●現れたる『アッシュ・ランチャ―』
――沖縄、夜明け時。
戦いを終えた灼滅者達の下へ、運び込まれた一枚のディスク。
「皆、沖縄に攻め寄せた軍勢の撃退よく頑張ってくれた。このディスクの中を見ている君達が生きていてくれて本当に良かった」
それは、北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)の安堵の込められたメッセージ。
「皆が頑張ってくれたお陰で、アッシュ・ランチャーを灼滅する機会を得ることが出来た。クリスタル・ミラビリスの元老であるアッシュ・ランチャーを灼滅出来れば、も謎に包まれたノーライフキングの本拠地への侵攻も出来るようになるかも知れない」
けれども……と溜息交じりに続ける優希斗。
「敵軍は未だ強大だ。生半可な覚悟じゃ反撃に転じることも出来ない。それどころか……状況は加速度的に悪くなってきている。ご当地怪人が、ノーライフキングの動きに呼応して動き出した」
優希斗の言葉に、灼滅者達が其々の表情を浮かべる。
「ノーライフキングとの協力体制にある彼らの移動拠点、ご当地戦艦スイミングコンドル2世を、アッシュ・ランチャーの艦隊に合流させた様なんだ。しかも……」
小さく息をつき、説明を続ける優希斗。
「アッシュ・ランチャーが座上する艦艇は疑似的に迷宮化されていて、アッシュ・ランチャーを灼滅しない限り破壊する事すら許されない。勿論その迷宮内にはノーライフキングをはじめとした強力な戦力が跳梁跋扈している。……攻略するのは、正直言って非常に難しい状況にある」
だが、それでも。
ここでアッシュ・ランチャーを逃がしてしまえば、今回の様な大掛かりな作戦が再び行われる可能性が残ってしまう。
「非常に危険で、無茶を言っているのは分かっている。それでも……頼む。皆で協力して、何とかアッシュ・ランチャーを灼滅してきて欲しい。後、これも大事なことだからしっかり伝えさえてもらう」
そう言って、一つ間を置く優希斗。
唾を呑む音が聞こえたような、そんな気がした。
「アッシュ・ランチャーの艦隊に合流したスイミングコンドル2世に闇堕ち後行方不明になっていた、椎那・紗里亜さんが囚われていることが予知できたんだ」
その言葉に、灼滅者達が其々の表情を浮かべる。
「彼女は闇堕ち時に特殊な力を得たらしく俺達エクスブレインと異なる予知能力を得た。その未来予知能力を、ノーライフキングが悪用できるようにしたらしい。……これを敵が得ることがどれほどの恐ろしさを意味するかは、俺達以上に君達がよく知っている筈だ。だから、頼む。紗里亜さんのことを救出、最悪灼滅して欲しい」
優希斗の言葉に、灼滅者達が返事を返した。
●状況分析
「皆によって痛打を受けたアッシュ・ランチャー艦隊は、現在、艦隊を再編してゆっくりと撤退しようと動き出している」
だが、彼らの艦隊は非常に強大。
組織は大きくなればそれだけ大きな力を持つが、逆に言えばその規模故に動きが鈍くなることも間々あるものだ。
現在のアッシュ・ランチャーの艦隊は、正にそんな状態だった。
「だからこそ、連戦になってしまうけれど今直ぐ追撃を行えば、この艦隊に大規模な襲撃を掛けることが可能になる」
尚、今攻撃を仕掛けないことも不可能では無い。
その場合彼らは戦闘を行うことなく撤退することになる。
「……とは言え、此処でアッシュ・ランチャーとその艦隊に撤退されれば、今回と似たような軍事行動が再び行われるのは間違いないだろう。だからこの好機を逃さず、皆にアッシュ・ランチャーを何とか灼滅して欲しい、と言うのが現状だ」
尚、敵艦隊までの移動手段として、漁船やボートの徴用はある程度完了している。
しかし、戦艦の砲撃にそれらの移動手段が耐えられるはずもない。
「漁船やボートの操縦方法のマニュアルは予めそちらに送ってある。だから、明案には可能な限り漁船やボートで接近して貰って、それらが撃沈された後は皆の力だけで敵艦に潜入して内部の制圧を行ってほしい」
尚、最初から泳いで近づくことも不可能では無い。
しかし、それでは負傷は無くとも、時間は掛かってしまう。
