アッシュ・ランチャーの艦隊による沖縄侵攻作戦の迎撃に成功した灼滅者達は、その直後、現地の沖縄本島にて、最新の予知情報を元にした依頼説明ディスクを受け取った。
直ぐに再生してみれば、直接この場所には来られないエクスブレインの日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)が、カメラ越しに敬礼する姿が映される。
「灼滅者の兄貴! 姉御! アッシュ・ランチャーの大軍勢の撃退に成功したんスね!」
「ああ」
「お疲れ様っす!」
「うん」
何故だろう、映像なのに返事をしてしまうのは、勝利も間もない昂揚の所為か。
灼滅者は肩で大きく息を吐いて、続くノビルの声を聴いた。
「兄貴と姉御の獅子奮迅たる活躍と燦然たる勝利によって、アッシュ・ランチャーを灼滅するチャンスを得る事ができたッスよ!」
統合元老院クリスタル・ミラビリスの元老であるアッシュ・ランチャーの灼滅。
それが成功すれば、謎に包まれたノーライフキングの本拠地への侵攻も可能となるかもしれない。
「但し敵軍の戦力は未だ強大で、生半可な覚悟で反攻作戦を行う事はできないッス……」
揚陸部隊の約九万が壊滅したとはいえ、更なるアンデッド兵、人甲兵の増援はある。
また、ノーライフキングと協力体制にあるご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』が艦隊に合流したらしく、こちらの勢力も厄介だ。
ここでノビルは翠眉を顰め、
「それに、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇は擬似的に迷宮化され、アッシュ・ランチャーを灼滅しない限り破壊する事は出来ず、内部にはノーライフキングをはじめとした強力な戦力が配されている為、攻略難度はかなり難しいッス」
それでも彼が説明を続けるのは、ここでアッシュ・ランチャーを取り逃がせば、今回のような軍事作戦を再び起こすかもしれない可能性が、危機があるからだ。
「是が非でも、ここで彼を灼滅するべきッス」
「だな」
現地に居る灼滅者こそ、その想いは強かろう。
ノビルは大きな丸眼鏡を持ち上げて語気を強め、
「そして、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』には、闇堕ち後に行方知れずとなっていた椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)の姉御が囚われている事も予知されてるッス」
「紗里亜が……」
彼女は闇堕ち時に特殊な力を得たか、ノビルらエクスブレインとは違う予知能力を獲得したらしく、その能力がノーライフキングに悪用されているようだ。
「未来予知能力を敵が得ては重大な脅威になるんで、可能なら、姉御の救出をお願いしたいッス」
状況によっては灼滅せざるを得ない場合もあるかもしれない――。
声色を落とすノビルに、灼滅者もまた暫し黙した。
「アッシュ・ランチャーは艦隊を再編し、ゆっくり撤退しようと動き出しているッス」
然しこの大艦隊が容易に動ける筈もなく、今すぐ追撃すれば、艦隊に大規模な襲撃を掛けられよう。
此方から仕掛けぬ限り、敵艦は戦闘を行わず撤退していくが、ここでアッシュ・ランチャーの灼滅に成功すれば、未だ所在不明の敵本拠地の情報を得られるかもしれないと思えば、万難を排して乗り込みたい。
「そこで気になるのが、艦隊の移動方法ッスよね」
ノビルは続けて、
「敵艦隊までの移動手段は、漁船やボート等を徴用しているとはいえ、最終的には兄貴と姉御の強靭な身体能力――フィジカルな強行突破になると思うんす」
戦艦の砲撃でも灼滅者はダメージを受けないが、漁船やボートは耐えられない。
