●5月1日深夜、東シナ海海上
水平線を埋め尽くさんがごとき艦船の群れ。軍事に詳しい者ならば、その姿形から正体は窺えよう。
中国人民解放軍。
しかし、その暴力が主と頂くは、13億の人民ならず。
かつてサイキックアブソーバーの稼動と共に姿を隠した、ただ一人の真の支配者、『アッシュ・ランチャー』その人なり。
彼は、ノーライフキングの首魁『統合元老院クリスタル・ミラビリス』の元老として、世界のミリタリーバランスを調整し人類を支配せねばならぬ。そして今……彼が操るべき極東地域に、彼に従わぬ脅威が存在する。
「これまでの情報から、灼滅者達が人間社会に大きく依存しているのは間違いない。であるならば、その人間社会を制圧する事こそが、灼滅者への最大の攻撃となる」
威厳をもって語る元老の視界に、奇妙な人型兵器らがかしずいていた。元老はそれらの兵器に向けて、厳かに作戦の開始を告げる。
「『人甲兵』部隊出撃せよ。まずは、沖縄本島を橋頭堡として、日本本土の制圧に向かうのだ。
統合元老院クリスタル・ミラビリスが再び地球を管理下に置き支配する、正常な世界を取り戻す為に!」
●5月2日未明、沖縄本島某所
この時、もしも窓の外を見る者があれば気づいただろう。
密かに入江深くに侵入を果たした、幾隻もの揚陸艇と武装漁船。続々と現れた兵士たちにより、入江奥に佇む集落の人口は、一時的に数倍にも膨れ上がった。
直後、鳴り響く自動小銃の音。家屋の扉に重い何かが振り下ろされて、なだれ込んだ者たちが家電や金品に加え、住民の命までをも奪ってゆく。
これは、国際法違反たりえない。何故なら統合元老院こそが、真の国際法たるからだ。
これは、無益な虐殺たりえない。何故なら命奪われし者たちは、不死の兵士となり聖戦に加わるからだ。
ゆえに、彼らは決して止まらない……日本の全てを呑み込んで、灼滅者たちをその生活基盤ごと砕くまで。
●4月17日、武蔵坂学園教室
「自衛隊内に入り込んでいたアンデッドの灼滅は、皆さんのお蔭で無事に成功できました」
五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)は一度ほっとした表情を見せて……それからすぐに険しい表情を浮かべた。
「けれど、彼らの目的を調査していた方々により、事態は自衛隊だけに限らない事が判明してしまいました」
現在、東シナ海に100万人規模の艦隊が現れ、沖縄、ひいては日本を狙って終結している。この大軍を操るノーライフキング『アッシュ・ランチャー』の目的は……日本を侵略し支配下に置き、灼滅者組織の活動を阻害する事であろう。
「恐らく5月2日の未明、彼らは沖縄本島に進攻します。その際に殺害された人々は……アンデッド兵として彼らの軍勢に加わらせられるに違いありません。皆さん、どうか彼らを食い止めてもらえませんか?」
敵軍は1部隊が約3000人。それを灼滅者たちは上陸地点で迎撃する必要がある……何故ならその前に攻撃したならば、彼らの作戦が変化して、防衛が困難になってしまうかもしれないからだ。
「とはいえ……幸いにも彼らの大半は一般人。まずは彼らを、ESPや範囲攻撃で対処してもらう事になるかと思います」
彼らを殺してしまうとアンデッド兵として復活してしまうかもしれないから注意だが、それさえ除けば敵は20~30体。ただし……そのうち2割程度が、『人甲兵』と呼ばれる特殊武装を装備している。これは第二次世界大戦時に開発された超武装で、アンデッドに凡庸なダークネスくらいなら上回る戦闘力を与えるものであるようだ。
「そして、人甲兵とアンデッド兵を灼滅して、一般兵を拘束したら、洋上にいるアッシュ・ランチャーへの攻撃もできるようになるかもしれません。悲劇を防いで、元老を倒し、そこから統合元老院の元へと辿り着くために、この一戦、必ず成功させてくださいね」
参加者 | |