「今回の作戦、迅速に敵艦隊に接近することが最初の肝になる。漁船やボートを出来る限り迅速に敵艦に接敵する為にも活用して欲しい」
優希斗の言葉に、灼滅者達が其々の表情を浮かべた。
●潜入後の死闘
「ここからが本題だ。まず、アッシュ・ランチャーは『撤退可能となった艦隊』に移譲して、戦域からの撤退を画策している。この撤退を阻止する為には、艦隊の外側、撤退準備が整っている艦隊を優先して制圧する必要がある」
艦隊には人甲兵やアンデッド兵だけでなく、多くの一般兵も乗船している。
「つまり、人甲兵とアンデッドを殲滅した後、ESP等を利用して一般兵に言うことを聞かせて、他の艦隊の退避を邪魔するように移動させれば、アッシュ・ランチャーの撤退を防ぐことが出来るようになる」
撤退不可と悟れば、アッシュ・ランチャーは艦隊人甲兵やアンデッドを呼び集めて、自分を守らせようと動いてくる。
その集結の為の手段として、救命ボートを利用したり、或いは、海中を泳いだり、歩いたりする。
「此処で何の妨害もしなければ、集結する戦力はアンデッド1000体弱に、人甲兵が300体位になる。こうなってしまえば、アッシュ・ランチャーを灼滅するのは困難……と言うよりほぼ不可能になるだろう」
つまり、この増援を阻止するために動く遊撃隊が必要になるということだ。
戦略的な勝利の為の増援阻止は、戦争においては非常に重要である。
「此処まで作戦が進んだら、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇に乗り込んで、アッシュ・ランチャーに決戦を挑める筈だ」
とは言え、アッシュ・ランチャーは、ノーライフキングの首魁の為、非常に強力な上に親衛隊とも呼べる強力な人甲兵の護衛を傍に控えてさせている。
「撃破する為には、相応の戦力を必要とするだろうね。更に言ってしまえば、増援の人甲兵やアンデッドが押し寄せれば、撃破に失敗する可能性もある。つまり、皆にアッシュ・ランチャーを灼滅してもらうためには、撤退の阻止、増援の阻止、そしてアッシュ・ランチャー及び護衛と戦う3つの作戦を同時に成功させる必要がある、と言うことだ」
かなり厳しい条件だが、それでも成功させる必要がある。
――これ以上の悲劇を、生み出さない為にも。
●スイミングコンドル2世の動き
「最初に少し説明したスイミングコンドル2世についてだが、これは紗里亜さんの予知があったので、最初からアッシュ・ランチャーを自分達の所に避難させようとはしない」
もし避難させれば、灼滅者達がスイミングコンドル号に押し寄せ、スイミングコンドル2世が制圧される未来が予知されていたかららしい。
「そこで、アメリカンコンドルが選んだ手段は、アッシュ・ランチャー艦隊と皆が戦う戦場の混乱に乗じて介入する、と言う作戦だ。……自分達の安全を確保できるうえ、アッシュ・ランチャーを保護できる可能性も高い。見事な作戦だよ」
相手が予知によって、此方の一手先を読んで行動するのならば此方としては更に一手先んじてその予知を超える必要がある。
その為の手段は……。
「アッシュ・ランチャー艦隊への攻撃と並行して、スイミングコンドル2世への攻撃を行う、だ。こうしなければ、アメリカンコンドルとご当地怪人の軍勢によって横やりを入れられて、アッシュ・ランチャーを奪われてしまうだろう」
尚、この戦いでは、条件さえ整えば、アメリカンコンドルを灼滅出来る可能性がある。
また、椎那・紗里亜を救出・或いは灼滅する為にも、重要な目的となる。
何故なら……。
「紗里亜さんは、スイミングコンドル2世のスーパーコンピューターに接続され、予知を行うための装置として利用されているからね。紗里亜さんをどうするのか、それは君達の判断に委ねるけれども……最悪、このスーパーコンピューターに何らかの影響を与えておくことは、この戦いに直接影響を与えなくとも、この先の彼らの作戦を妨害する為にも、効果的かもしれないね」
小さく、しかし確固たる何かを込めて。
優希斗が小さく呟くのだった。
