現代のネズミ小僧、参上!

    ●都内某所
     現代のネズミ小僧と呼ばれた者がいる。
     この者はバブルが崩壊して日本経済が悪化の一途を辿っていた当時、綺羅星の如く現れて次々と金持ちの家に侵入し、そこで得た金品をばら撒いていたらしい。
     実際には、そんな人間が存在していなかったのだが、『最近、空き巣が多いな』、『特に金持ちの家が狙われているらしい』、『この不景気でみんな仕事も金もないからな』、『きっと犯人の貧困層の奴だろう』、『もしかすると、そいつらのために盗みを働いているのかもな』、『まさに現代のネズミ小僧! 俺達のヒーローだ!』と言った感じで、途中から明らかにおかしい感じで噂が流れていき、都市伝説が生まれてしまったようである。

    「現代のって、ついた時点でB級感が増したな、おい」
     何となくツッコミを入れつつ、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明する。

     今回、倒すべき相手はネズミ男……じゃねえ、ネズミ小僧風の都市伝説。
     もう絵に描いたようなネズミ小僧。
     時代背景とか、その辺を全部取っ払った感じの時代劇風の奴だ。
     その癖、顔だけは現代風のさわやか系。
     この辺りの矛盾が都市伝説っぽいと言えば、そうなのかも知れないが……。
     都市伝説は金も町の家から盗んだ金品をバラ撒いている。
     まあ、持っていたところで使い道がないから、当然っていえば当然だな。
     一般人達はそれに群がるハイエナって感じだ。
     自分さえ良ければ、他人が死のうがどうなろうが知ったこっちゃないってタイプ。
     この時点で助ける価値がないようにも思えるが、放っておけば殺し合いを始めてしまう。
     ちなみに都市伝説は金品をバラ撒いて一般人を誘導し、屋根伝いに逃げていくから厄介だ。
     一般人の中にはネズミ小僧に恋する女の子とかもいるから、くれぐれも気を付けてくれ。


    参加者
    蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)
    ジャック・アルバートン(ロードランナー・d00663)
    犬塚・沙雪(炎剣・d02462)
    桜川・るりか(虹追い・d02990)
    久遠・薫(睡眠至上主義・d03201)
    ハイプ・フィードバック(焔ノ記憶・d04764)
    山花・楽(色々と無理が出てきた年頃・d09197)
    出雲・トウマ(シリアスブレイカー・d10168)

