アッシュ・ランチャーの野望～颶風なる歩みを止めよ

■リプレイ

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　夜明け前。
　辺りはまだ暗いが、新聞配達、出勤前の運動、沖に出る人などが動く時間帯――この時、沖縄の地は危殆はらむものへと変貌しようとしていた。

　耳を劈く銃声。
　堤防を駆け、銃の射線に飛びこんだのはミカエラ・アプリコット（弾ける柘榴・d03125）と漣・静佳（黒水晶・d10904）だった。
　夫婦を庇い、そして倒れない灼滅者に次の銃弾が放たれる。
「直ぐに逃げて！」
　状況を把握していない夫婦の背を押したのち、静佳が二人の手を引いて駆け下りていく。
　瞬間、銃撃は掃射へと移行した。
「……っ」
　志賀野・友衛（大学生人狼・d03990）が咄嗟に一歩を踏み出す。
　ランニング中の、今まさに堤防を駆け上がろうとしていた一般人が音に驚き足を止める。
　ミカエラは向かい走りながら、大声で呼びかけた。
「沖縄県警です！　この近くでテロが計画されています！
　海の近くにいては危険なので、一刻も早くこの場を離れて下さい！」
　プラチナチケットを使い、私服警官を装い、周囲に向けて再度大声で叫ぶ。
　堤防に近く、瞬間的に無気力状態になったその人の手を引いて駐車場へ向かった。
　拡声器を手に呼びかける静佳は、避難状況を改めたのち、拡声器の自動音声をオンにした。
　この時、沖縄は攻撃を仕掛けられている。どこかで戦場を逃れた一兵と遭遇するかもしれない確率――それをゼロとするべく、静佳の拡声器は避難場所を指示し続けていた。

「情報で聞いてはいたけど……目の当たりにすると、凄いね」
　エアン・エルフォード（ウィンダミア・d14788）の声。
「敵はだいぶ性格が悪いようだなぁ……止めなければ」
　ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ（赤紅・d36355）が呟く。このままだと沖縄は壊滅状態となる――堤防を駆け上がった灼滅者たちの視界に入ったのは、揚陸艦の強いライトと蠢く兵士たちであった。
　地面に降り立ち、進む様がライトアップされている。
　人甲兵は一瞬で判った。三メートルはあるだろうか。新たに、一体が揚陸艦から降り立つ。
　向けられた銃撃が掃射に変化しようとも、灼滅者は倒れない。
　激しい雨のような音をたて、そして空気を摩擦する銃弾が、発火させたが如くに場の色を変えた。
　戦場。
「咲け、黒光司」
　遮蔽物のない海辺は広く、人の広がりを目にした古室・智以子（花笑う・d01029）は、スレイヤーカードの封印を解除しながら堤防を駆け、王者の風を展開した。
『逃げろ！』
　使う言葉は中国語。
『武器を捨てろ！』
　ロードゼンヘンドの割り込みヴォイスが騒がしい戦場を聞こえる範囲まで通っていく。
『海側へ後退しろ！』
「武器を捨て、波打ち際まで逃げろ！」
　ハイパーリンガルを使い、桜井・夕月（もふもふ信者の暴走黒獣・d13800）が大声で言う。
　目視での細かな確認は難しいが、空気が一変したことを感じる。威圧され、委縮した団体の空気。
　時を同じくして、エアンが逆方向へ駆けながら王者の風を吹かせ、兵士たちを威圧する。
『武器を捨て下がれ』
「ヒィッ……」
　英語と中国語を交互に届け、それを耳にした兵たちが恐る恐るといったように後退していく。
　鈍・脇差（ある雨の日の暗殺者・d17382）の施した殺界形成も作用していた。
（「自衛隊の次は中国軍か。戦争を起こせば死体も増えるしな。
　……全く、屍王らしい戦術じゃないか」）
　ならば、こちらは灼滅者が得意とする戦術で反攻だ。
　威圧した上で敵の戦意を砕き、後退を指示すれば、走り抜けて遠ざかろうとする兵士もいない。ただ、後ずさっていくのみだ。
　背後では避難誘導の声が聞こえてくる。
　そんな兵士たちのなかで、様子の変わらない者がいる――アンデッドだ。
『何ヲシテイル！　進メ！！』
　周囲の一般兵に向かい、威圧し、叫んでいる――そうか、と灼滅者は察する。アンデッドは指揮も担っているのだ。
　敵兵の後退の歩み。迷いもみれる鈍足を何とかしようとするアンデッドへ、灼滅者が接敵する。
　アンデッドへ到達する道、殺戮経路を瞬時に見出した智以子がジェット噴射で飛びこみ、ルピナスの刻印が入った杭を打ちこんだ。
　それを見た一般兵が騒然とする。
『撤退しろ！』
　パニックテレパスを使い、友衛が中国語で敵に伝えれば、
『お、俺は逃げるぞ！』
　とっくに戦意を失った兵が武器を捨て、揚陸艦へ向かって頼りない足取りで駆けだした。