「今回の作戦、沖縄戦直後の君達にとってはかなりの激戦になると思う。もしかしたら、闇堕ちや最悪の場合もあるかも知れない。それでも……俺は、皆が帰って来る事を信じている。だから、これだけは約束してくれ」
――死なないで。
「どんなに危険であったとしても、生き残りさえすればまだ体勢を立て直す余地は存在する。けれども、死んでしまえば何も残らない。また学園に帰って来た皆と話が出来ることを、心から祈っているよ。……健闘を」
優希斗の祈りの込められた呟きを背に、灼滅者達は、眼前に広がる海をじっと見つめた。
参加者 | |
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病葉・眠兎(奏愁想月・d03104) |
レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162) |
セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444) |
獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098) |
白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470) |
有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751) |
荒谷・耀(一耀・d31795) |
氷上・天音(微笑みの爆弾・d37381) |
●
――明け方の沖縄には、嫌な風が吹いていた。
「今回は大事な一戦ですが……なんだか嫌な感じですね」
セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)の呟きに小さく欠伸をしながら、その実真剣に戦場を見渡す病葉・眠兎(奏愁想月・d03104)が頷く。
「ん~、出来ればのんびりとしたいですけれど……どうもそういうわけにはいかなそうですね」
「……そう、ですね」
眠兎の呟きに、心臓を押さえたままじっと様子を見ているのは、荒谷・耀(一耀・d31795)。
先の戦いで、兵士とは言え、一般人を巻き込み、その命の奪い合いとなる戦闘へと巻き込んだアッシュ・ランチャーを許すことなどできそうにない。
(「ダークネスとは……」)
何時か分かり合えると思っていた。
争うことなく平和に共存できるのであれば、それでいいと思っていた。
そう思いながら、分かり合えたかも知れないダークネスを屠って来た。
――でも。
もし、本当に分かり合えないのなら?
あのダークネス達もこんな手段を平然と取れたのなら?
それは……。
「荒谷っち……」
獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)が、耀に声を掛け無意識にその足に装着されているOath of Thronsをちらりと見る。
同時に目の前をある人物の姿が過り、天摩は小さく胸中にて決意を呟く。
――誰ももう失わせない。
――キミがそうしたように。
と。
「雄哉」
「……」
白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)が無表情のままに海を見据える有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751)に語り掛ける。
「オレ達の背はお前に任せる。だから、死ぬな」
「そうだね。雄哉先輩の事、きっと学園で待っている人達がいる。優希斗先輩や、他にも沢山の人達が。勿論、雄哉先輩だけじゃない。あたし達にだって其々に学園で待ってくれている人がいる。あたしには、別動隊で動いている最愛の人もいる。あたしは、そんな皆を悲しませたくない」
決然とした表情の明日香に同意するように胸元のブローチに軽く触れて、今回の作戦の成功を祈りながら、氷上・天音(微笑みの爆弾・d37381)が頷く。
それは、彼女の心からの祈り。ここにいる誰一人も欠ける事無く、最高の報せを学園の皆に届けられる様にと言う天音の想い。
