アッシュ・ランチャーの野望～美海からの悪夢

■リプレイ

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　２０１７年５月２日。天文薄明が始まりかけた。
　小型犬の甲高い鳴き声の向こう、岸壁に打ち付ける波に紛れて何かが接岸した鈍い音が響いた刹那、踏まれて砂の鳴く音がした。
　真っ先に飛び出した八重葎・あき（とちぎのぎょうざヒーロー・d01863）は、少し乱暴に小型犬とその飼い主の女性を抱き上げると、来た道を全速力で引き返す。
　あきと同時に走り込んだ病葉・眠兎（奏愁想月・d03104）は埠頭の色口にて、目の前の３０００の兵を見据え殺界を形成させる。
「……却説(さて)、此処が波打ち際の防衛ラインです。罷り通るというのなら、お覚悟を……！」
　放たれた殺気で上陸しかけた兵が次々に揚陸艇に転げ落ちて後退を始める。一方で殺気が届かない後続は埠頭の先の方に接岸し、上陸していく。
「まずはあんた達が解放されるべきよね」
　日本そのものが狙われる事態となった。そのきっかけが自分たちの選択であるならば。
「尚更阻止しないわけには行かないわね！」
　岸壁に立ちはだかったのは、神夜・明日等（火撃のアスラ・d01914）。
「武器をその場に置いて！　置いたら上陸、埠頭の先に移動しなさい！」
　王者の風を纏い、揚陸艇上の一般兵を一気に無気力状態にしていく。
「皆さんの身の安全は守りますので、埠頭の先に集まってください」
　秋山・清美（お茶汲み委員長・d15451）がハイパーリンガルで中国語を操れば無気力になった兵士は次々に投降し、明日等の指示に従い移動を始める。
　埠頭の先側。上陸する部隊が一番多く集まる場所では、強烈な精神波を放つ茶倉・紫月（影縫い・d35017）と、文月・咲哉（ある雨の日の殺人鬼・d05076）が構えていた。
　３０００対８。
　眼下の海には一瞬では数えきれないほどの揚陸艇。その邸内の無数の頭に紫月は思わず眉を顰めた。
　正気の沙汰ではない比率に、不安にならないわけがない。だけど、ここで自分たちがうまく立ち回らなければ――。
　紫月は祈る。
　頼むから、うまく転ばせてくれよ神様。
　どう足搔いても絶望でした。なんて未来は、見せないでくれ……！！
「放棄的武器、白撤離到以前的碼頭！　武器を捨てて、埠頭の先へ撤退しろ！」
　紫月はこの時のために覚えた中国語を叫んで目的の方を指差せば、パニックになり右往左往する一般兵はその命令を命が助かる唯一の策だと信じ、次々に武器を捨て投降していく。
　そのパニックに乗じた咲哉は喧騒に向け、割り込みヴォイスを使い声を張る。
「投擲武器、武器を捨てろ！」
　それぞれが役割を分担し、且つ、範囲が重ならないように動いたことで、多くの一般兵が武器を捨て揚陸艇から岸壁に上がり投降。埠頭の先に辿り着くなり折り重なるように倒れていく。
「次に目が覚めたら全部終わってるから。眠ってよね」
　リリアナ・エイジスタ（オーロラカーテン・d07305）が吹かせる爽やかな風が、兵士を眠らせていた。
　こうして一般兵のみのチームをすべて無効化させていった灼滅者。この数分で２０００人が投降したか。
　だけど、アンデッドが指揮するチームの一般人は無効化させにくい傾向にあった。ＥＳＰを使っても、アンデッドが一喝して正気を取り戻させてしまうためだ。
　それでも諦めずに何度も無効化させていく灼滅者の技をかいくぐり、ついにアンデッドが指揮する１チームが上陸していく。
「止まりなさい！　動いたら命はないわよ！」
　明日等の命令に驚き足を止める一般兵の波を、小早川・美海（理想郷を探す放浪者・d15441）はかき分けて。
「……さあ、もふくないアンデッドはここで退場なの」
　狙いを定めてご当地の力を宿したビームを放出すれば、アンデッドの肩をもろに崩す。
「みんな、おまたせだよ！」
　女性と犬を保護して戻ってきたあき。大谷石で作られたクロスグレイブ『宮島超十文字』から聖歌を響かせれば、十字架の先端から光の砲弾が放たれ、アンデッドを凍らせ粉砕する。
「あの女性は？」
　あきに尋ねる清美は、一般兵の相手をしている最中も心の片隅で彼女を案じていた。
「海には近づかないでってのと、このまま早く家に帰ってってお願いしておいたよ」
　彼女はあきに抱えられる中、埠頭の灯りに照らされた数戦の兵を見た。
　そして、現に自分を助けたあきの言う、『自分たちは沖縄の人たちを護るヒーローである』という言葉を丸々信じていた様子で、街の方に走っていった。
　その言葉を聞いて安堵する清美は、一般兵に投降を呼びかける役目に邁進する。
　ここから先は、アンデッドや人甲兵から一般兵を引き剥がしながらの作戦になった。
　一般兵の無効化を担うものがＥＳＰを発動させ、彼等が怯んだり無意識に退いたりしたところに、攻撃を担うものが突撃をしアンデッドを叩き撃破していく。こうすることでたとえ敵に上陸を許しても水際で一般兵を剥がすことに成功していった。
　そして、作戦開始から約７分が過ぎたところで、ほぼ全ての一般兵を無効化することに成功したのだった。

