決戦アッシュ・ランチャー~反撃の夜明け

    作者:泰月

    ●なお、この通達は自動的に消滅――しない
    『この映像を見ていると言う事は、上陸部隊の撃退は成功したのね。お疲れ様』
     灼滅者達の前に置かれたモニターの中には、夏月・柊子(大学生エクスブレイン・dn0090)が語る姿が映し出されている。
     中継ではない。『最新の予知情報を元にした依頼説明ディスク』が再生中なのだ。
    『これで、アッシュ・ランチャーを灼滅するチャンスを得る事ができたわ」
     とは言え、今回撃退した揚陸部隊は、およそ9万人。
     敵軍は未だ強大である。
    『アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇は擬似的に迷宮化されているから、本人を灼滅しない限り破壊する事は出来ないわ』
     その内部にはノーライフキングをはじめとした強力な戦力が揃っている筈である。
    『更に、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』が、艦隊に合流したみたい。更に『スイミングコンドル2世』には、闇堕ち後、行方不明だった椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)さんが囚われていることも予知されたわ』
     闇堕ちした彼女は、エクスブレインとは違う予知能力を獲得しており、その能力がノーライフキングにより、スイミングコンドル2世のコンピューターに繋がれるという形で悪用されているようだ。
     援軍も加わり、攻略は非常に難しくなっている。だが、アッシュ・ランチャーは是が非でも、ここで倒すべき敵だし、闇堕ちした仲間に届く機会でもある。
     手を拱いている時ではない。

    『現在、アッシュ・ランチャー艦隊は撤退に向けた再編成中の筈よ』
     とは言え、100万人規模の大艦隊が簡単に動き出せる筈もない。
     今すぐ追撃すれば、再編が終わる前に襲撃するチャンスとなる。
    『こちらから攻撃をしなければ、これ以上戦闘する事無く撤退して行くけれど。ここで見逃す手はないわよね』
     アッシュ・ランチャーはノーライフキングの首魁『統合元老院クリスタル・ミラビリス』の一員である。
     灼滅する事が出来れば、ノーライフキングの本拠地の情報を得られるかもしれない。
    『艦隊までは、近くの港にボートを手配して貰ってあるわ』
     操縦マニュアルも付いてて安心。
     とは言え、敵艦に迅速に近づく為の移動手段以上にはならず、最終的には、強行突破となるだろう。砲撃を受ければ、灼滅者は無事でもボートは持たないのだから。
     いっそ、敢えて撃たせて撃沈された振りをして潜入すると言うのも手だ。
    『ここからは、敵艦潜入後の話になるわ』
     アッシュは『撤退可能となった艦艇』に移乗して、戦域からの撤退を画策している。
    『妨害する為には、『撤退可能となった艦艇』を減らせば良いの』
     艦隊の外側、撤退準備が整っている艦艇を優先して制圧していく必要がある。
    『それぞれの艦艇には人甲兵とアンデッド兵と多くの一般兵が乗船している筈よ』
     つまり人甲兵とアンデッドを探して殲滅後、ESPを使って一般兵に言う事を聞かせ、他の艦艇の退避を邪魔するようにさせれば良い。
    『撤退が不可能となれば、アッシュは配下を集めて守りを固める筈』
     アンデッド1000体弱に、人甲兵が300体程度が集結するとの予知が出ている。この戦力がアッシュの増援となる事は防がねばならない。
     ここまで状況を整えて、ようやくアッシュと直接戦闘が可能になる。
    『アッシュ・ランチャー自身、首魁の1人だけあって非常に強力よ。更に親衛隊ともいえる強力な人甲兵の護衛もいるわ』
     撤退阻止。
     増援阻止。
     アッシュ・ランチャー及び護衛の撃破。
     この3本の矢を揃える事が、アッシュ・ランチャーを灼滅する為に必要となる。
    『それとスイミングコンドル2世についてだけど』
     最初から、スイミングコンドル2世にアッシュ・ランチャーを避難させた場合、灼滅者がスイミングコンドル号に押し寄せる為、スイミングコンドル2世が制圧されてしまうという『紗里亜』の予知が出ているらしい。
    『だからメリカンコンドルは『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所』を狙って介入するつもりよ』
     何も対策しなければ、アッシュ・ランチャーと決戦中に、アメリカンコンドルとご当地怪人の軍勢に横槍を入れられて、アッシュ・ランチャーを奪われてしまうだろう。
     つまり、スイミングコンドル2世への攻撃も必要になる。
     条件さえ整えば、アメリカンコンドルを灼滅出来る可能性もある。
     そして、スイミングコンドル2世のスーパーコンピューターに接続されている『椎那・紗里亜』も、この機会に何とかしておきたい。
     救出が叶わぬ時は、最悪、灼滅せざるを得ないだろう。戦略的な面でも、敵が予知能力を得るのは避けるべきであるのだから。
    『難しい状況だけど、上手く出来れば一気にノーライフキングを追い詰める事も出来る筈よ。皆で無事に帰ってくるのを、待ってるわね』
     説明の終わった映像が、プツンと消える。
     真っ黒になったモニターには、灼滅者達の難しい表情が薄く映り込んでいた。


