アッシュ・ランチャーの野望～死人の兵共

■リプレイ

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　時は早朝。否、深夜と早朝の間というべき方が近いか。何れにせよ空には星が灯り、人が寝静まる時間であることを示している。
「流石にこの時間に外にいる人は多くないみたいだね」
「手間が省けてよかったんじゃねえかな」
　比良坂・柩（がしゃどくろ・d27049）が炎導・淼（ー・d04945）と共にホテルのロビーに帰ってきながら言葉を交わす。波音を枕に流すこの場所では、夜を見に行くことがなければ外に出ることもあるまい。
「交通量も殆ど無かったですね。やはり本番は来てから、ということでしょう」
　石弓・矧（狂刃・d00299）はホテル前の道路に通行止めの標識を置いて帰ってきていた。恐らく相手がこの時間帯を選んだのは人々が寝静まっており、効率的に襲撃が出来ると言う理由なのだろう。
「……ところでかいどー先輩は何を買ってきたの？」
「ん、これ？　上手く行ったら教えてあげるよ」
　段ボール箱を抱える戒道・蔵乃祐（逆戟・d06549）に月夜・玲（過去は投げ捨てるもの・d12030）が問う。
「おっと、これは出しておこう」
　蔵乃祐は箱の中から双眼鏡を取り出し、レンズを覗き込んで使えるかどうかを確認する。ホテルの上階からこれで見れば発見も早くなるだろう。
「こいつも箱の中に入れておくな」
　彼の背後で淳・周（赤き暴風・d05550）が縄を段ボール箱にしまっている。要するに捕縛用の道具が中に入って居るのだろう。
「………」
　事が起きるまで少しの時間がある。そんな中でヴィア・ラクテア（ジムノペディ・d23547）は星空をガラス越しに見上げていた。周りに街の灯のないこの場所ではやけに星が強く見える。
「あ、ヴィアさん。戦いの前に蓮餅どうぞ。腹が減っては戦はできぬ、です！」
　蓬野・榛名（陽映り小町・d33560）が配っているのだろう、彼に手作りの蓮餅を差し出す。実際、今回の作戦は長丁場になるだろう。三千人と言う今までにない敵の数に彼女は緊張を隠しきれていないのだろう。
　大きな作戦の前の静かな準備時間。そして揚陸艇の姿が見えたという連絡が入ったのはそれから１０分足らずの後であった。

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　灼滅者達は砂浜に出ると同時にバディを組み散開して軍勢を迎え撃つ。敵の数は余りに大きすぎ、自然と戦線が横に伸びている。これを効率的に食い止めるには彼らも同じように広がる必要があった。
「お仕事ご苦労様という感じだね」
「随分と面倒な手を打ってくるわね」
　蔵乃祐と柩は多数の軍勢を前に駆けながら呟く。ＥＳＰによる無力化はある程度踏み込んだ方が効果が出やすく、また見える範囲には一般兵しか見当たらない。灼滅者である彼らならば相手の攻撃を避けるのは容易だ。
「このあたりで」
「了解」
　柩が短く言うと王者の風を吹かせる。たった今までこちらに銃口を向けていた兵達の手が震え始める。この状態では引き金すら引くことはできないだろう。
「今すぐ武器を捨て、向こうまで行ってから伏せてろ！　いいか動くなよ！」
　蔵乃祐が王者の風の影響下にある一般兵達に流暢な中国語で指示を出す。数十人が彼の指示通りに動いて行く。
「……素直過ぎない？」
「面倒は無くていいよ」
　どこからか卓球のラケットを取り出していた彼に一瞥してから、柩は次の向かうべきところを探す。まだ沢山の相手がここにはいるのだ。
「武器を捨てて戦場外で留まって下さい！　命が惜しければわたし達に従って！」
　榛名がラブフェロモンと共に声を大きく張り上げて兵達に呼びかける。声を向けられた一般兵達はそれぞれに気まずそうな表情を浮かべながらも、彼女の言う言葉に応える素振りはない。彼らも背負うものがあるということだろう。
「ちっ、止まらねえか！　かと言ってここをそのままにしておくわけにはいかねえし！」
　淼は王者の風を放ちとりあえず動きを止めていく。彼に失念していた事があるのなら、相手は組織立って動いており、単独の相手などいないということだ。このまま人甲兵を探しに行くことは可能だろうが、ここを無視するとホテルに兵達がたどり着いてしまうだろう。
「すみません……止められませんでした」
「気にすんな、とりあえずとっとと目標を見つけようぜ」
　二人はとにかくも目の前の一般兵達を無力化していく。
「にゃ！」
「どうした、寸！　……あいつは！」
「指揮官がアンデッド……！」
　淼と榛名は周りの部隊を立て直そうとするアンデッドを認めると向かって走っていく。指揮官を倒せれば、もっと効率的にこの軍団を止めることが出来るだろう。
「もう少しバラけたほうがいいですか？」
「うん、そっちの方が多分早い」
　ヴィアと玲は走る途中で個人行動に切り替えて無力化を図っていく。まず止めなければならないのは多数の一般兵である。それぞれにＥＳＰを用いて敵兵達を無力化させていく。
「こういうゲームってあるよね……」
　玲はなんとなくどこぞのコピーゲームを思い出しながらこの状況をクリアしていく。視界の中では冷静にやるべきことをこなしているヴィアがうつる。
「……物騒なことはこの海には似合わないのですよ」
　指揮官と相対しながら髪を黒く染めて攻撃を放つ彼への応援へと玲は走る。それ程強い敵ではないが、まだこれより強い人甲兵がいるのだ。ここでリソースを削られるわけにはいかない。
　その人甲兵と一足先に交戦しているのは矧と周の二人だった。一般兵を無力化しつつ、指揮官を倒していた彼らを止めようと来たのだろう。
「これは……！」
「中々強そうな相手じゃないか」
　端的に言って指揮官よりも強力な相手であるのは見て取って分かる。そして二人で挑むには少々荷の重い相手であることも。
「割りと格好いいとは思うんだけどな」
「残念ですが、斬りましょう」
　強敵を前に二人は不敵な笑みを浮かべる。そして目の前の人甲兵に斬りかかって行く。戦況は未だ混沌が続く。