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　一般兵を失ったアンデッドはアンデッドのみのチームを組み、埠頭に上陸するなり攻撃を始める。
　灼滅者は、一般兵に流れ弾が当たらないように半数が海側を、もう半数が陸側を背にもう潁川を張った。
　一体のアンデッドがガトリングがんを構え、発砲。
　しかし、発砲されたガトリングの連射はウイングキャットのリンフォースが防ぎきる。
「ありがとう、リンフォース！　さぁ、ここから先は通さないわ！」
　自分のサーヴァントに礼を述べた明日等がアンデッドを見据えてダイタロスベルトを操ると、リンフォースもむにゃむにゃと呪文を唱え。
　ベルトの先端は鋭い刃、呪文は魔法となり、アンデッドを縛り斬り刻む。
「どんな兵器が相手でも、どんな汚い手を使ってきても……」
　縛霊手に内蔵された祭壇を展開させた清美は、メガネ越しにアンデッドをきっと睨み。
「あなたがたの野望は叩き潰してみせます」
　アンデッドの足元に結界が生じてその場に縛り付けられると、
「ナノーっ」
　ナノナノのサムもシャボン玉を飛ばす。
　間髪入れずに、どす黒い殺気で敵軍を覆い尽くす紫月。
　愛刀『十六夜』を構えた咲哉。
　仲間がアンデッドを撃破する間に人甲兵を……と目を凝らし、目標を変えた。
　人甲兵はいまだ揚陸艇の上でわずかに残った一般兵を従えている。この一般兵が銃を乱射し、誤って同士討ちなど犯したら……。
「……っ」
　殺気を放ってアンデッドにダメージを与えながら、自身の力を高め思う。
　各国の軍部を掌握すれば、戦争を起こすも軍を拡大させるも思いのまま。
　そして死体が増えれば配下も増える……か。
「だがそうは問屋が卸さないぜ。命も、穏かな日常も、俺達にとって大切なモノは俺達の手で護ってみせる。必ずだ」
　静かに、だけど力強く誓いを立てる。
　深手を追った一体が次のターゲット。リリアナはチェーンソー剣を激しく唸らせると、標的目掛けてコンクリートの地面を蹴った。
「よくも大量に攻めてきてくれたね。でも、ボクたちは絶対負けないよ」
　金色のポニーテールが揺れると同時に、唸りも最高潮のチェーンソーでアンデッドを斬り刻み、木っ端みじんにしていく。
　アンデッドに、仲間を倒されて悔しんだり怯んだりする心などあるのだろうか。
　バスターライフルを構えた一体が、円盤状の光線を発射して前衛のすべてを薙ぎ払う。
　すぐに動いたのは、回復手を担う美海。
「すぐに回復、なの」
　クルセイドソード『荒鎮の十字剣』に刻まれた祝福の言葉を風に変え、傷ついた仲間を一気に癒す。
　ライドキャリバーのケッテンラビット号に騎乗した眠兎が大鎌をくるりと振り上げると、三日月型の刃には光が走る。
「ヒーローを気取る気はありませんが、多少なり守りたいモノがあるのです」
　主の宣言に呼応して、ケッテンラビット号も激しい爆音を上げてアンデッドに突っ込んでいくと、光を宿して眠兎が振り下ろした断罪の刃は、アンデッドの体を割った。
「宇都宮餃子のヒーローとして、最良の未来を掴み取ってみせるっ！」
　宇都宮から遠く離れた沖縄も、日本だから。
　エアシューズ『大銀杏の息吹』に刺繍された大銀杏の葉のモチーフがきらりと光ると、足元に集まってくるのは無数の星の光――。
　それを足に纏わせてあきは、直近の一体の鳩尾を抉り、また一体アンデッドが粉々の崩れ去っていく。
　灼滅者はお互いに連携してアンデッドを撃破していく。傷ついた者がいれば、回復手と守り手が協力し、各個撃破で数を減らしていった。
　こうして、アンデッドとの死闘を繰り広げた灼滅者の目の前の揚陸艇に残ったのは、少数の一般兵。
　そして、数体の人甲兵であった。

