アッシュ・ランチャーの野望~少年達を沖縄を守りきれ

    作者:陵かなめ

    ●アッシュ・ランチャー
     学園のエクスブレイン千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)が、予知した内容を語り始めた。
     その内容がこれだ。

     5月1日深夜。
     東シナ海に集結した人民解放軍の艦艇は、沖縄本島に向けて進軍を開始した。
     総兵力100万という洋上の大軍勢は、正規の指揮系統から切り離され、たった一人のノーライフキングの意志によって、日本への侵攻へと舵を切ったのだ。
     いや、この100万の軍勢こそが『正規の指揮系統に従う軍勢』であったかもしれない。
     サイキックアブソーバーの稼動により多くのダークネスが消滅或いは封印されるまで、ノーライフキング『アッシュ・ランチャー』こそが、この地域の全ての軍隊を支配下に収める『世界のミリタリーバランスを調整するクリスタル・ミラビリス』であったのだから……。

     数時間後、沖縄本島に近づいたノーライフキング艦隊は沖縄本島へと上陸作戦をいまかいまかと待ち構えていた。
     その中には、アンデッドの戦闘能力を飛躍的に上昇させる人型兵器『人甲兵』の姿もある。
     その彼らの前に、スーツ姿の威厳あるノーライフキングが姿を見せた。
     彼こそが、元老『アッシュ・ランチャー』。
     世界を支配するべく定められたノーライフキングの一人なのだ。
    「これまでの情報から、灼滅者達が人間社会に大きく依存しているのは間違いない。であるならば、その人間社会を制圧する事こそが、灼滅者への最大の攻撃となる。
     『人甲兵』部隊出撃せよ。まずは、沖縄本島を橋頭堡として、日本本土の制圧に向かうのだ。
     統合元老院クリスタル・ミラビリスが再び地球を管理下に置き支配する、正常な世界を取り戻す為に!」

     元老『アッシュ・ランチャー』の号令と共に、揚陸艦が海岸へと接岸し次々と兵士達が沖縄への上陸を。
     アッシュ・ランチャーによる日本侵略作戦の幕が切って落とされた。
    ●沖縄上陸
     グラウンドでサッカーをする少年達がいる。皆元気に声を上げ、軽快にボールを追いかけているようだ。
    「ねえ、何か聞こえない?」
     一人の少年が何か違和感を覚えたようだ。
    「えー? 別に何にも無いし。風の音にでもびびっちゃった?」
     走る事に夢中になっていた少年達は、特に気に留めた様子も無く笑い声を上げる。
     その時である。
     3000名もの軍勢がグラウンドに攻め込んできたのだ。
     響く怒号と銃声と。少年達は見る間に虐殺されていった。
    ●依頼
     教室に現れた太郎が話し始めた。
    「自衛隊のアンデッド灼滅作戦は無事成功したんだよ」
     そして、彼らの目的を調査していた灼滅者の情報から、アンデッド達が独自の作戦を行おうとしていたわけではない、という事が判明したという。
    「つまりね、このアンデッドの動きは、より大きな作戦に備えた動きだったと考えられるんだよ」
     そして、これを裏付けるように、現在東シナ海にて100万人規模の大規模な艦隊が集結していることが確認されたのだ。
     この軍隊を率いているのは、ノーライフキングの首魁の一人である、統合元老院クリスタル・ミラビリスの『アッシュ・ランチャー』であり、その目的は『日本侵略』に他ならないと言うことだ。
    「アッシュ・ランチャーの作戦目的は『日本を制圧する事で、一般人の社会に深く根ざしていると思われる灼滅者組織の活動を阻害する』事だって、推測されるんだよ」
     まずは、5月2日の未明に沖縄本島に上陸、市街地の制圧と虐殺を行い、死体のアンデッド化を行って戦力を拡充。その戦力をもって日本制圧に乗り出すつもりなのだろうとのことだ。
     勿論、このような暴挙を許すことは出来ない。
    「そこで、みんなには、沖縄に向かってアッシュ・ランチャーの軍勢を迎え撃ってほしいんだ」
    ●作戦の手順
     太郎は次に作戦の手順について説明した。
    「僕からお願いするのは、グラウンドでサッカーをしている少年達に押し寄せる軍勢なんだ。軍勢が押し寄せる直前に駆けつけることが出来れば、上手く介入できるはずだよ」
     このタイミングよりも前に攻撃を仕掛けた場合は、その影響により他の軍勢の動きが変わるなどして、作戦行動が難しくなってしまう。最悪、沖縄本島への上陸を取りやめて、離島の制圧に向かう作戦に切り替えてしまうかもしれないということだ。

