決戦アッシュ・ランチャー~追撃の討手

    作者:一縷野望


    「ホント、いい気味だよねー。アッシュ・ランチャーさ、作戦が狂ったって地団駄踏んでるんじゃないかなー」
     灯道・標(中学生エクスブレイン・dn0085)はにんまりと口元に三日月を浮かべ、髪飾りを揺らして首を傾ける。
    「つかみ取ったチャンスはモノにしたいよねー。具体的にはアッシュ・ランチャー潰しを狙いたいねって話だよ」
     統合元老院クリスタル・ミラビリスの元老であるアッシュ・ランチャーを灼滅できれば、謎というヴェールで護られていたノーライフキングの本拠地へ届く一手が見えるやもしれぬ。
     今までの浮かれと言って良い程の陽気さを翳らせて標は言葉を継いだ。
    「とはいえさ、相応の覚悟ってチップは賭けないとなんないよ。敵は未だ戦力は絶大だしね……軽はずみに『やって』ってボクは言えない。決めるのはキミたちだなんて――」
     ……いつも、ごめんね。
     そう呟き落とした後で、エクスブレインの少女は声音をフラットに落として状況説明を開始する。
    「現状、ノーライフキングと協力体制にあるご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』が、艦隊に合流したのがわかってる。更に面倒なコトにさ……」
     アッシュ・ランチャーの座乗する艦艇は擬似的に迷宮化され、彼を灼滅しない限り破壊は望めない。ノーライフキングをはじめとした強力な戦力が配される為、攻略は難易度は高い。
     でも、
     アッシュ・ランチャーを討ち取るまたとない機会なのも、事実。
     ここで逃し同様の事件を起こした時、次も撃退できる保証も、ない。
    「ああそうだ、重要な情報があったんだ!」
     あわせた手のひらの間、ぎゅうと閉じる手帳を開き標は告げる。
    「闇落ちした椎那紗里亜さんがね、見つかったんだよ。『スイミングコンドル2世』に囚われていて、利用されてる」
     どうやら闇落ち時にエクスブレインとは異なった予知能力を得た模様。それがノーライフキングに悪用されているのだ。
    「できれば紗里亜さんを救出して欲しい。無理なら、灼滅を……予知能力を奴らに握らせとくわけにはいかないからね……」
     できうる限り詰まらずに口ずさんだ言葉はやっぱり苦さを孕んで重みを増した。

     アッシュ・ランチャー艦隊は、艦隊を再編してゆっくりと撤退しようと動き出している。つまり手を出さなければ戦闘は起こらない、が、放置はできぬとは先程の通り。
    「こんな大規模艦隊が簡単に下がれるわけがないんだよね。即座に追撃すれば艦隊に大規模な襲撃をかけられるってコト」
     アッシュ・ランチャーの灼滅し、ノーライフキングの本拠地への足がかりを掴む為。
    「スピード重視で、艦隊までは漁船やボートで接近。でも最終的にはみんなの強靱な体力頼りになるかなー」
     なにしろ徴用した漁船やボートが戦艦の砲撃に耐えられるはずもないわけで。
    「操縦はマニュアル見れば理解できるからさ。ギリギリまではそれで接近、撃沈されたら身一つで艦隊に潜入して内部からの制圧を、お願い」

