決戦アッシュ・ランチャー~選択の時は来たれり

    作者:陵かなめ

    ●決戦アッシュ・ランチャー
     最新の予知情報を元にした依頼説明ディスクが再生された。
    「みんな、沖縄に攻め寄せた軍勢撃退の成功、本当にありがとう!!」
     スクリーン越しの千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)がほっと笑顔を見せる。だが、それもつかの間。太郎は表情を引き締め説明を続けた。
    「それでね、アッシュ・ランチャーを灼滅するチャンスを得る事ができたんだ!」
     説明によれば、統合元老院クリスタル・ミラビリスの元老であるアッシュ・ランチャーを灼滅する事ができれば、謎に包まれたノーライフキングの本拠地への侵攻も可能となるかもしれないとのことだ。
    「でも、敵軍の戦力は未だ強大だよ。生半可な覚悟で反攻作戦を行う事はできないと思うんだ」
     さらに、ノーライフキングと協力体制にあるご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』が、艦隊に合流したようだとも言う。また、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇は擬似的に迷宮化され、アッシュ・ランチャーを灼滅しない限り破壊する事は出来ず、内部にはノーライフキングをはじめとした強力な戦力がある為、攻略は非常に難しいだろう。
     だが、ここでアッシュ・ランチャーを取り逃がせば、今回のような事件を再び起こすかもしれない。是が非でも、ここで彼を灼滅するべきだろうと太郎は語った。
    「それから、スイミングコンドル2世には、闇堕ち後、行方不明になっていた、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)さんが囚われていることも予知されてたんだ」
     彼女は闇堕ち時に特殊な力を得たようで、エクスブレインとは違う予知能力を獲得しており、その能力がノーライフキングにより悪用されているようだ。
     未来予知能力を敵が得る事は非常な脅威である。
    「できれば、彼女を助けてほしいんだよ」
     もしくは、灼滅をと。
     太郎は厳しい表情でそう言葉にした。

    ●作戦
     アッシュ・ランチャー艦隊は、艦隊を再編してゆっくりと撤退しようと動き出している。
     しかし、これだけの大規模な艦隊が簡単に動きだせる筈もなく、今すぐ追撃すれば艦隊に大規模な襲撃をかける事が可能になっている。
     こちらから攻撃をしなければ、戦闘を行う事無く相手は撤退していくが、アッシュ・ランチャーと艦隊が健在である限り、似たような軍事行動が再び行われるのは間違いない。
    「それを防ぐためにも、ここで、アッシュ・ランチャーを灼滅しておきたいよね」
     画面越しの太郎の表情は真剣そのものだ。
     また、ノーライフキングの首魁『統合元老院クリスタル・ミラビリス』の一体である、アッシュ・ランチャーを灼滅する事ができれば、所在不明のノーライフキングの本拠地の情報を得る事ができるかもしれない、とも。
     敵艦隊までの移動手段は、漁船やボートなども徴用しているが、最終的には灼滅者の肉体による強行突破となるだろう。
     戦艦の砲撃でも灼滅者はダメージを受ける事はないが、漁船やボートが耐えられる筈はない。
    「漁船やボートの操縦方法のマニュアルは用意しているから、できるだけ漁船やボートで近づいて、撃沈されたあとは皆だけで敵艦に潜入して、内部を制圧して欲しいんだよ」
     最初から泳いで近づくこともできるが、漁船やボートが利用できればより迅速に敵艦に接近する事ができるだろう。
     アッシュ・ランチャーは『撤退可能となった艦艇』に移乗して、戦域からの撤退を画策している。
     この撤退を阻止する為、艦隊の外側、撤退準備が整っている艦艇を優先して制圧していく必要がある。
     艦艇には、人甲兵やアンデッド兵だけでなく多くの一般兵が乗船しているので、人甲兵とアンデッドを殲滅した後、ESPなどを利用して一般兵に言う事を聞かせ、他の艦艇の退避を邪魔するように移動させれば、アッシュ・ランチャーの撤退を防ぐ事ができるだろう。
    「もし撤退が不可能になったら、アッシュ・ランチャーは艦隊の人甲兵やアンデッドを呼び集めて、自分を守らせようとするよ」
     アンデッドや人甲兵は、救命ボートのようなもので移動したり、或いは、海中を泳いだり歩いたりして集結してくる。
     集結する戦力は、アンデッド1000体弱に、人甲兵が300体程度だが、この戦力が集結すれば、打ち破るのは困難になるだろう。
     なので、アッシュ・ランチャーを撃破する為には、この増援を阻止する事が重要となる。
    「ここまで作戦が進めば、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇に乗り込み、アッシュ・ランチャーに決戦を挑む事ができるんだ」
     アッシュ・ランチャーは、ノーライフキングの首魁の一員である為、非常に強力で、親衛隊ともいえる強力な人甲兵の護衛もいるため、撃破するには相応の戦力が必要だ。
     さらに、後方から増援の人甲兵やアンデッドが押し寄せれば、撃破に失敗する可能性もありえるだろう。
     太郎は指を折って、まとめるようにこう言った。
    「撤退を阻止する、増援を阻止する、アッシュ・ランチャー及び護衛と戦う。この3つの作戦を同時に成功させなければ、アッシュ・ランチャーを灼滅する事はできないよ」

