アッシュ・ランチャーの野望～早朝の激戦

■リプレイ

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　空はまだ闇の色。
　海沿いの道に、軍服の男たちが集っている。手には銃。制服の肩の部分に中国の国旗。彼らに混じって、3メートルの体躯を誇る金属の異形、人甲兵の姿。
　これらはアッシュ・ランチャーの軍勢だ。
　軍勢に、白い車が無防備に近づく。兵士たちが、銃口を車へ向けた。
　道の脇から黒髪の女が現れ、車と兵士の間に身を躍らせる。
　現場に駆け付けた灼滅者の一人、咬山・千尋（夜を征く者・d07814）だ。
　千尋はプラチナチケットを発動させ、誘導棒を振る。
「実はこの先でトレーラーが横転してまして」
　と運転手にUターンを指示。千尋に従い来た道を引き返す車。
　一方。兵士らは今にも銃を撃たんと引き金に指をかけていた。
　長門・睦月（正義執行者・d03928）が、ダンッ、アスファルトを蹴る。仲間と共に兵士らへ接近。
「危ないなぁ。女性は大切に扱うモノだろ？」
　兵士たちが引き金を動かすより早く、王者の風で威圧。
　だが、風の影響範囲よりも離れた位置にいる兵士らは何事かを言い合い、火器を構えだす。
「葵璃さん、テルメッツさん、わたしたちも行きましょう！　スタートだよ」
　武野・織姫（桃色織女星・d02912）がすかさず、葵璃・夢乃（黒の女王・d06943）とエリノア・テルメッツ（串刺し嬢・d26318）へ声をかける。
　夢乃は織姫に頷き、前進。靡く黒髪。兵士らが叫び、銃口を向けて来るが、夢乃は動じない。距離を詰め、一喝。
「別動！　請在那个場合跪下」
　中国語で『動くな！　その場で跪け』と命令。
　織姫、睦月、エリノアも前もって調べた中国語で、指示を出す。『伏せろ』『跪け』と。
　声が響き、兵士たちは次々膝をつく。無力化した数は合計で、おそらく50以上。
　が、効果範囲にいながら膝をついてない者にエリノアは気づく。
「アンデッドよ、気を付けて」

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　兵士の姿をしたアンデッドは、倒れた兵士たちを見下ろし、喚く。兵士に何かするつもりか。
　巳葦・智寛（蒼の射手・d20556）と午傍・猛（黄の闘士・d25499）は視線を交わしあった。
「行くぞ！　打ち合わせどうり、お前は防御に回れ。何がなんでも耐えろ！」
「へっ、容赦ねぇ注文を付けやがる。だが、言われるまでもねぇ。きっちり盾んなってやるから、そっちこそしくじるんじゃねえぞ！」
　智寛と猛は声を合わせ、
『着装！』
　強化装甲服の戦士の姿へ。
　猛はアンデッドへ疾走。アンデッドは軍刀を振りまわしてきた。飛び散る火花。猛に軍刀が命中した。
　が、猛は身じろぎせず、ブラックフォームで己を治療。不意に、猛はしゃがむ。
　しゃがんだ猛の肩越しに一本の矢が飛ぶ。智寛のマジックミサイルだ。
　智寛の矢は、アンデッドの眉間を撃ち抜いた。飛び散る体液。
　アンデッドは後方に跳びのく。いったん距離をとり態勢を整えようとしている。
　日下部・優奈（フロストレヴェナント・d36320）は敵を追うべく、己も跳躍。
　水晶の骨が突き出た優奈の躰が、宙で動く。優奈の足が敵の首を、蹴り抜く。アンデッドを吹き飛ばす。
　着地する優奈。首を左右にめぐらし、戦場を観察。ESPの範囲より遠くの兵士は未だ健在。彼らの奥には、金属の巨人めいた人甲兵。
「無力化されていない兵士も多い。王者の風を使えるものは、無力化を頼む。人甲兵へ急ごう」
　優奈に頷く仲間たち。

