決戦アッシュ・ランチャー～決死の作戦

■リプレイ

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「漁船がちゃんと徴用できてよかったですね」
「腕が鳴るぜ」
　東雲・菜々乃（本をください・d18427）は船上の人となっていた。横ではクーガー・ヴォイテク（紅蓮の道化師・d21014）が固く拳を握っている。アッシュ・ランチャーに対しての作戦はもう始まっているのだ。
「だいたい、マニュアル通りに動きます。操船は問題なさそうです」
「海も今のところは穏やかですね」
　緑風・玲那（疾駆朱翼の戦乙女・d17507）は、船の舵をきり。ユーリー・マニャーキン（天籟のミーシャ・d21055）も、気象情報を確認して天候の移り変わりや会場の時化具合に気を配っていた。
「増援は絶対に阻止デス」
　ローゼマリー・ランケ（ヴァイスティガー・d15114）も気合は充分。
　今回のこの班の目的は、アッシュ・ランチャーとの決戦時に登場しようとする、アンデッドと人甲兵による増援阻止だ。何もしなければ全方向から大量の敵増援が押し寄せることになる。全てを阻止するのは難しいが、出来る限り多くの増援を見つけ出して撃破することで、決戦を行うチームをサポートできる。
「（前回の依頼に引き続いてのメンバーが多い為に背中は預けやすいなぁ）」
　蔵座・国臣（病院育ち・d31009）はふとそんなことを考えていた。前回の戦いでも灼滅者達は、多くのアンデッドや軍隊と戦っている。その勝利あっての此度の作戦である。
「……インカムが通じないわね」
「妨害されているみたいですぅ」
　ヴィントミューレ・シュトウルム（ジーザスシュラウド・d09689）と船勝宮・亜綾（天然おとぼけミサイル娘・d19718）は空飛ぶ箒で索敵を行い、状況把握の連絡を行う――はずだったのだが。敵の仕業のようで、先程からあらゆる通信手段が使用不能となっていた。
「！」
　弾丸の雨嵐が、空を飛ぶ二人へ注がれる。
　いつの間にか敵の射程圏内に入っていたらしい。海上から人甲兵やアンデッド達が姿を現す。高度を上げて目立っていた灼滅者を、まずは落とさんとする。
「このままでは、狙い撃ちされちゃいますねぇ」
「船に戻りましょう」
　亜綾とヴィントミューレは弾幕の中を潜り抜け、何とか皆の元へと戻る。
　操船していた玲那はスーパーＧＰＳで地図を確認してから、双眼鏡を覗きこんだ。
「これが増援部隊のようですね。どんどん集まってきています」
「どうも、当初の想定と違う事態が起きているようです」
　ユーリーも目をこらして周囲を観察する。
　撤退するアッシュ・ランチャー達と前線の艦艇群が、妙な動きをしている。何か起こっているらしい。ともあれ増援の連中が現れている以上、こちらのやることはそう変わりはしない。
「詰めと行こう。生かして帰さん。船よ、カモン」
　真面目な真顔で、国臣が目立つように槍をあげる。
　すると、そこへと目掛けて敵群が突撃してくる。それは見ようによってはヒッチハイクをしているかのようだ。
「オラァ！！　さっさと道空けるんだぜ！！」
　果敢にクーガが先陣を切る。
　被弾を恐れずに敵のボートや船へと乗り込み、さっそく炎をまとってアンデッドをぶん殴る。
「文字通り乗り掛かった舟、責任は果たしマショウ」
　ローゼマリーが、相手の移動手段の動力を破壊し。
　シールドバッシュで近くの敵を吹き飛ばす。血気にはやったアンデッド達が、すぐに彼女の周りにとわらわら群がってきた。
「今回もまたいっぱい連れてきてますね。これを全部やっつけるのはさすがに無理なのでアッシュ・ランチャーを早く討ち取って欲しいのですよ。もしこっちにきたら私達でやっつけてしまうのでちゃんと仕事してほしいのです」