    ■リプレイ

    ●現代のネズミ小僧
    「ふうん、現代のネズミ小僧ね。ま、こんな不景気なご時世、こういう都市伝説が出てくるのも仕方ないのか」
     現代のネズミ小僧について書かれた新聞を眺め、犬塚・沙雪(炎剣・d02462)が溜息をもらす。
     記事では都市伝説が義賊のような書かれ方をしていたが、盗みを正当化しているように思えた。
     もちろん、都市伝説が盗みに入っているのは、汚す手段を使って多額の金を得ている悪徳政治家などの部類だったりするため、仕方がないのかも知れないが……。
    「古来より強きを挫き、弱きを助くというのは民衆に好まれますが、正直ろくでもない状態ですね。本当の弱きものへの循環が都市伝説なんかでもなく、義賊によるものでもなくなされるのが一番なのでしょうね。実際は難しいものでしょうが……」
     聖職者姿で道を歩きながら、蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)が複雑な気持ちになった。
     もしかすると、世の中が不景気な事が原因かも知れないが、金持ちに対して偏見を持っている一般人が多いと言う事は間違いない。
     その時、何処からか騒ぎ声が聞こえてきた。
     騒ぎの元を辿るようにして、現場に向かう悠達。
     そこには屋根の上から札束をバラ撒く都市伝説と、それに群がる野次馬達がいた。
    「……泥棒は犯罪です。捕まえてお仕置きしないといけませんね」
     手袋をキュっとはめ直し、久遠・薫(睡眠至上主義・d03201)がキリッとした表情を浮かべる。
     だが、まわりにいる野次馬達をどうにかしなければ、間違いなく戦いの巻き添えを食らって命を落としてしまう。
     それを避けるためにも、早めに手を打っておかねばならない。
    「ぴらぴらと邪魔だなっ!」
     ムッとした表情を浮かべ、ハイプ・フィードバック(焔ノ記憶・d04764)が花びらの如く舞い落ちる札束を眺める。
     自分の傍にまで落ちてきたら、そのまま焼き払ってしまおうと思ったが、野次馬達が残さず拾っているため、ハイプの傍まで落ちてくる事はない。
    「人を助けるのはいいことだけど、間違った手段じゃ意味がないぜっ! 父さんも母さんも、悪いことはしちゃいけないって言ってたしなっ! こういうヤツのことなんて言うんだっけ……そうだ『ギゼン』だ! 自分で何もやらない奴に施しをしたって、相手のためにならないぜっ!」
     都市伝説にも聞こえるように、出雲・トウマ(シリアスブレイカー・d10168)が大声をあげる。
     しかし、都市伝説は全く気にしておらず、『みんな、喜んでいるんだし、いいだろ』と吐き捨てた。
     それに気づいた野次馬達が『誰も迷惑に思ってねえんだから、文句があるならあっちに行け』と逆ギレする。
    「ちょっと荒っぽいけど殺し合いになっちゃうよりは。ごめんね」
     野次馬達に謝りながら、桜川・るりか(虹追い・d02990)が手加減をして当て身を放っていく。
     そのため、野次馬達が警戒した様子で、ジリジリと後ろに下がっていく。
     手に持った札束を消して離す事なく……。
    「お金じゃなくて、ボクはお菓子とかの方がいいんだけどなあ」
     少し残念そうにしながら、桜川・るりか(虹追い・d02990)が都市伝説に視線を送る。
     確かに格好いいが、タイプじゃない。
     その間に都市伝説が札束をバラ撒きつつ、屋根伝いに逃げていく。
    「おい、こら! 待ちやがれ!」
     すぐさまタプルジャンプで屋根に上り、ジャック・アルバートン(ロードランナー・d00663)が都市伝説の後を追う。
     だが、それに気づいた野次馬達が『ネズミ小僧を守れ!』と叫んで、ジャック達の行く手を阻む。
    「ふっ……、欲の皮の突っ張った連中なら別方面の色欲にも弱かろう。もっと楽しいことがあるだろォ? ……って、こっちに来るなあああああああああああああああああああああ」
     すぐさまラブフェロモンを使い、山花・楽(色々と無理が出てきた年頃・d09197)が猛ダッシュで逃げる。
     この状況はヤバイ。マジでヤバイ。
     それはムッサイ男達がズボンを下して走り出した時点で、容易に想像する事が出来た。

    ●野次馬
    「さぁ、浅ましさの塊のお前ら……さすがに邪魔だっ! 怪我をしないうちに、とっととこの場から去れっ!」
     野次馬達の行く手阻み、沙雪が殺界形成を発動させる。
     その途端、野次馬達がハアハアとアワアワの狭間で苦しみ、蛇に睨まれたカエルの如くダラダラと汗が流れていく。
    「……たくっ! 焦らせるなよ」
     ホッとした表情を浮かべ、楽が溢れ出た汗を拭う。
     そのため、ナノナノのハッピータンも、心配した様子でタオルを被るようにして持ってきた。
     次の瞬間、野次馬達のムラムラがアワアワな気持ちを凌駕し、『やっぱり、我慢出来ねえ!』と叫んで襲いかかってきた。
    「……って、おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
     思わずツッコミ。有り得ない!
     一瞬、このままクルリと回って、ロケットスマッシュを放ち、野次馬達をバッタバッタと倒していこうと思ったが、それは人間として……マズ過ぎる。
     故に涙目。猛ダッシュ!
     野次馬達も全力、全開、全速力!
    「そうやって他者を傷つけ、踏みつけ、財を得てそれでいいのでしょうか? それは貴方達が豊かになったとして、その生活に影を落とすと思いますが……。
     悲しげな表情を浮かべ、悠が改心の光を使う。
     その途端、野次馬達が気の抜けた表情を浮かべて立ち止まり、『やっぱり、無理矢理はいけねえよな。まずは友達からだ』と納得した。
    「いや、そういう意味じゃないんだが……」
     そう言って楽が野次馬達にツッコミを入れるが、完全に無視。
     ……と言うよりも、両手で耳を押さえて、楽の話を聞こうとしない。
     そして、野次馬達の瞳から零れ落ちたのは……、一筋の涙!
    「友達くらいは……いいんじゃないか?」
     だんだん野次馬達が可愛そうになり、沙雪が楽に視線を送る。
    「いや、よく考えてみろ。ズボンを下した一団から、『友達になってくれ!』と頼まれて、『はい、喜んで』って訳にはいかないだろ?」
     楽のもっともなツッコミに、納得する仲間達。
    「そ、そうですね、確かに……」
     その場で泣き崩れた野次馬達を眺め、悠が乾いた笑いを響かせる。
     少し野次馬達が可愛そうに思えたが、おそらく同じ立場であったのなら、躊躇う事無くお断りしていた事だろう。
     何だか色々な意味で負けた気分。
     その事を考えると、ほんのちょっぴりだけ、悲しくなった。

