ちるはくれなゐ、はらはらと

    「ラジオウェーブのラジオ放送が確認されたよ!」
     とんっとポータブルラジオを机に置いて、須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)は集まった灼滅者たちを見回した。
     そのそばで資料をめくっていた莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)が、一枚を抜き取り文字列を指す。
    「ラジオウェーブのラジオ電波によって、都市伝説が生まれると言う話は聞いたことがあると思います」
     そして、ラジオ放送の内容と同様の事件が発生してしまう。
     阻止するために皆の助力を請うと、エクスブレインは言ってラジオ放送の内容について説明をする。

     その屋敷は、人里離れた緑深い場所にあった。
     建物はさほど大きくなく豪華でもなかったがとても広い庭園があり、季節になると見事な薔薇が咲くので、近くの住民をはじめ親しみを持たれていた。
     緑に彩りを与えるのは柔らかな白。鮮やかな黄。淡い紫。そして、目の覚めるような赤。
     だがいつしか、咲くのは赤い薔薇だけになり、それに伴いひとつの噂が立つようになった。
    「あの薔薇は、きっと人の血を吸ってあれほど見事な赤に咲くのだろう、と」
     そっと目を伏せ、想々が言葉を継ぐ。
     ただの噂と笑っていればよいものを、幾人かが冗談半分で確かめに行ってしまった。
     そして噂は、真実となる。
     美しく鮮やかに咲く、血のように赤い薔薇は。

    「というわけで、みんなに対処してもらいたいのは人の生き血を吸う赤い薔薇の噂のラジオ放送だよ」
     ぐむむむむ、と腕組みをしてまりんはうなってみせる。
    「赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)さんの調査で、都市伝説を発生させるラジオ放送を突き止めて、ラジオウェーブのものと思われるラジオ電波の影響で都市伝説が発生する前に情報を得ることができるようになったことは、みんなも知っていると思うんだけどね」
     まだ、犠牲者は出ていない。まだ。今のところは。
     つまりほうっておけば、放送のとおりに犠牲者は出てしまうのだ。
    「場所は……えーと、地図を渡しておくね。集落が近くにあるんだけど、そこから少し離れた場所にある、もう誰も住んでいない洋館だよ。集落自体が住んでる人が少なくて、そのまた奥だからほとんど人は来ないんじゃないかな」
     人払いの必要はないと思うよ、とエクスブレインは付け足した。
    「で、肝心の赤い薔薇が咲いている庭園は、色々な色の薔薇が数え切れないほどあちこちに咲いていて迷路みたいになってるみたいなの。この迷路で都市伝説に襲われたりはしないから安心してね」
     腰ほどの高さの木薔薇は行く手を阻むように密集して生え、蔓薔薇のアーチもある。
     しかしそこここに人が通れるほどの空間があるので通ることは難しくないし、目的の場所も見渡せるだろう。
    「廃屋になってからも薔薇は枯れなくて、毎年季節になると綺麗に花を咲かせるんだって。何だかちょっと寂しいような、不思議な話だよね」
     ね、とまりんが笑うと想々も微笑んで返す。
     それから、攻撃方法はこれね、とエクスブレインは別の資料を差し出す。
    「まず薔薇の花びらを飛ばしてくる攻撃。これはホーミングの効果があるよ。次に、蔓を伸ばして切りつけてくる攻撃。これはジグザグの効果があるから気をつけて。それからもうひとつ、同じ蔓を伸ばしてくるんだけど、絡み付いて締め付けてくる攻撃。こっちはドレインの効果があるみたい」
     厄介な能力というほどではないが、油断すれば痛い目を見るだろう。
     灼滅者たちが視線を交わすのを見やり、首を傾げる。
    「この情報は予知じゃなくて、ラジオ放送の情報から類推される能力なのね。だから可能性は低いけど、もしかしたら予測を上回る能力を持つかもしれないからその点は気をつけて」
     みんななら大丈夫だと思うけどね、と付け足して。
    「きっと最初は、憧れか何かだったと思うんだけどね」
     薔薇の花咲く洋館なんて素敵だもの、とまりんが笑う。
    「解決したら、よければ薔薇の庭園を楽しんで来たらいいんじゃないかな。それじゃあ、よろしくお願いするね!」
     にっこり笑って、灼滅者たちを送り出した。