　菜々乃は除霊結界を展開した。
　霊的因子を強制停止させる結界が構築され、ウイングキャットはメディックの位置で回復を担当する。
「私達も、まずは相手の動きを止めておきたいところかしら」
「それは効果的でしょうね。さて、参りましょう。私にお任せを」
　ヴィントミューレが提案すると、騎士然としたユーリーが頷く。
　二人は息を合わせて、続いて除霊結界を発動させた。最もアンデッドが密集していたポイントにサイキックがぶつかり、麻痺状態を次々と付与していく。
「牽制しますねぇ」
　予言者の瞳を使ってから、亜綾は狙いを付ける。
　敵の動きを先読みするように的を絞り、バスタービームを正確無比に発砲。魔法の光線が敵群にプレッシャーをかけ、味方の攻撃手に優位な位置を取らせる。
「さて、暴れよう。ことごとくを沈めよう。魚の……餌になるんだろうか、アンデッド」
　ライドキャリバ―が敵の攻撃を受け止め。
　その陰から、国臣がリングスラッシャーを射出。動きの鈍っていた一体のアンデッドが両断されて息絶える。
「そもそもノーライフに生は無いが」
　水飛沫のなか。
　ぽつりと付け加えて呟いてから、次の相手に向かう。
「どけ、灼滅者！　我々には任務がある」
「最終決戦にするためにも、邪魔はさせないぜ」
　アンデッド達が叫び突進してくるのに対し。
　クーガーはレガリアスサイクロンで一掃しにかかる。お互いに有効打を受け続けるのに構わず、被害は深くなっていく。
「あっちからも来ていマス」
　新たに現れた敵影に、ローゼマリーが反応する。
　プロレス技のごとく華麗に舞いつつ、スターゲイザーで足止めする。流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りが炸裂、敵の機動力を奪う。
「囲まれないように注意しないといけませんね」
　敵のサイキックの爆発で、水柱が起こる。
　水着姿となっている玲那の毛先は、先日の事件で薄紫になっており。そこも既にぐしょ濡れだ。サーヴァント共に全体の動向に気をつけて、ヒールを優先して動く。ウイングキャットのイージアは、猫魔法を使う。
「私は倒しやすい相手から倒しますね」
　菜々乃は神薙刃で風の刃を生み出した。
　有言実行。味方の攻撃を受けて弱っていた個体が、成す術もなく斬り裂かれて倒れた。だが、味方の死骸を乗り越えるようにまた他のアンデッドが迫る。戦いは激化の一途をたどっていた。
「――！」
「――！」
　爆音や戦闘音のなかに、怒号が飛び交う。
　敵の会話を耳にとらえたユーリーは、水平線へと目を向ける。そこには独特のシルエットの巨人が行軍していた。
「……どうやら、人甲兵が来たようですね」
　前回の戦いでも、猛威を振るった相手だ。
　灼滅者達は我知らず、更に警戒態勢をとっていた。

●
「ターゲットロックオン」
「やらせないデス」
　人甲兵が両手に持つ機関銃が火を吹く。
　味方を守るためローゼマリーは素早く飛び込むと、己が肉体を盾として砲火に身を晒す。身体中に激痛がはしるが、自分が傷つくことより他人が傷つくことのほうが痛い。
「いきますよぉ、烈光さん」
　サーヴァントの霊犬が隙を作り。
　その間に亜綾は、重力加速度をつけて突貫する。
「必殺ぅ、烈光さんミサイルグラヴィティインパクトっ」
　一呼吸おき。
　トリガーを引く。
「ハートブレイクエンド、ですぅ」
　蹂躙のバベルインパクト。
　巨大杭打ち機が、バベルの鎖が薄くなる死の中心点を貫き。厚い装甲に大きな穴を作られた人甲兵は、永遠の沈黙を余儀なくされ大爆発した。
「これで何体目かしら」
