決戦アッシュ・ランチャー~洋上の大激闘

     アッシュ・ランチャーの沖縄上陸部隊軍を退けた灼滅者達。そこに届けられたディスクには、初雪崎・杏(大学生エクスブレイン・dn0225)による最新の予知情報が収められていた。
    「アンデッドの軍勢の撃退は成功したようだな。人的被害がほとんど出なかったのは皆のお陰だ。これで、アッシュ・ランチャーの元へ攻めこむ事ができる」
     ノーライフキングの首魁『統合元老院クリスタル・ミラビリス』の元老の1人、アッシュ・ランチャーを灼滅できれば、今まで謎に包まれていたノーライフキングの本拠地への侵攻も可能となるかもしれない、と杏は言う。
    「だが、敵の軍勢は十分すぎる余力を残している。アッシュ・ランチャーのいる旗艦は擬似迷宮と化していて、アッシュ・ランチャーを灼滅しない限り破壊は不可能。しかも、ノーライフキングをはじめとした戦力に守られているため、攻略は非常に難しいだろう」
     加えて、ノーライフキングと協力体制にあるご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』が、アッシュ艦隊に合流したらしい。
     そしてこの中には、闇堕ち後、行方不明になっていた椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)が囚われている。
    「彼女は闇堕ち時に、エクスブレインとは異なる予知能力を獲得し、その能力をノーライフキングに悪用されているようだ。未来予知能力を敵が得れば、重大な脅威になる。彼女の救出……最悪の場合、灼滅も頼みたい」
     現在、上陸作戦の失敗を受けて、アッシュ・ランチャーは艦隊を再編して撤退しようとしている。
     しかし、大規模な艦隊が動くのには時間を要するため、今すぐ追撃すれば、艦隊を襲撃できる。
    「こちらから仕掛けなければ、向こうは何もせず撤退していく。だが、アッシュ・ランチャーと艦隊が健在である限り、再び大規模な作戦を仕掛けてくるだろう。そのたびに一般人が危機にさらされるのは避けたいのだ」
     敵艦隊までの移動手段は、調達した漁船やボート。ただし、灼滅者が戦艦の砲撃にすら耐えられようと、漁船やボートの方はそうはいかない。
     そのため、可能な距離まで船で接近。船が撃沈された後は、灼滅者のみで敵艦へと向かい、内部の制圧を行うことになる。
     アッシュ・ランチャーは準備が整い、『撤退可能となった艦艇』に乗り換えて離脱するつもりだ。これを阻止するには、艦隊の外側、撤退準備が整っている艦艇から優先して制圧していかなければならない。
     艦艇には、人甲兵やアンデッド兵の他、多くの一般兵が乗船している。まずは人甲兵とアンデッドを殲滅する。その後、ESPなどで一般兵に指示を与え、他の艦艇を邪魔するように艦を移動させれば、アッシュ・ランチャーの撤退を妨害できる。
     そうして撤退が不可能な状況になれば、アッシュ・ランチャーは人甲兵やアンデッドを集結させ、防衛にかかる。
    「アンデッドや人甲兵は、救命ボートの類、或いは海中を泳いだりして集結してくる。戦力の総数は、アンデッドが1000体弱、人甲兵が300体にも及ぶため、これを全て打ち破るのは困難。アッシュ・ランチャーを撃破する為には、この増援を阻止する事が必要だ」
     そしてここまで作戦が進めば、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇に乗り込み、決戦を挑む事ができる。
     アッシュ・ランチャー自身強大な力の持ち主である事に加え、強力な人甲兵の護衛もいるため、撃破するには万全の戦力が必要だ。
     さらに、後方から増援の人甲兵やアンデッドが押し寄せれば、撃破に失敗する可能性もありえる。
     よって、アッシュ・ランチャー灼滅には、『撤退を阻止する』、『増援を阻止する』、『アッシュ・ランチャー及び護衛と戦う』という3つの作戦を同時に成功させなければならない。
    「仮に最初からスイミングコンドル2世にアッシュ・ランチャーを避難させた場合、灼滅者がそちらに押し寄せてきて制圧されてしまうという『紗里亜』の予知を得た為、アメリカンコンドルは『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所』で介入するつもりのようだ」
     このままではアメリカンコンドルとご当地怪人の軍勢によって、アッシュ・ランチャーを奪われてしまう。これを阻止する為には、スイミングコンドル2世への攻撃も同時に行わなければならない。
     他にやるべき事は、スーパーコンピューターに接続され利用されている『椎那・紗里亜』の救出、あるいは灼滅。条件が整えば、アメリカンコンドルを灼滅できるチャンスも得られるかもしれない。
    「目的を達成するには、幾つもの条件を乗り越えなくてはならない。しかし、その困難を突破し、ここでアッシュ・ランチャーを止めてくれ」
     杏の表情には、学園で座して待つ事しかできない悔しさがにじんでいた。


