●1枚の予知
「お前達がこの映像を見ているという事は、沖縄に攻め寄せた軍勢の撃退に成功したという証拠だろう。良く頑張ってくれた」
作戦は無事終了し、灼滅者達は結城・相馬(超真面目なエクスブレイン・dn0179)が映る映像ディスクに目を通していた。
武蔵坂にいるエクスブレインは直接に今回の作戦を説明できない。だからこそ、今この映像から新たな作戦の内容を聞いているのだ。
「今回の勝利により、アッシュ・ランチャーを灼滅するチャンスを得る事ができた。統合元老院クリスタル・ミラビリスの元老であるアッシュ・ランチャーを灼滅する事ができれば、謎に包まれたノーライフキングの本拠地への侵攻も可能となるかもしれない」
敵軍の戦力は未だ強大であり、生半可な覚悟で反攻作戦を行う事はできないと画面の向こうで相馬は言う。
「更にノーライフキングと協力体制にあるご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』が艦隊に合流したようだ。また、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇は擬似的に迷宮化され、アッシュ・ランチャーを灼滅しない限り破壊する事は出来ず、内部にはノーライフキングをはじめとした強力な戦力がある為、攻略は非常に難しいだろう」
だが、ここでアッシュ・ランチャーを取り逃がせば、今回のような事件を再び起こすかもしれない。
「是が非でも、ここで彼を灼滅するべきだ」
更にスイミングコンドル2世に闇堕ち後に行方不明になっていた、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)が囚われている事も予知されている。
紗里亜は闇堕ち時に特殊な力を得たようで、エクスブレインとは違う予知能力を獲得しており、その能力がノーライフキングにより悪用されているとの事。
「未来予知能力を敵が得る事は非常に脅威だ。可能ならば、彼女の救出或いは灼滅も頼みたい」
そう言い、映像の相馬は開いた資料へと視線を落とした。
●追撃戦
「アッシュ・ランチャー艦隊は、艦隊を再編してゆっくりと撤退しようと動き出している」
そう話すエクスブレインの映像を前に、灼滅者達は驚きを隠せなかった。
こうして説明を聞く今も撤退に動いているのだろう。間に合うのかと不安な思いに駆られるが、あれだけの大規模な艦隊が簡単に動きだせる筈もなく、今すぐ追撃すれば艦隊に大規模な襲撃をかける事が可能である。
「こちらから攻撃をしなければ、戦闘を行う事無く相手は撤退していくが、アッシュ・ランチャーと艦隊が健在である限り、似たような軍事行動が再び行われるのは間違いない。それを防ぐためにも、ここで、アッシュ・ランチャーを灼滅しておきたい」
また、ノーライフキングの首魁『統合元老院クリスタル・ミラビリス』の一体である、アッシュ・ランチャーを灼滅する事ができれば、所在不明のノーライフキングの本拠地の情報を得る事ができるかもしれないと相馬は言うのだ。
それにしても、どのようにして大規模な艦隊へと近づくのかと疑問になるが、艦隊までの移動手段は徴収した漁船やボートなどを使うという。
戦艦の砲撃でも灼滅者はダメージを受ける事はないが、漁船やボートは耐えられる筈もない。なので、最終的には灼滅者の肉体による強行突破となるだろう。
「漁船やボートの操縦方法のマニュアルは用意している。可能な限り漁船やボートで接近、撃沈された後は、灼滅者のみで敵艦に潜入して内部の制圧を行って欲しい。もちろん最初から泳いで近づく事もできるが、漁船やボートを利用した方がより迅速に敵艦に接近する事ができるだろう」
映像の相馬はそこでぱらりと資料をめくった。
「アッシュ・ランチャーは『撤退可能となった艦艇』に移乗し、戦域からの撤退を画策している。この撤退を阻止する為、艦隊の外側、つまり撤退準備が整っている艦艇を優先して制圧していく必要がある」
艦艇には人甲兵やアンデッド兵だけでなく多くの一般兵が乗船していると相馬は話す。
人甲兵とアンデッドを殲滅した後、ESPなどを利用して一般兵に言う事を聞かせ、他の艦艇の退避を邪魔するように移動させればアッシュ・ランチャーの撤退を防ぐ事ができるだろう。言いながらエクスブレインは資料から視線を上げる。