「船舶類の操縦マニュアルは用意しているんで、可能な限り漁船やボートで接近、撃沈された後は、兄貴と姉御の力で敵艦に潜入し、内部の制圧を行って欲しいッス!」
最初から泳いで近付く事もできるが、漁船やボートが利用できれば、より迅速に敵艦に接近する事ができるだろう。
「次に、敵艦に辿り着いた後、アッシュ・ランチャー撃破までの手順ッス」
アッシュ・ランチャーは『撤退可能となった艦艇』に移乗して、戦域からの撤退を画策している。
この撤退を阻止するには、艦隊の外側、撤退準備が整っている艦艇を優先して制圧していく必要があるだろう。
「艦艇には、人甲兵やアンデッド兵だけでなく、多くの一般兵が乗船しているんで、これら眷属らを殲滅した後、ESP等を利用して一般兵に言う事を聞かせ、他の艦艇の退避を邪魔するように移動させれば、アッシュ・ランチャーの撤退を防ぐ事ができる筈ッス」
撤退が不可能となれば、アッシュ・ランチャーは艦隊の人甲兵やアンデッドを呼び集めて、自分を守らせようとする。
アンデッドや人甲兵は、救命ボートのようなもので、或いは、海中を泳いだり歩いたりして移動してくる。
「その数は、アンデッド千体弱に、人甲兵が三百体程度……この戦力が集結すれば、打ち破るのは困難になるんで、アッシュ・ランチャーを撃破する為には、この増援を阻止する事が重要になるッス!」
ここまで作戦が進めば、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇に乗り込み、彼に決戦を挑む事ができる。
「アッシュ・ランチャーは、ノーライフキングの首魁の一員である為、能力は超強力な上、親衛隊ともいえる強力な人甲兵の護衛もいて、撃破するには相応の戦力が必要っす」
更に後方から多くの増援――人甲兵やアンデッドが押し寄せれば、撃破に失敗する可能性もあり得る。
「撤退を阻止する、増援を阻止する、アッシュ・ランチャー及び護衛と戦う。
この三つの作戦を同時に成功させなければ、アッシュ・ランチャーを灼滅する事はできないッスよ!」
各班が戦略を立てるだけでなく、適切に戦力を配分して勝利を目指す――そんな話し合いが必要になりそうだ。
さて、気になるのは、アッシュ・ランチャーを助けに来たご当地戦艦『スイミングコンドル2世』だろう。
「最初からスイミングコンドル2世にアッシュ・ランチャーを避難させた場合、灼滅者が当艦に押し寄せてくる為、スイミングコンドル2世が制圧されてしまう――という『紗里亜』の予知があった為、アメリカンコンドルは『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所』で介入しようとしているッス」
何も対策をしなければ、アッシュ・ランチャーと決戦中に、アメリカンコンドルとご当地怪人の軍勢に横槍を入れられ、アッシュ・ランチャーを奪われてしまうだろう。
「これを阻止する為には、スイミングコンドル2世への攻撃も同時に行わなければならないッス」
スイミングコンドル2世の戦いでは、条件さえ整えば、アメリカンコンドルの灼滅の可能性もある。
また、スイミングコンドル2世のスーパーコンピューターに接続され、予知を行う為の装置として利用されている『椎那・紗里亜』の救出あるいは灼滅も目的の一つになるだろう。
「敵はかなり強力なんすけど、この状況は逆にチャンスっす! うまくいけば、ノーライフキングを追い詰められるッスよ!」
ノビルは更に語気を強め、
「ご武運を!」
と、敬礼を捧げた。
参加者 | |
---|---|
万事・錠(ハートロッカー・d01615) |
蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965) |
城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563) |
