決戦アッシュ・ランチャー~蒼き海へ

    作者:森下映

    「みんな、沖縄での作戦お疲れさま! 無事に撃退できて本当に良かった!」
     作戦終了直後の沖縄にて。最新の予知情報を元にした依頼説明ディスクを再生すると、須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)は真っ先に皆への労いの言葉を述べた。
    「みんなの勝利によって、アッシュ・ランチャーを灼滅するチャンスができたよ!」
     統合元老院クリスタル・ミラビリスの元老であるアッシュ・ランチャーを灼滅することができれば、謎に包まれたノーライフキングの本拠地への侵攻も可能となるかもしれない。
     しかし、敵軍の戦力は未だ強大であり、生半可な覚悟で反攻作戦を行う事はできない。
    「それに、ノーライフキングと協力体制にあるご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』が、艦隊に合流したみたいなんだ」
     またアッシュ・ランチャーが座乗する艦艇は擬似的に迷宮化され、アッシュ・ランチャーを灼滅しない限り破壊することはできない上、内部にはノーライフキングをはじめとした強力な戦力がいる。
    「こちらの攻略は非常に難しいだろうね。でもここでアッシュ・ランチャーを取り逃がせば、今回のような事件を再び起こすかもしれない。だからなんとかここでアッシュ・ランチャーを灼滅しておくべきだと思う。それから、」
     まりんの説明によれば、スイミングコンドル2世には闇堕ち後行方不明になっていた、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)が囚われていることも予知されているとのこと。
    「彼女は闇堕ち時に特殊な力を得たみたいで、エクスブレインとは違う予知能力を獲得しているんだけど、その能力がノーライフキングにより悪用されてる」
     未来予知能力を敵が得ることは大変な脅威。
    「可能なら、彼女の救出か……場合によっては灼滅も視野にいれてほしい」

     アッシュ・ランチャー艦隊は、艦隊を再編し、ゆっくり撤退へ動き出している。
     しかしこれだけの大規模な艦隊が簡単に動きだせる筈もなく、今すぐ追撃すれば艦隊に大規模な襲撃をかけることが可能だ。
    「こちらから攻撃をしなければ戦闘なしで相手は撤退していくよ。でもさっき言った通り、また軍事行動を起こされる前にここで灼滅しておきたいよね」
     敵艦隊までの移動手段は、漁船やボートなども用意しているが、最終的には灼滅者の肉体による強行突破となるだろう。
    「戦艦の砲撃でみんながダメージを受けることはないけど、漁船やボートは耐えられないだろうから」
     漁船やボートの操縦方法のマニュアルは用意しているので、可能な限り漁船やボートで接近、撃沈された後は灼滅者のみで敵艦に潜入、内部の制圧を行うという流れになる。
     最初から泳いで近づくこともできるが、漁船やボートが利用できればより迅速に敵艦に接近できるはずだ。

     アッシュ・ランチャーは『撤退可能となった艦艇』に移乗して、戦域からの撤退を画策している。
    「この撤退を阻止するためには、みんなは艦隊の外側、つまり撤退準備が整っている艦艇を優先して制圧していく必要があるよ」
     艦艇には人甲兵やアンデッド兵だけでなく多くの一般兵が乗船しているので、人甲兵とアンデッドを殲滅した後、ESPなどを利用して一般兵にいうことを聞かせ、他の艦艇の退避を邪魔するように移動させれば、アッシュ・ランチャーの撤退を防ぐことができる。
     そして撤退が不可能とみると、アッシュ・ランチャーは艦隊の人甲兵やアンデッドを呼び集め、自分を守らせようとする。
    「アンデッドや人甲兵は救命ボートのようなもので移動したり、海中を泳いだり歩いたりして集結してくるみたい」
     集結する戦力はアンデッド1000体弱に人甲兵が300体程度だが、この戦力が集まってしまえば、打ち破るのは難しくなるのは想像に難くない。
    「だからアッシュ・ランチャー撃破の為には、この増援を阻止することが重要だね」
     ここまで作戦が進めば、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇に乗り込み、アッシュ・ランチャーに決戦を挑むことができる。
    「ーライフキングの首魁の一員であるアッシュ・ランチャーには、親衛隊ともいえる強力な人甲兵の護衛がついてるよ。撃破するには相応の戦力が必要だと思う」
     さらに後方から増援の人甲兵やアンデッドが押し寄せれば、撃破に失敗する可能性もある。
    「つまりアッシュ・ランチャーを灼滅するには、『撤退を阻止する』『増援を阻止する』『アッシュ・ランチャー及び護衛と戦う』という3つの作戦を同時に成功させなければならないんだ」

