決戦アッシュ・ランチャー~暁の反転攻勢

    作者:J九郎

     沖縄に上陸したアッシュ・ランチャーの軍勢の撃退に成功した灼滅者達の元に、武蔵坂学園からの依頼説明ディスクが運び込まれたのは、まさに作戦終了直後のことだった。
    『……みんな、ちゃんと見えてる? 大丈夫?』
     いつもとは違い録画での予知情報の伝達に、戸惑った様子を見せているのは、画面に映っている神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)だった。
    『……この映像を撮ってる段階では、まだ戦いの趨勢は決してないけど、予知を元にまずは言っておく。……沖縄に上陸しようとしてた軍勢の撃退、お疲れ様』
     わずかに、妖が柔らかな表情を浮かべる。だが、それも束の間。
    『……この勝利で、アッシュ・ランチャーを灼滅できる可能性が出てきた』
     真剣な表情になって、妖はそう告げた。
    『……統合元老院クリスタル・ミラビリスの元老であるアッシュ・ランチャーを灼滅できれば、謎に包まれたノーライフキングの本拠地への侵攻もできるようになるかもしれない。……でも、敵軍の戦力は強大。ちょっとやそっとの覚悟じゃ、反攻作戦を行う事はできない』
     さらに、と妖は深刻さを増した顔で続ける。
    『……ノーライフキングと協力体制にあるご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』が、アッシュ・ランチャーの艦隊と合流したみたい』
     その報に、灼滅者達は息を飲む。敵の戦力は、減じるどころか増強されていたのだ。
    『……それに、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇は擬似的に迷宮化されていて、アッシュ・ランチャーを灼滅しない限り破壊する事は出来ない。……内部にはノーライフキングをはじめとした強力な戦力がいるし、攻略は非常に難しいはず』
     だが、ここでアッシュ・ランチャーを取り逃がせば、今回のような事件を再び起こすかもしれない。それは、ここにいる誰もが理解していること。ならば是が非でも、ここでアッシュ・ランチャーを灼滅するべきだろう。
    『……それともう一つ、重要な情報があるの。闇堕ち後、行方不明になっていた、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)が、スイミングコンドル2世に囚われてるみたい』
     彼女は闇堕ち時に特殊な力を得たようで、エクスブレインとは違う予知能力を獲得しており、その能力がノーライフキングにより悪用されているようなのだという。
    『……未来予知能力をダークネスが得たら恐ろしいことになる。……だから、できたら彼女の救出……或いは灼滅もお願いしたい』
     妖は極力感情を押し殺した声で、そう告げた。
    『……アッシュ・ランチャー艦隊は、艦隊を再編してゆっくりと撤退しようと動き出してる。……でも、これだけの大規模な艦隊だと簡単には動きだせない。だから、今すぐ追撃すれば艦隊に大規模な襲撃をかける事は可能』
     こちらから攻撃をしなければ、戦闘を行う事無く相手は撤退していくらしいが、アッシュ・ランチャーと艦隊が健在である限り、似たような軍事行動が再び行われるのは間違いない。それを防ぐためにも、ここでアッシュ・ランチャーを灼滅しておく必要があるだろう。
    『……それに、ノーライフキングの首魁『統合元老院クリスタル・ミラビリス』の一体であるアッシュ・ランチャーを灼滅する事ができれば、所在不明のノーライフキングの本拠地の情報を得る事ができるかもしれない』
     危険を犯してでもやる価値のある作戦だということだ。
    『……敵艦隊までの移動手段として、すでに漁船やボートを用意してるけど……最終的にはみんなに生身で強行突破してもらうことになると思う』
     戦艦の砲撃でも灼滅者はダメージを受ける事はないが、漁船やボートが耐えられないからだ。