「撤退が不可能となれば、アッシュ・ランチャーは艦隊の人甲兵やアンデッドを呼び集めて、自分を守らせようとする。アンデッドや人甲兵は、救命ボートのようなもので移動したり、或いは、海中を泳いだり歩いたりして集結してくるだろう。集結する戦力はアンデッド1000体弱に、人甲兵が300体程度。この戦力が集結すれば、打ち破るのは困難になるだろう」
なので、アッシュ・ランチャーを撃破する為には、この増援を阻止する事が重要であり、ここまで作戦が進めば、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇に乗り込み、アッシュ・ランチャーに決戦を挑む事ができるという。
「アッシュ・ランチャーは、ノーライフキングの首魁の一員である為、非常に強力で、親衛隊ともいえる強力な人甲兵の護衛もいるため、撃破するには相応の戦力が必要だ。さらに、後方から増援の人甲兵やアンデッドが押し寄せれば、撃破に失敗する可能性もありえるだろう。
撤退を阻止する、増援を阻止する、アッシュ・ランチャー及び護衛と戦うという3つの作戦を同時に成功させなければ、アッシュ・ランチャーを灼滅する事はできない。この作戦に参加する者達で十分に話し合ってほしい」
灼滅者達を見渡すように映像の相馬は言い、資料をめくり続く説明はスイミングコンドル2世についてだ。
「最初からスイミングコンドル2世にアッシュ・ランチャーを避難させた場合、灼滅者が押し寄せスイミングコンドル2世が制圧されてしまう事を『紗里亜』は予知している。その為、アメリカンコンドルは『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所』で介入する作戦を行おうとしている。もし、何も対策しなければ、アッシュ・ランチャーと決戦中に、アメリカンコンドルとご当地怪人の軍勢によって横槍を入れられて、アッシュ・ランチャーを奪われてしまうだろう。
これを阻止する為には、スイミングコンドル2世への攻撃も同時に行わなければならない」
スイミングコンドル2世の戦いでは、条件さえ整えば、アメリカンコンドルの灼滅の可能性もあり、スイミングコンドル2世のスーパーコンピューターに接続され、予知を行う為の装置として利用されている『椎那・紗里亜』の救出あるいは灼滅も目的の一つになる。
「敵は強力だが、この状況はチャンスでもある。うまくいけば、ノーライフキングを追い詰める事ができるだろう」
説明を終えた相馬は資料を閉じると、再び灼滅者達を見渡すように瞳を動かした。
「健闘を祈る」
静かな、そして真摯な声と姿はそこまでで、映像は砂嵐になり、消えた。
参加者 | |
---|---|
アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199) |
月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470) |
ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952) |
星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158) |
川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950) |
村本・寛子(可憐なる桜の舞姫・d12998) |
小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372) |
合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209) |
●
「今回は救出じゃがいつも以上に骨がおれそうじゃのぅ」
「一筋縄ではいかないな」
見張りを倒し終え、アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)と月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)は言葉を交わす。
