決戦アッシュ・ランチャー~東シナ海追撃戦

    作者:るう

    ●エクスブレインからの伝言
    『灼滅者の皆さん、沖縄防衛、お疲れ様でした♪ 統合元老院の軍事行動を本当に止めてしまうなんて、凄いですよ!』
     ラブリンスター・ローレライ(大学生エクスブレイン・dn0244)から沖縄に送られてきた動画ディスクは、ノーライフキングの首魁『統合元老院クリスタル・ミラビリス』の元老、アッシュ・ランチャーの上陸部隊撃退に成功したばかりの灼滅者たちに宛てたものだった。
    『もしかしたら皆さんなら、この勢いでアッシュ・ランチャーを灼滅して、ノーライフキングの本拠地にまで攻め込めるようになるかもしれませんね! そこで……今回の特典映像では、ずばり、皆さんのために最新の未来予測をお送りします!』
     途中、なんか彼女の新曲っぽいフレーズが流れたりもしたけどそれはさておき、彼女の話をまとめるとこんな感じであった。

     アッシュ・ランチャーは沖縄上陸作戦に失敗したとはいえ、いまだ巨大勢力である事に変わりはない。特に彼の艦艇内部は擬似的に迷宮化され、ノーライフキングらによる強力な戦力を擁している事だろう……無論、その迷宮化を解除するためには、主たるアッシュ・ランチャーを灼滅する以外の方法はない。
     そればかりか悪い事に、彼には協力者であるご当地幹部アメリカンコンドルから、『ご当地戦艦スイミングコンドル2世』が合流したようだ。
     そしてその内部には……イフリートとの戦いでの闇堕ち後行方不明となっていた武蔵坂学園の灼滅者、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)が囚われている。今やソロモンの悪魔となった彼女にはエクスブレインとは異なる特殊な予知能力があり、敵に利用されているようだ。

    『まずは、1つずつ詳しく話してゆかないといけませんね』
     ラブリンスターは、まずは敵艦隊の状況を語り始めた。
    『彼らは今、艦隊再編のために撤退の準備を始めてます。放っておいてもこれ以上の戦闘はありませんけど……もちろん、それは次の行動を起こすまではの話。次の侵攻を防いだり、敵本拠地の情報を探そうと思ったら、やっぱり頑張らないといけません』
     学園は、そのための漁船やボートなどの手配はしているという。それに乗って行って帰ってくるくらいなら操縦マニュアルを読めば誰でもできるだろうが、ラブリンスターの説明を聞くまでもなく、民間船が軍艦に近づいてタダで済むわけがない。
    『だからやっぱり……近くまで行ってから泳いでもらう事になるのかな、と思うんです。もちろん、皆さんが沖縄から船も顔負けのたくましい泳ぎを見せてくれると言うなら構わないんですけど』

     ともあれ、そうして敵艦隊に接近したら、撤退準備の整っている西側の艦艇から順に制圧してゆく必要がある。
     各艦には人甲兵とアンデッド兵、そして多くの一般兵が搭乗している。人甲兵とアンデッド兵を灼滅した後、一般兵に他艦の妨害をするよう操船させれば、ひとまずはアッシュ・ランチャーの逃亡は防げるだろう。
     けれど、撤退不可能と気づいた彼は、他艦から配下を集める事だろう。その数、恐らくはアンデッド兵1000、人甲兵が300。この数がボートや水泳で彼の元に集まれば、アッシュ・ランチャーの灼滅が困難になる事は想像に難くない。制圧班とは別に、合流阻止にも人数が必要になろう。
     これで、やっと敵の撃破の準備が整うのだと、ラブリンスターは説明した。
    『その間に強力な親衛隊と戦って、アッシュ・ランチャー自身も倒す班の方さえいれば、全てが解決です! ……と、言いたいところなんですけど……』
     ……そう。紗里亜を乗せた『スイミングコンドル2世』の事だ。
    『ご当地怪人の皆さんは、灼滅者の皆さんが敵艦隊と戦い始めてから、ようやく現場に現れます。それは、事前にアッシュ・ランチャーを救助してしまうと皆さんがスイミングコンドル2世に殺到して大変な事に! ……という予知を紗里亜さんがしていたせいらしいんですけど、そんな予知をしてるくらいですから、彼ら、いいとこでアッシュ・ランチャーを横取りしてく気満々ですよ!』
     すなわち、その妨害のための班も必要になる。上手くゆけばアメリカンコンドルを灼滅できるかもしれないし、スイミングコンドル2世のスーパーコンピューターに接続されている紗里亜の救出――あるいは灼滅――も、視野に入れる事ができるだろう。
     このように、いずれの作戦も重要だ。が、それら全てを成し遂げる事ができたなら……果たして、どれほどの成果になるだろう?
     だからラブリンスターは皆を鼓舞せんと、マイクを握って一礼した。
    『私……皆さんの成功を祈って! 新曲『ウチナー軍艦ブギ』、歌います!』
     あっこれもしかして、さっきの歌……。