    『……漁船やボートの操縦方法のマニュアルは用意してるから、可能な限り漁船やボートで接近して、撃沈された後は、みんなだけで敵艦に潜入して内部の制圧を行ってほしい。……最初から泳いでいってもいいけど、疲れるし時間もかかるから、あまりお勧めできない」
     それから妖は、敵艦に取り付いた後の手順について、説明を始めた。
    『アッシュ・ランチャーは『撤退可能となった艦艇』に移乗して、戦域からの撤退を企んでる。……この撤退を阻止する為、艦隊の外側、撤退準備が整っている艦艇を優先して制圧していく必要がある』
     艦艇には、人甲兵やアンデッド兵だけでなく多くの一般兵が乗船しているので、人甲兵とアンデッドを殲滅した後、ESPなどを利用して一般兵に言う事を聞かせ、他の艦艇の退避を邪魔するように移動させれば、アッシュ・ランチャーの撤退を防ぐ事ができるだろう。
    『……撤退が不可能となれば、アッシュ・ランチャーは艦隊の人甲兵やアンデッドを呼び集めて、自分を守らせようとするはず』
     そしてアンデッドや人甲兵は、救命ボートのようなもので移動したり、或いは、海中を泳いだり歩いたりして集結してくるのだという。
    『集結する戦力は、アンデッド1000体弱に、人甲兵が300体程度。……もし、この戦力が集結すれば、打ち破るのは相当困難。……だから、アッシュ・ランチャーを撃破する為には、この増援を阻止することも大切』
     ここまで作戦が進めば、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇に乗り込み、アッシュ・ランチャーに決戦を挑む事ができるだろう。
    『……それでも、アッシュ・ランチャーはノーライフキングの首魁の一員。……本人も相当の強敵だし、親衛隊的存在の強力な人甲兵の護衛もいるから、撃破するには相応の戦力がいる。……その上後方から増援の人甲兵やアンデッドが押し寄せれば、撃破に失敗する可能性も高くなる』
     つまり、『撤退を阻止する』、『増援を阻止する』、『アッシュ・ランチャー及び護衛と戦う』という3つの作戦を同時に成功させなければ、アッシュ・ランチャーを灼滅する事はできないということだ。
    『……もう一つ問題になるのは、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』の存在』
     妖は、さらに深刻さを増した声でそう続ける。
    『……もし最初からスイミングコンドル2世にアッシュ・ランチャーを避難させた場合、灼滅者がスイミングコンドル2世に押し寄せてきて、制圧されてしまうという『紗里亜』の予知があったみたい。……だからアメリカンコンドルは『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所』で介入する作戦を行おうとしてる』
     もし何も対策をしなければ、アッシュ・ランチャーと決戦中に、アメリカンコンドルとご当地怪人の軍勢によって横槍を入れられ、アッシュ・ランチャーを奪われてしまうだろう。
    『……これを阻止する為には、スイミングコンドル2世への攻撃も同時に行わなくちゃいけない。……その代わり、スイミングコンドル2世の戦いでは、条件さえ整えば、アメリカンコンドルを灼滅できる可能性もある』
     妖の言葉に、灼滅者達にどよめきが広がる。確かに、それができれば今後のノーライフキングやご当地怪人との戦いが、かなり楽になるだろう。
    『……それから、スイミングコンドル2世のスーパーコンピューターに接続されて、予知を行う為の装置として利用されている『椎那・紗里亜』の救出あるいは灼滅も、或いは可能かも』
     そこまで言って、妖はいったん言葉を切った。
    『……これまで話してきた通り、敵は強力。でもこの状況は間違いなくチャンスでもある。うまくいけば、ノーライフキングを追い詰める事ができるはず。連戦で大変だけど、もう一息、頑張って』
     依頼説明ディスクは、深々と頭を下げた妖の姿を映して、終わった。
     灼滅者達は、画面に向けていた目を、海上に向ける。朝焼けに染まる海に見える、艦隊のシルエット。
     彼らは頷き合うと、決戦への一歩を足を踏み出したのだった。