    参加者
    刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)
    神山・楼炎(蒼き銀の堕人・d03456)
    桃野・実(すとくさん・d03786)
    森沢・心太(二代目天魁星・d10363)
    水無瀬・旭(両儀鍛鉄の玉鋼・d12324)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)
    土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)
    マギー・モルト(つめたい欠片・d36344)

    ■リプレイ


     ご当地戦艦・スイミングコンドル2世。
     ご当地幹部『アメリカンコンドル』の旗艦であるそれは、アッシュ・ランチャーの大艦隊から少し離れた所で何かを待つように浮かんでいた。
     今、その周りには数隻の小船が取り付いている。
     アッシュ・ランチャーの救出を阻止する為に潜入を試みる、灼滅者達だ。
     そして左舷後方を見れば、鋼色の外壁を森沢・心太(二代目天魁星・d10363)が歩いて登っていた。
    「……動力炉とか、どこにあるのかしら?」
     鈍色の巨大な外壁を見上げて、マギー・モルト(つめたい欠片・d36344)が少し困惑したように呟く。
    「最近の原子力空母だと、船体下部の中央にリアクターがあるらしいけど……この船も同じかどうかは、わからないね」
     崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)も、同じものを見上げて肩を竦める。
     こうして外から見て判るのは、スクリューか何かの推進装置が船体後方にあるであろうと言う事くらいか。
    「ま、外から掛かるより中からの方が混乱を起こせるだろう」
     刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)がそう言ったところに、『ニャ』と言う短い鳴き声と縄梯子が降ってきた。
    「おかえり、ネコ」
     心太の護衛につかせていた、マギーのウイングキャットだ。
     見上げれば、飛行甲板の一段下、艦体外部通路の上で心太が手を振っていた。手すりにかけられた縄梯子を、1人ずつ登っていく灼滅者達。
     幸い、途中で敵の襲撃にあうことはなく、全員が縄梯子を上りきる事に成功する。
    「それじゃクリーニングだ」
     濡れた跡や匂いで追われぬようにと、桃野・実(すとくさん・d03786)が、仲間の服を軽く叩いて回る。
     天候や風、潮流を上手く使ってここまで船を沈められずに辿り着けたとは言え、外洋を小船で渡ってきたのだ。全員、衣類は少なからず濡れていた。
    「……やはりダメですね。他のグループとは、通信出来ません」
     その間に通信を試みた土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)が、頭を振る。
     魔術的な通信妨害とやらが、まだ効いているのだろうか。
    「最初の問題は何とかなったんだ。後はなるようになれ、他の作戦を遂行している仲間を信じるしかないな」
     神山・楼炎(蒼き銀の堕人・d03456)が、落ち着いた声音で告げる。
    「気配はしない。業の匂いも……ない。開けるぞ」
     水無瀬・旭(両儀鍛鉄の玉鋼・d12324)が警戒しつつ、艦内に続く扉を開く。
     8人の姿は、スイミングコンドル2世の中へ消えていった。


    「敵なし。窓アリ、と」
     調べ終えた部屋の情報を、ノートに書き込む旭。
    「……ないですね。船内図」
    「アメリカンコンドルの顔写真は、無駄にあるわね」
    「でも実際、軍艦って現役艦長の写真が飾られてるらしいよ?」
    「$マーク入り星条旗も、無駄にあちこちで見かけましたけどね……」
     固い金属の床が続く通路に、筆一とマギーと來鯉と心太の小声が漏れる。
     潜入して数分。