白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044) |
風峰・静(サイトハウンド・d28020) |
アリス・ドール(断罪の人形姫・d32721) |
神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383) |
四軒家・綴(二十四時間ヘルメット着用・d37571) |
●
当初の想定では、別班が撤退に舵を切る敵艦を阻止・制圧し、アッシュ・ランチャーの居場所を探り当て次第、当班も突入する手筈だった。
されど、然し。
「撤退阻止が間に合っていないのか? 艦隊が離脱し始めている……」
神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)の硝子を隔てた炯眼に映る顕界は、早暁に全貌を現した大艦隊の幾つかが変針する――異様な景が広がっている。
洋上の形勢を読む間もない。
「……衝撃が……砲撃が……聞こえる……」
誰よりも早く、アリス・ドール(断罪の人形姫・d32721)の聡い耳が音の方向を辿れば、黒叢を抜け出た一艦が閃光と共に轟音を弾く――これまた予想外の展開が瞳に飛び込んで。
「――船を出そう。風峰、いいか?」
「直ぐにも行けるよ」
肺腑を突き上げる爆轟の中、万事・錠(ハートロッカー・d01615)が鋭く言ち、風峰・静(サイトハウンド・d28020)が即座に応じる。
「間に合うか……とにかく急ごう」
「速力ぜんかーい、すすめー」
撤退阻止の成功を見て動く運びを、前倒しする――その判断は正しい。
今の戦局を表すかの様に大きくうねる波は、更に艦砲の衝撃で船を揺らし、
「……混乱した敵艦が同士討ち、という事ではなさそうね」
飛沫に濡れる髪を項に流して状況を見る城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)は、想定外の方向へ加速する戦局に唇を噛む。
言を躊躇うが、言わねばなるまい。
白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044)は途切れがちにも言を継いで、
「物理攻撃が、きかない、戦艦を。見つける、ために――」
砲撃主は、撤退阻止に動く部隊の一斑。
制圧した大砲で敵艦を襲撃し、首魁が座乗する艦艇を割り出そうとしているのだと――青き双眸が弾道を追った。
「……」
「、っ」
一般人兵士も乗る戦艦を? 数多の命を犠牲にして?
――いや、今は考える時間もない。
「皆、見てくれ!」
海に乗り出さんばかり四軒家・綴(二十四時間ヘルメット着用・d37571)が指差した先には、赤黒い爆煙を抜け出た鉄塊が威容を現し、
「着弾しても全く無傷の戦艦がある!」
言わずもがな、其が巨魁アッシュ・ランチャーを匿う戦艦と分かれば、針路は大きく弧を描いて目標を繋いだ。
今は唯、接敵機動を急ぐのみ。
「斯くも宿悪を重ねて、逃げ果せられるとでも?」
蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)は、爆撃を払って撤退に動く黒艦に嘆声一息、
「ちと浅慮が過ぎようぞ」
凛然と同時に解放を得た【十五級討ちフルール】が、船を追尾する弾雨を手折り、決戦の幕開けを告げた。
●
元老を逃してはならない――海戦に臨む灼滅者達の覚悟が、更なる衝撃を呼び込む。
「えっ、何……何が起こって……?」
舳が突き上がる程の狂瀾、そして風涛。
操舵に専念する静は、自身に代わって周囲を監視する瞳――錠とアリスの息を呑む沈黙に声を上擦らせ、天を揺るがす轟音を聴いた。
二人は漸う声を絞り、
「砲撃で首魁の居場所を探り当てた戦艦が、今、突撃した……!」
「……戦艦ごと……ぶつけて……離脱を……遅らせたみたい……」
