5月1日の夜も深けた頃。東シナ海に人民解放軍の艦艇が集結し、沖縄本島に向けて進軍を開始する。
海を埋める大軍。総兵力100万という軍勢が、たった一人のノーライフキングの意思によって侵攻作戦を始めた。
そのノーライフキングの名は『アッシュ・ランチャー』。
サイキックアブソーバーの稼動により多くのダークネスが消えるまで、この地域の軍勢全てを治めていた、『世界のミリタリーバランスを調整するクリスタル・ミラビリス』と呼ばれていたものだった。
数時間の航行の後、その船団は沖縄本島のすぐ近くへと到達する。
上陸作戦を前に兵たちの戦意が高まる中、甲板にスーツ姿の威厳あるノーライフキングが姿を現す。その者こそこの船団を統べる元老『アッシュ・ランチャー』。世界を支配するべく定められたノーライフキングの一人。その姿を前に兵たちの喧騒が静まり、波の音だけが響き渡る。
「これまでの情報から、灼滅者達が人間社会に大きく依存しているのは間違いない。であるならば、その人間社会を制圧する事こそが、灼滅者への最大の攻撃となる。『人甲兵』部隊出撃せよ。まずは、沖縄本島を橋頭堡として、日本本土の制圧に向かうのだ。統合元老院クリスタル・ミラビリスが再び地球を管理下に置き支配する、正常な世界を取り戻す為に!」
元老『アッシュ・ランチャー』の号令が発せられると、兵たちは火が付いたように動き出す。揚陸艦が海岸へと接岸し次々と兵士達が沖縄の地を足を踏み入れる。
今この瞬間、日本侵略作戦の幕が切って落とされたのだ。
●予知
「うわっ危っ!?」
まだ夜も明けきらぬ朝も早い時間、海岸沿いの道路を走っていた車の前に人が飛び出し、運転手はブレーキを踏みハンドルを切る。
「何してやが……あ?」
ぶつかる前に止まった車の運転手が怒鳴りつけながら顔を向ける。するとそこには銃で完全武装された一団がぞろぞろと現れていた。
「構え!」
先頭の崩れ落ちた顔の兵が手を振り上げ号令を掛ける。
「ひっ」
それを見て慌てて運転手は車の中で身を屈める。
「撃て!」
振り下ろされる手。すると一斉射撃が行われ、数百発の弾丸が車を穴だらけにした。ガゴンとドアが壊れ開くと、乗っていた運転手の蜂の巣になった姿が露わになる。
「止め!」
号令に従い轟音が止むと、何事もなかったように軍靴を鳴らし車のやってきた方向へと行軍が再開される。その後ろから体を穴だらけにした男も起き上がり隊列に加わる。
道路に列を成し埋め尽くす軍勢。3000からなる兵士が向かうのはすぐ近くにある民家の多い地域。まだ寝静まった町を襲う為、軍勢は死を撒き散らしながら進軍を開始した。
●教室
「自衛隊のアンデッドの灼滅作戦は無事に成功したんだけど、彼らの目的を調査した灼滅者からの情報から、アンデッド達が独自の作戦を作戦を行おうとしていた訳ではない、という事が判ったんだ」
能登・誠一郎(大学生エクスブレイン・dn0103)が新たに手に入った情報を集まった灼滅者達に告げる。
「これはつまり、アンデッドの動きは他の大きな作戦の為の備えだったと推測できるんだよ。そしてその推測を裏付けるように、東シナ海に100万人規模の大規模な艦隊が集結している事が確認されたんだ」
その数字の大きさに思わず灼滅者達は息を飲む。100万を集結など現実には考えられないような事態だ。
「この軍隊を率いているのは、ノーライフキングの首魁の一人、統合元老院クリスタル・ミラビリスの『アッシュ・ランチャー』。そしてその目的は『日本侵略』なんだ」
誠一郎の声が静かな教室に響き、その言葉の意味に灼滅者に緊張が走る。その兵数は本気で日本を制圧しようとしていると見て間違いないだろう。
「アッシュ・ランチャーの作戦目的は『日本を制圧する事で、一般人の社会に深く根ざしていると思われる灼滅者組織の活動を阻害する』事だと推測されるんだ」