    参加者
    タシュラフェル・メーベルナッハ(白茉莉昇華セリ・d00216)
    桜之・京(花雅・d02355)
    ジュラル・ニート(光の中から現れた短期決戦の鬼・d02576)
    森田・供助(月桂杖・d03292)
    芥川・真琴(日向の微睡・d03339)
    狼川・貢(ボーンズデッド・d23454)
    白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)
    ソラリス・マシェフスキー(中学生エクソシスト・d37696)

    ■リプレイ

    ●発令、アッシュ・ランチャー追撃作戦
     アッシュ・ランチャーとの決戦は、混戦の様相を呈していた。
     突如、戦艦の一隻が他の艦艇に向け、砲撃を開始。次々艦艇が轟沈していく中、残った一隻が、撤退するアッシュ・ランチャーの乗る艦艇だと想定されたが、詳細は不明。
     しかし、この戦場にアッシュ・ランチャーが健在なのは確かだろう。その証拠に、周囲からアンデッドや人甲兵達が集結してきている。
     ボートを使い、或いは泳いで進軍してくる敵の群れ。その背後には艦艇の影も見える。それを阻むべく、灼滅者達のチームも布陣していく。
     揺れるボートの上、敵軍の侵攻ルートを注視するタシュラフェル・メーベルナッハ(白茉莉昇華セリ・d00216)。
    「全く、腐肉を撒き散らして、綺麗な海が台無しね。人の国と兵隊さんたちの人生を掻き回しておいて、簡単にさようならが出来ると思って?」
     桜之・京(花雅・d02355)が、海風でなびく黒髪を押さえる。同時に、アッシュ・ランチャーへの怒りを抑えながら、
    「本当は首を取りに行きたいところだけれど、屍で我慢してあげる」
     期せずして増援阻止班は、アッシュのいるであろう艦と敵艦隊主力の間に割り込んだ形になっていた。だが、アッシュ艦側に位置していた敵艦隊も、いくばくか存在する。
     アッシュ・ランチャーの救援に向かおうとするその軍へと、数チームが追いすがった。そちらの対処は任せ、自分達は、こちらを突破せんとする大多数の軍勢を阻止に向かう。
     他班と手分けをする形で防衛線を形成する狼川・貢(ボーンズデッド・d23454)や白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)。双眼鏡でとらえる軍勢の数は、相当なものだ。
    「今、ここも水際だ。1体でも多くここで止める」
     森田・供助(月桂杖・d03292)が双眼鏡を降ろし、敵を目視する。この数の半分でもアッシュ・ランチャーの元にたどり着けば、決戦に赴いた灼滅者達はひとたまりもあるまい。
    「私達がここでどれだけ止められるかが、直接対決してるみんなの勝敗を分ける……がんばらなくちゃ」
     今まさにアッシュ・ランチャーとの直接対決に臨んでいるであろう灼滅者達の事を思い、気合を入れる早苗。
    「ま、1000を軽く超える敵を完全に抑えられるものでもないんだし、あんまり無理しすぎてもあれでしょ。とりあえず死なない程度に……ね、軍師殿」
    「ナノナノ」
     あえて適度に肩の力を抜きながら、ジュラル・ニート(光の中から現れた短期決戦の鬼・d02576)は、ナノナノの軍師殿と言葉を交わす。
    (「海の上とかヤだなー……。まことさん普段泳げないんだよなー……」)
     芥川・真琴(日向の微睡・d03339)の表情は、戦いとは別の理由で悩まし気だった。灼滅者が溺れる事はないにしても、ESPなしでは……苦しい。
     いよいよ、彼我の距離が、攻撃可能範囲に近づく。ソラリス・マシェフスキー(中学生エクソシスト・d37696)が弓を構え、迎撃を開始せんとした時……砲撃が来た。

