今はただ、力を求む

    作者:八雲秋

    「グルルルル」
     炎を纏った3頭の大きな犬が剣を手にした長髪の男に向かって唸り声を上げていた。
    「噂を辿ってみればただの都市伝説か」
     男が呟いた。
    「ガァァアアアッ!」
     一頭が男に飛びかかる。
    「つまらん」
     男は自分の目の色と同じ赤い血の色をした剣を無造作に振るう。いや、無造作に振るったように見えた。
    「グァァッ!」
     襲いかかった犬が倒れる。剣は彼らの急所を捕えていた。
    「ウウゥゥ」
     威嚇するように離れたまま唸る一頭に向かって男は迷わずに剣を投げつける。それは額に突き刺さり、犬は倒れる。
     男が武器を手放した事をチャンスと思ったのか残りの一頭が彼を襲い、彼の肩口に噛みつく。男は眉を顰め、
    「勝てると思ったか、愚かな」
     言葉を返すと同時に出現させた剣で犬の脇腹を貫いた。
    「グァァアアアッ!」
     犬は断末魔の唸りを響かせながら、消滅していった。
    「これで終わりか、中々ダークネスには遭遇できないものだな」
     何の感慨もなく中空を見、呟く。それから。
    「ふん、無駄な傷をつけられた」
     歩きながら、自分の傷に右手をかざす。その手から霧が生み出される。その霧は傷口を氷が纏わるように覆い、癒していった。


     闇堕ちした近衛・一樹(紅血氷晶・d10268)が見つかった。
     彼はダークネスのはぐれ者や少数勢力に声をかけ自分の傘下に、あるいは同盟を結ぼうと動いている。
     ダークネス、ヴァンパイアとなった彼は非情で計算高い。
     今の彼の胸の内に、かつての灼滅者としての彼の考えが眠っているとは考えない方がいい。むしろダークネスとしての彼の心境を読み解く方が重要だろう。
     戦闘能力についても説明しよう。
     能力はダンピールと同様の物を持っている。ただし闇堕ちした分、体力、攻撃力は上がっている。
     血の色をした剣はサイキックソードでの攻撃と同等の物だ。投擲したと思われた直後に同じ武器で攻撃できたのは光刃放出のようなものと思ってくれたらいい。つまりいくらでも作り出せる訳だ。
     次に彼が現れる場所についてだ。
     彼は別のダークネスに接触しようとして、とある廃校に夕方、現れる。実際にそこにはダークネスは現れず、空振りになるのだけれど……君たちにはそこに向かってほしい。
     彼とはその学校の体育館で対峙する事になる。彼は戦力を見極め、場合によっては逃走も図るだろう。気を付けて行動してほしい。
     出来る事なら勿論、救出してほしいが、無理ならば灼滅も覚悟してもらいたい。
     相手はダークネスであり、今回の接触で失敗すれば彼は完全に闇堕ちしてしまい、救う機会は失われてしまうだろうから。
     皆、よろしく頼んだよ。


    参加者
    緋神・討真(黒翼咆哮・d03253)
    木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)
    ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)
    ワルゼー・マシュヴァンテ(はお布施で食べていきたい・d11167)
    船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)
    九条・御調(宝石のように煌く奇跡・d20996)
    ヴァーリ・マニャーキン(本人は崇田愛莉と自称・d27995)
    百道浜・華夜(翼蛇・d32692)

