はっしん! ぼくらのかんがえたあくのロボット!

    作者:波多野志郎

     最初は「あの山にある塔は何なのだろう?」から始まった。
     小学校の遠足中、サービスエリアでバスが止まった時の始まった他愛のない話から始まった。
    「ばっか、秘密基地だよ、秘密基地!」
    「おー、んじゃロボットとかあるんだなー」
     不幸の始まりはここである。これを聞いていた別の遠足の児童が話を膨らませたのである。
    「何で、こんなとこに秘密基地があんだよ?」
    「えーと、隠れてんじゃね? よにはばかるってやつだよ」
     また他校の生徒に聞かれる。
    「悪の秘密結社の悪のロボットか!」
    「完成したら、この辺り火の海だな!」
     また、聞かれる。
    「なるほど、しかしあの塔のサイズでは建造に必要なスペースが足りないな、スーパーロボットはない」
    「せいぜい、全長六メートル――リアルロボットでも小柄でござるな。多分、自立型でござろう」
     ――何か混ざってしまったが、仕方がない。
     結果、このサービスエリアで「悪の秘密結社によって作られた全長10メートルの自立型リアルロボットが完成すると、この辺りを破壊し尽くす」という奇妙な噂話が生まれる事となった。
    「それって怖くね?」
     そして、都市伝説として完成する。

    「いや、もう使わなくなった給水塔っすから」
     パタパタ、と顔の前で手を振って湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)は第一声から男の夢を破壊した。女の子だから、その辺りに容赦はない。
     今回翠織が察知したのは都市伝説の存在である。それは他愛のない空想から始まり、いい大人が妙にリアルな造形を与え、結果都市伝説として形を得てしまった。
    「放置しておくと全長六メートルのロボットが周囲を焼き払うっす。ええ、もちろん放置する訳にはいかないっすよ」
     幸い、ロボットが完成する日時はわかっている。そこで待ち受ければそのロボットと戦えるだろう。
     ロボット――全身黒塗りの西洋甲冑にも似た外観を持つ。カメラアイは一つ。移動は歩行、飛行は出来ない。十五連ミサイルポッドによる絨毯爆撃と全長二メートルほどのビームソードを装備、ロボットだけに厚い装甲を持ちタフである。
    「ぶっちゃけ、強いっす。人間対ロボの勝負っすよ」
     給水塔は今は自然公園の片隅にモニュメントとして残っている。完成するのは深夜零時――周囲の被害は考えず、思い切り戦って欲しい。なお、公園は街灯完備なので光源にも困らない。
    「ま、浪漫は放っておくとしてこいつが暴れまわれば被害は甚大っす。そうならないよう、きっちりとケリをつけて欲しいっす」
     翠織はそう告げると、ああ、と付け加えた。
    「こいつ、倒すと爆発するっす。もちろん、威力はない見た目だけっすから。オヤクソクって奴らしいっすよ?」


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    ミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464)
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    館・美咲(影甲・d01118)
    紅月・チアキ(朱雀は煉獄の空へ・d01147)
    黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)
    弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)
    雑釈谷・ヒョコ(持て余す後光・d08159)

