決戦アッシュ・ランチャー~闇を沈めよ

    作者:西灰三


     ディスプレイに有明・クロエ(高校生エクスブレイン・dn0027)の姿が映る。
    「みんな、沖縄での戦いお疲れ様! 大活躍だったみたいだね!」
     灼滅者達は記録された映像を見る、それは次の言葉を聞くためである。
    「それでみんなが頑張ったおかげでアッシュ・ランチャーを倒せる機会が得られたんだ。もし灼滅できればまだ良くわかっていないノーライフキングの本拠地にも行けるかもしれない」
     それはノーライフキングとの戦いの大きな足がかりとなるだろう。
    「でも、まだまだ敵はたくさんいる。それとノーライフキングに協力しているご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』が艦隊に合流したみたいなんだ」
     いささか気の抜ける名称ではあるが、その戦力は決して油断ならないものである。
    「おまけにアッシュ・ランチャーの乗艦は擬似的に迷宮化されてて、アッシュ・ランチャー本人を倒さないと破壊も出来ないんだ。もちろん中には強力な敵もいるよ」
     攻略は困難、だが。
    「ここでアッシュ・ランチャーを取り逃がしちゃうと、同じようなことをまたするかもしれない。この機会にきっちりと灼滅して欲しいんだ」
     あと、もう一つとクロエは付け加える。
    「椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)さんがスイミングコンドルに囚われているんだ。闇落ちした時にエクスブレインのとは違う予知能力を身に着けているんだけど、それをノーライフキングに利用されてるみたい。この能力は相手にあるとまずいから、出来るなら救出……もしくは灼滅もお願いしたいんだ」
     少しだけ画面の向こうで目を背けたかと思うと、再び視線をこちらに向ける。
    「今、アッシュ・ランチャーの艦隊は再編してゆっくりと撤退しようとしてる。ただ、数も多いし簡単には動けない。だから、今だけ襲撃ができるんだ。何もしなければそのまま撤退していくけれど、戻ってきた時また同じことをするはずだよ」
     そうさせないためには、ここでアッシュ・ランチャーを討つ事が重要となるだろう。
    「アッシュ・ランチャーは『統合元老院クリスタル・ミラビリス』の一体で、もし倒せればその本拠地の情報が手に入るかもしれないしね。……だから厳しいけれど大切な戦いになると思う」
     そして敵の艦隊に乗り込むための手段として漁船やボートが用意されている。
    「最後は皆の体で勝負になると思うけどね。砲撃でも皆ならダメージは受けないしね、サイキックじゃないから」
     普通の船は壊れるだろうけど、と付け加える。マニュアルも用意してあるらしい。
    「船でギリギリまで近づいて壊された後は、自力で艦隊にまで取り付いて潜入して内部の制圧に向かってね。……一応最初から泳いでも行けるけど、流石に速度は船に負けるからね?」
     無事に船にたどり着けたらと彼女は続ける。
    「アッシュ・ランチャーは『撤退可能となった艦艇』に乗って戦域から逃げようとしてる。これを止めるには、艦隊の外側にある撤退準備が整っている艦艇を優先的に制圧しなきゃいけない。要するに逃げ足を封じるってことだね」
     そもそも船というのは小回りが利かないものである。集まっていればそれだけ動きを変えるのは難しい。
    「艦艇には人甲兵やアンデッド兵以外にも普通の一般人の兵士が沢山乗ってるから、人甲兵やアンデッド兵を倒してからESPとかで一般兵に命令出来るよ。「他の艦艇の退避を妨害しろ」とか。そうすればアッシュ・ランチャーが撤退するのは防げると思うよ」
     まあそうなったら、そうなったでアッシュ・ランチャーは身を守ろうとするけど。とクロエは言う。
    「アンデッドとか人甲兵を他の船から呼んで、ね。数はアンデッド1000体くらいに人甲兵は300体くらい。救命ボート的なもので来たり、泳いだり、海中を歩いたりして集まってくるから、これも止めないとアッシュ・ランチャーを倒すことは難しくなるよ」
     これだけの状況を揃えて、初めてアッシュ・ランチャーと相対する事ができる。
    「アッシュ・ランチャーの周りには人甲兵の護衛がいて、もちろん本人も強力な相手だよ。これを倒すためにはそれなりの戦力がこっちも必要。……戦闘中に敵の増援が来ちゃったら撃破に失敗するかもしれない」
     クロエは指を3本立てた。
    「アッシュ・ランチャーを倒すには3つのことをしないといけない。撤退を封じる、増援を阻止する、そしてアッシュ・ランチャーとその護衛と戦う。同時に3つやらなきゃならないから大変だと思うけど頑張ってね」
     そしてクロエは四本目の指を立てた。
    「アッシュ・ランチャーがスイミングコンドルにいないのは、『紗里亜』さんの予知で一気に皆がそっちに乗り込んで一網打尽にされるって言うことがわかったからみたい。だからアメリカンコンドルは『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所』で介入する作戦をしようとして、アッシュ・ランチャーを乗せていないみたい」
     これに対して対策を立てておかなければ、アメリカンコンドル側からも横槍が入って来るのは明白で、アッシュ・ランチャーの身柄も奪われてしまうだろう。
    「だからスイミングコンドルの方にも攻撃を仕掛けなきゃいけない。上手く行けばアメリカンコンドルの灼滅もできるかも。あとさっきも言ったけど『椎那・紗里亜』さんもなんとかしてほしい」
     クロエはそこまで言うと息を大きく吐いてから最後の言葉を画面越しに送ってくる。
    「考えることがすごくたくさんあって、危険な依頼だけど皆ならきっと何とかしてくれるよね? それじゃ行ってらっしゃい」