    参加者
    斑目・立夏(双頭の烏・d01190)
    レニー・アステリオス(星の珀翼・d01856)
    藤谷・徹也(大学生殺人機械・d01892)
    赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)
    蒼珈・瑠璃(光と闇のカウンセラー・d28631)
    三和・透歌(自己世界・d30585)
    クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)
    シャオ・フィルナート(猫系おとこのこ・d36107)

    ■リプレイ

    ●波間より望む影
     永遠にも思える海上行軍が、ようやく終わりを告げようとしていた。後方の島々の影は水平線の彼方に沈み、代わりに北側に大きく見えはじめる無数の軍艦の姿。
     その船影のいずれかに、元老アッシュ・ランチャーはいるはずだった。彼に沖縄でのツケを払わせるまでは引き下がれないと、水を掻くレニー・アステリオス(星の珀翼・d01856)の腕に力が入ったのがわかる。
     続いて泳ぐのは赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)。ふと後ろを振り向けば、乗り捨てた船の姿は遥か波の先。その甲板を再び踏まぬ覚悟が必要ない事を、碧は妖刀『黒百合』に願いつつ。
     その間にも、艦隊は次第に近づいていた。今だ……海上すれすれを飛行していた三和・透歌(自己世界・d30585)の箒が浮かび上がって、手近な一隻を狙わんとした。
    (「逃げようとする相手への追い討ち、それも一般人まで含むなんて珍しい状況……しっかりと楽しんでおきましょう」)
     ぐっと高度を上げてゆく。その後部に跨って、クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)はロープの束を握りしめている。
    (「速やかに甲板からロープを下ろし、皆を引き上げる。勝って皆で学園に戻り、目の前の船にいる人たちも皆、『日常』へと帰すには、それが最良の方法だ」)
     それは決意、あるいは誓いであろう。だから、それを実現へと導くために、彼は今や眼下に見えるようになった甲板を睨みつけ……その時、彼の耳に飛び込んでくる声!
    「いけません……そんなに高く飛んでは、奥の艦から狙われます」
     それは紛う事のない、大切な蒼珈・瑠璃(光と闇のカウンセラー・d28631)のものだった。
     波間の瑠璃は力強く、ロケットペンダントを胸に抱いている。反射的に透歌とともに水中へと身を投じた、その贈り主の身を案じながら。
     直後、サイキックの銃弾が頭上を通過していった。幸いにも大事には至らなかったとはいえ……複数艦から集中攻撃される危険が判明してしまった以上、飛行という最も簡便な侵入方法を取り辛くなってしまったのも事実。
    「皆を、助けられるのかな……」
     シャオ・フィルナート(猫系おとこのこ・d36107)の心がきゅっと痛んだ。こうして作戦が遅れるだけでも、誰か罪なき人々が傷つかないとも限らないのに……すると。
    「問題ない」
     不意に大きな波が立ち、彼の頬を撫でていった。驚いたシャオが波の来た方向を見れば、藤谷・徹也(大学生殺人機械・d01892)という名の精悍な戦艦が、クレンドから回収したロープのうち半分を抱えて海原を往く。
    「ならば、次の方策を実行するだけだ」
    「ああ、徹也の言う通りだね」
     ついに標的の船に取りついた徹也の足が、外壁を踏みしめた。続いて、残り半分を手にしたレニーの足が。いずれも海面から伸びた幾本ものロープを、必ずや目的地まで運ばんと!
     じきに、二人の姿は甲板上に消える……続いて銃声が鳴り始めたのが下からでも判った。
     が、そのいずれがサイキックによるもので、いずれが一般兵によるものか、今しがたロープに掴まったばかりの斑目・立夏(双頭の烏・d01190)には判断がつかない。ただ一つ言えるとすれば……こんな場所でゆっくりとしていたら、彼の親友にして相棒たる男は、その身朽ち果てるまで戦い続けるだろう事!
    「徹やん……待ってろや!」
     見えぬ場所でロープを支える徹也の感触が、立夏を、何よりも強く呼び返していた。

