アッシュ・ランチャーの野望～朝焼けの電撃揚陸作戦

■リプレイ

●黎明の会敵
　夜明け前。まだ沖縄は夜闇に包まれ、うす曇りの空には月も星も姿を見せない。
　だがそんな闇の中、海岸に接舷した揚陸艇から、続々と武装した兵士達が浜辺に降り立っていた。揚陸艇の投光器が焚かれ、完全武装の人民解放軍の姿を映し出す。
　……いや、映し出されたのは、彼らだけではなかった。
　上陸した兵士達が最初に目にしたのは、上陸地点に仁王立ちとなって立ちはだかる、居木・久良（ロケットハート・d18214）の姿。
（「俺がここにいれるっていうのはきっと、可能性なんだ。助けられる可能性、守ることが出来る可能性……」）
　すかさず開始された兵士達による銃撃を意にも介さず、久良は真っ直ぐ燃えるような目を侵略者達に向けた。同時に発動された『王者の風』が、兵士達の士気を挫く。
　すかさず、
「武装を放棄しろ、さもなければ……お前達全員、ぶち抜く」
　覚えたての中国語で、槌屋・透流（ミョルニール・d06177）が声を張り上げつつガトリングガンを兵士達に向けた。２人の周辺にいた１００人からの兵士が、気圧されたように手にした武装を地に放り、両手を上げる。
　そして同じような光景は、浜辺のそこかしこで展開されていた。
「ほぼ一般人とはいえ、これだけ居ると威圧感が凄いな……」
　月村・アヅマ（風刃・d13869）は『王者の風』で兵士達を無力化しつつも、その圧倒的な数の暴力の前に、やや気圧されていた。
「……けど、退く訳にはいかないしな」
　バベルの鎖の効果で、兵士達の攻撃を受け付けない灼滅者であるアヅマでさえ、これほどの脅威を感じるのだ。沖縄の人々や観光客達に、同じような思いをさせるわけにはいかないと、呪装棍【天津甕星】を握る手に力をこめる。
「一般の人をこんな風に巻き込むなんて許せるわけないっす。ここで確実に守りきって、支配者気取ってるやつをぶん投げてやるっす！」
　押出・ハリマ（気は優しくて力持ち・d31336）は、仲間の声が届く距離をキープしつつ、『王者の風』を発動させた。そして、その合間にふと、沖合の艦隊に目を向ける。そこにきっと、今回の首謀者であるアッシュ・ランチャーがいるはずだ。今はまだ手は届かないけれど。きっと自らの行為を後悔させてやると、そう誓って。今はただ、目前の兵士達の無力化に全力を尽くす。
『ええーい、何をしておるか。敵はわずか８人だ。距離を置いて、撃ち殺せ！』
　次々と兵士達が無力化されていく中、人民解放軍の指揮官らしい男が、中国語で命令を下した。
　はっとしたように、未だ『王者の風』の効果を受けていない兵士達が、一斉に手にした火器を構え、銃撃を開始する。
「これ、普通に戦ったら死んだ端から即戦力になるのか。繊細でめんどくさすぎて鼻血出そうだ。気を抜く瞬間が文字通りに無いぞ」
　銃弾の雨を、長野県の形をしたパネルっぽいもので弾きながら、ハノン・ミラー（蒼炎纏いて反省中・d17118）がうんざりした顔を浮かべた。『王者の風』の効果範囲は半径３００ｍ程度。散開して上陸してくる人民解放軍の全てを、一気に無力化することはできない。
「だが、目標は定まったな」
　兵士達の攻撃の間隙を縫うようにして、不動峰・明（大一大万大吉・d11607）が駆け抜けていく。目指すは、先ほど命令を下した指揮官。
「そして、当たりだ」
　周囲を護っていた兵士達が『王者の風』の影響で撤退していく中、指揮官だけはその場に留まり声を張り上げ続けている。
「そこまでですの！」
　一足先に指揮官の下に辿り着いた黒嬢・白雛（天翔黒凰シロビナ・d26809）が、黒白の炎を纏わせたクロスグレイブを振るい、指揮官に斬りかかる。
『ぐうっ！！』
