アッシュ・ランチャーの野望~水際迎撃作戦

    作者:九連夜

     ……とある暖かな春の夜。
     東シナ海に集結した人民解放軍の艦艇は、沖縄本島に向けて進軍を開始する。
     総兵力100万という洋上の大軍勢は正規の指揮系統から切り離され、たった一人のノーライフキングの意志によって、日本への侵攻へと舵を切ったのだ。
     いや、この100万の軍勢こそが『正規の指揮系統に従う軍勢』であったかもしれない。
     サイキックアブソーバーの稼動により多くのダークネスが消滅或いは封印されるまで、ノーライフキング『アッシュ・ランチャー』こそが、この地域の全ての軍隊を支配下に収める『世界のミリタリーバランスを調整するクリスタル・ミラビリス』であったのだから……。
     数時間後、沖縄本島に近づいたノーライフキング艦隊は沖縄本島へと上陸作戦をいまかいまかと待ち構えていた。その中には、アンデッドの戦闘能力を飛躍的に上昇させる人型兵器『人甲兵』の姿もある。
     その彼らの前に、スーツ姿の威厳あるノーライフキングが姿を見せた。
     彼こそが、元老『アッシュ・ランチャー』。
     世界を支配するべく定められたノーライフキングの一人なのだ。
    「これまでの情報から、灼滅者達が人間社会に大きく依存しているのは間違いない。であるならば、その人間社会を制圧する事こそが、灼滅者への最大の攻撃となる。『人甲兵』部隊出撃せよ。まずは、沖縄本島を橋頭堡として、日本本土の制圧に向かうのだ。統合元老院クリスタル・ミラビリスが再び地球を管理下に置き支配する、正常な世界を取り戻す為に!」
     元老『アッシュ・ランチャー』の号令と共に、揚陸艦が海岸へと接岸し次々と兵士達が沖縄への上陸を。
     アッシュ・ランチャーによる日本侵略作戦の幕が切って落とされた。
     そして。
     
    「なんだ、ありゃあ?」
     狭い軽自動車の車内に素っ頓狂な声が響く。続いて急ブレーキ。
     派手な減速で助手席で眠っていた男が頭を前のボードに打ち付け、額に手を当てて顔をしかめながら運転席の方を振り返る。
    「何だよおい。ちゃんと運転しろって……」
    「いいから前見ろ、前!」
     切迫した声と前方を指す指を見て男はもう一度振り返り、そのまま絶句した。
     サーチライトの光の中に浮かび上がったのは無数とも見える人の群れ。ヘルメットに揃いの軍服を着て手には小銃。
    「……米軍じゃねえ。自衛隊の服でも……中国か?」
    「馬鹿、呆けてるんじゃねえ、逃げろ! もしこれが本当に奇襲上陸なら……!!」
     遅かった。連隊規模の軍隊なら必ず同行している兵器……重機関銃が光の中に浮かび上がる。小さな火花がその銃口から散った。
     Uターンして逃げようとした自動車は、その搭乗者もろとも蜂の巣となり、路肩にそれて爆発し盛大な炎を吹き上げた。
    「……という光景が、5月1日の深夜から明け方にかけて展開されることになります」
     いつになく緊張した面持ちで、五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)は教室に集まった灼滅者たちにそう告げた。
     先に行われた自衛隊のアンデッドの灼滅作戦は無事に成功し、敵の目的を調査した灼滅者たちからアンデッド達が独自の作戦を行おうとしていた訳では無いらしい事……むしろそれは、より大きな作戦に備えた動きだったと考えられることが判明した。
     それを裏付けるように、現在、東シナ海にて100万人規模の大規模な艦隊が集結している事が確認された。艦隊を率いているのは、ノーライフキングの首魁の一人である、統合元老院クリスタル・ミラビリスの『アッシュ・ランチャー』であることも。
    「その目的は『日本侵略』、それに間違いはないでしょう」
     アッシュ・ランチャーの作戦目的は『日本を制圧する事で、一般人の社会に深く根ざしていると思われる灼滅者組織の活動を阻害する』事だと推測される。5月2日の未明に沖縄本島に上陸、市街地の制圧と虐殺を行い、死体のアンデッド化を行って戦力を拡充。その戦力をもって日本制圧に乗り出すつもりなのだろう。
    「勿論、見逃すわけには参りません。沖縄に向かって、アッシュ・ランチャーの野望をくじいてください」
     本当は洋上で迎撃したいところだが、それだと事前にこちらの動きを察知されて方針を変更し、複数の離島に上陸されたりして対処がより難しくなる危険がある。タイミングとしては非常に微妙だが上陸直後を一気に叩くのが一番マシという判断が出ている。
    「敵の規模は約3000名、重火器も持っていますが皆さんの敵ではありません。本当の敵は同行している5名前後の人甲兵と、アンデッド兵20数名です。これを確実に叩いてください。戦い方にもよりますが、戦力的には皆さんが上のはずです」
     最も、一般兵も完全に放置すると前述のような一般住民が巻き込まれる事態の発生につながりかねない。ESPなどを利用してその無力化も必要だと姫子は告げた。
    「住民の命が危険にさらされるようであれば、最悪、敵兵の殺害もやむなしですが……」
     うかつに殺すとノーライフキングの力でアンデッド兵として蘇らないとも限らない。なるべく無血勝利を狙うのが最適戦略となる。人甲兵とアンドッド兵を倒せばアッシュ・ランチャー直属の指揮系統は途絶するので、あとは一般兵士をうまく武装解除させればとりあえずは作戦は完了となる。
     そのまま洋上のアッシュ・ランチャーとの決戦に備えてください、と説明を締めくくってから、姫子は灼滅者たちを改めて真剣な表情で見た。
    「統合元老院の元老が直接動き出したということは、相手も本気と言う事でしょう。仮にこの作戦が失敗し沖縄が制圧されてしまえば、沖縄住民全部が虐殺されアンデッド兵とされる事態ともなりかねません」
     そんな最悪の展開を防ぐためにも皆さんの協力をお願いします。
     そう言って、姫子は深々と灼滅者たちに頭を下げた。


