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「ラジオウェーブのラジオ放送が確認されたぜ。このままじゃ、ラジオウェーブのラジオ電波によって生まれた都市伝説によって、ラジオ放送と同じような事件が起こっちまうかもしれないな」
阿寺井・空太郎(哲学する中学生エクスブレイン・dn0204)は集まった灼滅者達を前に説明を始める。
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「トモちゃん、なにしてるん?」
深夜のコンビニの前で若者達が何をするでもなく駄弁っていた。
「家に転がってた古いラジオ、暇潰しに使えると思ったんだけどさ」
「ハイ、招集。緊急MTG的な。一人で楽しむとかねーっしょ」
「いや、壊れてるのかマジ雑音パネくて聞き取りにくいんですけど」
「それでも暇くらい潰せるっしょ。どんな内容よ?」
「心霊特集……通り魔的な? 手に持った刃物で切られるみたいなカンジ」
「ギャハハ、それただの不審者じゃん」
「いや、待てよ。俺なんか聞いたことあるわ」
「どんなよ?」
「なんか隣町の不良のチームが刃物持ったやつに全員やられた的な」
「もう心霊関係ねーじゃん。ただのニュース的な事件じゃん」
「でもさ……その方がよっぽどコエーわ」
「ですよねー」
ひとしきり盛り上がった若者達を見下ろすように、ひとつの人影が音もなく若者達の前に立っていた。
「あ?」
目の前にいるにもかかわらず、夜の闇に溶けてその姿は朧気で手にした鋭い凶器だけがやけに目を引くのだった。
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「ラジオ放送の内容は、こんな感じだな」
赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の調査で、都市伝説を発生させるラジオ放送を突き止め、ラジオウェーブのものと思われるラジオ電波の影響によって都市伝説が発生する前に、その情報を得る事ができるようになった。
「つまり今の内に対処すれば、被害者を出さずに済むってことだ」
今回の都市伝説は無差別に人を襲う。放って置けば多くの被害者が出てしまうだろう。
「この都市伝説は、夜にその姿を想像したやつに襲い掛かる。あらかじめこいつが出現する地域の中で、夜に人通りの少ない場所を調べておいたぜ」
そう言いながら空太郎は灼滅者達に資料を配る。
地図に示された場所で都市伝説を呼び出せば人払いの必要もないだろう。
「都市伝説の姿は想像したやつが想像した通りに映るみたいだな」
どんな姿で、どんな凶器を持って映るかは、対峙した者しだい。
「どんな姿に映っても、基本的には手に持った刃物で攻撃してくるみたいだけどな」
見える姿によって攻撃手段が変わったりはしないようだ。
「まあ、ラジオ放送の情報から推測される能力であって、予測を上回る能力を持つ可能性があるから、注意は必要だぜ」
相手が都市伝説とはいえ、油断をしないに越したことはないだろう。
「お前達には、この都市伝説がどんな姿に映るんだろうな。あとで教えてくれたらうれしいぜ」
参加者 | |
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デルタ・フリーゼル(物理の探究者・d05276) |
紅月・瑠希(赤い月の使者・d08133) |
リディア・キャメロット(贖罪の刃・d12851) |
黒崎・奏(黒の旋律・d20980) |
イヴ・ハウディーン(春火・d30488) |
風上・鞠栗鼠(若女将見習い・d34211) |
華上・玲子(鏡もっちぃこ・d36497) |
翠川・パルディナ(怪盗縞縞スポーヌ・d37009) |
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「春になってもラジオウェーブの影響はやまないなりな」
「せやね。細々とラジオウェーブのラジオ放送の被害は止まらんな。何時か、尻尾掴んでガサ入れいれんとあかんな」
人の寝静まった深夜に華上・玲子(鏡もっちぃこ・d36497)と風上・鞠栗鼠(若女将見習い・d34211)は、都市伝説が現れるという場所に立っていた。
「初めての都市伝説依頼だ! 気持ちが空回りしないように頑張ろう」
翠川・パルディナ(怪盗縞縞スポーヌ・d37009)は自分に言い聞かせるように拳を握りしめる。
(「ただ……夜道は苦手なんだよね」)
パルディナは正義の味方である自分が抱くには気恥ずかしい苦手意識に複雑な表情をする。
「翠川、少し顔色悪いな。大丈夫か?」
今回が初めての依頼であるパルディナを気遣ってイヴ・ハウディーン(春火・d30488)が声を掛ける。
