アッシュ・ランチャー灼滅のための前段作戦である侵攻阻止作戦を成功させた灼滅者たちは、つかの間の休息を取っていた。
そんな彼らの元に、1枚のディスクが届けられる。
再生してみると、武蔵坂学園の教室にいる衛・日向(探究するエクスブレイン・dn0188)が映し出された。
ほっとした様子の日向は、沖縄に攻め寄せた軍勢の撃退に成功したことに対して感謝と称賛を告げる。
「この勝利によって、アッシュ・ランチャーを灼滅するチャンスを得ることができた。統合元老院クリスタル・ミラビリスの元老であるアッシュ・ランチャーを灼滅することができれば、謎に包まれたノーライフキングの本拠地への侵攻も可能となるかもしれないな」
しかし敵軍の戦力は未だ強大であり、生半可な覚悟で反攻作戦を行うことはできない。
さらに、ノーライフキングと協力体制にあるご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』が艦隊に合流したようだ。
日向は気難しい表情で視線を落とす。恐らく手元にある資料に目をやったのだろう。
「アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇は擬似的に迷宮化されていて、アッシュ・ランチャーを灼滅しない限り破壊することはできないんだ。それに内部にはノーライフキングをはじめ強力な戦力があって、攻略は非常に難しい」
その言葉を聞き、灼滅者たちは疲労の残る顔で互いを見やる。
「でもここでアッシュ・ランチャーを取り逃がせば、今回のような事件を再び起こすかもしれない。だから是が非でもここで灼滅するべきだと思う」
エクスブレインは言って、しかもそれだけじゃない、と続けた。
スイミングコンドル2世には、闇堕ち後行方不明になっていた椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)が囚われていることも予知されている。
彼女は闇堕ち時に特殊な力を得たようで、エクスブレインとは違う予知能力を獲得しており、その能力がノーライフキングにより悪用されているようだ。
「未来予知能力を敵が手にしてしまうのはものすごい脅威だ。可能であれば彼女の救出、あるいは、」
く、と一度口元を引き結び。
「灼滅をお願いしたい」
苦いものを飲み込むように、告げる。
ふっと小さく息を吐き、もう一度視線を動かす。
「アッシュ・ランチャー艦隊は、艦隊を再編してゆっくりと撤退しようと動き出している。でもこれだけの大規模な艦隊が簡単に動きだせるはずがない。だから、今すぐ追撃すれば艦隊に大規模な襲撃をかけることが可能だ」
こちらから攻撃をしなければ戦闘を行うことなく相手は撤退していくが、アッシュ・ランチャーと艦隊が健在である限り似たような軍事行動が再び行われるのは間違いない。
それを防ぐためにも、ここでアッシュ・ランチャーを灼滅しておきたい。
「それにノーライフキングの首魁『統合元老院クリスタル・ミラビリス』の一体である、アッシュ・ランチャーを灼滅することができれば、所在不明のノーライフキングの本拠地の情報を得ることができるかもしれないんだ」
説明は分かったが、しかし艦隊を襲撃しろと言われても生身では簡単ではない。
その疑問を半ば独白じみて口にする灼滅者たちに、エクスブレインはぐむむ、と唸った。
「多分、どうやって行けって言うんだよ、って思うと思うんだけどさ」
敵艦隊までの移動手段は漁船やボートなども徴用しているが、最終的には灼滅者の肉体による強行突破となるだろう。
戦艦の砲撃でも灼滅者はダメージを受けることはないが、漁船やボートが耐えられるはずはない。
「まあ……みんなは灼滅者だしね……」
でも食らったら痛いよねえ、絶対。日向が溜息をつく。
それはさておき、漁船やボートの操縦方法のマニュアルは用意しているので、可能な限り漁船やボートで接近し、撃沈された後は灼滅者のみで敵艦に潜入して内部の制圧を行ってほしい。
最初から泳いで近づくこともできるが、漁船やボートが利用できればより迅速に敵艦に接近することができるだろう。