     灼滅者達は軽く迷っていた。

     不可抗力だ。
     内部情報もなく忍び込んだ初めての空母級の軍艦である。
     まして、迷わず動力部などに辿り着こうと言う方が無理な話だ。
     とは言え、このままでは困るのも事実。
    「ふー、食った食った。やっぱモーニングはハンバーガーに限るな!」
     その時、通路の向こうからそんな声が聞こえてきた。
    「いや、モーニングこそポテトとTボーンステーキだって!」
    「クリームとジャムとシロップたっぷりのパンケーキ5枚が最強だろ!」
     聞いてるだけで、胸焼けしそうな会話が聞こえてくる。
     何と言うか、アメリカっぽい!
    「「「そしてドリンクは勿論――コーラ!」」」
     最終的に意見の一致を見てギャハハと品のない笑い声を上げて現れたのは、頭部が星条旗柄になって所々に星の飾りを纏ったジーンズ姿の3人組だった。
    「What's!?」
    「ヤンキー戦闘員か」
     突然の遭遇に驚く敵に対し、実は慌てずに『侵堕羅』を掲げる。
     内蔵の祭壇から展開した結界が、3人組を弾き飛ばした。
    「ヘイヘイ! 何者かシラネーが、俺らをヤンキー戦闘員とトゥギャザーして貰っちゃ……困るZE!」
    「俺たちゃヤンキィィィ怪人!」
    「アメリカンなジャスティスなソウルで、フリーダムに解き放たれたのサ!」
     カカンッと踵を鳴らして回転し、無駄にポーズを決めるヤンキー怪人達。
     なんだろう。
     難しい単語は何一つ入っていないのに、この良く判らない感。
     まあ、敵だ。それは間違いない。
    (「自由と正義の国、か……。玉鋼が聞いたら喜んで問答を始めそうだなぁ……なんて感傷に浸ってるわけにもいかないか」)
     胸中で苦笑を浮かべて、旭は双刃の馬上槍を構え直す。
    「俺は、貴方達の命を奪う『悪』となる」
     宣言し、床を蹴る。一気に間合いを詰めて振るった刃が、ジーンズに包まれた足を薙ぎ払った。
     命を奪う。暴力を以て解決する。故に、旭は敵にとっての悪となる。
     闇堕ちを経ても、それでも考えは変えられない。
    「戦闘員でないのなら、全力で戦うまでです!」
     足を切られて中に浮いたヤンキー怪人の体を、雷気を纏った心太の拳が打ち上げた。
    「この身に宿りし力は折れぬ牙」
     悪魔の羽を見立てた銀の刃を手に、楼炎は自己暗示をかける。
    「――失せろ」
     天井に叩きつけられ落ちてきた怪人を、暗示で力を引き出した楼炎の獣化した腕に閃く銀の爪が、無慈悲に引き裂いた。
    「SHIT!」
    「お前らこそ、ご当地ヒーローを舐めるなぁぁぁっ!」
     別の怪人が床を蹴るのと同時に、戦艦を模した甲冑姿の來鯉も床を蹴って飛び出す。
     ギィィィィンッ!
     先祖伝来の刃に叩き落された金属バットが、硬い音を立てた。驚くヤンキー怪人に、來鯉の霊犬・ミッキーの刃が突き立てられた。

     ヒュンッ。
     小さな音を立てて、渡里の鋼の糸が怪人に絡みつき切り裂いていく。
    「マ、待テ! Wait!」
    「みんなでいっぱい考えてここまできたの。できない相談よ」
     ジーンズもズタボロになった怪人の慌てた声を無視して、マギーが床を蹴る。
    「オーマイゴ……ド」
     寄生体の蒼に包まれた一撃をまともに受け、壁に叩きつけられた怪人はそのままズルズルと崩れ落ちて――爆散した。
    「そうか。爆散する連中だったな。今の音がどこまで聞こえたか……やはり、音を断っておくべきだったか?」
    「難しいですね。地の利が向こうにある閉鎖空間で、多数のダークネスに囲まれたくはないですし」
     敵の散り様を見て、少し難しい顔で呟いた渡里の言葉に頷く筆一。
     このチームの目的は、撹乱と陽動だ。
     潜入して暴れれば良いのであり、隠密性は重要ではない。とは言え、退路を失っても元も子もないが。
    「ところでさ。さっきあいつら、ハンバーガーとかステーキとか言ってたよな。ってことは、この近くに食堂か厨房がありそうじゃないか?」
    「ふむ。あり得るな。だが、重要施設か……?」
    「なに。ちょっと軽いテロをしてみようかと」
     楼炎に答えた実の手の指と指の間には、水でも溶ける顆粒タイプの本ダシのスティックパックがずらり。
    「日本の出汁の味で何かに目覚めるか、天啓うけろー!」
     そして見つけた食堂で。
     ウォーターサーバーのタンクに、実がイイ笑顔で出汁を投入していくのだった。