●
　アンデッドを見つけ次第、討ちにかかる灼滅者たち。
　撃破するとともに戦線は前へと進む。
　向こうでは散開しつつ逃げていた一般兵が、右翼側から移動を始めている。
　その前には取り残された形のアンデッド。
　そこへ灼滅者の薙ぎ払う攻撃が放たれる。
『放棄スルトハ、腰抜ケドモメ……！』
　アンデッドが呟いた。
　友衛の、慣れない言語を聞いた狼の耳が、ぴくりと動く。
　白炎灯籠から炎花を飛ばしてアンデッドの屍肉を灼いた。
「邪魔ヲスルナ！！」
「そういうわけにはいかないの」
　友衛の炎花を追うように駆ける智以子。贅沢な黒で大気中のエナジーを駆動力に変え、炎纏う蹴りを放つ。
　続き、敵の真後ろを氷るような妖気を放つ二又の槍が横薙いだ。屍肉の付着した槍を払うと同時にアンデッドが砂地に沈む。
「次の標的は……いた」
　ロードゼンヘンドが呟き、駆けた。戦場のなか、ロードゼンヘンドの表情は喜々としている。
　そのなかで、一般兵数人を煽り進む人甲兵がいる。他よりも先行してくるそれを抑えにかかるのは静佳だ。
　振りおろされた巨体の腕を避ければ、地が穿たれ、砂が弾けた。
　再びパニックに陥り、喚く一般兵に静佳が言う。
「死んだら、最後。……ここで引きなさい」
　逃げる一般兵と入れ替わるように友衛が駆けつけ、ともに人甲兵を引きつけるのだった。

　避難誘導をしていた静佳とミカエラが戦闘に加わった後、夕月とエアンが後退する一般兵に向かっていた。
　やや右翼方向から、目立つ人甲兵や孤立したアンデッドを避け、一般兵を集めていく。
　しかし、
『恐レルナ！！』
　後方にいたアンデッドの一喝に、正気に返る一般兵もいた。
『うッ……うわあァァァ！！！』
「！！」
　叫び、突撃してくる兵の銃剣を避け様に夕月が掴んだ。ぐ、と力をこめ、動きを止めたところで、エアンの王者の風が吹く。
　夕月は目前の人間の目を見た。
　そう、人間の目だった。
　それは、相手も分かっただろう。怯んだのが、銃剣越しに伝わってくる。
「逃げてくれ、頼む」
『……ッ、……！！』
　武器から手を離して踵を返す兵士――手に残った武器を捨て、夕月もまたその方向へ。霊犬のティンは止まり、アンデッドの方を見た。
『オノレ、コトゴトク、邪魔ヲスルカ』
　方向転換したアンデッドが追おうとした時、死角からの斬撃。
　疾風の如く、アンデッドの背後から前へと追い抜くエアン。アンデッドの凝固した血が、砂地に落ち沈む。
「行かせはしないよ」
　脚を断ち、アンデッドの動きを止めたエアンが立ち塞がった。
　ティンとともに一般兵を眠らせる爽やかな風をその背に感じながら、対峙する。

　アンデッドは固まって行動していない――数十人の一般兵を数班、指揮していたかのような配置――灼滅者の動線は大きくなるが、アンデッド一体に対し二人または三人で戦えば灼滅も容易い。直ぐに次のアンデッドへと向かうことで着々と数を減らしていった。
「魂鎮め班、おかえりっ」
　大勢の一般兵を眠らせ、アンデッドを倒しながら戻ってきたエアンと夕月にミカエラは声をかけた。
「これからが本番、かな」
　頷き応じるエアン。間合いを確認するように接敵していく。
　一般兵は眠りに落ちた大勢の他、倒されるアンデッドを見てパニックになり思わず座り込んだ兵士もいれば、敗走する兵士もいる――が先に受けた王者の風の効果故か、遠方に逃れる前に膝を折る。どこか、途方に暮れたように。
「首魁倒したら、きっと普通の人に戻れるよね。できるだけ、守ってみせる！」
　好んで戦いに身を投じた者ばかりではないだろう。アンデッドと戦いながら、ミカエラが言った。
　脇差が頷く。
「虐殺なんてさせやしない」
　黙する刀を横薙げば、刀を構成する影が放たれ、アンデッドたちを攻撃していく。
「俺達の領域で好き勝手やられて堪るかよ。俺達灼滅者は人間だからな。傲慢で欲張りで諦めが悪いんだ」