    ●スイミングコンドル2世について
     さて、スイミングコンドル2世についてである。
     『最初からアッシュ・ランチャーをスイミングコンドル2世に避難させた場合、灼滅者がスイミングコンドル号に押し寄せてくるため、スイミングコンドル2世が制圧されてしまう』という『紗里亜の予知』があった為、アメリカンコンドルは『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所』で介入する作戦を行おうとしている。
     もし、何も対策しなければ、アッシュ・ランチャーと決戦中に、アメリカンコンドルとご当地怪人の軍勢によって横槍を入れられて、アッシュ・ランチャーを奪われてしまうだろう。
    「これを阻止する為には、スイミングコンドル2世への攻撃も同時に行わなければならないよ」
     スイミングコンドル2世の戦いでは、条件さえ整えば、アメリカンコンドルの灼滅の可能性もあると太郎は語った。
     また、スイミングコンドル2世のスーパーコンピューターに接続され、予知を行う為の装置として利用されている『椎那・紗里亜』の救出あるいは灼滅も目的の一つになるだろうとも。
    「敵はとても強力で、やることもたくさんある。でもね、うまくいけば、ノーライフキングを追い詰める事ができるんだ。みんな、どうかがんばってね」
     そういう太郎の言葉で、ディスクは終わっていた。


    参加者
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)
    備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)
    安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)
    フリル・インレアン(中学生人狼・d32564)
    蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)
    月影・木乃葉(人狼生まれ人育ち・d34599)
    坂崎・ミサ(食事大好きエクソシスト・d37217)

    ■リプレイ

    ●敵艦へ
    「……まさか、別の国の方を、相手にするとは、思いませんでした、ね」
     船で艦艇に近づきながら神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)がつぶやいた。
     見える艦艇は大多数。
     こちら側からは五つの班の灼滅者たちがアッシュ・ランチャーの撤退阻止に向かっている。
     何にせよと、蒼はまっすぐ行く先を見た。これ以上の侵攻は、許してはいけないと思う。つまり、できる事を精一杯やるだけだ。
    「前回は上手くいきましたが、ここで失敗すれば元も子もありません。気を引き締めて行きましょう」
     安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)は仲間の顔を見た。
     特に自分たちは、一人一人役割を決め、念入りに打ち合わせをしてきたのだ。
    「はい。普通なら、深追いしないのですが、また一般の方を巻き込んだ作戦を仕掛けてくるかもしれません」
     なので、とフリル・インレアン(中学生人狼・d32564)は被っている帽子に両手を当てて続けた。
    「なので、絶対に逃がしませんよ」
    「ボクもそう思います。ここまで追い詰めたんです……絶対に逃がしませんよ」
     月影・木乃葉(人狼生まれ人育ち・d34599)がこっくりと頷く。
     狼はしつこいですからと微笑むと、周りの仲間たちもほっと肩の力を抜いて頷きあった。
     そんな仲間たちの様子を見て、蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)は自分の手をぎゅっと握り締める。
    「アッシュ本人と戦わずとも、その撤退を阻止することは、この決戦に立ち向かう全ての皆様に役立ちます」
     ならば、自分は震えてなどいられない。
    「わたし達しか出来ないことを、やり遂げてみせるのです」
     今は、恐怖を勇気に変えて、戦いに挑む、と。
     こちらの接近に気づいたのだろうか、砲弾が船を掠めていった。見ると、敵の艦艇から多くの兵士がこちらを窺い、あるいは声を上げ攻撃の態勢を整えている。
     坂崎・ミサ(食事大好きエクソシスト・d37217)は、リベレイター射出後のこれまでのノーライフキングによる被害を思い起こした。
     何としても、クリスタル・ミラビリスを突き止めようと胸に誓う。
    「攻撃が、きますね」
     ミサが言うと、灼滅者たちはいつ船が沈んでもいいように身構えた。
    「僕が砲撃を引き付けるよ」
     一番に立ち上がったのは泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)だった。
     箒にまたがり、皆から先行しようと飛び上がる。
     しかし、目指す艦艇だけでなく、周囲の艦艇からも一斉に集中砲火を受けた。遠距離のサイキックによる攻撃も多数あり、とても避けて飛ぶことなどできない。
    「あの大勢の艦艇の人甲兵やアンデッドからも攻撃されてしまうようですね」
    「うーん、敵兵の位置も探りたかったんだけど……無理そうだね」
     ジェフが言うと、星流はあきらめた様に箒を引っ込めた。
     やがて、灼滅者が乗っている船にも着弾があり、浸水が確認される。
    「さてと、戦いの一里塚ってね」
     船を操舵していた備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)が、それを皆に伝えた。
    「巣が物品を破壊不可能にすることができたなら良かったのですが……ここからは、泳ぎですよね」
     巣作りを考えていたフリルは、少し残念そうに亀裂の入った船体を見る。
     仲間たちはうなずき合い、沈み始めた船から飛び出した。
     そして、まず最初の一隻に縄梯子をかけ、敵艦へと乗り込んだ。