    ●待ち受ける死者
     甲板に顔を出した立夏の頬を、一発の銃弾が掠め飛んだ。
     待ち構えるように半円形に乗船地点を囲う一般兵。彼らに号令をかけながら、自らも銃撃に加わるアンデッド兵どもは、決して見えるだけが全てではないだろう。加えて彼らのずっと奥では、人甲兵の巨大な影がゆっくりと稼動を開始して、早期の合流を目指している。
    「来るで、徹やん」
     息を呑んで警告を飛ばした立夏の方を、徹也が見たかは判らない。直後……無数の銃声が響き渡って、彼の肉体を血に染めたから。
     何かの言葉を発する徹也。声は戦の音に紛れてはっきりとは聞こえなかったが、決して悲鳴ではないと立夏は知っていた。
     沖縄で嫌というほど使った降伏勧告の中国語文は、数十人分もの被弾を受けて平然とする男が発すれば、一般兵らに隠しきれぬ動揺を誘う。
     それでも彼らは上官らの手前、戦意を喪失する事など許されぬのだ。
     もっとも、『許されぬ』と『せぬ』は雲泥の差であった。改めて甲板に降り立った透歌の髪が、海風に吹かれて輝きなびく。そして……無造作に伸ばした指先から超常的に具現化される、一台の一輪バイクの姿……『ウェッジ』。
    「死にたくなければ下がりなさい……私を愉しませてくれると言うなら構いませんが」
     真っ直ぐに向かいくる彼女に銃を向ける勇気があるのは、今やアンデッド兵しかいない。彼らがその任を全うせんとした瞬間……そのうち一体の銃口が、数発の銃弾に弾かれ天を向く!
     その隙を作った主であり、戻ってこようとする銃身をすぐさま滑りこむように抑えつけたのは、レニーの握る拳銃だった。慌てて片手を銃から離した敵の手が腰の軍刀に伸びるより早く……彼の膝は、既にアンデッド兵の胸骨を砕いている。
     無論、死者にとってはそんな傷、ただの肉体的損傷にすぎなかった。せいぜい、躊躇いなき強烈な衝撃が、彼の手が柄を掴むのを遅らせるくらい……が。
    「……残念だったな。その一瞬こそが本当の『致命傷』だ」
     その時、碧の黒百合が円弧を描いた事を、アンデッド兵は果たして認識できていただろうか? 彼が軍刀を抜いたと思った時には既に、彼の両の上腕から先は、胸から下ともども泣き別れていた。
     そして、勢いで舞い上がった腕だけが……碧の傍に控える『月代』の横を掠め、くるくると回りながら海原で水飛沫を上げた。

