決戦アッシュ・ランチャー~未来への道

    作者:九連夜

     アッシュ・ランチャーが派遣した中国軍の上陸作戦を打ち破り、次なる決戦の開始を待つ灼滅者たちに、一枚の説明ディスクが手渡される。それを再生すると……。

     皆さん、作戦成功おめでとうございます。おかげで沖縄の方々の安全は守られました。
     映像の中の五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)はそう告げると深々と頭を下げた。
     すいませんがもうひと頑張りをお願いします。今がアッシュ・ランチャーを灼滅するチャンスなのです。彼は統合元老院クリスタル・ミラビリスの元老ですから、その灼滅に成功すれば、あるいは謎に包まれたノーライフキングの本拠地への侵攻も可能となるかもしれません。もちろん敵はまだ十分な戦力を残しており、半端な覚悟で反攻作戦を行う事はできません。協力体制にあるご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』が艦隊に合流したとの情報もあり、またアッシュ・ランチャーが座乗する艦艇は擬似的に迷宮化されているため彼を灼滅しない限り破壊する事は出来ません。中はノーライフキングをはじめとした強大なな戦力が存在してるので、攻略は非常に難しいでしょう。
     ですが、と映像の姫子は真剣な瞳でなおも語る。
     ここで灼滅しなければ彼はいずれまた似たような事件を起こすかもしれません。今がそれを阻止する最大の機会なのです。それから……。
     ふ、と姫子は息をついた。
     援軍の『スイミングコンドル2世』には、行方不明になった椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)が囚われています。彼女は闇堕ち時に特殊な力を得たようで、エクスブレインとは違う未来予知能力を獲得しています。その能力のノーライフキングによる悪用を防ぐために、できることならば……。
     彼女を救出するか。
     あるいは灼滅するか。
     そのいずれかもお願いしたいと姫子は言った。
     作戦。
     新たな作戦は洋上艦隊の追撃だ。
     大規模であるが故に小回りがきかないアッシュ・ランチャー艦隊はゆっくりと再編と撤退を行いつつある。今であれば追撃が、それも大戦力による襲撃が可能となる。何もしなければ彼らは撤退するのみだが、いずれまた新たな脅威として復活するだろう。
     そして追撃をかけるにはその艦隊までたどり着かねばならない。漁船やボートなども徴用しているが、最終的には灼滅者の肉体による強行突破となる。戦艦の砲撃でも灼滅者が傷つくことは内が、漁船やボートが耐えられる筈はない。漁船やボートの操縦方法のマニュアルは用意しているので、可能な限り漁船やボートで接近し、撃沈された後は灼滅者のみで敵艦に潜入して内部の制圧を行ってほしい。
     最初から泳いで近づく事もできるが、漁船やボートが利用できればより速やかに敵艦に接近する事ができるだろう。
     アッシュ・ランチャーは撤退可能となった艦艇に移乗しての戦域からの撤退を画策している。
     その阻止には艦隊の外側の、撤退準備が整っている艦艇を優先して制圧しなければならない。
     艦艇には操船のために人甲兵やアンデッド兵だけでなく多くの一般兵が乗船している、敵戦力の排除後にESPなどで言う事を聞かせ、他の艦艇の退避を邪魔させればアッシュ・ランチャーの撤退阻止につながるだろう。
     だが撤退が不可能となれば、彼は艦隊の兵力を呼び集めて自分を守らせる。総勢はアンデッド1000体弱に、人甲兵が300体程度。それらのボートや自力での集結を防がなければ、彼の命には届かないだろう。
     しかし、と姫子は再び告げた。
     そこまで作戦を進めれば、彼が座乗する艦艇に乗り込み決戦を挑むことができる。ただし彼には親衛隊と言うべき強力な人甲兵の護衛もいるため、そこでもまた戦力が必要となる。
     撤退を阻止する、増援を阻止する、アッシュ・ランチャー自身及び護衛と戦うという3つの作戦を同時に成功させなければ、彼を灼滅する事はできないのだ。
     そしてまた。
     アメリカンコンドルは「アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所」での介入と救出を狙っている。最初からスイミングコンドルにアッシュ・ランチャーを避難させれば灼滅者が押し寄せてくると、そう『紗里亜』が予知したからだ。
     その対策としてスイミングコンドル2世への攻撃も同時に行わなければならない。
     とはいえ、アメリカンコンドルの灼滅も不可能というわけではない。
     また船のコンピューターに接続された『椎那・紗里亜』の救出あるいは灼滅も目的の一つになるだろう。
     長々と語ると、映像の姫子はゆっくりした口調で告げた。
     難しい作戦であることは重々承知しています。
     これまで武蔵坂の灼滅者たちは多くの困難を克服してきました。今度もまた新たな困難を克服し、未来への道を開いてくれると、信じています――。
     深々と礼をする姿と共に、再生映像は静かに消えた。