    参加者
    石弓・矧(狂刃・d00299)
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)
    ヴィア・ラクテア(ジムノペディ・d23547)
    ファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)

    ■リプレイ


     水の上をボートが走る。船の舳先が指すのは、この小舟よりも大きなご当地戦艦スイミングコンドル2世。戦艦と言うのは一般的には過去の遺物と言われてはいるが、真の世界ではこうして存在している。しかも超常の力を持って。
    「海なら遊びとかで来てみてーもんだけどな」
    「僕はビキニギャルと女性サーファーが見たかったんだけどな!」
     七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)が帽子を押さえながら戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)と言葉を交わす。あいにくとここのところの沖縄近海を部隊にした戦いではそんな悠長な時間は取れずにいる。
    「無事に作戦が終われば、そんな時間も取れるかも知れませんが」
     酔い止め薬の箱を懐に仕舞って石弓・矧(狂刃・d00299)は呟いた。ボートの操舵手を務める彼は戦艦を見定めている。こちらを把握するまで、まだ僅かばかりの時間がありそうだ。
    「というかクロエちゃん準備良すぎじゃない?」
     船の準備とか、と月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)は言う。さすがにスパイ映画のように情報媒体が消失するというところまでは行かなかったけれど。前回の作戦の時点である程度想定はされていたのだろう。
     揺れる船の上で比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)は敵を思う。
    (「超魔術空間に隠れたソロモンの悪魔は他にもいる。彼女を捕えたのが、統合元老院やご当地幹部の持つ何らかの力なのか、誰かの入れ知恵なのかはわからないけど……」)
     そこまで思考を巡らせたところでボートの近くで水柱とともに轟音が響き渡る。
    「気付かれましたか。ですが」
     ヴィア・ラクテア(ジムノペディ・d23547)は操舵手を見る。まだ距離も有るので当たりはしないが船体は大きく激しく揺れている。この状況でファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)はすっくと立ち上がりボートの前の方で構える。何をしようとするかも聞く余裕も無いまま次の砲弾が飛んでくる。
    「レシーブッ! ……あ、ゴメンなさい。無理」
     飛んできた砲弾は即座に破裂し衝撃波がボートを粉々にする。灼滅者には幸い大きなダメージはなく、そのまま開口部に泳いで灼滅者達は取り付く。
    「コンドルさんちにお宅ほうもーん!」
     玲はかぶりを振って雫を払ってから腕を上げる。先程このお宅の砲門に酷い目に合わされた気がしなくもないが。
    「鷹狩にはまだ準備不足。ならば精々荒し尽くすとしよう」
     まるで肉食獣のような笑みを紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)は浮かべる。果たしてこの先に待つのは何者か。


