啼き石の尾裂

    作者:那珂川未来

    ●石と化した魔物の欠片
     古きものには時に価値が、時に曰くが。年月と云う重みを得て、様々な価値をその身に刻む。
     とある曰くがあるという噂の石が、山奥の廃寺のあるとの話を片桐・巽(ルーグ・d26379)が聞いたのも、主の御使いで訪れた歴史あるお寺の住職から。
     話好きの住職でもあったようだが、寺に安置された数々の品物も随分と大事に使っていると分かるほどに状態も良く。歴史の渋み滲み出るそれの知識に感心していた矢先、知っておりますかな? そんな切り口で話されたものは曰くつきの石の事だった。
     夜泣き石。
     伝説にも怪談にも出てくる。日本にも色々なところに夜泣き石があるとされるが、今回巽が聞いたその夜泣き石は、この寺のさらに奥、廃寺の庭にある。
    「その石は、いつも泣いているのですか?」
     巽が尋ねれば、住職はゆったりと首を横に振り、
    「それこそ逢魔が時に数十分だけですな。石にされた怒りを知らしめるように、ケンケンと啼くのです。この辺は山ですから、よう木霊しましてな。その重なりが一層不気味なものなのです」
     住職が言うには、その夜泣き石は、オサキといわれる物の怪の封じられた石とされている。オサキとは尾裂と書き、尾が幾つかに割れた狐の妖怪だ。遥か昔、九尾の狐を封じた石を砕いた欠片がオサキとなったという伝承がある。
     そこまでは、よくある地方の伝説だった。
     先日狩猟の男が獣に喰い荒された死体が見つかったとか。しかしその獣は熊でも、犬でもないと。ではなにか――そういう話になった時、その夜泣き石のオサキではという噂がたち。近頃では、ケンケンと激しく鳴いて石の封印を一時的に相殺し、逢魔が時のほんの数十分だけ石の中から飛び出し人を襲っているのではと噂が立ち、付近の人々は、逢魔が時の外出を控えているらしい。
    「そろそろ日が傾いてまいりましたな。お客様に失礼なものですが、夜泣き石の事もありますから。早いお帰りをお勧めします」
     そんな風に、住職から帰宅の進めをされてから二時間後――。
     巽は手にした地図を確認して、噂の廃寺へ続く道を臨む。
     砂利の間から生まれる叢は風になびき、柔らかな緑の香りが鼻孔をくすぐる。壊れた灯篭は苔に覆われているものの。森の雰囲気に溶け込む様に馴染んでいた。
     巽は振り返ると、集まってくれた事を皆に感謝しつつ。
    「この奥に、噂の都市伝説、尾裂が居るとされています。古くから曰くある石のため、人々の恐怖はよりサイキックエナジーと結び付きやすかったかと……幾つもの尾を持つ狐と云いますから、もしかしたら化かしてくるような攻撃をしてくるかもしれませんね」
     催眠や、狐火などの炎、俊敏な動きでこちらを煽ってきたりするのだろうか。今は予測の域を出ないが、九尾の狐の砕けた欠片であるというなら、その眷族という括りになるだろうか。ともあれ、都市伝説とはいえゆるい相手ではないだろう。
    「さて、猪にしても鹿にしても、狩猟としては早すぎる解禁となりましょうが」
     逢魔が時に啼く呪いの獣。
     幾つもの尾を靡かせる妖獣の面は、人の言葉を操り、純白なる妖艶さ匂えど。
     魔物は魔物。その指先から放つ鏃にて、灼滅を。


    参加者
    皆守・幸太郎(カゲロウ・d02095)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    漣・静佳(黒水晶・d10904)
    祟部・彦麻呂(快刀乱麻・d14003)
    織部・霧夜(ロスト・d21820)
    片桐・巽(ルーグ・d26379)
    炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512)
    狼護・田藤(不可思議使い・d35998)