    参加者
    館・美咲(四神纏身・d01118)
    神虎・闇沙耶(鬼と獣の狭間にいる虎・d01766)
    聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)
    風華・彼方(中学生エクソシスト・d02968)
    槌屋・透流(ミョルニール・d06177)
    諫早・伊織(灯包む狐影・d13509)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    アリス・フラグメント(零れた欠片・d37020)

    ■リプレイ

     作戦は初手から躓いた。強敵アッシュ・ランチャーの灼滅のためにその襲撃と援護に人員を割いた結果、前提となる敵艦隊全体の逃亡の妨害、足止めに支障が出たのだ。覚悟を決めた一部の仲間たちが乗っ取った敵艦からの砲撃で周囲の艦を沈め、さらにアッシュの乗艦と目される戦艦に特攻をかけるという離れ業を繰り出さなければ、作戦そのものが崩壊していただろう。
     そして敵味方の犠牲を厭わず敢行されたその行動の結果、敵部隊は想定以上の速さで動き出した。大量のアンデッドや人甲兵が船から海に飛び込み、迫ってくる。アッシュの乗艦への乗り込みを狙う灼滅者たちをめがけて。

    ●海上無双
    「ふっ。普通の者はここで想定外の事態だとか言うのであろうな。だが」
     高速で走る小型漁船の舳先に立ち、胸の前で腕を組んで、何故かあごを上げた上から目線で。館・美咲(四神纏身・d01118)は異常な速さで泳ぎ寄ってくる大量のアンデッドの群れに向かって言い放った。
    「こんなこともあろうかと……」
     一瞬腰をかがめ、美咲は舳先から一気にダイブ。そのまま海中に沈むと見えたその足は、しかし大地のごとく海面を捉えて、槍を構えた少女の勇姿を海上に屹立させる。
    「妾はフローターのESPを取っていたのだ! さあ雑魚共よ、来るがいい!」
     宣言するなり押し寄せる敵に向かって小走りに駆けていく。戦闘を含む激しい行動には対応できないESPのため派手な格闘戦など望むべくもなかったが、美咲は己を囮として敵を誘導しあるいは牽制し、ときおり急回避ですっ転んだりしてずぶ濡れになりながら敵の包囲網に穴を空けていった。
    「船は任せろ! ハッ、海上戦ってのも良いもんだぜ!」
     船での突破戦を予想していた聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)の対応も素早かった。仲間たちに次々に指示を出して敵を屠り美咲の空けた穴を広げ、また横合いから突っ込んでくる敵に対しては自ら海中に躍り込んで抗雷撃を叩き込む。一方、美咲に代わって舳先に立ったのは諫早・伊織(灯包む狐影・d13509)だった。白い髪を硝煙混じりの海風になびかせ、敵の配置を鋭い視線で見て取る姿は軍師の風情がある。
    「……面舵30度、船がコケない範囲で全速を維持。前の群れを抜けたらいったん減速して館の姉さんを回収や」
    「了解、面舵30度とります」
     淡々とした指示を凜とした声が復唱し、船体が大きく右に傾いた。船の舵を操るのは葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)、最前線に立つその時までは己にできる最善のことをと、彼は冷静に船を操り敵陣の隙間を縫っていく。その傍らに立って無愛想に敵を攻撃していた少女が、唐突に船縁から上半身を乗り出した。遙か後方に目を向けた。
    (「アリス……」)
     アリス・フラグメント(零れた欠片・d37020)は片眼鏡を外し、両の眼を見開いて斜め後方から追いすがる敵の群れと、その前に立ちふさがった仲間たちを見た。そこで戦いに備える、己と同じ名を持つ少女の姿も。二人のアリスを隔てる海に浮かぶ無数の敵と船の残骸、薄く黒く広がる重油と異臭、さらには砲撃の犠牲となった一般兵士たちの悲惨な骸の数々は、これが命を賭けた戦いだという事実を、またそれ以上に自分が背負う責任を突きつけてくる。
    「私が守るんだ」
     小さな声が唇からこぼれ落ちる。
     あの人も。みんなも。敵の親玉を灼滅して。
     決意の表情で敵艦を振り仰いだその手から、リングスラッシャーが放たれる。それは最後の関門だとでも言うように真正面から迫ってきた大型の人甲兵の背中に弧を描いて突き刺さり、文字通りに海の藻屑となさしめて。そのまま8人の灼滅者たちはアッシュの乗艦へと船を横付けし、無傷のまま乗り移った。