    参加者
    アプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)
    雨積・舞依(黒い薔薇と砂糖菓子・d06186)
    雪椿・鵺白(テレイドスコープ・d10204)
    アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)
    月村・アヅマ(風刃・d13869)
    ハノン・ミラー(蒼炎纏いて反省中・d17118)
    黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)

    ■リプレイ

    ●いきなり予想外
    「一体どういう状況っすか、これは」
     『空飛ぶ箒』を使って上空から偵察をしていたアプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)が、困惑の声をあげる。
     彼女達は本来、アッシュ・ランチャーの乗り込んだ艦艇への敵増援を阻止するために行動する予定だった。
     だが、それもアッシュ・ランチャーが撤退できない状況での話だ。アッシュ・ランチャーの乗る艦艇が実際に撤退を開始するというのは予定外だったし、その艦艇に別の艦艇が特攻を仕掛けるなど、想定すらできなかった事態だった。
    「……って、のわあああっ!?」
     なんとか情勢を見極めようと目を凝らしていたアプリコーゼは、眼下の艦隊からの銃撃に射抜かれそうになり、あわてて自分達の船の上に不時着した。
    「あ、危なかったっす……。危うく箒から落下するっていう、魔法少女らしからぬ醜態を晒すところだったっす」
    「お疲れ様ですの。でも、これ以上は空からの偵察は危険ですわね」
     黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)が、アプリコーゼを労う。
    「だが、どうする? 大分アッシュ・ランチャーの船とは距離が開いてるが」
     月村・アヅマ(風刃・d13869)の指摘通り、アッシュ・ランチャーの艦艇と一同の乗り込んでいる漁船『あかつき丸』の間にはそれなりの距離があり、しかもその間には少数ながら人民解放軍の艦艇が展開している。そしてそこでは、アッシュ・ランチャーとの決戦に向かったチームが既に戦闘を開始しているようだった。
    「私達の目的は増援の阻止。前方の艦隊が増援になる可能性があるなら、それを抑えるのが私達の役目よ」
     雨積・舞依(黒い薔薇と砂糖菓子・d06186)がクールにそう言うと、漁船の操縦を担当しているアイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)も頷いた。
    「えっと、じゃあとりあえず、前方の艦隊に向かいますね」
     言うや、速力最大であかつき丸を操船していく。
    (「船は旅行先とかでパパがよく操縦してたかな? って……。すっごく嫌でしたけど」)
     その経験が今役に立っているのだから、世の中何が起きるか分からない。
     こちらの接近に気付いた艦艇からは、銃弾が雨となって降り注ぐが、
    「……不安もあるっすけども、皆が集まったならいけるはず!」
     押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)と霊犬の円は、自らを盾として仲間と船を護る構えだ。
    「さぁ、ともかくアッシュさんを灼滅できればこっちの勝ち。増援は絶対にさせちゃダメだよね。仲間の命にかかわるもんね」
     ハノン・ミラー(蒼炎纏いて反省中・d17118)は、そんなハリマにダイダロスベルトを鎧と化して装着させる。そうこうしている間にも、敵の艦艇はもう目の前に迫ってきていて。
    「引き続きの戦いね。わたしも気を引き締めて行くわ! 奈城さんも、まだまだ行けるわよね」
     沖縄の本土防衛にも参加していた雪椿・鵺白(テレイドスコープ・d10204)は、ビハインドの奈城さんが頷いたのを確認すると、魔力を宿した霧で仲間達を包み込んでいった。