「ぜ、全然大丈夫だよ!」
「……それならいいんだが」
イヴはパルディナの様子は緊張からくるものだろうと解釈し、パルディナの初依頼を成功させるためにも自分がしっかりサポートしてやろうと考えた。
「想像した相手が都市伝説として現れるとは、苦手意識を突いた厄介な相手ですね」
「ええ、厄介な相手ね。でもどんな姿で現れようとも、私は負ける気はしないけどね」
「確かにやり難い相手だ。まぁ、私もそう簡単に負けるわけにはいかないがな」
黒崎・奏(黒の旋律・d20980)、リディア・キャメロット(贖罪の刃・d12851)、デルタ・フリーゼル(物理の探究者・d05276)は殲術道具を調整しながら都市伝説の出現に備えていた。
灼滅者であれ人間は視覚に頼るもの。自分が思い描く自分を襲う切り裂き魔の姿というのは戦いにくいだろうことは容易に想像できる。
「自分を襲うもののイメージ、私にはどんな風に映るのか楽しみだね」
紅月・瑠希(赤い月の使者・d08133)の一言をトリガーに、街灯に照らされた影からにじみ出すように切り裂き魔の都市伝説が灼滅者達の前に現れた。
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「六六六人衆……私の憎き相手の姿を借りるとは、命知らずな都市伝説も居るものなのね」
夜闇の中から明りの下へと歩み出て来た都市伝説の姿は、黒いレインコートを着て両手に解体ナイフを持っていた。
宿敵である六六六人衆の姿を取った都市伝説にリディアは鋭い殺気を向ける。
自分を襲い、自分に刃を向けてくる存在は必ずしも恐怖の象徴ではないのだろう。
リディアにとってのそれは敵対者、倒すべき敵としてその瞳に映っていた。
「雷の力よ、私の身を守る力となれ」
デルタが切り込み雷を纏った拳を振り上げる。
白衣を着た都市伝説はメスを握り込んだ拳を振り下ろしてデルタの拳を受け止めた。
炸裂した瞬間、紫電が走り眩く路上を照らす。
「よっしゃ、やるぜ!」
デルタと交代するように都市伝説の正面に突っ込んだイヴのバベルブレイカーの杭が紙片を散らす。
紙片?
背広姿の男が紙束を盾に回転する杭を受け止めていた。
「こんなのってありかよ……」
おそらくイヴは切り裂き魔に自分が襲われるということを想像しにくかったのだろう。
それでも今回の都市伝説と対峙するにあたって自分が苦手なものについて考えてしまったのだ。
その結果が目の前に立っている。
教師風の人影が両手に持っているのは問題用紙と解答用紙、その凶器とは『テスト』だった。
「イヴさん、避けてください!」
都市伝説の前で一瞬動きの固まってしまったイヴを援護するように奏が強酸性の礫を放つ。
奏には都市伝説の姿は解体ナイフを持った男として映っていた。
通り魔らしいその姿に虚を突かれることもなく、手足が鈍ることもなかった。
「本当に、想像した通りの姿の都市伝説が現れたものだね」
前衛の者達と違って緋色の爪撃で斬り裂き振り返るまで、瑠希の目には都市伝説が黒い影のような人型にしか見えていなかった。
「人の心の弱みに付け込む算段なのかな? そんなことで私の心は揺るがないけど」
しかし振り返った先で都市伝説の姿は硝子片を握りしめた幼い少女の姿を取っていた。
自らの凶器を持つ手と受けた傷からこぼれた血で白いワンピースが赤く汚れていく。
「やっぱりその姿で現れるなりか……」
白兵戦を仕掛けようと都市伝説に接近した玲子の目に飛び込んできたのは、闇堕ちした時の自らの姿である鏡餅のご当地怪人だった。
その姿が見えるのは自分だけだ。口に出さなければこの心象を他者に知られることはない。
「でも……なんで木槌じゃないなりか!」
しかし一点だけ自分の想像だからこそ許せないことがあった。
鏡餅怪人は肉厚の包丁を手にしていたのだ。
切り裂き魔という言葉に引きずられたのだろうが鏡餅怪人が包丁を持っているというのは邪道であろう。
叫びとともに玲子の飛び蹴りが都市伝説を吹き飛ばした。
「パルディナちゃん、大丈夫?」
鞠栗鼠は霊帯で都市伝説を牽制しつつ、やや白い顔をしているパルディナを気遣う。
怖がりなパルディナが夜道やお化けが苦手になったのは、自分の怪談が原因ではないかとやや責任を感じているのだ。
「だ……大丈夫だよ!」
そう言いつつ半分涙目になりながら、パルディナは祝福の風で必死に仲間達のトラウマ状態を浄化し続ける。
パルディナの目には都市伝説は通り魔というよりは、悪霊のような姿に映っていた。
刃物を持った着物姿の幽霊のような女性の姿は夜道で見るには腰が引けるほど怖い。
しかしパルディナは気が付いていた。
都市伝説が自分の姿を変えることを優先していることに。
怖くても自分が踏ん張って仲間のトラウマを解除し続ける限り、都市伝説本体からの攻撃はおそらくないのだ。
