アッシュ・ランチャーの野望～海より軍勢は来たりて

■リプレイ

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　――その光景は、あまりにも常軌を逸したものだった。
「なにコレ、バカじゃないの！？　やりすぎだろ！！」
　海から迫る人、人、人。その光景に、呆然とポンパドール・ガレット（火翼の王・d00268）が呟いた。自分たちが担当するだけでさえ、３０００人も及ぶ完全武装の軍勢なのだ。現代の地上戦において、これだけの数が迫る事は稀だろう――ハリウッド映画の１シーンのように、現実感が薄い。
「この世で最も唾棄すべきダークネスだな、アッシュ・ランチャー」
　空月・陽太（魔弾の悪魔の弟子・d25198）からして、既に戦闘態勢にあるのか淡々と吐き捨てる。そこにはこれからこの軍勢を相手にするという、恐怖はなかった。
「んもう！　アンデッドなんてまた七面倒なものを引連れてやって来るだなんて、ほんと何しやがるんだ！って話ですよ！」
「まさか軍隊相手取るたぁなぁ……奴さんも本気みたいやね」
　木津・実季（狩狼・d31826）のぼやきに、荒吹・千鳥（風立ちぬ・d29636）も呆れを隠せずこぼす。それに、ダグラス・マクギャレイ（獣・d19431）が牙を剥くように笑った。
「何にせよ、誰も行かさねぇ。それだけだ」
「そうだな」
　ヘイズ・フォルク（青空のツバメ・d31821）は雷華禍月の柄へと手をかけて、身構える。
（「敵は3000超え、此方は8人。まぁ、フェアじゃないよな……」）
　実際、フェアな戦いを敵は求めていないのだろう。ヘイズは、その事に確信さえあった。灼滅者相手に、一般兵がどこまでの戦力になるのか――いや、あの一般兵は同じ一般人を殺し排除するためだけの駒なのだ。
「沖縄の人たちの虐殺なんてさせないよっ！　作戦を成功させて、元凶のアッシュ・ランチャーを灼滅するよ！」
「いいだろう、１人も死なせずに全て守りきってみせる」
　黒揚羽・柘榴（魔導の蝶は闇を滅する・d25134）の言葉に、陽太が言い捨てる。この目の前に立ち塞がる軍勢を前にしてそう言えるのは、彼等がただ灼滅者だからではない――それだけの覚悟を持って、この場に立っているからだ。
　迅・正流（斬影輝神・d02428）は深呼吸を一つ、破断の刃を手に言い放った。
「斬影騎士“鎧鴉”見……斬！」
　その誇りを込めた名乗りが、８人と軍勢との戦いの始まりを告げた。

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「まず、コレでどうか――ネ！」
　ポンパドールが、ＥＳＰ殺界形成を作動させる。それに軍勢の先頭の動きが、わずかに鈍った。それは、何かの拍子で波が食い止められたような動きを軍勢に与える。
「後ろのの奴らを上陸させるな」
　正流のＥＳＰラブフェロモンによる兵士達への願いは、しかし効果を現わさない。例え愛する者が目の前に現れようと、彼等は戦いに来たのだ――その覚悟の前には、ラブフェロモンでは効果があまりにも薄すぎた。
「これは、ラブフェロモンでは無理――」
　だな、という陽太の言葉が轟く銃声に飲み込まれる。最前線の兵士達が、そこから近づくことなくアサルトライフルの銃弾を叩き込んできたのだ。銃弾の雨が降り注ぐ中を、陽太はHresvelgrで加速を得て駆け出した。
「頼む」
「任せろ――その場を動くな」
　ヘイズの放つＥＳＰ王者の風に、銃声が弱まる。それに気付き、実季が前に出た。
「混ざってましたね、あそこです！」
　動きを止めた人々に混じって、一体のアンデッドがアサルトライフルを撃ち続けていたのだ。バベルの鎖の効果を持たない一般兵の銃弾とは違う、確かな痛みを伴う銃弾を実季は我が身を盾に受け止めた。
「人が邪魔で――」
「そこはうちが」
　千鳥の発動させたＥＳＰ魂鎮めの風が、軍勢の最前列が腰砕けに崩れ落ちていく。それによって崩れた人の壁に、ただ一人残っていたアンデッドへ跳んだ陽太の燃え盛る後ろ回し蹴りが、アンデッドの側頭部を蹴り抜いた。
「これはまずいな――前に出るぞ」
　ダグラスの言葉の意味を仲間が問い正す前に、その理由は見て取れた。３０００人という軍勢、あくまで今はその先頭の動きを制したに過ぎない。まだまだ、こちらのＥＳＰの効果範囲にいない一般兵の方が多いのだ。
「それに、このままじゃああの前衛が後方から雪崩れた兵士に押し潰されちまう。底意地が悪いぜ、この状況を考えた奴はよ」
　いわばこれは追い込みの狩りだ――ダグラスは、相手の真意に気付いた。このまま放置すれば崩れた前衛は踏み潰され、新たなアンデッドの出来上がりだ。
「それをこちらが望まない……把握した上での作戦だね」
　柘榴は眉根を寄せて、前に出る。今もこちらへ向かう軍勢は前進を続けているのだ、それを食い止めるためには前に出なくてはならない――！
「その場で動くな」
　柘榴のＥＳＰ王者の風に、再び効果範囲内の一般兵が動きを止めた。それでも動く人影、アンデッドの動きに柘榴が振り返らずに名を呼ぶ。
「千鳥ちゃん！」
「はいなぁ」
　すぐさま、魂鎮めの風を持つ千鳥が前に出る――しかし、そこへ真っ直ぐに駆けてくる巨大な影があった。全長３メートルの二足歩行ロボット似た巨体、人甲兵の一体だ。
　３メートルほどの巨体、それを活かした体当たりだ。それを防いだのは白金色の巨大なガントレット型縛霊手、ぐらっせを構えたポンパドールだ。
「チャル！　よろしく！」
「お、このタイミングか？」
　ウイングキャットのチャルダッシュがリングの尾を光らせ、ダグラスがHarkenを振るってセイクリッドウインドを吹かせた。
「アンデッド達は任せろ、一般兵を頼んだ」
　正流はすぐさま切り替えて、前に出る。この一時接触で、相手に有効な戦術がわかった。王者の風で足止めし、魂鎮めの風によって人壁を排除する。その上で殺界形成の効果範囲内へと迷わず入りこんで来るのが、アンデッド達だ。
「私達でフォローします！　とにかく、前へ！」
「わかった」
　実季の言葉にヘイズは、首肯。前へ出ながら、叫んだ。
「我が命に従え！」

