沖縄に攻め寄せた人甲兵達を退け一息ついた灼滅者達に、最新の予知情報が齎された。
ポータブルタイプのディスクプレイヤーに映し出されたくるみは、目の前にいるであろう灼滅者達ににかっと微笑んだ。
「皆、沖縄での戦い、お疲れ様や! 沖縄県民の命を守れたんは、皆の力があってこそや。もし皆の迎撃が失敗しとったらと思うたら……」
空恐ろしそうに腕を掴んだくるみは、気を取り直したように前を向いた。
「この勝利のお蔭で、アッシュ・ランチャーを灼滅するチャンスができたんや! もしこれが成功したら、謎に包まれたノーライフキングの本拠地への侵攻も可能になるかも知れへん」
しかし、敵軍の勢力は未だ強大。生半可な覚悟で反攻作戦を行うことはできない。
更に、ノーライフキングと協力体制にあるご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』が、艦隊に合流したようだ。
また、アッシュ・ランチャーが座乗する鑑定は疑似的に迷宮化されている。
アッシュ・ランチャーを灼滅しない限り破壊することはできず、内部にはノーライフキングを始めとする強力な戦力がある。
攻略は非常に難しいだろう。
「あと、これはええ情報か悪い情報か分からへんけど……椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)はんの居場所が判明したんや」
闇堕ち後行方不明になっていた紗里亜は、ノーライフキングに囚われているようだ。
彼女は闇堕ち時に特殊な予知能力を得ており、その力がノーライフキングによって悪用されているのだ。
「うちらとは違う予知能力みたいやけど、この力が敵の手にあるんは危険や。紗里亜はんの救出か……灼滅をお願いしたいねん」
アッシュ・ランチャー艦隊は、艦隊を再編してゆっくりと撤退しようと動き出している。
しかし、これほどの大規模な艦隊が簡単に動き出せるはずもない。
今すぐ追撃をかければ、大打撃を与えることも可能だ。
攻撃をしなければ、戦闘もなく撤退していく。だが、いずれ似たような軍事行動を起こすのは間違いない。
これを防ぐためにも、ここでアッシュ・ランチャーを灼滅しておきたい。
また、ノーライフキングの首魁『統合元老院クリスタル・ミラビリス』の一体であるアッシュ・ランチャーを灼滅する事ができれば、ノーライフキングの本拠地の情報を得る事ができるかもしれない。
敵艦隊までの移動手段は、漁船やボートを徴用する。だが、最終的には灼滅者達の肉体による強行突破となるだろう。
戦艦の砲撃を受けては、漁船やボートが耐えられるはずがない。
漁船やボートの操作マニュアルは用意しているので、可能な限り小舟で接近。撃沈された後は灼滅者達のみで敵艦に侵入して内部の制圧を行って欲しい。
最初から泳いでも良いが、漁船やボートが使えればより迅速に敵艦に接近することができるだろう。
アッシュ・ランチャーは『撤退可能となった艦艇』に移乗して、戦域からの撤退を画策している。
この撤退を阻止するため艦隊の外側、撤退準備が整っている艦艇を優先して制圧していく必要がある。
艦艇には、人甲兵やアンデッド兵達だけではなく多くの一般兵も乗船している。
人甲兵とアンデッド兵を殲滅した後、ESPなどを利用して一般兵に言うことを聞かせ、他の艦艇の退避を邪魔するように移動させれば、アッシュ・ランチャーの撤退を防ぐことができるだろう。
集結する戦力は、アンデッド兵1000体弱に人甲兵が300体程度。
この戦力が集結すれば、打ち破るのは困難になる。
なので、アッシュ・ランチャーを撃破するためには、この増援を阻止することが重要となる。
ここまで作戦が進めば、アッシュ・ランチャーの乗座する鑑定に乗り込み、決戦を挑むことができる。
アッシュ・ランチャーはノーライフキングの首魁の一員であるため、非常に強い。
親衛隊ともいえる人甲兵の精鋭も護衛としているため、撃破するには相応の戦力が必要だ。
更に後方から増援の人甲兵やアンデッドが押し寄せれば、撃破に失敗することもあり得る。
撤退を阻止する。
増援を阻止する。
アッシュ・ランチャー及び護衛と戦う。
この3つの作戦を同時に成功させなければ、アッシュ・ランチャーを灼滅することはできない。
