決戦アッシュ・ランチャー~此方の暗翳

    作者:菖蒲

     沖縄に攻め入る莫大な数の兵たちを退けることに成功した灼滅者達へと齎された『次のミッション』は好機と呼ぶに相応しいものだった。
     エクスブレインがこの場を訪れることはできないが最新の予知情報をディスクにしたので安心して欲しいと灼滅者は言った。
    「沖縄で勝利したら次がある」
     人甲兵が沖縄に上陸作戦をした際、不破・真鶴(高校生エクスブレイン・dn0213)は『勝利することでアッシュ・ランチャーに届くはずだ』と言っていた。
     その結果なのだろう。これより行われるは『統合元老院クリスタル・ミラビリスの元老』アッシュ・ランチャーの灼滅作戦だ。
    「アッシュ・ランチャーと戦えばノーライフキングの謎ばかりな状態に進展がでる?」
     誰ぞが言った。
     その言葉は確かなもので。統合元老院クリスタル・ミラビリスの本拠地も、彼らの戦力も未だ計り知れないものがある。
    『危険だと思う――相手の戦力は未だ強大で、決して簡単に侵攻してほしいとは言えないの』
     ディスクの中で念押しする真鶴の声は僅かに惧れを孕んでいた。
     ノーライフキングと協力体制にあるご当地怪人の移動拠点『ご当地戦艦スイミングコンドル2世』がアッシュ・ランチャーの率いる軍勢と合流したことも現時点で発覚している。
    『ここでアッシュ・ランチャーを倒すには彼の乗っている艦艇に乗り込まなきゃならないの。
     でも、彼の艦艇は疑似的に迷宮化。アッシュ・ランチャーを灼滅しなくちゃ迷宮は破壊できず、内部にはノーライフキング達の護りがあるから……攻略は、難しくなると思うの』
     疑似迷宮の中にある強大な戦力を掻い潜りアッシュ・ランチャーを倒す。
     それがどれほど危険な事かは分かっている。だが、此処で取り逃がせばアッシュ・ランチャーは沖縄での上陸作戦と同じことを繰り返すだろう。
    『ここで――灼滅、しないと』
     それが必要不可欠なことは、誰しも分かっているはずだった。
     そこまで話した後に言い辛そうに合流したスイミング二世について触れた真鶴は『彼のそばには、』とたどたどしく言葉を紡ぐ。
    『彼のそばには闇堕ちしてから行方不明になってた椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)さんがいるの』
     彼女は闇堕ちしたことによりエクスブレインとは違う予知能力を取得している。その力がノーライフキング達に悪用されていることが一目瞭然だった。
     囚われとなった彼女の救出が最善だが、未来予知を敵が所有するのは危険に他ならない――最悪の場合でも灼滅を考えなくてはならないだろう。

     現時点でアッシュ・ランチャー艦隊は、艦隊を再編成しゆっくりと撤退準備を行っている。
     これだけ大規模な艦隊が簡単に動き出せるわけもなく、追撃すれば大規模な襲撃を掛けることが出来るだろう。
     沖縄の海――遠くを見ればその姿は茫と視認できる。
     こちらから戦闘を行わなければ相手は撤退するが、今後の『同じことの繰り返し』を防ぐためにも。
    「いくしかない」
     その為にはまずは相手艦隊へと飛び込む算段が必要となる。
     漁船、ボートも準備はしているが相手艦隊からの攻撃にそれが耐えられるわけがない。漁船やボートの操縦方法のマニュアルは準備済みだ。それを元に可能な限り接近し――撃沈された後は灼滅者のみで潜入し内部制圧を行う必要がある。
     最初から泳ぐこともできるが――だが、それよりもボートや漁船の方が迅速に接近することが叶うはずだ。
    『アッシュ・ランチャーの動きについて説明するの。
     彼は撤退可能になった艦艇に移乗して戦域からの撤退を考えてる』
     この撤退を阻止するには艦艇の外側――撤退準備が整った艦艇を優先的に制圧する必要がある。
     艦艇には人甲兵、アンデッド兵、一般兵が乗っている。人甲兵とアンデッドを殲滅し、ESPを使用して一般兵へと他艦艇の邪魔をする様に艦艇を移動させるように指示をする。
    『退路を防いで、アッシュ・ランチャーと戦うの。
     彼は艦隊の人甲兵、アンデッドを集めて護らせようとすると思うの。
     アンデッド達は救命ボートや泳いで集結しようとするから集結する戦力の阻止も必要だと思う』
     アンデッドは1000体弱、人甲兵は300体程度。これを事前に防ぐ為の何らかの準備も必要だ。
     そこまで作戦が進めばアッシュ・ランチャーの艦艇へと攻め入ることが出来る。
     彼はノーライフキングの首魁の一員。親衛隊ともいえる強力な人甲兵を引き連れているために撃破には相応の戦力が必要だ。
     撤退阻止。
     増援阻止。
     そして、アッシュ・ランチャー及び護衛の撃破。
     その三作戦を同時に成功させることが必要不可欠となる。
     そして、気がかりなのがスイミングコンドルだ。
     最初から、スイミングコンドル2世にアッシュ・ランチャーを避難させた場合、灼滅者がスイミングコンドル号に押し寄せるため、スイミングコンドル2世は自身の制圧を防ぐ為に『紗里亜』の予言を元に『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱したところ』での介入作戦を行うようだ。
     何か対策を立てなければアメリカンコンドルとご当地怪人の軍勢が押し寄せアッシュ・ランチャーを奪われてしまう事だろう。
     これの阻止にはスイミングコンドル2世への対策も必要となる。
     スイミングコンドル2世との戦いでは条件が合えばアメリカンコンドル灼滅の可能性さえある。
     そして――スーパーコンピューターに接続されて予知を行う装置として利用される『紗里亜』の救出や灼滅も叶うはずだ。
    『敵は強大で、とってもとっても強いの。……でも、どうか諦めないで。皆なら大丈夫なの』
     どうか、無事に帰ってきてねと真鶴は願う様に言った。