     アッシュ・ランチャーが直接スイミングコンドル2世に避難しない理由は、『最初からスイミングコンドル2世にアッシュ・ランチャーを避難させると灼滅者達がスイミングコンドル号に押し寄せ、スイミングコンドル2世が制圧されてしまう』という紗里亜の予知があったこと。そこでアメリカンコンドルは、『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所』で介入しようとしている。
    「もし対策なしで挑めば、アッシュ・ランチャーとの決戦中にアメリカンコンドルとご当地怪人の軍勢が横槍をいれてきて、アッシュ・ランチャーを奪われてしまうだろうね」
     これを阻止するには、スイミングコンドル2世への攻撃を同時に行わなければならない。
    「スイミングコンドル2世の戦いでは、条件さえ整えば、アメリカンコンドルの灼滅の可能性もあるよ」
     また、スイミングコンドル2世のスーパーコンピューターに接続され、予知を行う為の装置として利用されている『椎那・紗里亜』の救出あるいは灼滅も目的の1つになるだろう。

    「敵は強力だし、決めなきゃいけないことも多い。でもみんななら成功させてくれるって信じてるよ! よろしくね!」


    参加者
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753)
    神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)
    伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)
    羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908)
    不動峰・明(大一大万大吉・d11607)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)

    ■リプレイ


    (「やっと見つけた、やっと届いた」)
     先に乗り込んだ伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)と西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753)がおろしたロープを、力強く握る度にポニーテールの先から水が散る。羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908)。
    (「紗里亜さんの元へ絶対に辿り着く」)
     紗里亜が部品扱いされている事もいたたまれない。
    (「ご当地怪人が紗里亜さんを囚えていたのは、ある意味好都合ともいえるわよね」)
     おかげで救出のチャンスが巡ってきたのだから。神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)もツインテールから水滴を滴らせ、一歩一歩縄梯子を登る。
     神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)も『ようやく』発見されたという気持ちを噛みしめつつ登っていた。と同時、大きな戦争の只中に囚われた状態での発見ではなかった事に安堵もしている。
    (「最近の戦況ではなかなか、助けられる状況にはならないからな」)
    「これなら侵入も楽だね」
     ショートカットの髪を軽くふって水気を切り、富士川・見桜(響き渡る声・d31550)が言った。救援阻止と陽動を目的としたチームが既に派手な戦いを繰り広げている。
    「この機を無駄にはできんな」
     不動峰・明(大一大万大吉・d11607)は濡れて落ちかけた前髪をかきあげ、事前に頭にいれてきた一般的な空母の見取り図から内部への入り口を探す。見た所、同じく紗里亜の救出を目的とする他のチームはまだ上がってきていないようだ。
    「よし、行くぜ!」
     柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)は灰虎柄の猫に変身。艦内への侵入を目指した。


