決戦アッシュ・ランチャー~美海のあの星々と

    作者:朝比奈万理

    「揚陸部隊の殲滅に成功したようだな。皆、沖縄の人々を守ってくれてありがとう。この勝利によってアッシュ・ランチャーを灼滅するチャンスを得る事ができた。このことも、本当に感謝するぞ」
     再生されたディスクに映し出されたのは、自信満々に笑んだ浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)だった。
    「統合元老院クリスタル・ミラビリスの元老であるアッシュ・ランチャーを灼滅する事ができれば、謎に包まれたノーライフキングの本拠地への侵攻も可能となるかもしれない」
     さすればノーライフキングとの戦いも終わらせることができるだろう。
     しかし、敵軍の戦力は未だ強大だ。生半可な覚悟で反攻作戦を行う事はできない。更に、ノーライフキングと協力体制にあるご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』が、艦隊に合流したことを千星は伝え。
    「アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇は擬似的に迷宮化され、アッシュ・ランチャーを灼滅しない限り破壊する事は出来ない。そして内部にはノーライフキングをはじめとした強力な戦力がある為、攻略は非常に難しいだろうな」
     千星はいつしか真顔になり、眉間にしわを寄せた。
    「だが、ここでアッシュ・ランチャーを取り逃がせば、今回のような事件を再び起こすだろう。だから是が非でも、ここで彼を灼滅するべきだとわたしは思うんだ」
     沖縄の二の舞にはさせない。それは灼滅者もエクスブレインも同じ考えだ。
    「それと、スイミングコンドル2世の元には、闇堕ち後に行方不明になっていた、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)が囚われていることも解ったんだ」
     彼女は闇堕ち時に特殊な力を得た。
     それは予知能力。
    「エクスブレインのわたしたちとは違う予知能力を獲得しており、その能力がノーライフキングにより悪用されているみたいでな」
     敵が未来予知能力を敵が得るという事は非常に脅威的なこと。
    「可能ならば、紗里亜嬢の救出……或いは灼滅もお願いしたい」
     と、千星は迷ったのちにはっきりと事を告げた。
    「ここからは状況の説明となる」
     ぱくりと仔ウサギのパペットを操った千星。
    「 アッシュ・ランチャー艦隊は、艦隊を再編してゆっくりと撤退しようと動き出しているんだ」
     しかし、これだけの大規模な艦隊が簡単に動きだせる筈もなく。
    「今すぐ追撃すれば艦隊に大規模な襲撃をかける事が可能。こちらから攻撃をしなければ、戦闘を行う事無く相手は撤退していく。だけれどアッシュ・ランチャーと艦隊が健在である限り、似たような軍事行動が再び行われるのは間違いないだろうな」
     それを防ぐためにもここで、アッシュ・ランチャーを灼滅しておきたい。
    「アッシュ・ランチャーを灼滅出来れば、所在不明のノーライフキングの本拠地の情報を得る事ができるかもしれない」
     と、千星は希望を口にし。
    「敵艦隊までの移動手段だけど、漁船やボートなどをちょっと拝借……という名の徴用をしているが、最終的には皆の肉体による強行突破となるだろう」
     戦艦の砲撃でも灼滅者はダメージを受ける事はないが、漁船やボートが耐えられる筈はないからだ。
    「漁船やボートの操縦方法のマニュアルは別途用意してあるから、可能な限り漁船やボートで接近、撃沈された後は灼滅者のみで敵艦に潜入して内部の制圧を行ってほしい」