「最初からアッシュ・ランチャーをスイミングコンドル2世号に避難させたら、灼滅者達が一斉に押し寄せてきて制圧されてまう、っていう予知を『紗里亜』はんがしたんや。そやさかい、アメリカンコンドルは『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所』で介入する作戦をしようとしとるみたいや」
もし何の対策もしなければ、アッシュ・ランチャーとの決戦中にアメリカンコンドルとご当地怪人の軍勢によって横槍を入れられて、アッシュ・ランチャーを奪われてしまう。
これを阻止するためには、スイミングコンドル2世号への攻撃も同時に行わなければならない。
スイミングコンドル2世号の戦いでは、条件さえ整えばアメリカンコンドルの灼滅の可能性もある。
「スイミングコンドル2世号のスーパーコンピューターに接続されて、予知を行う装置として利用されとる『椎那・紗里亜』はんの救出あるいは灼滅も、目的の一つになるやろう」
長い説明を終えて一つ息を吐いたくるみは、改めて灼滅者達に向き合った。
「アッシュ・ランチャーは、今までとは比べ物にならんくらいの影響を一般人に与えようとしとる。これが阻止できんかったら、武蔵坂だけやのうて一般社会にも重大な被害が起きてまうんは明らかや。……連戦になって大変やけど、皆だけが頼りや。もうひと頑張り、よろしゅう頼むで」
くるみはにかっと笑うと、深く頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835) |
榊・くるみ(がんばる女の子・d02009) |
結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781) |
ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954) |
夢前・柚澄(淡歌する儚さ消える恋心・d06835) |
紅羽・流希(挑戦者・d10975) |
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・d21200) |
師走崎・徒(流星ランナー・d25006) |
甲板に降り立った直後、灼滅者達はご当地怪人と遭遇した。
形勢不利を悟り、仲間を呼ぼうとした怪人を、紅羽・流希(挑戦者・d10975)の堀川国広が切り裂いた。
猫変身解除直後の攻撃を耐えきった怪人は、よろけながらも大声を上げようと口を開く。
「敵……」
「させません!」
声と同時に、怪人の上空が翳る。
全力で甲板へ向かう夢前・柚澄(淡歌する儚さ消える恋心・d06835)の箒は、飛び出す勢いそのままに上空へ舞い上がる。
後ろに乗った榊・くるみ(がんばる女の子・d02009)は、タイミングよく箒から飛び降りると龍砕斧を大きく振り下ろした。
「やあっ!」
龍砕斧が甲板を噛み、怪人が真っ二つになる。
立ち上がった二人の元に、柚澄は横乗りの絵筆で舞い降りた。
「流希さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ……。この子たちが、頑張ってくれましたからねえ……」
「クルルン、えらい!」
誇らしげに胸を張るナノナノのクルルンを抱き締めるくるみに、柚澄はウイングキャットのノエルの頭を優しく撫でた。
「でも、柚澄ちゃんが突然落ちてきたのは、びっくりしたよ!」
「少しでも早く、助けに戻りたかったんです」
微笑んだ柚澄は、縄梯子を設置した。
全員甲板へ登り切ったことを確認した新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)は、アリアドネの糸を発動させると仲間を見渡した。
「ん、それじゃ行こうよ、引籠りのお姫様を迎えに」
頷いた灼滅者達は、艦内へと静かに潜入した。
先行班が残したマーキングを追い、結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)は鏡で先を注意しながら進む。
戦闘を終えた先行班と合流し、互いの無事を確認したファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)は、流希と柳瀬・高明を見渡した。
「じゃあ、猫変身の三人で先行偵察しようぜ!」
ファルケの声に頷いた三人は、猫に変身すると偵察を開始した。
