アッシュ・ランチャーの野望~沖縄のもっとも長い一日


     5月2日、未明。東シナ海にて集結した人民解放軍の艦隊は、沖縄本島の間近へと迫っていた。
     上陸準備は整っており、あとは指揮官の号令を待つのみである。そんな大軍勢の前に、スーツを纏った一人のノーライフキングが現れた。
    「これまでの情報から、灼滅者達が人間社会に大きく依存しているのは間違いない。であるならば、その人間社会を制圧する事こそが、灼滅者への最大の攻撃となる」
     彼こそが、元老『アッシュ・ランチャー』――世界を支配するべく定められたノーライフキングの一人である。その下に集うのは、総数100万の軍勢。その中には、人民解放軍、アンデッドのみならず、アンデッドの戦闘力を飛躍的に強化する人型兵器『人甲兵』の姿もあった。
    「『人甲兵』部隊出撃せよ。まずは、沖縄本島を橋頭堡として、日本本土の制圧に向かうのだ。
     統合元老院クリスタル・ミラビリスが再び地球を管理下に置き支配する、正常な世界を取り戻す為に!」
     アッシュ・ランチャーの号令によって、揚陸艦が次々と接岸し、兵士達が沖縄へと上陸していく。
     ――日本制圧作戦の開始である。


     日が上ろうとする薄明の、ぼんやりとした輝きに包まれる沖縄の空。とある海岸沿いの道を、一台の自転車が走っていた。
     乗っているのは、この先の高校に通う男子生徒であった。部活動の朝練習に出るため、こうしてまだ日が上り切らぬうちから登校しているのだ。
     母が用意してくれた朝食のおにぎりを口にしながら、学校へと向かう少年。そんな日常の風景が、銃声と共に破られた。
     普段ならば、この時間はほとんど人の姿のない海岸――だが今は、ノーライフキングの軍勢が着々と上陸を進めていた。
     銃弾によって穿たれた少年は、この海岸における最初の犠牲者である。そしてそれは、言わば作戦開始の号砲でもあった。
     海岸へと上陸を完了したノーライフキングの上陸部隊は、沖縄の街を蹂躙すべく侵攻を開始するのだった。


    「――諸君、まず先日の自衛隊駐屯地のアンデッド灼滅作戦について、無事成功したことを述べておこう」
     教室へとやってきた宮本・軍(大学生エクスブレイン・dn0176)は、言葉とは裏腹に沈痛な面持ちである。
    「そして現地での調査等で得られた情報から、このアンデッドらが独自の作戦を実行しようとしていたわけではないことが判明した。つまりこのアンデッドたちは、より大きな作戦への布石だったというわけだ」
     さらに軍が告げたのは、東シナ海にて総数100万人ほどの大規模な軍勢が集結しているという事実である。そしてそれを率いるのは、ノーライフキングの首魁の一人、統合元老院クリスタル・ミラビリスの『アッシュ・ランチャー』であるという。
    「その目的は恐らく『日本の侵略』だ。そしてそれにより、我々のように人間社会との繋がりが強い灼滅者組織に対し、間接的に打撃を与えようと考えているのだろう。
     その足掛かりとして、まずは5月2日の未明に沖縄本島に上陸、市街地を制圧し、死体のアンデッド化によって戦力を増強するつもりらしい」
     そのような作戦を実行させるわけにはいかない。沖縄へと向かい、アッシュ・ランチャーの軍勢を迎撃してほしい、と軍は言う。
     そして軍は、沖縄の地図を広げると、海岸の一点を指し示す。
    「諸君には、この地点で上陸を進めている部隊を迎撃してきてもらいたい。そこでは、通りかかった少年が射殺されようとしているため、その直前に駆け付ける形で敵と接触してくれ」
     このタイミングよりも前に攻撃を仕掛けた場合、その影響によって他の部隊の動きが変わる可能性が考えられる、と軍は言う。最悪の場合、沖縄本島への上陸を中止し、離島の制圧といった作戦に切り替えてしまう可能性もあるようだ。
    「敵は3000名ほどの完全武装した兵士だ。もっとも、そのほとんどは一般人なのでESPが通用する。バベルの鎖がある以上、武装していても諸君の敵ではないのだが、無力化できなければ沖縄の市民に犠牲が出てしまうぞ」
     また、この一般人の兵士は、サイキックによって殲滅すること自体は簡単だが、その場合アンデッド化してしまう危険もあるので、可能な限り殺さずに無力化するのが望ましいようだ。
    「そしてこの部隊には一般人の兵士だけでなく、アンデッドや人型兵器『人甲兵』も配備されている。連中はノーライフキングの眷属であるため、簡単には無力化できないぞ」
     1部隊には、人甲兵がおよそ5体、アンデッドがおよそ20体配置されているようだが、正確な数は不明だという。特にアンデッドは、一般人への対処によっては増えてしまうこともあるので、注意を要する。
    「人甲兵とアンデッドの殲滅が完了したら、無力化しておいた一般人を捕縛し、洋上のアッシュ・ランチャーとの決戦に備えてくれ」
     行動を開始しようとする灼滅者たちへと、軍は緊迫した様子で言葉をかける。
    「……沖縄が制圧されれば、虐殺された住民の亡骸により、アンデッドが雪だるま式に増加しかねない。諸君には、沖縄のみならず日本の命運がかかっているのだ。必ず成功させてきてくれ」