    ■リプレイ


     古き歴史のシルエットに浮かぶ、美しい茜と透明な藍の滲む絶妙な空のラインを、堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)は見あげながら。その空色の瞳は、禍時の門が開くかのような時の空さえ感激そうに。
     相も変わらず朱那が空へ抱く感情は、こんなときでも変わらない様に、何処か安心とその先の信頼を覚えながら――皆守・幸太郎(カゲロウ・d02095)も相変わらず淡々とした様子で、古びた石畳をふらりと渡る。
    「にしても食い荒らされた死体とは穏やかじゃないな」
     幸太郎がため息交じりに呟けば。
    「ウン。山ならクマとか考えられるケド。この辺に住んでるヒトたちは不安じゃないかな……」
     ちら、と。朱那はこちらを伺うタヌキを見つけ、手を振って。この子も都市伝説の存在に不安を覚えているのかな、なんて思いつつ。
     西に薄く広がる夕暮れの名残へと、音もなく波の様に寄せてゆく藍を見あげ、こそりと後を付けてくる夜の足音からまるで気づかぬふりしているかのように、廃寺の空気の中を、祟部・彦麻呂(快刀乱麻・d14003)は遊ぶような足取りで、
    「そもそも、尾裂が生まれる元となったものって、殺生石とか言うんだっけ。割とメジャーどころだよね」
    「白面金毛九尾の狐が死に際に毒石へと変化したものだというが……」
     織部・霧夜(ロスト・d21820)は頷いて。大妖怪から分離した其れがどの程度具現化されているのか、見えてきた廃寺の敷地に向ける視線に興味も瞬く。
     人の畏れによって、石は人を殺し、狐は尾を裂き化け物となる。故に彦麻呂も、尾裂が男を殺したのではなく、「尾裂の仕業ではないか」という噂によって生まれた都市伝説なんじゃないかと踏んでいる。
     都市伝説とは、「そういうもの」だから。
     彦麻呂がそう思う様に、漣・静佳(黒水晶・d10904)も口伝え故に最も身近な妖の存在が都市伝説だと思う。
    (「――或は、其れを見越して噂を立てた黒幕が居るかもしれんな」)
     狼姿のまま畦道を行く炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512)は、そんな可能性の一つもあるのではないかと。
     タタリガミやスサノオも、語り継がれてきた人の畏怖を煽り、語り、繋いでゆく存在であるとも言えるから。
     程なくして見えた、古びたしめ縄が施された石。黄昏時と相まって、片桐・巽(ルーグ・d26379)は取り巻く空気が淀んでいるように思えた。
    「人の噂が恐怖でなければ、行逢神ではなく御先で在れたのでしょうか……そう考えると、都市伝説というのは何とも渋難でございますね」
     良くも悪くも、結局は人の想い如何で道を分かつ様は、人の心映す鏡の様にも思えて……巽は従うその背へとそんな風に呟くならば。
    「空弧となると、逆に尾がなくなるというが。このまま殺生石の欠片を砕いていけば、或はそうなるかもしれんな。まぁ、何処まで砕けば悪徳や怨嗟が消えるのかはわからんが――」
     言って、霧夜の目がすっと細まる。
     石が啼き始める。その音に重なる、どことなく念を唱えるかの如くぶつぶつと、淡々と、八十の如く溢れる言の葉で噺を紡ぐのは狼護・田藤(不可思議使い・d35998)。
     顔を手で覆い、指の間から覗く眼力には、希薄な存在感とは対照的に、都市伝説に対して意欲的なものが微かに見てとれた。
    (「信仰心や、その土地ごとの神々と混ざり合って――あなたは、眠っていたのよ、ね」)
     そう、人の心の中に。
     畏怖として、ずっと。
     古き時代からの曰くや戒めはそのままに。静佳はただ、容という檻の中から、あるべき場所へと眠らせてあげたいと思う。
     啼く音に呼応する様に、ぽつ、ぽつと、狐火浮かぶ、其れこそ――。
     淡い色の灯、その切ない色に、何かを思い馳せながら。静佳はほんのりと「綺麗、ね」と呟き、
    「深い深い森の中。眠りについた狐さんの、目覚めにしては、少しだけ物騒、ね」