     手順を説明するね――と、標は声を高くする。
    「アッシュ・ランチャーは『撤退可能となった艦艇』に移乗して、戦域からの撤退を画策してるよ」
     撤退の阻止には、艦隊の外側、撤退準備が整っている艦艇を優先して制圧する必要がある。
    「艦艇には、人甲兵やアンデッド兵だけでなく多くの一般兵が乗船してるよ。人甲兵とアンデッドを殲滅後は彼らがキーとなるね」
     ESPなどを利用して一般兵に言う事を聞かせ、他の艦艇の退避を邪魔するように移動させれば、アッシュ・ランチャーの撤退を防げるだろう。
     撤退不可と悟れば、アッシュ・ランチャーは艦隊の人甲兵やアンデッドを呼び集めて、自分を護るよう指示するはずだ。
    「救命ボートや泳いだり歩いたりして集結する戦力は、アンデッド1000体弱に、人甲兵が300体と予想されるよ――まぁ、これがきちゃったら詰むね」
     つまり増援阻止もまた重要である。
     手足をもぐようにここまでの積み重ねが叶えば、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇に乗り込み――決戦を仕掛けられる!
    「勿論アッシュ・ランチャーは強いよ。なにしろノーライフキングの首魁の一員だし、親衛隊にあたる強力な人甲兵の護衛もいる」
     撃破を狙うには相応の戦力を回さねばならないだろう。
     後方より増援が押し寄せれば、撃破に失敗する可能性もありえる。
    「つまり、『撤退を阻止する』『増援を阻止する』『アッシュ・ランチャー及び護衛と戦う』――この3つの作戦を同時に成功させなきゃなんない」
     でなければアッシュ・ランチャーは灼滅なんてのは、儚い海の泡のような夢物語と化すのである。

    「もう一つの懸念事項は『スイミングコンドル2世』だね」
     最初から『スイミングコンドル2世』にアッシュ・ランチャーを避難させないのは、一重に『紗里亜』の予知があった為だ。
     予知の内容は――避難させたら灼滅者が押し寄せて制圧される。
    「だからね、『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所』で介入する気だよ」
     無策であればアッシュ・ランチャーと決戦中に、アメリカンコンドルとご当地怪人の軍勢によって横槍を入れられて、アッシュ・ランチャーを奪われてしまう。
    「阻止するには、スイミングコンドル2世へも同時に攻撃するコト。更に難易度を跳ね上げるのも忍びないんだけど……」
     もういっそ、と、標はぱたりと音立て手帳を閉じる。
    「アメリカンコンドルの灼滅まで狙っちゃうのもアリかなーって。まぁそれでなくてもさ、スイミングコンドル2世のスーパーコンピューターに接続されてる『椎那・紗里亜』さんの救出も目標のひとつだし」
     予知を行う為の装置として利用されている彼女の救出ないしは灼滅は、当たり前だが『スイミングコンドル2世』に攻め込む者にのみ手が届く。
    「やる事が多すぎるから、他班とすりあわせも大変だと思うけど……頑張って」
     難題ではあるが大きなチャンスが目の前に転がり出た状況とも言える。
     歯車が上手く噛み合えば、表に出てこなかったノーライフキングへの痛打を浴びせる目が見えているのだから!


    参加者
    羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)
    詩夜・沙月(紅華護る蒼月花・d03124)
    詩夜・華月(蒼花護る紅血華・d03148)
    風真・和弥(風牙・d03497)
    北逆世・折花(暴君・d07375)
    幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)
    マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)
    城崎・莉々(純白しか赦せない人・d36385)