    参加者
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    館・美咲(四神纏身・d01118)
    風華・彼方(中学生エクソシスト・d02968)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    諫早・伊織(灯包む狐影・d13509)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    霧亜・レイフォード(黒銀の咆哮・d29832)

    ■リプレイ

    ●作戦決定
     春も半ばを過ぎると沖縄の気候は本土の真夏と変わらぬものとなり、陽が落ちても暑さすら感じさせる海風が緩やかに島の海岸を吹き渡る。そんな穏やかな夜の、とある地区で。
    「総勢3000以上の敵を水際で迎撃か。何だか昔の日本軍のようだな」
     そんな感想を漏らしつつ、霧亜・レイフォード(黒銀の咆哮・d29832)は遮蔽物代わりの大岩の影から敵陣の様子を窺った。
     そこにいるのは約3000人の大部隊……ノーライフキング『アッシュ・ランチャー』に指揮下に置かれて沖縄占領を目指す中国軍の歩兵の群れだ。だがそれほどの数の兵士が完全な暗闇の中で、しかも無音で上陸作業を行うことはほぼ不可能であり、しかもボートや上陸用舟艇での接岸から上陸、銃器・火器の搬出ともなれば事故を避けるためにも最低限の光が必要となる。そのわずかな光の中に、ひときわ大きな黒々とした影を浮かび上がらせているのは……。
    「あれが人甲兵、ですか。ひい、ふう、みぃ。情報では5体前後でしたね、あとはまだ上陸待ちでしょうか」
     まだ成長途上の小柄な体を伸び上がらせるようにして、風華・彼方(中学生エクソシスト・d02968)は遠目にもわかる巨体を観察した。
    「連中ご自慢の兵器、というやつじゃな。さあてその力、とくと見せて貰おうかの!」
     勇ましい台詞と共にさっそく躍り出そうとする館・美咲(四神纏身・d01118)の襟首を、後ろから伸びた手がつかんで止めた。
    「く! 何をする! 妾のサウンドシャッターが先陣という手はずであったろうが!」
     二、三度咳き込んでから振り向いて抗議する美咲に向かって、諫早・伊織(灯包む狐影・d13509)はゆっくりと顔を左右に振った。
    「連中と一般兵を簡単に切り離せるならそれでええんですが。でも……アンデッド兵の姿、見えますえ?」
     再び振り向いた美咲の視界に映るのは幾体かの人甲兵と、粛々と上陸作業を続ける兵士たちの姿だ。
    「それらしいのはいませんね。兵士たちの中に紛れ込んでいるのでしょうか」
     闇を見透そうとするようにわずかに眼を細め、西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)が思案する。
    「指揮官だろう」
     レイフォードがあっさり言い切り、流石に説明が足りないと思ったのか言葉を続けた。
    「軍本来の正規の命令で動いているわけではない以上、指揮官が必要だ。それをアンデッド兵が担当しているとすれば、小隊ごとに配置をして直接指揮をとるか、あるいは大隊か中隊ごとに数名がまとまって指令を出すかだろう。まだ海上の船に居座っている可能性も無くはないが」
    「僕たちの迎撃を読めていないなら、そしてより短時間で効率よく沖縄の方々を虐殺するつもりなら前線にいるだろう、ということですね」
     敵の姿を見つめる葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)の眼は戦意に溢れていた。
    「だな。侵略なんてさせやしねえ。ましてやダークネスが人間を駒に使おうだなんてよ!」
     柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)が固く握った右拳を左手で叩く。その音に重なるようにしてふぁ、とあくびの音が響いた。
    「そんなに気負うことねーじゃん」
     草地に寝っ転がったまま言った影道・惡人(シャドウアクト・d00898)は体を起こし、尻についた泥をはたいた。
    「俺らにとって灼滅てなぁ、毎日の朝グソと一緒さ……心の奥底に溜まったもん、吐き出すだけの作業さ。ともあれ」
     サングラスの下の眼を敵の方に向ける。
    「さっさと片付けちまおうかね」
    「同感です。レイフォードさんの推測通りと仮定すると各個撃破が必要で……作戦案AではなくDですか」
     わずかに眉を寄せて思案した織久が高明に目を向ける。
    「いや、連中は思ったより上陸作業に手間取っている。配置換えの余裕はありそうだ」
     高明は打ち合わせで使った地図を軽く振ってみせた。
    「では作戦C」
     伊織が確認するように皆を見回す。
    「了解です!」
     彼方が即座に応じて、暗闇の中に8つの影が一斉に散った。