    ■リプレイ

    ● 
     ダークネスが体育館の扉を開け、中に入っていった。辺りを見回し、呟く。
    「ここを根城にしている奴らがいると聞いたが、ガセだったようだな。誰も……いや」
     彼の後に続いて入ってきた者たちがいる。
    「灼滅者か」
    「そうよ」
     木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)が彼の真正面に立ち、答える。
    「ようやく見つかったと思ったら、まためんどうな……とっとと一樹を返してもらうわよ」
     ダークネスが見回す。対峙する灼滅者たちは近衛一樹の知り合いが多い。
    「うとましい」
     即座に包囲の手薄そうな箇所を狙い駆け出すが。チュィーン。威嚇するようなライフル音が彼の行く手を塞いだ。
     バスターライフルで撃った船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)は素早く身を隠す。
     ダークネスは眉を顰め、
    「上にも一人……いや、複数いるのか」
     2階の位置にヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)がバスターライフルを構えて彼を狙い、言う。
    「逃走は絶対にさせません」
     ダークネスは再び状況を確認しようと動く、と、
    「力を求めているようだが」
     ヴァーリ・マニャーキン(本人は崇田愛莉と自称・d27995)が彼に話しかけた。
    「猶更一旦近衛先輩に体の主導権を戻した方が良いと思うがな。近衛先輩が強くなればお前の力も増す。お前自身が鍛錬するより遥かに効率的にな。学園は戦いが多い。お前が再び主導権を握る機会は幾らでもある。何れ癒しを得られず闇堕ちする可能性だって」
    「『可能性』ね」
     彼は無感情に繰り返す。
    「随分長いこと、闇の力にその身を委ねたものだ。求めていた力は得られたか?」
     ワルゼー・マシュヴァンテ(はお布施で食べていきたい・d11167)は自分の言葉に彼が無反応なのを気にする事もなく続ける。
    「はぐれや野良のダークネスを糾合して勢力を築こうとしているらしいが、難しかろう?」
     首を傾げ、彼に問いかける。
    「そもそも理屈で動いている連中では無いからのぅ……力を得て何かを成したいのであれば、ダークネスではなく学園を利用せよ。はぐれを仲間にするよりも、よほどそちらの方が建設的だ」
    「最近は、何かと大御所のダークネスも倒していますから並みのダークネスより学園の方が役に立つと思いますよ。 あなたの様なダークネスがその辺りの陳腐なダークネスと組むより有意義だと思うのです!」
     百道浜・華夜(翼蛇・d32692)も続ける。
    「こちらの腹の内も知らぬまま、無邪気な物言いだな」
     彼の皮肉にワルゼーは返す。
    「計算高いお主のこと、闇堕ちを経験して学園に戻ることで、何かしら良い企みが思い浮かぶかもしれんな。我々にとっては毒を呑むことになるが、まぁそれもよかろう」
     彼女は妖の槍を構え、言う。
    「我々が力を預けるに足るか、試すのであれば相手になるぞ?」
    「興味がないと言ったらどうする」
     ヴァーリが返す。
    「学園はお前も知ってる通りしつこいぞ? 学園に追われながら出会えるかどうか判らないはぐれ者を探すのか? 仮に出会えても学園を敵に回して迄、相手がお前と同盟を組もうとすると思うのか?」
    「ダークネスの私にそれを聞くのか」
     言うなり、剣をヴァーリに投げつける。
     華夜のライドキャリバー、エスアールがヴァーリを庇う。
    「いっそ、因果は断ち切るべきかもな」
     ダークネスはわずかに口角を上げた。
     戦闘が始まった。