     最初から泳いで近づく事も出来なくはないがタイムロスが命取りだ。
     漁船やボートが利用できればより迅速に敵艦に接近する事ができるだろう。
    「戦艦にたどり着いてからのことだが」
     千星はもう一度パペットを操る。
    「アッシュ・ランチャーは『撤退可能となった艦艇』に移乗して、戦域からの撤退を画策しているみたいだ」
     この撤退を阻止する為には、艦隊の外側や撤退準備が整っている艦艇を優先して制圧していく必要があるだろう。
    「艦艇には、人甲兵やアンデッド兵だけでなく多くの一般兵が乗船している。作戦としては、人甲兵とアンデッドを殲滅した後、ESPなどを利用して一般兵に言う事を聞かせて他の艦艇の退避を邪魔するように移動させれば、アッシュ・ランチャーの撤退を防ぐ事ができるだろう」
     撤退が不可能となればアッシュ・ランチャーは、艦隊の人甲兵やアンデッドを呼び集めて自分を守らせようとするだろう。
    「その際アンデッドや人甲兵は、救命ボートのようなもので移動したり、或いは海中を泳いだり歩いたりして集結してくる」
     集結する戦力は、アンデッド1000体弱に人甲兵が300体程度。
    「だが、この戦力が集結すれば、打ち破るのは困難になる。なのでアッシュ・ランチャーを撃破する為には、この増援を阻止する事が重要となるだろう」
     ここまで作戦が進めば、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇に乗り込んで彼に決戦を挑む事ができる。
    「だが、注意してくれ。アッシュ・ランチャーはノーライフキングの首魁の一員である。非常に強力で親衛隊ともいえる強力な人甲兵の護衛もいる。撃破するには相応の戦力が必要だ」
     さらに後方から増援の人甲兵やアンデッドが押し寄せれば、撃破に失敗する可能性も十分にありえるだろう。
     千星は左手の指を三本立て。
    「撤退を阻止する。増援を阻止する。アッシュ・ランチャー及び護衛と戦う。3つの作戦を同時に成功させなければ、アッシュ・ランチャーを灼滅する事はできないんだ」
     そしてこの作戦に加わる第三の勢力の存在に、千星は苦々しく息を吐いた。
    「スイミングコンドル2世についてだが――」
     最初からスイミングコンドル2世にアッシュ・ランチャーを避難させた場合、灼滅者がスイミングコンドル号に押し寄せてくるためにスイミングコンドル2世が制圧されてしまう。「という『紗里亜』嬢の予知があったために、アメリカンコンドルは『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所』で介入する作戦を行おうとしているんだ」
     もし何も対策しなければ、アッシュ・ランチャーと決戦中にアメリカンコンドルとご当地怪人の軍勢によって横槍を入れられて――。
    「アッシュ・ランチャーを奪われてしまうだろう」
     こうなってしまっては元も子もない。
    「これを阻止する為には、スイミングコンドル2世への攻撃も同時に行わなければならないんだ」
     スイミングコンドル2世の戦いでは、条件さえ整えばアメリカンコンドルの灼滅の可能性もある。
    「そしてスイミングコンドル2世のスーパーコンピューターに接続され、予知を行う為の装置として利用されている『椎那・紗里亜』嬢の救出あるいは灼滅も目的の一つになるだろう」
     一通りの説明を終えた千星は、いつものように自信満々に笑んだ。
    「敵は強力だが、この状況はチャンスでもあるんだ。うまくいけば、ノーライフキングを追い詰める事ができる」
     そして、千星は続けた。
    「皆の心の星が強く強く、今は水平線のかなたのカノープスのように輝けば――。最良の未来に導かれるよ」
     と。