    参加者
    東郷・時生(踏歌萌芽・d10592)
    莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)
    ジュリアン・レダ(鮮血の詩人・d28156)
    霧亜・レイフォード(黒銀の咆哮・d29832)
    茶倉・紫月(影縫い・d35017)
    城崎・莉々(純白しか赦せない人・d36385)
    水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)
    アリス・フラグメント(零れた欠片・d37020)

    ■リプレイ


     初夏の風は、幾分か雨の気配を含んでいた。
     踏みしめる地面の感触は確かで、木々の葉擦れがさわさわと導く、或いは拒むようにささやく。
     歩を進めていくと緑がふいと途切れ、莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)は小さく息を呑んだ。
     ラジオ放送の内容のとおりその洋館はさほど大きくなく豪華でもなかったが、その前に広がる庭園を彩る色彩。
     周囲よりは少ないがやはり木々に囲まれ、往時には几帳面なほどにきっちりと囲い道を作ったであろう薔薇たちは、放埓に伸びて道をふさいでいる。
     完全に覆っているわけではないのでそのままでも通れなくはなさそうだが、葉の陰に秘めた棘に衣服や肌を引っ掛けてしまうのは避けられないだろう。
    「人の手が入らなくともその季節が来る度咲き続けるっていうのは……かなり良い土、日当たり諸々好条件が揃っているのだと思う」
     茶倉・紫月(影縫い・d35017)が口にし、隠された森の小路を用いて屋敷へと向かう庭園迷路へと足を向ける。
     客人を確かめるようにこちらへ頭をもたげていた薔薇たちは、灼滅者たちが近づくとそわり離れて道を作った。
    「ありがとう、助かるわ」
     礼を言う東郷・時生(踏歌萌芽・d10592)に手を掲げて応え、
    「こいつらは素直みたいなんだが……これから会う奴は素直ではないんだろうな」
     彼の髪に似た色に薄く色づく薔薇へ視線を落とし、ふいと顔を上げてそちらを見る。
     洋館の前、ひときわ赤く咲き乱れる赤い薔薇。何かを拒むかのように、或いは罠に捕らえるかのように、群れている。
     あれが目的の、そして狩るべき花だ。惑い通って此方へ御出でと招く薔薇の迷路へ誘われ、おとぎ話ならトランプ兵が赤いペンキで塗っとるげんけど、と口にする想々。
    「ただの物語なら恐ろしくも情緒があって良かったのにね」
     ラジオウェーブって厄介だわ。
     時生はほくろのある口元に手をやり、全盛期にはきっと素晴らしい庭園だったのでしょう、と顔をめぐらせた。
    「きっちり灼滅して、帰りは薔薇を楽しみたいわ」
     嘆息じみた言葉に城崎・莉々(純白しか赦せない人・d36385)が微笑んだ。
    「私、紅茶持ってきたんです。終わったら皆で飲みましょう、皆で、一緒に」
     誰一人欠ける事無く、一緒に。
     穏やかな笑みに強い意志を含み手荷物を掲げる彼女に仲間たちも笑みで応える。
     血を吸う薔薇。とアリス・フラグメント(零れた欠片・d37020)が口にした。
    「確か読んだ本の中にそんな話がありました。正体は薔薇ではなく薔薇園に眠っていた吸血鬼が……という内容でしたね」