    (「こっちは行き止まりね」)
     後続の班のために明日等が壁に印をつけた。帰り道用には明日等と結衣菜がアリアドネの糸を使用。できる限り静かに、敵に見つからないように進んでいた。だが、
    「そこにいるのはわかってるペン!」
     しばらく行った所で、通路の奥から声が聞こえた。
    (「……ペン?」)
     結衣菜は語尾に引っかかりを感じつつも、とりあえず皆と息をひそめる。しかしペタペタという足音が近づいてくる。
    (「ここは速攻でやっつけて先へ進もう」)
     見桜が言い、ライドキャリバーのガゼル、ウイングキャットのリンフォースも含めた全員で敵の前へ。真っ先に飛び出し、攻撃にも防御にも対応できる拳法風の構えをとった蓮太郎が、敵の正体に片眉を上げた。
    「ペンギンか……?」
    「ふむ……なんだか……もふもふ……ですね……」
     玉緒が人差し指を顎にあてて首を傾けると、ふうわりリボンで結わえた長い髪と一緒に、Kカップの胸が胸あきタートルの穴からこぼれそうにたゆんっと揺れた。ペ……敵は目をつりあげ、
    「ペンギンとかもふもふとか失礼だペン!」
     ばたばた両の翼を動かす。
    「ペンギンだよな?」
     猫変身を解いた高明が指差してたずねる。
    「ペンギンだな」
     摩耶がこくり。
    「違うペン! ジェンツーペンギン怪人様なのだペン!」
     そういえば頭に白い模様がある。
    「この先のスーパーコンピューターには行かせないペン!」
    「という事はこの先にスーパーコンピューターがある、と」
     明が言う。ジェンツーペンギン怪人の額につーと汗が伝った。
    「そ、そんな事はいってないペン!」
    「言ったわよね?」
    「言った言った。確かにきいたわ」
     明日等と結衣菜は頷き合うと、じっと横目に怪人を見る。
    「う、うるさいペン! やっつけてやるペン!」
     ペンギンダッシュで怪人が突っこんできた。見桜は身体を開いてそれを躱すと、片手に作りだした光輪を、勢いあまってとととととっとなっているペンギンへ向かわせる。
    「ここで立ち止まってはいられないんだ」
     光輪が怪人の毛皮を斬り散らし、見桜の首元、チョーカーの小さな銀のハートがちらりと揺れた。紗里亜のことはよく知らない。だが仲間達の助けたいという気持ちはよくわかる。
    (「だからその声を、その心を届けに行くために、全身全霊で戦う!」)
    「痛いんだペン! ……ぴぎゃ」
     振り向き様をガゼルに轢かれ、うつぶせに倒れたペンギンの背中に今度はタイヤの跡がつく。何とか起き上がった怪人だったが、視界にはTバックと星の煌き。玉緒の蹴りが炸裂し、背後からは高明に飛び蹴りを喰らった。とはいえペンギンとはいえ怪人、やられてばかりではない。
    「ペンギンビンタをくらえなのだペン!」
     容赦なく往復で振るわれる翼に明が体を張る。その後ろからすかさず蓮太郎が飛び出し、怪人のもふもふの顎へアッパーカット!
    「ペーン!」
     天井までペンギンが吹っ飛んだ。
    「大丈夫か?」
     摩耶が弓をひく。
    「なかなか強烈だった……」
     矢の癒しの力で、じんじんしていた明の頬の痛みと腫れは引いていった。
     怪人はビンタとビームで果敢に攻めるが終始劣勢は変わらず。リンフォースの肉球パンチがぷにっと炸裂、
    「もう怒ったわペン!」
    「許さないわよペン!」
     ペンギンビームのせいで語尾のおかしい明日等と結衣菜が、氷弾をダブルで落とすと、怪人は床に縫い止められた形で倒れた。
    「く……ペンが倒れても第2第3のジェンツーペンギン怪人が……」
     言い終わる前に爆発が起こり、怪人は消滅。ちょうどその時追いついてきた他チームのメンバーに、状況を簡単に説明する。
     怪人の言動からこの先に紗里亜がいる事は確かだが敵も現れる可能性が高い。そこでファルケ・リフライヤが、
    「じゃあ、猫変身の3人で先行偵察しようぜ!」
     と提案。高明達猫3匹を先頭に進むことになった。そして、
    「今度は……?」
    「アザラシだね……」
     蓮太郎と見桜が言う。と、ヴォルフ・ヴァルトから『先に行け』というハンドサイン。ヴォルフのチームに任せて全力でアザラシ怪人の横を抜け、先を急いだ。
    「敵が待ち伏せてはいるけど……これは……」
     走りながら結衣菜が言う。
    「ああ。侵入を阻止するにしては手薄すぎる」
     明が言った。
    「しかもまるで道案内してくれてるみたいに現れるし」
     明日等が言うと、玉緒は少し考え、
    「ふむぅ……もしかして……紗里亜さんが……?」
     摩耶は首を振り、
    「わからない。だが……」
     もしかしたら。もしかしたら、呼んでいるのかもしれない。そんな思いを胸にさらに奥へ。敵の数は3チームで十分に相手ができる数にとどまった。そして、
    「見つけたぜ……囚われのお姫様」
     灼滅者の姿に戻った高明が言った。紗里亜はそこにいた。だが返答はない。なぜなら、
    「ひどい……本当にひどい事するわねあのコンドル……!」
     結衣菜が駆け出す。水晶に取り込まれた様な状態の紗里亜が、スーパーコンピューターに接続されていた。