    ●大混乱の大乱戦
    「まずは敵艦の動きを封じるわ」
     敵艦艇の1隻に急接近したあかつき丸の甲板から、舞依が海面にバベルブレイカーを叩きつけた。たちまち発生した衝撃が大波となり、敵艦艇を翻弄する。
    「それじゃ、いきますか」
     続けてアヅマが、展開した縛霊手を艦艇に向けると、形成された結界が艦艇上の兵士達を金縛りにしていった。
    「えと、甲板にいる兵士達は、みんなアンデッドみたいですね」
     アイスバーンは、必死で船を操りながらも敵艦の甲板に目を走らせ、分析結果を皆に伝える。
    「なら、遠慮は不要ですわね。さぁ……断罪の時間ですの!」
     そして白雛が手にした大鎌を振るえば、現れた白と黒の無数の刃が、動きを封じられたアンデッド達を切り裂いていった。
     だが、敵もただやられているわけではない。まだ動けるアンデッド達は一斉にサブマシンガンを構え、灼滅者達目掛けて銃撃を開始した。
    「円、ここは耐えきるっすよ!」
    「奈城さんもお願いね」
     その一斉射をハリマと霊犬の円、鵺白とビハインドの奈城はそれぞれの殲術道具や自らの体を使って防いでいく。だが、その時。
    「ソナーに感あり! えっと……真下!?」
     計器類に目を走らせていたアイスバーンが声を上げるのと、衝撃と共に船全体が激しく揺さぶられるのは、ほぼ同時だった。
    「何かが、船にぶつかった?」
     転倒しないようにバランスを取りながらも、海面に目を向けた舞依は、見た。水面を割って海中から姿を現した、全長3mの巨体を。
    「人甲兵かっ!」
     アヅマにとって、それは先ほどまで沖縄本土防衛戦で戦っていた相手だ。だが、まさか海中から現れるとは、思っていなかった。
     人甲兵は、あかつき丸のへりに手をかけ、一気にその巨体を甲板に引き上げた。人甲兵が乗り込んだことでバランスの崩れた船体が激しく揺れる中、人甲兵は腕に装着された鉤爪を構え――、
    「先手必勝っす!」
     しかし、それよりも早くアプリコーゼが動いていた。アプリコーゼはマジカルな杖をリズミカルに振ると、先端に灯ったファンシーな輝きを、人甲兵の腹部に押し付ける。直後、輝きは急速に膨れ上がり、虹色の光と共に爆発した。
    「やったっす!」
     アプリコーゼが得意げにわんこ尻尾をフリフリする。が、
    「まだ終わってないわ!」
     鵺白の叫びに目を向ければ、爆炎が晴れたそこには、ほぼ無傷の人甲兵の姿。
     その雄姿に、敵艦艇の甲板から歓声が上がる。中国語だから何を言っているのかは分からないが、恐らく『さすが人甲兵だ、なんともないぜ!』的なことを言っているのだろう。
     甲板に陣取った人甲兵は、反撃とばかりに腰に内蔵されたバスターライフルから、拡散状態の光線を撃ち放った。
    「今度はこっちが耐えきる番っす!」
     ハリマがWOKシールドを最大出力で展開させるが、それでも光線の威力を相殺しきることはできない。
    「回復はわたしに任せて、先輩方は戦いに専念して!」
     後方に控えていたハノンが、『光線注意』と書かれた黄色の交通標識を振って甲板にいた灼滅者達の傷を癒していく。
    「回復が追いつかないってのはないようにしたいけど……治せない傷が重なるまでにどれだけ倒せるか……頼んますよ先輩がた!」
     ハノンの応援を受け、灼滅者達は一斉に人甲兵に立ち向かっていった。

    ●さよなら、あかつき丸
    「いいかげんに、落ちてくれ!」
     アヅマの異形化した右腕が、人甲兵の腹部に深々とめり込んだ。さしもの人甲兵も、灼滅者達の一斉攻撃で傷ついた後ではその攻撃に耐えきれず、巨体を揺るがせたかと思うと海面に落下し、そのまま二度と浮かび上がってくることはなかった。
     だが、戦いは人甲兵を倒して終わりではない。
    「まずは、あっちの船のアンデッドを倒さないと」
     舞依が視線を敵艦に向けるよりも、敵艦の甲板上にいるアンデッド達が一斉射を開始する方が早かった。人甲兵がいる間は誤射を恐れて戦いの様子を見守っていたアンデッド達が、動き出したのだ。