　一般兵たちは4、50人単位でそれぞれ固まっていた。織姫、睦月、夢乃、エリノアは分担しつつ一般人兵士を威圧、人甲兵への道を開けていく。
　が、灼滅者の前に、軍刀を持ったアンデッドが立ちはだかる。その目が爛々と光っていた。
　エリノアと織姫はアンデッドに対峙する。
「好きにさせないとでもいいたそうね？　それは私たちのセリフ。そっちの好きにさせたら、今以上にシャレにならないもの……全力でやるしかないわね」
　エリノアは白の和ドレスの裾を翻し、蹴りで敵の軍刀を弾く。脚を地面につけると拳の連打を放つ。腹を抉るように打ち、顔面にストレートの一撃。
　反撃せんとアンデッドは刀を構えなおすが、
「ゴールまでまだまだ！　わたしたちの妨害はさせないよっ」
　織姫がアンデッドを指さした。宙に浮かべた『Tachyon † ring』を射出。織姫の狙いは正確。『Tachyon † ring』がアンデッドの首を裂く。どた。仰向けに倒れるアンデッド。
　一方。
　少し離れた場所で、中国語の甲高い声。
　ロケットランチャーを担いだアンデッド兵が、膝をついた兵を叱咤していた。
「その口を閉じてもらおう」
　凛々しさと敵意の籠る、優奈の声。
　敵がこちらを見ると同時、優奈は剣を振る。光を放つ。
　次の瞬間には、アンデッドの軍服と皮膚に大きな裂けめができていた。
　アンデッドは優奈が与えた痛みに怒号をあげ、ランチャーを灼滅者へ向けた。
　砲弾が灼滅者の足元で炸裂。爆風が灼滅者を巻き込む。
　爆煙ただようなか、千尋が走る。真紅の龍砕斧『バルトライザー』の柄を両手で握り、振りかぶる。
「口を閉じないなら、閉じさせる――竜の骨を断つ一撃、喰らいやがれ！」
　斬！　防御の弱った敵を、縦に両断！

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　灼滅者は進み続けた。多くの兵士を無力化し、妨害や一般兵の指揮を行うアンデッドを蹴散らし、敵群の奥へ。
　作戦開始から少しの時間が経過し。灼滅者は人甲兵の元へ辿り着いていた。
　人甲兵は銃弾を連射する。雨のように、否、滝のように降り注ぐ弾丸。さらに人甲兵はダブルの動きで跳びあがった。着地と同時、衝撃波が発生、灼滅者を襲う。
　高い威力を持つ二発の攻撃。が、
　睦月が、猛が、己の身体で敵の連撃を受け止めていた。
　睦月はふらつきつつも、不敵に笑う。
「近くで見ても攻撃を受けても、やっぱり低予算ですって感じだな。今度はこっちの番だ！」
　睦月は敵の巨体へ距離を詰める。正拳突き！　金属の肌に超硬度の拳をめり込ませる。
　猛も雄叫び、突進。敵の懐に潜り込み、跳躍。抗雷撃で敵の顎をかちあげる！
「どうした、さっきのでへばりやがったか？！　どっからでもかかってきやがれってんだ！」
　吠える猛。人甲兵は苛立ったように呻き、猛に銃口を向ける。
　夢乃は猛に札を投げつける。
「今回は回復援護要員。役割はきっちりこなして見せるわ」
　夢乃の札が猛を強化。数十秒後には弾丸が飛んでくるが、札の力が猛を守る。
　夢乃はその後も戦線を支え続ける。そして3分後、仲間の攻撃に敵が弱ったのを察知すると、
「今よ！」
　鋭く叫んだ。
「了解だ。殲滅を実行する」
　智寛は『MGR-09 九式多目的機関銃』の銃口を動かす。
　仲間が今までつけた傷へ、銃弾を放つ。2発3発4発……！　容赦のない智寛の連射は、敵が完全停止するまで続いた。
　遠くにいた一般兵らから悲鳴。ある者は真っ青になり、ある者は尻もちをつく。灼滅者が人甲兵を打ち破ったことに動揺している。

　敵の人甲兵を倒した一行。が、休む暇はない。一行は最低限の回復をし、別の人甲兵へ突き進む。
　そして今、猛は、二体目に接敵した人甲兵の電撃を受けていた。
　全身に痺れ、痛み。それでも猛は、
「効かねえなあ。この程度しかできねえのか！？」
　挑発しながら、ハンマーをフルスイング。影の力を宿した一撃で、敵を震わせトラウマに襲わせる。
　さらに一分後には敵の銃弾が猛を射抜くが、猛はなお笑ってみせる。己を自力で癒し、掌を上に向け挑発するように手招き。
　猛が必死に耐え仲間を守る傍ら、智寛は、
「午傍、あと一分耐えろ」
　声をかけつつ、敵に対峙。はたして、敵が攻撃のために手を持ち上げた。そのわずかな隙を突き、智寛は射撃。弾丸が敵顔面にいくつもの穴をあける。
　織姫と優奈は、
「日下部さん、準備はいいですか？　仕掛けますよ！」
「わかった。――行くぞ、人甲兵。半世紀以上も前の土偶が、灼滅者に勝てると思っていたのか！」
　タイミングを合わせ前進。
　敵は、とっさに自分をかばおうと腕を前に出した。
　織姫は鮮やかな紅の手綱型ベルト『Scarlet†Ribbon』でその腕を払い、魔法の矢を射出。
　魔法の矢の勢いに尻もちをつく人甲兵。
　優奈は敵の正面に立つと、体を横に回転させる。
　手にした断罪輪に遠心力をのせ、鋭い斬撃！
　人甲兵は大きく損傷し、爆発。中にいたアンデッドごと消滅した。