　ヴィントミューレが息を吐く。
　人甲兵を一体落とすのにも一苦労だ。何せ単体でも手強い上に、他の突破しようとする軍団も止めなければいけない。
　更に、次の人甲兵の機影が水面に写っていた。
「ちっめんどくせえなッ！」
　船の横に捕まりながら、水中呼吸を使っていたクーガーが舌打ちしながら素早く向かう。敵がいないか神経を尖らせていたことが、幸いしたのだ。
「――ファイア！」
「炎なら負けないぜっ」
　人甲兵の火砲に負けじと、クーガーは掌から激しい炎の奔流を放つ。巨体の敵のみならず、アンデッド達含めた攻め入る敵の群れを焼き払う勢いだ。火力と火力がぶつかり合い、烈火のごとく火花が散る。
「火力勝負なら、私も後れを取るわけにはいかないな」
　クラッシャーとして攻撃力を発揮し、国臣はギルティクロスを叩きつける。
　赤きオーラの逆十字を出現させ、人甲兵の厚い装甲を引き裂く。同時に精神をも損傷させることを可能とする傷だ。
「速やかにターゲット排除……」
「――然る後、増援に向かう」
「アッシュ・ランチャーへの増援にはいかせないのですよ。ここから先には通さないのです」
　傷を負った人甲兵を助けるように、また新たな人甲兵が現れる。
　菜々乃は閃光百裂拳を見舞って、拳打の嵐を吹かせて道を塞ぐ。オーラを拳に集束させた凄まじい連打に、敵の巨体が揺れる。
「（やれる事をやって決戦に向かう方々に繋げなければ）」
　一体でも厄介な人甲兵が、続々と来る。
　正直、きつい相手だが、玲那には強い思いがある。ソニックビートをかき鳴らし、特大の音波を敵へとぶつけた。
「横槍が入らないようにするのが、私の役割ですからね」
　ユーリーが縛霊撃で、敵を殴りつける。
　人甲兵の大きな身体に、網状の霊力が放射されて絡みつき縛りあげる。ジャマ―ならではの、敵の行動の抑制や妨害を第一にした戦法だ。
「私が敵の動きを鈍らせますからねぇ」
「了解デス」
　亜綾がフリージングデスを使って、敵の足元から凍りつかせる。それと連携してローゼマリーは己のビハインドと一緒に駆けこんで、グラインドファイアを浴びせた。氷と炎のダブルパンチに、さすがの人甲兵も難儀する。
「特に人甲兵は通さないように、迎撃陣形をとらないとね」
「骨が折れそうだな」
　ヴィントミューレが、バスタービームで敵を狙い撃つ。
　国臣は機銃掃射する鉄征を壁として扱いつつ、人甲兵へとサイキックをホーミングさせて進路を制限する。
「ロック、ロック、ロック、ロック、ロック！」
「ファイア、ファイア、ファイア、ファイア！」
　人甲兵が怒涛の勢いで、弾をばら撒く。
　灼滅者達という遮蔽物を蜂の巣にして、強引にぶち壊そうというのか。それだけではない。アンデッド達も一心不乱に、ここを突破しようとする。
「まだ、倒れてたまるかよっ」
　ずっと被弾し続けたクーガーは、傷だらけであちこちから流血している。
　だが、不屈の精神で立ち向かう。シャウトし咆哮をあげて踏みとどまって、前線に立ち続ける。
「クーガーの闘志には恐れ入りますね」
　仲間の奮闘ぶりに触発されたように、ユーリーも攻撃の手を緩めない。
　催眠や捕縛を付与しつつ、まずはアンデッドを片付けるようにして敵の数を減らしていく。
「弱った敵からですね」
「こちらとの差を見せてあげましょう」
　用意しておいたロープで、敵の元へと渡り。
　玲那がイカロスウイングを繰り広げた。菜々乃は己がサイキックの威力を見せ付けて、敵の意気を挫くがごとく次々と的を狙う。
「殲滅、殲滅、殲滅、殲滅！」
「させませんよぉ、足止めさせてもらいますぅ」
　吹き荒れる砲撃をすんでのところで躱し。
　亜綾は人甲兵達へと、衝撃のグランドシェイカーを叩き込んだ。振動波が発生して、敵群の足を止めるのに一役買う。