要所要所にマーキングをし、周囲を警戒しながら進む。
途中現れた怪人を他班に任せ、格納庫を目指して奥まで進む。
灼滅者達が通路に差し掛かった時、ご当地怪人を発見した。
●
通路の奥にいた怪人達の姿に、ファルケは目を見開いた。
間違いなく、キタアザラシのご当地怪人だ。
後続の灼滅者達を呼び、猫変身を解いた二人は攻撃を仕掛けた。
「いくぜ!」
一声上げたファルケは、バイオレンスギターを振り上げると怪人へ向けて振り抜いた。
続いて飛び出した流希の黒死斬を辛うじて避けた怪人が、大きくジャンプするとマサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・d21200)めがけてボディプレスを放った。
寸でで避けたマサムネに、キタアザラシ怪人が突進を仕掛けた。
マサムネが吹き飛ばされる寸前、くるみが割って入った。
「させないんだから!」
龍砕斧を構えて流希を庇ったくるみは、ボディプレスの圧力を逃した。
「せんきゅ、くるみっち!」
「紗里亜を見つけるまでは、極力戦闘は避けたかったんだけど。しょうがないね!」
駆けつけながら放たれた師走崎・徒(流星ランナー・d25006)のダイダロスベルトが、怪人達を縛り上げる。
「お前達、紗里亜様を攫いに来たらっしー!?」
「スーパーコンピューターには行かせないらっしー!」
通路を守るように隊列を整えたキタアザラシ怪人は、マサムネへ向けて猛突進を仕掛けた。
回転する怪人の攻撃を受け切ったマサムネは、勢いを逸らすとそのまま壁に叩き付ける。
大きな音を立てて壁にぶつかった怪人は、目を回しながらも何とか立ち上がる。
「増援を呼んじゃったら、厄介だね」
始まった遭遇戦に眉を顰める徒を安心させるように、静菜は微笑んだ。
「サウンドシャッターは張りました。安心して戦ってください」
「じゃあ遠慮なく!」
エアシューズを起動させたマサムネは、一気に駆け出すと蹴り上げた。
炎と共に蹴り上げた怪人を巻き込むように放たれた七葉の除霊結界が、怪人達の動きを停止させる。
「通してもらうよ」
そのまま消滅した怪人を確認した柚澄は、大きなダメージを負ったマサムネにラビリンスアーマーを放った。
「無理しないでね。まだ先が……」
「ここは通さないらっしー!」
柚澄の声を遮って、キタアザラシ怪人は怪電波を放った。
●
怪人達を退け追いついた班と合流した静菜は、柔らかな靴底が立てる小さな音にも気をつけながら先を急いだ。
「こんなに警備が手薄なのは不自然ですね」
「情報を隠匿しているか、偽情報を出しているのかも」
七葉の予測に、ファルケも頷いた。
「俺もそれ思った。まるで紗里亜が助けを呼んでるみたい……」
言いかけたファルケは、目の前に現れたドアに足を止めた。
プレートには、「格納庫」の文字。この奥に、紗里亜はいるはずだ。
頷き合った灼滅者達は、警戒しながらそっとドアを開いた。
格納庫はコンピューターで埋められていた。
様々な計器が接続され、コントロールパネルがいくつも稼働している。
その中央に、「紗里亜」がいた。
水晶に取り囲まれた紗里亜の体からはコードが伸び、周囲にあるスーパーコンピューターと接続されている。
「椎名さん!」
水晶に駆け寄った流希は、コードに繋がれ予知情報を伝えるだけの生体部品と化した紗里亜の姿に、拳を握り締めた。
「ダークネスが捕らえなければ、出会う事は難しかったでしょうが、この扱いは……」
「気持ちは分かるわ。でも今は、スーパーコンピューターの破壊を優先させましょう」
肩を叩く七葉の声に息を吐いた流希は、顔を上げると握った拳に精神壁を纏わせた。
「……そうですね。まずはこのコンピューターを、破壊しましょう……!」
叩き込まれた拳に、コンピューターが大きく歪む。
その攻撃を皮切りに、灼滅者達はスーパーコンピューターへ攻撃を開始した。
「やっとこさ見つけたぜ紗里亜っちよ……!」
閃光百裂拳を叩き込みながら、マサムネは紗里亜へと語り掛けた。
「星空の皆で紗里亜っちのこと、探してたんだぜ?」
「そうだよ! 紗里亜お姉ちゃんが居ない芸能館はとても寂しかった」
切なそうに声を掛ける柚澄は、バイオレンスギターから放たれる怪音波でスーパーコンピューターのプログラムを掻き乱す。
「外へ出よう……無限の知見と、そして皆が貴女を待ってる」
