決戦アッシュ・ランチャー~戦争は僕らの青春だった

    作者:日暮ひかり

    ●warning
    『おい聞いたぜ! やっぱすげぇよ、アンタたち! お疲れっ!』
     圧倒的な数を退けての勝利。その一報に鷹神・豊(エクスブレイン・dn0052)はすっかりはしゃいでいる様子だった。普段よりだいぶ幼く見える。
     戦いを終えたばかりの灼滅者達がいま見ているのは、エクスブレインによる最新の予知情報を収録したディスクの映像だ。モニターの中で、鷹神は顔を引き締め、咳払いをした。
    『……い、いかんいかん。とにかくこれであの野郎をブチのめせるな。元老さえ灼滅すればノーライフキングの本拠地への侵攻だって夢じゃなくなる』
     しかし、生半可な覚悟で反攻はできない。
     敵は未だ強大。そればかりか、ノーライフキングと協力体制にあるご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦スイミングコンドル2世まで参戦したようだ。
     アッシュ・ランチャーの艦艇は擬似迷宮化され、アッシュ・ランチャーを灼滅しない限り破壊はできない。ノーライフキングをはじめとした強大な敵が立ち塞がり、攻略は非常に難しいだろう。
    『それでも今立ち上がるべきだ。奴の思想は危険すぎる。絶対に野放しにはできない』
     鷹神がそう憤る理由は、戦いを乗り越えた君達ならわかるはずだ。

     現在、大艦隊は再編され、撤退に向けゆっくりと動き出している。
     アッシュ・ランチャーは『撤退可能となった艦艇』に移乗し、戦域からの撤退を画策している。
     これを阻止する為、艦隊の外側、撤退準備が整っている艦艇を優先して制圧していく必要がある。
     艦艇には、人甲兵やアンデッド兵だけでなく多くの一般兵が乗船している。
     人甲兵とアンデッドを殲滅した後、ESPなどで一般兵に言う事を聞かせ、他の艦艇の退避を邪魔するように移動させれば、アッシュ・ランチャーの撤退を防ぐ事ができるだろう。
     敵艦隊までの移動手段は漁船やボートなどを徴用しているが、最終的には灼滅者の肉体による強行突破となる。
     灼滅者はダメージを受けないが、漁船やボートは戦艦の砲撃に耐えられない。
    『操縦マニュアルは一緒に送っておいた。可能な限り漁船やボートで接近し、撃沈された後は君達のみで敵艦に潜入して内部の制圧を行ってくれ。乱暴ではあるが、最初から泳いで近づくよりは早い』

     撤退が不可能となれば、アッシュ・ランチャーは艦隊の人甲兵やアンデッドを呼び集めて自分を守らせる。
     アンデッドや人甲兵は救命ボートのようなもので、或いは、海中を泳いだり歩いたりして集結してくる。その総数はアンデッド1000体弱、人甲兵300体程度だ。
     集結すれば打ち破るのは困難になる。この増援を阻止する事も重要だ。

     ここまで作戦が進めば、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇に乗り込み、決戦を挑む事ができる。
     アッシュ・ランチャーは非常に強く、親衛隊ともいえる強力な人甲兵の護衛もいるため、撃破するには相応の戦力が必要だ。
     さらに、後方から増援が押し寄せれば、撃破に失敗する可能性もある。
    『撤退を阻止する。増援を阻止する。アッシュ・ランチャー及び護衛と戦う……三つも同時にやらなきゃならない。ただでさえ困難な作戦だ、そこに邪魔なアメリカン野郎までやってきやがった。仮にも鳥なら空気読めよな』
     鷹神はそう痛烈な悪口を言い、溜息をついた。

     最初からスイミングコンドル2世にアッシュ・ランチャーを避難させた場合、灼滅者が押し寄せスイミングコンドル2世が制圧されてしまう。
     闇堕ちし、囚われている椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)――ダークネス『紗里亜』がそう予知した為、アメリカンコンドルは『艦隊と灼滅者が戦って混乱した所で介入する作戦』を行おうとしている。
     もし何も対策しなければ、決戦中に横槍を入れられ、アッシュ・ランチャーを奪われてしまう。
    『悪いがコイツらもどうにかしといてくれ。今のアンタ達なら、うまくやりゃあのうるせえ怪鳥を永遠に黙らせちまう事だって可能だろうさ』
     また、スイミングコンドル2世のスーパーコンピューターに接続され、予知を行う装置として利用されている紗里亜の救出、あるいは灼滅も選択肢の一つに入る。
    『あの怪鳥は彼女が闇堕ち時に得た特殊な予知能力を悪用している。気の毒に……そのうえ少々厄介な能力だな。可能ならば、救出或いは灼滅も願いたい。以上だ』

