませんから」
    「うん、そうだね」
     耀の言葉に天音達が頷き、再び戦場へとその身を躍らせた。


     ――合流してからの戦いは、殆ど一方的だった。
     先に敵部隊を上陸させていたが故に、各々のアンデッド兵、人甲兵達がバラバラに活動していたからだ。
     一方で、レイたちが選んだ作戦は、集中攻撃による確実な各個撃破。
     ――指揮官を倒すことで戦闘能力を奪う作戦は、今回の様に移動しながらの少数精鋭での戦いでは良手。
     最初から転戦していた明日香達の消耗は激しいものがあったが、レイの的確な支援、天摩とミドガルド、そして徒の防御、耀の火力もあり素早くかつ迅速にアンデッド兵及び、人甲兵の灼滅に成功している。
     ――そして。
    「アンタが最後の人甲兵だな」
     呟きながら、刑が殺影器『偏務石』を刃へと変じてその身を斬り裂き。
    「終わりだ」
     雄哉が、十字架戦闘術で滅多打ちにし。
    「行くぜ!」
     明日香がグラインドファイアでその身を焼き。
    「はっ!」
     耀が黒死斬で死角から袈裟斬りにし。
    「荒谷っち!」
    「行くよ、天摩!」
     ミドガルドが機銃掃射でこじ開けた道を、天摩から赤い光条が飛んでその身を射抜き。
     ほぼ同時に、徒が彗星の如き炎を纏った蹴りを叩きつけ。
    「終わりだな」
     すかさずレイが逆十字の光線でその身を射抜き。
     そして……。
    「終わりだ!」
     天音の悲しみと怒りの蒼を帯びたオーラが叩きつけられ。
     グラリ、と最後の人甲兵が力尽きると同時に。
     僅かに士気を残していた一般兵達が、蜘蛛の子を散らす様に敗走していった。


    「……ぐっ」
     一般兵達の拘束を終えたところで、雄哉は暗示の限界が来てダークネス形態を解除して倒れ込もうとする。
     本当は人目のつかない所で倒れるつもりだったが、それだけの余力が残っていない。
     そんな、雄哉を明日香が支えた。
    「いつも言っているだろうが。無理するなって。それに、まだ終わりじゃないぜ」
    「……」
     明日香の言葉に、雄哉は答えない。
     一方で、天音は、徒と協力して、アンデッド達の遺体の焼却を始めとした事後処理に力を注いでいる。
    (「屍王に穢された魂たちが、海と空の蒼に抱かれて今度こそ静かに眠れますように」)
     そんな思いを込めながら。
    (「一先ず、全員堕ちずにすんだのは、僥倖か」)
     レイが内心でそう呟く間に、耀がそっと心臓のある部分を抑えている。
     天摩が、労わる様に優しく耀の肩を叩いた。
    「あたし達の怒りの炎に油注いだ対価はデカイぞ……必ずぶちのめすからな!」
     きつく拳を握りしめながら、事後処理を終えた天音が怒りを帯びた表情で、海を見つめる。

     ――それは、来るべき決戦の時をまるで予期しているかのような眼差しだった。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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