    参加者
    空井・玉(リンクス・d03686)
    穂都伽・菫(煌蒼の灰被り・d12259)
    御門・心(日溜まりの嘘・d13160)
    月姫・舞(炊事場の主・d20689)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)
    穂村・白雪(自壊の猟犬・d36442)
    鏑木・螢(英雄未満・d36759)

    ■リプレイ


     潮騒がする。動乱と、僅かな興奮を交えた海音は昏く揺さぶり乍ら灼滅者達を前線へと押し出した。
    「本番、なんだよな」
     船のモーター音を聞きながら鏑木・螢(英雄未満・d36759)は手にしたダイブトランシーバー――少年にとっては随分と財布に打撃を与える物品――をぎゅ、と握りしめる。学園経費だよなと呟きながらも実感の湧かぬ決戦に僅かに声を震わせた。
    「途方もない位に本番で、敵は強く、状況は困難で、敗北は許されない。
     それでも『私達にとってはいつも通りだ』。そうだね、クオリア――いくよ。『Release』」
     状況が譬え絶望的であれど、譬え困難を極めようとも灼滅者として赴く以上は敗北は許されない。
     操舵を担う空井・玉(リンクス・d03686)は表情を得ることなくその両眼に混乱極める前線の様子を映しこんだ。
     索敵係として空中に躍り出ていた穂都伽・菫(煌蒼の灰被り・d12259)は周囲の仲間たちと認識を共にする。空中での索敵のメリット・デメリットを考え得るに危険を伴う事は一度の索敵で十分に理解された。
    (「状況は……あまり、芳しくないでしょうか」)
     淡い灰の髪が潮風に大きく靡く。白の外套を纏うリーアは警戒するように周囲を確認する仕草を取る。
     菫の夜色の両眼は確かな状況を映し、仲間たちと共に学園へと帰る為の最適プランが浮かんでいた。
     アッシュ・ランチャーが始めた撤退を追い掛け叩く方針へと変化した戦況の中、縋るが如く有象無象が集い重なる。戦艦をぶつけ、撤退の一時阻止を行う事となった事でもプランの変更はないのだと月姫・舞(炊事場の主・d20689)は両の掌に力を込めた。
    「菫さん、私たちは『相手を倒せば』よろしいですね?」
    「はい、……アッシュ・ランチャーに向かった皆さんの為、ここで押し留めましょう」
     敵軍の数は圧倒的だ、それでも。
    「逆境と呼ぶには温い」
     少女は堂々と胸を張る。御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)は眼前に『湧いた』有象無象を蹴散らさんと船の上へと躍り出た。
     その背の向こうには広い海が広がっている。その背の向こうには強敵がいる。
    「我らが雑魚共を食い止めることで首領へと灼滅者の刃が届くのだ」
    「嗚呼――嗚呼! 俺達が此処で食い止めてやるぜ」
     シャン、と音立てた鎖一つ。死と腐敗、碧い海より尚も輝く火柱の名を冠しソレはアンデッドを薙ぎ払う。
     穂村・白雪(自壊の猟犬・d36442)は無線機の使用が制限されていることに気づき小さく舌打ちを漏らす。
    「妨害か」
    「敵も莫迦ではないという事でしょう」
     小さく息を吐き出して、御門・心(日溜まりの嘘・d13160)は紫の瞳を細める。弱者を救うためならば何だってした――ならばこの現状ならば、「私達の立場こそ、弱者……そうでしょう?」
     妨害された無線機。周辺の仲間たちは視認できうる限りしか連絡の取りようもない。どちらが不利かなど聞くまでもないと痩鬼は小さく笑う。
    「後始末です。いやぁ……私が『そっち側』でなかったこと、恨んでくださいね?」