    参加者
    敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)
    ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)
    リリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)
    秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)
    水野・真火(水あるいは炎・d19915)
    宮中・紫那乃(グッドフェイス・d21880)

    ■リプレイ


     早朝の東シナ海。
     朝日を浴びて輝く水面に、船が作る飛沫がきらめく。
     沖縄の港で漁船を確保した灼滅者達は、有象無象が犇めく海へと船を走らせていた。他の仲間の漁船も次々に沖に向かっていた。
    「何が人類管理者だ、ふざけやがって!」
     漁船の舵を握る敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)は苦々しくつぶやいた。
    「てめえが散々下に見てきた奴らの力、その身で味わって地獄の底に還るんだな!」
     向かうは、『人類管理者』と宣ったアッシュ・ランチャーの艦艇だ。
    「えぇ、新たな悲劇を生まないためにも、ここでアッシュ・ランチャーは仕留めないとですね」
     雷歌の憤りに頷き、きりっと口を結んだ秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)は海原を見据えると、ナノナノのサムワイズにライトを持たせて索敵を開始させる。
     サムワイズが辿り着いた空中では、雷歌のビハインドである紫電も索敵行動を開始していた。 今のところサーヴァントの動きがないところを見ると、まだ近くには援軍はいないのだろう。
    「相手がすごい大軍でも、負ける気なんてひとつも無いんだからっ」
     リリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)はぐっとこぶしを握り、気合を入れる。
    「先の戦いに勝ったんだ。もう一息だよ」
    「はい。私の宿敵、ノーライフキングの最高幹部を灼滅するチャンスです。頑張ります」
     と、気合を入れた宮中・紫那乃(グッドフェイス・d21880)が双眼鏡で大海原を見渡すと、水野・真火(水あるいは炎・d19915)もウイングキャットのミシェルを上空に向かわせて双眼鏡を覗き込んだ。
    「さて、お仕事しますか」
     ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)が箒に手を掛けると、ふわりと浮遊を始める箒。
     その近くでは、居木・久良(ロケットハート・d18214)はいざという時のために漁網の準備を始める。
    「青い海、青い空……沖縄の海でクルージングとか、こういう状況じゃなきゃ最高なんだけどな」
     少し生んだりしたように息をついて、仲間に倣って望遠鏡を覗き込んだ北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)は、目に飛び込んできた光景に息を呑んだ。
     艦艇が撤退を始めている光景が視界に飛び込んできたのだ。
    「もう艦艇が撤退を始めている……?!」
     まだ、作戦は序盤ではないか。
     葉月の声に驚いた灼滅者たちは、彼が見ている方角を一斉に見やった。双眼鏡を持つ者は双眼鏡で、持っていないものは注意深く目を凝らすと、そんなに遠くない距離で、確かに大きな艦艇が逃げるように進んでいる。
     その周りには大小様々な船がひしめき合っているのが見えた。
     ということは、あの艦艇にアッシュ・ランチャーが乗り込んでいるであろう。
    「撤退阻止に、失敗したってこと?」
     リリアナが驚きの声を上げる。
     撤退作戦に赴いたチームが必要最低限であったため、何らかの原因で抑えが効かなくなったと考えるのが妥当だろう。
     チーム配分ミス――。
     結果、撤退阻止は事実上の失敗となっていた。
     雷歌は舌打ちを鳴らすと、
    「飛ばす。危ねぇからつかまってろ」
     と早口で仲間たちに指示を出し、全員が安全を確保したところで漁船をポイントに向け、フルスロットルで走らせた。