     ――夜の帳が開けるまでに、終わらせましょう、この物語を。

     足元により寄りそう影の獣の鳴き声が、尾裂のけたたましい嘲笑とぶつかり合う。


     ざぁ、と昼間の熱をさらう様に風が吹く。
    『また妾の邪魔に来たか、人間どもや』
     作法など持ち合わせていない尾裂から迸る狐火の大軍、いのち憎しやと襲いかかってくる。古びた寺院は火影に一層不気味に浮かび上がり、逢魔が時の色を濃くさせた。
    「『逢魔が刻』の獣……ね。さて、本当の獣のように相手を喰らう魔物は、コイツか……それとも俺達か」
     幸太郎の帽子のつばから覗く瞳の中に、幾つかのやる気の瞬き忍ばせつつ、腕を盾の様にしながら狐火に立ち向かってゆく。
    「何時ぞやの嫁入り狐と違い、ヒトを害すものなれば。果たして加減をする謂れが在ろうか」
     狼から一瞬で人と化し、纏う気に墨と生成りを馴染ませしなやかに石畳を蹴る軛。
     幸太郎が放つ魔を禁ずる符と、軛が語る七不思議の言霊にて癒しの獣が戯れるなら。
    「私の言霊に呪われるがいい……ンラアヤニ……ネホノマウノク……」
     田藤の手より放たれる符が、梢鳴らす風の中、生き物のように蠢き、ビハインド・やその霊撃が空を歪ませて。
     百鬼夜行が舞いこんだかの如く、黄昏に乱れる言葉や瞬きの中際立つ、肥大化した鬼の腕は、曰くの言の葉を吐き出しているように不可思議な気を纏う。
    「こんこん狐さん、こんばんはー」
     彦麻呂はいつもの口調で、朗らかに。人であっても人ではないものであってもそれは変わらない。自分は自分らしく、自分が信じるものを諦めない為――只、振り抜く鬼の手に、迷いはなく。
    『カカッ! こりゃ見縊られた。狐ときたか!』
     かすめゆく鮮血も愉しげに。尾裂は獣と同じように並べられるとは心外とばかりに三本の尾を靡かせて。
     いやらしいほどに、着火させる炎の数はディフェンダー陣を脅かすが。
    「広範囲を脅かすのが、お得意の様ね。けど、させない、わ」
     静佳の手から放たれる美しい琥珀の輝きは、黄昏時を留めるかのように広がって。その琥珀色を霧夜は己が魔力の高ぶりに重ね、守護とすると、手首に揺れるToad lilyに触れ、盟約を音無き言葉として確かめる。
     自らの前で狐火を受け止める巽へと視線送るなら、肩越しに視線を受け止める巽は、いつものように紳士的な微笑のまま銀鳥に手を添え。
    「Yes your highness」
     全ては主の心のままに。
     視線だけで全てを理解する巽は、尾裂の側面へと流れる様に滑り込み、白銀の翼を以て突きかかる。
     鋭い剣先を、尾裂は嘲るように翻るものの――身を捻るには難しい体勢を狙った、霧夜から伸びる星の尾の様なベルトの一撃が。
    「……ソアシケバノネ……ツキテシモトヒ」
    『ほ、烏合の衆ではなかったか』
     希薄な存在感と、独を好む気とは裏腹に。田藤が毒を以て毒を制すような奇怪な符を彦麻呂に施しつつ、やそをけしかける――灼滅者達の綺麗な連携を続け様に見て、尾裂が少々驚いた様に言う。
     退魔の炎の力を瞬発力に変えた朱那が、極彩色のベルトで黄昏を掴みながら尾裂へと肉薄。
    「おイタする輩を放ってはおけないからネ!」
    『おイタときたか! しかしそれは主らの方ではないかえ?』
     嘲る尾裂へと、朱那はつづけざまnon stopを振り抜こうとした刹那、届く呪詛の一撃に。
    「っ!」
     朱那に、皆の立ち位置がシャッフルされた様な錯覚。目の前にいるのが幸太郎に見え、咄嗟攻撃の勢いを相殺してしまったのは催眠の所為。
     反動の様に自分に入るダメージだけど。降り注ぐ炎を遮る背から、これで治しとけと言わんげに送られた符。
    「はりきりすぎてケガするんじゃないぞ。抱えて帰るのも疲れるからな」
     油断なくとも、ジャマーポジションも相まって、其れに長けた相手なら。催眠の一つや二つの発動も想定のうち。戦えば傷がつくのは当たり前だが。幸太郎としても、誰かを心配させる様な怪我は、やっぱりさせたくないし、してほしくない。
     それを支える様に。
     信頼する様に。
    「アリガト、コータロー」
     朱那は笑い。そしてまた、non stopを構え。最小限の被害で食い止める事が出来ることこそ、チームプレイの強み。
    「あーんど任せて!」
     ざっと爪先で地を掴んで跳躍し、尾裂のリズムを乱す様に向かう朱那の背へ、軛は幸太郎との連携を支える様に、七不思議の言霊を唱え癒しの獣の愛らしさを以て戦列を整えてゆく。