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「この網の霊力で、貴方の動きを封じてあげるわ」
リディアの縛霊手が都市伝説を殴り飛ばすと同時に霊力の網を放射する。
「さぁ、ガトリングの連射をその身にうけて、蜂の巣になるがいい」
網に絡め取られた都市伝説の白衣がデルタのガトリングガンの弾丸で蜂の巣になった。
「くそ、ふざけた姿しやがって」
イヴはダイダロスベルトを繰り出すが、都市伝説の姿に戸惑い問題用紙の束を削り切ることができない。
「カミの力よ、風の刃となりて、敵を切り刻め!」
都市伝説の振るうナイフの下を潜り抜け、奏の風の刃が都市伝説の腕を斬り飛ばした。
「貴女を、精神ごと破壊してあげるわ。これでも食らいなさい!」
体勢を崩した都市伝説を瑠希の赤い逆十字が容赦なく切り裂く。
鮮血に染まった少女の姿で、都市伝説はふらつきながらも瑠希の方へと歩みを止めない。
「うう、こんな都市伝説さっさと倒して風上ちゃんに吸収してもらうなりよ……」
都市伝説の能力とわかっていても自らの闇と向き合い続けるのはあまり気分が良いものではない。
玲子は目を背けたい気持ちを抑えつけながら冷気の穂先を投射し続けた。
「いっそ普通に攻撃してくれたらいいのに!」
セイクリッドウインドで都市伝説の姿が黒いシルエットに戻るが、間髪入れずに再び悪霊の姿に変わってパルディナの足は後退したい衝動に駆られてしまう。
「それぞれ見えている姿が違うというのは少し面白いけれど……そろそろ倒れてしまいなさい!」
都市伝説のナイフによる斬撃を回避し自らの影を踏ませたリディアの影が、黒いレインコート姿の都市伝説を足許から飲み込んでいく。
「どうして私には医者の姿に見えるのだろうな……まあ、キミに聞いてもしょうがないことか」
デルタの再びの抗雷撃が都市伝説の頭部を捉え、雷の闘気の加護が都市伝説の姿を黒いシルエットへと戻した。
「そもそもよく考えたらテストが襲って来ても怖くなんかないぜ!」
多少面食らってしまっていたが平静を取り戻したイヴのドグマスパイクが都市伝説の胸部を貫く。
「どんな姿になろうと、動きを封じてしまえば何もできないですよね」
釘付けになった都市伝説を、その上から奏の影が縛り上げていった。
「この一撃で貴女の生命力を奪い尽くしてあげるわ」
瑠希の鮮血色の斬撃が都市伝説を両断し、都市伝説は路上に転がるとその動きを止めた。
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「想像した通り魔の姿になる都市伝説、なんとか吸収できたわ」
都市伝説が消滅する前に鞠栗鼠が七不思議使いの能力で吸収する。
「怪我をした人はいないかな? 今日は皆お疲れ様だったわね」
そう言って瑠希は仲間達の姿を確認する。
都市伝説が現れている間はずっと幻覚を見ていたようなものだ。
深手を負っている者はいないようだが、戦闘をどう感じたかはそれぞれだろう。
「皆には、都市伝説がどんな姿に見えたのかしら?」
「それには私も興味があるな。ちなみに私はメスを持った白衣の医者だったよ」
好奇心からリディアとデルタは仲間達に話を振った。
「私はナイフを持った六六六人衆だったわ」
「あ、私もナイフを持った殺人鬼のような男でした」
「私は人には話せないようなトラウマだったでふよ……」
戦闘の最中のことだったので玲子が叫んだ木槌って何のことだったのだろうと疑問に思う者もいないようだった。
そもそもリディア達も無理に聞き出したいというわけではない。
「おれは、テストだった……」
「テスト?」
突拍子もない答えに灼滅者達はきょとんとする。
しかしどうしてこうなったという気持ちはイヴ当人が一番強いだろう。
「もうさっさと帰って貯まっているホラーゲームを徹夜でやる!」
イヴは早く嫌なことを忘れたいという感じで踵を返す。
「早くコンビニでスイカアイスを買って寝たい……」
パルディナもどんよりとした表情でぼやく。
「ほら、うちが奢ってやるさかい二人とも元気出し」
二人を励まそうと鞠栗鼠が小走りで二人を追った。
「これで暫くこの地も安泰になるでしょうね」
皆が帰路につこうとする中、奏は都市伝説が現れた街灯を振り返る。
何人かの心にトラウマを残したものの、灼滅者達の手によって未然に都市伝説による被害を防ぐことができたのだった。
作者:刀道信三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年5月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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