電源系を狙った七葉のイカロスウイングがスーパーコンピューターの電源を落とした時、水晶に大きな亀裂が走った。
●
大きな音を立てて崩れ去った水晶の中から、紗里亜が静かに歩み出た。
接続されたコードを引きちぎり、目の前にいる灼滅者達に表情の見えない視線を投げかける。
「椎那さん、やっと、見つけましたよ……。さぁ、帰りましょう……。学校で皆さん、待っております……」
流希の声に、紗里亜は少し顔を上げた。
「考量時間は終了だぜ。……ったく、あんま親友達を泣かすんじゃねーぞ」
安堵の息を吐きながら語り掛けるファルケに、徒は強く頷いた。
「半年以上待ったんだ」
徒だけじゃない。作戦の成功の為に僕らに道を譲ってくれた人。学園でずっとずっと待ってくれている人。連絡が取れず案じている紗里亜の家族。
「皆心配してる。待ってるんだ!」
「引籠っていても何も智は得られない。智は、外にこそ溢れているのだから」
心から語り掛ける七葉の声に、静菜は表情を変えない紗里亜に語り掛けた。
「知識の膨大な貴方、ここに集まった顔を知らないとも、また救出まで向かう事がどれだけ大変かも、きっとご存知でしょう。貴方は愛されてますよ、紗里亜さん」
灼滅者達の説得に、紗里亜は表情を変えない。
やがておもむろに駆け出した西院・玉緒は、紗里亜へ向かって飛び蹴りを放った。
「……ぶっこんで……いきますよ……」
駆け出した西院・玉緒が放った蹴りはしかし、飛び出してきた水晶の騎士に阻まれた。
「私のかわいいスパコンちゃんに、なんてことするの!」
突如現れた水晶騎士の後ろから、白衣を纏った女医風の女が飛び出してきた。
もう一体の水晶騎士を連れた女医は、破壊されたスーパーコンピューターに甲高い悲鳴を上げた。
「ああスパコンちゃん! 今治すから待っていてね!」
女医はぶつぶつ言いながらスーパーコンピューターを調べていたが、やがて手下に指令を下した。
女医の大切なスパコンの部品である、紗里亜を失う訳にはいかないのだ。
「そう簡単に渡すものですか! お前たち、やっておしまい!」
女医の命令で動き出した水晶騎士が、不動峰・明に向けて攻撃を仕掛けた。
水晶騎士の攻撃をソードで牽制した明は、こちらへ向けて声を掛けた。
「此奴は俺達が引き受ける。その代わり、」
――椎那を頼む。
「もちろん!」
明の声にならない声を受け止めたくるみは紗里亜へ駆け寄ったが、行く手をもう一体の水晶騎士に阻まれる。
「どいてよ!」
もどかしげに放った攻撃を受けた水晶騎士は、表情を変えずに反撃に出る。
始まった戦闘に、静菜は仲間に声を掛けた。
「紗里亜さんを、お願いします! どうか、連れ戻してあげてください!」
大剣を振り下ろされた一撃を避けたくるみ達は、臨戦態勢へ入った。
●
戦いは続いた。
護衛の排除を優先させた灼滅者達は、紗里亜へ声を掛けながらも見事な連携で水晶騎士へ攻撃する。
本来水晶騎士たちを指揮すべき女医は戦闘に参加せず、水晶騎士同士の連携は一切取れていない。
回復手段を持たない水晶騎士を、灼滅者達は徐々に追い込んでいった。
床から大剣を引き抜いた水晶騎士は、紗里亜との間に割って入るように立ち塞がった。
硬質な体を輝かせる水晶騎士に、七葉は縛霊手を纏わせた手を握り締めた。
「邪魔はさせない」
振り上げた縛霊手から放たれる除霊結界が、水晶騎士の頭上に降り注ぐ。
行動を阻害する光に怯んだ隙を突いた流希は、水晶騎士の死角へと回り込んだ。
鋭い斬撃が水晶騎士の胴を薙ぎ、硬質のボディに傷をつける。
日本刀を納刀した流希は、少し離れた場所の紗里亜を見た。
紗里亜が堕ちたと知った時の部員達の姿を思い出すと、今でも胸が締め付けられる。
あんな哀しい姿をもう、見たく無い。だから。
「連れ戻します……。貴女や私自身を含めた全員の為にも……!」
流希の声に呼応した静菜は、影業を構えると真っ直ぐに解き放った。
半身を影に飲み込まれた水晶騎士に注意を払いながら、静菜は紗里亜へ問いかけた。
「知識が活かせるのは、それに見合う経験がある者だけです。蒐集だけで満足している貴方にその知識、果たして本当に活用出来るでしょうか?」
苛立ったように影を振り払った水晶騎士は、大剣を大きく構えた。
叩き付けられるような暴風が前衛を薙ぐ寸前、マサムネがWOKシールドを展開しながら割って入った。
猛烈な風は盾によって減衰されるものの、全てのダメージを防ぎきるには至らない。