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　淼と榛名は戦いの続く中で改めて周りを見る。作戦が開始された頃に比べれば戦場に残っている敵兵の数は大分減っている。それでも残っている所は恐らく指揮官か、もしくは人甲兵が居る部隊だろう。榛名は気を緩めずに行くべきところを探す。
（「わたし達は勝たないと……！」）
　もし敗走してしまえば多大な被害が出てしまうだろう。それはなんとしてでもヒーローとしては避けなければならない。
「……あれか」
　淼はある戦闘を見つける、それは人甲兵が矧と周と戦っているところであった。傍目に見れば人甲兵が優勢に見える。
「行きましょう！」
「ああ！」
　二人が人甲兵の元へ行く所で、別の方向から蔵乃祐と柩も同じところを目指しているのが分かる。
「援軍ですか、助かります」
　矧は武器を握り直し、余裕を持って相手を見定める事ができる。
（「アンデッドに殲術道具を足したようなものでしょうか」）
　何回か打ち合った結果、やはりアンデッドよりも強い相手であることは身をもって確かめている。それでも多様な戦術を取れる灼滅者程の器用さは無いように思える。
「燃やし尽くしてやるぜ！」
　仲間が駆けつけた気勢を受けて、周が全力で炎の拳を叩きつける。ただ彼女と矧の体には傷が多く生じている。そんな彼らを蔵乃祐が癒やしていく。
（「戦争と平和の想像者、か」）
　この軍団も目の前の人甲兵も対人類戦最強と呼ばれるノーライフキング相手が用意したものである。そしてそれは彼女の宿敵。
「さあ、ボクが癒やしを得るための糧となってもらうとしようか」
　人数の集まった灼滅者達の猛攻の前に人甲兵は沈んでいく。だが他方ではこの人甲兵が優勢になっている戦場もある。
「……劣勢ですね」
「ああ、うん。その分外のところで頑張っているんじゃないかな？」
　ヴィアと玲はひたすらに一般兵達と指揮官アンデッドを撃破し、戦場から一般兵を無くしていた。そしてその多くをなんとかしたところで、一般兵を連れた人甲兵と遭遇したところである。それでもこの二人が落ち着いているのは、必ず仲間達が来てくれることを指定居るから。そして、それはこれより数分の後証明されることとなる。

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　灼滅者達は最後に残った人甲兵と交戦している。確かに強力な相手であり、灼滅者達の体にも傷が多い。それでも灼滅者達が８人揃えば優位に戦い得る相手だ。
「大した攻撃じゃねえな！」
　淼は味方へ向けられた攻撃を受け止めて言い放つ。彼がこれまでに戦ってきたものよりは軽い。
「普通のアンデッドより強いけど……今は流行ってないよね」
　玲の疑問は相手に拳を打ち込みながらこぼれる。ひしゃげて割れた装甲のヒビからはアンデッドらしき姿が見える。少なくとも目の前の相手はそれに答える事は無さそうである。
「……少し勿体無いが焼き尽くしてやるぜ！」
　炎と共に放たれた周の気合が人甲兵を焼いていく。それは一片たりとも敵を許さないという熱い意思の発現。
「わたしが、この喪われたいのちを送ります！」
　それがヒーローの勤めと言うように榛名は剣を大きく構え、そして振り下ろす。切っ先は装甲ごと中のアンデッドを切り裂き灼滅する。
「……これが最後？」
　柩が敵の消えていく様を見遣り、そして辺りをうかがう。取り敢えず周りには彼ら以外に立っている者はおらず、無力化した兵士たちも離れたところで言われたとおりに伏せている。
「そうみたいですね」
　ヴィアは夜の明けきらぬ水平線を見遣りながら、事後の処理に移る。蔵乃祐は先程用意していたダンボールを既に持ってきており、中には結束バンドやダクトテープが入っている。まあ、動きを封じておくと言う意味なのだろう。妙に手慣れている気もするが。ともかくも灼滅者達はアッシュ・ランチャーの企みを阻止出来たのは事実のようだ。
「次はもっと大きな戦いになりそうですね」
　事後処理中、海の向こうを見た矧はそう呟いた。この戦いはまだ序章にすぎない、だが本命は直ぐそこだ。決着はきっと海上になるだろう――。

作者：西灰三	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年5月2日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 9／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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