(「皆を悲しませたくない、か。氷上の言葉はやはり重いな。まあ……此処まで大掛かりなことをして、これで終わり、とはいかないのだろうが……」)
天音の祈りを聞きながら、戦場の状況を眠兎と共に冷静に観察していた、レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)がふと思う。
……最も、『その時』が来た時の覚悟はとうに出来ているが。
「まずいですね……」
眠兎の呟きに、レイが戦況を見て顔を顰める。
自分達は、撤退阻止班による撤退阻止の完了と同時に他班と共に一斉に動き出す手筈だった。
だが、現実には戦艦の一群が戦場を離脱しようとしていたのだ。
「まさか、あの艦隊の中に、アッシュ・ランチャーが……?!」
セレスティが嫌な予感を口にすると同時に、戦域を離脱しようとしている艦隊に向けて、一隻の戦艦が砲撃を開始した。
「! そんな……?!」
目の前で起きているその光景を、耀が凝視。
「待て! そんなことをしたら、あの艦隊の人たちは……?!」
暗示で自らを縛っていた筈の雄哉が思わず静止の声を上げるが、それが聞こえる筈もない。
「……急ぐっすよ、皆。きっと、あの艦隊の中にアッシュ・ランチャーがいる筈っす!」
何かを押し殺す様な天摩の声に我を取り戻した耀達が、慌てて4人乗り小型ボートに2手に分かれて乗り込み、海を駆ける。
――多くの人命が失われたであろう、戦場を。
●
「くそっ! まさかこんなことになるとはな……!」
雄哉に操縦を任せてレイザースラストで艦砲射撃を迎撃しながら、明日香が舌打ちを一つ。
これは、撤退阻止の為の戦力を過小評価してしまった結果だ。
「手段を選ばない相手に、手段を選んでなんかいられない……! でも……でも……!」
「耀先輩……!」
甲板上で、耀の絶望の呻きが聞いた天音が悔しげに俯きながらも操船に集中。
艦隊の足を止める為に、決死の攻撃を繰り返す戦艦の行動を無駄にするわけには行かない。
「……何もないに越したことはないと思っていましたが……ままならないものですね」
顔を青褪めさせながらも、凛とした表情のまま天使の様な白翼を展開したセレスティが、上空から降り注ぐ艦隊からのミサイルを月杖フィアーネに込めた魔力を轟雷へと変換し撃墜。
注意深く戦況を確認してセレスティは思わず息を呑む。
先程まで艦隊に向けて射撃を行っていた戦艦が、突然艦隊に突っ込んだのだ。
轟音が耳に響き、凄まじい炎が周囲を包む。
けれども……砲撃と決死の体当たりを受けても尚、無傷の戦艦が一隻だけあった。
「多分、あれがアッシュ・ランチャーが乗っている船ですね……」
流石に瞠目しつつ、眠兎がケッテンラビット号に機銃掃射をさせ、自らも黙示録砲で艦隊の攻撃を迎撃。
艦隊からは、沢山の人甲兵や、アンデッド達が海に飛び込むのが見える。
――その時。
凄まじい衝撃が、雄哉の操船するボートを襲った。
「ちっ! やられたか!」
船底が空き、瞬く間に浸水させられていくボートに、明日香が舌打ちを一つ。
「白石、有城、病葉、脱出だ」
アンデッド部隊にボートを破壊されたと悟ったレイが冷静に指示を下し、自ら海中へ。
前方から来ているアンデッド軍団が此方を沈めるのが最善だと判断したのであれば、天音達も恐らく同じように海中から攻撃を受けているであろう。
このまま、各個撃破されるわけにも行かない。
レイの指示に、雄哉達が船を捨て、水中へ飛び込むとほぼ同時に。
天音の操縦するボートも同じように襲撃を受け沈没させられ、天摩の指示で耀達は海に飛び込んでいた。
●
(「まさかこうなるとは思いませんでしたねー」)
明日香達と共に水中に潜り、アイコンタクトで天摩達と合流しながら、眠兎は思う。
眠兎達の目の前にいるのは、2体の人甲兵と、それが引き連れる複数体のアンデッド。
アッシュ・ランチャーの下に辿り着くためには、彼らを先ず何とかする必要があるのを悟り、ケッテンラビット号を人甲兵へと突進させる。
(「火力は期待しないでください」)
眠兎がすかさずスターゲイザー。