     敵は完全武装した3000名程度の軍勢だが、その殆どは一般人の兵士であるため、ESPなどで無力化が可能だ。
     バベルの鎖があるため、一般人の攻撃は灼滅者には届かない。しかし、下手に殺してしまうとアンデッド化してしまう危険があるので、できるだけ殺さずに無力化することが望ましい。
     軍隊には一般人の軍人以外に、アンデッドの兵士や人型兵器『人甲兵』も配備されており、こちらは、ノーライフキングの眷属である為、簡単に無力化する事は出来ない。
     特に人型兵器『人甲兵』は、アッシュ・ランチャーが第二次世界大戦時に実用化させた、アンデッドを超強化する特殊武装であるため、これを装備しているアンデッドは、並のダークネスを越える戦闘力を持っているようだ。
     1部隊には人甲兵5体程度、アンデッド20体程度が配置されているようだが、正確な数まではわからない。
     特にアンデッドは、作戦中に死亡してアンデッド化する兵士もいるため、数が増えるかもしれないので注意が必要だ。
     人甲兵とアンデッドを全滅させた後は、無力化した兵士達を捕縛しつつ、洋上のアッシュ・ランチャーとの決戦に備えて欲しいとの事だ。
    「この戦いで食い止めることが出来ないと、途方もない被害が出ちゃう危険があるよね。必ず作戦を成功させないと、だね」
     そう言って、太郎は説明を終えた。


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)
    東雲・悠(龍魂天志・d10024)
    七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)
    セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)
    神之遊・水海(宇宙海賊うなぎパイ・d25147)
    白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)
    月影・木乃葉(人狼生まれ人育ち・d34599)

    ■リプレイ

    ●数千人の足音と地響き
     まだ暗いグラウンドに、白いボールがぽんと飛んだ。近所のイタズラ少年たちが、朝を待ちきれずにサッカーをして遊んでいるのだ。
    「ねえ、何か聞こえない?」
     ボールを追いかけていた少年が一人、立ち止まった。
     その少年が聞いたのは、遠くからの数千人の足音と地響きだったのだ。
    「一般人が殆どとはいえ、この人数差で相手するっていうのはねぇ……」
     遠くから押し寄せる軍隊を眺め、泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)が言った。箒に手をかけ、いつでも飛び出せるよう構えている。
    「海外からの侵略……ダークネスの作戦も大掛かりになってきましたね……」
     月影・木乃葉(人狼生まれ人育ち・d34599)もまた、笠の端を少し持ち上げて遠くを見た。
     すでに大軍がグラウンド間近まで迫っている。
    「こういう手段に来るとは支配者の本領発揮、私達はさしずめ叛逆者か」
     セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)が頷いた。とはいえ、灼滅者である時点で、そういう事は覚悟の上でもあるのだろうけれどとも思う。
    「まったく面倒くせーことをやってくれるよな」
     七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)が仲間たちの顔を見た。ダークネスが人類の支配者と言うのも、このような光景を見ていると、考えることも多くなるけど。しかし、ここから先は、タイミングを合わせ取り決め通りに動くのみだ。
     灼滅者たちは、互いに緊迫した状況を確認し、走り出した。
    「沖縄をアンデッドの好きにはさせないぜ!」
     数が多かろうと、蹴散らすまでだと東雲・悠(龍魂天志・d10024)。
     グラウンドの少年たちは、もうサッカーをしていない。
     押し寄せてくる異様な大群に、どうすることもできず言葉を失っていた。
    (「人の命を数にしか考えない奴……かつてのオレの先生と似すぎてる奴、いちゃいけない奴だ! 絶対この野望台無しにしてやるぜ!」)
     白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)がぎゅっと拳を握る。
     仲間たちのESPの発動タイミングを信じ、箒で飛び上がった。

