アッシュ・ランチャーの野望～死を運ぶ軍団

■リプレイ

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　夜明け前。
　曇り。気温は二十二度付近。
　死を運ぶ軍団の前に、灼滅者達が颯爽と立ち塞がる。
「そこ、止まりなさい！」
「私が敵の言葉を伝えます。王者の風による指示はあなたにお任せしますよ」
　緑風・玲那（疾駆朱翼の戦乙女・d17507）が、王者の風を発動して足止めする声が響き渡る。それら使う言葉の指示をするのは、 ハイパーリンガルを持つユーリー・マニャーキン（天籟のミーシャ・d21055）だ。
「武器を投げ捨てろ」
　ルフィア・エリアル（廻り廻る・d23671）は、そう言ってから魂鎮めの風で相手を眠らせていく。夏目・サキ（繋がれた桜の夢・d31712）も、倒れた兵達を器用に槍に引っ掛けて投げたりどかしたりと忙しい。
「こんなに、気を遣う戦い、初めてかも……」
　無闇に一般兵は殺せない。
　今回の戦いは、いつもとは違うところで神経を使わなければならない。
（「敵が多い上に下手な倒し方をするとやっかいな事になりますから気をつけないといけませんね」）
　しばし東雲・菜々乃（本をください・d18427）は闇纏いを使って様子を見ていた。場合によっては、自分も一般人の無力化に協力するつもりだ。
「何としても成功させないといけないぜ。でなくてもいい被害は、俺たちで食い止めるもんだぜ」
　不退の心構えを持ち、敵を無力化する仲間を護衛していたクーガー・ヴォイテク（紅蓮の道化師・d21014）は自分のすべきことを思い描く。
　一般人である兵達は次々とＥＳＰの効果によって無力化されていった。
　数えられるだけで三十名以上。確認は出来ないが、百を超えた可能性もある。
（「強化一般人でもなく、眷属でもなく、ただの軍人相手に少しのやりづらさを感じるが。侵略するのであれば、迎撃される覚悟は、と割り切ろう」）
（「出来るだけ戦闘に巻き込まぬようにダークネスを叩きマス」）
　蔵座・国臣（病院育ち・d31009）とローゼマリー・ランケ（ヴァイスティガー・d15114）はＥＳＰで一般人に見つからぬようにして。部隊の指揮をとるアンデッドに近付いていた。
　ダークネスと一般人を引き離す。
　それが、灼滅者の被害を抑えるため基本方針だった。

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「あなたの相手は私デス」
「灼滅者が！」
　ローゼマリーは先陣を切り、アンデッドへとシールドバッシュを見舞う。怒りを付与された敵は、そのまま反撃に出た。これも計算のうち。こうやって引き付けて、以降は命中重視で戦っていく。
「日本国外で活動できている、か」
　蔵座・国臣（病院育ち・d31009）もアンデッドを孤立化させるように動き、攻撃を開始している。ライドキャリバーが主人を守り、その陰からリングスラッシャーを射出する。
「殺す！　殺す！　殺す！」
「全く……殲滅出来れば楽なんだがな……流石にそういうわけにもいかないか、色んな意味で……な」
　一般兵の対処を優先したルフィアも、アンデッドの対処に手を割かねばならなかった。
　レイザースラストを放ち、牽制を加える。他の面々も、次第に本格的な戦闘状態に入り戦いは激化する。
「かなりの数の兵士が動員されているようですね」
　ロープで敵を拘束してからユーリーは、味方が交戦するアンデッドへとギルティクロスで割り込んだ。赤きオーラの逆十字が敵を斬り裂く。
「ある程度、巻き込まずに戦闘可能になったかな」
　サウンドシャッターを展開し。
　サキはダイダロスベルトをアンデッドに向ける。
　帯を射出し敵を貫きにかかる……が、それでも一般兵のことがちらちらと気になった。
「どこを見ている、灼滅者！」
　たまにサキが魂鎮めの風を使っての治療兼無力化の方を優先する隙。
　そこを突いて、アンデッドが襲いかかってくるが。
「やらせねえぞ」
　すかさずクーガーが、ガードに入る。
　敵の攻撃は全て身体で受け止める心積もりで、前線へと立つ。
「アッシュ・ランチャーの目的を阻止して沖縄の人達を守りましょう」
「隙を見せないようにしないといけませんね」
　敵の動きの様子を見ていた菜々乃は、能力と位置的に倒しやすい敵から攻撃のターゲットとする。メディックの玲那はヒールを優先し、サーヴァントのウイングキャットは猫魔法を使う。
　灼滅者達は、アンデッドを撃破し。
　一般兵を無力化し、適宜移動しては、街に軍勢が雪崩れ込まないように連戦する。
「そっちにはいかせマセン」
　ローゼマリーは味方を庇い、戦線を維持することに専念する。
　カウンターとして、プロレス技のごとく怒涛の勢いでスターゲイザーをふるって敵を高らかに吹き飛ばす。
「アンデッドは嫌いだ。せめて、やすらかに、疾くケリをつけよう」
　国臣はサーヴァントと共に、螺穿槍で攻めに入る。
　槍に螺旋の如き捻りを加えて突き出し、敵を穿つ。アンデッドの一体が、また悲鳴をあげつつ消滅した。
「存分にやらせていただきますよ」
　騎士然として凛々しく。
　ユーリーは縛霊撃を叩き込む。捕縛を受けた敵は みるみる動きが鈍くなっていくのは目に見えて明らかだった。
「確実に数を減らしていく」
　ルフィアがクラッシャーとして火力を発揮する。
　渾身のサイキックによりアンデッドの四肢が両断され、更にそこに仲間が連携して追撃を行う。
「長期戦にも、備えないと……」
　攻撃を行うたびに、サキの命中の精度と破壊力は増していく。
　何しろこれだけの数の敵が相手だ。螺穿槍とレイザースラストを使い続け、自身の鋭さに磨きをかけた。
「プリンはメディックお願いするのですよ」
　己がサーヴァントに回復を任せ。
　菜々乃はスナイパーとして精密にことを運ぶ。閃光百裂拳が、的確に敵の急所をとらえていた。
「攻撃が来ます」
「任せろ」
　ヒールとキュアを施す玲那を、クーガーは敵の凶刃から守る。
　何度も何度も味方の壁になって疲弊しても、決して後ろには引くことはない。味方にも伝わるように声高らかにシャウトする。
「俺はまだまだ余裕だぜッ！！」