    ●迎撃、不死の艦隊
     海に、幾つもの水柱が立ち上った。
     間一髪、木っ端みじんとなったボートから飛び出すと、ジュラル達は海中へと身を投じていた。水中呼吸のお陰で、移動に苦は感じない。
    (「やっぱり海水浴するには、時期が早いかなぁ……?」)
     泳ぎながら、海水の温度に残念そうな表情をのぞかせる早苗。
     一方、ダブルジャンプを使った京達は、船の残骸などを足場とし、敵のボートに取りつく。だが、敵の出迎えは、一斉射撃だった。
     手荒い歓迎はお断り。ロングコートを翻し、銃弾をかわすジュラル。コートの内より伸びた影の手に縛られたアンデッド兵の一体は、供助の神薙刃を喰らい、攻撃を封殺されたまま、撃破される。
     出鼻をくじかれた形となった敵小隊を、死角から飛来したタシュラフェルのダイダロスベルトが翻弄する。
    「決着がつくまで精々足止めを頑張るとしましょうか。……別に、全滅させちゃっても良いのよね?」
     急角度で迫ったダイダロスベルトに切り裂かれ、あえなく海中に没するアンデッド。
     こちらへ殺到するボートへと、早苗が十字架砲のトリガーを引いた。全方位射撃……光の雨によって、アンデッドの肉体が貫かれ、或いは爆ぜていく。
     負けじと反撃に出たアンデッド達の目が細められた。天に浮かぶ十字架……真琴の元に降臨した十字架から、聖光が降り注いだ。宿敵を討つ機会を得たためか、その輝きは嬉々としているようにも見える。使い手の無表情とは裏腹に。
    「貴方達の司令官の代わりに、精々派手に、散って頂戴」
     言った京の周囲に、様々な怪異が形を成して現れる。数ならアンデッドの群れにも劣らぬ小妖達が海上を跋扈し、敵の四肢や銃器へとりついていく。文明の象徴である兵器と、妖怪との激突は、傍目にはさぞかし奇異な光景に映るだろう。
     そして、新たに一体を制圧したソラリスへ、幾つもの銃口が向けられた。
     ボートを移動し、銃撃から逃れるソラリス。攻勢が弱まった一瞬の隙をついて、体の向きを反転、十字光で射手を穿つ。しかし、銃弾のいくつかは、ホーミング弾としてその身を追う。
     それを阻んだのは、貢だった。自らを盾として銃火を防ぐと、氷炎のつぶてで、敵の軍服や装甲を白く染め上げる。
    (「多数での連携、目的遂行の為の籠城や迎撃――懐かしい程だ」)
     かつての『病院』での戦いが、貢の脳裏をよぎる。これほど千切っては投げ、といった風ではなかったが。
    (「いや、今も――強敵は混じっているか」)
     その視線の先に捉えたのは……鋼の巨体、人甲兵だった。

    ●急襲、増援部隊
     ボートに乗り接近してきた2体の人甲兵に、貢はある種のシンパシーめいたものを感じていた。
    (「俺たち人造灼滅者に似ているのだろう……少しだけ」)
     今のところ、周囲のアンデッドはあらかた排除できている。人甲兵に標的を定め、攻撃を仕掛ける灼滅者達の後方、軍師殿が小さな羽扇を振るった。
    「ナノ」
     すると、仲間の身に残る傷が、ふわふわハートで癒されていく。
     灼滅者側の疲弊を察知し、突破を試みる人甲兵だったが、ジュラルのガトリングガンの餌食となる。炎弾が相手の耐熱防御を突破し、破砕する。
     攻撃後の隙を狙い、別の人甲兵が腕部のブレードを突き出した。が、ジュラルはそれを回避すると、身軽に船上を渡り、逃れていく。
     一方、被弾しながらもタシュラフェルの投じた符が、人甲兵に貼り付いた。構わず進軍せんとする人甲兵の足取りが、途端におぼつかなくなった。心乱す呪の効果が現れたのだ。
    「あとは任せろ!」
     脈度を伴い巨大化供助の腕は、人甲兵のそれにも負けぬ。これまでの攻撃により装甲を損傷した人甲兵が標的だ。互いに放ったパンチが、衝撃波を散らして激突。
     相手の拳を砕いたのは、供助の方だった。鬼神の腕は、そのまま敵顔面部を砕き、とどめとする。
     この戦闘に参加している灼滅者の中には、人甲兵との交戦経験のある者も少なくない。適正な戦力で包囲し、確実に撃破していく。
     ようやく周囲の敵を排除した頃、灼滅者達の乗るボートを、波が揺らした。敵艦艇が、強引に接近してきていたのだ。
     次々と甲板からボートへ移乗して来るアンデッド達。だがその体が、突如、弾かれるように吹き飛んだ。早苗の想念弾がヒットしたのだ。体の一部をえぐりとられ、バランスを崩したアンデッドは、さらなる攻撃を受け、消滅していく。
     更には真琴のレイザースラストを受け、武器を握った腕が宙を舞う。音を立てて落水する頃には、京のサイキックを帯びた歌声が、人甲兵へと届く。物理的な障壁などものともせず、その身を亡ぼす。
     それでもなお増える敵軍。ソラリスが振るった掌に従い、冷たい炎が射出された。
     続けて貢の打撃を受けるも、その衝撃に身を任せる事で距離を取ろうとする……が、霊力の網が、その目論見をもろくも打ち崩す。
     対灼滅者戦力を失い、後退していく艦を、ソラリスが一瞥する。今回巻き込まれた一般兵には申し訳ないが、心配できるほどの余裕がないのも事実だ。恨むならば、そちらの上層部を恨んでほしい。
     ここは戦場。正直、侵略者を助けてやるほど暇でもないし、そもそも、助ける義理もないのだから。