     まず、グラウンドに走った千布里・采(夜藍空・d00110)と木乃葉は、軍勢から少年たちを守るように間に割り込んだ。
    「はい、深呼吸」
     震える少年の目の前で屈み込み、采が目線を合わせて優しく語りかけた。霊犬も、いつでも敵の攻撃から庇える様に身構えている。
    「あ……あぁ……」
    「必ず守るから、後ろ振り向いたらあかんで」
     そう言い含め、少年たちを逃がしていく。
    「走ってください。動けない? それでは、手を」
     木乃葉も怪力無双を駆使して少年たちを担ぎ、グラウンドの外へと連れ出した。
     すでに軍勢の最初の一陣がグラウンドへ足を踏み入れている。その後ろからも、銃を装備した一般人の軍人と思しき集団が続々と迫ってきていた。
    「あの子達は無事逃げたようね。それじゃあ、行くわよ」
     その主面に、神之遊・水海(宇宙海賊うなぎパイ・d25147)が堂々と立つ。
     武器を捨てろと言う意味合いの言葉を、王者の風発動と同時に敵軍に叩きつけた。
     仲間たちも、手はず通り行動を起こした。

    ●アンデッドの咆哮
    「一般兵を避けながらってのがまどろっこしいが、3000体のアンデッドを相手にするよかマシだよな」
     そう言って一般兵の前まで飛び出た悠が、パニックテレパスを発動させる。逃げろと叫ぶと、目の前で銃を構えていた一般兵たちがわっと逃げ出した。
    「武器を捨てて上陸地点まで逃げろ!」
     追い討ちをかけるように歌音が上空から兵士たちに呼びかける。
     兵士たちは、あるいはパニックのような声を上げながらグラウンドの外を目指し、あるいは武器を捨てて走って逃げた。二人の声を聞いて、100名近くの兵士が無力化されたようだ。
    「うまくいったぜ」
     いったん地上に降りてきた歌音が、逃げていく兵士たちの背を見る。
    「今の集団の中にアンデッドはいなかったよな。よし、次だな」
     悠がそう言うと、歌音が頷いた。
     二人は次の集団を見据え走り出す。
    「平穏を無慈悲に蹂躙する死の行進! マギステック・カノンがその行進を乱し尽くしてやるぜ!!」
     さらに押し寄せてくる集団の前に立ち、歌音が名乗りを上げた。
     灼滅者たちは、大勢の兵士が押し寄せてきているのをしっかりと見ている。
    「武器を捨ててグラウンド端で固まって伏せてろ」
     向かってくる一般兵に向かい、セレスは王者の風を使った。
     まともにESPを受けた一般兵たちが、ふらふらとおぼつかない足取りでグラウンドの端へと散っていく。確認しただけでも、50名以上の兵士が逃げたと思う。もしかしたら、100名はいたかもしれない。
    「あの、遠くに見えるやたらでかいのが人甲兵だよな?」
     灼滅者たちは次々に一般兵を無力化している。
     だが、さらに大軍が押し寄せようとしていた。
     悠里が見たのは、大きなパワードスーツのような見た目の敵だった。一般兵の背後から、着実に進軍してきている。とはいえ、あれはまだ遠い。悠里はそう判断して、周囲の一般兵に向けパニックテレパスを展開した。
     一般兵たちがクモの子を散らすように逃げていく。
    「貴方達の攻撃は僕達には通用しません、大人しく向こうに撤退してください」
     続けて上空から星流が呼びかけると、その場に残っていた一般兵たちも撤退した。
     50名以上の一般兵が、無力化されたと思う。
    「ここから離れろ!」
     水海も背筋を伸ばし、堂々とした口調で撤退を促した。
     一般兵たちはその姿を見て平伏し、静かに戦場から離れていく。
     ところが。
    「オォォォォォォッ!!」
     そのごく近くの集団の中心で、アンデッドが咆哮をあげた。
     瞬間、身を引こうとしていた一般兵たちが武器を構えなおす。
    「アンデッドが指揮をしているのね」
     水海ははっと表情を変え、武器を手に取った。
     あのアンデッドの一吼えで、敵の勢力が秩序を取り戻したのだ。アンデッドを先に片付けないと、この周辺の一般兵を無力化できないとすぐに察する。
    「ほな、先にあのアンデッドをどうにかせなあかんな」
     アンデッドの咆哮を聞きつけ、采と霊犬が駆けつけてきた。
    「少年たちは?」
    「大丈夫です。人数も確認しました。全員無事です」
     追ってきた木乃葉が答える。
     三人は状況を確認し、アンデッドの指揮するチームに向かって踏み込んでいった。
    「あとで治しますわ、寝てて下さい」
     采が力を加減して殴ると、簡単に敵兵が気絶する。その後、戦闘に巻き込まれないように後方へ投げ飛ばした。
    「お願いします管狐」
     そう言うと、木乃葉は錫杖を振り分裂させた小光輪を水海に飛ばし盾とする。
    「よっし、見えたよ! どっせい!」
     水海は片腕を異形化し、指揮をとるアンデッドに向かって振り下ろした。
     灼滅者三人と霊犬でかかり、あっという間にアンデッドを撃破する。
     周囲の一般兵たちに再び撤退を呼びかけると、すぐに撤退して行った。