    (「いつもの顔ぶれ」というものは一人欠けても寂しいものなのですよ……帰って来て貰います、一樹先輩!」)
     九条・御調(宝石のように煌く奇跡・d20996)が前衛にイエローサインを送る。
    (「パートナーと隠居を決め込んだ矢先に友人のひとりが闇堕ちとは皮肉なものだ。なんにしても逃がしはしないし友の生命を諦めるつもりもない」)
     緋神・討真(黒翼咆哮・d03253)は黒死斬を彼に仕掛けた。
    「お前とマジで殴り合うことはなかったよな。良くも悪くもいい機会だ」
     互いの想いを叶える舞踏会、なんてたとえたら気障か?
    「劣勢の連中と合流したところでお前の未来なんて先が知れてる。まあそれでもお前が何を望むかなんてお前の勝手だが……」
     凄惨な笑みを浮かべ討真は宣言する。
    「俺たちがその儚い幻想をぶち壊す!!」
     続き、亜綾が空飛ぶ箒で上空からフリージングデスを放つ。
    「力を求める、それは仲間との信頼関係から成り立つもの口で言ってもわからないでしょうから、実際に見せてあげますぅ。この私達必殺の連携、とくとみるといいのですぅ」
     ヴィントがフリージングデスを重ね撃ち、
    「力を求めた結果がこれね。仲間が欲しいのなら、戻ってきた方が無難よ。何故なら、ここまでの自身の行動がそれを物語っているのではなくて?」
     実際、単独で何の情報のつても持たぬものがダークネスに接触するのはたやすくはない。しかし、彼が肯首する事はない。
    「灼滅者に戻って欲しいとでも? このダークネスに何を期待していると言うのだ、愚かな」
     華夜がダイダロスベルトを彼に向け放出し、
    「あなたをここで失う訳には行かないんです!」
    「戦力を失うのを忌むか」
    「違う!」
     即座にヴァーリが否定する。
    「知り合いがいなくなるのは真っ平ごめんだからな! 全力ではっ倒して取り戻させて貰う!!」
     華夜も頷き、
    「あなたを大事に想う人が集まってここまで来てるんです。必ず救出してみせます!!」
    「出来るものならばな」
     ダークネスが剣を水平に振るう。前衛の者たちが皆、ダメージを受ける。
    「治癒します!」
     御調は前衛にイエローサインでヒールと耐性を施した後、キッとダークネスを見据える。
    「メリットデメリット、天秤にかけて下さいね」
    「懲りないな。お前も説得を……」
     言いかけるのを遮るように、彼女は言い切る。
    「帰って来て貰えないと新作の料理を食べて頂けないじゃないですか」
    「なに?」
     一瞬だが、ダークネスは虚を突かれたような表情を浮かべた。
    「私にも私の都合があるんです」
     法衣を翻し、自身の胸元に手を置き、訴える。
    「教団内のボケとツッコミの数が合わないと日々困るんですよね。帰って来て中和して貰えませんか?」
    「ふざけた真似を」
    「いたって真剣ですが」
     真顔で返答する。
    「戯言だ」
     言い切り、ダークネスは剣を構え、御調を狙う。カイリが遮るようにダークネスの前に立つ。その動きに合わせ、ヴァーリが槍から妖冷弾を放つ。
    「はっきり言ってはぐれダークネス集めたって大した力にならないわよ。大した力になっちゃったら学園が本腰入れて潰すだろうしね。あんたもこのまま灼滅されるか、おとなしく一樹の中で次の機会を狙って雌伏の時を過ごすか選びなさい。ちなみに、ここで逃がす気なんかないし、あんたを見逃すなんて選択肢もあり得ないんだからね」
     御凛の強気な言葉に、眉を顰め、
    「一樹がそんなに大事かい、お前も」
     ダークネスが討真の間合いに入り、剣で貫く。
    「ぐっ……!」
     血の色の剣は討真の血を吸いとったかのようになお一層、赤い光を増す。
    「ダークネスの力はどうだい。一樹よりもよっぽど上だろ」
     傷を負いながらもダークネスを睨む討真の背に御調が癒しを送る。
    「この程度の攻撃で止められるほど俺達の仲は柔くねぇぞ!」
     討真がパッショネイトダンスで反撃する。だが、負わせた傷はまだ浅い。ダークネスが言う。
    「これが君の全力か」
     討真は怒るでもなく。
    「俺の火力でどうこうできるなんて思ってねぇよ。適材適所俺は壁で十分だ。お前と違って俺には頼りになるやつがいるからな。御凛っいっけぇぇぇ!!」
     彼の掛け声に合わせ、
    「たぁあーっ!」
     魔力を込めたマテリアルロッドの全力の打撃を加える。
    「うっ!」
     ロッドを喰らった左肩を押え、ダークネスが低く呻く。
     更にワルゼーが渦巻く風の刃で彼を切り裂く。
    (「チャンス!」)
     亜綾が霊犬に声を掛ける。
    「行きますよぉ、烈光さん」
     烈光がダークネスの視界を遮る動きを見せる。
     と、同時に亜綾はダークネスの上空から空飛ぶ箒で急接近する。
    「必殺ぅ、システマ教団マル秘奥義、友情のトリプルインパクトっ」
     バベルブレイカーが死の中心点を捕える。トリガーを引く。
    「ダークブレイク、エンド、ですぅ」
    「ぐはっ!」
     身を貫かれ、ダークネスが今にも膝をつきそうなほどに足元をぐらつかせる。
    「あなたの心が善か悪かきっちり白黒つけるといいわ、受けなさい、洗礼の光……」
     ヴィントミューレがダークネスに向かって裁きの光条を放たんと照準を合わせた、が。
    「ぐっ……だが、まだだ」
     ダークネスの剣が亜綾を切り裂く。
    「しまっ……」
     同時に亜綾の意識が遠くなる、催眠状態。ダークネスが彼女を捕え、灼滅者たちに言う。
    「仲間を仲間だった者に殺されれば、お前たちでも平静にはいられないだろ?」
     とどめを刺そうと剣を持った手を振り上げる。
    「くっ、それなら」
     ヴィントミューレがダークネスに合わせていたジャッジメントレイを亜綾に当てる。裁きの光は癒しの光となる。
     ヴァーリが続けて清めの風を送る。催眠から解かれた亜綾がダークネスと距離を置く。
     ワルゼーがダークネスに駆け寄っていく。ダークネスが声を上げる。
    「これまでか。俺の見通しが甘かったようだな。さぁ、灼滅すればいい!」
    「しないさ!」
     ワルゼーの渾身の一撃、だが。
    「……手加減攻撃か」
    「ああ、皆がお前を追いつめたからできたのだ……力は見せた、もう十分であろう。力を求めるのであれば、ひとまず学園に戻るといい、その上で貴殿の悪だくみを聞いてやろうぞ」
     ダークネスはそれを聞くと口元だけを歪め笑みらしきものを一瞬、見せ、それから倒れた。


