時は五月一日。
東シナ海に集結した人民解放軍の艦艇が沖縄に向けて進み始めた。
総兵力百万。正規の指揮からたった一人のノーライフキングの意志によって、彼らは日本への侵攻を始めたのだ。
『アッシュ・ランチャー』
サイキックアブソーバーの稼働による多くのダークネスが弱っていくまで、この地域全ての軍隊を支配下におさめていた世界のミリタリーバランスを調整するクリスタル・ミラビリスである。
数時間後。沖縄本島を目の前にしたノーライフキング艦隊は上陸作戦に備えていた。
恐るべき通常兵器の限りを備えた兵士たち。
しかし真に恐るべきはアンデッドと、その戦闘力を飛躍的に上昇させた『人甲兵』。そしてなにより元老『アッシュ・ランチャー』である。
「これまでの情報から、灼滅者達が人間社会に大きく依存しているのは間違いない。であるならば、その人間社会を制圧する事こそが、灼滅者への最大の攻撃となる。
『人甲兵』部隊出撃せよ。まずは、沖縄本島を橋頭堡として、日本本土の制圧に向かうのだ。
統合元老院クリスタル・ミラビリスが再び地球を管理下に置き支配する、正常な世界を取り戻す為に!」
満を持して放たれたそれは、日本侵略作戦。
公園を土煙が覆っていく。
リードごとはなされた犬が走り、飼い主の手をくわえて引こうとしている。
飼い主は既に土と血と形容しがたいものにまみれ、動かぬ死体と化していた。
やがてひとつながりの銃声が響き、犬もまた飼い主の後を追った。
けたたましい軍靴の音が、公園を踏み荒らしていく。
時計台を、ベンチを、植木や花畑を砕き、踏み荒らし、兵士の列が進む。
小銃を備えた兵士たちは人を見つけ次第射殺するように命じられていた。
その後ろを進むのがアンデッドの『人甲兵』である。
逃げ惑う人々に、もはや逃げ場などないのだ。
……『彼ら』が駆けつけるでも無い限り。
●『彼ら』の到来
「みんな、とんでもないことが起ころうとしてる。聞いてくれ」
大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)が話したのは、東シナ海から到来するアンデッドたちの軍勢である。
統合元老院クリスタル・ミラビリスの『アッシュ・ランチャー』。
ノーライフキングの首魁のひとりによる侵略作戦なのだ。
「奴の目的は、日本を制圧することで一般社会に根ざす灼滅社組織の活動を阻害すること。ひいては、俺たちへの間接攻撃ってことだ。それで社会をぶっ壊そうとは、酷い野郎だ……!」
沖縄本島に上陸し、市街地の制圧と虐殺を行ない、死体をアンデッド化して戦力を拡充。そのまま日本制圧に進むというつもりらしい。
「こんな連中、許しちゃおけねえよな! ぶん殴ってやりてえよな! 俺もそうだ!」
こちらの目的は沖縄上陸作戦への迎撃だ。
他の軍勢や作戦全体に想定外の影響を及ぼさないために、上陸直線に現地へ駆けつけることになっている。
「敵の軍勢は三千人規模だが、その殆どは一般人の兵士だ。灼滅者にとって一般人が相手にならないのは、皆も知っての通りだよな」
彼らはESPでの無力化が可能というわけだ。
しかし逆に言えば、彼らを無力化できなければ市民に犠牲が出てしまう。
下手に殺してしまえばアンデッドの材料を増やすことになってしまうので、殺さずに無力化することが望ましいだろう。
「でもって問題になるのはアンデッド兵と『人甲兵』だ。こいつらを倒すのは、ちっと簡単じゃあないぞ」
特に『人甲兵』はアッシュ。ランチャーがWW2時に実用化させたアンデッド強化用特殊武装である。これを装備しているアンデッドは並のダークネスをも超える戦闘力をもつという。
「1部隊に人甲兵は5体程度。通常のアンデッド兵は20体程度とみられてる」
みられている、と述べたのは作戦中に死亡した人がアンデッド化するなどのケースもあるためだ。
人甲兵とアンデッドを全滅させ、無力化した兵士を捕縛。そして洋上のアッシュ・ランチャー戦に備えよう。