    参加者
    森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)
    月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)
    白石・作楽(櫻帰葬・d21566)
    儀冶府・蘭(正統なるマレフェキア・d25120)
    日比野・燈火(君と出会えた幸せを忘れない・d25141)
    果乃・奈落(果て無き殺意・d26423)
    篠崎・零花(白の魔法使い・d37155)
    坂崎・ミサ(食事大好きエクソシスト・d37217)

    ■リプレイ


     薄明かりが射し始めた、沖縄の曇り空の下。
     海岸沿いの道を行く自転車の少年。放たれた銃弾が彼を襲おうとした直後――。
     白石・作楽(櫻帰葬・d21566)の命を受けたビハインド『琥界』が、少年の眼前に飛び出して銃弾を防いだ。
    「ここは危険です、離れていて下さい」
     へたり込む少年へと、そう言って退避を促す月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)。そして彼女は、眼下で集結しつつある軍勢を見やった。この少年だけでなく、これからもっと多くの人を巻き込もうとしている。そんな敵に対する怒りを覚えていたのだ。
    「こっちの稼業に足を踏み入れた時、普通の戦争と関わることはもうない思っていたが……。そういえば、学園では絶えることのない戦争もダークネスによるもの、そう言われていたな」
     文字通りそのものだったわけだ――と、思わず呟く森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)。
     そして灼滅者たちは、海岸へと飛び出した。最前面の軍勢は、突然の敵襲に一斉に火器を発砲する。――だがバベルの鎖を纏った灼滅者たちに、ただの銃弾が通用するはずがなかった。
     灼滅者たちは、一般兵対策のESPを用意した仲間を中心に、いくつかの班に分かれて行動を開始する。
    「……今すぐ武器を捨てて、私たちの目の届くとこに行ってなさい」
     軍勢の眼前に立ちはだかり、王者の風を発動する篠崎・零花(白の魔法使い・d37155)。事前に用意しておいた中国語の文章で、離れているよう命じた。
     彼女の言葉を受けた兵士たちが、おずおずとその場を去り始める。判然とはしないが、百人近くの兵を退散させたようだ。
    「思ったよりも、一度に効く数が少ないな。移動させてから眠らせるつもりだったが、その余裕はないか……」
     複数のESPを併用して完全に無力化する手筈だったが、他の班の様子を見て作戦を変更する作楽。ひとまずは、魂鎮めの風で一般人の兵士を昏倒させる。
     すると眠らせた隊の中に、リーダーらしきアンデッドが独り残された。
    「そこで私たちが、残ったアンデッドを倒す――ですね」
     ソロモンの悪魔『ガアプ』の禁術が記されし魔導書を開く儀冶府・蘭(正統なるマレフェキア・d25120)。呪文を読み上げつつ、ダイダロスベルトを射出する。
     銃弾は効果がないと諦めたのか、反撃とばかりに蘭へと飛び掛かるアンデッド。
    「――蘭ちゃんもみんなも、ボクが守るよ」
     敵の行く手を、日比野・燈火(君と出会えた幸せを忘れない・d25141)が阻んだ。そして、炎を纏わせた燈火の正拳がアンデッドを絶命させる。
     煉夜も、王者の風で数十の兵士たちを退避させた。さらに周囲にいる前衛の仲間たちを、蝋燭の黒煙で支援する。
     残された兵たちが放つ銃弾をものともせず、アンデッドへと肉薄する果乃・奈落(果て無き殺意・d26423)。
    「兵士とはいえ、一般人まで巻き込むか。敵もそれだけ余裕がなくなってきたか?」
     彼の腰のベルトが、サイキックエナジーによって得物へと活性化する。刃と化したベルトを、敵へと浴びせ掛けた。
    「うぅ……。銃を持った人がこんなに……」
     アンデッドだけでなく、脅威ではないはずの一般兵にも怯えた様子の坂崎・ミサ(食事大好きエクソシスト・d37217)。それでも気丈に敵に立ち向かい、赤色の交通標識で殴打し沈黙させるのだった。
     ――そうして、ESPによって隊員を次々と無力化し、孤立した隊長格のアンデッドを撃破していく灼滅者たち。
    「アンデッドの方は、それほど脅威でもないですね」
     細身の管槍『月華の道標』の刺突で、また一体の敵を葬る彩歌。
    「……問題はあれだな、とりあえずは後回しだ」
     引き続きESPで一般人を逃がしながら、軍勢の後方に控えている巨躯を見据える煉夜。3mほどもある鎧を纏ったアンデッド――人甲兵である。
     敵は今のところは隊列を維持しようとしているのか、後方の隊までが殺到してくる様子はない。ならばその間にと、一般人や通常のアンデッドへの対処を優先する灼滅者たち。