     彼らは他の所から侵入した灼滅者達の退路を確保するために甲板を目指して進む。そして彼らを出迎えるもの、それは。
    「ペナント怪人……!」
     蔵乃祐が口にした通りのペナント怪人である。ご当地怪人が乗っているのならその配下も乗っていておかしくない。彼らは集まって灼滅者達を迎え撃ちに現れたようだ。
    「……サッカー?」
     玲が確かめるように言う。彼女の言葉にペナント怪人達は無言のサムズアップを返す。
    「とにかくここをなんとかしない限り、先へは進めないということですね」
     武器を抜いて矧は構え他の仲間達も倣う。
    「彼らを束ねる者がいない……今のうちに少しでも削らせてもらおう」
     謡は龍の如き刀身をうねらせてペナント怪人を切り裂いていく。
    「人間相手じゃない分、少しは気が楽なんだけど……」
     相手がご当地怪人とこの見た目というだけでやや気が抜けなくもない悠里である。外見で判断すべき相手では無いことも分かっているのだが。
    「……どれだけのご当地幹部がここにいるんだろう」
    「まさか、ピラミッド怪人とかいないよね?」
     ブラジリアン柔術っぽい攻撃をファムは受けながら柩の言葉に触発される。戦闘中にマテ茶を飲んで休憩していたペナント怪人が目を背けた。どこが目だかわからないが他にもいるらしい。
    「これは……他の所にもいるみたいだね」
     伸ばした髪で敵を切り裂きながらヴィアは推論を口にする。歴戦の戦士である彼らだからこそ目の前のペナント怪人達と渡り合えているが、幹部クラスはまだ出てきていない。
    「………」
     蔵乃祐は遠い目をした。ラスベガスバニー怪人くらい出てきてくれていいのではないかと。いっその事ブラジルサンバカーニバル怪人とかでもいいから。
    「……あなた達が侵入者ですか」
     そんなこんなでサッカーペナント怪人と切った張ったしていると、敵の背後から声とともに新たな敵が現れる。これでは退路を確保するどころでは無いと悠里は悪態をつく。
    「帰り道を守るってところじゃねーな」
     そのまま彼が新しく現れた相手を見れば、頭がサッカーボールで脚は三本、ブラジル国旗のマントを纏った、なんとも言えない存在がそこにいた。


    「お前が彼らの主かい」
     謡の問いかけに目の前の幹部らしき存在は口を開く。
    「私の名前は、ご当地幹部ブラジルサッカー怪人。侵入者があると聞きここに来ました」
     やけに流暢な日本語を話すが、その身から溢れる戦意を矧は感じ取った。蔵乃祐はなんか色々諦めた目をしていた。
    「あなた達がアメリカンコンドルの言っていたスレイヤーのチームですか。成程、我がライバルのゲルマンシャークを下したと言う話は嘘ではないようですね」
     それってサッカーとしてのライバルだよねと言う言葉を玲は飲み込んだ。と言うか明らからに強い感じだし。
    「オジサンの頭っておにぎりみたいだよね」
     だが空気を読まず果敢に攻め込むファムである。確かに球型のおにぎりに見えないこともない。
    「セニョリータ、ライスボールはアメリカンコンドルにでも任せておけばいいでしょう。さて、改めてゲーム再開とします」
     三本ある脚を巧みに動かしながら高速ドリブルで灼滅者達の前衛に突っ込んでくるブラジルサッカー怪人。その動きを押しとどめようとファムが立ちはだかるが、あまりの実力差で吹っ飛ばされる。
    「させるものか!」
     すぐさまに彼女の吹き飛ばされた穴を埋めようと謡が神薙刃を放つが、足元のボールと共に簡単に避けられてしまう。明らかに相手はここにいる灼滅者だけで倒すのは無理だろう。だが足止めならば、援軍としてアッシュ・ランチャーや紗里亜救出の所へ行かせないと言うのはなんとかできそうだ。それでもご当地幹部に加えペナント怪人達も相手にせねばならない以上全く油断はできない。
    「止めるよ」
     ヴィアが影の刃を向かわせるがこちらも先程と同じようにあっさりとかわされてしまう。だがその空中にいる瞬間に合わせて柩がジャッジメントレイを放ち傷をつける。
    「成程、良いセットプレイです。ならこちらも連携を密にしなければなりませんね」
     即座にブラジルサッカー怪人はフリー気味になっていたペナント怪人にキラーパスを通す。即座にペナント怪人の動きが俊敏となり、先程までよりも鋭い動きで灼滅者達に襲い掛かってくる。
    「くっ……」
     即座に悠里はシールドリングで回復と防御を行うが、やたら戦術的に動いてくるブラジルサッカー怪人達は相当の強敵である。
    「どうですか、私達もいつまでも個人技に頼っていられないのです」
     妙に自嘲的な呟きでボールをキープして灼滅者達と向き合うブラジルサッカー怪人。その目は(どれが目だかわからないけど)油断の色は無い。
    「ボールはフレンズ。この意味をあなた達に教えてあげましょう」
     なんでそこだけ英語なんだ。