    ●戦いの果てに
     手近な救命ボートの確保に成功した供助が、周囲の戦況をうかがった。圧倒的な戦力もあり、増援阻止作戦は、順調に進んでいるようだ。
    「少し偏り過ぎたかもしれないけどな……」
     とは言え、長時間に渡る戦闘のため、皆の疲労も蓄積してきている。
     周囲に注意を払いながら、ダメージのかさんだ仲間へと、ダイダロスベルトの鎧を飛ばす供助。京も、エンジェリックボイスで自己回復に勤しむ。
    (「あー……あれはー……」)
     水中を警戒していた真琴が、泳いで接近する敵影……人甲兵達を発見した。水中戦用装備というわけでもないのだろうが、そのシルエットはどこか潜水服を思わせる。
     真琴のサインを受け取ったソラリスらが、船上から人甲兵を撃破する頃、こちらの護りを突破して進撃する小型艇を発見した。
     戦場を突っ切ろうと、灼滅者へと銃口を向けたアンデッド兵士の首に、ダイダロスベルトが突き刺さる。ダブルジャンプでいち早く取りついたタシュラフェルが、ベルトを引き戻すと、振りかかる銃撃や水しぶきを弾く。
     人甲兵の一体が大型銃器を構えたのを見て、すかさずソラリスの矢がその額を貫いた。
     次々と繰り出されるサイキック。たとえそれらを逃れても、ジュラルの弾丸の洗礼が待っている。射程から逃れようと後退するが、なお追撃は止まぬ。
     長時間に及ぶ戦いを経ても、淡々と鋼糸を振るう京。その顔に浮かぶのは、疲労の色ではなく、微笑。
    「先には、行かせねえ」
     供助の決意を乗せ、ダイダロスベルトが水しぶきを払って翔ける。四方八方に伸びた翼が、逃れようとする敵を次々と拘束していく。
     十字架砲をギターに持ち替え、早苗がメロディを奏でる。高めたテンションと共に響かせた歌声が、敵の心を直接穿つ。
     戦力の要たる人甲兵を護るべく動いたアンデッドが、真琴と切り結ぶ。サイキックを帯びた武器同士ではあるが、実力は真琴の炎の方が勝っていた。
     護衛を失った人甲兵を、貢の手刀がえぐる。損傷部を突かれた人甲兵は、あえなく機能を停止、消滅していく。
     何時間のようにも感じられた戦いの末……突如として敵軍の動きが停止する。この状況でそのような行動をとる事があるとすれば、
    「きっと、アッシュ・ランチャーを灼滅できたんだね!」
     早苗が歓声を上げる。
     皆と共に安堵を得て、ふと気づけば、タシュラフェルは若干あられもない姿になっていた。年齢不相応に豊満なボディラインは強調されるわ、色々透けるわ……本人はあまり気にしないけれど、周りはどうだろうか。……アンデッドは知らん。
     どもあれ、自分達の目的は達せられたようだ。しかし、残存アンデッドは多い。
    「こんなものを野放しにはしておけない」
     貢が、再び武器を構えた。統制を失ったアンデッド達を放置しておけば、不要な被害が生じるのは間違いない。
     陸上に戻るには、敵を駆逐しなければならないのも事実。真琴は憂鬱さを振り払い、再びサイキックを振るう。
     一息つくのは、もう少し先になりそうだ。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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