     そして軍勢の半数近くを無力化したところで、敵の動きに変化が現れた。どうやら一般兵はこの場では戦力にならないと判断したのか、全体のアンデッドを集結させようとしているのだ。
    「こちらは引き続き一般人に対処するので、アンデッドの方を頼む」
     煉夜の言葉を受けて、奈落たちはアンデッドの姿を追った。
    「――俺たちは、集まり始めてるアンデッドを叩くぞ」
    「徒党を組まれると厄介だからね!」
     奈落の言葉に応じながら、兵士たちの合間を駆ける蘭。集まっていた数体のアンデッドを発見し、魔導書の魔力を込めた『戦翔靴』の廻し蹴りを見舞う。
    「蘭ちゃん、危ないからボクらから離れないでね」
     炎を纏ったグローブ型の縛霊手『バーンストライク』を振り被る燈火。霊的結界を構築し、敵をまとめて攻め立てた。
     さらに奈落も、振り回したウロボロスブレイドで斬り付け、アンデッドたちを撃破する。
     そして他の班も、敵が集結する前に各個撃破する方針を取った。
    「……兵士たちは私に任せて、行って」
     ひたすら、王者の風で一般兵を威圧し続ける零花。その場を彼女に任せ、彩歌らも軍勢の中央へと向かった。
     だが通常のアンデッドは周囲には見当らず、巨躯の敵――人甲兵がいるのみだった。
    「……他の人甲兵と合流されるわけにもいきません。まずは一体倒しましょう」
     管槍を手に、刺突を繰り出す彩歌。他の仲間たちも、人甲兵への攻撃を開始する。
     だが灼滅者たちの攻撃をものともしない人甲兵は、眼前の彩歌へと殴打を見舞った。
    「――っく!」
     槍でなんとか受け止めながら、その予想以上の重さに長期戦を予感する彩歌だった。
    「私のできる、精一杯をしてみせます!」
     強大な敵への恐怖を振り払い、ダイダロスベルトを展開するミサ。それを彩歌に向けて放ち、彼女を守護する鎧へと変えた。
     そしてミサが回復に専念できるよう、彼女の兄の姿をしたビハインド『坂崎・リョウ』が敵の注意を引き付ける。
     ――他方。アンデッドを撃破していた燈火たちも、孤立していた人甲兵への攻撃を仕掛けていた。
    「あなたも、蘭さんたちをお願い」
     一般兵の対処をしていた作楽も、仲間が人甲兵との戦闘を開始したのを見て、ビハインドの『琥界』を向かわせた。
    「アンデッドはほとんど倒したし、次はこいつだね」
     言いつつ燈火は、燃え盛る拳を敵の巨躯へと叩き込んだ。
    「ああ。敵は相当やるようだぞ、日比野も儀冶府も油断するな」
     応じる奈落も、手にした怪談蝋燭の炎で人甲兵を攻め立てる。
     二人の炎に苛まれながらも、敵は反撃を繰り出してくる。その攻撃を、馳せ参じた琥界が防いだ。
     灼滅者たちは果敢に攻撃を仕掛けるが、そう簡単には倒れない人甲兵。お互いに、痛烈な攻撃を浴びせ合う激戦となった。
     そうしているうちに、一般兵の姿がまばらになっていた。まだ距離はあるが、アンデッドの残党を引き連れた三体の人甲兵の姿が見える。
    「合流は、させない!」
     蘭は怯むことなく、宝珠煌めくマテリアルロッド『魔術師の儀礼杖』を叩き込む。頑強だった人甲兵が、大きく揺らいだ。
     そこへ、一般人の退避を粗方終えた作楽が駆け付けた。
    「一期は夢よ、ただ狂え」
     スレイヤーカードから解放した蒼き偃月刀『蒼薇笑・荊月』を構え、螺旋の刺突を見舞う作楽。その一撃により、ようやく一体の人甲兵が撃破された。
     ――そしてその頃、彩歌たちの方も趨勢が決しようとしていた。
     前衛の彩歌や、ビハインド『リョウ』もダメージは蓄積している。だがそれ以上に果敢に攻め立て、着実に敵を弱らせていた。
     敵の攻撃を受け止めながら、翠羽が柄を飾る愛刀『斬線』を構える彩歌。刹那の抜刀で斬り付け、敵を大きくよろめかせる。
     彩歌の負傷を、ミサのベルトやウイングキャット『ソラ』のリングがすぐさま癒やす。
     そしてこちらにも、兵士を退避させた仲間たちが合流した。
    「待たせてすまないな」
     負傷している前衛を、蝋燭の黒煙で治癒する煉夜。
    「……ご苦労さま、ソラ」
     高純度に圧縮された零花の魔力矢が、弱っていた人甲兵へと止めを刺した。