●
「うん？　あれは……」
　灼滅者達が奮戦するなか。
　国臣の視界に、特徴的なシルエットをした敵影がよぎる。三メートル近い巨体、この上陸部隊の力の象徴――人甲兵。
「ちょうど良い。先手を打たせてもらう」
　旋風輪で国臣が突撃する。
　槍を回転させて人型兵器の頭部へと思い切りぶち当てると、ひどく硬質なものに当たったような鈍い音が響く。流石に装甲が固い。
「どけぇぇええええ！！！！」
　クーガーの対応はもっと過激だった。
　ライドキャリバーを力の限り、その相手へと目掛けブン投げるようにしてキャリバー突撃をさせ――自身も突っ込む。
「俺とダンスを踊ってもらうぜッ！！　返事はいらねえよ！！」
　自らの四肢へと炎を纏わせ殴りかかる。
　そこに技術などはなく、ただただ荒々しく拳打を、裂脚を穿つ。人甲兵の巨体が揺れた。
「しかしアンデッドの強化用武装とはなんとも懐かしい物を……そう、これは……何なんだこれ？　何これ？」
　首を傾げるルフィアも続く。
　剣の柄の部分の宝玉を叩き付ける。同時に魔力を一気に流し込むと、敵は内側から見事に爆発する。
「ターゲットロックオン。これより殲滅にかかる」
　炎に包まれながらも、人甲兵は重い身体を躍動させる。
　両手にもった銃火器が火を吹き、灼滅者へと浴びせられる。油断すれば一発一発が致命打になりかない弾丸が連射された。
「なるほど……これは、強い……！」
　余波を受けたサキは思わず呟く。
　これは一人や二人で対抗できる相手ではない。なるべく人数をかけないと、苦戦は必至だった。
「ここはみんなで協力して乗り切りましょう！」
「了解デス」
　人甲兵は特に注意して菜々乃は対応する。皆への回復を手伝い、警戒レベルをあげて勝利への活路を求める。そんな仲間を信じ、ローゼマリーはビハインドと一緒に飛び込む。仲間や一般人をダークネスから守護するのが彼女の信条だ。
「同時に回復もさせてもらいます」
　ユーリーが紅蓮斬で斬り込む。
　鮮血の如き緋色のオーラを武器に宿し、人甲兵の生命力や魔力を奪取する。その斬撃は鋭く速い。
「殲滅、殲滅、殲滅、殲滅、殲滅、殲滅、殲滅、殲滅、殲滅」
　火力対火力。
　人甲兵は途絶えることなく撃ちまくる。灼滅者達も負けじと、サイキックを嵐のごとく吹かせる。お互いの傷は絶え間なく増えるのが道理だ。
「なかなか回復が追い付きませんね」
　玲那がセイクリッドウインドやラビリンスアーマーを、味方へと重ね掛けする。
　ヒールをしてもしても、そのそばから敵からのダメージを受ける。回復手としての役割は時間が経つごとに、重要度を増していた。
「守りも固めないとな」
　サーヴァントにチームの壁として立ち回らせ、国臣は攻守のバランスをとる。
　自身は狙いすましてサイキックで攻撃。上手い具合に螺穿槍が、敵の装甲の弱った部分へとヒットし亀裂を入れることに成功する。
「意識をすれば最早、やることは変わらない……突き進むのみ」
　人甲兵に味方の邪魔をはせない。
　クーガーは霊力を込めた拳に思いを乗せ、繰り出し続けた。人甲兵に入った亀裂部分が広がる。敵は灼滅者達を近付けまいと弾幕を張ってくるが、構わずクーガーは進み。叩き切るように薙ぎ払う裂脚を接続する。
「！」
「トドメです」
　人甲兵は一歩、二歩と後退し。
　三歩目を踏みしめることなく爆散した。戦況をじっと観察していた菜々乃が、敵が押された一瞬を狙って神薙刃で援護していた。
「休んでいる暇はないな。次が来る」
　ルフィアが頭を振って息を吐く。圧倒的な戦力である人甲兵が撃破されるのを、目撃した一般兵がパニックになったり座り込んだりするなか。
　次なる人甲兵が現れていた。