撤退阻止班が瀬戸際の攻防の末に取った選択、その凄まじきに拳を握り込める。
眼前の壮景に決意を見るは優も同じか、彼は銀糸の髪を烈風に梳らせつつ、
「物理攻撃は無効……敵艦にダメージを与えられぬとはいえ、撤退を一時的に阻んだか」
「――それってつまり、稼いだ時間でアッシュ・ランチャーを討て、って事よね?」
命運を託されたのだと言を添えた千波耶は、同じく『目標』を目指す船を周囲に捉え、呼吸を整えた。
確か九隻が決戦に向かう筈だが、限られた時間では全てが辿り着ける奇跡はなかろう。
刻々と進む時は更に彼等を追い詰め、
「人甲兵とアンデッドが海に飛び込むぞ!」
「!」
「進路を塞ぐつもりだ!」
「、っ」
綴が叫ぶと同時、次々と水柱が立ち、鈍色の鉄塊と不死者が波間より接近する。
擾乱する海上にあっても聢と狂気は滾って、
「戦艦の間を埋めようと言うのか……向こうも必死よの」
「道を、あけて。ジャマなんて、させないわ」
敬厳が枳殻の枝を思わせる闘気に一体を穿てば、絶叫を受け取った夜奈が【花顔雪膚】を二条目に貫き、心臓を交点に描かれた十字が不死を断罪する。
肉塊が波間に解けるより早く、身ごとドブリと迫る人甲兵は船の破壊を狙うか、蓋し絶刀【Alice the Ripper】は指一本触れるも許さない。
「……斬り裂く……」
別名『侯爵夫人』――透徹たる刀身は主アリスと共に嫋やかに舞い、時に猫の如く躍動すれば、翻る切先は狼の如く鋼鉄を屠り、
「ギ、ギゴゴ」
巨躯を足場に華奢が離れると、切断された左腕は宙を泳ぐうち破砕した。
バランスを失いつつ躙り寄る兵器を掣肘しつつ、優と錠は現状を確かめ、
「ここで船が沈められては、敵艦に辿り着く手段と時間を失う」
「ああ、今は速度のある船を守って進みたい処だが――」
チワワ系ビハインド・海里が霊撃に距離を取る間、白磁の細指が射た光矢を空中で受け取った蠍が、吊り上げた尾【SHAULA】を振り下ろし、脳天から一気に串刺す。
今際の咆哮が耳を劈く傍ら、両者は更に言を交して、
「この場で足止めした方が、俺達の仕事は果たせるんじゃねェのって」
「……同意見だ」
本隊を確実に送り込む為に、進路を阻む増援を洋上で抑える――。
それは自分達が敵艦に乗り込む事を断念し、戦場を海上に切り替える事を意味していたが、与えられた時の短さと、役儀を知る一同から異論は出ない。
先に賛意を示したのは夜奈。
祖父ジェードゥシカのエスコートで躍り出た煌星は、続々と迫る不死の群れに清けし光条を弾きつつ、その雪肌を泡沫と血潮に濡らして言った。
「途方もなく、ひろい海で、迷いたく、ない」
それは闇堕ちから救われて以来、殺意の行き場に迷っているからこその言だろう。
「相分かった。なれば本隊の進路を守る防禦線を構築するぞい」
戦国の世より名を馳せる旧家・蜂の十八代当主、敬厳もまた戦上手の血を引くか、彼は戦局に合わせて変わる策戦を素早く飲み込み、
「先ずはあの二艦を抜け、代わりに堰を為して貰おうかの」
頓には動けぬ巨艦を利用せんと、妙案を提示した。
揃う首肯は無論「是」だが、僅かな隙間にも投入される人甲兵が厄介だろう。
「行くぞ、マシンスネコスリー!」
綴は愛機に跨ってエンジン全開、白波に浮かぶ鉄塊に突撃し、
「アイヴィー……ダァイナミックッ!!」
「ギ……ギギ」
杭打つ如く巨躯を沈めれば、丁度一隻分の航路が進入を許した。
「今だ、擦り抜けろ!!」
「りょうかーい!」
行動を本能に根ざした静は既に身体で操船を覚えたか、見事な舵捌きでヘルメットとワンホイールを再載積(回収)すると、左右より迫る真黒き壁を全速力で駆け抜ける。
「通りゃんせ通りゃんせ、ってね」
倒懸之急にもユルさを忘れぬ、心臓の強さといったら。
しとど波を浴びた孤狼はまるで濡れ鼠だが、彼は精鋭を一つと零さず運びきり、その中の賢哲が死線を切り拓く。