    ●艦上の戦い
     早くも上官の一人を失った事は、一般兵たちにも大きな影響を及ぼしていた。ようやく駆けつけた別のアンデッド兵が、すぐさま抗戦を呼びかけはするものの……兵士らの行動はいまいち遅い。
    「何故僕は、君のような可憐な人と戦わなければいけないんだ……!」
     瑠璃の通訳が正しかったなら、投降を呼びかけるシャオの姿を見た兵士の一人は、そう叫んで頭を抱えたようだった。
     突如目の前に現れた、憧れの日本アニメを思わせるメイド。小さな黒蝶の羽にモフモフきつねしっぽを備えた彼女(?)が両手を胸の前で組み、上目でお願いポーズをしているのだから……おお、芸術に敵味方も国境もあるものか!
     ……シャオ、偽娘(おとこのこ)だけど。
     が、そんな効果にもかかわらず、瑠璃としてはこれ以上通訳にばかり気を取られるわけにはゆかなかった。
    「彼ら、上官はアンデッドだから従うな、という話の方には全く興味を見せた様子はないのですけれど……通訳を続けた方がよいのでしょうか?」
     意識は惹けども効果は微妙。その間、アンデッド兵は増える傍から斃れてゆくものの、既に人甲兵もその巨体を振るい始めて、強烈な一撃をクレンドへと浴びせかけている。
     戦いはこの船でだけ済むものではないと、瑠璃はよく知っている。だからクレンドが毀れてしまう前に、彼女は、そろそろ戦いにも身を入れねばならぬ。
     なのに、当のクレンドは、振り返りもせずに瑠璃を呼ぶのだ。
    「俺の事なら余裕は十分だ。代わりに兵たちに、『俺たちはこの無益な戦いを終わらせに来た』と伝えてやってくれ」
     音を立てて軋む真っ赤な『不死贄』で人甲兵の腕を押し返す彼には、目の前の敵の灼滅、一般兵の納得ずくの説得、いずれを捨てる選択肢もない。戦いも兵士の説得も、どちらも捨てるわけにはゆかぬ。
     が、灼滅者たちがいかに言葉を重ねても、兵士らは目の前で繰り広げられる戦いにただ戸惑うだけだった。
     曰く、上官たちは人でなく、動く死体という化け物である。
     曰く、この戦いは正規のものでなく、人外を利するためのものである。
     もしも兵士らに冷静な俯瞰的視点さえあれば、そのどちらもが真実であると判っただろうに! けれど、恐ろしいまでの上官らの戦いぶりと、それすらも連携して次々に圧倒する敵を前にして落ち着けるほど、兵士らは闇の世界を知りはしない。
     が、盲目的に上官に従いもしない。
    (「一番大切な事だけは、伝わったのかな……?」)
     その事だけが、シャオをほっとさせるのだった。
     兵士たちが遠巻きから戦いを見守ったまま、誰も傷つかずにいてくれるなら、シャオも安心して仲間たちの援護に注力できる。ESPのために着たこのメイド服も、これでその甲斐あった事になる。
     一方で、邪魔な兵卒のいなくなった空間は、人甲兵にとっては格好の暴れ場所となっていた。その凶暴なアームはアンデッド兵と交戦中の徹也の体を、これでもかとばかりに叩き潰さんとする!
    「徹やん、上や!」
    「承知した」
     咄嗟に庇った徹也の腕を、ざくりと裂いた人甲兵。けれど、裂かれたのが自分で良かったと、徹也は警告を飛ばした相棒を想う。
     たとえこの身が滅びようとも、相棒を敵に傷つけさせやしない。さあ、今のうちに全力を出せ。
     そんな意志は言葉に出すまでもない。だから立夏は拳を握る。強く、その腕に筋が浮き出るほどに!
    「徹やん、任せとき! わいは徹やんとは違う形で徹やんの背中を護っとくさかい、気張ってきや!」
     もう一度徹也を狙おうとしたアンデッド兵の頭部が、ぐるりと一回転して捩じ切れた。
    「こいつで……終いや!」
     彼が立夏の相棒を傷つける機会は永遠に失われ、徹也は人甲兵にだけ注意すればよい。
     そう……人甲兵にだけ。
     この船のアンデッド兵たちは、この頃には全て灼滅されていたようだった。そして強大な人甲兵すらも……最早、その運命は尽きかけている。
    「折角状況が変わったというのに、彼らは沖縄の時と変わりがありませんね」
     灼滅者たちに囲まれた人甲兵の抵抗は、せめてもの、という言葉がお似合いだった。それを冷ややかに眺めると、幾つかの魔法弾を投げつけた後に、つまらなさそうに透歌は髪をかき上げる。
     全体として見れば折角の追撃戦も、戦い始めれば結局のところ以前と同じ敵。そんなのを何体倒したところで、彼女の退屈を埋めるには至らない。
    「そうだね。人甲兵も相変わらず厄介だけど――」
     頷いたレニーの細身の身体は軽やかに空中を駆けた。そして……振り回される巨大な腕を掻い潜り、その関節部をこじ開けるようにガンナイフを突き立てる。
     そして、そのまま跳び越える要領で敵死角へと離脱。
    「――どうやら、コツを掴んだみたいだ」
    「ああ、間違いない」
     その時にはレニーと入れ替わりに、碧が懐に潜り込んでいた。この位置で自らの寄生体の力を解放すれば、黒百合を飲み込んだ彼の右腕は、違わず超武装の腹部装甲を蝕んでゆくに違いない。
     溢れ出てくる眩しい光。それを人甲兵が止めんとするのなら方法は一つ……同じく至近距離からの銃撃で、寄生体を碧もろとも吹き飛ばす事!
     けれども、碧へと突きつけたはずの銃口は……直後には明後日の方向へと捻じ曲がる! 赤く輝く不死贄は、クレンドの雄叫びにも似た決意を受けて燃えるから!
    「俺の……俺たちの誓いの強さは、魂なき肉塊ごときに敗れはしない!」
     それを受けて瑠璃の祈りも高まってゆく。指先に絡めた布帯は、何よりも強く固くなり。その帯は幾度もの攻撃の中でひしゃげた超武装の隙間へと吸い込まれ……ようやく人甲兵は動きを停止する。