    ●競争
    「ん、4班だけか」
     上がったのは普段と変わらぬ無愛想な声。
    「障害物が立ち並ぶ小さめのグラウンド」とでも表現すべき広さの戦艦の後甲板に移動した槌屋・透流(ミョルニール・d06177)は、集まってきた面々を見回しついそう口にした。今井・紅葉ほかの数名の見知った顔を見て内心ほっとしたものの、総勢32名という人数は事前の計画を大きく下回る。周囲を見てきた千布里・采先(夜藍空・d00110)が大きくうなずく。
    「さっきみたいに一般人兵士がおらんのはええけど、こらあきまへんな」
    「ああ、楽観は決してできないな。アッシュに人甲兵……この時点で戦力が足りない」
     事前予想では敵の総合戦力は班5つ分にだと、セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)も明快に指摘する。
    「うん、でも考えようによってはさ、面白くなってきたよね」
     後から声をかけたのは風華・彼方(中学生エクソシスト・d02968)。悲惨な状況を目にしてきたにも関わらず、彼の表情はいつも通りに明るかった。
    「つまり、何チームか集まらないとアッシュに勝てないんでしょ?」
    「お」
     ぽんと透流は手を叩いた。それはつまり、アッシュの灼滅を目的とする班以外にもその首を獲るチャンスがあるということだ。協調の輪を乱すつもりなど毛頭ないが、「大将首」という言葉には浪漫がある。その言葉を聞きつけた神虎・闇沙耶(鬼と獣の狭間にいる虎・d01766)が不敵に笑った。
    「誰がアッシュの首を取るか、競争だな」
    「了解。対人類最強の看板も今日限りってことで」
     横合いから首を突っ込んだ一・葉(デッドロック・d02409)がさらりと応じる。不利こそ好機。全力で当たれば扉は開かれる。あくまでも前向きな発言にその場の一同の空気が少し和んだ。
     その後わずかに事務的な言葉を交わし、灼滅者たちは散会した。一刻も早く敵を見つけ、その逃亡を阻止するために。後方で戦う仲間たちに託された仕事を完遂するために。

    ●接敵
     数百名から数千名の乗員が乗り込み数週間の無補給航行を行う戦艦の内部は、ノーライフキングの迷宮化能力の助けを借りずとも迷宮に近い。そんな二重の迷宮を進む8名が辿り着いたのは船底に近い水密区画、敵の攻撃を受けてどこかに浸水したときに故意に水を入れて全体のバランスをとる、あるいはいざ船を放棄するとなれば弁を開け放しにして自沈するための設備がある部屋だった。
    「……なかなかに硬そうじゃのぅ」
     先頭に立って部屋に躍り込んだ美咲がそんな声を漏らす。薄暗い部屋の中央に佇んでいたのは、解析結果にあった通りの全身を黄色に塗装した人甲兵。しかしその頭はは部屋の天井すれすれの4mほどの高さに位置し、全身の装甲も明らかに外の「量産型」とは違う。その左右には5体を数えるアンデッド兵。
    「……貴様らを、狩りにきた」
     透流がぶっきらぼうに告げたのを合図に、双方が動き出す。
    「この手で倒す!」
    「いくぜ、黄色い蝉野郎!」
     統弥と凛凛虎。シールドを展開しあるいは斬艦刀を八相に構えた二人が薄闇を割く閃光のように奔り、ほぼ同時に人甲兵を貫いた。
    「……こりゃ、弱体化が先か?」
     凛凛虎が感じたのは分厚い装甲の手応えだ。顔を上げると、人甲兵の腕が自分に向いていた。
    「!」
     とっさに構えた斬艦刀に強烈な衝撃。吹き飛ばされ、何とか受け身をとって立ち上がると、放たれた巨大な腕がワイヤで引き戻されるところを見えた。
    「ロケットパンチってか!」
     闇沙耶は群がってくるアンデッドをかわしながら、隙を突いて影を伸ばし敵を捕らえる。だが巨大人甲兵は異様な咆哮を上げるとその束縛を自ら振り払った。
    「長丁場になりそやな」
     伊織が呟いた。