    ●灼滅者無双
    「停!(やめろ!)」
    「哎!(ひえっ!)」
     遙か前方の闇の中に悲鳴が響く。それを聞きつけた中国軍……正しくはその先陣を切っていた小部隊が動きを止めた。
    「接敵か?」
     悲鳴が先行して進んでいた偵察部隊が上げたものだと気づいた小隊指揮官は、即座に配下の部隊に戦闘陣形の構築を命じ、同時に部隊が備えていたサーチライトが一斉に前方を照らし出す。戦闘力を備えた何かにすでに発見された以上はもはや灯火管制は無意味、それよりも後続部隊のために敵の位置を明確化し可能な限りその位置に拘束する。彼の判断は戦闘部隊それとしては決して間違ってはいなかった。
     だが左右のサーチライトが照らし出したのは、街道の真ん中に一人佇む少女の姿だった。
    「軍事力による制圧で徐々に灼滅者を追い詰める、理に適った作戦ではあるのぅ」
     少女は不敵な笑みをたたえ、大声を張り上げながら悠然と近づいてくる。
    「それが達成可能であればの。さあ、武蔵坂学園の灼滅者からの宣戦布告じゃ、謹んで受けるがよい」
    「是什么吧、前額小姑娘?(何だこのデコ小娘は?)」
     サーチライトの光に照らされて輝く少女の大きな額を見て、指揮官はあっけにとられて呟いた。
     それが運の尽きだった。
    「な……っ! この礼儀知らずがぁっ!」
     何故この距離で聞き取れたのかとか中国語で言ったはずだがとか諸々の疑問はさておき、青筋を浮かべたデコ小娘こと美咲は数十メートルの距離を一瞬で詰め、とりあえずバトルリミッターだけはかけて指揮官をぶん殴った。そのまま手近な兵士たちと大乱戦というか大喧嘩にもつれ込んだ美咲の姿を遠目に見つつ、伊織は苦笑した。
    「派手に始めはりますなあ」
    「アンデッドのあぶり出しにはちょうどいいだろ。こっちはチームプレーでいこうぜ」
     答えて相棒のキャリバー「ガゼル」にまたがりながら、高明は改めて敵軍を見据える。
    「了解。人命優先やね」
     伊織は答え、走り出す。加速と同時に精神を集中、パニックテレパスの網を周囲に張り巡らす。キン、と張り詰めた空気の中、美咲に向かってあるいは突進する二人に気づいて銃を構えようとした兵士たちの表情が引きつった。強制的に叩き込まれた恐怖心と兵士としての責任感、その狭間で揺れる兵士たちに向かって高明の声が響く。
     投降せよ。
     投降せよ。
     無駄な抵抗をやめ、武器を捨てて投降せよ。
     北京語、いわゆる正規の中国語のみならず上海語に広東語、さらにマイナーな方言まで含めてハイパーリンガルの力で繰り返される「母国語」の呼びかけに、やがて兵士たちは武器を取り落とし、両手を挙げて地面にへたり込んだ。高明はすかさず眼で人数を数えた。
    「これでだいたい50名ってところか? 3000人分にはちょいと時間がかかりそうだな」
    「せや……」
     言いかけた伊織が素早く身を翻した。避けたのは銃弾。それも、ある意味慣れ親しんだ攻撃だ。
    「サイキック射撃。とすると」
     街道の奥から進んでくるのは次の部隊。これも40名程度が道路に銃陣を組み、一斉に銃弾を浴びせてくる。そしてその奥で自らも銃を構えているのが、ひときわ立派な体格の、そしてどこか崩れかけたような容貌を持つ異形の兵士。
    「アンデッド発見!」
     高明は呆然とする兵士たちを味方の弾丸で被害を受けないように誘導しつつ、手にしたライトを上空に向けて大きく回して見せる。その直後、道路脇の岩の影から2つの人影が躍り出た。
    「ふっ!」
     すかさず注がれる銃弾をものともせずに統弥が疾る。立ちふさがろうとする兵士たちを華麗にかわしあるいは飛び越え、一直線に目指す敵のもとへ。
    「ゼファー!」
     レイフォードの声が響く。同時に大きく迂回経路をとって回り込んでいたキャリバーが側面から機銃を放つ。逃げようとしていたアンデッドが目の前を過ぎた射撃の跡にたたらを踏み、そして気がついた。目の前に迫る槍と金属の帯の輝き。
    「戦は数、というのも一面の真理です。早めに間引いておきましょう!」
     統弥の槍が容赦なく振り下ろされる。
    「墓を作ってやることはできんが恨むなよ……」
     偽りの生を生きる者とはいえ敵も命令に従う兵士。死のベルトを繰り出すレイフォードの声はむしろ痛ましげですらあった。二つの輝きがアンデッド兵の体の上で十字を描き、敵は声を発することもできずにその場に崩れ落ちた。
    「後始末はこちらで引き受けます。一般兵対応班のお三方は先に進んでください」
    「おおきに」
     伊織が答え、大暴れの反動で肩で息をしている美咲の肩を叩いて街道を進む。次に出会った一般兵のみの部隊をほぼ同じ要領で解散させ、さらに進んで遭遇したのは鋼の巨人と重機関銃だった。
    「お任せを」
     右手に大鎌、左手に槍。異形の得物を左右にかざした織久が街道脇の闇の中から現れ突進する。そこに降り注がれる銃弾の嵐。
    「うっ」
     続いて飛び出した彼方は全ては回避しきれず、胸の辺りに数発をくらう。だが。
    「悪いね。効かないよ」
     いたずらっ子のように舌をぺろっと出して笑ってみせるとあえて銃弾を受けながら真正面から突進、弾を発射し続ける重機関銃の銃身を無造作につかんだ。
    「むっ!」
     気合いの声と同時に銃座込みで百キロを超える機銃を片手一本で軽々と持ち上げ、頭上でくるりと回すと一気に地面に叩きつける。
    「!!!」
     伊織が展開した殺界ですでに逃げ腰になっていたところへそんな光景を見せられ、兵士たちは顔を引きつらせて逃げ始めた。ゆらり、とその上に影が落ちる。人甲兵だ。敵前逃亡は許さぬとばかりにその巨腕が逃げる背中に向かって振り下ろされる。
     ガン、と。
     人の肉を潰す音を激しい金属音に変えたのは、横合いから伸びた惡人のダイダロスベルトだった。
    「手間かけさせやがって」
     呟くなり大きく飛び下がり、今度は打ち据えるようにベルトを伸ばす。同時に織久の槍が直撃し、彼方が放った光輪が巨体を切り裂いた。しかし鋼の巨人はそんな攻撃を意に介さぬかのように進み出て再び巨腕を振り下ろし。
     そして数分後、皆の矢面に立って奮戦し、少なからぬ傷を負わされた織久の前についに巨体は倒れ伏した。
    「ふう。思ったよりも強いですね、人甲兵」
     織久は汗をぬぐい、振り返った。一般兵への対処を終えて途中から参戦した高明・伊織・美咲の助力が無ければ結構苦戦していただろう。
    「灼滅者以上、ダークネス未満ですね」
     かつて戦ったそういう種類の敵のことを思い返しつつ彼方がうなずく。
    「問題ねえだろ。今のやり方で勝てるってこった」
     面倒くさげに惡人が言った。今のやり方、つまりは街道沿いに一列に進む敵を、遭遇した端から順に撃破していく作戦だ。敵戦力を個別に叩ける利点がある反面、万が一、一般兵を後方に逃がしてしまうと事態を収拾できなくなる危険と隣り合わせだ。それを避けるためにも8人を一般兵担当とアンデッド&人甲兵担当に分けて、さらに分散行動と奇襲の要素を混ぜたわけだが。
    「はい、このままで行けると思います」
     ちょうど追いついてきた統弥が力強くうなずいた。
    「同感だ」
     説明は不要とばかりにレイフォードが短く応じる。
    「よし、では進もう。せっかくだから楽しもうではないか!」
     宣言した美咲は、颯爽とした足取りで再び街道の上を歩き始めた。