    「サム! トム! ジミー! エネミーがいたぞ!」
    「ナイスだ、ジョン!」
     複数のヤンキー怪人の声と足音が、そこかしこから聞こえてくる。
     スイミングコンドル2世の中を進むにつれて、遭遇するヤンキー怪人の数が多くなってきていた。
     出汁テロに怒った――かどうかは定かではない。
    「ちょっと敵さんの数が多い。一旦戻ってやり過ごした方が良さそうだ」
     渡里の言葉に頷いて、通路を戻る灼滅者達。
    「使うわね」
     角を曲がった所で、マギーが反対方向に発煙筒を転がし、灼滅者達はすぐ近くの少し広い部屋に飛び込む。
    「ゲホッ……なんだこの煙は!」
    「向こうから来るゼ!」
    「手分けしてサーチアンドデストロイだ!」
     足音が散っていくと同時に、灼滅者達が隠れた部屋の扉も開かれた。
     1人で入ってきたヤンキー怪人は、部屋の中を見回し――壁に立って笑顔を浮かべていた心太と目が合った。
    「……ジャパニーズニンジャ!?」
     驚くヤンキー怪人に鬼の拳が叩き込まれる。
    「クロ助、今だ」
     実の靴底が刎ねる勢いで跳ねて蹴り飛ばし、霊犬・クロ助の刃が突き刺さる。
     さらに刀が、槍が、鋼の糸が、意思持つ帯が次々と襲い掛かる。
    「こっ……の、スタースイン――」
    「影よすべてを喰らい尽くせ!」
     バットを握り直したヤンキー怪人が、蒼狼の加護を持つ楼炎の影に飲み込まれる。
     影が戻ると、そこには何も残ってなかった。
    「ふう……何とか、怪我なくやり過ごせましたね」
     誰も新たな傷を負っていないことを確認し、筆一が安堵する。とは言え、癒しきれない疲労が溜まって来てはいた。
    「今の内に地図を書き込ん……どうした?」
     ノートを開いた渡里が、何か考え込んでいる様子の旭に声をかける。
    「ああ……今の怪人も、その前も。ずっと業の匂いがしなくてな。そうなると、誰も殺してないって事になる」
    「本当にないのかも。ご当地怪人って、一般人を敢えて殺さないのもいるから」
     旭の疑問に答えたのは、來鯉だった。
     デモノイドヒューマンが嗅ぎ取る業の匂いは、残虐な殺害で強く、濃くなっていく。だが、ダークネスが全て業を持っているわけではない。
     その時だった。
    「音がしたのはどっちデス?」
    「は、はい。こっちです!」
     聞こえてきたヤンキー怪人の声と足音の中に、新しい、しかし聞き覚えのある声が混ざっている。
     巨大な猛禽の爪と嘴。
     赤と青と白が入り混じる胸の真ん中に輝く、黄金の$マーク。
     背中に広がるは、鈍色の戦闘機の金属翼。
    「まだアッシュ・ランチャーを乗せてナイのにミーのバトルシップに乗り込んで来やがって! つくづくムカつくジャパニーズです、武蔵坂のスレイヤー!」
     苛立ちを隠さずに姿を現したのは、アメリカンコンドルであった。