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レニー・アステリオス(星の珀翼・d01856) |
藤谷・徹也(大学生殺人機械・d01892) |
空井・玉(リンクス・d03686) |
赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118) |
蒼珈・瑠璃(光と闇のカウンセラー・d28631) |
三和・透歌(自己世界・d30585) |
クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295) |
シャオ・フィルナート(猫系おとこのこ・d36107) |
●夜闇の強襲者
それは、さながら津波のごとく。
続々と現れる艦船の群れは、人知れずその姿を現してゆく……ダークネスによる支配体制を脅かす灼滅者どもを、このちっぽけな弧状列島ごと喰らい尽くすため。
けれど、それが何だ。
(「まったく、いい作戦だ」)
海に向かって駆けてゆくレニー・アステリオス(星の珀翼・d01856)の口元に、微かなある種の微笑みが浮かぶ。
なるほど、この暴挙は見過ごせない。ゆえに、100万の大軍も無意味だと思わせねばならぬ……そして、彼らは今からその偉業を成し遂げるのだ。
直後、小刻みな銃声が響いた後に……海岸は、波打つようにそこだけ鎮まり返る。
とはいえ、全体を見れば銃声は止まらなかった。その鳴り止まぬ暴力の音色こそが、そこに灼滅者の姿ある事をこの上なく語る。
常人であれば幾度殺したであろう銃弾の嵐を放ち、しかし襲撃者らに浮かぶのは怯え。そして恐怖。
おお、軍人にあるまじき狼狽と罵るなかれ。何故なら『月代』に背を預けた赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)の左眼は紅く燃え、押し寄せる音速の弾丸をことごとく、漆黒の妖刀にて叩き落とすのだ!
武器を捨てよ!
速やかに脇に退け!
短き、稚拙な定型の中国語さえ、彼らには悪魔の命令だった。実際、無数の弾を全身に浴び、なおも悠然と敵軍の間を歩む藤谷・徹也(大学生殺人機械・d01892)の姿は……悪魔でもロボットでもなければ何だと言うのだ?
次なる軍勢が上陸を試みる。威圧され銃を手放した友軍を、左右に迂回するように。
さしもの人間殺人機械、徹也にも、その双方に向かえなどはしなかった。左の方角は一度だけ見遣るのみとして、迷わず右方へと駆け出してゆく。
では……左は?
それが女であろうとも、立ちはだかる者あらば排除せよと彼らは命じられている。だから蒼珈・瑠璃(光と闇のカウンセラー・d28631)の姿を見た時も、彼らは当然のように銃口を向けた。
が……彼らは、そのまま何をすべきかを忘れてしまったように立ちつくしてしまった。瑠璃の名前と同じ色の瞳は、まるで夜の深い海のように、彼らを丸ごと呑みこんでしまいそうで……。
理由なき恐怖に陥った彼らにとって、空から聞こえる三和・透歌(自己世界・d30585)の呼びかけだけが、生き残るための道だった。上海語、広東語、福建語……必ずしも慣れているとは限らぬ普通話ではなく、生まれた時から慣れ親しんだ方言による武装解除命令が、何よりも彼らを駆り立てる。
けれど……瓦解していた戦線の一角が再び気勢を取り戻した事を、クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)の目は見逃さなかった。
(「俺の『バベルの鎖』が囁いている……。あの集団の指揮官こそ軍を煽動するアンデッド兵の1体!」)
中心に立つのは胸に勲章をつけた男。彼は何事かを指示して周囲を統率し、集団を軍団へと再構築する。
が、この先にいる人々も、命令には従わざるを得ない兵士らも、誰一人として死なせてなるものか。雄叫びを上げ、目印用のペイント弾を放った彼を止めんと指揮官が命じるが……その命令の標的の男を、サイキックの闇を見通せぬ一般兵は気づき得ぬ!