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「よーし、一歩も引かないからなー！　来い！」
　敢えて真正面に立つポンパドールに、一般兵からの銃弾が飛ぶ。しかし、その銃弾はポンパドールにとっては無視していいものだ。問題は――。
「お前、だ――！！」
　深紅のビロード地に金の刺繍をちりばめたブーツ、おうさまのくつで高く高く跳んだポンパドールが空中でクルリと一回転。猫のような身のこなしでアンデッドの頭上へと踵を落とした。
　よろけたアンデッドは、なおもアサルトライフルを構える。その銃口がどこに向いているのか気付いて、その前へと疾風のような速度で陽太が滑り込んだ。
「させるか」
　死角から滑り込む黒い風が、アンデッドの足を断ち切る――直後、ガガガガガガガガガガガガガガガ！　と空に目掛けて銃弾がばら撒かれた。
「誰も殺させない。そう言った」
　アンデッドの銃口が向いていたのは、無力化された一般兵達だった。その銃弾で殺されれば――そこに、新たなアンデッドが生まれていただろう。
「陽太君、横から王者の風で切り崩すよ。サポート、お願い」
「ああ」
　柘榴の声に、陽太は止まる事無くすぐにその横へと並ぶ。柘榴の王者の風による制止と、千鳥の魂鎮めの風によって一般兵達の一角が文字通り切り崩されていった。
「後、もうちょいや、頑張って！」
　千鳥の声は、逆側を担当していたヘイズへと届いていた。３０００人いた一般兵の数は、もう既に１０分の１にも満たない数になっていたのだ。
　ヘイズの目の前に、人甲兵の一体が立ち塞がる。こちらの戦術の要が自分にあると気付いたのだろう――だからと言って、止まってやる覚えがない。
「大灼甲！　影よ光と共に在れ！」
　ヘイズの横から、正流が前に出る。己の影から現れる闇の姿を身にまとい、正流は破断の刃を大上段に構えた。
「斬影輝神ギル・ガイア！　光臨！　無双迅流神技！　輝神断罪剣！」
　正流の渾身の大上段、それに合わせてヘイズの居合い一閃――赤い妖刀、雷華禍月の一撃が繰り出された。
「そんな装甲でこの刃、止められると思うなっ！」
　縦と横、正流とヘイズの斬撃に人甲兵が十字に切り刻まれる！　装甲からアンデッドが零れ落ちると同時、そのアッシュ・ランチャーが誇る人型兵器人甲兵が爆発四散した。
　そこへ、三体のアンデッド達がアサルトライフルを構える。しかし、即座にアンデッド達を撃ち砕かれた――実季のガンナイフの銃弾だ。
「一息でやりたいのに狙いが外れてしまうのは嫌なので、どうか動かないで下さい。とは言ってもアンデッドなのでわかりませんか」
　まだ、一般兵に隠れて何体かのアンデッド達が残っている。決して油断は出来ない、実季は周囲に視線を走らせ敵の姿を追った。
（「思った以上に梃子摺ったが、上々か」）
　チャルダッシュがリングを光らせるのを横目に見て、ダグラスはポンパドールにダイダロスベルトの鎧をまとわせる。どのタイミングでどう回復させればいいのか？　ようは、自分がされると助かるタイミングを計ればいいのだ、前衛での経験は回復役でも役に立った。
（「こんな状況でも楽しめる……戦いの場にいればいいってことか」）
　ダグラスは己を振り返って、そう笑う。この状況でも笑えるのならば、それは本物だ。
　一般兵を無力化するために、灼滅者達は全力を尽くしていく。想定よりも時間はかかったものの、倒れた一般兵達をフォローする事を心がけた分、アンデッドを増やさずにすんだのは大きい。
　確実に、慎重に――灼滅者達の努力は実り、多くの一般兵達の無力化に成功した。その頃には、人甲兵５体程度とアンデッド２０体程度の敵戦力は半分以下に激減していた。