    ●都市伝説
    「そろそろ観念したら、どうなんだ? これ以上、逃げたところで、お前の運命は決まっている」
     警告混じりに呟きながら、ハイプがエアライドを使って、霊犬と共に都市伝説の後を追う。
     だが、都市伝説はその言葉を聞いて鼻で笑い、まるでウサギのように飛び跳ねた。
    「ネズミ小僧、今日この場でお縄につけ」
     都市伝説の逃げ道を塞ぐようにして飛び出し、ジャックが近距離からレーヴァテインを放つ。
     その一撃を食らって都市伝説の体が炎に包まれ、悲鳴を上げて屋根から転がり落ちた。
     それでも、すぐに立ち上がり、フラつきつつも、再び屋根に上っていく。
    「……今ならボクでも当たるはず」
     都市伝説の背中めがけて、るりかがホーミングバレットを撃ち込んだ。
     次の瞬間、都市伝説が『うっ……!』と呻き声をあげ、屋根の上からズリ落ちた。
    「合わせてかかるぞ、良いな!」
     反対側にいたハイプに合図を送り、ジャックが都市伝説に攻撃を仕掛けていく。
     それに合わせて霊犬と共に攻撃を仕掛け、都市伝説が反撃をする機会を完全に奪う。
    「この状況では、さすがに逃げる事もできませんね」
     都市伝説を射程内に捉え、薫が封縛糸を発動させる。
     その途端、都市伝説の動きが封じられ、焦りの色が見え隠れし始めた。
    「いっけぇ、俺の拳っ!」
     一気に間合いを詰めながら、トウマが都市伝説めがけて抗雷撃を叩き込む。
     それと同時に都市伝説が顔面から地面に突っ込み、断末魔を響かせて跡形もなく消滅した。
    「お仕置き終了です」
     都市伝説が完全に消滅した事を確認し、薫が眠たげに片目を擦る。
     野次馬達を引きつけていた仲間達も何とか撒く事に成功したらしく、薫達に気付いて元気よく手を振った。
    「それにしても、あの野次馬達……。盗んだ金を貰って喜ぶなんて、どうかしているぜ。あの様子じゃ、返すつもりもないようだし、なんだかな」
     複雑な気持ちになりながら、トウマが深い溜息をもらす。
     盗んだ金を返すかどうかは、彼らの気持ち次第。
     こればかりは彼らの心に残った善意を信じるしかないだろう。
    「ねずみ小僧とか義賊とかは、お話の中の浪漫だけで留まってるのが、一番夢が壊れなくていいよね。色々と空想を巡らすのが、きっと一番楽しいんから」
     そう言って、るりかが空を見上げて、空想を巡らせる。
     それを見た仲間達が納得した様子で、その場を後にするのであった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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