    ●決戦
     さらに敵の部隊と出会っては追い散らすことを繰り返し、その過程でさらに15体のアンデッド兵と3体の人甲兵を打ち砕いた。やがて始めの上陸地点の砂浜近くにたどり着いた灼滅者たちが見たものは。
    「僕たちに気づいて戦力を固めてきたみたいだね」
     敵の陣地を窺って戻った彼方が事実を述べた。すでに隠れる気はなく、サーチライトが照らし出す陣地にはシルエットでわかる人甲兵が2体。おそらくアンデッド兵も複数いるのだろう。
    「敵も阿呆では無いということだ」
     明快に述べたレイフォードに、ふと何かに気づいた表情の美咲が問う。
    「これで最後なら、もう別行動は不要であろうの? ならば一緒に……!」
     相手の答えを待ちもせずに美咲は突撃を開始した。一般兵を適当に蹴散らしながら脇目も振らず人甲兵に向かい、柄の端を片手で掴んでぶん回した槍を鬼気迫る激しさで装甲に叩きつける。
    「ほな全力で参りますえ。せっかく勉強したことやし……把武器扔掉(武器をすてろ!)」
     伊織はパニックテレパスの展開に続いて習い覚えた中国語を自ら叫ぶ。右往左往し逃げ散る兵を鋭く観察、動きの違うものを見つけ出す。
    「アンデッド!」
     余計な指示を出して兵を正気に戻されぬようにと、右手の縛霊手より展開した結界で4体と見える敵をまとめて包み込む。
    「合わすぜ!」
     味方の援護や避難誘導よりもここは指令系統の壊滅、そう見定めた高明が放った漆黒の弾丸が続けざまにアンデッドに撃ち込まれた。
     そのまま続いた戦闘は非常に激しかったが、短かった。
    「請臥下(伏せてください!)」
     彼方が兵士の頭越しに放ったリングに切り裂かれ、ゼファーとガゼルの掃射にまとめて打ち砕かれてアンデッド兵たちは消滅した。一方、人甲兵たちは。
    「オラっ、くたばれっ!」
     惡人のダイダロスベルトに貫かれて一体が。
    「そろそろ終わりにしましょう」
    「同感です」
     統弥の斬艦刀と織久の槍に切り裂かれ貫かれてもう一体も機能を停止し。
     そして呆然とする一般兵たちを残して、戦いは灼滅者たちの完勝で幕を閉じた。