     その強い眼差しを真っ直ぐモニターに向けたまま、鷹神は全てを早口で説明し終えた。
     遙か遠くで戦う仲間の顔が目の前にあるかのように、彼の眼光はぶれない。
     いつもと同じ勝気な笑みをその口に乗せ、ただ台詞を考える暇はなかったのだろう。
     いつもの大層な口上はなく、たった一言、恐らく正直な思いを口にした。
    『待ってるぞ。アッシュ・ランチャーを灼滅せよ!』


    参加者
    赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)
    一・葉(デッドロック・d02409)
    夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)
    楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)
    小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)
    関島・峻(ヴリヒスモス・d08229)
    深海・水花(鮮血の使徒・d20595)
    糸木乃・仙(蜃景・d22759)

    ■リプレイ

    ●1
     扉を開くと、奴がいた。
     敵の名はアッシュ・ランチャー。百万の兵を率いる『対人類戦最強』の屍王だ。
     その野望を阻まんと前に立つ人間は、たった八人の灼滅者のみだった。

    「アメリカンコンドルは何をしている……人類管理者たるこの私の顔に泥を塗るとは!」
     水晶の右腕が、みるみる巨大な斬艦刀に変形する。救援を待っていたアッシュは激情をあらわに何かの装置を叩き潰した。その衝撃で、艦橋めいた部屋が震撼する。
     灼滅者達は各々不敵な笑みで返し、逃がすまいと男を包囲したが、内心は冷や汗まみれだ。
    「やっとご対面だね。身勝手な管理者気取りも今日で終わり」
     表面上は毅然と応じながらも、あれ、なんで私達こんな無茶してるんだっけ、と糸木乃・仙(蜃景・d22759)は自問する。
     これさえも一・葉(デッドロック・d02409)の悪運だろうか。彼が動く一寸前、仙が開戦の斬撃を繰り出した。

    ●2
     撤退阻止の段階で作戦はすでに崩壊していた。
     その中である班が敵艦に砲撃を行い、一般兵ごと次々撃沈させ、アッシュが座乗する艦をも暴き、最後は船ごと特攻までして一時阻止にこぎつけた。
     彼らの覚悟に報いねばならない。敵艦の要所を狙い撃ち機能停止させながら、夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)の勇猛な操船で混迷する海戦を突破した。楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)が用意したゴムボートで距離を稼ぎ、敵兵の屍が漂う海を関島・峻(ヴリヒスモス・d08229)の先導で必死に泳ぎきった。
     仲間がやむをえず切り捨てた人間の末路に息を呑む。
     生温い海は血と涙の味がした。
     深海・水花(鮮血の使徒・d20595)は辛い選択に胸を痛め、天に祈った。
     身も心も疲弊しながらどうにか目的の甲板まで這いあがると、そこにいたのは人甲兵担当班だけだった。
     もはや集合を待つ事はおろか固まって探索する時間すら惜しく、四班は散開した。この混乱で戦力は出払ったのか、艦内の迷宮は静かなもので有力な道しるべもない。赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)に偵察を任せ、ひたすら先を急いだ。親衛隊に出会わなかったのは担当班が足止めしてくれたからだろう。
     全班の支えで、この班だけが何とか深層へ到達できた。それが、無謀でも退けない理由だ。
    「強かろうが威張ろうが、アンタは一人。一切好きにゃさせねぇぜ?」
     正面に張り付き、一歩も移動を許さぬ布都乃を斬るべくアッシュは動いた。
    「灼滅者よ、身の程を思い誤ったか。私が自ら斬り捨ててやる事を光栄に思え……!」
    「下衆なお前をこの手で殴れるとは光栄だ。沖縄の海が汚れそうで嫌だが此処で沈んでくれ」
    「貴様……!!」
     計画が崩された動揺からか激怒し、余裕を失っている様子だ。背後から果敢に言い返した峻の肩を、刀が骨ごと粉砕した。布都乃がその背を霊力の網で縛るや、小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)と盾衛が刀を封じる一撃を入れ、後方まで退避する。
    「救援はきます。耐えてください。わかりやすい目印を描き記してきました」
     優雨が小声で通達した。
     是が非でも全員で、が成らなかった悔しさを思い、仙はほぞを噛む。
     無線は使えなかった。合流しそびれた班は恐らく、混乱を迅速に突破する秘策が一歩足りず、流れに呑まれたのだ。
     だが守りの層が厚い布陣ゆえに、限界まで戦いを引き延ばし待つ事はけして不可能ではない。今、自分達の粘りに人間の未来がかかっている――布都乃、治胡、峻は当然のようにわが身を顧みず、互いにそのつもりだと感覚で理解しあう。

