決戦アッシュ・ランチャー~今こそ反攻の時!

    作者:雪神あゆた

     灼滅者たちは運び込まれたディスクを再生する。最新の予知を基にした説明ディスクだ。五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)の声が響く。
    「沖縄に攻め寄せた軍勢の撃退、お疲れ様です。皆さんの奮闘で、沖縄の被害を抑えることができました。
     さらにこの勝利により、アッシュ・ランチャーを灼滅するチャンスができたのです。
     統合元老院クリスタル・ミラビリスの元老であるアッシュ・ランチャーを灼滅できれば、謎に包まれたノーライフキングの本拠地への侵攻も可能になるかもしれません。
     が、敵軍の戦力は未だ強大。
     そのうえ、ノーライフキングと協力体制にあるご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦スイミングコンドル2世が、艦隊に合流しました。
     生半可な覚悟では、反攻作戦を行うことはできません」
     でも、と姫子は強い声で続ける。
    「でもここでアッシュ・ランチャーを取り逃がせば、今回のような事件を再び起こすかもしれません。是が非でも、ここで彼を灼滅するべきでしょう」
     なお、と姫子は補足する。
    「スイミングコンドル2世には、闇堕ち後、行方不明になっていた、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)さんが囚われているようです。
     彼女は闇堕ち時に、エクスブレインとは違う予知の力を得ました。その力がノーライフキングに悪用されているようです。未来予知を敵が得る事は非常な脅威。
     可能なら、紗里亜さんの救出或いは……灼滅もお願いします」
     そして姫子は作戦の状況を説明する。
    「アッシュ・ランチャー艦隊は、艦隊を再編、ゆっくり撤退しようと動き出しています。
     しかし、これだけ大規模な艦隊が動くのは簡単ではありません。今すぐ追撃すれば艦隊に大規模な襲撃をかけられます。
     こちらが攻撃しなければ、戦闘は起きず相手は撤退していきます。
     でも先ほども言ったようにアッシュ・ランチャーを放置するのは危険。なので、可能な限り、今、アッシュ・ランチャーを倒したほうがよいでしょう。
     敵艦隊までの移動手段は、漁船やボートなどを徴用していますし、操縦方法のマニュアルも用意しています。
     可能な限り漁船やボートで接近してください。
     もっとも、皆さんは艦隊の砲撃を受けても大丈夫でしょうが、乗り物は撃沈してしまうでしょう。
     撃沈後は、皆さん灼滅者の肉体の力で、敵艦に接近、潜入してください。
     最初から泳いで近づく事もできますが、漁船やボートが利用できればより迅速に敵艦に接近できますから」
     姫子は敵艦にとりついた後の手順の説明に入る。
    「アッシュランチャーは『撤退可能となった艦艇』に移乗し戦域から撤退しようとしています。
     なので艦隊の外側、撤退準備が整っている艦艇を優先して制圧していってください。
     艦艇には、人甲兵やアンデッド兵、多くの一般兵が乗船している。
     人甲兵とアンデッドを殲滅した後、ESPなどを利用して一般兵に言う事を聞かせれば、他の艦艇の退避を邪魔するように移動させアッシュ・ランチャーの撤退を防げます。

     撤退できなくなれば、アッシュ・ランチャーは艦隊の人甲兵やアンデッドを呼び集めて、身を守らせようとします。
     アンデッドや人甲兵は、救命ボートなどで移動したり、海中を泳いだり歩いたりして、集結しようとします。
     集結する戦力は、アンデッド1000体弱に、人甲兵が300体程度。この戦力が集結すれば、打ち破るのは困難になるでしょう。
     なので、アッシュ・ランチャーを撃破する為には、この増援を阻止する事が重要です。

     ここまで作戦が進めば、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇に乗り込み、アッシュ・ランチャーに決戦を挑めます。
     アッシュ・ランチャーは、ノーライフキングの首魁の一員である為、非常に強力。また親衛隊ともいえる強力な人甲兵の護衛もいます。撃破するには相応の戦力が必要でしょう。
     さらに、後方から増援の人甲兵やアンデッドが押し寄せれば、撃破に失敗する可能性もあります。
    『撤退を阻止する』『増援を阻止する』『アッシュ・ランチャー及び護衛と戦う』この3つの作戦を同時に成功させなければ、アッシュ・ランチャーを灼滅する事はできません。

