アッシュ・ランチャーの野望～俺達のパイナップルは

■リプレイ

●パイナップらない人々
「おーし、今日もパイナップるぞ、お前等っ！」
　男が振り返り呼びかければ気の良い仲間達はすぐさま応えるはずだった。
「あん？」
　訝しみかけた男の視界に飛び込んできたのは、仲間の顔ではなく骸骨の仮面。
「なんだアン」
　出かけた誰何の声に答えることなく質問者を庇う様に前へ進み出た天方・矜人（疾走する魂・d01499）は視線を海へやる。
（「国家間戦争を始める気かよ。人間のルールに則って無茶苦茶するヤツってのも厄介だな。まぁ、それはさて置き――」）
　居ることがわかっていた敵軍の姿は、果たしてそこにあり。灼滅者達は、ひとまず間に合った。
「軍師殿、１００万の軍勢を打ち破る策は用意……」
「ナノ」
「してないって？　そんなー……」
　ならば次はどう動くか、ジュラル・ニート（光の中から現れた短期決戦の鬼・d02576）はナノナノの軍師殿に話を向けるも羽扇で口元を隠し頭を振る様に衝撃を受け憮然とする、ただ。
「ではまず敵が密集し動かないことが前提ですが――」
　とか普通に話し始めたら、それはナノナノではない別の何かだ。
「ここは、予め決めた作戦の通り俺達で何とかするしかない、か。国の軍隊ごと動かすとは穏やかじゃねぇな。一歩間違えれば国家戦争だぜ？　ったく」
「あーもう、メンドくさいわねぇホント」
　日向・和志（チェイン・d01496）がぼやけば、いかにもやる気なさ気な態度で明石・瑞穂（ブラッドバス・d02578）も肩をすくめる。
（「３０００人も押し掛けてる上、人甲兵？　まったく、人型兵器ってだけでナンセンスだってーのに。アレかしら、アッシュ某とやらはマンガやアニメの見過ぎ？　厨二病？」）
　ならば、こちらが射程距離に入り次第手にした銃を発砲するはずの兵士達はその犠牲者か。
「まさか、ここまで大きな戦を起すとは……」
「世界を滅ぼしかけた事をすっかり忘れているようですね」
　四ケタに至る敵を前にする紅羽・流希（挑戦者・d10975）と並ぶ安藤・ジェフ（夜なべ発明家・d30263）は、ちらりと未だこの場に居るバイク乗りの若者達を見ると、前へと進み出る。
「出来れば庇いたいところでしたが」
　守りより攻撃に重きを置けばそれは叶わない、だが。
「あ、そうそう」
　今思い出したという様にはたと膝を打った瑞穂はくるりと若者達に向き直り。
「パイナッポーだかペンだか知らないけど、さっさと避難しなさい。さもなと、良くて病院行き、悪けりゃ墓場に直行するハメになるわよ？　何なら、アタシがそうしてやってもいいのよ～？」
「っ」
　手にした殲術道具をこれ見よがしに見せつつ装填作業をすれば、いきなり非日常と遭遇させられた男にも理解は出来たのか。
「死にたくなかったら、海から離れて隠れてください」
「わかった」
「「リーダー？！」」
　続けるジェフの言葉へ頷く姿に他の若者達が声を上げるも、構わずバイクの機首を返し、行くぞお前等と言うなりエンジンを吹かす。
「映画撮影の邪魔になんだろ」
「え？　あ」
「そっか、さすがリーダー！」
　全然わかっちゃ居ない様だったが、結果オーライではある。
「これで、問題はあちらだけですね」
　バベルの鎖に阻まれ効かない銃撃を気にはとめず、小鳥遊・優雨（優しい雨・d05156）は発砲したばかりの兵士達に意識を傾け、表層意識を探る。
（「一般人を標的に、日本征服……正しい戦略で……間違った選択でも、あるね」）
　同じ兵士達を見つめて八葉・文（夜の闇に潜む一撃・d12377）がぐっと拳を握り締めた次の瞬間、作戦は一般兵の無力化へと移った。