     ひとを護りたい事が三人共通の望みだった。
     地獄で会おうと誓いあった彼らは死をも恐れなかった。

     派手な陽動と挑発で敵をかく乱し、水花が傷を即座に癒す。その間に主砲の葉は力を蓄え、中後衛が堅実に機動力と破壊力を削いだが、優位を確信したアッシュは時が経つとともに冷静さを取り戻していく。
    「猫!」
     サヤが斬られると同時に後衛の猫が治胡の前へ出た。ここで心中かもしれないが、言われるまでもなく闘志を燃やすさまはこのさい頼もしい。
    「森羅万象断です! 皆さん、警戒を……!」
    「警戒した所で私の攻撃は見切れまい」
     水花が警告を発するも、アッシュの斬撃は正確無比かつ速すぎる。ガードを試みた峻もかわす事はおろか、急所を庇って当たる事すら困難だともう理解していた。
     敗けたくない。戦って、勝つ。その為にはどうすべきか。
     思考より先に足が動き、峻はその一撃をほぼ一人で受けた。大丈夫だ。並大抵の死にざまならもう体験済だ。そんな事より、今はこいつの血が浴びたい。
    「ふ。何がおかしい。貧血で気がふれたか」
    「ゴミ野郎のお前には一生わからないだろうな」
     峻は全ての重圧から解放され、笑っていた。久々に、戦いの中で生きる悦びを覚えた。例え自分が一番に倒れても必ず勝ってくれると思える、煩いが頼もしい仲間達が今、隣にも外にも――東京にもいる。
     彼はもう、一人で全てを護りたがる孤独な青年ではない。
     峻の額に水晶のガトリング砲が押し当てられた。
     アッシュの左腕。もう一つの武器だ。
    「アッシュ・ランチャー自身が最強の軍艦という事か。成程な」
     断続的な掃射音を峻は他人事のように聴く。それでも次目覚める時はきっと、晴れた沖縄の、青い海と空が見えるはずだ。

    ●3
    「何て事を……人々の命を弄ぶ事は許されざる罪です。神の名の下に、断罪します……!」
     至近距離で連射を喰らった峻は衝撃で吹っ飛び、ぴたりと動かなくなった。普通の人間なら体ごと消し飛んでいただろう。不沈艦に思われた峻を落とした暴力に否を唱えた水花へ、銃が向けられた。
     戦術に綻びはない。ひたすら、純粋に、今ここにいる事が無謀だった。
     貴重な癒し手を失えない。盾衛が直ちに水花の援護に回るのを確認すると、布都乃は大きく息を吸った。己の血が喉に落ち、闇が疼いたが、衝動を抑えつけ敵に肉薄する。
     言いたい事なら山ほどある。今からつくのは、守るための悪態だ。
    「白の王、蒼の王は屍王を束ねた強者だったが、元老ってのは弱者を率いるしか出来ねぇ盆暗みてぇだな。カリスマ欠いた時点で積んでるぜ、お前。オレらを家畜扱いして頂点に立った気でいるかもしんねぇが、それならアンタはさしづめ灰色の牧場主さ。王の権能を掴み損ねた牧場主、そりゃ出世出来ねぇよ」
     考えてきた挑発もただの悪口も並べたて、巧みな皮肉で延々と思うまま罵詈雑言を浴びせ続ける。初めこそ無視していたアッシュも、やがて腹に据えかね布都乃を狙い始めた。
    「その立派な軍服も鼠色のツナギに着替えて、隣の養鶏場でチキン炙ってる鳥に頭下げてきな。人類管理出来ません、お助け下さいってか」
    「遺言はそこまでだ、小僧!」
    「誰が小僧だ。家畜反逆のお時間だぜ……? そのスカした顔、カチ割って泣きっ面見せてみやがれ!」
     有言実行の時だ。
     縛霊手がアッシュの顔面に入るのと、布都乃の胸を斬艦刀が貫いたのは同時。死なば諸共、アンタも地獄行きよ――捨て台詞を吐こうと思ったが、代わりに大量の血が喉から出た。それ以上は流石にもたず、崩れ落ちる。
     炎と光を纏い、まるで一対の獣となって食い下がる治胡と猫をも無情に焼き尽くすと、いよいよ狙いは水花に向いた。迫る不浄の鬼将軍を前に、神の僕たる水花は凛として言い放つ。
    「私は、あなたのような存在にはなりません。人々を守る盾とあり、剣となります」
    「ならば対人類最強兵器として貴様を砕いてみせよう」
     海に沈んだ人々を思い出す。
     断続的に胸を撃ち抜かれながらも、水花は救いを信じ、祈りの言葉を叫び続けた。