空井・玉(リンクス・d03686)を乗せたライドキャリバーが、水飛沫を上げて波打ち際を駆けた。右往左往していた一般兵たちは、慌てて現れた敵を迎え撃たんとするものの、すぐに彼女の掲げる碑の朱き荊に怯え、再び散り散りに逃げ惑う。
改めて彼らに命じ直している猶予など、アンデッド兵には残っていなかった。高い知能こそ有すれど、所詮はダークネスに作られた紛い物。灼滅者2人を同時に凌ぐなどできようはずもなく。
沈み際、彼は一度だけ集落の方を見た。その手前では、別のアンデッド兵に率いられた別の集団が向かってゆこうとし……シャオ・フィルナート(猫系おとこのこ・d36107)の直前で、急に目標を見失い始めた。
●血なき戦場
「これ以上……犠牲を増やすわけには、いかないの……」
軍勢の前に立ちはだかるシャオは、無垢な少女のようにも見えた。後ろに広がる集落を、悪意の軍勢から隔てるように。
だが、願わくば彼が守るのは、その軍勢自身でもありたかった。何故なら彼らのほとんどは、ただ死者どもに命じられ、偽りの任務を果たさんとしているだけなのだから。
ならば、方法はただ一つ。一般兵たちがシャオの灼滅の意志に当てられて遠ざからんとした事で露出した、彼らの指揮官を討ち果たすのみ!
その時、上空から一筋の帯が舞い降りて、シャオを助けるように敵の肩を貫いた。見上げれば、箒から降りる手間も億劫とばかりに、上空から戦況を見物する透歌。
混乱する兵士らの母語当てゲームももう飽きた。逃げ惑う兵士らを狩ってみるのも面白い新ゲームになるかもしれないが、強めの敵に増殖されるのも面倒だから、まずは死者どもから潰してゆこう。
愛機『ウェッジ』を良きに計らわせつつの、そんな気まぐれな援軍は、けれども散開を強いらたままの灼滅者たちに、期せずして一時的な数の利として働いていた。ならば……利用して、少しでも早くこの戦いを終える事が、人々にも、兵士らにも、そして瑠璃と愛猫『アオ』にも良い事になる。
「アオ、援護をお願いしますね。このアンデッド兵を倒した後は、次の一団が来るまで……いえ、最後まで持ち堪えましょう」
アオは、小さく鳴いてリングを光らせた。その間、瑠璃自身は再び周囲の兵士に、混乱と敗走をもたらしてゆく。
「死よ、土に還れ」
レニーの爪先が踊るように円弧を描いて、生ける死者の首を燃え上がらせたまま美ら海の波紋と変えた。
「珊瑚礁に沈め……」
自らの右腕を黒百合で刺し貫いた碧を見て、アンデッド兵は気でも狂ったかと嗤い……直後、彼の中のデモノイド寄生体と反応し、本来の刀身よりも遥かに伸びた刃に穿たれて、初めて死んだ時の姿に戻る。
灼滅者たちの、無力化した兵士を脇に移動させる方策が功を奏して、軍勢はまるで濁り水を濾すように、押し寄せる度に一般兵と死体に分かれていった。
だとしても、これが厄介な仕事である事には変わりあるまい。
(「敵は多く、状況は困難で、しかし敗北は許されない」)
一度、前髪のあたりを弄ろうとして途中で止めた後、玉はクオリアのボディを優しく撫でてやると、彼女を突撃銃を連射する新たなアンデッド兵へとけしかけた。それから自身も碑を構え……狙い済ました一撃のために珊瑚の上を跳ぶ!