    ●撃破
     そして彼の予想通りに戦いは長引いた。
     形勢自体は最初から有利だった。敵の攻撃をくらいはするものの、ほとんどは彼方が放つ矢によって即座に癒やされ、多少の変調はアリスが撒いた符が簡単に弾いてしまう。味方を守るフォーメーションが完璧に噛み合い勝利自体は序盤で確信できたが、問題は時間だった。
    「これで、最後です!」
     統弥が叫び斬艦刀を振るう。下から逆袈裟に薙ぎ上げられた強烈な一刀をまともにくらい、最後の護衛アンデッド兵が真っ二つになって冷たい床に転がった。
    「よし、あとは……」
     統弥は汗をぬぐい、残る巨体に意識を集中する。盾役として敵の攻撃を自らに誘い続け、最も大きな被害を受けていた彼だがそれでも体力の減少は6割程度だ。これは大丈夫と見越して途中から周囲のアンデッド排除に動いたものの、肝心の巨大人甲兵は装甲のあちこちを砕かれしばしば異音を発しつつも未だ動きを止めていない。その豪腕の強烈な威力も健在だ。
    「こんなのはどう?」
     彼方も攻撃に切り替え、マイペースでマジックミサイルを放つ。敵がそちらに目を向けた隙に背後に回った伊織が床を蹴って飛び上がり、首の後あたりをナイフで深々とえぐる。すると、すると、それを契機にしたように急に巨体の動きが鈍り始めた。
    「……効いてきたか」
     透流が手の中で解体ナイフをもて遊びながら呟いた。装甲の解体とタイダロスベルトでの行動封じをひたすら積み重ねてきたことが、ようやく効果を発揮してきたようだった。
    「ぶち抜く!」
    「手間掛けさせやがって雑魚が!」
     巨大な刃物の形をした透流の影が水平に、すかさず前に出た凛凛虎の刀が唐竹割りに、巨体を切り裂く。しかしお返しはロケットパンチの乱舞だった。
    「いい加減にせい!」
     吠えた美咲が槍を突き込み、闇沙耶の巨刀が畳み込むようにその傷をえぐる。だがまだ倒れない。
     まだ続くのか。他の班が全て全滅してしまうまでこの戦いは終わらないのか。そんな嫌な想像が皆の脳裏をかすめたときだった。
    「そんなことはさせない」
     アリスが一歩進み出、敵の巨体を睨み付けた。もしこれで終わらないのなら。まだ戦い、私が先へ進むことを、大事な人を守ることを妨害するのなら。
     その時は……!
     片眼鏡の下のアリスの眼が、わずかに闇の色を帯びた。
    「倒れろ!」
     魂の叫びと共に放たれたリングは真っ直ぐに飛んで、ちょうど彼女に向き直った人甲兵の装甲の胸の裂け目に、吸い込まれるように突き刺さる。巨体が一瞬震え、そのまま崩れるように膝をついた。うなだれるように首を下向け、人甲兵は機能を停止した。
    「大丈夫か皆? 急ぎ本隊と合流しよう」
     間を置かずに軽く敵を蹴飛ばし、擬態ではないことを確認した闇沙耶が一同を見回した。
    「うん、行こう!」
     彼方の行動には迷いがなく、常に素早い。自ら先頭に立って来た道を駆け戻っていく彼の背中を見て残る面々は一瞬互いの顔を見合わせ、即座に後に続く。どうか間に合ってくれと念じながら。