    「お話の結末は?」
     への字口で淡々と語る彼女に想々がこっくり首を傾げて問うと、目つきの悪さが災いする睨むような右目を片眼鏡の奥でそらした。
    「結末ですか? どうでしたか……忘れました」
    「そうなの?」
    「べ、別に怖くなって読むのを止めた訳ではありませんよ」
     本当です! 本当に忘れたんです!
     誰に責められるでもないのに焦りながら言い訳、もとい理由の念を押す。
     普段無愛想な彼女のそんな様子にくすりと笑い、そっと枝に触れたその時。
    「……ッ!」
     小さく上がった悲鳴に灼滅者たちが身構え、大丈夫だと慌てて振った繊手の先にほつりと小さな赤が浮かんだ。
    「んぅ……迷路探検は注意してても少し怪我しちゃいますね」
     指の赤い水玉を舐める彼女に安堵し、水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)は物憂げなまなざしで手近な赤い薔薇の花びらを撫でた。
    「赤っていうのは生命の色というイメージがあるからね」
     生命から連想、転じて血の色に。血を奪い糧としてるのではとなったのだろうかね。
     全ての生き物は他を食べ、糧にし生きている。植物も人もその糧の得方が違うだけで……
     滔々と流れ出す言葉と思考をひととき口にして、は、と口元へ手をやる。
    「おっと、話が逸れていく僕の悪い癖が」
     話し始めるとかなりの割合で1人で勝手に逸れていくのは今日もまた。
     後輩の悪い癖にかすかに眉をひそめた紫月の髪を、さわ。そわ、と風が撫でていく。
     それと共に、周囲の薔薇とは違う香りが灼滅者たちの意識に触れた。
    「綺麗な桜の下に死体が埋まっているとか、その死体の血を吸って美しく咲き誇るのが、桜なら分かるが薔薇とはな」
     目前に迫った赤薔薇に、霧亜・レイフォード(黒銀の咆哮・d29832)が表情を険しくする。
     風に撫でられるまま緩やかに花を揺らしていた赤薔薇は、敵対者の気配を察してか風に逆らい動きを止めた。
     その鮮やかな色彩に、莉々はふいと魅入られたように見入る。
     血のように赤い薔薇……血の赤など見飽きていますが。
    「……こんな風に美しい紅だったら、見飽きずに済むのでしょうか?」
     永久に黒ずまない薔薇の赤なら。
    「(――でもきっと私は、存在理由を求めて血に惹かれてしまう)」
     ふるりと首を振り、
    「主よ。私が貴方の意に沿えるよう、力を与えて下さい」
     祈りを捧げる彼女のそばで、ウィングキャットのアルビオンが都市伝説へと唸る。
    「人を害すべく産み出されたイノチか」
     オレと何処か似ているね、とジュリアン・レダ(鮮血の詩人・d28156)は目を眇めた。
     この時代に咲いた徒花なのだろう。葬ろう、哀悼の意を込めて。
     ふ、と息を吸いスレイヤーカードを掲げる。
    「『穢れも、罪も共に』」
     言葉と共に解放された武器を取る灼滅者に呼応するかの如く、赤薔薇はぞわりと蔓を伸ばししならせる。
     鋭くうねるそれから目を放すことなく、時生もスレイヤーカードに手を伸ばし裂帛の気合を吐いた。
    「我が身は盾、我が心は剣。全ては護る為に!」