     神よ。
     どうか、人々をお救い下さい。
     かような男を見逃して良いはずがありません。
     どうか、暴虐の徒へ立ち向かう勇気ある人の子に、ご加護を――。

     刹那、扉が開かれるとともに閃光が部屋中を照らした。
    「ごきげんよう、不浄の将軍」
     お伽噺から抜け出たような少年と少女の並び立つ姿は、まさしく神の使いにも思われた。
     鉄砲水の如くなだれこむ魔力の弾幕と共に、愛宕・時雨が室内へ切りこんできた。祈りが届いた奇跡に感謝し、水花は役目を終えたとばかりにふらりと倒れる。誰かの優しい腕に支えられ、彼女は眠りに落ちた。わずかに意識のあった治胡は、慌ただしい足音で何が起きたのかを察する。
     援軍だ――治胡は命を燃やす思いで起き上がると、近くに転がっていた峻と布都乃を渾身の力で背負った。二人の重みで全身から血と共に激しい炎が流れだし、眩さにアッシュが視線を向ける。
    「来るなら来いよ。コイツらに触んのは俺が許さねえ……!」
     治胡を慕う少女がその時、果敢に声をあげた。
     今井・紅葉の放った魔弾が敵の注意をひいた隙に、治胡は根性で安全な壁際まで歩き切り、どうと倒れこんだ。緊張の糸がぷつりと切れる。
    (「人の気も知らねーで何笑ってんだか……」)
     峻と布都乃の顔は妙に安らかだ。薄れゆく意識の中、最後に治胡は意外な顔を目にした。
    「……お嬢サンか。こんなトコまで来るとはやんじゃねーか。ブッ潰してこい」
     それはかつて自分が救った気弱な少女、湊元・ひかるだった。治胡は自然と口元を緩め、駆け寄ってきた彼女の肩を力強く叩く。その時、峻達の気持ちが分かった。
     皆が繋げてくれた道を、更に託していけるモンがいる。
     それを信じて出来るコトをやり切った――それゆえの笑顔だったのだ。