    ●終局
     分かれ道から続く道に記された3つのマークのうちの2つがすでに塗りつぶされていた。残る道は1つ、つまりこの班が最後だ。印に沿って全力で駆ける皆の耳に、やがて音が響き始める。金属同士がぶつかる音、爆発音、そして誰かの叫び声。いずれも単発ではなく集団が発するものだ。
     歯を食いしばって階上へと続く長い階段を駆け上がっていたアリスの口から、思わず安堵の声が漏れた。
    「間に合った……!」
    「ようし、それじゃ」
     その横を進む彼方がぐん、と加速した。
    「真打ちの登場だよ!」
     高らかな宣言と共に戦場に――かつては艦橋だったはずの部屋に躍り込んだ皆が見たのは、縦横無尽に動き回り剣を振るう銀色の異形の男、そしてそれを取り巻く20人の仲間たち。壁際には倒れ伏した数人の姿とそれを守る人影も。
    「東西南北に2人ずつ! 壁をぶち破って逃げるかも知れへん!」
    「了解!」
    「任せとき! ぶっ潰す!」
     とっさの伊織の指示に統弥と透流が即時に身を翻し左右に分かれ、さらに凛凛虎、闇沙耶、美咲たちが続く。20人に加えて、十分な戦力を残した8人。包囲が完成した。
    「アッシュの兄さん、もう逃がしまへんえ」
    「ば、馬鹿な……人類管理者である私が、このような所で灼滅されて良いはずはない!」
     伊織の呟きに応えるかのように銀色のノーライフキングが叫ぶ。そこへアリスのリングが、透流のベルトが、凛凛虎の剛剣Tyrantが炸裂する。さらに加勢を得て勢いを増した20人の攻撃も。次々に叩き込まれるサイキックの豪雨にアッシュの体がぐらりと揺れた。
    「全てを終わらせる!!」
     斬艦刀を振りかぶった闇沙耶がとどめとばかりに突進する。だがアッシュは渾身の力で飛び下がり致命の一撃を避けた。態勢が崩れた。そしてその後ろには、先行班の一員としてアッシュの猛威に耐え続けてきた一・葉がいた。
    「じゃあな、アッシュ・ランチャー。今日から俺らが対ダークネス最強だ」
     地獄をくぐり抜けた者ならではの晴れやかな宣言と共にフルスイング。鋼のギターがアッシュの兜を捉え、吹き飛ばした。首を失った鎧が崩れ落ちる。そのなかで複雑な形状の水晶めいたものが煌めき、次の瞬間、陽炎のように揺らめいて消滅した。
     アッシュ・ランチャーは灼滅された。

    ●未来への道
    「ぬおっ!」
     アッシュの生首、もとい中身を失った兜。打球よろしくすっ飛んできたその軌道上にはあいにくと美咲がいた。おデコと金属が派手な音をたてて激突し、額を真っ赤に腫らした美咲は大の字になってぶっ倒れた。その脇に転がった主なき兜を凛凛虎がひょいと拾い上げた。
    「お前の人間だった時の名を……って、もう聞けそうにねえな」
     面の部分を見つめて残念そうに呟く彼の肩を、闇沙耶が軽く叩いた。
    「聞いたって人に戻せる相手じゃなかっただろうしな。ここで後腐れ無しに全部終わりにするほうが、動員された中国の連中も――いや」
     その声がわずかに真剣な色を帯びた。
    「むしろ始まりなのかもしれない。こいつの背後にまだいたな」
    「次は元老院そのものを倒したいですね」
     未だ見ぬ強大な敵のこと口にしつつ、統弥は感慨深げに表情なき兜を見る。ようやくここまで来た。だがここからの道はまだまだ遠い。一つ間違えば自分がこうなることもあるはずだと、統弥は己を戒める。
    「今日は定刻通りに帰れそうやな」
     戦いの熱が消え、どこか優しい眼差しになった伊織が告げた。
    「そいつは戦利品として持ち帰りましょか。調べれば何か出てくるかも知れへんし」
    「そうだね。あ」
     銀色の兜に手を伸ばしかけた透流が周囲を見回した。
    「外への連絡は? 他の班は? ……無理だね」
     戦闘不能者や重傷者の救護にあたる仲間たちを見て透流は首を振った。事実、遭遇した敵との相性と参戦タイミングからこの班の損害は圧倒的に小さい。
    「じゃあ、みんなに教えてくるね」
     戦いの前も後も、厳しい戦いを経ても常に変わらぬ彼方が走り出した。
    「いってきまーす」
     階段を下る元気な声が徐々に小さくなっていく。
    「……ふう」
     そんな光景を見ながら、アリスは床に腰を下ろして壁にもたれたまま、どこか遠くに視線を向けた。疲れた体を安めながら、声を発さず、唇だけを動かして心の中で大事な人に告げる。
     守ったよ、と。
     みんなの未来への道は守り切ったよ、と。

    作者:九連夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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