「まだ、まだ……敵は全て斬る！」
　ザンッ！　と地面を蹴って、ヘイズが疾走する。雷華禍月による居合いの一撃は、赤い軌道を描いてアンデッドの胴を見事に断ち切った。ヘイズを追って放たれるアンデッド達の銃弾は、一つ二つ三つの閃く雷華禍月によって切り払われ、ヘイズには届かない。
「無双迅流の真髄は闘志にあり！」
　クリエイトファイアの炎をまといながら、退く事を知らぬ剣士が前に出た。こぼれる炎を己の手でかき集めた正流のバニシングフレアが、アンデッドたちを燃やし尽くした。
　ゴォ！　とそこへ人甲兵が迫った。正流へと巨大な鉄塊のような拳が振り下ろされる――そう思った刹那、チャルダッシュと共にポンパドールが人甲兵の肩へと降り立った。
「させないぞっと！！」
　チャルダッシュの肉球パンチと共にホワイトタイガーがごときオーラをまとい、ポンパドールの豪快な燃え盛る蹴りが人甲兵を後方へと飛ばした。宙に舞う、３メートルのパワードスーツ――そこに控えていたのは、ダグラスだった。
「……しかし落ち着かねえなコレ」
　手にした武器を眺めてこぼしたダグラスは、次の瞬間獣のごとく牙を剥く。跳躍と共に、獣が爪牙を振るうように回し蹴りを繰り出した。
「一発ぐらい、いいだろ！」
　ゴゥン！　と破砕音を立てて、人甲兵がダグラスの蹴りで両断される。そこに、最後に残った人甲兵が駆け込んだ。
「そこまでです！」
　その人甲兵の死角へ、実季が滑り込んだ。ガンナイフのナイフ部分が、膝裏の関節部分を深く切り裂く――実季の黒死斬に、人甲兵が大きく体勢を崩した。
「これで終わりだ」
　大きく跳んだ陽太の縛霊手が人甲兵の顔面部分を掴んだ瞬間、千鳥が真横へ回り込んだ。
「合わせるんよ、空月さん、柘榴さん」
「うん、行くよ――我が影は、敵を喰らい尽くすっ！」
　詠唱と共に柘榴が描く魔法陣、五芒星から影が伸びて人甲兵の巨体を飲み込む。そして、千鳥の黄泉比良坂交別神奈比が人甲兵の足を払った刹那、陽太が人甲兵を地面へと叩き付けた。
　その一撃が、止めとなる。鈍い爆発音と共に四散した人甲兵を最後に、残った一般兵たちが撤退を開始する――この戦場での戦いに終止符が打たれた瞬間だった……。

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「これで大丈夫でしょうか」
　無力化された一般兵達を縛り上げ終えて、実季は呟いた。時間は朝日が明ける前――もうすぐ、太陽が昇る頃だろう。
「誰も殺さずにすんだんやなぁ」
「うん、それは良かったけど……」
　安堵の吐息をこぼした千鳥に、柘榴は一般兵達が逃げて行った方向へ視線を向ける。これはあくまで前哨戦、アッシュ・ランチャーとの決戦がまだ残っているのだ。
「このままじゃ、終わらせないさ」
　戦いが終わったからこそ、陽太の顔に浮かぶのは軽薄の笑みだった。しかし、その視線の鋭さはまだ戦いが終わっていないように見えるのは、気のせいだろうか？
「くるならこい！　おうさまはな、みんなをまもるモノなんだぜ！」
　チャルダッシュを傍らに、ポンパドールが海へ向かって叫ぶ。その決意こそ、これから先の戦い――アッシュ・ランチャーとの決着に、もっとも必要なものだった……。

作者：波多野志郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年5月2日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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