　さらに時間が経過。灼滅者はその後二体の人甲兵を撃破。今は残る一体と交戦中。
　人甲兵は今、拳を振り上げていた。必殺の一撃を叩き込まんとしている。
　拳が振り下ろされるより早く千尋が敵の背後に回り込む。
　千尋は八二式殲術サーベルを握りしめた。一呼吸すると刃を非物質化させる。
　千尋は一気に踏み込んだ。
「どんなに分厚い装甲でも、これなら！」
　放つ一閃。敵の霊体を切る！
　エリノアは青の瞳で敵を見続け、機をうかがっていた。
　敵が千尋の攻撃でバランスを崩した、その隙を逃さず、エリノアは『Blaue Blitz』を天へ向けた。水晶の刀身から氷柱が発生。
「凍り付きなさい！」
　エリノアは氷柱を飛ばす。人甲兵の頭部に氷柱を刺し、上半身を氷で覆いつくす。
　千尋とエリノアが与えたダメージは甚大。人甲兵の装甲は傷だらけ。だが、かろうじてだがまだ動く。灼滅者へ攻撃を放とうとしている。
　夢乃は睦月に目を止める。
　灼滅者のうちで、もっとも深手を負っているのが睦月だ。防御の要の一人として皆を懸命にかばってきた故の傷。
　夢乃は息を大きく吸い込み、息を止める。
　そして夢乃の唇から紡がれるのは、天使を思わせる歌声。睦月の傷を治りきるだけ治す。
「次の一撃……耐えれる？」
　夢乃の視線と問いに、睦月が頷く。
　睦月は皆を守るように再度、敵の前に。そして振り落とされる拳を体で受け止めた。
　膝を震わせながらも睦月は拳に耐え抜いた。
　拳を腕で払いのけ、睦月は跳んだ。3メートルを超える敵の身体よりもはるか高く。そして落下と同時に、敵の頭めがけて足を突き出す。
「これで『さよなら』だ！」
　睦月の渾身の蹴り。激しい音を戦場に響かせ、人甲兵を終わらせた。

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　人甲兵は全体、行動を停止していた。一般兵たちはESPと人甲兵が失われたショックで全員、動かずにいる。アンデッドが数体残っていたが、灼滅者らは手分けしてアンデッドの数を減らしていった。
　そして。夢乃はアンデッドの一体へ、
「動かないでよね……照準合わせるの、難しいんだから！」
『ＳＳＷ－１１Ｂ “スイフト”』からのホーミングバレット。アンデッドの胸に穴が開き、一瞬遅れアンデッドがうつ伏せに倒れる。
　優奈は周囲の状況を見て回っていたが、夢乃に近づき声をかける。
「アンデッドはそれで終わりのようだ。一般兵も無力化できているし、新しいアンデッドが生まれる様子もない。この場での戦闘は終りみたいだな」
　千尋が持ち物の中から、ロープや結束バンドを取り出し皆に配る。
「じゃあ、一般人兵士を縛っていこうか」
「はい、どんどん拘束していきましょう」
　受け取り、こくこく頷く織姫。
　エリノアもロープを受け取り兵士を捕縛し、
「それにしても、中国軍を使ってくるなんて、頭が痛いわ……」
　こめかみに手をやり、息を吐く。
　灼滅者は分担しつつ捕縛作業をこなしていった。
　作業が終わったところで、智寛と猛は空を見上げる。空は徐々に白みだしていた。
「できれば、揚陸艦に乗り込んで調査したかったが」
「残念だが、その時間はねえみてえだな」
　智寛はため息をつき、猛が肩をすくめた。
　睦月は海を目にやる。この海に今回の元凶アッシュ・ランチャーがいるのだ。
「次は本命、か。首を洗って待っていて貰いたいところだな」
　睦月の言葉に頷く仲間たち。アッシュ・ランチャーとの決戦の時が、近づきつつあった。

作者：雪神あゆた	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年5月2日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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