「で、状況なんだけど、アッシュ・ランチャーは『撤退可能となった艦艇』に移乗して、戦域からの撤退を画策しているんだ。この撤退を阻止するために艦隊の外側、撤退準備が整っている艦艇を優先して制圧していく必要がある」
艦艇には、人甲兵やアンデッド兵だけでなく多くの一般兵が乗艦しているので、人甲兵とアンデッドを殲滅した後ESPなどを利用して一般兵に言うことを聞かせ、他の艦艇の退避を邪魔するように移動させれば、アッシュ・ランチャーの撤退を防ぐことができるだろう。
「撤退が不可能になれば、アッシュ・ランチャーは艦隊の人甲兵やアンデッドを呼び集めて自分を守らせようとする。で、呼ばれたアンデッドや人甲兵は、救命ボートみたいなもので移動したり、海中を泳いだり歩いたりして集結してくる」
集結する戦力は、アンデッド1000体弱に、人甲兵が300体程度だが、この戦力が集結すれば打ち破るのは困難になるだろう。
なので、アッシュ・ランチャーを撃破するためにはこの増援を阻止することが重要となる。
「ここまで作戦が進めば、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇に乗り込み、アッシュ・ランチャーに決戦を挑むことができる。アッシュ・ランチャーはノーライフキングの首魁の一員だ。非常に強力で、親衛隊ともいえる強力な人甲兵の護衛もいるため、撃破するには相応の戦力が必要だろうな」
さらに、後方から増援の人甲兵やアンデッドが押し寄せれば、撃破に失敗する可能性もありえるだろう。
撤退を阻止する、増援を阻止する、アッシュ・ランチャー及び護衛と戦うという3つの作戦を同時に成功させなければ、アッシュ・ランチャーを灼滅することはできない。
どうするべきかと思案する灼滅者たちに、そうそう、とエクスブレインは資料を見せるように掲げた。
「最初からスイミングコンドル2世にアッシュ・ランチャーを避難させた場合、灼滅者がスイミングコンドル号に押し寄せてくるため、スイミングコンドル2世が制圧されてしまうという『紗里亜』の予知があったために、アメリカンコンドルは『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所』で介入する作戦を行おうとしているんだ」
もし何も対策しなければ、アッシュ・ランチャーと決戦中にアメリカンコンドルとご当地怪人の軍勢によって横槍を入れられて、アッシュ・ランチャーを奪われてしまうだろう。
これを阻止するためには、スイミングコンドル2世への攻撃も同時に行わなければならない。
スイミングコンドル2世の戦いでは、条件さえ整えば、アメリカンコンドルの灼滅の可能性もある。
また、スイミングコンドル2世のスーパーコンピューターに接続され、予知を行うための装置として利用されている『椎那・紗里亜』の救出あるいは灼滅も目的のひとつになるだろう。
「すごく難しいし大変だけど、きっとみんななら大丈夫って信じてる」
だってほら、上陸作戦だって阻止してくれただろ?
みんなのこと信じてるからと笑い、ふっと真摯な表情になる。
「敵は強力だけど、この状況はチャンスだ。うまくいけばノーライフキングを追い詰める事ができる。だからじっくり考えて、そして万全の状態で臨んでほしい」
祈るように胸に手を当て、エクスブレインはゆっくりと頭を下げた。
「みんなの健闘を祈るよ。……大丈夫、信じてる」
参加者 | |
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守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289) |
峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705) |
暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349) |
シルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461) |
夜伽・夜音(トギカセ・d22134) |