敵の作戦が成功すれば灼滅者の行動は大きく制限されてしまう。
「敵軍は5月2日の未明に沖縄本島に上陸して、市街地の制圧と虐殺を行い、死体のアンデッド化を行って戦力を増やそうとしているみたいだね。その戦力で日本制圧に乗り出すつもりだよ」
今ある兵力が更に膨れ上がればもはや手が付けられなくなるかもしれない。
「このままだと沖縄中で惨劇が起きてしまう。そうなる前に、アッシュ・ランチャーの軍勢を迎え撃ってほしいんだ」
沖縄壊滅の危機がすぐそこまで迫っている。
「敵は海から上陸して民家を狙ってくる。民家が襲われる直前に現場に入り敵を迎撃する事になるよ」
敵の上陸前に攻撃を仕掛けた場合、作戦行動が大きく変更してしまう可能性がある。なので採れるのは直前の迎撃となる。
「みんなが相手をする軍勢は3000名程度の完全武装した部隊だけど、その殆どが一般人の兵士なんだ。だからESPで無力化が可能だよ」
一般兵の攻撃はバベルの鎖がある灼滅者には効果が無い。だが市民は普通に殺せるので、放置すれば沖縄に住む人々に多くの被害が出てしまうだろう。
「それと、一般兵は倒そうと思えば簡単に全滅させられるんだけど、その場合アンデッド化してしまう可能性もあるんだ。だから出来るだけ殺さず無力化する方がいいと思うよ」
アンデッド化されると灼滅者へ攻撃が通る敵になってしまう。その数が多ければ脅威となるだろう。
「一般兵以外には、アンデッドの兵士や、人型兵器『人甲兵』も配備されてるんだ。この兵達はノーライフキングの眷属だから簡単には倒せないよ」
その数は1部隊に人甲兵5体程度、アンデッド20体程度と予想されているが、確かな数は分からない。
「特に気を付けて欲しいのは、人型兵器『人甲兵』だよ。これはアッシュ・ランチャーが第二次世界大戦時に実用化させた、アンデッドを超強化する特殊武装なんだ。これを装備しているアンデッドは、並のダークネスを越える戦闘力を持っているらしいんだ」
3000の中の5体程とはいえ、これこそが敵部隊の最大戦力という事になる。
「敵を全滅させた後は、無力化した一般兵を捕縛して、洋上のアッシュ・ランチャーとの決戦に備えてもらう事になるよ」
迎撃に成功すれば次の決戦へと繋げる事が出来るかもしれない。
「今回の作戦では多くの人の命が掛かっているんだ。失敗すれば沖縄だけでなく日本が壊滅するかもしれない。だけど成功させれば元老アッシュ・ランチャーに手が届くかもしれないよ。今までもピンチをチャンスへと変えてきたみんなの力なら、この苦難も乗り越えられるよ!」
元気づけるように誠一郎が今までの戦いを思い出して信頼の気持ちを伝える。それを受けた灼滅者達も強く頷き、人々を、日本を守ってみせると気合を入れて行動を開始した。
参加者 | |
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神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337) |
川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950) |
北逆世・折花(暴君・d07375) |
雪椿・鵺白(テレイドスコープ・d10204) |
アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770) |
月姫・舞(炊事場の主・d20689) |
牧瀬・麻耶(月下無為・d21627) |
レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267) |
●迫る軍勢