    ■リプレイ


     一隻のモーターボートは広大な盤上に罅入れ進む、罅はうねる波のままにすぐ縫い閉じられる余りに細やかなそれで、だが乗り込む彼らの闘志はそうと限れぬ力強さが籠もる。
     甲板上りローズレッドと鴇色――どちらも赤に白を混ぜた色、だがそれぞれ唯一の薄紅。
    「弱った敵を狙うってちょっと卑怯っぽいね」
    「確かにそうかもしれませんけど、勝利を掴む為にはためらってられませんから」
    「うん! 桃、めいっぱいやっつけて力になるよっ!」
     子供らしく唇を尖らせ目を惹く肩切り髮を揺らす幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)へ、羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)はかつての自分の一心さを見いだしつつ頷く。
     ただ自分の立ち位置で役割を果たす。
     北逆世・折花(暴君・d07375)にとっては、不良どもの用心棒を務めたのもノーライフキングを討ち取る礎となる今も、等価にも思えて。
    「……この戦いで潰える者が出ないよう、加護を祈ります」
     鴉羽の黒髮はどんなにかき混ぜられようが絡まりはしない。それは城崎・莉々(純白しか赦せない人・d36385)の紡ぐ祈りにも似て、頑固なまでに真っ直ぐである。
    「おっおー、一つ派手にやってやるんだおっ!」
    「先生」
     組んだ指を解く莉々は、前方を透かし見ようとする年下のマリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)へ敬意を注ぐ。
     表情豊かな口元と計器めいた無機質な瞳のマリナからは狂気と名付けるギリギリの某かが滲むが、それには触れず。
    「こーんなにお船がいっぱいなんだおっ♪」
     そのお船の配置だが、想定と大きな差異があり眉根が寄った。本丸と目星をつけた船が、遠い――?
    「華月ちゃん……」
    「沙月も気づいた?」
     産声を上げる前から共にいた双人は目立つ相違の蒼と紅を通わせ頷きあう。
     妹・詩夜・華月(蒼花護る紅血華・d03148)の暗殺者としての業が捉えたのは錯誤が産む違和。動き方を調整せねば屑と散る警戒。
     姉・詩夜・沙月(紅華護る蒼月花・d03124)が捉えたのは命が散った無念と怨嗟。そして決断した者の悲痛な覚悟。
    「攻撃がくるぞ。船から離脱、即戦闘態勢に移行!」
     感覚を逆なでする其れらの意図と現状戦場を描く前に、着弾悟り操縦桿から手を離した風真・和弥(風牙・d03497)の割れる声が貫いた。ほぼ同時、8人と2匹を乗せたモーターボートは木っ端みじんに砕け散り海原に散る――。
     とぷんと水に飲まれた彼らは、迷いなく前方を目指し水を掻き進む。
    (「わ、わっ! 主よ、お助け下さい!」)
     元々泳げぬ莉々はじとりと身に染みる底なしの水に怯えるも、呼吸可能な能力を思いだし精神を落ち着ける。ぱちゃぱちゃと軽い水音で猫かきのアルを前に小さな微笑みを作る余裕すらできたぐらい。
    (「……なんかこの辺り過剰な気がするおっ」)
     他チームが過ぎるのを時に脇に、戦陣敷くのを時に頭上に感じつつ、マリナは水底にもよく似た瞳を瞼に隠す。
     自分たちが果たすのは大将戦の増援阻止……そもそも大将戦が起こるのが前提の部隊である。ではもしアッシュ・ランチャーが撤退してしまったら?
     視線巡らせ警戒する妹に続き、沙月はどのような状況であれ「救いたい」と学んだ中国語を脳裏に浮かべる。
     ぽこんと泡を吐く折花はマリナや陽桜へと目配せ、ターゲットの選定にかかる。
    「…………」
     向かう先は陽桜が指さす先、未だ仲間の手がつかず大将の元へ向かわんとする一隻だ。