     飛沫が頬を擽り、レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)は僅かに眉を寄せる。双眼鏡で見える範囲には死骸と呼ぶに相応しい軍勢が文字通り動き回っていた。
    「……死体の分際で。なめるなよ、俺達を」
     唇が釣りあがる。
    「逆境? ――この位、屁でもねぇっての」
     道楽者は表舞台を支える如く、舞台裏(このばしょ)で銀朱をくねらせた。
     船首に当たる弾丸を跳ね退けるが如く飛び上がり、死骸の群れへと牙を剥く。一つ、その動きを縛り上げながら彼は小さく舌打ちを漏らした。
    (「前線へ向かうまでなく、此処で食い止めなければ」)
     指先を顔の位置まで持ち上げて、黒髪が無い事で僅かに透かした感覚を経た玉は僅かに肩を揺らす。過去の自分(くろかみ)の場所からだらりと指を落とした後、彼女は黒のリボンをアンデッドを捕まえ離さない。
     僅かな所作のみ、唇は噤んだままで玉は遷ろう景色を眺めて目を細める。
     鮮やかな海の上、幽霊船とでも呼びたくなる程に怨霊たちの怨嗟を乗せて進む船を叩き落さんと彼女が猫のように靭やかに跳ね上がる。
     狙い定めた玉の一撃を追い掛けて前線へと飛び込む白雪が「クトゥグァ!」と声を張り上げた。
    「さァ、命を燃やすぜ」
     烈火のごとく赫々と血潮を燃やして白雪は唇を釣り上げる。
    「此処から先、通りたきゃ俺を殺してみせてくれ」
     ――誰かが傷つくならば、自分が幾らだって傷付いて見せる。
     赫々燃えたその血潮にぞ、と背筋をなぞった冷たい感覚に螢が燈の小さな手を握りしめる。
    「燈」
     周囲には沢山の仲間がいて、この日が大事なのだとその身で理解しているはずだ。
    「わかってる」
     それでも、屍王の存在を背に感じながら前線の死骸を相手にするのは恐怖心を感じさせて。
    「わかってるんだ――絶対に、手を、離しちゃだめだぞ」
     花を摘みに行ったその日のように。
     震える螢の傍らで百々はゆっくりと目を伏せった。彼の言葉は分かる。恐怖とは人間の感情に必ず存在しているものだ。故に、彼女は誰かの恐怖(はなし)をその身に取り込んだ。
    「惧れは我が飲み喰らおう。故、見るがいい!」
     呪い武者の足元から影が悠々と伸び上がる。惧れは当に百物語(しょくじ)と化した。
     百々の影に背を押されるようにレオンは「ハッ」と息を吐き出した。
    「ハハッ――アハハハッ! 面白い! さぁ、歌えセイレーン!」
     その胸の高鳴りは苛烈に襲い来るアンデッドをその両眼に映しこんだからか。
     ステップ踏んで前線へ躍り出たレオンは破壊者の如く、異形の錫杖を鳴らし続ける。空気切り裂く一撃にふわりとその身を泳がせる心がリズミカルに銃弾を連射すれば、その音に踊る様に舞が小さく会釈を見せる。
    「何の感慨もありませんが死んでください。この先、貴方方の行く場所はありません」
     冷酷な一声と共に、風が巻き上がり、海上の空気が冷える。
     彼女の周囲を取り囲むは一般兵。無力化が為に心とレオンが言うは「海に飛び込んでいろ」という指示。
     周囲から水飛沫が立ち、海の中で漂う彼らを見下ろす百々は増援の阻止が容易でないことを瞬時に察知した。
     乱戦状態に持ち込めば、数の暴力に襲われることは承知している。走り出しそうになる両足に『護る対象に自分も含める』と言いつけるように菫は息を吐く。
    「リーア、護りましょう」
     自分なんてどうなってもいい――なんて。
    「……『全員』で帰るんです」
     悲喜劇作家は今は暫しの眠りに落ちた。今あるのは喜劇を求める少女一人。
     菫の声音にゆるりと頷くリーアは主人の心を映しこむ影と共に只、守護の盾となる。