　指揮官は、手にした銃剣でその攻撃を受け止めた。その銃剣には明らかにサイキックが込められており、それはつまり、指揮官がアンデッドであることを示している。だが、指揮能力に特化した個体なのか、戦闘能力はそれほど高くはなさそうだ。
「ここは私と不動峰様で引き受けますの。皆様は他の部隊の無力化を……」
　そう、仲間達の方へ目を向けた白雛の言葉が止まる。３ｍはある巨大な人型の機械の塊が、指揮官を救助すべくこちらに向かってきている事に気付いたからだ。
『敵捕捉、消去』
　アッシュ・ランチャーの軍勢の切り札たる人甲兵が、明と白雛へ向けてロケットランチャーを発射する。だが、
「その動き、演算したとおりだったね」
　その弾頭は二神・雪紗（ノークエスチョンズビフォー・d01780）の放ったアタッチメント『スカーレッドサージ』によって絡め取られ、着弾することなく中空で爆発した。大型で発見の容易な人甲兵の配置を把握していた雪紗だからこそできた、即時対応だ。
「人甲兵の撃退は後回しだ。ここはボクが足止めするから、まずはアンデッドを片付けてくれ」
　既に多くの兵士を無力化したとはいえ、敵の数はまだまだ多く、アンデッドも人甲兵も健在だ。夜明けの時は、まだ遠い。

●払暁の激戦
「……貴様らを、狩りに来た。好き勝手はさせない」
　上陸部隊を指揮していたアンデッドに、透流がガトリングガンから放った焼夷弾を叩き込む。
　アンデッドも負けじとサブマシンガンを連射して応戦してくるが、
「効かないっす！」
　割り込んだハリマが紅葉色の縛霊手『宿儺』を盾代わりにその攻撃を受け止め、
「笑顔で帰るために、思い切りだ！」
　久良が炎を纏ったモーニング・グロウを全力でアンデッドに叩き込めば、不自然な形に折れ曲がったアンデッドの体が文字通り吹っ飛んでいく。そのまま海に叩き落とされたアンデッドは、二度と浮かび上がってくることはなかった。
　兵士の無力化とアンデッドの排除は、順調に進んでいた。だが、アンデッドの全てが指揮官ポジションにいるわけではなく、全ての指揮官クラスがアンデッドというわけでもない。見極めは慎重に行わねばならず、それ故に時間もかかる。
「全てのアンデッドが業が深いってわけでもないのか。めんどくさいなあ」
　『DSKノーズ』でアンデッドの判別ができないか試していたハノンが、諦めたように『王者の風』に切り替える。アンデッドでも、最近まで迷宮に引き籠もっていたようなタイプは、意外と一般兵よりも業が薄かったりする。加えて、『DSKノーズ』では効果範囲が狭すぎて、非効率的だ。
「これだけ人数が多いと、無力化した兵士とそうでない兵士の見分けも付きにくいしね」
　アヅマが、一般兵の振りをして不意打ちをかけてきたアンデッドに異形化した腕で対抗しながら、そうぼやく。
「分かる範囲で目印は付けてみたが……そろそろ在庫が底を突きそうだ」
　明は、手にしていたスプレー缶を投げ捨て、クルセイドソードを両手で構えた。無力化した兵士の頭部にスプレーで色を付けて目印としてきたが、それももう限界だ。
「だが、確実に敵の排除は進んでいる。残りは後、千人弱といったところか」
　雪紗が、高速演算モードで素早く戦況を分析してみせる。千人といえば絶望的な数に聞こえるが、既に三分の二を無力化できたと考えれば、順当な戦果といえるだろう。
「ですが、気は抜けませんの。追い詰められた敵は何をしてくるか分かりませんわ」
　白雛が皆の気を引き締めるように言った直後。
　唐突に頭上から無数のミサイルが飛来し、周囲にいた一般兵ごと、灼滅者達を吹き飛ばした。

●薄明の決戦
「どうだ灼滅者共。我らが人甲兵の力、思い知るがよい」
　目を向ければ、そこには人甲兵を一体従えた、筋骨隆々の男の姿。わざわざ日本語で灼滅者に声をかけてくるということは、この男もアンデッドなのだろう。