     そうして合流した灼滅者たち。遂に、集結した人甲兵との戦闘が始まった。
     範囲攻撃でアンデッドの残党を始末しつつ、まずは三体の人甲兵の動きを封じにかかる。
    「人甲兵を三体まで減らせたのはいいが、苦しい戦力比だな」
     縛霊手の結界で、敵をまとめて捕縛する作楽。その合間に、墨染の桜が舞い散る影業『桜帰葬』の斬撃を織り交ぜる。「――さっさと眠れ、不死者どもが」
     蝋燭の青い炎から、幻影の妖怪を放つ奈落。周囲のアンデッドに止めを刺しつつ、人甲兵にも足止めをかける。
    「ここから先は、決して行かせません!」
     最前線で敵と対峙し、敵の猛攻を引き受ける彩歌。朧月があしらわれたスカーフ型のダイダロスベルトで、ひたすら自身の守りを固める。ビハインドのリョウや琥界と共に、仲間の盾に徹している。
    「風よ……、巻き起これ!」
     ガアプの魔導書を手に、詠唱する蘭。前衛にて、痛烈な風の刃で敵を斬り付けた。
    「蘭ちゃんには、指一本触れさせないからね――!」
     詠唱中の蘭に攻撃が迫れば、傍らの燈火が食い止める。様々な魔法を繰り出す彼女を守りながら、燃え盛るグローブと歯車型の光輪『エイム・ルー』で敵を攻め立てた。
    「……上陸はさせない、ここで食い止める」
     同じく魔法使いの零花も、母から譲り受けた白い魔導書を手に、魔力の光線を放った。敵と距離を取りながら対峙し、着実に人甲兵へとダメージを蓄積させていく。
    「――援護は任せてくれ」
     傷付いた仲間たちは、煉夜やミサがすぐさま癒やした。前衛の仲間たちに、幾重にもダイダロスベルトの守護を施す。
     そうして灼滅者たちは、前衛の守りを何重にも固めて敵の攻撃を凌ぎ続けた。敵の攻撃も苛烈であったが、一撃で倒されない限り勝機はある。
     そして次第に、人甲兵たちの動きは鈍っていく。攻め手の灼滅者たちが、広範囲の攻撃で捕縛や炎といった妨害を重ねていったのだ。そしてその合間にも痛烈な攻撃を見舞い、着実に敵を弱らせていた。
    「敵の動きが随分悪くなったね。そろそろ集中攻撃に移ろうか、奈落くん」
     燈火はグローブに猛烈な炎を纏わせた。そして渾身の正拳を、最も負傷した人甲兵へと叩き込んだ。
    「ああ、いい加減焦れていたところだ。――邪魔をするなよ、お前たち雑兵に構っている暇はない」
     ダークネスを倒さなければ終わらないのだからな――と、蝋燭から炎の花を放つ奈落。二人の炎に焼かれ、一体の人甲兵がその場に倒れ伏した。
     敵の数が減ったことで、趨勢は一気に傾いた。これまで援護に徹していた仲間も、残りの人甲兵へと攻勢に出る。
     影の花弁を舞い散らせながら、影業の鋭い斬撃を見舞う作楽。敵も猛然と反撃を試みるが、間に入った琥界の霊撃を受け、後方へと退かされる。
     さらに魔導書を手にした蘭が、詠唱と共にダイダロスベルト『魔術師の戦帯革』に命じる。彼女の帯に貫かれ、また一体の人甲兵が沈黙する。
     残るは一体。敵の後方へと回り込んだ彩歌の鋭い斬撃が、人甲兵の鎧に亀裂を刻んだ。
    「……いくよ、ソラ」
     零花の影が、敵の巨躯をも超えるほど肥大化し、満身創痍の人甲兵を一飲みにする。もがき苦しむ敵の動きを、ソラの猫魔法が封じた。
    「誰にも傷付いてほしくない……。だから、恐くても戦います!」
     ミサが振り上げた赤色の交通標識が叩き込まれる。また同時に、敵の退路を絶つようにリョウの霊撃も共に見舞われていた。
     そして煉夜の蝋燭から放たれる炎の花が、猛火となって敵を包み込んだ。
     炎によって焼き尽され、遂に最後の人甲兵が灼滅されるのだった。