    ●戦果
     ……しばらくの後。
     海域には、幾つもの艦船の残骸が漂っていた。
     少しでも他艦の移動を阻害する位置まで動かされた後、再利用されぬよう機関を破壊された船。その数は果たして幾つになるだろう? 総数は定かでないものの、少なくともこの班の手によるものが既に2隻。
    「ここも……同じくらいか」
     手近なアンデッド兵を黒百合で斬り伏せながら、碧は素早く辺りに目を遣った。
     見えたのは、ご多分に漏れずに人甲兵。それと、他艦にいたのと同程度の数のアンデッド兵。
    「3隻目ともなってくると……流石に出迎えも勢揃いだな」
     だが、そんな事を思わず呟いた脇で、すぐに透歌の紡いだ術式が、一斉掃射で反撃してきた敵兵のうち一体を貫く。
    「退屈はしなさそうで何よりです」
     じきに、この船も制圧できるだろう。けれど……この調子で本当に敵首魁の撤退を阻止できるのか? そこまでは、さしもの灼滅者たちにも判らない。
     レニーは辺りを見回してみた。
    (「決して遅くはないはずだけど……他の撤退阻止班は、今頃どうしているだろう?」)
     すると……運命の女神は彼らを嘲笑うのだろうか? 今まで停まっていたはずの艦船のうち幾つかが、ゆっくりとした航跡を描いて移動し始めている!
    (「しまった、もう少し数か速度を確保するべきだったか」)
     だが後悔は後でいい。今灼滅者たちのやるべき事は、少しでも早くこの船を確保して、次の行動へと確実に繋ぐ事!
    「放下武器(ファンシァウーチー)!」
     一言、一般兵らを威嚇した後、敵陣の中央へと突貫する徹也! その身の無事を希い、後方から援護とともに危険の在り処を伝える立夏の声は……必ずや、徹也まで届いたに違いない。
     それでも制圧が進んでゆく間、続々と発ってゆく敵艦隊。彼らの離脱を止めるなど、兵らと言葉を通わせる事のできる瑠璃であっても、一体、どうすればできるのだろう?
     自らの無力が最悪を招かぬ事を願い、ロケットを握りしめた時……耳に、激しい爆発音が飛び込んできた。

    ●アッシュ・ランチャーの影
     手早く戦闘を終わらせて音の方を見れば、煙を上げて傾いてゆく離脱艦。
    「まさか……敵の撤退を防ぐため、船を砲撃した奴がいるのか!?」
     果たして、何人の一般兵が犠牲になるだろう? 今やその方法しかない事は、クレンドも十分に理解していた。だが、まさか本当にそれが必要になるとは……。
     その後も、次々と撃沈されてゆく離脱艦。今のシャオにできるのは、救命ボートで脱出してくるだろう兵士らを一人でも多く救うため、兵士らに、攻撃がひと段落ついたら船を動かしてくれるよう頼む事くらい。
     船上では、誰もが息を潜めていた。次に、あの砲火がこちらを向かないようにと。
     そして、固唾を呑んで見守っていた。この唐突な戦いが、果たしていつ終わるのかと。
     それは、実際にはそう長くはなかったのだろう。だが、永遠にも思える時間が過ぎた頃、ついに新たな状況が動き始めた。
     砲火をものともしない艦が駆けてゆく。それがアッシュ・ランチャーのサイキックの力であろう事は、闇の力を知る者にとっては想像に難くない。
     それを一隻の艦が追い、自爆的な体当たりで止めた後、果たして群がってゆく灼滅者たちは、強敵を討ち取る事ができるのだろうか?
     答えは……じきに出るはずだった。

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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