ミラージュ・ミスト(虚光・d28157) |
ロスト・エンド(青碧のディスペア・d32868) |
秦・明彦(白き雷・d33618) |
●
闇を含んだ曇天が、頭上に重く圧し掛かる。
じきに昇り透き通る海を照らすはずの太陽はいまだ昇らず、暗雲は陰鬱に垂れ込めていた。
海上に浮かぶ艦艇群のその奥。そこにいるであろう敵首魁とそれを討たんとする仲間たちを見つめ、闇を斬り払うように峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705)がスレイヤーカードを掲げる。
『狩ったり狩られたりしようか』
言葉とともに開放された武器を掴んで船上から跳躍する。
既にアッシュ・ランチャーとの決戦に向かったチームは戦闘を開始している。そしてそれを足止めしようと向かう敵も増えつつある。
彼らのチームが選んだのはアッシュ・ランチャーへの増援の阻止。
アッシュ・ランチャーの戦艦に向かい、自分たちよりもアッシュ・ランチャーの艦に近い敵が増援に向かうのを阻止しなければ。
「旗色が悪くなったから逃げるつもりだろうけど、生憎、それを認めてやる慈悲を俺は持ち合わせていないよ」
艦艇群の半ば混乱じみた気配にロスト・エンド(青碧のディスペア・d32868)は静かに睨み、そして自身の戦場へと目を向けた。
ざ、っ。滑り止め塗料の塗られた甲板に立つ若者たちを物々しく武装した兵士たちが取り囲む様は、知らぬ者が見ればこの後の惨劇を幻視したであろう。
だが、彼らは灼滅者である。武器を向けられても決して怯むことはない。
「如果不想別死動」
『死にたくなければ動くな』と、威圧する風をまとい青き魔槍を手にロストが命じると、兵士たちの間に動揺が走る。
秦・明彦(白き雷・d33618)に庇われるようにして守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)も安全な場所にいるか離艦するように重ねて告げ、兵士たちはそろりと逃げ出す。
動じず残る者は、アンデッド兵と人甲兵だ。
一般人でなければ加減する必要はない。
手にした日本刀をすと敵陣へ向け、ふんわりと広がったスカートを優雅に翻してシルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461)は不敵に笑った。
「邪魔はさせにゅのじゃ!」
舌足らずな少女の喝声に、戦いの火蓋が切って落とされる。
●
跳躍し、アンデッド兵へと暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)が拳を繰り出す。
激しい勢いで叩き込まれた拳打にたたらを踏み、追い討ちをかけるように夜伽・夜音(トギカセ・d22134)の放った黙示録砲が貫いた。
姿勢を崩したところへミラージュ・ミスト(虚光・d28157)が黒衣を翻して奔らせた刃に切り刻まれ、ぐらりと倒れ込む。
敵の強さは最前彼らが戦った相手とさほど変わらない。数も、3000という大軍に比べれば大したことはない。
油断せず対峙すれば、少なくとも押し負けることはないだろう。
だが、全体を見渡せば決して局地的な、小規模な戦いではなかった。
「こんな大規模な作戦を担当することになるとはね。でも、やるからには全力を尽くすわよ」
口にして周囲に気を遣れば、そこここの艦上で剣戟交わる様子も見て取れる。あれもまた仲間たちの戦場だ。
どこかが手薄にならないよう、或いは手厚くならないよう連絡を取りながらひたすらに撃破していく。
そのつもりだったのだが。
「あれ……?」
最初の船を制圧し他のチームと連絡を取ろうとしたが、通信機からは応答がない。
艦艇群の電子戦兵装によるものか或いは別か、ともかく機器を介した連絡はできないようだ。
以前にもこんなことがあったと思い出す者は幾人かあったが、しかしそれで作戦が崩壊するわけではない。できないならできないでどうにかするだけのこと。
気を取り直し、双眼鏡で周囲を確認しながら次の敵へと向かう。
ボートごと敵の乗る船に強引に体当たりし、足止めを食らわせて乗り移るとやはり一般人を牽制してから戦闘に移る。