     づ、っと薔薇の香を漂わせ空気が震える。錯覚か、庭園迷路の薔薇たちもまた身を震わせたかのようで。
    「すまないが犠牲者を出させる訳には行かないのでな、恨むならラジオを恨め」
     地面を強く踏みしめるレイフォードへと、苦鳴に似た音をさせ薔薇が鋭く蔓を走らせた。風を切り疾る蔓に地を蹴りかわすと、勢いに乗せ炎をまとわせた蹴撃を繰り出す。
     想々は群れ咲く薔薇の薫香と共に息を吸いながら狙いを定める。
     花弁は真に赤。そこに人の命の色はない。今は血の色を宿す彼女の瞳の赤と違い。
     ああでも。
     貴方がまだ血を吸ってなくてよかった。
     綺麗に咲き誇ってほしいから。
    「そんな怖い噂は此処でお仕舞」
     薔薇纏う十字架構えて告げ、聖歌を紡ぎ光の弾丸を放つ。
     づ、あっ。回避しきれず断罪の光に花弁は悶えるかに散り、別の花からほろほろと散り落ちた花弁が灼滅者へと襲い掛かるが、レイフォードのライドキャリバー、ゼファーがその身を盾として防いだ。
     舞う花弁の中を駆け、紫月が漆黒の長剣を振るう。一瞬の呼吸の後ジュリアンが爪弾く旋律は形なき刃となって蔓を薙ぎ払い、紗夜の放つ鋼糸が誘うように絡め取る。
     一巡、二巡と攻撃を行って判断したのは、赤薔薇の群れはさほど強くない。群れ咲いてはいるが複数個体いると言うわけではなく、群れて一体と言うところか。
     無論一度で倒せると言うほどでもなかったが、油断なく戦えばさほど時間もかからないだろう。
     倒された赤薔薇が散らす樹液や花弁からかすかに放つ、しかし深く胸を満たす芳香が灼滅者たちを包む。それはサイキック攻撃ではなかったが昔日の記憶を幻視させ、莉々はふるりと身を震わせた。
    「(何だか催眠術にかかったみたいに、味方を攻撃しないようにせねば)」
     つかの間動きを止めた彼女へ「しっかりしろ」とばかりにアルビオンが猫パンチをぺちりとやる様子に大丈夫かと訊くと、予期せぬ攻撃に注意していたと応える。
     捕縛とか足止めとか、ちょっとありそうだと思っちゃいました、と。
    「……薔薇のいい香りとかしちゃうとうっとりしちゃうじゃないですか」
     ほうとした思いを絡めとろうとする香りを振り払い、武器を構えなおした。
     澄んだ青の左目を開きアリスが放ったリングスラッシャーは分裂して打ち落とそうとくねる蔓をなぎ払う。
     自身の攻撃の効果を確かめ次の手に備えようとする少女へと一輪の赤薔薇が首をもたげ、妨害されぬようにか這うかのごとく低く奔る搦め手は防御の姿勢を取るより早い。
     幾本もの蔦を毒蛇めいて伸ばし、足元から絡め取ろうと襲い掛かった。
    「……っ!」
     決して鈍くはない棘がそこここについた蔓に拘束される幻を一瞬見て身を強張らせ、しかし彼女の間に立ちはだかった姿に息を呑む。
    「東郷さん……」
     捉え捕らえようと力を強める都市伝説を、むしろ放すまいとしっかりと掴む時生のその手から、或いは棘に掻かれて負った傷から雫が落ちた。
     否。その色は蒼天。雲一つ無い澄みきった青空のような色の炎。
     赤薔薇は蒼炎を恐れるかに蔓を引き、しかし逃さないと炎は追う。
     万が一敵が予知以上の行動を起こしても。
    「身体張って皆を護ってみせる! 私はその為に今、生きているんだ!」
     ざ、んっ!!
     激情と共に放たれた一撃が赤薔薇を散らした。
     無理をしないでと莉々からの回復を受ける彼女を支えるようにして、紗夜が白銀の鋏を振るって絡み付こうとする蔓を切り刻み、アリスもお礼とお返しとばかりに召喚した虚の刃で赤薔薇を狩っていく。
     紫月が奇譚で語るのは死人桜。普通の桜ではありえない、紅色の桜が鮮やかに咲いて襲う。
    「綺麗に咲き誇りたいと思うのは分からんでもない。だが、他人に迷惑をかけてまで美しくなりたいと思うのは間違いだ!」
     レイフォードが叫んで敵の最中にバベルブレイカーを打ち込む。渾身の力を込めた強撃は花弁を散らし、薔薇よりもなお赤い瞳を眇めてジュリアンは残った赤薔薇へと得物を向けた。
    「葬ろう、人の血に染まる前に」
     静かな宣告と共に、散る花弁ごと都市伝説を切り刻む。
     風に舞いさあと流れる様はまるで花吹雪で、灼滅者たちはしばしその光景に見入った。
     は。と。紗夜とアリスが顔を見合わせる。七不思議使いをルーツに持つ彼女たちは、都市伝説の吸収を試みるのだが。
    「わたしと一緒にきませんか?」
     血を吸う薔薇ではなく、人々に忘れていた熱い想いを思い出させるほど美しく咲く情熱の赤い薔薇のお噺として語りましょう。
     そう赤薔薇を招くアリスに続いて、紗夜は少しだけ遠慮がちに語りかける。
     咲き続けたいって思ったら、僕と一緒に来てくれないかなって。
    「(僕は強い懇願はとても苦手だから、本当に都市伝説が行きたいって思った方で構わないんだ)」
     ふたりの七不思議使いの前で、薔薇の花吹雪はゆるりつむじを描く。
     都市伝説が選んだ七不思議使いは、髪についた花びらをつんと手に取り微笑んだ。