     それだけではありません。
     スイミングコンドル2世に乗るアメリカンコンドルは『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所』で介入する作戦を行おうとしています。
     紗里亜さんが『最初から、イミングコンドル2世にアッシュ・ランチャーを避難させた場合、灼滅者がスイミングコンドル2世に押し寄せてくるため、スイミングコンドル2世が制圧されてしまう』と予知したため、この作戦が決定されたようです。
     もし何も対策しなければ、アッシュ・ランチャーと決戦中に、アメリカンコンドルとご当地怪人の軍に横槍を入れられ、アッシュ・ランチャーを奪われてしまうでしょう。
     横槍を阻止する為『スイミングコンドル2世への攻撃』も同時に行わなければなりません。
     スイミングコンドル2世の戦いでは、条件次第では、アメリカンコンドルの灼滅の可能性もありえます。
     また、スイミングコンドル2世のコンピューターに接続され、予知を行う装置として利用されている『椎那・紗里亜の救出あるいは灼滅』も目的の一つになるでしょう。

     各チームで、自分たちのチームの作戦・方針を決定し、全体として成果を得るため全力を尽くしてください」
     説明を一通り終え、姫子は一拍開けてから言う。
    「敵は強力ですが、ノーライフキングを追い詰めるためのチャンスでもあります。皆さんなら、必ずやこのチャンスを掴むと信じています。悔いのないよう作戦を練って挑んでください」
     声には灼滅者への絶対の信頼。


    参加者
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    九凰院・紅(揉め事処理屋・d02718)
    武野・織姫(桃色織女星・d02912)
    長門・睦月(正義執行者・d03928)
    片倉・光影(風刃義侠・d11798)
    日下部・優奈(フロストレヴェナント・d36320)
    神崎・榛香(小さき都市伝説・d37500)

    ■リプレイ


     轟音。水柱があがる。クルーザーが揺れた。
     灼滅者は今、クルーザーに乗っている。大きく弧を描くように撤退準備中の敵艦隊を追い抜き、今は向きを変え敵艦の一隻に迫っている。敵艦からは容赦ない砲撃。
     そして砲弾の一発がクルーザーを捉えた。クルーザーが被弾するやいなや、灼滅者は船を脱出。泳ぎ、あるいはESPを使い敵艦へ迫る。
    「Ashes to Ashes. Dust to Dust.死に損ないどもを屍に戻して、魚の餌にしてあげましょう」
     アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)は箒にまたがり飛行。先頭を行く。靡く金のポニーテール。
     アリスは気づく。複数の艦から人甲兵やアンデッド兵と思しき者らが、銃口を向けている。アリスは速やかに飛行を止め、皆と波に紛れ敵艦へ接近。
     灼滅者は軍艦側面に到着。協力しつつ、甲板を上る。
     甲板には軍服を着た男たち。灼滅者を見、中国語で叫ぶ。
     長門・睦月(正義執行者・d03928)と武野・織姫(桃色織女星・d02912)はアイコンタクトを取り、兵士たちへ、
    『雑魚は邪魔だ! 死にたくなければその場から動くな!』
    『伏せろ! 伏せろ、伏せろ、伏せろ!』
     中国語で雄々しく叫ぶ睦月。拳をぎゅっと握り同じ文を連呼する織姫。
     片倉・光影(風刃義侠・d11798)も他の仲間と乗船を果たしていた。光影の手には、スレイヤーズカード。
    「真風招来!」
     光影は封印を解除。峰に龍が彫られた日本刀「黒龍」の先を兵士に向け、一喝。王者の風を吹かせる。
     3人のESPと言葉に、兵士たちは次々うつ伏せになった。