空の端が薄っすらと白くなり始めた頃、静まり返った沖縄の地に無数の軍靴の音が響く。武装した3000名もの部隊が町に向かって死を撒き散らす為に行軍していた。
それを阻止せんとたった8名の灼滅者達による防衛戦が始まる。
「虐殺やら侵攻はダメでしょ、管理者とやらの戦争ごっこに付き合う気はないんですよ」
そんな事に付き合ってはられないと、牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)は看板を置いて住宅街へ続く道を封鎖した。
「まさか人間の軍隊を相手にすることになるなんて」
それを手伝い照明を用意した月姫・舞(炊事場の主・d20689)は、遠目に軍隊が迫ってくるのを見やる。
「正直殺しても心は痛まないですけど、面倒なことになるみたいですから自重しましょう」
倒せばアンデッドが増えてしまうとなれば、これ以上面倒事は増やせないと滾る殺意を抑える。
「敵兵三千……揚陸艦一隻くらいの人数ですかね。9人と1匹で敵艦一隻落とす、中々剛毅じゃないですか」
箒に乗って空を飛ぶ川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)が行軍を見下ろして不敵な笑みを浮かべる。
「派手に戦果挙げて支配者気取りの総大将の面拝みに行くとしましょうか」
そして道を埋め尽くす敵軍の前へと降下を始めた。
「ロボットか……。ゾンビの日本侵攻というシチュエーションはB級映画っぽくて嫌いじゃないんだけど、SFは正直守備範囲外なんだよね」
北逆世・折花(暴君・d07375)は皆の高まる緊張をほぐすように軽口を叩く。
「……まぁ余談はともかく。アッシュ・ランチャーを倒すためにも、ここで遅れを取るわけにはいかない。対人類戦最強の肩書きがどの程度のものか、確かめさせてもらうとしようか」
その為にもまずはこの軍勢を追い払おうと威圧して近づく数十人の兵の足を止めた。
「一般兵も混じっているなんて、とても手強いわ……」
雪椿・鵺白(テレイドスコープ・d10204)は倒す訳にもいかないESPに掛かった兵達を見る。
「彼らを攻撃しないようにしっかりと気を付けたいわね。奈城さん、気合を入れて頑張りましょうね」
隣のビハインドの奈城に呼びかけながら、敵の心を圧して戦意を折り始めた。
「えっと、まずは一般兵さんを追いわないといけません」
アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)は影で数匹の仔羊を作り、それを合体させて大きな羊を生み出して恐怖心を煽るように演出する。
「……まさか、中国の、方から、やってくるとは、思いません、でした、ね……」
想定外の事態であっても対応しなくてはと、神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)は強烈な精神波を送る。
『……武器を、捨てて、ください』
精神を揺さ振られた兵は武器を放り出して右往左往していく。
「やあやあ。バケモノの祭典にようこそ。そして兵士諸君任務ご苦労。さっさと帰れ」
丁重にお帰り願うと、レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)が和やかな表情のまま敵を威圧した。そうして数十人ずつの敵兵が敗走して300人を超えた頃、敵の新手から号令が掛かる。
「撃て!」
すると一斉に射撃が行われる。だがその銃弾の雨は灼滅者を傷つける事はない。それを無視して一般兵の排除を続けていると、その混じって放たれた弾丸が鵺白の腕を傷つけた。
●ゾンビ兵
「進軍速度を緩めるな! 敵は蹂躙せよ!」
指示を飛ばす腐った皮膚を持つアンデッドが前線へと現れた。
「直ちに武器を捨て、その場に伏せろ」