攻撃をしのぎながら、マサムネは紗里亜へ語り掛けた。
「紗里亜! オレたちの呼びかけに答えてはくれないか? ……オレ最初紗里亜っちのことかわいいって思ってたけど、段々一目置く頼もしい存在って思うようになってたんだかんな!」
攻撃を凌ぎきった前衛に、柚澄はバイオレンスギターを掻き鳴らした。
「心桜さんやえりなさんも居なくなって、みんな探すのに精一杯だった。えりなさんも心桜さんも、もう戻ってきています」
掻き鳴らされる音楽は、かつて星野・えりなを闇堕ちから救った時に作った曲。
力と勇気を与える曲に乗せて、柚澄は心の丈を叫んだ。
「後は紗里亜さんだけです。帰ってきてください……っ!」
柚澄の演奏に、くるみは叫んだ。
「迎えに来たよ紗里亜さん!」
クラブの仲間達のことや、仲間達と歩んできたイベント。闘いの思い出。
語り尽せない思いが溢れ出して、歌が喉を突いて出る。
思い出の歌を歌いながら放った縛霊撃が、水晶騎士を捕縛する。
「ちゃんと席はとってある、後は勇気一つだ。さぁ存分に聞けっ、みんなの思いをっ」
曲に合わせて情熱的に踊りながら放たれる連打が、水晶騎士を追いこんでいく。
死ぬほど音痴な歌が若干味方をも追い込む中、叩き付けるような徒の歌声が一際大きく響いた。
「見えてるか、伸ばされた手。聞こえるか、呼んでる声。どこまでだって迎えに行くよ。ここがお前の帰る場所!」
歌に乗せて放たれたダイダロスベルトが、水晶騎士を切り裂いていく。
始まるセッションに、紗里亜救出に駆けつけた灼滅者達の想いが響く。
共鳴する歌声と伴奏に、追い込まれた紗里亜はおかしそうに笑った。
「……潮時、かの。んん、やっぱり痛いのは嫌じゃなあ」
言いながら一歩下がった紗里亜の様子に、流希は駆け出した。
紗里亜は逃亡する。
直感で悟った流希は、紗里亜の行く手を阻むように死角に素早く回り込んだ。
「わりぃが、逃がすつもりは無いぜ」
声と共に振り抜かれた堀川国広が、紗里亜を袈裟懸けに切り裂く。
重く、押し付けるような一撃に逃走の足を止めた紗里亜を、流希は抱き締めた。
「ここで、きっちり助けるからよ。覚悟しな!」
「え……ええい、離せ!」
腹立たしげな紗里亜の声を聞いた直後。衝撃が流希を襲った。
至近距離で攻撃を受けた流希は、それでも紗里亜を離さない。
「ようやく……この機会が、訪れたんだ。逃がさな……」
小さな声は誰に聞かれることもなく、流希は意識を失った。
「流希さん!」
紗里亜に振りほどかれ、床に倒れた流希を回復しようと駆け出した柚澄は、襲い来る暴風に足を止めた。
攻撃でできた隙を、灼滅者達は逃さなかった。
「いくぜ!」
水晶騎士へ駆け寄ったマサムネは、無数の拳を放った。
締めの一撃で弾き飛ばされた水晶騎士の体を、ホワイトキャットテールが捕らえた。
「ん、逃がさない」
七葉のダイダロスベルトで捕縛された水晶騎士が、全身を大きく軋ませる。
そこへ、ファルケが迫った。
「受け取れっ、必殺! サウンドフォースブレイクだっ」
歌のクライマックスと合わせて放たれたマテリアルロッドの一撃に、水晶騎士は甲高い音を立てて崩れ去った。
●
スーパーコンピューターの陰から出てきた女医は、倒された水晶騎士達の姿に眉を吊り上げ踵を返した。
「覚えてらっしゃい! スパコンちゃんの仇は必ず取るわ!」
「待って!」
追いかけようとした七葉は、歓声に足を止めた。
紗里亜が目覚めたのだ。
「おかえり紗里亜っち! 心配してたんだぜー?」
歓声を上げながら、マサムネは紗里亜に駆け寄った。
「お帰りなさい。ちょっと寂しかったよ?」
嬉しそうなマサムネの隣で、七葉は少しだけいたずらっぽく微笑んだ。
「ありがとう、みんな」
少し離れた場所で見守りながら、徒は紗里亜に――彼女の中にいる「紗里亜」に語り掛けた。
「なあ、人の輪から生まれる智慧ってのも、 悪くないだろ?」
徒の問いに、紗里亜は笑顔で応えた。
作者:三ノ木咲紀 |
重傷:紅羽・流希(挑戦者・d10975) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年5月18日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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