「こいつらを逃がせばまた似たような作戦を引き起こすかもしれん。奴らを倒すためにも、この作戦は成功させねえとな! あとは頼んだぜ、みんな!」
参加者 | |
---|---|
風真・和弥(風牙・d03497) |
城・漣香(焔心リプルス・d03598) |
乃董・梟(夜響愛歌・d10966) |
白金・ジュン(魔法少女少年・d11361) |
リアナ・ディミニ(不変のオラトリオ・d18549) |
明鶴・一羽(朱に染めし鶴一羽・d25116) |
癒月・空煌(医者を志す幼き子供・d33265) |
立花・環(グリーンティアーズ・d34526) |
●世界よ、お前は間違っている
ライフルの弾頭が火薬の爆発によってはなたれ、回転しながら空を穿つ。
螺旋の空気を後ろに残し、少年の額へと吸い込まれるように飛んでいく。
少年は。
「無駄だ」
銃弾を素手のまま握り、ピンバッチのように握りつぶして放り捨てた。
かの名前を城・漣香(焔心リプルス・d03598)といい、世界を救う少年である。
カラーフレームの眼鏡を外し、ジャケットのポケットへと滑り込ませる。
一度閉じて再び開いた彼の両目はまるで歴戦の兵士を思わせ、命令によって銃を向けていた兵士たちは本能的に消沈した。
「武器を捨てて、すみで縮こまれ。死にたくないのなら」
歩き出す漣香。兵士たちは次々に武器を投げ捨て、街路のすみでうつ伏せになって両手を頭の後ろに組んだ。
まるで海が割れる奇跡のごとく、百人規模の兵士が伏せていく。
「まあ、よくこんだけの人数を集めたよね……」
それだけダークネスが世界を統べる力を持っていると考えるべきか、どうか。
一方。立花・環(グリーンティアーズ・d34526)は飛来したロケット弾をパンチ一発で粉砕していた。
爆発の中をほぼ無傷で駆け抜け、相手のロケットランチャーを蹴り上げる。
「やれやれ、人間同士を戦わせるとは。えげつないですけど、理にはかなってるんですよねえ」
ダークネスに時折おこる、倫理から倫だけ抜いた系作戦である。
呆れた様子で兵士たちを見やる。
年端もいかぬ少女が包囲弾幕を小雨程度にかわしながら歩く姿に、訓練された兵士たちもどこか恐怖を感じているようだった。
「それにしても、ラブフェロモンがうまく機能していないような……?」
はて、と首をかしげなら放り込まれたグレネードダンをキャッチアンドリリース。
……していると。
「いいえ、ちゃんと機能しているようですよ」
リアナ・ディミニ(不変のオラトリオ・d18549)が浮き上がる影業で弾幕を全て停止させつつやってきた。こちらは小雨どころか薄霧扱いである。
改めて兵士たちをぐるりと見回す。
なぜ攻撃が通用していないのか分からないといった様子でじわじわ距離をあけつつ取り囲んでくる兵士たち。
一方でリアナは彼らの表層思考を(ESP性能上可能なレベルで)読み取っているようだ。
「さすがに訓練された兵士というべきなんでしょうか」
リアナの作戦は非常にがっちりとしていてパンチも効いていたが、ちょっと相手と状況にはあわなかったようだ。
「下がっていてください。できれば手荒なことはしたくなかったんですが、力ずくで大人しくしていてもらいます」
リアナは影から飛び上がった影業のダーツを掴むと、兵士の一人へと投擲。
首にダーツが刺さった途端、兵士は小さく呻いて気絶した。
「ただ、数が多いものですから……少々手間になりますね」
「そういうことなら、手伝うぞ」
どこからともなく現われた風真・和弥(風牙・d03497)が、兵士を後ろから手刀で気絶させた。
漫画とかで見るけど『あんなんで気絶するわけない!』ってよく言われる手刀式気絶法である。できるんだあそれ、とか思いつつ環は兵士の落とした銃をめきっとへし折っていた。こっちもこっちである。
こんな非常識な少年少女を前にすると錯乱する者もいるようで……。