千波耶だ。
彼女は前方で船を見下ろす巨艦を瞳に射て、
「一艦を拠点に伏撃するのはどうかしら」
視点の低さから狙われ易い船を降りて、その逆の有利を持つ戦艦を足場に増援を断つ――それは目下、青海を覆う大艦隊が敵か味方か分からぬ今こそ有用な戦術だろう。
「成程な」
「よし、そうしよう」
仲間の首肯を受け取った凄艶は、一瞬ふわりと微笑すると、用意したRB社製ワイヤーラダーを展開した。
●
迷宮化していない戦艦の攻略は、ミリタリーマニアの錠にとって易いもの。
「指揮官の人甲兵は艦橋に居るとして、アンデッドは要衝……機関室とか主砲の砲塔下とか、キングストン弁辺りを探ってみようぜ」
「確かに。物理的に艦を沈められぬよう配備してそうだな」
彼の推察に論拠を添える優といい、幸いにして一般兵対策は用意が出来ている。
無力化ESPを所持する二人を筆頭に艦内へ侵入した一同は、予測した通りの戦略的要地にて交戦を開始した。
「此レ拠リ艦内ハ白兵戦ニ移行ス! 一般兵、構エ!」
「撃(テ)ッ!!」
一同を迎える斉射に楯を為すは綴。
「物理攻撃では俺達を止められない!」
眼も眩む火花の前に立ち、機関銃の無力を訴える彼は、時に差し込むサイキック攻撃に「んお!」と叫ぶ傍ら、隊伍に潜む異形を暴く。
嚮導を得た進撃は頗る苛烈。
「不死の者が生者を駒と操る不義、わしは許さぬ」
「嗚ヲヲッ!」
敬厳も。
「それも今回で、この海で終わらせよう、『絶対に!』」
「ゲ嗚呼ッ!」
静も。
自衛隊駐屯地に潜む凶邪の芽を摘み、沖縄侵攻を阻み――ノーライフキングによる一連の謀略を潰してきたならではの義憤と気焔が無双を為した。
機銃を手折り、躓きを与える両者の連撃は、アリスが引継ぎ、
「……増援の足止め……役目は果たすよ……必ず……」
「ッッ、ッ――!!」
凍れる花顔が連れる輝光が、まさか背の弾薬庫より迫るとは思うまい。
固き感情の絆に結ばれたコンビネーションが腰斬すれば、尚も蠢く不死の嘆きは、続く鉄環に預けられ、
「軍隊まで動かす元老を逃したら、どんなことになるか知れたもんじゃない」
「ここで、必ず、しとめてもらう、ためにも。しっかり、足止め、しなきゃ」
歴戦を共にした千波耶と夜奈の呼吸は言うに及ばず。
目配せひとつで爪先を弾いた双翼は、一翼は灼罪の炎を柱と上げ、片翼は躯に穿った風穴で逆十字を描き、敵の表皮から臓腑まで一切を塵と化した。
矢継ぎ早に要所を制した彼等が、制圧を完了させたのは間もなくのこと。
「既に見飽きた人甲兵だが……アッシュ・ランチャーといい、後で装備品を調べたい処だ」
未明より何体も相手取った兵器に探究心は尽きぬか、疆界を――眼鏡を外した優が淡然と言ちれば、
「決戦に向かう連中に、土産の一つでも頼めば良かったな」
彼の【BlueRoseCross】より堅牢を受け取った錠が、靨笑しつつ敵の装甲を剥いでいく。
構造を暴くように疾走する光刃は燦然と、無邪気で――だからこそ残酷だ。
「ギギギギギギギ!!」
その解体作業を援護するは千波耶の斬影刃。
「気を利かしてくれるかしら?」
すらりと伸びる脚の片方に巻き付いた【Tangled】は、身を低く地を這って蔓を伸ばし、忍び寄り、刃と化して鋼鉄を切り刻む。
「戦果もほしい、けど。おみやげ、あったら、嬉しい」
夜奈が思い浮かべている者も同じだろう。
少女らしい期待の瞳は可憐に、但し繊麗なる躯が繰る白撃は熾烈で酷薄。
「ギイッ!!」
防御の薄い膝の裏側を貫穿された人甲兵は崩れるしかないが、痛撃に勝る憤怒が怪腕を迫り出して近付く。
然し其も計算の内。
「……かかったなアホめッ!」
綴が突きつけていた【連刃裁断アイヴィークロス】は、怒りの矛先を自らに繋ぐ事で、楯陣による捕縛を成功させ、
「捕まえたッ」
結界に更なる結界を構築して巨躯を組み敷いた静は、朗月に似た金瞳を上目に注いで、宙より墜下する二筋の光条に笑んだ。