アッシュ・ランチャーの艦隊による沖縄侵攻作戦の迎撃に成功し、追撃戦の中でのこの作戦。
川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)が箒で敵艦に乗り込み、登攀用ロープ垂らして仲間の潜入支援をしていたのだが、同じように縄梯子を下していた他チームの仲間と共に見張りに見つかってしまったのだ。
気付いた合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)と小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)が急いで壁を上り加勢すると、ロープを上ってきた仲間達と共に何とか倒したのだ。
星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158)は潮風乱れる髪をおさえ、大親友の事を想う。
このスイミングコンドル2世の格納庫には謎空間にいた筈のソロモンの悪魔――スーパーコンピューターに接続された椎那・紗里亜がいるのだ。
「待っててね、紗里亜ちゃん!」
えりなと共に助けたい一心で参加した村本・寛子(可憐なる桜の舞姫・d12998)にえりなが頷けば、濡れた体に吹く風は冷たい。だが、咲夜の心にちりちりと、熱気が皮膚を焼く感覚が蘇る。
警報音が響いている。どうやら既にアッシュ・ランチャーへの救援防止と救出作戦の為の陽動チームが動き出しているようだ。
「どうやって引きこもっていた彼女を捕獲したのか知らないけれど。彼女の帰りを待つ人達がこうして頑張っている以上、この機会は逃せないね」
合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)は言い、仲間達を見渡した。
格納庫へ向かう3チームの内の1チームは既に潜入しているようだ。まだ追いつくだろう。
「ん、それじゃ行こうよ、引籠りのお姫様を迎えに」
「そうだね、行こうか」
七葉にヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)は言い、2チームはスイミングコンドル2世へと侵入する。
●
艦内に踏み込めば、既に潜入したチームのマーキングがついている。
それを追えば、マーキングをつけた仲間達と合流できたのは、ちょうどジェンツーペンギン怪人を倒した後だった。
聞くと、この怪人は『この先のスーパーコンピューターには行かせない』と口走ったという。だとすればこの先、それを守る為の敵がどれほど待ち構えているか分からない。
「じゃあ、猫変身の三人で先行偵察しようぜ!」
先行偵察を計画していたファルケ達が動物変身し、偵察に動いた。
「……まずいな」
偵察から戻って来た仲間達に朔耶は小さく呟いた。
いるのだ、敵が。戦闘回避は容易ではないだろう。
決断せねば。
「さぁさ、死神様のお通りや!」
「なにするらっしー!?」
小町はスレイヤーカードを解除させ、咲夜も攻撃を開始する。
ここで自分達が足止めとして戦い、残りのチームが偵察して進めば無駄な戦いを避けられる筈だ。
先に行ってくれ、済ませたらすぐに追う。
ヴォルフのハンドサインに他の2チームは応え、駆け抜ける。
「紗里亜様を守るのらっしー! このキタアザラシ怪人がいる限り、一歩も……ま、待つらっしー!!」
「増援を呼ばれる前に一気に倒すよ」
キタアザラシ怪人の声は空しく響き。得物を構えた鏡花も戦闘に加わり、全員で怪人を叩き伏せた。
「敵が待ち構えておると思ったんだがのぅ」
仲間達が残したマークを頼りに進む中、順調に進む事にアリシアは疑問を口にした。
重要なスーパーコンピューターがこの先にあるというのに、敵の数が少ないのだ。
「予知情報がある筈なのに、ここまで殆ど襲撃を受けていないのは不自然だね。情報を隠匿しているか、偽情報を出しているのか……」
「偽情報?」
鏡花と朔耶のやり取りに霊犬・モラルとリキはちょこんと首を傾げる。
「外道コンドルに利用されとる子が助けを求めてるんとちゃう?」