     戦場はまさに大混乱。有象無象が犇めいていた。
     アッシュ・ランチャーの艦艇近くに漁船を潜り込ませた灼滅者たちが振り返ると、増援部隊が大挙していた。
     どうやら、敵を分断する位置に付けたようだ。
     撤退しているアッシュ・ランチャーの艦艇では戦いが行われているのかはわからなかった。だが、辿り着いた他の灼滅者達が次々に援軍と戦闘を開始している。
     それは、まだアッシュ・ランチャーの撤退が完了したわけではないことを物語る。同時にわざわざ危険を冒して空を飛んだり水中に潜ったりして敵を探す手間も省けたというもの。
     武装した紫那乃はTシャツを脱ぎ捨て水着姿になる。海戦だからと着て来たはいいが、いざとなったら恥ずかしいもので――。
    「アッシュ・ランチャー……絶対に許しません」
     八つ当たりであるが、当たり所は間違ってはいないといえば、いない。
    「Quiet」
     ジンザも解除コードを唱えると、他の灼滅者たちも次々武装を整えた。
    「後はただ倒すだけ。ってことだね!」
     久良はガトリングガン『454ウィスラー』を構えるなり、一番近い敵のボートに向けてファニングショット。ボート上の人甲兵の胴体に無数の穴をあけた。
     ボート上には人甲兵のほかにアンデッドが数体。
     人甲兵は機体から煙を上げながら、ガトリングを連射する。
    「攻撃は通しませんよっ」
     みつあみを揺らした清美が敵前に躍り出て攻撃を一身に受ける。撃たれた際の鮮血が甲板の上に落ちた。
     しかしやられっぱなしでいる清美ではない。
    「ナノーっ」
     サムワイズにふわふわハートで傷を回復させると眼鏡の奥からきりっと敵を見据えると、縛霊手の力を開放して敵のボートいっぱいに結界を張り巡らせて人甲兵やアンデッドにダメージを負わせた。
    「沖縄の海を、これ以上好き勝手にはさせない。てめえら皆纏めて海の藻屑にしてやるぜ!」
     そう叫んで息を吸い込んだ葉月は、美しい歌声で人甲兵を魅了する。
    「お前ら生きて帰れると思うなよ!」
     歌い終わって捨て台詞を吐いた葉月の横から、真火とミシェルが飛び出す。
    「北条さん、あいつら生きてないよ」
    「……ってアンデッドか!」
     葉月の返しに静かに頷いた真火。ミシェルが肉球パンチをアンデッドに食らわせたのを確認してピンと張り巡らせた弦を離せば、矢は星となり敵軍に降り注いだ。
     だがアンデッドも黙ってやられているわけではない。一斉に銃を構えると、次々に灼滅者目がけて弾を撃ち込んでいく。
    「……っ!」
     弾は漁船にも穴を開け、船は大きく揺れる。
     辛うじて攻撃をよけ切ったジンザは、高純度の魔法を人甲兵に向けて放つ。
    「僕とて、かつては提督と呼ばれた身でしてね」
     矢は人甲兵の腹にめり込んだ。足元が脆くなってよろける人甲兵。
    「まぁ、ゲームの中での話ですが」
     ぽつり呟くジンザの前。
     守り手として仲間を庇った雷歌は、頬に受けたの傷を手の甲で乱暴に拭った。
    「あの艦艇で仲間が戦ってんだ、ここで俺らが負けるわけにはいかねぇんだよ!」
     紫電が霊障波を打つ。その攻撃と息を合わせるように雷歌は、両手に集めたオーラを人甲兵に向けて放出した。
     親子の技は混ざり合い、人甲兵をを黒く焦がすと。
    「あと少しかな?! 一気に叩くよ!」
     リリアナは意気揚々と声を上げると、構えたバスターライフルから魔法光線を発射。撃たれた人甲兵は激しい煙を上げて、爆発した。
    「一体撃破!」
     勝ち名乗りを上げるリリアナ。元気な声に仲間の士気も上がる。
    「引き続き頑張りましょう! 皆さん」
     紫那乃は夜霧を周囲に漂わせ、傷ついた仲間を回復していった。
     清美はちらと艦艇を見た。まだ止まる気配も全力挙げて逃げる気配もない。
    「艦艇で艇で戦っている本隊の為にも、少しでも援軍を防ぎましょう」
     清美は眼鏡のずり落ちを直すと、一番手前のアンデッドに狙いを定めた。クロスグレイブが高らかに聖歌を奏でれば、銃口から放出された弾はアンデッドを一気に凍らせた。
     サムワイズが小さな羽をパタパタ羽ばたかせると、たつまきを起こして敵軍を薙ぐ。
    「アッシュ・ランチャーを必ず倒すため……!」
     続いた真火は剣の柄握る手に力を込めて甲板を蹴ると、破邪の白光を放つ剣でアンデッドに切りつける。
     ウロボロスブレイド『黒脊柱』を鞭状にして唸らせた葉月は、恋人に引き続いて飛び出すと、伸ばした鞭剣をアンデッドに巻き付け一気に斬り裂く。
    「あの個体は撃破可能。撃ちます」
     そう察した紫那乃は両手を前に突き出すと、手のひらから放出されたのは白いビーム。
     感は的中。アンデッドは白い光がが消えるとともに、姿を消した。
     撃破してホッと息をつきたいところだが、そんな暇もない。
     灼滅者たちは次のターゲットに向かい、次々に攻撃を繰り出していった。