     ざァ――吹き荒れた風は朝の気配を多分に孕む。胸の底から湧き上がった恐怖心を拭った螢は眼前で笑みを溢しながら戦い続けるレオンの背を見つめ続ける。
    (「最高の戦果を残して見せるんだ――!」)
     蹴撃を放ち、その身を捻った少年の背後で『敵』の動向を見据えた小さな少女がこくりと頷く。
     亡者が蜘蛛の糸に昇るかの如く、船首へと攀じ登らんとする屍を薙ぎ倒しながらレオンが振り仰げば百々は小さく頷く。
    「一兵でも多くここで滅ぼしてくれようぞ。我が物語の前に散れ!」
     その言葉と共に姿を揺らすは出刃包丁を手にした幽霊。柳の下に、という話はよく聞いた。百々の唇が辿るのは『よくある女の末路』の話。
     血濡れた物語は毒素のようにアンデッドの躰を支配した。胸の内へと深く刺しこむ様に『女』の刃は鋭く光る。
     その煌めきを受け止めて、くるりと方向を転換した玉は懐に仕舞いこんだ木製手鏡に確かに振れる。
    (「ここだ」)
     ゆっくりと持ち上げた茨を纏った十字が淡い光を浴びて只、狙いを定める。
     華奢な少女の細腕は巨大な兵器に翻弄される事なく淡々と敵を滅した。
    「クオリア、次だ」
     淡々と敵を倒し続けるのは心とて同じ。その『こころ』の置き場所がこの戦いにないのだと彼女はよく理解していた。戦功も勇猛も、何もかもが必要なく、義務感のように相手を滅する――こどもが言われたままに後片付けをするように。
    「ふふ、」
     お楽しみは此処にはないという様に痩せぽっちの少女は踊り続けた。その存在を両目に映すまでは。
    「おでましですか?」
     淡い紫は硬質的な姿を捉える。巨大な兵器は灼滅者へと狙いを定め、義務のように攻撃の手を振り翳した。
    「デカブツを通すわけにはいきませんね?」
     向き直れば、人甲兵はそこにある。殺し愛の相手にするにはナンセンスだが、それでも楽しめるのではないかと感情表現(ころし)の為に舞は前線へと躍り出た。
    「舞。いいぜ、やっちまおう」
    「ええ、ええ……有象無象が鬱陶しい、纏めて消えてしまいなさい」
     レオンの放つ一撃に続いて舞は毒霧の中でステップを踏みしめる。
     鈍い音立てぶつかり合った鉄と影。鞄の中からぞろりと覗く影をそのままに衝動映した瞳が爛々と光を帯びた。
     硬質の感覚をその掌に感じることなく遠距離からの攻撃に徹する玉はその塊を効率よく仕留める事に尽力する。
    「死体の群れが海に落ちると地獄絵図に見えるね?」
    「地獄の亡者はしつこいのがセオリーだ」
     首を小さく傾ぐ玉に白雪が唇を釣り上げ嗤う。アンデッドを海へと落とした玉の行動を見つめ、船体から昏い水面を眺める白雪は赫を纏って小さく笑う。
    (「『私』なら怖がっていただろうが、俺は怖くない」)
     ホラーテイストな状況さえも、己が逆境に居るのだと感じて心が躍る。
     前線で鉄を殴る感覚さえもが愛おしい。自殺願望(ねがい)がその身を焔に包み、白雪は唇で弧を描いた。
     襲い来る人甲兵の一撃に細い躰が船の上へと投げつけられる。背骨の軋む感覚に唇を噛み締めた少女の上を擦り抜けてレオンは伸び上がった悪鬼を撓らせた。
    「勝利に勝るものは無し」
    「そして、殺し合い程感情を見せる事もなし」
     レオンの言葉に舞が続き、柔らかにスカートを持ち上げた。殺してみせると、笑みを深めながら。