向けられた自動歩槍の銃口から吐き出された弾丸をかすめて、清香は敵の懐へ飛び込む。ふっと鋭く息を吸い、
「ダークネスに踏みにじられた一般人の憤怒と憎悪、憤怒の穿ちと運命裂きでもって刻みつける。実感して消えるがいい」
ど、ぉッ! 渾身の力を込めてバベルブレイカーを打ち込んだ。
攻撃を食らった衝撃によろめきながらサズヤの放つ氷柱を回避した間を狙い、夜空を流れる星の如き勢いで夜音の蹴撃が鋭く刺さる。
足を突き姿勢を取り直す隙を突き別の敵が攻撃を仕掛けるが、素早く前へ出たロストが身を挺して攻撃を防ぎ、返す勢いで魔槍を繰り出した。
濁った悲鳴を吐くアンデッド兵の身体を蹴り得物を引き抜くと、シルフィーゼの放つ酷冷の魔術が絡め取っていく。
畳み掛けられる攻撃に術者を狙おうと反撃の体勢に移る敵へ向けて、ミラージュが聖浄なる十字架を顕した。
「光の十字架よ、敵を浄化せよ!」
言葉と共に十字架から無数の輝きが放たれ、不死者たちを射抜いていく。
アンデッドの次は人甲兵だ。
「一人でも通さず多く倒すよ!」
既にいくばくかの傷を負いながらも掴みかかろうとする敵へ、白銀の剣を振るい薙ぎ払う明彦の後ろに護られながら、結衣奈は風の刃を迸らせた。
ざああっと葉擦れに似た音と共に切り刻まれ倒れていく敵に、そっと息を吐く。
今回の中国軍を巻き込んだ侵攻。
水際阻止が成功したからこそ、今度はこちらから仕掛けて。
「人類管理者を名乗るアッシュ・ランチャーらに、わたし達人類の力を見誤った事、思い知って貰わないとだね」
決意を込めて口にする恋人に、明彦は力強く頷いた。
彼女は先日闇堕ちから彼らの元に戻ってきた。これほど嬉しいことはない。まして共に戦えるのだから。
気合が入った、そして嬉しげな彼の様子に問うと、爽やかににっこり笑って答えた。
「去年の修学旅行を思い出した。結衣奈との思い出の場所を護る為に一緒に戦えるのだから、正直嬉しいかな」
この場所は、彼らにとって大切な思い出のひとつでもある。
そしてその思い出を重ねた大切な人がそばにいる。これからも。
頷き返して結衣奈もにっこり笑った。
彼女もまた、闇堕ちから帰ってきて明彦や学園のみんなと戦えることを喜びつつ。
彼と、彼らとを繋ぐものは、この胸にある。
「みんなに教えて貰った絆は強さと力となり闇を祓うよ!」
胸に手を当て、気合を入れる。
その言葉に、サズヤは顔をめぐらせアッシュ・ランチャーの座する艦を見据えた。
「(……全てを止めきれなくても、あの場には沢山の友達が向かっている)」
己の別れ身のように深く親しくする者、何気ない日々の中で他愛なく言葉を交わす者。
彼、或いは彼女が武器を取り死力を尽くし戦っている理由は、目的こそ違えど同じだ。
決戦に向かう友達と、犠牲になったアンデッドの為に。
無言で見つめる横顔に、夜音がきゅっと唇を引き結ぶ。
「いっぱい……大規模な作戦さんだね。絶対、阻止しなきゃ。大変な事にはさせないよ」
次のボートへと移ろうとしながら決意を新たにしたその時、ずるりと足を滑らせ姿勢を崩す。
危うく海に落ちそうになるところをサズヤが手を伸ばして助けた。
灼滅者であれども、常時超人的な身体能力があるわけではない。そして彼女は、ちょっと運動が苦手だった。
サズヤくんありがとさんなの、と礼を言いながらはわはわと体勢を持ち直した。
「緊張さんだけれど、大事なのは落ち着いて行動すること……だよねぇ」
大丈夫、……大丈夫。頑張っていこう。
敵が襲撃してこないよう警戒していた清香が、夜音の様子に険しい表情をかすかに崩し、仲間たち或いは自身へと告げるように前を向く。
「アッシュ・ランチャーを討てるかはあっちの頑張り次第だが此処に着たダークネスは必ず灼滅する」
ダークネスを倒し、追い、追わせず倒す――それがこの戦いでの、彼女たちの果たすべき役目だった。
ただひたすらに繰り返す。
傷を負っては癒し、灼滅者たちが倒すのはアンデッド兵と人甲兵。
「それ、どんどん加速していく攻撃よ、躱せるかしら?」
挑発的な言葉と共にミラージュはウロボロスブレイドをうねらせ敵を蹂躙していき、なおも立つものには清香が振るう呪詛刻まれた鞭剣が絡め取り切り刻む。