●
「――！」
　先陣を切り、武器を構えて一般兵が突っ込んでくる。
　眠兎は彼等が発砲するよりも早くケッテンラビット号から飛び降りると、殺界をもう一度展開させた。彼女の前ではケッテンラビット号が盾になる。
　自分は彼等の弾で射抜かれても死ぬことはないけれど、ここで乱射させてしまえば死者が出る。
「この人たちは、死なせたくない」
　只ならぬ殺気に足が止まり慄く一般兵を、正気に戻されてしまう前に――。
「死にたくなかったら銃を棄てて、埠頭の先端へ移動しなさい！！　早く！！」
　明日等の纏う王者の風が一般兵を包み込むと、委縮した一般兵は次々と銃を捨て投降していく。
　逃げていく彼らを背に。彼らに攻撃が向かわないようにいち早く飛び出した清美。
「人間をただの駒としてしか思っていないあなたたちを、許せません」
　指揮官を打つためには、この場を凌ぎきらなくては。
　武器に己の炎を宿し、全身全霊を甲人兵に叩きこむ。
　よろめいた甲人兵。だがすぐに態勢を立て直すと、構えたバスターライフルを発砲。
「リンフォース、お願い！！」
　咄嗟に叫んだ明日等にリンフォースは応える。咲哉の前に飛び出すとその攻撃を一身に受けると、露のように消えていく。
「……恩に着るぜ……」
　咲哉の表情は言葉とは裏腹に眉間に皺が寄る。咲哉はコンクリートの地面を蹴ると、得物の刀を大きく振り上げると、人甲兵のど頭目がけて刀を振り下ろす。
　金属と金属が激しくぶつかり合い火花が飛ぶ。
「……人甲兵、見せて貰うの、その性質を、なの」
　クルセイドソード『荒鎮の十字剣』を構えて飛ぶ美海。
「魂だけを斬る…それが、必殺・神霊剣、なの」
　白銀の刀身はふと消えたかと思うと、美海の振りかぶりと共に甲人兵に深い傷を入れた。
　ここまで来たら、何が何でも沖縄を守り抜く。紫月は影業『ディラックの海』を操ると、人甲兵の足元でゆらりと影が揺らめいたかと思ったら。
「これで終わりだ」
　人甲兵が飛びあがるよりも早く、一気に鉛色の機体を飲み込んだ。
　もがき蠢く人甲兵は、紫月の影に押しつぶされて消えてなくなる。
　人甲兵から剥がした一般兵は埠頭の先端にたどり付くなり、先に無効化した一般兵同様に寝息を立てて眠りだす。リリアナが爽やかな風で一般兵を眠らせたのだ。
「これで全員、無事に無効化できたよ！」
　後は自分たちがこの戦いに勝利さえすれば、この戦いで戦死する一般兵はいない。璃々アナが声を上げて士気を高めると。
「宇都宮餃子を沖縄の人に味わってもらう為にも、必ず勝つよ！」
　構えるクロスグレイブは大谷石で作られた『宮島超十文字』。シンプルだけど美しい十字架が聖歌を唄えば、新たな標的に向けて跳んでいく光の砲弾が人甲兵の機体を凍らせていった。
　――東の空が徐々に白み始め、辺りの景色も闇の色から色彩を持ち始めたころ。
　サーヴァントをすべて失い、体力も底をつきかけの死闘は、終焉に向かう。
　機体が硬質な音を立てて崩れ去り、残る人甲兵は後一体となった。
　皆、一言もしゃべらない。
　ただ、黙々と、この悪夢を終わらせるために。
　人甲兵が構えたガトリングガンが火を噴くと、身を呈して仲間を庇う眠兎。
「……っ！」
　炎を払って走り出せばエアシューズに星が集まり――。続いたあきも大銀杏の力を星の力に変えて、二人そろって硬質な図体に強烈な蹴りを喰らわせる。
　着地時に膝をついた眠兎を、美海が巨大なオーラの法陣を展開して癒すと、清美も縛霊手の指先に集めた霊力を彼女に撃ち出した。
　重い図体をガシャンと唸らせ、人甲兵が動き出す。
　咲哉は素早く影を伸ばし、人甲兵の動きを封じ、ギアがガリガリと激しい音を立てた。
　こいつだけは絶対に逃がさない。
　明日等がコックピット目がけて唸る槍を突き立てると、内側から機会が破壊される音と小さな電気がバチバチと、音を響かせた。
　真っ直ぐ人甲兵を見据えた紫月が語るのは、人甲兵に纏わるであろう怨恨系の怪談。まつわる雑霊はやがて大きな影となり――。
「これで、ノックアウトだ！！」
　鬼の腕は人甲兵をも物ともしない。
　リリアナは大きく振りかぶると、その機体目がけて殴りつけた。
　デカブツは大きく後ろに傾き、激しい音を立てて揚陸艇に堕ちた。
　後の響は爆発の音。そして燃える炎は揚陸艇を巻き込んで海の中へと沈んでいった。

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　眠らせていた一般兵全てを縛り上げるのは骨が折れる作業だった。
　彼らのほとんどがアンデッドと人甲兵の撃破を目撃していない。となると、アンデッドや人甲兵が市街地へと向かわないとも限らないからだ。
　すべての一般兵を捕縛し終えたころにはサーヴァントも姿を現し、東の空はすっかり明るくなっていた。
　それぞれ海を見つめる灼滅者たちの人もに映るのは、海。
　そう。
　悪夢の根源は、まだこの美ら海の先に――。

作者：朝比奈万理	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年5月2日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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