●想定の外
「守るために戦う私たちの強さの前にそんな作戦は通用しない」
　文はそれを証明すべく、この時点でバイク乗り達へ向けられた銃弾を数発、身体で止めていた。もちろん、バベルの鎖を有する文にとってただの銃弾は何の脅威でもない。
「驚いてますね……このまま恐怖を振りまいて戦意や士気を奪いましょうか」
　むしろ、銃弾の効かない少年少女の存在は兵士達に動揺を与えるのに充分だった。それでも逃げ出さないのは、それが兵士だからか、同じように銃弾の効かぬ者達が組み込まれているからか。兵士の意識に触れていた優雨は丁度良いとばかりに足を前に踏み出し。
（「さー、早々にお帰り頂いて事を収めますかね」）
　中国語の看板を手にした和志もＥＳＰで一般兵を威圧し始める。五十人程はそれで無力化されただろうか。
「狙うなら指揮官だよな」
「ふむ、指揮権持ってるっぽい奴を優先的に狙って投降させりゃいいのかな」
　そんなさなか、和志の思考がジュラルと被ったのは、当然のこと。敵は人数だけならこちらの百倍以上なのだから。
「死にたくなかったら、武器を捨てて投降ください」
「さっさと武装解除して邪魔にならないように隅っこで震えてろ。おら、あくしろよ。で、指揮権持ってるのは――」
　威圧し、ジェフへ続く形で命じながら周囲を見回すジュラルが一人の兵士に目をとめたのは、威圧された兵士達が伺う様な視線を向けていたからであり。
「あー、そう来るのね」
　同時に王者の風の効果を受けず、銃を向けたままだったからでもある。濁った白目と不健康そうな肌の色をした指揮官が生者でないのは誰の目にも明らかだった。
「混じってる分にはわかりにくかったが、威圧すれば一目瞭然だな。しかし……」
　威圧感のある黒い風に兵士達の膝を折らせていた矜人は目にする。アンデッド指揮官が虚脱した兵士達へ何やらがなり立てる様を。
「叱咤激励と言いますか、脅迫と言いますか」
「この状況ではそうするでしょうね」
　ＥＳＰで相手の言葉を理解出来るジェフや流希にはわかった。アンデッドが周囲の兵士の正気を取り戻そうとしていることが。
「このままだといたちごっこですね」
　正気に戻った兵士を再び威圧しても、またアンデッド指揮官達が兵士達を正気に返す。兵士の表層意識に触れたからこそ、優雨は流れが予想出来た。
「数の上で不利なアタシ達じゃ付き合いきれないわね。メンドくさ」
　結果として戦闘の前倒しを半ば余儀なくされた事を悟って瑞穂は嫌そうな顔をし。
「戦争を仕掛けるなら、まずは使者を立て、理由を述べるべきでしょう……！　大儀なき戦はただの大量殺人でしか有りませんよ……！　命令に疑問を感じるべきです……！　後の子孫達の為に……！」
　虚脱した兵士の一人を瞳に移していた流希も言葉を止めると、殲術道具に手をかける。
「がっ」
「さて、想定外だがここからは戦闘の時間だ」
　埒があかないと判断したのは、アンデッド指揮官も同じ。兵達を萎縮させる元凶にライフルを向けた生ける屍は、流希び放った黒き波動になぎ倒され、攻撃サイキックを目撃した兵士達が驚き悲鳴をあげ。
「まあ非武装の一般人襲うような連中だし、死なない程度に手荒に扱うのは別に問題ないよね。おら、もっと離れて無いと簡単に死ぬよ？」
　手を振ってしっしと追い払いつつジュラルはちらりと軍勢の中に点在するそれを盗み見る。高さは三メートルぐらいだろうか、巨体が故に軍勢の中に居ながらも所在は明白なそれの名を人甲兵と言う。
「人甲兵ってアレでしょ、うん十年前に使ってたっていう骨董品でしょ。ンなポンコツ今さら引っ張り出してきたところで……」