    ●4
     危うい所で二つの人甲兵班が合流し、戦況は一進一退となった。守り手達が結託し、手を変え品を変え敵の注意を引いたため、残る四人の消耗は軽度ですんでいる。更に嶌森・イコ達の班が欠員の穴を埋め、援護を買って出てくれた事が戦闘継続を決定する後押しとなった。
     やれるか。
     四人は並んで各々の得物を構えた。
    「皆さん見事な死亡フラグを立てていきましたからね。きちんと折って帰りましょう」
    「揃いも揃って立派な最後遂げやがって。マジ戦艦ごと沈むかと思ったわ」
    「あはは……そこが皆の良いところなんだけどね」
    「シリアスクラッシャーのお仕事も楽じャねェナ……ッてコトでェ、俺らのターン! ラーンチャーーーーン! あッそびーましョー!!!」
     軽口が出るなら大丈夫。いざ反転攻勢だ。
     スキップで飛んでいった盾衛は、分解延長した七曲の太刀部分を他班への対応に追われるアッシュへ槍投げの要領で投げつけた。
    「文字通りの横槍ゴメンなチャイナ!」
     怯む敵に、柄尻の短刀で打ちかかる。
    「くっ……」
    「ねェどンな気持ち? 対人類戦最強(笑)がヒトの端くれにケツ追い回されてNDK?」
    「どした最強、テメーさいつよ()なんなら俺一人くらい道連れにしてみろよ」
     上半身で鍔迫り合い、下半身で反復横飛びをしながら視界を塞ぐ盾衛の一方で、葉も側面からチクチクと槍を突き、完全に煽りにかかっている。
     さっきは静かにしていてくれて助かりましたと思いつつ、優しい優雨は顔にも口にも出さない。
    「あの二人は庇わなくてもいいですよ。殺しても死にそうにありません」
     単身盾役を担うイコに一応そう断っておくも、その血と心にねざす揺らがぬ護り手の矜持は少女の儚い背を武者にすら見せた。無論、二人とてイコ達の支えあってこそ攻撃に回れると解っている。
     影の犬がアッシュの首に喰らいついた。
     刀はダミーだ。盾衛の影を振り解こうともがくアッシュを、充分な精度と威力を得た葉の槍が高速で貫く。
    「こっちからも横槍失礼するよ」
    「私は縦槍で」
     葉の対岸から踏み込んだのは仙。突き立てた杭が激しい破壊音をたてて肉体を削る間に、杭打ち機を踏み台に跳躍した優雨が、赤熱する銀の車輪で頭を蹴り、その反動で宙に舞い戻ってはまた蹴りつける。
     激しい攻撃に晒されたアッシュは徐々に調子を崩し始めた。前半にこつこつ機動力を奪っておいた事が、手数が増えた今、一気に流れを引き寄せる鍵となって活きる。
    「真打ちの登場だよ!」
     ここで駄目押しとばかりに現れたのは風華・彼方の班だ。諫早・伊織の的確な指示を受けた彼らは瞬く間に退路という退路を塞いでいき、アッシュは完全に袋の鼠となった。
    「ば、馬鹿な……人類管理者である私が、このような所で灼滅されて良いはずはない!」
     流石の最強も人類の勢いに押され気味だ。誰がアッシュの首を取るか競争だ――突入前に交し合った軽口の存在を、緊張が解けた今、ようやく思い出す。ここまできたら他班には譲れない。
    「行ってきなよ、一さん。アシストはするからさ」
    「私もトドメは譲ります。あなたが勝ち取った握手券です」
     そう微笑む仙と優雨を見て、お前らホント律儀だなぁと葉は吹き出す。誰も手伝ってくれなくとも、一人で狩るつもりだったのに。
     葉は口元をニヤつかせて盾衛を見た。
    「ま、一サンの運と執念に免じてやらァ」
    「クソかわいくねーツンデレあんがとよ」
     大股で歩いていく二人の背を見て、一瞬でヤンキー映画ですねと優雨が囁く。我が意を得たりと仙が笑った。
    「これだけ派手に暴れれば死神も尻尾を巻いて逃げたでしょう」
    「うん。海で平和に祝勝BBQしてるエンディングが見えてきた」
     勝ってくるからねと、倒れた四人に視線を投げた。黒髪をなびかせ、娘達は走る。
     仙と盾衛の影は蜃気楼を纏う地獄の番犬となって顕現し、無秩序に突きだされた無数の首がアッシュをかわるがわる喰らった。ちぎられた肉体を優雨が撫ぜるように斬るたび、氷の華が患部を覆って花開く。かと思えばそれは一瞬で燃ゆる炎の華と化し、桜のように舞い散りながら、不滅の王を荼毘にふさんと咲き誇った。
     班の仲間が猛攻をあびせる間に、葉が敵を殴るためのベストポジションへ滑りこむ。
     仙はとびきりの笑顔で、優雨は何食わぬ顔で、盾衛は若干作画崩壊しながら親指を立ててみせた。
     人から人へ。託された全てが今、繋がる。
    「人の世界を人の手に戻す。それが真の正常化ってヤツだよ」
    「狙いは悪かねェケド武蔵坂ナメてたのは減点。ヒトなンざゴミみてェなモンだケドな、ナメくさンなよMr.ハゲタカチャンよゥ!」
     あたし達の怒りが、必ずあんたを倒す――。
     そう息巻いていた他班の仲間達や、不運な相棒の顔がふと葉の頭のすみに浮かぶ。
    「せっかくだ、テメェと握手したがってたヤツらの分も上乗せしといてやらあ」

     剣が刀が拳が影が帯が楔が炎が氷が光が打撃が斬撃が気弾が銃弾が光輪が降り注ぎ学園中の怒り嘆き数多の感情が天罰の如く襲い全ての願いの象徴の如く振るわれた斬艦刀は最強の戦艦であった男にたたらを踏ませた。
     やはり弾くよりこれが好い。肉と骨が拉げる音と手応えが、葉にとって最高の音楽だ。
    「じゃあな、アッシュ・ランチャー。今日から俺らが対ダークネス最強だ」
     金属質な打音をたて、葉のギターがアッシュの首をフルスイングでかっとばす。
     人類が、対人類最強を超えてみせた瞬間だった。

    作者:日暮ひかり 重傷:赤槻・布都乃(渇求の影・d01959) 夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486) 関島・峻(ヴリヒスモス・d08229) 深海・水花(鈴蘭の祈り・d20595) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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