    ●侵入してきた人甲兵
     沖縄の地を軍服で染めるように押し寄せてきた軍勢も、一般兵はどんどん無力化されていった。
     パニックテレパスで逃げ惑う一般兵に声をかけ退場させる。王者の風で従順にさせ撤退させる。アンデッドが指揮をとっている集団を見つけたら、同時にアンデッドも排除した。
     効果範囲を確認しあい、互いにタイミングを合わせながら灼滅者たちはESPを発動し続ける。
    「見つけたぜ、アンデッド!」
     また一体、指揮をとっていたアンデッドを発見し、悠が走り寄った。
    「援護する。ああ、こちらは二人で十分だ」
     このアンデッド相手には、灼滅者二人で十分戦える。遠くから支援に走ろうとする仲間を止め、セレスが槍から冷気のつららを放出した。
     纏わりつく氷に足を止めたアンデッドの頭上に悠が飛び上がる。
     勢い良く落下し、槍に捻りを加えて突き刺した。
    「ほら、アンデッドは倒れたぞ。お前たちも逃げろ!」
     崩れ去るアンデッドを見て、残っていた一般兵たちが逃げていった。
    「この辺りの一般人は逃げたな。っと、ついに来たようだ」
     セレスがグラウンドに侵入してきた人甲兵を見る。
     今度は、二人で簡単に、と言うわけにはいかないようだ。
    「俺が抑えに行くぜ。アンデッドは任せた」
     すぐに悠里が走った。
     アンデッドや人甲兵はそれぞれ周辺の一般兵を指揮しながら進んでくるため、一体ずつ相手取ることになる。それも、グラウンドのそこかしこで戦いになるため、どうしても瞬時に戦力を判断して行動に移さなければならなかった。
    「向こう側にアンデッドがいはるよ。グラウンドの外まで出そうやわ」
    「アンデッドには僕が一番近いかな。こちらで叩くよ」
     人甲兵に向かう采と、アンデッドに向けてマジックミサイルを放つ星流。
    「とどめは任せろ!」
     よろめいたアンデッド目掛けて歌音が踏み込んだ。
     力任せに敵を持ち上げ、一気に地面に叩きつける。
     アンデッドは、小さくうめいて消滅した。星流と歌音と、二人がかりで攻撃を仕掛ければ、倒せる相手だと理解する。
    「さて、こっちも、一気に行こうね」
     クルセイドソードを構えた水海は人甲兵に向かって走る。
    「皆さんは全力で守ります!!」
     敵にぶつかっていく仲間の後ろから、木乃葉がシールドリングを飛ばした。皆に盾が行き渡るよう、何度も錫杖を振り続けているのだ。
     攻撃に気づいた人甲兵がギイギイと金属音を立て、ライフルを構える。
     あっと思ったときには、銃口から激しい火花が散った。
    「危ないよ! こっちへ下がって」
     とっさに水海が木乃葉の前へ躍り出て、弾丸を身に受ける。
     同じように霊犬も采を庇い被弾した。
    「さすがに、攻撃力はあるんやね」
     敵の攻撃が止んだ瞬間、采が霊犬の影から飛び出して帯を射出する。霊犬は攻撃の邪魔にならないようさっと身を引いた。
     ダイダロスベルトが敵の体をはっきりと貫く。
     だが、人甲兵は傷ついた箇所を気に止める風でもなく、次の射撃に向けて準備を始めた。
    「おっと、そこまでだぜ。好きにはさせない」
     その正面に悠里が立つ。
     臨兵闘者、と九字を唱え九眼天呪法を叩き付けた。
    「!」
     瞬間、人甲兵の腕部が不自然に捻じ曲がり、内部から破裂する。二度灼滅者の攻撃を受け、敵の動きが鈍った。
    「ありがとうございます」
     一方、庇われた木乃葉は水海の身を案じるように受けた傷を見た。
    「大丈夫だよ。回復は任せるね」
     水海は笑顔で立ち上がり、人甲兵の懐へ飛び込んでいく。
    「はぁっ!」
     一瞬の白光。
     強烈な斬撃で、敵のボディを切り刻んだ。
     人甲兵が完全に動きを止める。
    「この数でかかれば、いけるんだな」
     悠里の言葉と同時に、敵が爆発を起こし四散した。