     神崎・榛香(小さき都市伝説・d37500)は首を巡らす。
     甲板中央に3メートル強の金属の人型、人甲兵。そして、ESPの影響下にも関わらず、立っている兵士たちおよそ六体。その六体は人ではない。
    「……アンデッドは、あれとあれとあれ……それから、あっちにみっつ。……殲滅するよ」
     榛香の指摘に、九凰院・紅(揉め事処理屋・d02718)は頷き、疾走。
     アンデッドたちが弾丸を放ってくる。弾丸が紅の足を貫く。ふらつく紅。
     榛香は紅の背後で、唇をゆるり動かす。
     榛香が紡ぐのは七不思議の言霊。話を聞いて、と語り、紅の傷を癒す。
     回復した紅は視線だけで礼をすると、アンデッドの横を抜ける。
    「慣れない得物だが、役立つなら使わない理由はない」
     アンデッドの背後に回り、断斬鋏で首筋を突く。錆と狂気を流す。紅は追撃しようと、鋏を引き抜く。
     その時、床が揺れた。人甲兵が動いたのだ。紅に向かってくる。
     日下部・優奈(フロストレヴェナント・d36320)は、
    「皆、準備はいいか? 歴史に残ることのない、小さな戦争の幕開けだ!」
     仲間へ檄を飛ばすと、動く人甲兵の側面をとった。
     優奈に気づいたか、人甲兵が体の向きを変える。その胴へ優奈は蹴りを放った。輝く爪先を人甲兵のボディへめり込ませる。確かな手ごたえ。
     動きが鈍った隙を逃さず、ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)は人甲兵に躍りかかる。
     己の背丈ほどの刀身の、無敵斬艦刀『剥守割砕』が日を反射していた。
     ギィは腕を一閃。金属音。飛び散る火花。斬撃で機体を損傷させる。
     優奈とギィは後ろに移動。いったん距離をとる。
     ギィは刀を構えなおし、敵に告げる。
    「数は力のつもりだったんでやしょうが、なら軍100万を全部アンデッドにして来るべきだったすよ。もう遅いっすけどね。南海に散るがいいっす!」

     戦闘の中、アリスが声をかける。
    「そっちはどう? 順調?」
    「多少硬いけど、なんとかなる相手っす。そっちはそのまま、アンデッドをお願いしやす」
     ギィは人甲兵から視線をそらさず応えると、掌を天へ。黒いオーラの逆十字を人甲兵の頭上に出現させる。逆十字を落下させ、人甲兵を裂く。のけぞる人甲兵。
     一方、アリスは目を閉じた。精神を集中している。手に古式護符揃え『殲(占)術符「風鳴・改」』。
     アリスの手から符がはなれ、五芒星型の結界を構築。結界が、アリスの周囲のゾンビ三体を、弾き飛ばす! うち一体が活動を停止。
     アンデッドらは一斉に目を向く。激昂している。それぞれ銃を乱射してきた。乱れ舞う弾丸。
    「いけ、神風!」
     光影の声が響き、ライドキャリバーの神風がタイヤを回転させる。弾丸のいくつかを機体で受け止める。
     光影は前進。跳躍し、神風を跳び越え、敵前へ。鬼神変。拳を異形化させ、敵の顎を打ち抜く。何かが砕ける音がして、アンデッドが倒れた。
     灼滅者は攻撃重視の陣形を活かし、さらに攻めた。数分後には、甲板上の敵は人甲兵のみに。
     人甲兵が銃弾を放つ。逆転を狙った高い火力の一撃。その一撃を『強化鉄人・豪毅』を纏った睦月が受けた。
    「アンタらの好き勝手にはさせない。覚悟しな」
     睦月の声は重い。睦月は腰を低くする。息を止め、拳を敵の装甲に叩きつける! 超硬度の拳が金属を貫通。爆発する人甲兵。

     灼滅者は艦橋およびCICの制圧に向かう。戦艦にはもはや灼滅者に抗える戦力は無かった。兵士たちはESPに従うのみ。
    「操縦ができる奴はついてこい。こちらの指定する場所に動かしてもらう」
     指示を飛ばす光影。
     灼滅者は手分けし、艦隊の移動を阻害する地点に艦を動かし、碇を下ろさせ、機関部を破壊。
     数分後。睦月は、皆の顔を見回す。
    「一般兵士たちは、救命ボート等で避難させた。この艦の制圧も完了した。これでよし。では次行こう」
     八人は海へ飛び込み、次の戦艦を目指す。