    ■リプレイ


     ――二本の時計の針が頂点を指す。
     夜の十二時、ついにあくのロボットは完成した!
     突如として鳴り響く重低音のミュージック。ガシャン! と悪のロボット製造施設――実際は給水塔だ――が、真ん中から二つに割れた。
    『――――』
     割れた製造施設から溢れ出すスモーク、その奥でガシャン、ガシャン、と重苦しい地響きを立てる足音と共に巨大な影が姿を現した。
     スモークを切り払う赤いビームソード、そして姿を現す西洋甲冑にも似た漆黒の装甲を持つ巨大ロボットがヴン! とそのモノアイを真紅に輝かせポーズを決めた。
     そう、その瞬間である。
    「そこまでだ!!」
    「そこまでじゃ!」
     その声にあくのロボットは弾けたように振り向く。その動きに高速反応の素晴らしさを見いだすか、唐突に振られたアドリブに戸惑う若手芸人のようだと思うの人それぞれだろう。
     公園の高台、そこに声の主である雑釈谷・ヒョコ(持て余す後光・d08159)と館・美咲(影甲・d01118)の姿があった。二人は大仰に左右の手をかざし、美咲は特徴的なおでこが冴え冴えと輝く月光に輝かせる。
     もちろん、美咲だけではない。
    「この町は俺たちが守るんだぜ! ここから先には進ませねえ!」
     ダン、と一歩前に踏み出し首元の赤いマフラーをなびかせ紅月・チアキ(朱雀は煉獄の空へ・d01147)が吼える。その赤茶の髪も特徴的なツンツンとした髪型に整えている――まるでロボットアニメの主人公のようないでたちだ。
    「灼滅戦隊スレイヤーズ、ただ今参上! ってね」
     そして、ミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464)がフードを跳ねさせ、スレイヤーズ達はビシリとポーズを決めた。
     それにあくのロボットがビームソードの切っ先を突きつける。あいにく音声機能がないが、おそらくは『ついに現れたな、スレイヤーズ! 今日こそお前達最後の時だ!』とか言っているのだろう、多分、きっと、メイビー。
    「――ほら、そろそろこっちに下りてきなさい」
    『はーい』
     既にあくのロボットの目の前に控えていたアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)が手を振ってそう呼びかけるとスレイヤーズ達は高台から階段を下りて向かう。とう! と跳んで敵の前に下りれるのはテレビの中だけなのだ。
    「すっげ、かっこいいな! こういうの生で見れるなんて嬉しすぎるぜ……倒さなきゃならねーのが残念だけどさ」
    「うん。これを壊すんだ……もったいないな」
     目の前で見るとやはり大きくて格好いい――チアキがテンションを上げ、弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)がその目を輝かせた言った。特にヒーローな時間では戦隊な方が好きな誘薙少年にとってはまさに夢のようなシチュエーションである。
    「あくのロボットと言ったら、やっぱり角がないとダメじゃない? 色は黒が定番だけど、意外性を狙って、緑とか紫はありね。赤は正義っぽいから却下。モノアイに一本角、これ最強」
    「これがヤツんとこの秘密兵器やろかー、なんて言うたら強なったりしはる?」
     眼鏡を押し上げ講釈を始める黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)と素朴な疑問、というようにこぼす千布里・采(夜藍空・d00110)に、あくのロボットは反応しない。ただ、モノアイが微妙にウィンウィン動いていたので困ってはいたかもしれないが。
    「Slayer Card,Aweken!」
     アリスがスレイヤーカードの解除コードと共にその純白のサイキックソードを構え、箒に跨り空へと飛び上がる。そして、カードを指で挟みその腕を横に振り抜き美咲が言い放った。
    「四獣顕現……纏え、玄武!」
     美咲がその身に力をまとう――スレイヤーズ、もとい灼滅者達が戦いの準備を終えるのを確認するとあくのロボットは大きく踏み出した。
     ――ここに正義と悪の壮絶な死闘が始まった。


     テンションは上がっているが灼滅者達もすべき事は忘れていない。体長六メートルにも及ぶその巨体を前に灼滅者達は陣形を組む。
     前衛のクラッシャーにチアキと摩那、采のサーヴァントである霊犬、ディフェンダーに美咲、中衛のキャスターに誘薙のサーヴァントである霊犬の五樹、ジャマーにミレーヌと誘薙、後衛のメディックにヒョコ、スナイパーに采とアリスといった布陣だ。
    「来るわよ!」
     摩那の鋭い警告に灼滅者達は身構える。ガシャン! とあくのロボットの両肩の装甲が展開、十五連ミサイルポッドがその姿を現したのだ。
     ドドドドドドドドドドンッ! と大量のミサイルがでたらめな軌道を描きながら前衛へと降り注ぐ。爆炎と爆風が吹き荒れる中、ギュル! とそのあくのロボットの左足へ鋼糸が絡みつく――摩那だ。
    「その大きさでは足元が疎かになりがちでしょう!」
     封縛糸で巻きつけた鋼糸を強く引き、摩那が言い捨てる。そして、チアキが炎の中から飛び出した。
    「それだけか!? もっとお前の力を見せてみろよ!」
     チアキが振りかぶった拳を突き出す――その一撃は巨大な異形の腕となりその左の脛へと放たれた。
    「――お?」
     それをあくのロボットはビームソードで迎撃する。まるでゴルフスイングでもするような軌道でチアキの鬼神変とビームソードが火花を散らし、相殺された。
    「よく動くロボットね」
     死角から死角へ、回り込んだミレーヌがガンナイフの刃と解体ナイフを振るう。その足の装甲を切り裂き後方へ飛ぶと、そこへ美咲が踏み込む。
    「町を破壊するロボットを捨て置くわけには行かぬからの。完成直後で済まぬが倒させてもらうぞ!?」
     美咲がWOKシールドに包まれた左腕で裏拳を放つ――ガン! という鈍い打撃音と共にシールドバッシュがその巨大な足を強打した。
     そして、その胸部装甲へと一直線に放たれた漆黒の弾丸が着弾する。だが、それに小揺るぎもしない漆黒の巨体を見てデッドブラスターを撃ち込んだはずの誘薙が呟いた。
    「あの、敵が大きすぎて実感が無いのですが……この攻撃、効いているんですよね?」
     その誘薙に呟きに五樹が浄霊眼でチアキを回復させながら、一鳴きする。まるで、励ますかのように。
    「せやな。ま、倒れるまでやってみるまでや」
     そのやり取りにくふりと笑みをこぼし、采は足元から影が走らせる。その影に並ぶように霊犬が駆け、霊犬が斬魔刀をその足を薙ぎ払い、采の影業は骨化した獣の腕へと変形しその足にしがみついた。
    「うんうん、敵はでかければでかいほど燃えるもんだよ!」
     ヒョコの吹かせた優しい風が前衛の炎を掻き消していく。そんな眼下の戦いを見やりながらアリスはバベルの鎖をその瞳に集中、予言者の瞳で自身を強化した。そして、アリスは溜め息をこぼした。
    「浪漫だかなんだか知らないけど、変なもの生み出すのは勘弁してほしいわね……」
     しかも、手強い。これだけの攻撃にさらされながらもその動きに滑らかだ。ヴン、とビームソードを腰溜めに構えるあくのロボットに灼滅者達も果敢に挑みかかっていった。