中国語で咲夜は命令し、怯える兵達が流れ弾に当たらぬように伏せさせ、アンデッドへと向かう。
「……この先には、行かせま、せん……!」
蒼は帯を矢のように放ち、一般兵の間を縫うように飛んで指揮するアンデッドの胸を貫き動きを止める。
「全員武器を捨てるんだ! そして他の者を傷つけないよう行動しろ!」
「ここから逃げなさい! ここに居たら巻き込まれて死んでしまうわよ!」
銃弾の嵐の中、威圧しながら折花が命令して気力を奪い、鵺白も前に出てESPの範囲に入った一般兵を追い払う。すると一般兵の中に居たアンデッド兵の姿が露わになる。
「ジンギスカンさん、言うことを聞かない悪い子は食べちゃっていいですよ?」
アイスバーンの足元から影の可愛い仔羊達が駆け出し、アンデッド兵に群がり腐った脚に齧りついて引き千切る。
「殺さないように戦うのは大変ですね、でも死んでいる相手なら加減は無用です」
仲間の攻撃でアンデッドであるのを確認した舞は、影の布を身に纏って槍のように伸ばして敵の首を刎ねた。
だが一体を仕留めてもすぐに次の集団がやって来る。アンデッドを中心に一般兵が隊列を組み、一斉に銃弾を放ってくる。その殆どは灼滅者には通用しない一般兵の攻撃。だがそこに紛れてアンデッドの放った銃弾が折花の脚に当たった。すぐにウイングキャットのヨタロウはリングを光らせて治療に当たる。
「遠路遥々ご苦労さん。仕事とはいえ大変ですね、同情はしませんが」
歓迎にと麻耶はベルトを射出しアンデッドの腹を貫く。それでもアンデッドは銃を構える。
「死んでまで働きものだね。なら動けなくしてやろう」
レオンの元より銀朱の薄刃が伸びて二振りでアンデッドの両手脚を切断し、麻耶がもう一度放ったベルトが頭を破壊した。
「撃て撃て撃て! 休む間を与えるな!」
一息吐く暇もなく次の隊が発砲してくる。まさに戦場といった有様で榴弾が土煙を上げて地面に穴を穿つ。
(「それに、しても、よく、こんな、人数、集まり、ました、ね。……ミラビラスって、お名前じゃ、無かった、のですね」)
無数に居るのかと思うような一般兵達を精神波で追い払いながら、蒼はこれだけの戦力を集めていた事に驚く。
「見つけた、アンデッドはそれぞれ一般兵を纏めて指揮をしているようですね」
次の敵を咲夜が仲間に報せながら、影を伸ばし刃と化して斬りつけた。
「ばらけているなら各個撃破のチャンスだよ、アンデッドは全部排除しないとね」
突っ込んだ折花はオーラを纏った拳でアンデッドの腹を打ち抜き、下から顎を突き上げて吹き飛ばした。
僅かな間に空白が出来ても、すぐに一般兵が戦場を埋め尽くす。一般兵に混じって放たれるアンデッドの銃弾が最前列に居る折花と鵺白に幾つか被弾する。
「これだけ一般兵が多いと、アンデッド兵を探すのも大変ね」
敵の視界を塞ぐように鵺白は周囲に霧を展開し、仲間の負った銃弾の傷を塞ぐ。
「メンドくさいけど、敵が増えるのはもっとメンドくさいですから」
気怠るげに麻耶は一般兵纏めて銃を乱射するアンデッドに突っ込み、巨大な十字架を叩きつけて押し倒した。
「間違って殺されたくないなら、とっとと消えろ」
レオンは一般兵を追い払い、残ったアンデッドに薄刃を走らせ胴を切断した。
「死にたくないなら大人しくしていなさいな」
邪魔な一般兵を布で叩いて気絶させた舞は、次のアンデッドに向かいドリルのような槍を突き入れ、胸に大穴を空けた。
「えと、人酔いしてきちゃいそうです……」
次から次へと現れる軍勢にぐったりしながらも、アイスバーンは影の仔羊を襲い掛からせ、ぱっくりとアンデッドを呑み込ませた。
●人甲兵
一般兵を追い払いアンデッドを灼滅する。それを何度も繰り返していると、敵陣の中に飛び抜けて大きな存在が見える。全長3mはあろう機械を纏った兵士『人甲兵』。その姿が間近までやって来ていた。