「こいつ……！？　仲間を巻き込んで攻撃してきたっす！」
　咄嗟に周囲の一般兵を庇い傷を負ったハリマが、信じられない思いで視線をアンデッドに向ける。
「ハッハッハッ、兵どもが足止めしている隙にと攻撃を仕掛けてみたが、思わぬ副効果があったな。まさか戦場で敵を庇って怪我をする愚か者がいようとは。人類管理者たるアッシュ・ランチャー様にも是非お見せしたかったものよ」
「……人類管理者とは、思い上がりも甚だしいものだ」
　得意げなアンデッドの言葉を、雪紗の感情を殺した声が遮る。
「なんだと？」
「１つだけ。冥途の土産に教えておこうか。ボクら灼滅者は怒りの代弁者。君たちが脅かそうとするものが大きければ大きいほど、我らは奮え立つ。精々、気を付ける事だ。人間社会そのものを壊そうというのなら、その怒りは君たちを灰すら残さず燃やし尽くす炎となるだろうね」
　雪紗も一般兵を庇い怪我を負っていたが、まるで意に介していないように、芝居がかった大仰な動作で、そう言葉を続けていた。
「戯言も大概にするのだな。貴様達程度では、アッシュ・ランチャー様はおろか、この人甲兵にすら勝つことはでき……」
　アンデッドが皆まで言い切る前に。
「少しでも助けられるものがあるなら、守ることが出来るものがあるなら！」
　久良が、大上段に振りかぶったモーニング・グロウを、全力でアンデッド目掛けて振り下ろしていた。それは、まるで理不尽の全てを打ち砕くように。
　同時に。
「そのガラクタ、ぶっ壊す！」
　透流のガトリングガンが高速で砲身を回転させ、無数の弾丸を人甲兵に浴びせ掛ける。その威力に、さしもの人甲兵の重装甲にも、無数の傷が刻まれていった。
「全く、手間を増やさないで欲しいなあ」
　その隙に、ハノンは虫の息となっている一般兵達の傷を癒して回る。ハリマの連れている霊犬の円も、同じように浄霊眼を傷ついた兵士達に施していた。だが、先のミサイル攻撃で既に息絶えた兵士の数も、また少なくない。
「仲間を巻き添えにすることも躊躇わないとはな。だがこれで、ノーライフキングがいかに危険な存在か、改めて認識できた」
　人甲兵が反撃とばかりに放ってきた重機関砲の攻撃を、明はクルセイドソードで弾きながら、仲間達が一般兵を救出するのを待つ。
「本来なら味方の士気が下がるのでやらない作戦だが、我らをここまで追い込んだ貴様達が悪いのだよ。それに安心したまえ。死体は後で回収し、アンデッドとして再利用してやろう」
　頭部が陥没していても、筋肉質のアンデッドの減らず口は止まらない。
「……そのくらいにしておいてくれないか。さすがに、気分が悪い」
　そんなアンデッドに、アヅマが呪装棍【天津甕星】を突き付けた。瞬間、膨れ上がった魔力が爆発し、アンデッドの体を粉々に吹き飛ばす。
「後は人甲兵のみ。援軍が来る前に、片付けるですの！」
　白雛の構えたクロスグレイブから、白黒の光が奔流となって迸り、人甲兵を飲み込んでいった。だが、人甲兵の強固な装甲はその一撃にも耐えきり、逆に放たれたロケット弾が、白雛を吹き飛ばす。
「さすがに、ただのアンデッドとは格が違いますの」
　駆け寄ってきた円に傷を癒してもらいながら、白雛が口を噛みしめた。だが、沖縄の人々を護るために、ここで退くことも倒れることも、許されない。
「確かに攻撃力と防御力は破格だが、動きは速くない。充分戦える」
　明は瞳にバベルの鎖を集中させ、人甲兵の動きを予測して仲間達に伝え、
「兵士達はわたしが避難させとくから、思いっきりやっていいよ」
　ハノンが、傷を治した兵士達を順次撤退させていく。
　と、人甲兵が背中に背負ったミサイルランチャーから、再び複数のミサイルを打ち上げた。いったん上空に向かい飛翔したミサイルは、空中で反転すると、そのまま地上目掛けて降り注いでくる。