     ゴン! と地面を踏み砕きながらあくのロボットがビームソードを振り上げる。そして、その全体重をかけてビームソードを振り下ろした。
     ドゥン! と爆音と共に砂煙が巻き起きる。その強烈なビームスラッシュの輝きに赤く額を輝かせながら両腕を組みシールドで受け止めた美咲が満面の笑みで叫んだ。
    「ふふふ、良い。良い重さじゃ! さあ、その力を、大きさをもっと妾に示してみるが良い!」
     そのまま身を低く構え、その巨大な足へと美咲がシールドバッシュを叩き込んだ。
    「どうせ上の方は届かぬしのぅ……」
    『…………』
    「い、いや、妾が小さいからではない、相手が大きすぎるのじゃ!」
     誰かに言い訳をする美咲に小さく微笑み、上空のアリスは右手を掲げると生み出した魔法の矢を振り下ろしを合図に射出した。
     その漆黒の装甲に魔法の矢が突き刺さるのを見て、アリスも肩をすくめる。
    「確かに遠距離からはいい的ね。もうちょっと大きいと当てやすいんだけど」
    「はーい、回復だよー」
     ピカー! とヒョコがジャッジメントレイの輝きによって美咲を回復させた。それを横目に見ながら摩那が鋼糸を放ち言い捨てる。
    「強敵ですが、弱点も多いです」
    「ほんまに。ネタかと思ったら、思った以上に手強い相手や」
     デッドブラスターの漆黒の弾丸を撃ち込む采もそうこぼす。同じように六文銭の射撃を叩き込む霊犬は采とチラリと視線が合うと上機嫌に尻尾を振っていた。どうやら、霊犬もこのロボットを格好いいと思っているらしい。
    「皆さん、援護します!」
     バスターライフルを構えた誘薙が引き金を引く。一直線に放たれた光線――バスタービームをあくのロボットは大上段のビームソードで受け止めた。だが、その腕を飛び上がった五樹が斬魔刀で切り裂く。
     そして、その瞬間にはチアキがサイキックソードを振り上げ間合いを詰めた。
     それにあくのロボットは反応――しようとして、つんのめる。摩那がその足に絡めた鋼糸を全力で引っ張ったのだ。
     そこへチアキが横一文字の斬撃、サイキック斬りを繰り出した。ザン! と大きく足の装甲が切り裂かれるとその切り傷を足場にミレーヌが跳躍、ガンナイフを巧みに操り零距離格闘でその装甲を火花を散らし切り刻んだ。
    「ミサイル、来るわよ!」
     アリスの警告に全員が身構える――そこへあくのロボットが大量のミサイルを叩き込んだ。
    (「……こういうのって「奴の弱点は目よ!」とか言っちゃうと目を潰さない限り絶対に倒せない呪いみたいなのがかかっちゃうよね……」)
     回復役として戦況を冷静に見極めながらヒョコが内心でこぼした。こう見えてお約束を理解出来るくらいロボットが大好きなのである――だが、それ以上に優先すべき事があるのだ。
    (「現実的に男子の夢を壊すのが女子の仕事だからね!」)
     ――戦況は互角の状況が続いていた。
     八人と一体を相手に一歩も退かないのだ、あくのロボットはその見た目にふさわしい戦闘能力を合わせ持っていた。
     まるでロボットアニメのような激しい剣戟は加速していき――ついに、その時は訪れた。
    「――フッ!」
     鋭い呼気と共に摩那の大上段の一撃があくのロボットの足を深々と切り裂いた。度重なる攻撃に、ついにその巨体が地面へと崩れ落ちた。
     だが、あくのロボットはまだ動きを止めていない。それを見て、チアキが飛び込んだ。
    「さすが悪の力を結集させたロボ……! やるじゃねえか……!」
     その不屈の闘志を称賛しながらチアキは巨大化したその拳で更にあくのロボットを地面と叩きつけた。
     ゴウン! と衝撃で砂煙が舞い上がる――その中で確かに聞いた、ガチャリという展開音を。
     その砂煙の中から複数のミサイルが発射された。絨毯爆撃――だが、そのことどとくが空中で爆散していく!
    「科学風味のミサイルと魔法のミサイル、強いのは魔法の方だったようね」
     アリスのマジックミサイルによって相殺されたのだ――そして、アリスは爆炎の中へ自ら突進した。
    「疑似科学は闇の底に還りなさい!」
     白いサイキックソードの一閃がその漆黒の装甲を切り刻む――そこへ二体の霊犬が飛び込み、その刃を振るった。
     そして、影がロボットの手足を飲み込み、一本だけ伸びた影が獣の爪を形取りあくのロボットのモノアイを切り裂く――誘薙の影喰らいと采の斬影刃だ。
    「うん、命中やね」
     采は少し離れた場所で会心の手応えにくふりと笑う。
    「ロボットにトラウマってあるのかな……」
     誘薙はそんな事を思ってしまうが、何か動きがぎこちなくなった時点であるのだろう、きっと。
    「立て直す暇なんてあげないわよ」
     立ち上がろうとするあくのロボットの体を足場にミレーヌが駆け上がり、その頭部をティアーズリッパーで切り裂く。そして、美咲もマテリアルロッドを構え駆け上がった。
    「好機……! 喰らえぃ、フォース……ブレイクッ!」
     思い切り振りかぶってからの渾身の打撃、そして直後に爆発が起こる。
    「必殺!」
     そこへヒョコがサイキックソードを突き出した。ドン! と光の刃が射出され、あくのロボットの胴体を貫いた。
     ヒョコが振り返る。そして、ヒュン、とサイキックソードを振り下げたその瞬間――規則正しいお約束通り、大の字に倒れれたあくのロボットが大爆発を起こした。