     狐火が荒ぶ。軛がライジュウの如し黒犬の荒々しさ語るなら、幸太郎の解き放つ風と一緒に魔をさらう様に、朱那の極彩色が空を彩る。
     田藤は相変わらず手で顔を覆い、やそを無尽に動かしつつ。仲間の忌憚や都市伝説、双方の不可思議をじっとりと眺めつつ延々と呪詛を這わせ。
     荒れ狂う白き大蛇のような帯を彦麻呂は空へと解き、尾裂へと放ちながら、
    「ひとつ、聞いておきたいことがあるんだ。最近、男の人が獣に食い荒らされたらしいんだけど、心当たりはある?」
    『人をいつ喰ったかなどいちいち覚えておらぬわ』
     意味深な目つきで嗤う尾裂。
    「ふーん、そっか……覚えていないなら仕方ないね」
     都市伝説として生まれた以上其れを演じなければならない――いや、其れであらなければならない悲しい舞台装置。彦麻呂は例え架空の存在でも、冤罪で恐れられ討伐されるだけの存在というのは少し可哀想に思いながら。
     けれど本能的に察す。
     想像通り噂から生まれた魔物。生きていれば、彼女は人を喰うものなのだ。
    「――ねぇ、仮に貴女ではなかったとしたら……狩猟をした男性は、一体ダレに喰い荒らされたのかしら?」
     碧く広がり始めた夜の空へ手をかざしながら、月の光の様に静かで神聖な光を振り下ろしながら静佳が尋ねれば。
    『さぁて? 山の獣など数知れぬしのう?』
     攻撃の一部をいなし、かわしながら。鮮血に濡れた白い面を舐めつつ。
    『もしや、飼い犬に手を噛まれるどころか、命まで取られたかもしれぬわなぁ?』
     笑う声に混じる呪言が、間合いを取る巽へと無理矢理刺さりこんでくる。
     巽自身の鮮血に瞬間的に洗われた世界より転じた其処は、目に見えるものが全て尾裂に見えるならば。反響する様な嘲笑。操る催眠とは、幻覚にも近い。
     けれど冷静な面は崩れない。主は元より。志願を名乗り出てくれたもの達に、刃で仇成すなど――。
    『おや、そのまま首でも掻っ切ってしまえばよかろうに』
    「斬られるのは、そちらですよ」
     自らの幻想影樹の茨の中で赤き花を綻ばせながら、紳士的に微笑む巽。
    『は、強がるな』
     尾裂の三本尾が、矢の様に奔る。咄嗟、巽が銀烏の輝きを盾にそれを受け止めると、その瞬間を狙ったように美しい蒼の一閃が霧夜から。
    『カカカ、飼い犬は盾になるしか能がないとは知れてるなぁ』
    「そういう目先の考えは獣らしいがな……」
     これが本物(ダークネス)であるというならば、もう少々想像力が働くだろう。嘲りに対して、これが都市伝説の限界だろうと、呆れにも似た目を向けた霧夜。
     刹那、大地より罠の如し影の茨が噴き上がり、尾裂の体に激しい傷。
    『小賢しいわ!』
     巽から虚をつかれた攻撃が本当の連携の狙いだと知り、いきり立つ。
     波の様に孤を描く炎が尾裂より降り注ぐものの、静佳が構える華奢な得物から瞬くシグナル。その煌めきを巻き込みながら、前衛の背に更なる追い風を与える幸太郎の癒しの風が巻き起こって――。
     田藤は完全に戒めがクリアーになったのを見計らい、今こそ私の言霊に呪われるがいいと言わんばかりに。
    「……ズイハメビ……ソアシケバノネ……ツキテシモトヒ」
     田藤が語る狐の嫁入り、贄にせんと忍び寄る呪詛は地を這うかのように忍び寄り。延延と、怨怨と、しつこく尾裂を追いたてる。