　そこまで言った瞬間に顔をひきつらせたのは、人甲兵の持つライフルが自分を狙っていたからに他ならない。
「っ」
　見ていたからだろう、回避はかろうじて間に合うが紙一重だったからこそ、撃ち出された光線の威力の程はわかる。
「アレ、なんか旧式らしからぬ強さじゃね？」
「ナノ」
　かすれた声に軍師殿が応じるが、同意されても仕方ない。
「まぁ、やることをやるとしますかね」
　ガトリングガンを前に向け、狙うは前方に展開する部隊の指揮官。虚脱するどころかライフルを向けてくる時点でアンデッドなのは確定であり。
「さあ、ヒーロータイムだ！」
　決めぜりふを口にするやいなや、地を蹴った矜人はアンデッド指揮官の懐に飛び込むと雷を纏ったアッパーでかち上げる。
「そこだ」
「げっ」
　放物線を描いて落下するアンデッドは砂浜に落ちるより早く和志の射出した帯によって串刺しにされ。
「一つ」
　捻りを加えた突きで優雨に撃墜された生ける屍は縫いつけられたまま動きを止めた。
「これでこの辺りの兵士を正気に戻す指揮官は居なくなったな」
「全体で見ればほんの一部ですけどね」
　これはこれから始まるであろう闘いの縮図。ほぼ同じ事をアンデッドの数だけやらなければならないのは間違いが無く。
「……ウチは……刃……貴様の闇……切り裂き……穿つ……刃……」
　人甲兵のライトか何かの様な目でじっと見られたまま文は帯で全身を鎧の如く覆う。無論人甲兵も黙ってみている訳ではなかった、銃を向けているからには標的を狙うという意図があるのだろう。
「がうっ」
「確かに物量作戦は効果的ですが、その兵士を賄えるだけの物資はありますか？」
　霊犬の加是が撃ち出せした六文銭に怯むアンデッド指揮官へジェフは霊的因子を強制停止させる結界を構築しつつ、問う。ハイパーリンガル のお陰で質問は相手にとって理解出来る言語になっていることだろう、ただ。
「やはり、そうなりますよね」
　返答はライフルの発砲の形を取った。むろん、そうでなくても物資を消費しない兵士の見本が濁った瞳でこちらを見ている訳であり。
「あっちはまだ良さそうね」
　良くも悪くもそこからは的を絞りアンデッドを倒して行く事の繰り返し。仲間達の消耗度合いを確認しつつ瑞穂は次に誰を癒やすべきか考える。
「武器の統一で当たりにくくなってるのはありがたいけど、アレは手つかずで残っているのよね」
　ちらりと視線をやった先には無傷である人甲兵の巨体が銃口を瑞穂の仲間へ向けたところだった。

●繰り返しの後に
「スカル・ブランディング！」
　振り下ろした矜人のタクティカル・スパインが最後と思われるアンデッド指揮官を粉砕した。
「結局答えは返ってきませんでしたね」
　明らかに敵対行為に出てる相手に投げられた質問と言うことを鑑みれば、せめてカマをかけるとか捻りを入れるべきだったかも知れない。いや、そもそも末端の兵士に何が狙いかと問うたところで知らされていない可能性もあるが。ジェフっは無力化されつつも何とか戦闘には巻き込まれていない一般兵から視線を外すと、残る脅威へと向き直る。
「次は、あれですか」
「指揮官を倒された兵の恐れっぷりを見る限り、あっちを先にやっても良かったかもな」
　強いがその分人甲兵が目の前で撃破される所を見せつければ兵達の戦意をくじくことが出来たかも知れない。半ば結果論ではあったが、遅すぎたとも言い切れず、和志は指先に集めた霊力を味方に撃ち出す。
「さー、残る大物も気合い入」
　最後まで言い終えるよりも早く放たれたのは、魔法の光線。
「この威力、兵士達の戦意向上に一役買ってるのかも知れませんね」