(「今回は大事な一戦ですから、気を引き締めてきましたが……これは流石に想定していませんでしたね……!」)
白翼で水を切り、眠兎に続けて捻りを加えた槍の一撃で人甲兵の体を貫くセレスティ。
お返しとばかりに逆十字の光を撃ちだす人甲兵の前にミドガルドが立ちはだかり、その攻撃を受け止めている。
(「必ずぶちのめすって決めていたのに……!」)
合流と同時に、音を遮断する結界を展開した天音が唇を噛み締めながらスターゲイザー。
音を聞きつけたアンデッド達がこれ以上増援に来れば、班全体の死に直結しかねない。
(「あいつだけはやらせない……!」)
明日香がレイザースラストで人甲兵を締め上げた。
(「こんな……!」)
耀が海中の闇を照らす月光の様な輝きを帯びた大鎌による黒死斬で人甲兵の足を斬り裂き、続けて青髪青瞳、筋肉質な巨漢と言うダークネス形態の雄哉が、冷酷な表情でクロスブレイブを振るい、人甲兵の片足をひしゃげさせる。
ちっ、と内心で舌打ちを一つ。
どうやらこの部隊は、此方の足止めだけを考えた編成らしい。
確かにこの状況では最善だろう。
そうすればアッシュ・ランチャーの生存の可能性は上がる。
(「伊達に、人類管理者を名乗っているってわけじゃないってことっすか……!」)
慣れない水中戦でも光源を確保するべくケミカルライトをばら撒いた天摩が、Oath of Thrornsによる蹴りを叩きつける。
周囲の光源の一部を力へと変えたその蹴りが人甲兵に迫るが、自分達の船を襲撃した人甲兵が立ちはだかり、その攻撃を防御。
だが、それは計算の内。
傷を負ったミドガルドが天摩の背後から飛び出して機銃を掃射、周囲のアンデッド兵達を射抜く。
天摩の前に立ちはだかった人甲兵が離脱し、ガトリングガンを掃射。
水中を、螺旋を描いた無数の弾丸が飛び交い天摩達を撃ち抜くが、眠兎が明日香を、天摩がセレスティを庇い、その攻撃を最小限に止めている。
(「少なくとも、倒れるまでは身体を張りますとも。……これも大一番の戦いの一つですからねー」)
確かに、この戦いが原因で自分達はアッシュ・ランチャーへと辿り着けないかもしれない。
けれども、これだけの戦力を向けてくるなら、それだけアッシュ・ランチャー直属の戦力は減る筈だ。
天摩が手信号を送ると同時に、レイがすかさずイエローサイン。
レイの撃ちだした黄色の光条により眠兎達の傷が癒え、セレスティが天摩の影から飛び出し槍の先端から氷の弾丸を撃ちだし既に攻撃が集中している人甲兵を凍てつかせている。
(「備えあれば憂いなしとはよく言ったものですが……今回は敵に一枚上手をいかれている感じがしますね」)
最も、ここで諦めるつもりは毛頭ないが。
人甲兵に伴われた4体のアンデッド兵士達が、次々に銃弾を吐き出してくる。
それらを天摩達がいなすのを確認しながら、天音が絶対零度の慈悲無き冷たい怒りの蒼いオーラを込めて傷だらけの人甲兵を貫いた。
雪の結晶の様にキラキラと舞い踊る残滓の中を雄哉の影が躍る様に駆け抜け人甲兵を締め上げていく。
苦しげな人甲兵の姿に薄っすらと笑みを浮かべた。
――浮かべて、しまった。
(「飲まれるなよ……雄哉」)
明日香が不死者殺しクルースニクに深紅のオーラを這わせて斬り裂く。
腰から右肩までを深々と斬り裂かれた人甲兵が果敢に反撃し、その前にミドガルドが立ちはだかって攻撃を受け止めてくれるのを目にしながら、明日香は臍を噛む。
――どうも、あのバケツ頭を叩き割りに行くのは難しそうだ、と……。
●
敵部隊の猛攻に晒されながらも、何とかその攻撃を耐え抜く耀達。
人甲兵の一体が我武者羅にその腕を振り回しセレスティを打ちのめそうとするが傷だらけの眠兎が尚、彼女を守るために割って入る。
(「結構、膝にきてますねー……まあ、水の中ですけど」)
眠兎の体を、レイの放った帯が覆って傷を癒す。
レイの支援があるからこそ、辛うじて倒れずにいられるというところだろうか。
(「私、死ぬのはまだ嫌ですけれどね」)
ケッテンラビット号が眠兎の思いを代弁するように機銃を掃射して人甲兵を撃ち抜き、 眠兎が懐に潜り込み十字架戦闘術。