「いくら来ても、無駄デス」
　派手に立ち回って、敵の注意を集めていたローゼマリーには攻撃が集中していた。それでもあえて更なる怒りで気を引くように、身体を張って攻撃を受け止め。カウンターで敵を思い切り殴りつける。
「今こそ裁きの時ね。この作戦の正義があるのかどうか神に問うといいわ。受けなさい、これがあなたに対する洗礼の光よっ」
　敵味方が入り乱れるなか。
　ヴィントミューレはジャッジメントレイを炸裂させた。悪しきものを滅ぼし善なるものを救う、鋭い裁きの光条。その直撃を受けた、人甲兵は半身を吹き飛ばされて力尽きた。
「頼りになるな」
　白星を賞賛しつつ、国臣が螺穿槍で飛び込む。
　槍に螺旋の如き捻りを加えて突き出し、凄まじいエネルギーで敵を穿ち。また一体の人甲兵が、戦場から消し飛んだ。
「キリがないぜ」
　灼滅者達は相手を倒し、増援を止めるのに尽力し続ける。だが、敵の勢力はとめどない。クーガーは頭を振って、また炎をたぎらせて振るう。炭化されたアンデッドが、悲鳴をあげて沈む。
「長期戦になってきましたね」
「回復もしっかりしないと」
　敵の力尽くの進軍を妨げるのに、こちらも消耗も激しい。
　玲那は癒しの矢や癒しの矢を使って戦線を支え、菜々乃もヒールの手伝いを行う。回復の手はいくらあっても足りない。
「突破阻止の任務、果たしてみせましょう」
　人甲兵の陰から駆け出そうとするアンデッドを、ユーリーは見逃さなかった。
　即座に狙いを定めてオーラキャノンを早撃ちする。放出された弾は、こちらを迂回して通り抜けようとする敵を追尾。背中から着弾して見事撃破する。
「油断も隙もありませんねぇ」
　亜綾もバスタービームで、抜け出そうとする敵を追い射ちする。
　一時も気を抜けない攻防。こちらの少しの緩みが、敵の増援を許してしまうことになりかねない。
「そちらのアンデッドをお願いね」
「逃がすわけにはいかせまセン」
　ヴィントミューレが氷の魔法を使い、周辺に存在する敵の体温や熱量を急激に奪う。見えない攻撃によって突如肉体が凍り付く。凍傷を負ったアンデッドを、ローゼマリーの蹴りが粉砕。何としてでも、敵が味方の決戦地へと辿り着くのだけは止める。
「灼滅者を、殲滅する！」
「勝つのは、俺達だ！」
　人甲兵の巨砲に臆することなく。
　クーガーは渾身の一撃を、顔面へと抉り込ませた。炎が激しい渦を巻き、想いを体現するように全てを燃やし尽くす――戦いは、いつ果てるか知れず。そして、唐突な終幕を迎えた。
「……ん？　敵の動きが止まった？」
　国臣が眉をひそめる。
　何の前触れもなく。突如として、アンデッド達の侵攻がおさまったのだ。これは、どうやら――。
「どうやら、アッシュ・ランチャーが灼滅されたということでしょうか」
「やってくれたんですね。一時はどうなることかと思いました」
　状況を察したユーリーが安堵の声を出す。玲那をはじめ、他の者達も顔を見合わせて手を叩いた。多くのチームの活躍により、最悪の事態は避けられたのだ。そこには間違いなく、自分達の力もあった。
「……じゃあ、残るは後始末ですね。これはこれで大仕事です」
　菜々乃の弁に皆が頷く。
　身体は既に疲労困憊だ。ただし、その足取りは羽のように軽かった。

作者：彩乃鳩	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年5月18日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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