    ●呼びかけ、開ける道
     敵艦に乗り込み、ざっと甲板を見渡す。少なくとも、外に人甲兵の姿は見えない。
    「武器を捨てろ」
     榛名が重火器を向ける一般兵に呼びかけた。ESPを発動させ威圧すると、一般兵が戦う気力を失って戦線を離脱していく。
    「指揮をとっているのは、あのアンデッドのようです」
     同じく王者の風で一般兵を無力化していた木乃葉が、一体のアンデッドを発見した。ESPにより一般兵が逃げ、アンデッドへの道が開ける。
     すぐに鎗輔と蒼が飛び掛っていった。
    「……まずは、ボクたちが、戦う番……です」
     蒼がダイダロスベルトの帯を噴出し、アンデッドの体を貫いた。
     鎗輔は一般兵を人質に取られないよう霊犬のわんこすけを走らせる。自身はエアシューズを煌かせ距離を詰めた。
    「このくらいの敵なら、僕たちだけで十分だ」
     言って飛び上がり、痛烈な飛び蹴りをアンデッドに喰らわせた。
     アンデッドはよろめきながら号令をかける。
     しかし周囲に一般兵の姿は無く、反撃は無いに等しかった。
     榛名と木乃葉も戦いに加わり、一気にアンデッドを打ち倒す。
     仲間が戦っている間に、残りの者は念入りに周辺の一般兵を無力化し次の戦いに備えていた。
    「あそこの扉から内部に侵入しましょう。人甲兵も探さなければ」
     ハイパーリンガルで降伏を勧告しながら、ジェフが内部への扉を指し示す。
    「完全に離れちゃったら連絡のしようが無いから、少し先行して様子を伺おうか」
     そう言って、星流が艦艇内部へと足を踏み入れた。
     背後では、アンデッドの崩れ去る気配がする。戦ってくれた仲間も、すぐに追いつくだろう。
    「次は、わたしたちが戦うのですよね」
    「そうですね。まずは乗員を無効化して行きましょう」
     フリルとミサが頷き合い、顔をのぞかせた一般兵たちを順に無力化していく。
     こうして、戦う者と制圧する者を班分けして順番に役割を入れ替えることで、体力の消耗を防いでいるのだ。
     先を進んでいた星流が足を止め、ぴたりと壁に背を当てて皆に合図した。
    「この先、アンデッドがいるみたいだよ」
     どうやらこの船内では、アンデッドが数箇所に分かれて一般兵の指揮をとっているようだ。
     ジェフがウイングキャットのタンゴを呼び、ミサのビハインド、坂崎・リョウも姿を現した。
     周囲にいる一般兵に呼びかけながら、アンデッドへの道を開く。
     灼滅者四人とサーヴァントたちでかかれば、アンデッド一体を落とすのは容易かった。
     あっという間に敵を制圧し、まだ周辺に残っている一般兵に武装解除を促す。
    「まだ人甲兵が残っているから油断はできないね」
    「はい。やはり、機関停止は人甲兵を倒してからでしょうね」
     星流とジェフが確認していると、甲板の制圧を終えた仲間たちがやってきた。
     皆の無事を確認し、灼滅者たちは進む。
    「……この、兵士の、方は、自分の、意志で、此処に、いらっしゃる、のでしょうか」
     一般兵を武装解除させ、安全な場所へと逃がしながら蒼がポツリとつぶやいた。
     もしや、かの国が内部から乗っ取られているのかも。
     そんな考えさえよぎるほどの、敵の多さだった。