    「っ、探したぞ。こんなところで何をしている」
     摩耶が剣を叩きつけ、
    「こんな所に引き籠っていないでさっさと帰るわよ!」
     明日等は槍を突き刺した。他チームも合流、全員でスーパーコンピューターと水晶を破壊する。
    「!」
     水晶の欠片が音を立てて落ちた。紗里亜が動き出そうとしている。
    「……紗里亜さんですね。お久しぶり。あの日から、もう半年以上も経っちゃったね」
     戦いに備え間合いをとりながら結衣菜が言った。
    「あなたを、連れ戻しに来たわ」
    「前回の戦争では食堂をなごませるパンダぐるみさんがいなかったせいで、皆が寂しがっていたぞ……勿論、私もだ」
     そう言って摩耶は後方支援に下がり、
    「お前さんも散々な目にあったんだろうが、」
     黒鋼刃の長剣を携えた高明は前へ。
    「これに懲りたら紗里亜ちゃんを返して貰おうか」
    「大体、傍観者気取りでいるのは貴女らしくないわよね」
     恐らくは最初で最後のチャンス。何としても紗里亜を救出する為に、彼女に本来の自分を取り戻してもらうために、明日等は強気な態度で臨む。
    「予知能力だか何だか知らないけど、結局その力を利用されるだけなんて」
     明日等の澄んだ青い瞳が、真っ直ぐに紗里亜を見据えた。
    「私の知っている紗里亜さんはそんな力なんかなくても、皆の為に戦っていたわ」
    「ふむ……引き籠り生活……は……堪能……なされたので……?」
     玉緒は首を傾げつつゆっくりと紗里亜に近づき、
    「捉えられ……閉じ込められて……利用されるとは……何とも……お間抜けさん……なのです……」
     わざと煽るような事を口にする。
    「紗里亜さんも……あなたも……この状況は気に入らない……の……でしょう……? わたし達が……解き放って……差し上げます……」
     攻撃、庇い、回復。全てに備え、チーム全体に緊張が走る。
    「少々痛い……かも……しれませんが……我慢して……くださいね……」
     カンッ、と玉緒のヒールが床を蹴った。
    「……ぶっこんで……いきますよ……」
     宙高く跳んだ玉緒の片足が紗里亜を狙ってしなる。紗里亜が一瞬玉緒を見た。
     ――気がした。
     金属音。玉緒の足が何かに阻まれた。その何か――水晶の盾が逆に玉緒を押し潰そうとでもする様に前に押し出される。
     が、玉緒は押し返された力を利用して空中で後転、片手をつき片脚を横へ伸ばした状態で着地した。見上げればそこには水晶の鎧で覆われ剣と盾をもった騎士姿のノーライフキングがいた。と、
    「私のかわいいスパコンちゃんになんてことするの!」
     甲高い声と耳触りなヒールの音が響き渡った。もう1人の水晶騎士を従えた女医のようなノーライフキングが現れ、
    「ああスパコンちゃん! 今治すから待っていてね!」
     破壊されたスパコンに優しく話しかけると、キッと灼滅者達を睨みつける。
    「そう簡単に渡すものですか! お前たち、やっておしまい!」
     ギッと鎧を軋ませて騎士が近づいてきた。明は考える。2体の護衛。そして紗里亜。となれば、
    「……此奴は俺達が引き受ける。その代わり、」
     ――椎那を頼む。騎士を剣先で牽制しながら明は紗里亜を振り返った。
    「見ろ、椎那! 君を大事に思う仲間がこれだけ居る!」
     常に冷静沈着、ポーカーフェイスを崩すことのない明の顔に熱い感情が迸った。
    「私もそうだ。私にとって最も大切で信頼出来る戦友が椎那……君だ!」
     隠された想いを全て、全力でぶつけるかのように明は叫ぶ。普段は見せることのない、真剣で熱い表情。
    「また共に戦おう! 戻ってきてくれ!」
     そして今は仲間を信じて。騎士に向き直った明の表情はいつものそれに戻っていた。
    (「私は椎那さんにかける言葉を持っていないから、」)
    「全力で盾になる、隙も作ってみせる! だからチャンスがあれば言葉を届けてあげて!」
     できる事を魂を込めて。見桜が両手で持ち上げた無骨な剣の名は『闇を照らす小さな星』。
     瞬間タン、と爪先で跳び上がった明日等が大量の意志持つ帯を放ち、リンフォースが魔法を飛ばす。帯に貫かれながらも盾で魔法を弾いた騎士は、鎧全体から光線を放った。前衛に降り注ぐ光線に灼かれながらもガゼルは突撃、蓮太郎は足で防ぎに降りてきた盾を蹴り止めながら紫電を鳴る拳を食らわせる。