     ブラジルサッカー怪人の言葉通り、その後も灼滅者達は劣勢を強いられる。それでも灼滅者達はペナント怪人の数を削りながら耐えうる時間を延ばす。通信機もこの船に入ってからはノイズしか入っていない以上、今彼らにできることはできるだけ時間稼ぎをすることだけだろう。少なくとも目の前の敵を全て撃破するだけの戦力は無い。
    「……メカサシミが!」
     玲の相棒であるライドキャリバーがペナント怪人のシュートを受けて消滅する。むしろよく保った方である。
    「僕が前に出る!」
     蔵乃祐がメカサシミの抜けた穴を埋めるために前に出る。その隙にまた攻撃を受ける。。また灼滅者達は敵ディフェンダーから攻撃する事によって、敵のより脅威度の高いクラッシャーを野放しにしているのが裏目に出ている。結果として脅威度の高い攻撃を多く受け、戦線を維持できる時間が短くなっている。
    「だけど……!」
     謡は無理矢理に紫の布地を敵防御線に捩じ込んでなんとか打ち崩す。それでも未だ敵の数は多く、ブラジルサッカー怪人はほぼ無傷で存在している。
    「そろそろホイッスルが吹かれるのは間近のようですね」
    「ロスタイムがあるカモしれないよ?」
     ファムは笑顔を浮かべたまま返すが彼女の傷も決して浅くない。
    「それでも私達の勝ちは変わらないでしょう」
    「さあ、それはどうかな?」
     悠里は不敵に笑いながらサイキックを放つ。複数相手を主に対象とした彼の攻撃はペナント怪人達を押しとどめていく。その間にも矧は回復を行い、少しでも長く戦線の維持に務める。だが彼を急所と見たブラジルサッカー怪人は脚を高く上げて必殺シュートの構えを取る。
    「トロヴァオシュート!」
     雷のような軌跡を描いたボールは彼に突き刺さり、勢いのままに壁にめり込む。そして彼は沈黙する。
    「これで1人退場です。……私達の勝ちですね」
    「いや私達の勝ちだよ。充分に時間は稼げた」
     柩の放つ轟雷がブラジルサッカー怪人の顔を焼き、その怯んでいる間に手早くヴィアが矧を回収し撤退を始める、こちらも長くは保たないが故に。
    「……陽動でしたか」
    「アッシュ・ランチャーのね。それじゃあ」
     灼滅者達の目的を察したブラジルサッカー怪人に柩はそう言い残し他の仲間達とともに撤退していく。
    「……全員無事に帰りましょうね」
     敵の追手を振り切ったところでヴィアが呟く。彼の言葉の通り灼滅者達はスイミングコンドル2世から脱出し、無事に作戦目標を達成することが出来た。いずれご当地幹部達と雌雄を決する時が来るだろうと予感を胸に秘めながら。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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