    「これでもッ」
     歯を剥きだした。空気の感覚が冷たく歯茎まで伝わってくる。
     滴る焔を気にすることなく白雪は仲間達を背に、只、血と焔をその身に纏わせる。
    「喰らえよ、屍野郎」
     吐き捨てたその声は『命』の重さを感じさせて。
     小さな身震いと共に失わぬ様にと祈りを捧げる菫の想い一匙が只、仲間を鼓舞し続ける。
    (「此処で持ちこたえれば」)
     前線に向かった仲間の動向が見えぬことが悔しくて。
     どうか、全員が無事だったと笑ってくれるようにと。
    (「私達がここでアンデッドを抑えられれば――!」)
     自分に課せられたミッションがどれ程の重たさかは身に沁みている。
     悲劇は要らないと首振って、菫は仲間を送り出す。想いの置き場を見つけぬままに「がんばって」とだけ、一つ唇に乗せて。
    「ッ、先輩」
     菫を呼ぶ螢の声に彼女は小さく頷く。
     癒しを求めるならば、幾らだって――それで、皆で帰ろう?

    「ここで勝たずして何が英雄か!」

     鋭い声を上げた百々が纏う怨嗟(よろい)が軋みを上げる。
     細い躰が悲鳴を上げて、だらりと下げた腕を上げれば眼前の兵器は『笑っているかのように感じられた』。
    「燈」
     英雄になってみせたいと願っていた。
     英雄になって、妹をもう一度守るのだと――だから、見ていて欲しい、あかり。
     震えている場合じゃないと螢が放つ一撃に燈が重ねる。
     兄妹のそれを目で追いかけて白雪は『亡くしたもの』を思考の縁へと置きながら走った。
     依然として存在する鉄の塊を殴りつければ、ぐらりと傾ぐ。
    「他愛もない」
     呪いを帯びた鎧をがしゃりと重く鳴らして百々は小さく言った。
     幼い少女のかんばせに乗せた不敵な笑みは鎧武者そのもので、怨嗟を纏い呪いを口にすればいつの日か聞いた噺と邂逅を果す。
    「我が噺の一遍にもならぬ雑魚共が」
    「ええ、本当に――雑魚がわらわらと集まるのも……」
     百々が『どこかへ行け』と一般兵に伝えながらも戦い続けた結果であろうか。屍と人甲兵の相手を正面切って行えるという好機に心は只、『義務のように』熟し続けた。
    「相手が悪かったですね」
     殺す事に何の感慨も持たず、心は向ける先のない力を解放するように命を刈り取り続けた。
     終わった命をもう一度。その重さを受け止めきれないと蒼褪めた顔をする螢の傍らで菫は「これが、救いとなるならば」と一つ、瞬いて見せた。
     明るく楽しく、只、前を向いて進むために――自己犠牲はもう必要ない。誰かを救い、自らも救い、そして幸福の中で笑っていられるように。
    「リーア、もう一度です……!」
     眼前の相手を受け止めて、リーアがその身を僅かに傾がせる。その頭上より顔を出したレオンがそのかんばせに満面の笑み乗せて兵器を殴りつけた。
     揺らぐ人甲兵の合間を縫って、駆動音を立てて前進するクオリアは心を庇い音たてる。
    「クオリア」
     玉の声音に自己を癒して幾度も前線へと飛び込むライドキャリバーは屍の血潮を踏み締めた。
    「これで終わりにしましょうか」
     淡々と告げられた舞の言葉に白雪が小さく笑う。
     その巨体が軋み、壊れて海へと落ちてゆくその様を鎖の向こうで見つめれば、海は泥のように昏く影を落とした儘。


    「――なんとか」
     その言葉は、誰彼無しに口にした。
     動きを止めた屍の群れは己が主が灼滅されたことを風で悟る様に顔を上げる。
    「そうか、首魁を討ったか」
     百々が言うその言葉には、としたかの様に螢は顔を上げた。
    「アッシュ・ランチャーが、」
     灼滅された、と誰かの声が聞こえた気がして菫はゆっくりと顔を上げる。
     蒼い海の潮騒を聞きながら、燈の手を握りしめた螢は「勝った……?」と確かめる様に口にする。
     増援に、向かわんとしていた敵の士気が下がっていくことで高揚した身体から熱がすぅと抜けていくようで。白雪は「勝ったんだな」とぼそりと呟いた。
     それでも眼前には無数の死骸が蠢いているのだから。
     僅かに眠たげに瞬いて、心は「本当に……私がこちら側なのを後悔してくださいね」と呆れた様に小さく呟く。
    「さて、もう一仕事と参りましょう? ――私に、殺されてください」
     踊る様に、舞はその中へと飛び込んだ。その海は未だ、静寂を知らない。

    作者:菖蒲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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