     ぺちゃり。
     やけに水含みの音。
     にちょり。
     突如、海水で冷えた指に足首をとられるなんて、生きた心地がしないだろう。
    『――?!』
     満漢全席でものせりゃ豪華な丸い皿、それっくらい瞳を見開く人民兵に折花は無の紫苑で応え、引き倒す勢いで甲板に躍り上がる。
    『~~!!!!』
     異国語のわめき声、伝染する狂乱、パニックモノ映画さながらの状況。しかしまぁこのインスタントぶりはB級とも言えぬ低予算!
     嘲笑いは一瞬。彼らには見向きもせずに、混ざり込んでいた人ならざる身体能力を持つ魔物へ走り込みざまの膝蹴りはご挨拶、重力纏いし足払いが本命だ。
    「そいつが敵だねっ! おおおおおおお!!」
     愛らしい桃琴の声は逆さまの畏怖を臭わせ人垣を乗り越えていく。その畏怖は命を救いたいという慈愛が滲むモノではあるのだが。
    「本当は目の前で直接がいいんだけどっ!」
     キリが無いと立ち止まり背からぬいた槍より放つ氷は、折花に崩されたアンデッドの胸に深く突き刺さる。
     急襲に蜂の巣をつついたような騒ぎの中、和弥は人民兵の群れを突き飛ばし更に人の振りして紛れていた別のアンデッドへと躍りかかった。
    「……させるか」
     奴がつないでいた手をちぎり腰にさした風の牙一閃、血飛沫を契機に自らへ殴りかかる無数の人民兵の拳だの得物で打たれようがかまわない。
    「この状況……予想はしてましたけれど、倒さなくては彼らも引かないようです」
     三体に噛まれ打たれた和弥へ符での回復を施し唇を噛む姉の背を庇うは、解け髪故うり二つに見まごう華月。
    「だったら頭をぶち殺して従わせるまで」
    「あっちから、四つ目が来てるよっ!」
    「桃琴ちゃん了解だおっ!」
     華奢な指でわざと大仰な所作でロケットハンマーを翳すマリナにあわせ、和弥が抱えきれる限りの人民兵をつかみ別部屋倒れ込む。巻き込み無しを確認後マリナは槌を床へとたたき付けた。
     仰け反る一体を認めた華月は、膨らみ最小限代わりに最大限に尖らせた氷を見舞う。
     アンデッドだとわかる程に腐り落ちているモノもあれば、つい先程までは人だったかのような生々しいモノもいる。
     今、虫の息をひゅーひゅーでふらついているのは、後者。
    『!!!!』
     腕を伸ばす人民兵がいるのは――そういうコト。
     陽桜はぎゅうと奥歯を噛みしめて顔をあげる。
    「~~……だめだよっ! もうその人は……もう、だめなんだよっ!」
     母国語を紡ごうとしてでもこの国で育った桃琴には叶わずに、眉根に哀しみを籠もらせて必死に訴える。だがかまわず人民兵は銃を振り上げた。
    「あなたを、護らせてもらい……ます」
     独りよがりだ、わかってる。
     そんなのを踏み台に、陽桜はもはや狂い咲きと呼ばれる季節になってしまった花を『ひと』だったアンデッドへと押しつけて、その命を散らした。
    「主よ、私は私の為すべき事を――全ういたします」
     戦いの影を縫い駆ける莉々は先方にあろう操縦室を目指す足を止め、毒の挿された桃琴の小さな腕に向けて祭壇つま弾き光を降らせた。
    「ありがとうっ!」
    「ええ、誰も潰えさせません」
     手放しの無邪気に向けられるは、混じり赦さぬ厳格な無垢。
    「まだまだ! 負けないよ!」
     みんなが支えてくれる守ってくれる!
    (「だったら桃も自分のせいいっぱいっがんばるんだからっ!」)
     さらり。
     素肌の肩を擽るボブカットに勇気をもらった桃琴は、両手にしぴっと構えた符をゾンビ蠢く地点を入れて配置したんっと押した。