     二隻目に乗り込み、艦橋を目指す灼滅者を、甲板上にいた人甲兵が阻む。アンデッドたちも喚きながら、灼滅者へ迫る。
     優奈は、人甲兵を見る。先ほどの個体よりやや大きく、手には軍刀。
     人甲兵は軍刀を上段に構えるが、
    「遅い! こちらから行くぞ!」
     優奈はサイキックソードを突き出す。先端から光の刃を放つ。刃が機体に刺さった。
     優奈はダブルの動きを見せる。間髪入れず跳びあがり、輝く踵で敵顔面を蹴る。
     人甲兵は大きな傷を作りつつ吠えた。
    「ガガガガァ!!」
     構えた軍刀を振り落とす。真空の刃が生まれ、優奈へ飛んでくる。
     紅が、優奈を肩で突き飛ばした。紅は交差させた腕で、真空の刃を受ける。
    「その程度では通じない」
     紅は拳を開いた。
     紅の掌から炎が溢れる。人甲兵と近づいてきたアンデッド三体を焼く。
     アンデッドたちは瞳に狂気を浮かべつつ、紅を銃で撃ち、ナイフで抉る。
    「……大丈夫。……力を使うよ」
     榛香が七不思議の言霊を使う。紅の傷を癒す。
     敵は執拗。なお弾丸の雨を降らせてくるが、榛香が戦線を支え続ける。
     戦闘が経過していく中で、榛香は敵を見つめる。アンデッド、人甲兵、共に紅や優奈の奮戦で傷ついている。チャンスは今だ。
    「……いける?」
     織姫は、
    「はい。ジョッキーの方は一日何レースも出るし、わたしももっと沢山頑張らないと。――いきます!」
     張り切った声で榛香に答えると、人甲兵を指した。蹄鉄型の『Tachyon † ring』を操る。
    『Tachyon † ring』は音を立てず宙を飛び、人甲兵の眉間部分に直撃。人甲兵は仰向けに倒れ、起き上がらない。

     最大戦力を失わせたことで、戦況は灼滅者に傾く。アンデッドの掃討と二隻目の攻略を遂げアリスとギィは、海に目を向けた。
    「あっちも制圧ができたみたい。他のチームも奮戦してるようね」
    「撤退阻止は確か、5チームだったでやすか?」
     織姫は顎に指をあて、優奈はわずかに眉を動かす。
    「5。競馬だとレースがぎりぎり行える数ですけれど。この場合は……」
    「戦域の広さ、船の多さに比べると……」
     紅と榛香が彼らに近づく。
    「作戦はもう始まってる。俺達にできるのは決めたことを一つづつ確実にこなすだけだ」
    「……できることを頑張ろう」
     感情を出さず告げる紅。榛香は首を縦に一度。
     後戻りはできない。なら迅速に動くのみと、灼滅者は三隻目の艦の制圧へ。

     光影は、神風と共に三隻目の甲板上を駆ける。すべきことは変わらない。一般兵を無力化させ、艦橋を目指し、立ちはだかるアンデッドを攻める。
     神風が駆動音と共に速度をあげる。アンデッドの一体へ、体をぶつける。
     消耗し、血を流すアンデッド。光影は雄叫ぶ。オーラを激しく輝かせ、放出。気でアンデッドを破壊する!
     敵一体を倒したことを喜ぶ間もなく、襲ってくるアンデッドたち。
     銃が、火炎放射器が、銃剣が、軍刀が、灼滅者を襲う。
     だが、紅や睦月が、敵の前へ。
     刀を腕で受け止める紅。炎に身を焦がされながら平然と立ち続ける睦月。
     二人は息をそろえ前進。標的は人甲兵。
     人甲兵の足が動く。蹴ってくる。爪先が睦月の腹にめり込む。
     体をくの字にする睦月。が、睦月は1秒で姿勢を立て直し、拳を突き出す。閃光百裂拳。装甲がめり込むほどの打撃を雨の如くに当てた。
     睦月を睨む人甲兵。睦月が敵を引き付けている間に、紅は愛用のガトリングガンを連射、人甲兵の隣にいたアンデッドに穴をあける!
     奮闘する二人に榛香が近づく。無表情のまま精いっぱい声を張り、二人の傷を浄化。
     白髪を揺らしつつ戦場を駆け回り、声が枯れても構わないと言わんばかりに、力を使い続ける。
     三戦目とあって、皆の傷は決して浅くない。それでも、榛香の支援と自己回復で灼滅者は戦い続けた。そしてアンデッド2体を屠り、人甲兵の体力を削った。
     優奈は額に汗をかきつつも、傍らの織姫に視線をやる。織姫も肩で息をしていたが視線に気づくと、指を立てて応える。
     優奈は床を蹴った。体を縦に回転させる。遠心力を載せた鋭い斬撃、断罪転輪斬!
     同時に織姫は声を張り上げ高速詠唱。魔法の矢を生成し、飛ばす。
     はたして、優奈の斬撃が敵の金属の肌を裂き、織姫の矢が敵に穴をあけた。
     それでも人甲兵は動き続ける。人甲兵は跳んだ。着地と同時に、衝撃波が発生。
     前衛にいたアリスとギィは、跳びあがることで衝撃波を回避。
     アリスは空中で光剣『白夜光』を掲げ、白い十字架を召喚。十字架からの無数の光線で、アンデッドごと人甲兵を撃つ。
     ギィも空中から敵を強襲する。全身の力を振り絞り、無敵斬艦刀『剥守割砕』を敵の群れへ叩きつける。
     アリスとギィの連携技が、人甲兵を貫き、両断。人甲兵を完全に停止させる。
     八人は視線を交わす。アンデッドはまだ残ってはいるが、三隻目攻略まで後少しと。