    「おおー」
     爆発の光景を離れていた遠くで要領よく眺めていた采が拍手する。霊犬もその隣で同じようにパタパタと尻尾を振った。
    「けふけふ……」
     その爆発に巻き込まれていたミレーヌが咳き込みながら現れた。間近で爆発したのに無傷である――ここまでがお約束と言う事だろう。
    「なんだかんだ言っても所詮は都市伝説ね。ダークネスには及ばないわ。今回は実戦訓練だと思いましょう。おつかれさまね」
     トン、と地面に降り立ち、アリスが仲間達をそう労った。誘薙も小さくうなずき、笑みと共にこぼした。
    「これで、街は守られたんですね……」
     感無量、という風に呟く誘薙達も満面の笑顔でそれにうなずいた。まるでヒーローのように守る事が出来たのだ――それは強い感動となって疲労した体を駆け巡った。
    「こんなロボが一時だけでも存在したことは胸にしまっておこう」
     悪者でもいいから見てみたいって男子は多そうだし、とヒョコが言うと全員が声を出して笑った。確かに、男の子の憧れが叶うたびにこれでは体が持たないだろう。
    「悪は去った。しかし、いずれ第二第三のロボットが現れるだろう。この世に闇のある限り、彼らの戦いに終わりはないのだ。頑張れ、負けるな、灼滅戦隊スレイヤーズ! 次回に続く!」
     そうナレーション――ミレーヌがVサインで締めくくる。
     そう、これも戦いの一つに過ぎないのだ。灼滅者達の戦いは、これからも続く……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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