「アレが人甲兵……変わった装備ですね」
全身を覆う巨大な機械を前に、舞は何処から壊していこうかと観察し、腕関節の隙間を狙って布を差し込み穴を穿つ。人甲兵は軋ませながらも銃を乱射する。他よりも口径の大きな弾が仲間を守ろうとした鵺白と奈城を吹き飛ばす。
「流石に強いわね、みんな気を付けて」
受け身を取った鵺白は縛霊手から光を放ち、たちどころに自らの傷を癒す。奈城は敵の注意を引くように霊波を叩き込んだ。
「流れ弾で人が死んでも困ります」
咲夜は縛霊手を展開し人甲兵を囲むように結界を張って動きを止めた。
「……ロボットに、見間違う、ような、外見、です、ね」
その間に後方に回りながら敵に向かって跳躍した蒼は、腕を獣の如く巨大化させて叩きつけ装甲を凹ませた。
「大きいな、でも負ける気はしないね」
敵を見上げ大きく跳躍した折花は、飛び蹴りを顔面に叩き込み姿勢を崩す。
「えっと、硬そうですけど、がんばってくださいジンギスカンさん」
アイスバーンが影を放ち、敵の足元で仔羊達となってむしゃむしゃと脚を削り始める。それを追い払うように人甲兵は足元に銃撃を放つ。
「ゾンビのパワードスーツとはこれまた……中身まるごとミンチにしてやる――謳えサイレーン、オレの道を切り開け」
そこへ正面から飛び込んだレオンが、異形の錫杖に禍々しい魔力を集め腹に叩きつけた。魔力が爆発し装甲が大きく凹み、内部をぐしゃぐしゃに掻き回して機械が煙を上げて動かなくなった。
『殲滅せよ、生きとし生けるもの全てを殺せ!』
倒れた鉄屑の向こう、そこにはまた一般兵を引き連れた人甲兵の姿があった。
「もうやだ、どれだけ追い払ってたら終わるんスか」
重そうに槍を手にした麻耶は氷柱を飛ばして人甲兵を氷漬けにしていく。
人甲兵が近づくまでに少しでも一般兵を退けさせ、犠牲を出さないように灼滅者は接敵する。
「さて現代兵器で魔法に挑む愚かさを教授してやろうか、第二次世界大戦時の骨董品は石と化すのがお似合いですよ」
そこへ咲夜が指輪を向けて魔弾を放ち、装甲を石へと変えていく。
足を止めながら人甲兵は機銃を掃射する。蜂の巣にするように地面に穴を空けながら灼滅者にも降り注ぐ。
「この程度の弾幕でこちらの攻撃を止められると思わない事だ」
折花は低く敵の銃撃を掻い潜り、被弾を最小限に抑えて炎を纏う蹴りで足を刈り取る。
「堅牢な鎧が少しずつ削られていく気分はどうだ?」
続いて笑みを浮かべたレオンが薄刃を幾度も斬りつけ装甲を削っていく。
「外が硬い機械でも、中に居るアンデッドは生身ですよね」
舞は傷口からドリルを突き入れ、内部のアンデッドもろともに貫いた。
『死ね』
そこへ崩れ落ちる敵ごと横から弾丸を浴びせられて薙ぎ倒される。振り向けば新たな人甲兵の姿。
「一体ずつでも連戦は疲れるわね」
鵺白は緋色のオーラを纏わせた足で蹴りつけ、魔力を奪い取って自らの傷を癒す。
「……まだ、戦え、ます」
疲労に動きを鈍らせながらも、表情を変えぬまま蒼はローラーダッシュで加速して脚を蹴り飛ばし、バランスを崩して膝をつかせた。
「こんなの何体相手にしないといけないんですか……むり」
デカ物の相手は一層疲れると麻耶は息を吐き、巨大な十字架を背中に思い切りぶつけた。
「疲れました……でももう少しがんばらないとですね」
疲労困憊といった様子でアイスバーンが影を伸ばす。仔羊が背後から現れて飛びつき敵に取りついて装甲を齧っていく。そこへ咲夜の影の刃と、折花の蹴りが叩き込まれて内部を破壊する。
「……次、です」
蒼の視線の先にはまた新手の人甲兵の姿。いつまでも続くかと思われる戦いを援護しようと、ヨタロウは一生懸命仲間を治療する。
蒼が獣の腕で脚を潰すと、咲夜は魔弾で金属を石へと変えて動きを封じる。
折花の拳は硬い金属すらも打ち破り、反撃に飛んでくる銃撃を鵺白と奈城が防ぐ。
