アッシュ・ランチャーの野望～人甲兵出撃せよ

■リプレイ

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　揚陸艦から現れ、次々と沖縄の地を踏む兵士達を見据えながら、佐津・仁貴（厨二病殺刃鬼・d06044）が渋面を作った。
「大方……俺達の介入も予想に入れて、これだけの数を送り込んできたのだろうな……」
　敵軍を構成する大半は、ノーライフキングに従っているとも知らず、市街地を制圧し、市民を殺りくするという任務を全うせんとする一般人の兵士。
　桃野・実（夜陰・d03786）はその姿に、自分や灼滅者の姿を重ねていた。上官の指示を守り、任務を果たそうとする兵士達と、人類の為だと学園に送り出され、ダークネスと戦い続ける灼滅者……あの兵士達と今の自分達に何の差があるのだろう、と。
　どこか思いつめたようなまなざしの実に、ソラリス・マシェフスキー（中学生エクソシスト・d37696）が声をかけた。
「思うところは互いにあるでしょう。だからと言って、このような戦いは……ただただ憎しみをいたずらに増やし根深くするだけ」
「大丈夫、やるべきことを見誤ったりはしない」
　そんな会話を掻き消したのは、無慈悲な銃声。銃火器を装備した一般兵が、一斉に射撃してきたのだ。
　カーリー・エルミール（元気歌姫・d34266）の持つ弓を見て、一部の兵士はあなどるような態度さえのぞかせる。それでこちらの近代兵器に立ち向かうつもりか、と。
　しかし。
「な……！」
「お前らの受けた命令は死ぬことか？　背を狙う奴等に従うのはやめて、武器捨てて引け、頼む。命は、戻らないんだ」
　森田・供助（月桂杖・d03292）が素手で受け止めた銃弾を地面に落として見せると、カーリーやソラリスとともに、神秘の力を発動する。
　ＥＳＰの風を浴びた途端、兵士達の間に無気力がまん延していく。
　見たところ、敵は４、５０人程度で１つの小隊を構成しているようだ。３人のＥＳＰの効果を受けた総数は、２、３部隊分に及んだ。
「日本は小さな島国だから、こんなに沢山の人が押し寄せては沈んでしまうわ」
　仲間の後を追うように、パニックテレパスを使う桜之・京（花雅・d02355）や、歌枕・めろ（迦陵頻伽・d03254）。
　混乱する兵士達は、京達から指示を受け、次々と武器を放棄していく。
「あっちだ……あっちへ逃げろ……」
　仁貴に促されるまま、揚陸艦から遠ざかっていく兵士達。プラチナチケットの効果が、兵士達の信用を勝ち得ているため、疑いもしない。
「あっちなら安全だよ、急いで！」
　移動方向がバラバラになって滞りが起きないよう、めろが交通整理のように避難を促す。戦闘に巻き込まれないよう、供助も、岩陰など遮蔽物のある場所を目指せと告げる。
「お説教は後でするのでいったん下がってもらえるとありがたいですー……」
　まだＥＳＰを受けていない兵士達の攻撃を振り払いつつ、実とともに仲間のサポートを行う芥川・真琴（日向の微睡・d03339）。
　そうして、次々と兵士達を無力化していくカーリー達。
「うかつに殺しちゃうと、アンデッドにされちゃうっていうから、気を付けないとね」
　敵が市街地に展開する前だったことも幸いして、灼滅者達の作戦は順調に進んでいく。
　もっとも、今回の灼滅者達の布陣なら、複数のチームに分散するような事があっても、十分に対応できただろう。