     時がわずかに経過。三隻目の甲板で。榛香は最後のアンデッドと対峙していた。
     榛香は弓を引き絞り――水星撃ち。矢が敵の胸を貫通。永遠に沈黙させる。
    「……甲板の敵はこれで最後、後は艦橋に……っ!」
     榛香の視界に、海上の艦隊が入った。幾つかの戦艦が動き出していた。撤退準備が整ったのだ。
     矢を放ったままの姿で固まる榛香。
    「間に合わなかったっすね……あのどれかにアッシュ・ランチャーが乗っていたら……逃げられてしまうっすよ」
    「戦力がもう少しあれば……敵を逃げ帰らせたりしないのに……」
     拳を握りしめるギィ。海上を見つめるアリス。
     停止させた戦艦の横を、多くの戦艦が通り過ぎていく。八人は敵の進路を阻むように位置を工夫させていたが、敵を阻むには数が足りない。
     八人の灼滅者の手際はよかった、迅速に三隻を攻略した。他チームも全力を尽くしただろう。が、撤退阻止に動いたチーム数が少なかったのだ。
     睦月は自問するように、
    「なんとか止める方法はないか?」
     一瞬の沈黙。
    「なら……この戦艦をアッシュ・ランチャーの戦艦へぶつけるか?」
     優奈が口を開いたが、紅が静かに疑問を呈する。
    「アッシュ・ランチャーの乗る戦艦をどうやって特定する? 逃げているのは一艦二艦じゃない」
     灼滅者の目に浮かぶ、迷い。このままでは万事休すか。アッシュ・ランチャーに逃げられてしまうのか?
     そのとき。少し離れた位置にある戦艦の砲台が火を噴いた。砲撃は別の戦艦に命中。轟沈する戦艦。
    「他のチームが攻略した船に、砲撃させた? この方法なら、アッシュ・ランチャーの船をつきとめられるが……一般人の犠牲を顧みない覚悟で作戦を立てていたっていうのか?」
     呟く光影。
     砲撃はしばらく続く。離席した艦が次々と撃たれる。
     そして、砲撃を続けていた戦艦は動く。撤退しようとしていた戦艦の一つ、砲撃を受けてなお動きを止めなかった艦へ、船体をぶつける。
     他の船から怒号が聞こえてくる。多くの艦が大混乱に陥っているのだ。
     その混乱を縫って、灼滅者たちが高速で移動をするのが見えた。砲撃や体当たりでも無傷だった戦艦へ、そこにいるであろうアッシュ・ランチャーを狙って。
     織姫は彼らを見つめていた。がんばって、と声に出さず声援を送る。そして仲間を見た。
    「アッシュ・ランチャーは他のチームの皆さんに任せて、わたし達はわたし達の仕事をしましょう? この後も沈没船の救助とか、増援阻止のお手伝いとかありますし」
     動き出す織姫。他の七人も彼女に続く。
     ある者は今できることを懸命にしようと手足を動かす。ある者はアッシュ・ランチャーと戦う者の武運を祈る。彼らの髪や頬を潮風が撫ぜた。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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