    「あなた達に、本当の恐怖を教えてあげる」
     だが舞依はアンデッド達の射撃を恐れることなく、線香花火くんから発生した無数の青い火の玉をアンデッド達目掛けてけしかける。
    「ここをしっかりやって、皆で帰りましょうね」
     鵺白は奈城さんに銃弾の雨から庇ってもらいながら、縛霊手を展開させ、火の玉に追い立てられるアンデッド達の動きを封じにかかった。
    「今度こそバッチリ決めるっすよ!」
     続けてアプリコーゼが杖をくるくる回しながら放った風の魔法が、アンデッドの一体を真っ二つに切り裂いていく。
     人甲兵さえ出てこなければ、歴戦の灼滅者達にとって、アンデッドはさほどの脅威ではない。間もなく、敵艦上のアンデッドは全て沈黙したのだった。
    「えっと、じゃあ、次の艦に向かいますね」
     アイスバーンが、船の帆先をアッシュランチャーの増援へ向かおうとしている別の巡洋艦に向ける。
    「あの船、人甲兵も乗ってるっすね……。ちょっと厄介かも?」
     ハリマが、巡洋艦の砲台の上に仁王立ちしている人甲兵に気付き、眉をしかめた。
    「いつかは倒さないといけない相手ですの。問題はありませんわ」
     白雛がそう答えてクロスグレイブから白と黒の光線を発射したのと、人甲兵が指示を出すように腕を振り下ろしたのは、ほぼ同時だった。白と黒の光線は甲板に降り注ぎ、艦上のアンデッド達を釘付けにしたが、同時に巡洋艦の砲台が一斉に火を噴いていた。
    「何のつもりだろ。通常兵器は、わたし達には通用しないってのに」
     ハノンが首を捻る。
    「違いますの! 相手の狙いは、この船ですわ!!」
     白雛がそう叫んだ時。その言葉を裏付けるように砲弾のいくつかが、あかつき丸の船腹に直撃した。いくら灼滅者が砲撃に耐えられても、ただの漁船にすぎないあかつき丸は、ひとたまりもない。
    「その、えっと、船が、沈みます……!!」
     操船していたアイスバーンの悲痛な悲鳴と共に、あかつき丸は見る間に海底に没していった。
    「みんな、無事っすか!?」
     咄嗟に箒にまたがり沈むあかつき丸から脱出したアプリコーゼは、水面ギリギリに飛行しながら、海の中に目を凝らす。が、敵艦上のアンデッド達による機銃の掃射がここぞとばかりに降り注ぎ、とてもではないが仲間達を探している余裕は与えられなかった。
    (「もしもの為に『水中呼吸』を用意しておいて正解だったわ」)
     舞依は水中に投げ出されると同時にESPを発動させると、沈みゆくあかつき丸に近づいていった。そして、船内に取り残されていたアイスバーンの腕を掴み、引っ張り上げようとする。
     だが、それを阻止するように、海底から複数の銃弾が飛んできた。どうやら、海中を歩いてアッシュ・ランチャーの増援に向かおうとしていたアンデッド達に見つかったらしい。
     思わず身構えた舞依だったが、そのミサイルと舞依の間に、鵺白と奈城が身を割り込ませてきた。銃弾を迎撃しつつ、鵺白は身振りで『ここはわたしたちに任せて』と伝える。舞依とアイスバーンは頷くと、海面目掛けて上昇していった。
     一方で、アヅマと白雛は海底のアンデッドを迎撃すべく、より深くへと潜っていく。背後から狙われるのは御免だし、増援を断つことこそがそもそもの目的だからだ。
     アヅマの放った空気の刃が水を割き、白雛の放った白と黒の光弾が海中を照らしながら海底を行軍中のアンデッド達に向かっていく。
    (「海底に人甲兵はいないみたいですわね」)
     光弾に照らされた敵部隊の布陣に、白雛は安堵の息をついた。
     その頃、ハノンは船から投げ出されたハリマを見つけ、なんとか海面まで引きずり上げることに成功していた。
    「先輩、しっかりしてくださいよ」
    「息が苦しくて死にそうだった……しかも寒中水泳。助かったっす」
     『水中呼吸』を持っていなくても死ぬわけではないが、苦しいことに変わりはない。ハリマは礼を言うと、とりあえず上陸できるポイントを探した。
    「……やっぱ、あの巡洋艦しかないっすね」