振り上げられた自動歩槍のストックでしたたかに打擲され、ロストが治癒を受けながら魔槍をぐっと握り締める。
だんっと力を込めて敵のさなかに飛び込み、つむじ風もかくやの勢いで穂先を疾らせた。
「さあ、こっちへ来い! 全て殲滅してやる!」
果たして挑発にかかった敵は、他の仲間たちへ向かおうとしていた得物の矛先を彼へと向けなおした。
アッシュ・ランチャーのことも気になるが、周囲のアンデッドや人甲兵も、一匹たりとも見逃すつもりはない。
ここで見逃せば、あの地獄が再び起きてしまう。
「これ以上、世界を地獄に変えさせたりはしないよ」
鋭く繰り出される攻撃を得物でいなし弾いて、低く声を振り立てた。
酷冷の魔術を放とうと構えたシルフィーゼの懐に、仲間たちの攻撃をかいくぐってアンデッド兵が得物を叩き込む。
くっと歯を食いしばり間一髪で攻撃を避けると、抜き払った日本刀に血緋のオーラを宿して一息に振り抜く。
宵闇に輝く切っ先は美しい弧を描き、一刀の元に斬り伏せた。
続く敵へと明彦が渾身の力で黒鉄の棍を振りかざて強打する。内側から爆破される苦悶に身を捩じらせる敵に、結衣奈は魔力の矢を雨のように浴びせかけた。
すぅ、と息を吸い夜音の声が物語を紡ぐ。それは黒髪黒目、「普通」を夢観た少女が影の枷と遊ぶ噺、伽枷奇譚。
枷に捉われた敵を、歳不相応に幼い感情を灯した瞳が見据えた。
アンデッドになれば、感情は、想いはなくなってしまう。
なら、もう一度。ちゃんと眠らせてやりたい。
それは灼滅という名の葬送。
深く踏み込み、サズヤは鋭い拳打を浴びせかける。
ダメージと衝撃をもろに食らった敵はぐらりと身体を傾がせ、耐え切れずにそのまま縁から海へと落ちていく。
ヒトひとりが落ちて上がる水飛沫は、あっけないほどに静かだった。
「……きちんと葬れなくて、すまない」
海に沈む亡骸を見つめ、そっと弔いを投げる。
この船の敵は倒した。次の敵を探そう。思いを払って、次の船へと移る準備にかかる。
その時。
●
そこここで聞こえていた雑多な音がベクトルを変える。
まるで艦艇に意思があるかのように。
いや、意思があるのはその乗艦者だろう。指揮者を失い動揺しているかのようにしばし止まり、それからゆっくりと、しかし明らかに挙動を変えていく。
「何だ……?」
アッシュ・ランチャーの艦艇へと向かっていた艦艇群や船団がぞわぞわと動きを変えていた。
離れていく、否撤退していくかのようなその挙動に、彼らはアッシュ・ランチャーの身に何かがあったことを知る。
恐らくは。
「成功したのか」
溜息をつくように口にした清香の言葉に、灼滅者たちは改めて確信する。
ふうっと息を吐く明彦に結衣奈が手を掲げると、軽くハイタッチを交わした。
戦いに次ぐ戦いの中で傷を負いながらも、彼は最後まで彼女を護り通し傷つけさせなかった。
夜音もサズヤにほんわり微笑んで、ぽふんと手を打ち合わせる。
「おつかれさんだねえ」
「でも、まだ終わりじゃないわ」
左目の下に付けている十字架のタトゥーに触れるように指を頬に当てミラージュが唸る。
首魁を倒しても、その配下までもが消えるわけではない。いまだ海上には、多くのアンデッドたちを乗せた船が浮かんでいる。
連戦また連戦で心身共に疲れきっていたが、このままほうっておくわけにもいかない。
そうでした。と灼滅者たちの間に少しだけ、ほんの少しだけ、溜息がこぼれた。
「さて、それでは本当に終わらせりゅためのひと仕事をせねばのぅ」
潮風にスカートの裾を翻しながらシルフィーゼは靴のかかとを鳴らし、是非もないとロストが魔槍を掴みなおす。
これは一苦労だと誰かが茶化して言った言葉にわずかながらも疲労と緊張が和らぐ。
決着はこれからだ。
作者:鈴木リョウジ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年5月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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