　砂浜に突き刺さった光線が作り出した穴をちらりと見て優雨は呟く。人甲兵やアンデッドの姿が一般兵の目に触れ、異常性を感じてくれればと一時は考えていたものの、人甲兵の巨体と強さはどちらかと言えば安心感をもたらしており。
「さぞかし歯応えのある獲物になりそうよねぇ。メンドくさ」
「見方を変えれば逆用出来ると言うことでもあります」
　利用出来るモノは全て利用する、そんな方針で優雨に灼滅されたアンデッド指揮官の末路は凄惨だった。おそらく、人甲兵にも似通った最期を遂げさせる気なのだろう。次の瞬間、灼滅者達に最も近かった人甲兵の頭部で爆発が生じ。
「まぁ、でかいってのは狙いやすくはあるね、軍師殿」
「ナノナノ」
　味方をハートで癒す軍師殿に語りかけたジュラルはまだ砲身に熱を持つガトリングガンを肩に担ぐ。
「その分、硬いみたいよ、アレ」
　爆煙が晴れる様を気怠げに瑞穂が見つめて居れば、幾らか表面が傷つきはしたそれが蝉ににた頭部を露わにする。もっとも、そのまま前進とは行かなかった様だが。油が切れたブリキ人形の様に動きを止めた理由は、身体に突き刺さる文の大きな鋏。
「……鋏の断ち方……挟む他に……ある」
　持ち手の片方を蹴る様にして装甲の一部を断ち斬り鋏に喰わせれば。
「人様に先陣きらせて、貴様らは後ろで物見遊山ってか？」
　身長差をものともせず、前に立った流希は納刀した堀川国広の鞘を左手で持ったまま構えをとる。
「貴様らに罪って奴を刻んでやるよ。言い訳は閻魔様にでもしてくれ」
　言い終えるが早いか、一閃した銀光は言葉を口にする間も味方の攻撃が命中するデカブツを両断した。
「集中攻撃すると思ったより早く終わったわねぇ」
「その分、王者の風持ちが一箇所に固まっちゃうんじゃ萎縮させる分には効率が悪いがな」
　切断面から滑る様にずれて倒壊する人甲兵の姿を目撃した一般兵が恐慌状態に陥る中、灼滅者達は次の人甲兵の元へ移動を開始する。そして見つけ、集中攻撃の末に討ち取る、そう考えればアンデッド指揮官の時と差はなく。
「もう少し分散して戦っても勝てたかも知れませんね」
　二体目が倒されるのを目にしたジェフは言った。

●そして
「これで最後だ」
　矜人に膝の関節を破壊され、どうっと人甲兵が倒れたのを見届けた流希は怪我はありませんかと仲間達の方を振り返る。
「一体一体集中攻撃したから大きな被害は無かったわよ」
　とは瑞穂の弁。敵はアンデッド指揮官にしろ人甲兵にしろ散らばっていたこともあって戦力の集中は極めて有効的だったと言える。
「その分、兵士の無力化の方は効率が落ちちまったけどな」
　ポツリと零した和志は声が届く、目の届く範囲の兵士がおかしな真似をするのは止めたが、戦場となった場所とそこから半径３００ｍ程度にとどまる。もっとも人甲兵の撃破を目にしてパニックになった兵士達は半数以上が逃げだし、残っているのは虚脱してへたり込んだ兵士達だけだが。
「とりあえず、残った兵士達をどうにかしましょうか」
「……お手伝いをするよ」
　提案に乗る形で文は歩き出す仲間の後を追い。
「侵略者といえども戻ってアンデッド兵にされるのは哀れですし、戦力を補充されるのは困りますからね」
　優雨もこれについて行く。その後、灼滅者達によってどんな拘束が行われたかは定かでない。
「次の戦闘に備えますよ……。このままでは絶対に終わらせません……！」
　後始末を見届けた流希は静かに海の方へと向き直り、第二幕はこれから幕を開けるのだった。

作者：聖山葵	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年5月2日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。