    ●本当の戦いへ
     闘いの後始末には意外と手がかかった。武装解除された兵士たちを事前に想定していた場所へ連れて行き一時待機を指令、置き去りにされたその武器を集めて、悪用されないようにいったん隠す。勝手に逃げ散っていた兵士を見つけ、あらためて降伏させる。灼滅者たちは単純な「数」の面倒さを味わわされることになった。
    「戦う前にぎょうさん準備しといて正解でしたわ。しかし、ま」
     一通りの疲れる作業をようやく終えた伊織は苦笑を浮かべた。
    「ここは大事な思い出の詰まった土地や。不法入国はお断り、ですぇ」
    「同感です。次は本命……アッシュの首ですね」
     統弥が強い瞳でようやく明け始めた東の海の、まだ見えぬ沖合を見やった。
    「手間暇かけさせてくれた礼はしてやらんとな」
    「元を絶たねえと、また仕掛けてきやがるしな」
     美咲と高明がそれぞれの言い方で賛意を示す。
    「敵味方ともに犠牲は少ないに越したことは無い。こんな闘いは避けたいところだがが……」
     レイフォードが統弥と同じ方向に目を向け、織久が静かに応じた。
    「失敗するわけにはいきません。今はそれだけを考えましょう」
    「勝ちゃなんでもいんだよ」
     惡人の割り切り方は明確だった。
    「とにかく勝ちは勝ちです。皆さん、お疲れ様でした!」
     締めくくった彼方の笑顔を東の水平線からの曙光が照らだした。ほとんどの沖縄の人々には知られること無く終わった戦いの、その勝利を祝福するかのように。

    作者:九連夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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