「ち、ちくしょう! みんなころしてやる!」
とにかく沢山殺して死のうと暴れ始める輩が現われた。
いち早く気づいたリアナが影業ダーツを放って一人気絶させたが、別の者が銃をとって暴れようとした……が、そこへ。
「やめなさい!」
改心の光を放ちながら白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)が現われた。
思わず銃を取り落とし、そこを和弥にガッとされる兵士。
ジュンは苦々しい様子で周囲を見回した。
「皆、命令で仕方なく動いているんでしょうか。あんまりにも、ひどいです……」
兵士の虐殺が悪行や蛮行のたぐいではなくきわめて軍事的な命令によるものだと早い段階で気づいたジュンは、早々に改心の光を錯乱して悪行に走ろうとした兵士の鎮圧にシフトさせていた。
「い、一体何者なんだ……お前たちは……」
銃を構えじりじりと後退する兵士。
その背後へ、普通に乃董・梟(夜響愛歌・d10966)と明鶴・一羽(朱に染めし鶴一羽・d25116)が立ち止まった。
彼に気づかずにどんとぶつかった兵士は慌てて振り返り……急に意識を失って倒れた。
梟が至近距離で聞かせた糸の振動音によるものだが、周りの者には突然現われた人間が急に人を気絶させたように見えただろう。
「いやー三千人とかマジ多いわー。ノルマ十人にしたってマジ……なに? ロックンロールってかんじ?」
小さく息をつく一羽。
「少々手を焼いているご様子で……」
「ま、王者の風でイワしてる二人が人数稼いでくれてっから大丈夫。こっち片付けちゃおっか」
一羽は兵士を邪魔にならないところまで投げると、眼鏡のブリッジをつまんだ。
「そうですね。不正入国は厳しく取り締まりませんと」
眼鏡を外し目つきを鋭く変えた。
「『さあ、鮮血の結末を』」
「死にたくないなら、武器を捨ててすみでおとなしくしてて、です!」
王者の風をふかせ、三十人ほどの兵士たちをいっぺんに鎮圧する癒月・空煌(医者を志す幼き子供・d33265)。
山と積まれた銃器をよそに、スレイヤーカードをピッと翳した。
「力を貸して――死に神の少女ヴィヴィ!」
空煌の衣装が黒いワンピース風のものにかわり、影から浮かび上がるように現われた鎌状のものを引き抜く。
「兵士の人たちは鎮圧しました。あとは……」
世界を支配する闇の力。
一般人はこの力を前に無力だ。
ゆえに。
「この力で、アンデッドたちを潰させて頂きますです!」
●死なせはしない、冒涜することも許さない
アンデッド兵は指揮官として配置されていた。しかし部下を灼滅者の力で鎮圧された彼らは、残る戦力を集めて一羽ひとりに挟撃を仕掛けてきた。
「丁度いい、出番を待っていたところだ――スクトゥム!」
目つきを変えた一羽は、自らの周囲に雪のようなオーラを舞い上がらせた。
と同時に黄金の剣をくわえた霊犬スクトゥムが現われ、アンデッド兵の射撃を不思議な結界で阻み始める。
両側からの攻撃を仕掛けてくるアンデッド兵。
しかし一羽は構うこと無く突っ込み、飛来する無数の弾丸を固まったオーラの壁で次々を弾き落としていった。
アンデッドの鼻先まで詰め寄り、銃を掴んで上を向かせる。
今だ、というまでもなく飛びかかる和弥とリアナ。
アンデッド兵を瞬く間に剣で切り裂くと、挟撃の失敗を悟ったアンデッドが距離をとって逃げようとしたところへ……。
横一文字空斬り。しかし彼らの放った剣は光と影の衝撃となりアンデッドの腕を切り払う。
さらにはアンデッドの周りを高速でぐるぐると回った梟が、指先に絡んだ糸をくいっと引いただけでアンデッドを締め上げた。
「さ、のっけからハードにいくよ」
遠くから人甲兵が近づいてくるのが見える。
そんな状況で、漣香とジュンは指揮官らしきアンデッドと戦っていた。
「人甲兵を押さえに行きたいのですが……」
「待って。あの格だと一対一じゃマズい。必ず全員で囲んで倒さなきゃ」