アイスバーンはその場から動かぬまま影の仔羊で敵の機動力を奪い、その隙に舞がドリルで装甲を穿つ。
麻耶は怠そうにしながら巨大十字架を押し付け、ヨタロウはフォローに回る。
そこへレオンは錫杖を振り下し、敵の頭を叩き潰す。
そうして戦い続けると、気付けば最後に残ったのは一般兵の残兵と一体の人甲兵のみとなっていた。
「残りは一体。このまま一気に決着を着けようか」
爆風に煽られながらも折花が突っ切って拳を膝に打ち込む。人甲兵はよろめきながら砲弾を飛ばして爆発を起こす。
「後はあなただけよ、その装甲ごと焼き尽くしてあげるわ」
その爆風を突っ切った鵺白はダッシュから炎を纏わせた蹴りを叩き込むと、奈城も合わせて反対から挟撃する。
「動きが鈍ってきましたよ、古くて手入れが出来ていないのではないですか」
咲夜は続けて魔弾を撃ち続け、表面をどんどん石へと変えてゆく。
「これで最後ですから、全部食べちゃっていいですよ。お腹いっぱいになってくださいね」
アイスバーンが影を操り仔羊を群がらせて覆い尽くし、敵の装甲を食い荒らし石となった表面が砕ける。
『人間は、殺す、殺す殺す殺す』
人甲兵は無理矢理体を動かして銃弾の雨を降らす。
「これ以上はむり、もう帰ってもいいですか?」
麻耶は槍を敵に放り投げ、突き刺さった足を地面ごと縫い付けるように凍らせる。
「もう体力を温存する必要もありませんね」
舞が紅白合繊巻きの柄を握り刀を抜き放つ。
「悪を極めんとした男の業(わざ)と業(ごう)を見なさい。血河飛翔っ、濡れ燕!」
一気に間合いを詰めると、2段ジャンプで敵の頭上を取る。振り下ろされる白刃、だがそれと同時に足元から影が刃となって敵の足を貫き、気を取られた一瞬に剣閃が頭部を一刀両断にしていた。
「……終わりに、します」
蒼が獣の腕で歪んだ胸部装甲に指を掛け、敵の体を蹴るようにして引き剥がした。
「ゾンビがどんな装備をしようと、所詮はゾンビだ」
疲れを見せず笑いながらレオンがそこへ錫杖を叩き込み、大きな爆発が起こって敵の体がパーツごとに四散した。
●朝日
最後の人甲兵が倒れたのを見た一般兵達は戦意を失い総崩れとなっていく。
「正気に戻っても何も出来ないようにしておきましょう」
舞がワイヤーで無力化した兵達の拘束を始める。
「これを全員捕縛か、どれだけ時間がかかるかな」
戦いの後にまた一苦労だとレオンは敗残兵を見渡す。
「これでは情報は聞き出せそうにありませんね。元より下っ端の兵士では期待もできませんが」
咲夜はESPの影響で錯乱する兵を縛り上げ放り出した。
「後始末が大変そうね、出来る範囲でやっておきましょうか」
放っておく訳にもいかないと兵の拘束を鵺白が手伝う。
「一先ず迎撃はこれで終わりだけど、まだ何かあったりするのかな」
折花は敵本丸のある海へと視線を向けた。
「えと、まだ戦いが続いたりするんでしょうか……」
「むりむり、もう一歩も動けないスよ」
もう歩けないと屈んだアイスバーンが疲れ切った顔で周囲を見渡し、これ以上動きたくないと麻耶が座り込んだ。
「……何が、あっても、負け、ません」
蒼は同じように勝利を収めているだろう、他の戦場へと意識を向ける。これだけの灼滅者が集まれがどんな戦いも勝ち抜ける。そう戦い抜いた皆の顔には自信が満ちていた。
敗残兵の後処理をする灼滅者達を、昇り始める朝日が照らした。
作者:天木一 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年5月2日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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