小町の呟きに咲夜は瞳を向けるが、あくまでも予測でしかない。程なく、2チームと合流した灼滅者達が格納庫で見たものは。
「紗里亜ちゃん!」
寛子は声を上げ、えりなと共に駆けだした。
無数のコードが水晶に取り込まれた紗里亜とスーパーコンピューターを繋いでいる。紗里亜はぴくりとも動かない。
「全く、正しい使い方を知らぬようじゃな」
「じゃあ計画通りに」
アリシアがマジカルロッドを構え、ヴォルフと朔耶がスーパーコンピューターへ攻撃を叩きつける。
「紗里亜ちゃん聞こえる? 寛子もえりなちゃんもいるよ!」
寛子は紗里亜を救うべく必死に声をかけていた。いつ敵がやって来るかわからない状態で音源を仕込む余裕などある筈もない。
ばあんという大きな音。スーパーコンピューターは破壊できたようだ。えりなも必死に水晶に取り込まれた紗里亜へ声をかけていたが、果たして聞こえているか。
「紗里亜さんも何時までこんな陰気臭い場所に閉じ籠ってるつもりですか。貴女にはもっと賑やかな場所が、仲間の傍がお似合いだと思いますよ?」
「帰りを待つ人達がこうして頑張っているんだから」
水晶へ攻撃しつつ咲夜と鏡花も声をかける。
3チームで行動すれば、スーパーコンピューター同様に水晶を破壊するのも、そう時間はかからなかった。
小さなひびは大きくなり、広がり、砕け散る。
「紗里亜さん!」
崩れ落ちる姿を追ったえりなは急いで状態を確認する。息はある。生きている。
「お久しぶり……ですね……ふむ……引き籠り生活……は……堪能……なされたので……?」
動かぬ姿に首をかしげつつ、おもむろに近づくのは玉緒の声。
「紗里亜さんも……あなたも……この状況は気に入らない……の……でしょう……? わたし達が……解き放って……差し上げます……」
どうやらわざと挑発の声をかけ、玉緒はダークネスの魂を弱めるべく一撃をかけるようだ。
「……ぶっこんで……いきますよ……」
駆け出し、飛び蹴りを放ち――がづ、んっ!
「私のかわいいスパコンちゃんに、なんてことするの!」
飛び蹴りは突如現れた水晶騎士に阻まれ、甲高い声が重なった。
もう1体の水晶騎士を伴った白衣のダークネスはかつこつとヒールを響かせ、無残な姿となったスーパーコンピューターに駆け寄った。
「ああスパコンちゃん! 今治すから待っていてね!」
あれこれ調べているが、そう簡単には治らないだろう。煙を吐き火花が散る様子に白衣のダークネスはきっと睨みつけた。
大切なスーパーコンピューターだけではなく、紗里亜までも失う訳にはいかないのだ。
「そう簡単に渡すものですか! お前たち、やっておしまい!」
高らかな声と共に振り上げられる斬撃。
「此奴は俺達が引き受ける。その代わり、」
椎那を頼む、と明は水晶騎士をソードで牽制しながら紗里亜を振り返り、
「見ろ、椎那! 君を大事に思う仲間がこれだけ居る!」
向けられるのは熱い声。
「私もそうだ。私にとって最も大切で信頼出来る戦友が椎那……君だ!」
隠された想いを全て、全力でぶつけるかのように明は叫ぶ。普段は見せることのない、真剣で熱い表情。
「また共に戦おう! 戻ってきてくれ!」
「紗里亜さんを、お願いします! どうか、連れ戻してあげてください!」
背を向け戦いに身を投じる明に続く静菜の声にえりなは力強く頷き――突然突き飛ばされる。
「邪魔じゃ、退け」
ぐらりと揺れる体に向き直れば、ダークネスが目前に立っていた。
●
「やはり来たようじゃな」
分厚い本を抱きかかえた大親友。だが、今の彼女はヒトではない。
「紗里亜ちゃん!」
寛子は叫ぶがダークネスは応えず、ぱらりと分厚いを開くだけで。
「モラル!」
「お願い、お父さん」
鏡花の霊犬とえりなのビハインドが盾となりって仲間達を守る中、魔法少女が飛び出した。
「お主の正義とはこんなものかぇ?」
ひらりと魔法少女服が揺れ、狙い定めたミサイルの爆発に黒煙が上がり、踏み込んだ朔耶は構えたナイフで斬り裂いた。
薄まる煙はヴォルフの爪撃に裂かれ、だが、ひらりとダークネスの体は避け、咲夜の鎌が髪を数本、はらりと落ちる。
「これならどうや!」
断罪の刃は小町の手から振り下ろされ、
「すまないね」
捨て駒として盾となる霊犬に声をかけた鏡花は死角に回る。背後をとり、一撃!