「要するに、いつも通りだって事だ。行くよクオリア。為すべき事を為す」
そんな玉を少しばかり援護してから、クレンドはビハインドの『プリューヌ』とともに、瑠璃の元へと足を向けた。ああ、確かにひどい戦況だ。だとしても絆で結ばれた相手を守りにゆけぬほど、灼滅者たちは追い詰められちゃない。
……そのはずなのに。
徹也の擁する殺人コンピューターの頭脳の奥で、何かの恐ろしい解が鎌首をもたげ始めていた。
(「この情報は……解析不能。もしや、指揮官だけでなく一般兵の中にもアンデッド兵がいたのか?」)
否。少なくとも視認可能な範囲において、徹也はそのような敵は確認していなかった。我が身を幾つもの銃創が貫く中で、彼は何よりもそれを証明してきたはずだ。ならば……。
ぎろり、と徹也は水平線に目を遣った。
そこには、夜闇に浮かぶ船舶のひとつ。その上で、3mはあろうかという金属塊が、ぎこちなくその無骨な腕を持ち上げる。
そして……それらは、ゆっくりと灼滅者たちへと歩み始めたのだった。
●人甲兵
刹那、戦場の空気が一変する。
足元の珊瑚を踏みしだき、一歩、一歩、着実に陸地へと近づいてくる者たち。現代的なスマートさとは無縁なセミの幼虫かカニのようなフォルムは、けれど前線の混乱と悲鳴に怯える未上陸の兵士らにとっては心強い味方。
彼らの士気が上がってゆくのが、遠目からでも瞭然となる。無論、それには既に半減はしたであろうアンデッド兵たちの鼓舞も奏功しているのかもしれないが……ここで押し負ければ、一度は無力化した兵らも敵に回す事になるのではないか? 一挙に流れを取り戻されるのではないか?
ぞくりとした汗が、レニーの背中を伝い落ちた。かける時間さえ気にしなければ単独でも戦えるアンデッド兵らとは一回り違い、アレは最低でも数人がかりの集中攻撃が必要だろうか?
「甲殻類みたい」
それでもそんな軽口を叩いてみたら、随分と緊張が解けてくる。そうだ、殻は硬くとも中身は柔らかい彼らと同じで、奴の中身は今までのアンデッド兵と変わらないはずなのだ。
目の前の、自身にとっては2人目となる死者の首を蹴り飛ばし、レニーは次の舞いの目標を人甲兵の1体と定めるのだった。既に徹也が、まずは周囲のアンデッド兵から排除せんと気砲を放っている場所の搭乗型兵器は……配下たる一般兵らに囲まれて、他の人甲兵との連携を取れていない!
次は人甲兵狩りを楽しむ時間と、透歌は上空から急に舞い降りた。あんな物騒で面倒そうな敵と格闘してもすぐに飽きると判っているので、彼女は徹也やレニーを苛む傷を、気まぐれな霊力の光にて祓うのが仕事だ。
そこへと駆けつけるシャオ。もう、集落の人々が戦場に迷い込む事はないし、兵士らだって真っ直ぐにそこまで向かえはしない。だから、その聖域を破る力を持った者のみを……ここで必ずや討ち果たさねば!
血の力が機械鎧の表面を掻いた。その傷は、今こそ分厚い鉄扉を半ばまで削っただけに過ぎぬが、じきに広がって異形の棺桶となるだろう。実際、クオリアの陰からは紅き碑の先端が覗く。身を隠しながら玉の放った光の筋は、真新しい傷をさらにこじ開けんと敵へと襲いかかる。
さらに、遅れて現れた碧と月代。その姿はいまだ遠かれど、碧の左眼の焔が燃え上がり、口元が不敵に吊り上がった途端、波間から伸び上がった影が人甲兵の脚へと喰らいつく!
盛大な水飛沫を上げながら、人甲兵は浅瀬に仰向けに倒れ込んだ。けれど、その機構と中のアンデッドがいまだ機能を失っていない事は、不意に突き出たクレーンのような腕と、握られたままの機関銃が物語る。
弾が、バラバラと音を立てて撒き散らされた。そのひとつひとつは弱かれど、それが積み重なれば――こちらへ向かっているらしい人甲兵が少なくとも3体は見えている中で――どうなるか、瑠璃は自らの脆さを知っている。
けれど同時、彼女は、自身がそうならない事も知っていた。
「そうでしょう、クレンドさん?」
答えは、広がる紅き盾により示される。銃弾のうちの幾つかを弾き、幾つかを我が身で受け止めたクレンドの瞳には……勝利を確信した輝きが満ち溢れている!