    ●一抹の不安
     灼滅者たちは一般兵を無力化し、指揮をとるアンデッドを撃破し、船内を進んだ。
     やがて、艦艇の中央にひときわ大きなシルエットの人甲兵を発見した。
    「見つけました、いきますよ」
     気づいたフリルが声をかけ、レイザースラストで敵の体を貫く。
     すぐに人甲兵も銃口を向け反撃してきた。
     弾丸がフリル目掛けて飛来する。
    「そうは行きませんよ」
     ジェフが指示を出し、タンゴが代わりにダメージを引き受けた。
    「この人甲兵はこちらが引き付けます。周辺の一般兵の制圧をお願いします」
     フリルに被害が無かったことを確認したジェフも、武器を抱えて床を蹴る。戦いを控え力を温存している仲間に一般兵の対処を叫び、周囲を見回した。
     榛名と木乃葉が人甲兵の周辺にいる一般兵に呼びかけ、降伏を促している。蒼は、邪魔をする一般兵がいないか目を光らせ、鎗輔は一般兵を巻き込まないよう動いているようだ。
     ジェフは走りながら炎を武器に這わせ、一気に振り下ろした。
     ごうごうと、炎が立ち上がり人甲兵を焼いていく。
     続けて星流がマジックミサイルを放った。
    「たぶん、この人甲兵で最後だよね。早く倒してしまおう」
     高純度に詠唱圧縮された『魔法の矢』は、まっすぐ敵まで飛び、正確に人甲兵の体を貫いた。螺子の軋む音や金属が削り取られる音を立てながら、敵の体が傾く。
     星流の言ったとおり、すでに船内からはおおよその敵意は消えていた。アンデッドを倒し尽くし、一般兵に呼びかけ、もはや戦う意志を持ったものは少ないのだろう。
    「――ッ――ッ! ――」
     人甲兵が何かを叫んだ。
     大筒から乱射できる銃に持ち替え、勢い良く弾丸を発射してくる。乱射、乱射、乱射。無数の弾が前衛の仲間に降り注いできた。
     盾役のサーヴァントが仲間を庇いに走り、ダメージを請け負う。
    「気をつけて、さあ、回復します」
     すぐにミサがダイダロスベルトを伸ばす。
     帯で傷を負った仲間を覆い、守る力を高めながら傷を癒した。
     敵の攻撃が止むと、仲間が一斉に人甲兵へサイキックを飛ばす。
     何度かの攻撃で、敵を打ち倒した。
     中心となっていた人甲兵を打ち破ったことにより、艦艇の制圧はあっという間に終わった。
    「大人しくするんだ。できるね?」
     指揮をとっていたモノが破れ、この艦艇が制圧されたことを鎗輔が、淡々と、一般兵に言い渡す。
     すでに戦うことをやめていた一般兵たちは、スムーズに灼滅者の言いつけを受け入れ、それぞれ安全な場所へと避難を始めていた。
    「……エンジンを、停止させましょう、です」
     蒼が言い、手分けして機関の停止を促す。
    「白旗も、揚げてもらいましょう」
     決めていた通り、木乃葉は白旗を掲げるよう指示を出した。
     この艦艇の一般兵は、これで戦いに巻き込まれることは無いだろう。
     榛名は内部を確認した後、発炎筒を持って甲板に出た。
    「あ、白旗が他にも揚がっていますね」
     煙で合図を送りながら、榛名は周辺の艦艇にも白旗が上がっているのを見た。アッシュ・ランチャーの撤退阻止に動いている学園の仲間たちが、周囲の艦艇を制圧しているのだろう。
     だが……。
    「……このペースで、間に合う、のでしょうか?」
     甲板に降りてきた蒼が不安な表情を浮かべた。
     確かに、撤退阻止に動いたメンバーは最低限の人数だったはずだ。周辺で制圧の知らせを送る艦艇の数も少なく感じる。
     アッシュ・ランチャーとの決戦に戦力を割いたのだから、仕方の無いことなのだろうけれど、と。少ない周囲の白旗を見て思う。増援に対処できるだけの決戦戦力があるのにもかかわらず、増援阻止に大戦力を回してしまったことは、果たして正解だったのだろうか……?
    「それでも、ボクたちにできる事をしていきましょう」
     木乃葉が二人に、小型艇の準備ができたことを知らせに来た。
     自分たちの乗ってきた船は沈んでしまったが、この艦艇に配備されていた小型艇を使い次の艦艇に乗り込むのだ。
     灼滅者たちは、はやる気持ちを抑えながら、次の艦艇へと乗り込んでいった。