     戦いが終わり、皆に時生がESPの使用を控えてもらえないかと告げる。
    「迷路みたいな道も含めて薔薇園を楽しみたいからね、お願いよ」
     彼女の言葉に仲間たちは快諾した。無事に戦いが終わった以上急ぐこともない。
     それに、隠された森の小路を用意していた紫月と莉々は元より薔薇園を楽しむつもりだったので、そんな無粋はしないと承諾した。
     であればと莉々が用意していたお茶を皆に配る。
     柔らかに薫る花の香と、美しい真紅の水色はディンブラ。迷宮庭園を彩る薔薇に似た。
    「人が手塩にかけて育てる花も良いけれど、自由に咲いて散る花もまた良し」
     そう思わない? 微笑み問う時生に、皆も同意する。
     生花を慈しみ散るまで見届けるのが大好きだという彼女は、都市伝説として歪められてしまった薔薇が可哀想だと手近な花に触れた。
    「せめて私たちだけでも、めいっぱい楽しんで帰りましょう」
    「ええ。そうですね」
     様々な品種が入り雑じっているであろうに決して雑多ではない薔薇の香りに今度こそうっとりとする彼女のそばでアルビオンがゆるりとくつろぎ、仲間たちも思い思いに薔薇を楽しむ。
     迷子防止に皆と離れすぎず、不思議の国へ迷い込んだ少女の気分はこんな感じ? と想々は庭園や洋館の周囲を散策する。その後にアリスも続く。
     古いお屋敷を守る薔薇達。
     そこにはなんだか、あたたかい思い出が残っているようで。
    「此処に住んでいた人達は、どんな思いで毎年咲く花を見ていたの?」
     話しかけても答えはない。
     赤い薔薇の花言葉は「あなたを愛しています」。
    「……きっと、愛されとってんね」
     瑞々しく輝く花に近寄って香りと姿を楽しみ、
    「どうか来年も咲いてね、また、会いにくるから」
     薔薇に微笑みかける彼女に、閉じた左目にふと触れてからアリスも薔薇を見つめ、視線を移す。
     仲睦まじげに身を寄せ合う赤い薔薇を見つめる紫月にふと紗夜が問うと、単に、アカい色に惹かれたっていうのが理由、と答えた。
    「この色はあの人を連想させる色なんだよ……」
     言い様のない感情を瞳に浮かべ、どこか歯切れ悪く続ける。
     何でその色がその人を想起させるのかが気になるかも。続けて問うと、返るのはやはりどこか歯切れの悪い言葉。
    「何でって、あの人がよく身に付けている色だからだと思う……恐らくは」
     恐らく……って答えたのは、最近はその人は黒っぽい服装が多くなっている気がするから。
     なんとなく、モノクロが多くなっているような……という事に気付いてしまったその時、
    「それは本当にそうだからなのかな?」
     誰を連想しているかはわかっているけれど、口には出さない。
     ただちょっと、それは何でか、本当に? って質問していじわるしたくなっちゃった。
     そのいじわるは、確かに彼を困らせてしまう。
     と。
     散り逝く生命を想い、鎮魂の曲が穏やかに響く。
     この音がいつか創造主に届く様に。創造主を弔う時が来るように。
     何を思うか何も思わずか、レイフォードは黙してその音色に耳を傾ける。
     最後の一音が余韻を残しそれすらも消え去ってから、奏者であったジュリアンが口を開いた。
    「お疲れ様でした。いつか、また。戦場にて」
     戦うのは灼滅者としての宿命だ。この穏やかな時はその幕間。
     彼らが憩う薔薇花は、名残惜しげに風に揺れていた。

    作者:鈴木リョウジ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年6月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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