     魚船は中破一歩手前。だが、まだ持ちこたえてくれそうではあった。
     『物理で殴る』を地でいく作戦で灼滅者たちは次々とアンデッドや人甲兵を撃破していく。
     しかし、次々と現れ続ける人甲兵やアンデッド。撃っても撃っても減っているという感覚はなかった。灼滅者の傷もどんどん深くなり、守り手のサーヴァントの体力もあと数分持つかどうか。
     だけど、まだあの艦艇の中での勝敗は決してはいない。だったら――。
    「命を懸けて戦う、生きるためにっ!」
     久良の叫びと呼応して、エアシューズ『ムーントリッパー』の月の模様がきらりと輝くと、摩擦によって生み出された炎が激しい蹴りと共に放たれた。
     雄たけびを上げて炎の中で悶えるアンデッド。
    「もう満足しました? では、さようなら」
     ジンザが両手を突き出しオーラを放てば、彼の金色の髪が波動に靡く。
     オーラはアンデッドの腹を貫通し、四散させた。
     息つく暇もなく、リリアナがくるりと後ろを振り返ると、人甲兵が銃口をこちらに向けていた。
    「まだ出てくるっていうの?!」
     はっと息を呑んだ彼女の前に、『護り刀』雷歌が飛び込む。攻撃を一身に受け、片膝をついて表情をゆがめるが、すぐに前を見据えた。
    「……ありがとう、次はあいつにするよ!」
     リリアナはお礼を言うと、一歩横に飛びんで構えたガトリングをぶっ放す。
     連続した発砲音と、金属同士がぶつかり合う高い響きに隠れるように。
    「大丈夫ですか、敷島さん!」
     紫那乃が善なるものを救済する光条を解き放てば。
    「サム、補助をお願い!」
    「ナノっ」
     清美の指示にこくんと頷いたサムワイズは、ふわふわハートを飛ばすと。
    「ミシェルもお願い」
     真火の指示を受け、凛々しい姿でふわり浮かんだミシェルも尻尾のリングをきらり光らせて、雷歌を癒した。
     その間に、紫電が顔を晒しアンデッドたちの動きを止めるべく攻撃する。
    「……感謝するぜ」
     力強く立ち上がった雷歌は無敵斬艦刀『富嶽』を大きく振り上げると、雄叫びを上げて人甲兵の脳天目掛けて振り下ろした。
     ぐっと後ろに押された人甲兵。ミシミシと激しく軋む音が響く。
     間髪入れずに動いたのは清美。刃のようなダイタロスベルトを自在に操り、人甲兵を蹂躙していく。
     揺れるボートの上で足取りも覚束ない人甲兵。その足元に絡みついたのは、真火の影。
    「いまだよ、北条さん」
    「おう!」
     ロッド『Cassiopeia』を構えて飛び出す葉月。杖に刻まれた言葉通りに導かれるように鈍色の機体前――。
    「消えろぉぉ!」
     ロッドを振りかぶって殴りつければ、人甲兵は大きくよろめき。
     海に落ちたかと思ったら、海中で爆発。激しい水飛沫が上がった。
    「次っ!」
     リリアナは爆破による水飛沫を浴びながらも次の標的を見据えた。カミの力が自分に降りてくるのを感じ、一気に激しく渦巻く風の刃でアンデッドを薙ぐ。
     雷歌が足に意識を向ければ、生み出された閃光は刃のように鋭く。紫電が放ったの霊障波をを追いかけるように、星々の重力を帯びた跳び蹴りを喰らわせる。
    「絶対に諦めない!」
     他の仲間も必死に戦っているのだから。
     久良は無敵斬艦刀『真・一文字』をしっかりと構えると高く飛び上がり、声を上げながら大上段から分厚い太刀を振り下ろす。
     少しだけずり落ちた眼鏡も直す暇はない。ジンザはアンデッドの死角に回り込むと、腐乱した肉を一気に斬り裂く。
     アンデッドの血肉がボートに落ちる。だが、まだ倒れる気配がない。
    「……まだまだか……」
     苦々しくつぶやいた。
     その時だった。
     闘争心むき出してあったアンデッドが、人甲兵が、急に攻撃の手を止めたのだ。
    「え、止まった……?」
     驚いた紫那乃が小さく呟くと、久良はふと横を見て指をさした。
    「……見て、艦艇の動きも止まってるよ」
     灼滅者たちは一斉に止まった艦艇を見やる。
     これが、アッシュ・ランチャーの灼滅の知らせであった。


    「なんとか灼滅に成功したようですか……」
     安堵の息をついて真火が呟くと、ジンザもホッと胸をなでおろす。
    「一時はどうなるかと思いましたけど……」
     艦艇は止まり敵の攻撃も止んだが、この不浄のモノを沖縄の美ら海に野放しにしておくわけにはいかない。
     灼滅者に残された仕事は、残されたアンデッドや人甲兵の始末だ。
    「これはこれで、大仕事になりそうですね」
     紫那乃は苦笑いを浮かべた。

     イレギュラーな事態もあったが、この海でアッシュ・ランチャーの灼滅に成功した。このことは今後の戦いを有利に運ぶ機運。
     だけどこの大海原で、灼滅者達の仕事はまだまだ続く。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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