     あかつき丸を砲撃した巡洋艦付近では、アプリコーゼが銃撃から逃れつつ魔法で反撃している様子が見て取れた。そしてアプリコーゼに加勢すべく、浮上した舞依とアイスバーンもそちらに向かっているようだった。

    ●そして戦いの行方
     巡洋艦に乗り込んだ灼滅者達の戦いは佳境を迎えていた。艦上に残るは2体のアンデッドと、1体の人甲兵。
     人甲兵が、『汚物は消毒だ』とばかりに手にした火炎放射器から炎を放出する。
    「熱っ! よくもやったっすね!」
     炎の直撃を受けたアプリコーゼが、尻尾に燃え移った炎をパタパタ振って消しつつ、反撃の魔法の矢を撃ち放つ。そして矢の直撃を受け後ずさった人甲兵を追い立てるように、ハリマが摺り足で人甲兵に迫っていった。
    「炎には炎でお返しっす!」
     摺り足の摩擦で発生した炎を、人甲兵に浴びせるハリマ。人甲兵を援護すべくアンデッド達が銃口をハリマに向けるが、霊犬の円がハリマの前に立ちはだかり、その銃撃からハリマを守る。
    「タリーア、潮風が嫌なのはわかりますけどお願いしますね?」
     アイスバーンが、敵の動きを封じるべく、美しく輝くリボンのターリアを射出した。ターリアはいかにも嫌々という感じで、それでも3方向に同時に伸びていき、人甲兵とアンデッド達に巻きついていく。
    「私達の船を沈めたこと、許さない」
     舞依がいつも通りの無表情の中にわずかな怒りを滲ませ、ターリアに絡まれ動きの鈍ったアンデッドに炎を纏った蹴りを叩き込んだ。アンデッドの体が炎に包まれ、肉の焦げる匂いが周囲に広がるが、それでもアンデッドは平然とミリタリーナイフを構え、舞依目掛けて振り下ろしてくる。
    「しっかしねぇ……死んでること有効に活用してくれるよね。癪に障るよ」
     傷つく仲間達をその都度癒しながら、ハノンがぼやく。ずっと回復役を務めているハノンは気付いていた。そろそろ、サイキックでも直せない傷が全員に蓄積していることを。これ以上の長期戦は、かなり厳しいだろう。
     海中を行軍中だったアンデッドの迎撃に向かい、これを撃破したアヅマと白雛、そして鵺白の3人が駆け付けたのは、まさにそんなタイミングだった。
    「悪い、待たせた」
     甲板に登るや、アヅマが呪装棍【天津甕星】を、炎に巻かれたアンデッドに突きつけた。たちまち発生した魔力の爆発がアンデッドを包み込み、既にかなりのダメージを受けていたアンデッドの体をバラバラに吹き飛ばす。
    「もう、あなた達はどこにも行けませんの」
    「そろそろ終わらせるわよ」
     白雛と鵺白も、それぞれに構えた咎人の大鎌とバイオレンスギターから、刃と音波を放って残る1体のアンデッドをたちまちのうちに屠ってみせた。
    「残るは、人甲兵だけね」
     舞依が、線香花火くんを人甲兵に向ける。人甲兵は追い詰められたように火炎放射器を振り回すが、
    「べたべたして気持ち悪いです。えと、海とか大嫌いです。早く終わりにして帰りたいんです」
     アイスバーンがぼやきながらも放った影が人甲兵を飲み込むと、突然その動きが停止した。人甲兵の装甲がいくら頑丈でも、心の内からトラウマを刺激する影に喰われては、どうしようもなかったのだろう。
    「ようやくこの艦も制圧完了っすね。疲れたっす」
     アプリコーゼが犬耳をペタッと伏せる。
    「さあ。きついけど、次に行きましょうか。……あら?」
     周囲に目を向けた鵺白は、いつの間にか周辺の敵艦隊の動きが止まっているのに気が付いた。
    「どうやら、アッシュ・ランチャーの灼滅に成功したみたいだな」
     アヅマがそう判断し、ほっと息をつく。
     とはいえ、まだ残されたアンデッドの掃討と、一般兵達の武装解除という大仕事が残されていた。
    「今回は最後まで、大変だね……」
     ハノンの言葉に、全員が頷くのだった。

    作者:J九郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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