    「燃料タンク狙いでしょうか」
     また一体果てる呻きがBGM。莉々からの追い込むにはそこが良かろうという案には、ぱちりと瞳を瞬かせたのはマリナであった。
    「おっ? 沈む船ならそれもいいおっ。でもこの船ぴんぴんしてるしそれは避けて欲しいおっ」
    「先生に考えがおありなのですね? わかりました」
     片目を閉じる少女へ頷くと莉々は操縦室のドアに指をかけ引きあける。
    「あまおと、お願い」
     ひおは護衛の翼猫の後を更に追わせる、その間も戦いは待ってなどくれない。
    「おっおー! この船に中ボスがいないみたいだからとっとと片付けるおっ」
     ロリータドレスをつまみ上げびっくり箱の如く出した翼はやはり兵器。二体を巻き込んだ所へ一筆書きの星の軌跡に浮かぶ符。
    「何でもありすぎって言いたげだね、でも元老の一人を灼滅できる好機だからね」
     人差し指で符を斜めになぞり起動する折花の脇、ねじった槍で桃琴が二体目の胴体をえぐりこむ。
     直後、猫のけたたましい啼き声。背中を傷つけられながらも操縦室から転がり出てきたアルは五体の兵隊を釣り出してくるのに随走するあまおとは、眼差しで疵を塞ぐのも忘れない。
     取り急ぎ人民兵を船室に押し込んでドアを閉める和弥。やけに乱暴に閉めてしまったと気にするは一瞬、目の前過ぎる中よりアンデッドを目ざとく見いだすと、素早く抜いた刃で首を貫き壁へと縫い止めた。
    「~~!!」
     同時刻、操縦室にて操縦桿にかじりつく人民兵へ莉々は首を横に揺らすと物言いかけるも、背後から響く衝撃に一旦口を噤む。
    「あなたは、ここにいてください」
     主の加護をと十字を切りきびすを返した先、衝撃の正体を莉々は見る。アンデッドと一騎打ち状態の和弥が壁に叩きつけられた音だった。
    「……ッ」
     血反吐吐きなお銃口つきつけてくる人民兵へ澄んだ眼差しの和弥への二撃目は陽桜が身をねじ込み阻む。
    「かっはっ……あなた達に……しませっ……ん」
     陽桜が見たいのは未来だ。
     例えそれが、終わってしまった命を摘み取る罪を隠す理由なのだとしても――救いたいのは、これからも人としてあり続ける命。
     だから身を賭す和弥を庇う。
    「俺たちの相手はあんたらじゃない」
     盾の少女の意志を無駄にはせじと返す刀で命を吸い込むバンダナの男へ、汚いチャイ語を喚き殴りかかる人民兵。
    「――殺すつもりはありません!」
     それを止めたのは浄化するように澄み渡る中国語であった。
     最後の一体は桃琴と折花が漏らさず張り付いている。
     半ば制圧。
     そう判断した沙月は、和弥が奏でた惨劇を隠すように背にして立ち、人民兵を睥睨する角度で視界に入れた。
    「私たちは……」
     嗚呼、風纏い人心を煽る此はいつかの日常ではないか! ……そんな苦さが沙月の眉間で渦を巻き一瞬のめまいを呼ぶが、目覚め呼ぶように目の前横切るオーラがアンデッドを叩くと同時に響く、声。
    「沙月、無事? あたしの方は終わったわ」
     なんて、頬に斬り疵穿ちなおこちらを気遣い見据えてくる紅は、人間らしさを灯してくれる。
     ならば果たそう。
     傀儡?
     それで数多の人の命が救えるなら安いモノだ。
    「私たちは無為な殺生を望みません。おとなしく従って下さい」
     風と言葉で精神刈り取り。
    「おっおー、お願い聞いて欲しいんだおっ」
     ひゅん!
     血花化粧施した白の裾をくるり咲かせて翻すお人形、マリナはこの船最後のアンデッドの命を叩き潰して逆らう理由も握りつぶした。