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「おやー……あれはもしや……」
　一般兵の退避を続ける中、ＥＳＰを受けても平然と立つ兵士に気づく真琴。
　この場でそんな真似が出来るのは、灼滅者を除けばアンデッドしかいない。
　だが、臆する事はない。実際、仁貴によって看破された能力は、せいぜい灼滅者２人分程度。
「何をしている！　戻ってこの『市民』を排除せよ！」
　小隊の指揮権を有するとおぼしきアンデッドの言葉に、一般兵が正気を取り戻しかけたところに、再びＥＳＰが発動する。
　周囲の一般兵を退けると、アンデッドへと攻撃を開始する。
　浜辺という足場の悪さを容易く克服し、実はエアシューズの機動力で接敵。霊犬クロ助とともに、アンデッドに先制した。
　アンデッドが構えた銃器に、音もなく真琴の影業が巻きつく。拘束は四肢にもおよび、その体を締め上げた。
　もがきながらも反撃に出ようとアンデッドめがけ、供助のダイダロスベルトが迫る。ガードした銃は弾かれ、あえなく倒れ伏すアンデッド。だが、これは戦いの序章にすぎない。
　ソラリスが見据える先、次々と敵部隊が展開する。
　灼滅者達が入れ替わり立ち代わりＥＳＰで無力化を行う一方、アンデッドが確認されれば、サイキックでの攻撃にシフトする。
「……連絡も報告もしないなんて……そこで生き延びようと死のうとどうでもいい、継続した戦闘力を望まれてないって事だろ。可哀そうに」
　逃げていく一般兵達を見送る実。その背を流れ弾からかばいながら。
　ナイフを逆手持ちしたアンデッドに、京が戦闘を挑む。
　軍隊に編制されるだけあって、並みのアンデッドより実力は高いようだ。が、それはダークネスとしての格まで上げるものではない。
　京の殺人術をとらえきれず、交通標識の一撃の前に、動く術を失う。
「めろも、頑張っちゃうよ」
　夜明け前の海岸に、響く旋律。仁貴のクルセイドソードが不死兵を両断するのを見て、めろがギターを奏でた。
　アンデッドの怒声を掻き消し、その不死の肉体へと音波が叩きこまれる。よろめくアンデッドの後頭部を狙う、白い影。その正体は、ウイングキャットの式部。まさか自分が猫のパンチに敗れるとは思ってもいなかったに違いない。
　無論、灼滅者達とて無傷ではいられない。仲間が人払い、あるいはアンデッドとの交戦を行う合間を見て、ソラリスが動く。
「誰の血が流れることも望みません。ただし、理に背く不死のモノ達には……滅びの安寧を」
　ソラリスが砂上に突き立てた標識からの光が、仲間達の耐性を上昇させる。決して誰も倒れさせたりしない。
　攻守を担う前衛を支えるのは、カーリーも同じ。天星弓につがえるのは、敵を穿つものではなく、仲間に癒しを届ける矢だ。
　順調に、一般兵の無力化とアンデッドの駆逐を進めていく灼滅者達。だが、揚陸艦から現れる敵部隊の数は一向に減る様子を見せない。
　そして今また、新たな部隊が仕掛けてくる。
　それまでと変わらないように見えたその部隊の中に、京は明らかに異質な影を認めた。
「人甲兵だ！」
　供助の飛ばした警告が、仲間達の耳に届いた。

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　左右にアンデッドの兵士を従えた３メートル級の巨体が、灼滅者の排除に乗り出す。その威容は、他の兵士達の士気上昇にも一役買っているようだ。
　人甲兵は、こちらを射程内に収めるなり、ガトリング砲の洗礼を浴びせた。アンデッド以上の威力を持たされた弾丸が、前衛の灼滅者へと注がれる。さすがにそのダメージは放置できるものではない。
　守り手にして癒し手であるめろが両手をかざすと、仲間達の前に小さな光盾が次々と現れた。
「痛いの痛いの、とんでけー」
　光をともした盾に傷を癒された灼滅者達は、感謝とともに人甲兵への反撃を開始する。
（「まずは敵の弱点を見極める」）
　護衛のように立ちはだかるアンデッドを避け、仁貴がウロボロスブレイドを振るった。瞬時に鞭のように伸びたそれは、嵐を起こして人甲兵の全身を切り刻む。無数の斬撃で狙うのは、関節部など装甲が薄くならざるをえない箇所だ。
　一方で、供助が、随伴するアンデッドの銃剣と打ち合う。何度か剣戟を交わした後、踏み込んだ供助は、銃剣ごと相手の胸元を断ち切った。
　どこか眠たげな雰囲気とは裏腹に、真琴は巨大な十字架を手足の如く自在に振るい、相手に反撃の隙を与えない。一撃のたびにその身の熱量は増していく。
「おやすみなさい、よいゆめを」
　連撃を受け、倒れ行くアンデッドに、真琴が葬送の言葉をかけた。
　そうして孤立した人甲兵へと、灼滅者が集中攻撃に移った。装甲でサイキックをしのぎつつ、人甲兵がグレネードを投じた。炸裂と同時、四方に爆風がまき散らされる。舞う砂塵。
　だが、いかに強化されたアンデッドと言えども、万全の人数であたれば、灼滅者の敵ではない。
　仲間達の加護が途切れぬよう、ソラリスとカーリーは戦場を駆け巡る。
　その援護を受け、京が地を蹴った。弾幕をかいくぐり、敵の装甲に亀裂を入れた。損傷箇所を狙い、実の蹴りが直撃。それまで蓄積していたダメージが一気に溢れ、ゆっくりと倒れていく人甲兵。
　鼓膜を打つ金属音に、後方の一般兵の間に動揺が広がる。上陸部隊にとって、人甲兵は象徴的戦力。それを撃破されたとあっては、戦意を喪失するのも無理からぬことだった。
　そこへ真琴達が指示を飛ばすと、ＥＳＰを使うまでもなく、この場を離れていく。
「ちゃんとー……危なくないところに逃げてねー……」
　次に現れた人甲兵もまた、危なげなく撃破した頃、敵軍はしばし沈黙した。
　その後、間をおいて前進してきた部隊は、今までよりずっと少数だった。
　ただしそれを構成するのは、複数のアンデッド、そして３体の人甲兵。それぞれ、ライフル、巨大杭打機、巨大シールドを装備している。
「これはちょっと大変かも」
　一気にこちらの殲滅にかかった事を悟り、傍らのウイングキャットと顔を見合わせる、めろ。
　１体１体なら並みのダークネスに劣るとはいえ、数の暴力は脅威だ。
　その時、敵の射線を遮るように、霧が生み出される。それは仲間にのみ戦う力を与える魔の霧。
「さあ、反撃開始だよ！」
　カーリーの鼓舞とともに、灼滅者は敵軍へと立ち向かう。