    「これ以上、ミーのバトルシップで好き勝手させマセン! ノーマネーの絶望に崩れるがイイ!」
     アメリカンコンドルの全身から漆黒の光が放たれる。
     漆黒の光は筆一を、隙をうかがっていたマギーとネコも、主を庇った來鯉の霊犬・ミッキーと、仲間を庇った心太も纏めて撃ち抜く。
    「負けるわけにはいかないの……よね」
    「っ……こんな、絶望なんて! 僕が、支えてみせます!」
     マギーが途切れかけた意識を気力で繋ぎ、湧き起こる全財産を失ったような絶望感を押し込めて、筆一は矢を標識に持ち替え、黄色い輝きを戦場に満たしていく。
     だが、絶望感は打ち消せても、ダメージが癒しきれない。
    「サフィア、心太を癒せ」
    「これがアメリカンコンドル……厳しいですね」
    「ユーたちに更なる絶望を教えてあげマショウ! このスイミングコンドル2世には、ミーが集めたニューご当地幹部が乗っていマース!」
     渡里の霊犬・サフィアからの癒しの視線を受けながら心太が零した呟きを聞きつけ、アメリカンコンドルは勝ち誇った顔で告げてくる。
    「今頃は、各幹部達もそれぞれ迎撃に向かっているデショウ! ユーたちにヘルプが来る可能性は、テンサウザウンドにワンもナッシングとシッテ、フィアーするがイイ!」
     そのアメリカンコンドルの言葉に、しかし灼滅者達は笑みを浮かべた。
     アメリカンコンドルをはじめ、この戦艦を出たご当地幹部はいないと言う事は、アッシュ・ランチャーへの救援が出ていないと言う事。
     そして幹部が迎撃に動いているなら、スーパーコンピューターの元に向かったチームの助けにもなっている筈である。
     陽動の役目は充分に果たせた。
     ここからやるべき事は――全員で、生きて脱出する事だ。
     まともに戦う必要はない。
    「潮時だな。殿は俺が」
    「先導は私だな」
     渡里から楼炎の手に渡った手書きの地図に、光点が現れる。
     地図はスミングコンドル2世の半分も描けていない。だが、来た道を戻るだけなら、これと現在地がわかる光で充分だ。
    「そうイージーにテイルを巻いてランナウェイさせる筈ないデショウ!」
     戦闘機の翼を広げ、アメリカンコンドルが追ってくる。
    「逃げさせて貰うさ。出し惜しみはしない!」
    「ご当地ヒーローとして色々言いたい事はあるけど……本格的な戦いは、また今度だ。今は、全力で邪魔させて貰うよ」
     戦闘機の翼と、旭の馬上槍と來鯉の軍刀がぶつかって火花を散らす。
    「わたしのはこれで最後」
     2人とアメリカンコンドルが弾かれた所に、マギーが発煙筒を転がす。
    「ミーのミジンガクレの術に比べれば、この程度のスモークなど!」
     すぐに煙の中から飛び出すアメリカンコンドルだが、灼滅者達はその僅かで、ある程度の距離を稼いでいた。
    「フリーズ! 動くなデース!」
     追いかけるアメリカンコンドルが星から光線を放つ。
    「耐え切れるか……っ!」
     気配を感じて渡里が背中に集めた鱗状の光の盾を、光はあっさりと撃ち抜いた。
    「もう少し、です!」
     それでも気力で耐えて走る渡里に、筆一も走りながら意思持つ帯を巻きつける。距離を詰めさせないよう、懸命に急ぐ灼滅者達。
    「この部屋で良いんだな?」
    「ああ、その筈だ」
     振り向かずに楼炎が発した問いに、後ろを走る旭が頷く。
     灼滅者達が脱出口に選んだのは、初期に探索したある部屋だった。
    「やっと追い詰めマシタ!!」
    「いや、退かせてもらう。これ以上は、こっちも闇堕ち覚悟だ。それでも勝てないかもしれないけど――スイミングコンドル3世の作成は考えといて貰う事になる」
     ガッシャァァァァァンッ!
     実がそう告げた直後、部屋にあった窓を全力で蹴り破っていた。
    「ナッ!?」
     驚くアメリカンコンドルを尻目に、來鯉が窓だった穴から海へと飛び込んでいく。
     続けて筆一が、破れた窓から海に飛び込んだ。
     水中で呼吸できる2人が先行すると、残る6人も次々と海に飛び込んでいく。
     先ずは潮の流れに逆らわず、スイミングコンドル2世から少しでも速く距離を取る。陸地に向けて戻るのは、その後でいい。
     8人はスイミングコンドル2世に潜入し、陽動の任を果たし、アメリカンコンドルと遭遇しながら見事生還したのである。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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