「何かがあろうと、失おうと、そう簡単に折れると思うなよ! 人類を……『俺たち』を舐めるなダークネス!」
その言葉を嘲笑せんとするかのように、別の人甲兵が1体、合流を果たした。加えて、配下のアンデッド兵も。それと、数十はいる一般兵。
だが、一斉に銃を構えた彼らに向けて、徹也は、まるで必ず当てろとでも言うように、親指で自らの心臓を指したのだった。
「俺は、任務を遂行するのみだ」
その任務とは、一切の犠牲を出さぬ事。ゆえに兵士らの流れ弾ひとつとて、この身から後ろの兵士らへとは逃すまい。どうせ、効くのはそのうちの2発だけなのだから。
ああ、そんな戦い方を選ぶ彼だから、透歌も彼が生き残る手助けをしてやりたくもなる。だってそうでしょう? 任務のためなら自らが朽ち果てる事など厭わない男を余すところなく回復し、その無機質な信念にノーを突きつけてやるなんて、なんて興味深い退屈しのぎなんでしょう……?
●5月2日、日の出前
5体目の、恐らく最後の人甲兵が戦列に合流した時は、灼滅者たちのうちの誰もが、激戦の傷跡を全身に残していた。
そして……辺りの光景も。
白い砂浜に半ば埋もれているのは、無数の銃器。元通りの死体に戻った幾体かのアンデッド。扉を穿たれ、斬られ、あるいは溶かされて、搭乗者ごと破壊されて打ち棄てられた人甲兵。
「超武装と言うだけあって、なかなか硬いね」
レニーの得意の回し蹴り。その軸足も大きくぶれるようになり、敵の弱点に当てるには心許なくなってきた。それでも彼のかかとは4体めの人甲兵の装甲をもぎ取って、玉の放った砲撃が、違う事なくアンデッドの脳天に突き刺さるのを助けている。
「次でラスト……かな」
傾いて倒れた4体めを足場とし、クオリアは暴れ回る5体めの人甲兵へと跳びかかった。彼女は振るった腕に弾かれて、堤防に衝突して黒い煙を上げるが、それも……困った事に、やはりいつも通りだ。
周囲を見る。
先ほどまであんなに押し寄せていた一般兵たちは、いつの間にか灼滅者たちが何もしなくとも怯えて遠巻きに見守っていた。恐らくは指揮官アンデッド兵を全て灼滅した頃からだったとは思うのだが……戦いに注力せねばならなかった、玉にも、シャオにも、具体的な瞬間は思い出せはしない。
彼らが逃げた先で略奪などを働かぬよう、シャオは悲しげな表情を作ってお願いしてみせた。
「……ふぁんしぁうーちー」
すると競うように武器を捨てる兵士たち。彼らはシャオたち灼滅者らを、どんな化け物と感じているのだろう?
もっとも、それも仕方のない事だろう。
自身より遥か巨大な戦闘機械を前にして、クレンドは逃げも隠れもせず盾となっている。常人なら体を半分も吹き飛ばされるだろう一撃を、何度も正面から受け止めながら。
そして、その盾が砕けていないから、瑠璃は人甲兵の装甲の隙間に、狙い済ました布帯を滑り込ませる事ができるのだ……そして、内側の機構を砕いて絡め取り。
もう少しでしょうか、と彼女はクレンドに問うた。いや、答えは不要。お互い、言葉を交わすまでもない。
がくん、と敵の右腕が停止した。そろそろ、機構にかなりのガタがきているのだろう。
それでも搭乗者の冷酷冷静な魔力頭脳は、迷わず左腕を振り上げた。しかし、それに遠心力を加えて邪魔者どもを叩き潰さんとした瞬間……!
「……させん」
蛍光緑の液体が、碧の向けた手のひらからほとばしった。すると大重量を持つ金属塊は、根元からもげるとマングローブ林の中へと飛んでゆく……。
液体――寄生体の生み出した酸に装甲と片腕を持ってゆかれた人甲兵は、傷跡から中に乗るアンデッド兵の姿を露出していた。全ての武装を失った彼には、最早、勢いづいた灼滅者たちを止める術はない。
かくして彼らの戦いは終わる……いや、これはひとつの始まりに過ぎぬのだ。
「さて、アッシュ・ランチャーにお返しをするとしようか」
この朝、レニーの負ったいかなる傷も、次なるより大きな戦いを前にして、彼を食い止めるには至らない。
作者:るう |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年5月2日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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