     全ての敵を撃破した灼滅者たち。
     退避していた一般兵は、圧倒的な戦力の象徴であった人甲兵が撃破されたためか、離れたところで呆然としている。
     最早、沖縄襲撃を敢行するほどの気力はないのかもしれない。
    「こ、恐かったぁ……。でも、やりました……!」
     憔悴しながらも、この海岸の防衛をやり遂げたことに、満足そうな様子のミサ。そんな主を見届けるかのように、人知れず姿を消す彼女のビハインド。
    「……アッシュが何を企んでるんだか別にいいけども、一般市民まで傷つけるのは許さないわ。……ああ、皆、……お疲れ様ね」
     表情は読めないながらも、どことなく得意気にも見える零花。ソラと共に、仲間たちを労って回っている。
    「そうは言っても、まだそのアッシュ・ランチャーを殺ったわけじゃないからな。体力を回復しておけよ」
    「……うん、わかった」
     奈落の言葉に、素直に頷く零花だった。
    「――へへっ。やっぱ小さい子には優しいよねぇ、のてちゃんって」
    「いやぁ、果乃くんは案外誰にでも優しいんだけどねー、わかりにくいだけで」
     そんな奈落の様子を、愉快そうな顔で見ている燈火と蘭。
    「……フン、言ってろ」
     そう言い捨てると、フードを目深に被る奈落だった。
    「それにしても、本当に大掛かりで、こちらにとっても嫌な手を打ってきましたね……」
     早く大元を断ち切らねば――と、悲痛な顔で洋上を見詰める彩歌。
    「世界を裏で支配し、絶え間ない戦争を巻き起こすダークネスか……。ならばここからが、本当の人類の自立の一歩というわけだな」
     薄明かりの沖縄の空を見据えながら、そんなことを呟く煉夜。その言葉に、作楽は大きく頷く。
    「そうだな、煉夜先輩。次は私たちが反撃する番だ」
     もうじき夜が明ける。だが灼滅者たちには、勝利の余韻に浸っている暇はない。
     何故なら、今日という長い一日は、まだ始まったばかりなのだから――。

    作者:AtuyaN 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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