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　人甲兵の中にはアンデッド。
　パワードスーツのようなものを纏い超強化されたアンデッドと戦う灼滅者たち。
　巨体を翻弄するように、駆ける友衛が己が銀爪を繰り出す。
　装甲を貫くが如くに爪を立て、力任せに腕を振り下ろせば、深く激しい爪痕が残った。
「この人甲兵、四人で戦って互角……といったところか」
　脇差の言葉を聞きながら、己にカミの力を降ろし、風を鋭利なものへと勢いづかせる夕月。
　四人で互角程度、八人ならば。
「それなら、さくっと倒すまで！」
　夕月が言う。
　戦線に復帰する際、立ち位置を変え精度の増した風刃の塊をぶつけたその時、
「後方から、もう一体くる、わ」
　静佳が知らせると同時に、光を屈折しプリズムのような材質を思わせる十字架を降臨させた。
　無数の光線が放たれ、人甲兵二体を貫く。
「これで終わりにしよう」
　笑みを浮かべたロードゼンヘンドが、鬼腕のような黒き縛霊手で人甲兵を殴りつける。
　同時に網状の霊力が放射され縛り上げるとともに特殊武装が破壊されていくなか、後方の人甲兵の死角に入ったエアンが手にした十字架を構えた。
　開かれた全砲門。銃砲から放たれる光が敵二体――否、更に迫る新たな――人甲兵らを薙ぎ払い、罪を灼く攻撃。
　ロードゼンヘンドに捕縛されていた人甲兵は爆散し、中のアンデッドも灼滅された。
「まずは一体だ」
「がんばってこ～！　ほら、こっちだよっ」
　ミカエラの妄葬鋏が敵装甲を傷つけ、狂気をもたらす鉄の錆が人甲兵を侵食していく。
　人甲兵へと、連携し攻撃を重ねていく灼滅者たち。
　連戦し続ける体は灼滅者の疲労もまた重なっていくが、足並み揃えた戦闘が濃密な一戦一戦を生み出している。
『『……死！』』
　ガシャッと弾倉が動く音が双方から聞こえたか否かの瞬間――ガガガガガガガッ！！　前衛を銃撃が襲った。灼滅者を貫き、砂地を穿ち飛ばす。
　脇差を庇い、弾の大きさ故に弾かれたティンがバウンドしたのちに着地し、智以子を押した友衛が二歩三歩と後退するも踏ん張った。バランスを取ったのか、尻尾が一度強く振られる。
　銃撃のため大きく上がった敵の腕、友衛に背を押された智以子がそのまま駆けた。
「懐が、がらあきなの」
　三メートル巨体へと己の拳を放つ智以子。敵は大きく、智以子もまた大きく振り被って遠心力をきかせた連打を撃つ。
『オノ、レ。灼滅者ゴトキ、ニ……！』
　灼滅者ごとき――昔の「灼滅者」を知るダークネスがよく放つ言葉――。
　砂が爆ぜた。高速の動きで敵の死角をとった脇差が、装甲の隙間を狙い、一刀を放つ。
「古臭い人類管理者とやらに時代の変化を見せつけてやるさ」
　呟き、一足一刀の間合いから飛び退けば、人甲兵は爆散した。

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　人甲兵とアンデッドが全て撃破され、意識があってかつ正気に戻った兵が逃げて行こうとするのを再び無力化させていく灼滅者たち。
「これは片付けさせてもらうよ」
　エアンが兵から武器を取り上げた。
　間を与えることなく、脇差が兵を後ろ手に捕縛した。
「大変そうだけど、頑張るの」
　辺りを見渡した智以子が言った。終わりが見えない。
　無気力状態の兵士を個々に、またはまとめて捕縛するのも、一苦労だ。
　歩き回る最中、もう動かぬアンデッドを見つけた夕月が分け隔てなく、清廉な風を送る。弔いの風だ。
「いまのところ、被害者は見つかっていないよ」
　ロードゼンヘンドの言葉に安堵する灼滅者たち。
　視認の限りだが、戦闘中、アンデッドによる兵への虐殺も起こっていない。
　途中、静佳とミカエラは、避難誘導で逃がした民間人の一時的な避難所へと様子を見に行った。
「他の場所も、無事だと、良いのだけれど……」
「海側が一番危ないからね、近づかないように逃げてねって言ったんだ」
　静佳とミカエラの報告。海上は今、アッシュ・ランチャーとアンデッドたちがいる。
「揚陸艦や洋上の様子も確認して、次の動きに備えたいところだな」
　友衛の言葉にロードゼンヘンドが頷いた。
　海へと目を向ければ、今だ仄かに暗い海原が見える。
　潮の香りに混ざるのは、色濃く残る戦いの匂い――それはアッシュ・ランチャーの野望の残滓ともいえた。

作者：ねこあじ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年5月2日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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