     ――他の灼滅者により制圧され引く艦艇を横切り移動妨害し他艦の陣形を崩す。無気力状態の人民兵がマリナの指示に従い有意な結果を出せるか計りとる間はなく、ただただ増援へ向かう艦艇へ目星つけ食らいつく。
     個々の戦いでは一体になるべく集中攻撃を狙い、かつ人甲兵が見える船は敢えて避けて数を潰すに絞ったお陰か、チームは長期戦に耐え、相当数の撃破を稼ぎ出していた。
     随分と数を減らした頃、砲撃に根底から揺らぎ灼滅者たちは海原へと投げ出される。
     落ちていく先に巨体があろうが――!
     風が喚くような音たてて灼滅者たちの身を灼く人甲兵に負けじと灼滅者たちは周囲へ降り立ち、最後の戦いの幕をあげる。

    「ここまで、誰も欠ける事なく辿り着けた幸いに感謝を……」
     もう水は怖くなくなった。
     もう痛みも怖くなくなった。
     アルビレオは先程巨体の一薙ぎで勇敢に身を散らした、それは私の誇りだ。
     莉々は祈りの形に組んだ指のまま、幾万もの祈りを紡いだ喉で仲間の疵を剥がし再築する嘔を張り上げる。
    「主よ最後までどうか皆にご加護を……」
     主の使徒として恥じぬよう、私は私の為すべき事を――賛美歌としては荒く濁った声音かもしれないが、なりふりなど構えない。
    「おっおー、盛り上げるための下準備……」
     三度マリナが足元から這わせた影が人甲兵の装甲に泥水を流し込むようにひたりひたり。
    「そろそろ効いてきたかおっ?」
     ばごり。
     鈍い音たて剥がれ落ちる胸元に、妨害手を愛する少女はもはや深紅のドレスで至福の笑み――蝕み腐らせ味方の戦力を最大効力に引き上げる、それが身上。
     未だ闇側がいる状況下にて王者の風の効果が走らないのは掌握済みだ。
     故に。
     和弥は即座の回し蹴りで『ひと』を殺さず気を飛ばす、それ故アンデッドの噛みつきに腕を晒そうがかまわぬ最後までこのやり方を貫く――いつだってこの男はそうだ。
     そうして今回も、自分に刻んだ痛みと傷の数より多い救えない筈だった命を拾い上げた。
    「無茶ばかりなのですから」
     人命優先に寄り添い仄明かり照らす沙月の腕を、力強く支え立つのは勿論華月。
    「沙月だって、いつも自分の傷を後回し」
    「華月ちゃん……」
     心配されて零れそうな破顔を隠す姉と、子供じみたふくれ面を無情に書替える妹。沸き上がる殺戮衝動は姉の前と控え、然れど漏れ出る某かは蛇へ宿し先程あいた巨大ななまくらの胸元へと咬み送り。
     嘶く人甲兵へ目を向け庇う気配を見せるアンデッドたちを阻むべく、二つの薄紅が同時に花描く。
    「……っ!」
     壱花、陽桜。
     もはや季節に外れて仕舞った桜の祭壇を開き、まだ艶やかな身を持つアンデッド三体の内部へ停止因子を植え付け二体を散らした。
     これは、人。
     ひと、だったもの……。
     しゃん!
     躊躇いを噛みしめ苦みとす主の尻を叩くよに、あまおとが死路への銭をぶつけた。
    「もう……わかってます! まだ迷ってるように見えるの?」
     今ある命を見定めて、もう何度目だろうか空よりの花を振り下ろす。
    「桃は守るっ! でもそっちには守らせないんだからっ!」
     弐花、桃琴。
     フリルあでやかなバトルコスチューム、更には背中より翼めきはためくベルトが大気を切り裂き人間とバケモノの間を仕分け刺さった。ぐんっと身を引く重力堪えベルトをずらせば、残った一体も砕け散り人甲兵も苦しげに呻く。
    「やっつけるよっ!」
     震える膝は限界いっぱい、最後の大暴れになろうとも心は折らないと傍らの折花と視線を絡めた。
    「そうだね」
     常に前のめり、的確に自分を使い、しかし決して潰さない――数多を惹きつけ『ひと』を救助に重きを置く仲間の助けとなり続けた折花は、無様に装甲剥がれてハリボテめいた巨体に口元を吊り上げる。
     ――さて、何処かで上映しているモノはそろそろをアッシュ・ランチャーとやらを倒してエンドロールを流している頃だろうか?
     なんて浮かぶは刹那、虚空で身をひねり全身を使って叩き込んだ裏拳、自身の甲が砕けそうな感触がずっと心地よかった。その良さに返礼するが如く、
     ずん、と……腹から真っ二つに折れ、巨はそれっきり動かなくなった。
     ああ、と誰かのため息がほどける。
     戦い抜いた彼らへ一時の休息という幕を下ろそう。それだけの役割を果たせたという吉報は、もうしばらく後になってから、届く――。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月19日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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