●
「俺が……倒れるわけねーだろ……？」
　クーガーは不敵な笑みを浮かべ。
　自身の武器である手甲での貫手によって自分を貫き。痛みによって、意識を再覚醒させる。その後ろには仲間とともに、更に撃破した人甲兵やアンデッド達が横たわっている。
「中国、か。朝鮮、ロシアも要警戒とか言わんよな」
　国臣は多少ぼやくようにしてから。
　次なる相手に対して構え、螺穿槍で一気にダークネスの首を狩り取りにかかった。この作業を何度したか既に数えるのはやめている。
「命中は、充分」
　攻撃手段を変えた、サキのスターゲイザーが唸る。
　流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂し、敵の機動力を奪う。加えて今まで磨いておいた破壊力が加重される。
「行きマス」
　そこにローゼマリーが連動して、グラインドファイアが舞う。
　炎を纏った激しい蹴りが直撃して、アンデッドが焼き焦げて力尽きる。灼滅者達は我慢強く敵部隊の戦力を削ぎとり、苦心の末の成果は報われようとしている。
「ターゲットロックオン」
「……これが最後の人甲兵ですね」
　火線を集中してくる人甲兵の攻撃を、片っ端からヒールしつつ。
　玲那は周囲の状況を確認する。分かる範囲にいる目ぼしい敵戦力は、あとは目の前の巨人だけだ。
「全開でいく」
　一気呵成にルフィアが、敵の懐に潜りこむ。
　そこからフォースブレイクを打ち込み、爆炎が起こり敵がバランスを崩す。残り一体とあって気迫がこもった一撃だ。
「チャンスですね」
　ユーリーはジャマ―としての真価を発揮。
　捕縛のエフェクトを幾重にも敵に付与して、人甲兵の動きを文字通り縛り上げる。それは確実に相手の動きを蝕む。
「……ファイア！」
「当たりません」
　重い腕を振り上げて人甲兵が銃撃するが。
　鈍くなった動き。菜々乃は俊敏に回避して、鬼神変で逆撃をかけた。思わぬ展開に敵は、たたらを踏んだ。
「さっさと落ちな」
　クーガーも残りの力を振り絞り。
　レガリアスサイクロンで敵をブレイクする。一枚、一枚と敵の強化された能力が剥ぎ取られる。
「強いけど……負けない」
　サキは敵の銃弾をかいくぐり。
　妖冷弾を撃つ。冷気の氷柱を受けた人甲兵は、右手がそのまま凍りつく。中身まで凍傷にならん勢いだ。
「ロック、ロック、ロック、ロック――ファイア！」
「誰一人として餌食にはさせないデス」
　味方に標準を合わせる人甲兵の射線に。
　ローゼマリーは自ら飛び込んだ。そのまま、盾とした身体を叩きつけるようにして。決死の覚悟で押し切る。
「私も、助力します」
　玲那はそんな仲間をラビリンスアーマーで支援する。
　皆を救いたい思いならば、負けることなく強い。やれることは全部やるつもりだ。一体しかいない人甲兵は、灼滅者達の連携と集中砲火によって成す術を失っていく。
「もう一押し――」
「ですかね」
　菜々乃とユーリーが、閃光百裂拳とギルティクロスを放つ。
　オーラを拳に集束させた凄まじい連打と。敵を引き裂く緋色の閃光が重なり。敵の右腕と左足が吹き飛ぶ。
「灼滅者……ロ、ロック……」
「もう撃たせはしない」
　ボロボロになった身体を、引きずるようにして攻撃態勢に入る人甲兵に。
　ルフィアは疾風のごとく駆けた。巨体と交錯し……残ったのは螺穿槍が貫通した傷跡。身体に巨大な穴を開けられた敵は、そのまま倒れて。
　永遠に沈黙する。
　それを見届けた、手を下した本人は僅かに目を閉じる。
「終わった。さて、一般兵の武器の回収と拘束を行っておこうか」
「一般兵の捕縛ですね、後ろで手を縛っておきましょう」
　アンデッドと人甲兵を倒したことで、敵兵が敗走していく。
　ならば、被害を少なくするためにもやるべきことはまだある。灼滅者達の夜はまだ終わらない。空が白み始めたが夜明けはまだ、だった。

作者：彩乃鳩	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年5月2日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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