「さあ、派手に決めてよ?」
ひとつは麗しの人形姫。
ひとつは神速を駆る飛燕。
「……命を……弄ばれたひと……でも……それも……もう終わる……」
重力を裏切る跳躍に華奢を翻したアリスは、幾許か憐憫の染む佳声を零すと、彼女の剱閃に光刃を添えた敬厳が、死を知らぬ躯に安けき終焉を手向けた。
「最早今生会うまいと――永久の眠りを約そうぞ」
不死の螺旋を断つ決意が、閃く。
ズズ、と沈む鉄塊に「さらば」と別れを告げた清冽は、振り向かず甲板を目指した。
●
何も手放さねば何も得られぬ。
畢竟、棄てる覚悟をした者だけが、渇望した勝利と未来を攫めるのだ。
「何人たりとも突破させない! ヒーローの背に悪は歩かせない!」
当初想定した軍庭とは異なるが、綴は相棒と共に甲板を疾走しながら、続々と湧く増援を攪乱している。
視認した限りでは、敵艦に到達した班は半数にも満たない。
突入を果たした部隊が全て移動し、援軍を阻止する十四班が到着するまで戦線を維持する――状況は厳しいが、焦燥が危殆を招くと知る彼等は、常に沈着を崩さない。
「長い戦になりそうだな。持久力が試される所だ、ワンコ」
漸う疲弊する海里を一瞬だけ撫でた優(ツンデレ主)は、手厚い回復と支援に自陣を支え、激戦で狭まりがちになる視野を補わんと鷹眼を啓く。
その彼も含め、一連の戦いで多くの者と共闘した静は、ぼっち狼の筈が頼もしい仲間を得て雄渾と、
「ここから先には行かせない。立っている限りは、ね」
創痍は深くとも口元に笑みは絶やさず――身体を張って食い止めるのは性に合っている、と猛撃を阻んだ。
楯と徹するはディフェンダー陣のみにあらず、繋ぐ力を知る一同は、針路を進む仲間を背に楔となり壁となり、損耗を厭わない。
「防禦線を突破しそうな敵がおれば、しがみ付いてでも阻止してやるわ」
敬厳は己が白皙を穢す黒油と血糊を手の甲に拭いながら、今しがた斃した躯体を踏み越えて迫る人甲兵の群れを睨める。
一方で冷静を手放さぬ彼は、剣戟に紛れるボートの駆動音を拾っており、
「……大切な子が……友だちが……アリスたちに負けないくらい……がんばってるの……」
海を走る仲間に想いを託すはアリスも同じ。
名を同じくする『零れた欠片』が、首魁に辿り着けるよう――時を越える想いは絶影の機動で血花を散らし、
「駐屯地で果てた魂……お前らの無念、俺の相棒が晴らしてくるってよ」
不死者を刃に屠るたび元・自衛隊員の最期を脳裏に過らせる錠は、背に染み渡る熱量を感じつつ、眼前の亡者を鎮め、悼む。
相棒、と聞いた夜奈は、これに力強い首肯を添えて、
「アッシュと、戦うメガネは、しっぱいしたら、本体、カチ割る」
カチ割るのは眼鏡でなく本体かと、祖父もびっくり。
そんな彼女らしい激励は自らも奮い立たせ、雪花と舞う瑰麗は、その軌跡を星虹の如くして血戦を翔けた。
「……90を叩き出した強運、期待しちゃってもいいよね?」
千波耶は、約束を交す小指に光るピンクゴールドの指環に、ふと目を落とす。
多くの者が捨てたからこそ攫めるものを、その手に掲げて見せて欲しい――指の震えを払った彼女は、再び殲術道具を握り込め、敵群に向かった。
我が身を削ぎ落とし、棄てただけ。
犠牲を鎖と繋げただけ。
結末は、物語は、導かれる。
彼等が血と屍骸に揺れる海上に武蔵坂の船群を視た時には、漸う明らかになる空際が、美しき暁に新しい朝を連れていた――。
作者:夕狩こあら |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年5月18日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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