「残念だが、その攻撃は演算済みだ」
　その攻撃を、雪紗がジェミニ・バタフライ［ポルクス］［カストル］を振るって撃ち落としていき、
「同じ手は二度は受けませんの」
　白雛は白黒の炎の翼状のオーラでミサイルを受け止めていく。
　それでもいくつかの着弾したミサイルが爆発を引き起こす中、
「どすこーいっ！！」
　爆風を縫ってハリマが、WOKシールドの力を乗せた強烈なぶちかましを人甲兵に浴びせた。その一撃で、人甲兵の巨体が、大きく揺らぐ。そしてその好機を、逃す灼滅者達ではなかった。
「いくら硬くても、これなら！」
　すかさずアヅマが、胴体と頭部の装甲の継ぎ目に強烈な飛び蹴りを炸裂させる。
『敵脅威度、甲。最優先排除』
　接近してきた灼滅者を迎撃すべく、重機関砲を乱射する人甲兵だったが、
「それでも！　あきらめることは絶対にない！」
　防御を捨てて突撃する久良の動きを止めることはできなかった。人甲兵の死角になる懐に飛び込んだ久良は、自らの手が傷つくのもお構いなく、拳の連打を叩き込む。そしてその連打で、人甲兵の強固な装甲にヒビが生じる。そして、
「全弾叩き込んでやる！　ぶっ壊れろ！！」
　そのヒビに向かって、透流がガトリングガンの砲身が焼き切れるほどの勢いで弾丸を叩き込んでいった。いくら人甲兵が頑丈でも、中のアンデッドはその攻撃に耐えきれない。
　人甲兵は地響きを上げて転倒し、そして大爆発を起こし四散したのだった。

●暁の決着
「さぁ……断罪の時間ですの！」
　白雛が白と黒の炎を纏ったロケットハンマーを人甲兵に叩きつけると、それまでの戦いで傷だらけになっていた装甲はその一撃に耐えきれず、中のアンデッド共々粉々に砕け散っていく。
　こうして、人甲兵の最後の一体を打ち破った頃には、真っ暗だった空にも少しずつ朱が混じり始めていた。
「もう意味のない戦いは止めよう！　降伏してくれ！！」
　最強の戦力が敗れ去ったことに動揺する兵士達に、久良が身振りを交えて強い意志で投降を呼びかける。たとえ言葉は通じなくても、濁りのない真っ直ぐな気持ちで心のかぎり思いをぶつける。気持ちが一番大切だから、何としても伝わるようにと。
　そんな久良の想いが通じたのか、兵士達は一人、また一人と武器を捨て、降伏の印に両手を挙げた。
「終わったな」
　無力化した兵士達を拘束しながら、明が呟く。
「しかし捕縛するだけで大変だな、これ」
　同じく捕縛作業を手伝っていたアヅマがそうぼやいた時。
「いや。まだ、終わってはいないようだ」
　雪紗が指さすのは、朝焼けに染まりつつある海の向こう。そこには、朝日を背景に無数の艦隊のシルエットが浮かび上がっている。
「あれが、アッシュ・ランチャーの本隊か」
　透流が、気合を入れ直すように帽子の位置を直した。そう、まだ人民解放軍の主力は、海の上だ。
「ノーライフキングって中国圏が勢力……？　不老不死に至った仙人の伝説とかそれっぽくはあるけども」
　思わずそんな疑問に首を捻るハリマ。
「そんなことどうでもいいよ。対人類戦最強のダークネスに、懐かしいネタは現代には通じないって教えてやりましょうか」
　傷ついた兵士達を癒して回っていたハノンが、不敵な笑みを浮かべた。
　アッシュ・ランチャーの電撃作戦は阻止することができた。だが、本当の決戦は、これから始まるのだ。

作者：Ｊ九郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年5月2日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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