    ●混乱の海域
     次の艦艇では、完全に甲板での戦いになった。
     集団で襲ってくるアンデッドと一般兵の集団。その後ろに控える人甲兵。
     灼滅者たちは、一般兵を無力化しつつ、アンデッドを確実に撃派していった。
    「お願いします管狐!」
     木乃葉は傷ついた仲間を癒すため、錫杖を振り小光輪を飛ばした。
     戦えば仲間も傷を負う。
     だが、まだまだ回復の手には余裕があった。
     木乃葉が鎗輔を癒す間に、蒼は異形化した片腕を振りぬき、人甲兵の体を抉る。
    「……まだ、戦えます……、この先も、行かなければ、なりません……」
     蒼が敵の体を蹴倒し、その場を飛び退く。
    「そうだね。とにかく、確実に制圧していかないと」
     回復した鎗輔が、倒れた人甲兵を武器で殴りつけた。
     そこから魔力を流し込み、内部から爆発させる。
     金属が破裂する音、そして、火花が散り敵が崩れた。
    「喪われたいのちを、今度こそ永遠の眠りへ」
     今度こそ、永遠の眠りへ送り届けるのだと。アンデッドに胸を痛めながら、榛名は雲耀剣を放つ。
     完全に人甲兵が崩れ去り消えていった。
    「さあ、次に急ぎましょう」
     一般兵を制圧し、白旗を掲げさせ、フリルが仲間たちを呼びに来た。
     皆うなずき、次へ向かう。
     同じようにして、3艦目も攻略することができた。
     だが、次の船へ移動している時に、異変に気づく。
    「そんな、離脱していく艦艇がある!」
     辺りを窺っていた星流は、呆然とその光景を見るしかなかった。
     やはり、撤退阻止に割く戦力が足りなかったのだ。もし、十分な戦力を撤退阻止に割いていたのなら、今取っている作戦で十分阻止できたはず。しかし、今は……。
    「このままでは、間に合いません」
     たとえ自分たちがどんなに急いで次の艦艇を制圧したとしても、戦線を離脱する船を留めて置く策を持ち合わせていないのだから。
     ミサが震える手で拳を握り締めた。
    「もっと戦力があれば……いえ、あのどれかにアッシュ・ランチャーが乗っていたら大変なことになります」
     徐々に離脱していく船が増え始める。
     ジェフは自分たちの作戦を思い返してみる。艦艇の制圧はかなりスムーズに進んでいた。もし、撤退阻止に十分な戦力が割かれていたなら、十分に余裕のあった制圧方法だろう。
     それだけに、戦力が足りないことが悔やまれる。
     いや、戦力不足を補うだけの作戦があれば……。
     その時、信じられない光景を見て、皆一瞬言葉を失った。
     戦艦の1隻から、砲撃が行われたのだ。
     どんと腹に響く砲弾の音。
     着弾と同時に、撤退しようとしていた艦艇が――。
    「え、沈んだ……?」
     フリルの声は、轟沈する艦艇の悲壮な音に消えた。
     その後も、砲弾は続く。
     強弾が次々に、撤退しようとしていた艦艇へ着弾した。
    「あ、まって、まってください。あそこには、まだ、一般の兵士がっ」
     榛名が身を乗り出して叫ぶ。
     そうだ、あの、砲撃を受けて沈んでいく艦艇には、まだ一般の兵士がいると言うのに。
     砲弾は止まず、それどころか、砲弾を行っていた戦艦が、撤退しようとしていた戦艦に体当たりしたのだ。
     体当たりした戦艦は、自沈した。
     そして、体当たりされた戦艦は、何故か無傷だ。
    「それでは、あそこに」
     ミサが無傷の戦艦を凝視する。
     あの特攻を無傷で終わった艦艇にこそ、アッシュ・ランチャーが?
     皆が顔を合わせる前に、海域は大混乱に陥った。
     撤退、制圧、砲撃、そして、アッシュ・ランチャーを仕留めようとする灼滅者たちが、逃げようとしている無傷の戦艦に急ぐ姿が見える。
     とにかく、アッシュ・ランチャーの決戦に臨む灼滅者たちが動いたのなら、撤退阻止の仕事は終わったのだ。
    「どうなったのでしょう?」
     木乃葉が不安げにそう言った。
    「わからない」
     アッシュ・ランチャーが撤退してしまったのか、それとも撤退は阻止できて戦いになったのか、もはや知るすべは無かった。
     首を振った鎗輔は、それでも、と、仲間を見た。
    「沈没船の付近で、まだ救助を待っている人がいるかもしれない」
     その一言に、皆顔を上げる。
     作戦の成功を祈りながら、せめてもと生きている人を探して。灼滅者たちを乗せた小型艇が海を走った。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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