バベルの鎖によって戦力差を把握していた二人は、人甲兵が結構ヤバい戦力をもっていることに気づいていた。
幸いにも五体バラバラに動いているようで、アンデッド兵との戦いに紛れ込んでくる琴はなさそうだ。
「まずはこっちを片づけてからね」
くいっと手招きすると、光の中からワンピース姿の美しいビハインドが現われる。
ビハインドが霊力の盾を展開すると同時にアンデッド兵が射撃を開始。
その間に漣香とジュンは相手に急接近した。
「マジピュア・シューティングスターキック!」
ジュンの強烈な跳び蹴りがアンデッドの顔面に直撃。
「えっなにそれ、じゃあえっとえっと、れんがぱんち!」
オラァといって繰り出したパンチがアンデッドの顔面に追加ヒット。大きく吹き飛んだアンデッドは、ベンチに激突して転がった。
拳銃を撃ちながら横っ飛びに攻撃を回避するアンデッド兵。
その弾丸を木の幹の後ろに回って防いでから、身を翻してDCPアシッドを乱射する環。
ガードしたアンデッド兵だが、その腕がみるみる溶解していく。
空煌はここぞとばかりにレイザースラストを発射。
アンデッド兵を背後の壁に打ち付けると、七不思議の力を発動させた。
「おねがい、ヴィヴィ!」
途端にアンデッド兵が八つ裂きにされ、背後の壁ごと崩壊する。
なんとか腕だけ動かして攻撃しようとした所を、環がDCPキャノンを打ち込んで念入りに崩壊、沈黙させた。
「ご当地沖縄を、血で汚させませんよ!」
フッとマグロランチャーからあがった煙を吹き消す環。
振り返ると、人甲兵が地面を揺らしながら近づいてくるのが見えた。
●人甲兵
全長三メートルほどの機械のかたまり。もといアンデッド強化装備。
どこかずんぐりとした外見のそれは、両腕に装備したガトリングガンをめいっぱいに乱射してきた。
「とりまそんな感じのが来ると思ってましたよ!」
環が対抗するようにリバイブメロディを展開。
人甲兵の射撃に対抗するが、あまりの威力に押し切られそうだ。
「スクツゥム」
「あと泰流、頼んだ!」
一羽と漣香は環のガードをそれぞれ相棒に任せ、人甲兵へと突撃。
巨体に対して体当たりを仕掛ける。
至近距離から火炎を放射して追い払おうと試みる人甲兵だが、一羽が自らのオーラを風に変えて炎を吹き払っていく。
「おーおーアーミーじゃねえの。今だみんな! ぶっ込めぶっ込め!」
漣香の手招きに応じて飛びかかるジュンと空煌。
「マジピュア・シグナルレッド!」
「死神奇譚!」
二人はエネルギーを集中させたロッドと影業でもって人甲兵へクロスアタック。
装甲が大きく火花を散らし、そしてへこんでいく。
「一点集中、貫け!」
和弥の剣が鋭く破損箇所へ突き立てられ、吹き出たエネルギーが装甲をみるみる焼き切っていく。
更に……。
「そのダサい鎧、粉々にしてやるよ!」
足に炎を纏わせた梟がケンカキックを叩き込み、装甲を徹底的にへこませていく。
これ以上のダメージを受けたらマズいと察したのか、人甲兵がじたばたと腕を振り回しながら後退。しかし、それを逃すこと無くリアナが背後に回り込んでいた。
「終わりです」
腕に纏わせた影業が獣の形をとり、装甲をぶち抜いていく。
内部のアンデッドごと破壊し、ついに人甲兵をその場に倒れさせた。
こうして、灼滅者たちはアンデッドと人甲兵たちを次々と撃破していった。
残った一般兵たちも敗走していき、あたりには平穏が戻ってくる。
だがこの平穏は次なる戦いへのブレイクタイムに過ぎない。
夜明けは、近い。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年5月2日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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