    『今度こそ身内の首でも掻っ切るがよいわ!』
     鬱陶しいのでまた操ってやろうと、尾裂は再び呪言をぶちまけた。
    「残念だが、それは叶わぬ」
     庇うなり、即座言い放つ軛が影で編んだ刀を手に突撃する。身に重なった防護の力が軛自身の白き気に混じり合い、次々と戒めを吹き飛ばしながら。そのしなやかな足は、鋭月の如き弧を描く。
     広範囲にばらまいたはずの呪言が何一つ機能しないことに目を剥き、そして軛の爪先に、鮮血が火を噴く様にぶちまけられた。
     尾裂の戦闘スタイルは、ばらまいた異常状態で戦列を錯乱させて潰していこうというものだったのかもしれないが――しかし序盤から徹底して築き続けた基礎地盤と、全員が尾裂の得意な攻撃をあまり受けぬように防御面を整えたこと。灼滅者の疲弊も重なったが、攻撃手が全員尾裂のスピードに負けないように布石を打ったこと。
     つまり――。
     彦麻呂の鬼神の如き掌から巻き上がるカミの風に、季節に置いてけぼりにされた木の葉が、濃い藍色を覆うなら。巽の銀鳥に重なる霧夜の蒼き炎の一閃――翼は炎を得て不死鳥が如く化け物を啄んで。
    『ぎひぃ!?』
     ダメージ減衰しない神秘属性が当たるようにるならば、それは尾裂にとってこの上ない屈辱だったろう。
    「啼いてもダメよ――大人しく眠ってちょうだい」
     機を逃す意味など無い。宵の訪れにも似た空を仰ぎ、静佳は影の獣たちを呼び寄せて。
     駆け抜ける影の群れに、動きを狭められ。尾裂は迫りくる死の恐怖に悲鳴を上げた。
     田藤の呪詛が敷き詰められた巻物のようなベルトが、逢魔が時の最後の刹那を駆け抜ける。
    (「わたしがもし大神に呑まれていたらば、きっとヒトに討たれるのであろうな……」)
     ヒトを嗤い、妬み狂うように。軛は時代の忘れ物の様な世界を跳ねる尾裂を見。そして一族の記憶にしなやかな姿重ねながら。
    「わたしも追う物が在る身。怒り、恨み、その心は痛い程――」
     軛が血を振り落とし影の刃を収めれば、尾裂はまるで砂の様に粉々になってゆく。
    「勝手に恐れられて、生み出されて、挙句の果てに灼滅される――それじゃちょっと寂しいでしょ? だったら一緒においで」
     彦麻呂が誘えばその欠片はさえも跡形もなく吸い込まれ――まるで最初から、畏怖だけの存在だったように。
     軛はそこに、長い歴史の中、分かった道の無常を見たような気がした。

    「狐だけにコーン後は出てこない……なんてな」
    「あ、コーンだけに、なんだか焼きトウモロコシ食べたくなってくるネ」
     どうだ気分が和んだろうと、どこかしらしたり顔の幸太郎へ、朱那もしたり顔で帰りに御馳走してネと強請ってみたり。
    「お怪我ありませんか、霧夜様?」
    「問題ない」
     気遣う様に巽に掛けて貰ったフロックコートを身に付け、
    (「牛蒡種や犬神も都市伝説になっていなければいいがな……」)
     残る殺生石の砕けた行方を徒に思いながら――霧夜が視線を流せば曰くの石は、ただ静かに佇んでいる。
    「七不思議使いの方と共に在る、ある意味の輪廻が訪れますよう……」
     巽は瞑目し、その行方に幸を祈る。
     今迄通り、時の流れとともにしみ込んだ畏怖の念だけが、静かに語り継がれてゆくのだろう。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