     途端騎士の体が不自然に傾いだ。背後に回り込んでいた高明が低い姿勢から剣で騎士の片足を断ち切ったのだ。ぐるりと騎士が兜の顔を回す。咄嗟に明が間に入り、高明は間合いを抜けながら紗里亜へ叫ぶ。
    「俺が堕ちてた時に駆けつけてくれたろ。その時の想いを思い出してくれ、それと一緒さ。今度は俺が助ける番ってな!」
     高明の足元、ブレードに炎が上がった。摩耶は聖剣に刻まれた祝福を解放する。減衰で傷はそう深くないとはいえ回復量も減る。見桜と明も体力維持を優先、回復を選択した。
     絶えず後ろで文句を言っている女医に対し水晶騎士は黙々と苛烈に戦い続ける。幾度目かの光線にリンフォースとガゼルが消滅し、摩耶は盾役へ移動した。
    「星空ラジオ、途中だったでしょ? 他にもイベントがいっぱいあって、夏には学園祭もある。それを紗里亜さんと一緒に迎えたい」
     結衣菜の真下から騎士へ影が走り出す。
    「気持ちはきっとみんな同じ。だから、どうか。その殻から出てきて頂戴」
     騎士の鎧を鋭利な凶器と化した影が割った。騎士が水晶を散らしながらあっという間に距離をつめ、振り上げた剣の前には見桜が飛び込む。
     剣は強烈に肩へ食い込んだ。だが見桜は歯を食いしばる。目もそらさない。どれだけ傷ついても倒れるまで仲間を守る、何があっても諦めないと決めている。
     盾を騙すように動き、玉緒が炎を蹴り放った。燃え上がった炎に怯んだ隙を逃さず懐に入った蓮太郎が連打を食らわせ、騎士を弾き飛ばした。
    「椎那よ、面識のある者もない者もこれだけの人数が迎えに来ているのだ。いつまでも寝てはいられんぞ」
     拳のオーラを尾と引き、蓮太郎が言う。
    「俺達灼滅者の戦いはまだ終わらない。お前の力が必要だ!」
    「椎那がいないと皆が困る。自分で気付いている以上にあちこち迷惑をかけているのだぞ」
     そう言って摩耶は見桜へオーラを送った。
    「他でもない紗里亜ちゃんじゃなきゃ、心配する皆の影りを取り払う事は出来ないからさ!」
     高明はチェーンソーで激しく騎士の胴体を斬りつけると、盾を向けられる前にぱっと飛び退く。そして口元の血を拭い、
    「皆の為にも戻ってやってくれ! その手助けなら、幾らでもしてやれるからよ!」
     歌声も聞こえる。ともに過ごしてきた思い出をのせた歌。音は外れてはいるがギターとともに懸命に歌われる歌。
    「見えてるか、伸ばされた手。聞こえるか、呼んでる声。どこまでだって迎えに行くよ。ここがお前の帰る場所!」
     思いを叩きつけるように、歌われる歌。クラブの仲間の歌声。槍の妖気を編みながら結衣菜はこみあげるものを感じた。差し向けた氷弾が騎士の肩口を砕き、鎧に氷の亀裂を走らせる。
     願いは同じ。後衛に放たれた光線に傷つく手足も構わず明日等が両足で飛んだ。螺旋と周囲の空間を巻き込んだ槍が、盾を吹き飛ばす勢いで騎士の首元を穿ちぬく。
     ザン! と騎士の剣が空気を裂いた。それは明の右半身をも深く傷つけている。目に血が流れ込んだか視界が狭まった。気づいた見桜はすっと息を吸い、歌い始める。
     ――あなたの心の声を信じればいいって、そう思う。何度でも、始めればいいんだよ。
     皆の歌を邪魔しないように。もっともっと皆の思いが紗里亜に届くように。見桜は持ち前のハスキーがかったよく通る声で伸びやかに、まっすぐに歌う。治癒の力は明の右腕に剣を持たせる力を取り戻した。そして、
    「皆が、君を待ってるぜ!」
     高明の声に自分の思いも胸中重ね、明が聖剣を薙ぎ払う。白光の斬撃が騎士の胸に穴を開けた。ガシャンと音を立てて騎士が倒れる。
    「覚えてなさいっ!」
     女医が白衣を翻し逃げ出した。灼滅者達は後を追おうとした。が、背後で歓声が上がる。紗里亜の救出に成功したのだ。
     目的を遂げた以上一刻も早く撤退するべきだと皆がわかっていた。紗里亜に駆け寄る仲間を見、見桜と蓮太郎が頷き合う。良かった。
    「さあ、戻ろう。優しい日常へ」
     紗里亜に、摩耶が言った。

    作者:森下映 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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