     倒れていた男が意識を取り戻した。近衛一樹として。
     それを見て、御凛は、
    「まったく、こんなのは二度とごめんだからね」
     呟き、体育館の壁に背をもたれかかる。
     ダークネスを説き伏せようと必死に冷酷なふりをしていたのだ、安堵し、やにわに気が抜ける。
     身を起こす一樹にヴァーリがつめより、
    「……もう余り無茶はしたら駄目だぞ? 今度やったらぶん殴るからな?」
    「今日も散々、されたような」
    「本当に、わかって……」
     ヴァーリと一樹のやりとりに、カイリが二人の間に入り、まぁまぁととりなすように両者の頬に自分の肉球を押し当てる。
    「……カイリに免じてこれぐらいにしておく」
    「ありがとう」
    「まあ、色々とあのダークネスには言ったが……私は周りの誰かが居なくなるのは大嫌いでな結局の所、近衛先輩を戻って来させるために無理矢理ひねり出した理屈さ」
     ヴィントミューレが一樹に顔を近づけ、
    「いい? これだけの人に心配されているのよ。少しは大事にされていることを自覚しなさい」
    「あ、ああ」
     降参と言うように手をあげる。その仕草に彼女は満足げに頷き、
    「そしてこれに応えることが出来るかは、あなた次第、ね」
     ほら、と討真が彼に肩を貸し立ち上がらせる。
    「帰ったら俺の店でケーキ作るぞ。そろそろそっちの勝負もケリつけとかねーとな」
    「そうだったな」
    「おかえりなさい」
     御調が彼に笑む。
    「先輩がいると和むっていうか、ほっとするんです……実はお菓子作りで先輩の腕前拝見したことがないんですよね。帰ったらやりませんか? 私も討真義兄様に張り合える程度の腕前はあると、自負していますので」
    「御調、俺と一樹の勝負の方が先だ」
    「えー、そんなに慌てなくても、いいじゃないですが」
    「……まあ、とりあえず帰ろうか、学園へ」
     討真の言葉に一樹だけではなく、皆も笑顔を浮かべ頷いた。

    作者:八雲秋 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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