    ●白み始めた空
     見たところ、すでに一般兵の姿は戦場に無かった。敵の数はずいぶん減り、アンデッドも人甲兵も、残りはわずかだ。
     点在するアンデッドと人甲兵を相手に、灼滅者たちは戦い続けている。
    「もう一体人甲兵、今度はこっちからだね」
     次の敵の位置を確認し、星流が空から急降下した。
     敵との距離が近く、飛んでいるよりも地に着いて迎撃したほうが良いと思ったのだ。
     クロスグレイブの銃口を開き、攻撃の構えを取る人甲兵に向かって光の砲弾を放つ。
     弾は人甲兵に命中し、勢いで吹き飛ばした。
     体勢を崩したところを、セレスが狙う。
    「動きを抑える」
     そう言って、敵のジョイント部分を正確に斬り動きを阻害した。
    「人が生きてる事を全く見ない連中なんて……ここから先は絶対通してやるもんか!!」
     続けて歌音がリングスラッシャーを飛ばす。
    「守り抜いてやる、この日常を!!」
     そして、思いを込めて思い切りぶつけた。
    「同感だな」
     バランスを崩して倒れこんだ人甲兵の頭上から、悠が飛来する。
     一直線に槍を構え、落下と同時に相手の躯体を螺旋のごとく抉り取った。
     ぷす、と、音を立てて人甲兵は停止し煙を上げる。
     悠が飛び退いたと同時に爆発して敵は消し飛んだ。
    「せいやっ!」
     水海が残り一体のアンデッドを蹴り上げた。
     浮いた敵の体を、蹴り足から生み出した風の刃ですぱんと斬り裂く。
    「アンデッドはこれで最後やね」
     続けて采が妖冷弾を放つと、アンデッドは力を失い地面に叩きつけられた。
     凍りついた体が、消え去っていく。
     そろそろ空が白み始めた。だがまだ夜明けは遠いようだ。
    「回復します。皆さん、頑張ってください!!」
     木乃葉はそう言って、前衛の仲間に浄化をもたらす優しき風を招いた。もう一手、違う回復手段を持っていたのならば戦局は変わっていたのだろうか。いや、今はそんなことを考えない。盾と癒しの風で、仲間の命を支えるのが木乃葉の仕事なのだから。
     事実、回復は追いついている。
     癒せない傷は蓄積しているが、灼滅者たちはまだまだ十分戦えるはずだ。
    「こっちの人甲兵で最後だよな。みんな、頼むぜ」
     最後の一体の動きを抑えていた悠里が叫ぶ。隣には、同じように人甲兵を抑える霊犬の姿があった。
     この人甲兵こそ、グラウンドに残った最後の敵だ。
     仲間たちは、自分が倒した敵の消滅を確認し人甲兵へと飛び掛っていく。
     八人の灼滅者が囲んでしまえば、人甲兵とて虐殺などできようはずがなかった。
     槍で突き、帯で貫き、魔法の矢を突きつける。
     反撃の砲弾は、ディフェンダーが庇い大ダメージを防いだ。
    「きっちり止まったな。手を出したこと、後悔するがいい」
     すでにギリギリまで追い詰めた人甲兵に、セレスが槍を突き立てる。
     キンと鈍い金属音がしたが、構わず躯体を抉った。
     敵の動きが止まり、煙が立ち上る。
     灼滅者たちは、すぐに跳んで距離を取った。
     最後に小さな爆発音をたて、人甲兵は爆散した。

    「よし、討ち漏らしはないようだな」
     悠里がグラウンドを見渡し確認する。
     もうすぐ夜明けだ。
     これからどうなるのだろう。
     しかし、今この瞬間、灼滅者たちはこの場所を守り抜いたのだ。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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