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　対灼滅者戦力を一気にぶつけてきたということは、相手にも余裕がないという事。ここが、正念場だ。
　苛烈なる赤……真琴の炎が、敵陣を飲み込んだ。随伴のアンデッドが苦しむ中、悠然と前進する人甲兵。各部から噴き出す炎には構わず攻撃動作に移る。
　それを封じるべく、火の帯を虚空に描き、実が行く。その踵が敵の首元に突き刺さる。カウンター気味に、京が殺気をぶつけた。周囲にいた敵も巻き込み、その装甲を揺るがす。
　シールドアタックを受け、吹き飛ばされためろを、ソラリスが見逃すはずもない。放たれた癒しの光は、敵を飛び越え、傷つく仲間の元へ。
　灼滅者達の範囲攻撃に巻き込まれたアンデッドが、相次いで灼滅されていく。
　しかし、それを顧みることなくライフルを構える人甲兵へと、接近する黒の少女……京。
「観光なら、玄関から靴を脱いでお行儀よくいらっしゃいな。その折々で様々な顔を見せるこの国が、私は、好きなのよ」
　敵の戦闘技と京の殺人技。軍配が上がったのは後者だった。よどみない斬撃が、敵を断つ。
　クロ助が三途の川の渡し賃……六文銭を浴びせ、実が結界で相手の進撃を阻む。霊子による干渉を受けてなお敵が目指すのは、カーリー達後衛。補給……回復ラインを断つつもりか。
　敵の狙いを悟った供助は、力を練り上げた。その斬撃は風の刃となって、離れた相手の腕を斬り飛ばす。
　めろの両手に収束した輝きが、盾を持つ人甲兵を照らす。とっさにかざしたシールドごと、装甲をも打ち砕いた。
　既に、ライフルの人甲兵は完全に沈黙。残る杭打ち機持ちの死角を突こうとする仁貴だが、やすやすとは隙を見せてはくれぬ。
　攻めあぐねていると、カーリーが美声を披露した。高い歌唱力に裏打ちされた神秘の歌は、たちどころに傷を癒し、長期戦で途切れそうになる集中力をつなぎとめてくれる。
　その時、仁貴が遂に好機を捉えた。ここまでの戦闘で見出した弱点を狙い、一気に切り込むと、最後の人甲兵は、完全に機能を停止した。
　指揮を担うアンデッド達の壊滅を目の当たりにした残存兵達に、もはや戦う気力はなかった。
　供助が魂鎮めの風で眠らせた一般兵を、ソラリス達が捕縛していく。彼らを守れたという事実に、供助が安堵する。
　手分けして一般兵への対処を終えた頃、いよいよ夜明けが迫る。
　灼滅者が見据える海の先……アッシュ・ランチャーは、そこにいる。

作者：七尾マサムネ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年5月2日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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