「……っ!」
背に血が滲み、そこへ駆ける寛子が飛び込んだ。
「いくよ、札幌時計台キック!」
「小癪な」
ばしんと弾かれ着地すると、えりなは癒しを歌う。
「なかなかやるのう」
頬を伝う血を拭い、髪を払いダークネスは言う。
ダメージを与えはしたが、致命傷には至らない。
「声をかけるのじゃ」
アリシアの声に救出を願う者達は頷いた。
目前に立つダークネスはにい、と笑うと、ぱらりと本をめくった。
「紗里亜さん! 早く戻ってきて私をしかって下さい!」
戦いは続いていた。
「紗里亜ちゃん戻ってきて! 寛子もえりなちゃんも星空芸能館のみんなも紗里亜ちゃんがいないとやっていけないの! 紗里亜ちゃんが必要なの!」
えりなと寛子は声をあげ、思いと共に攻撃を叩きつける。だが、ダークネスは灼滅者達の攻撃を捌き、くく、と笑うだけだ。
浮かび上がる魔法陣が攻撃を弾き、そして襲い掛かる。
「紗里亜さんに一緒に居て貰わないと、私、ダメダメだから! 早く戻ってきて私を支えて!」
「おぬしは『紗里亜』がおらぬと駄目なんじゃな? おぬしを『紗里亜』が支えろと?」
開く本から攻撃を放ち、ダークネスは言う。
アリシアの攻撃を弾くと容赦ない朔耶とヴォルフの攻撃を捌き、咲夜の大鎌を払う。抱えた本で小町の得物を防ぐと鏡花の蹴りを避ける。
そして。
「ならば、わしが叱ってやろうかの。……支えがなければ駄目ならば、ここで死ぬがよい」
「きゃあっ!!」
ディフェンダーとして仲間を守っていたサーヴァント達は既に力尽きている。
誰の守りもなく、えりなの体は吹っ飛んだ。
「くく、無様じゃのう」
見下ろすダークネスはさらに一撃を加えようと歩み寄るが、その足はぴたりと止まる。
「……歌?」
眉をひそめ耳を澄ませば、戦いの音に混ざるのは、確かに歌だった。
「迎えに来たよ紗里亜さん!」
「ちゃんと席はとってある、後は勇気一つだ。さぁ存分に聞けっ、みんなの思いをっ」
ギターの伴奏と共に死ぬほど音痴な歌声が続き。
「見えてるか、伸ばされた手。聞こえるか、呼んでる声。どこまでだって迎えに行くよ。ここがお前の帰る場所!」
叩きつけるように叫ぶそれが何なのかをえりなは知っている。
そして、それに混ざるのは紗里亜への声。
「俺が堕ちてた時に駆けつけてくれたろ。その時の想いを思い出してくれ、それと一緒さ。今度は俺が助ける番ってな」
「椎那がいないと、皆が困る。自分で気付いている以上に、あちこちに迷惑をかけているのだぞ」
「椎那よ、お前と面識のある者もない者も、これだけの人数が迎えに来ているのだ。いつまでも寝てはいられんぞ」
「気持ちはきっと、みんな同じ。だから、どうか。その殻から出てきて頂戴」
それぞれが水晶騎士と戦う中での声である。戦いの音に紛れ、仲間達の全ての声を聞くことは叶わない。だが、救いたいというその思いは耳に聞こえずとも心に、魂に聞こえてくる。
これがダークネスの内に眠る魂に届かぬ訳がない。
えりなは誰の支えもなく立ち上がり、想いを全て歌声に載せ戦う。
いつでも私を引っ張ってくれる彼女が居なければ、今のえりなは居ないのだ。
絶対に、絶対に助ける――。
「耳に触るのう」
アリシアに続く朔耶のダイダロスベルトが閃き、朔耶の爪撃がざくりと肩口を斬り裂いた。避ける事が出来ず、流れる血が服を紅に染めていく。
あと少し、あと少しだ。
戦いながら咲夜の内に蘇るのは、あの光景。
あの時、紗里亜が闇堕ちせねば、自分がその選択をしていてもおかしくなかったのだ。あの時、守られたからこそ今自分はここにいる。
「やっと借りの返せる機会に恵まれたんだ。目を覚ましてくれ、紗里亜さん!」
「仲間が待っとるんやで!」
咲夜の連撃は真正面を捉え、だんと飛び閃く小町の紅の三日月。避け損ねたダークネスは血を流し、よろめいた。
そこへ追い打ちをかけるようにエアーシューズが煌めきを放ち。
「君の帰りを待つ人達がこうして頑張っている以上、この機会は逃さないよ」
ず、ん!