無数の乱打が瀕死の人甲兵の装甲を破砕し、セレスティが逃がさぬとばかりに螺穿槍。
鋭い一撃に貫かれ、人甲兵が一体遂に力尽きる。
(「でも、まだ終わりじゃありませんからね……!」)
とは言え、残りの人甲兵さえ倒してしまえば、この形勢を逆転は出来そうだ。
アンデッド兵達が、銃を乱射。
銃弾から、傷だらけのケッテンラビット号が明日香を庇い、遂に消滅。
ミドガルドはスロットルを全開にして辛うじて耐えきり、耀がその隙をついて、全ての闇を飲み込む影、夜影を刃へと変じさせて人甲兵を装甲ごと斬り裂いた。
けれども、その顔に浮かぶのは、目の前にいる敵と、その先の彼らの主への怒りと、何処か虚無を感じさせる表情のみ。
「……」
耀に装甲を穿たれた人甲兵の懐に雄哉が飛び込み、その拳を漆黒のオーラで包み込んで鋼鉄化させて、その身を砕く。
それに合わせるように、明日香が大上段から不死者殺しクルースニクを振り下ろした。
振り下ろされた刃に袈裟懸けに斬り裂かれた人甲兵に、今度は、天摩が悪魔の刻印を持つ十字架型突撃銃トリニティダークXXに何処か月夜に流れる子守歌の様にも思える聖歌を奏でさせながら、『業』を凍てつかせる砲弾を浴びせた。
(「たとえ何があろうとも……」)
――オレは、オレ達はキミの意志を背負って前に進んできた。
そうして、此処に立っている。
(「だから……オレ達は絶対に……」)
諦めない、と決めていた。
天摩の目配せを受けた天音がマリーゴールドの花を象った炎を撃ちだし、人甲兵を焼き払う。
(「でも……」)
この花の花言葉、『絶望』は誰に向けてのものなのだろう。
悪辣な策を巡らせた相手への手向けの花の代わりにと用意したものだが、今はそうすることが出来ずにいる。
(「それでも、オレ達は……!」)
天音の内で渦巻く感情を感じ取りながら、水を飲むのも構わず雄叫びを上げて、明日香がこの海を沸騰させんばかりの炎を帯びた回し蹴りを人甲兵に叩きつけ燃やし尽くした。
その屍を踏み越えるように、4体のアンデッド兵達が襲い掛かろうとするが。
(「此処までくれば、もう大丈夫だろう」)
レイが影を放ちその身を締め上げてアンデッド兵の一体を灼滅。
更に眠兎がスターゲイザーで一体のアンデッドを蹴り飛ばし、雄哉が殲術執刀法でその首を胴から切断し。
残りのアンデッドの攻撃をミドガルドに受け止めてもらいながら、耀が三日月で叩き切ったアンデッドを天摩がスターゲイザーで灼滅し。
そして、最後の一体を。
ミドガルドの機銃が牽制し、セレスティが天使の威光を思わせる両手に込めた白きオーラで射抜き、止めを刺した。
●
襲撃してきた人甲兵の部隊を退け、水上に出るセレスティ達。
明日香が時計を見て、ちっ、と舌打ちを一つ。
「駄目だな。集合時間は過ぎちまった」
「そう、ですか……」
同じく浮かび上がって来た耀が表情を強張らせ、顔を俯ける。
――灼滅者とダークネス。
多くの犠牲を一般人に強いる自分達は、ダークネスと何が違うというの?
「考えるのは後っすよ、荒谷っち」
「そうだな。私達には、 まだやるべきことがある」
耀を労わる天摩に、レイが同意する。
まだ、増援阻止班は到着していない。
となると、彼らが到着するまで、アンデッド達を食い止める役目が、自分達にはある筈だった。
「後は、皆さんに託しましょう」
「そうだね。アッシュ・ランチャー……あたしの、いや、あたし達の怒りが、必ずあんたを倒すこと思い知れ……!」
セレスティの言葉に、無事に辿り着いた者達がかの『人類管理者』を灼滅してくれることを祈りながら、天音が怒りを込めて呟いた。
――天音達の戦いは、増援阻止班が増援を食い止め、全てのアンデッド達が動きを止めるその時まで続くのだった。
作者:長野聖夜 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年5月18日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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