鏡花の一撃は魔法陣の守りを抜け、胴を撃つ。
灼滅者達の攻撃を受け、追い込まれた紗里亜はおかしそうに笑った。
「……潮時、かの。んん、やっぱり痛いのは嫌じゃなあ」
言いながら紗里亜は一歩下がる。まずい。逃げるつもりだ。
「あかん!」
「ヴォルフ!」
小町と相棒の声にこくりと頷き床を蹴り、ヴォルフは追う。だが、それに気付いたのは一人ではなかった。
「わりぃが、逃がすつもりは無いぜ」
直感で悟った流希が、紗里亜の行く手を阻むように死角に素早く回り込んだのだ。
振り抜かれた刃が、紗里亜を袈裟懸けに切り裂いた。重く、押し付けるような一撃に逃走の足を止めた紗里亜を、流希は抱き締めた。
「ここで、きっちり助けるからよ。覚悟しな!」
「え……ええい、離せ!」
腹立たしげな紗里亜の声。その直後、至近距離で紗里亜の攻撃を受けた流希は、その場に崩れ落ちた。
崩れ落ち、だが、それでも離そうとしない。
「これで終わりだよ」
ガラス片を繋ぎ合わせたような鏡花のウロボロスブレイドは紗里亜の体に巻き付き、
「悪魔には死の眠りを、そして彼女に目覚めを」
予知を、バベルの鎖を縫うようにバベルブレイカーを突き刺した咲夜のバベルインパクトはダークネスを貫いた。
●
血を流し、崩れ落ちる紗里亜へ寛子は駆けよった。
「お願いだから戻ってきて紗里亜ちゃん!」
「紗里亜さん! 紗里亜さん!」
寛子とえりなの必死の声が倉庫に響く中、ダークネスの命のともしびは冷たい床で、消える。
仲間達の声が内に眠る紗里亜へ届いていれば、その姿はとどまるだろう。
届いていなければ――。
「覚えてらっしゃい!」
甲高い声が響く。咲夜と鏡花が見れば、2体の水晶騎士を倒された女医は捨て台詞と共に倉庫から逃げ出していた。
そして、向けていた瞳を戻せば、仲間達の努力の結果が、そこにあった。
「さぁさ、死神様のお通りや! ここから一気に脱出するで!」
目的を達成した以上、この場所にとどまる理由はない。ぶんと大鎌を振り小町は声を上げた。
「帰ろうか」
ヴォルフに朔耶とアリシアが頷けば、水晶騎士を倒した仲間達も撤退に動きだす。
えりなは大親友の手を握りしめた。
警報音が響くスイミングコンドル2世の艦内を、灼滅者達は駆けていく。
潜入時と違いその数は一人、多い。
それは、灼滅者達の努力の結果であった。
作者:カンナミユ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2017年5月18日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|