正解はお餅に入らない

    作者:聖山葵

    「くくく、この廃工場を密かにリフォーム、八ツ橋工場にしてここを足がかりに世界征服はしぃ」
     いかにも妖しげな人影が堪えきれず笑いを漏らす後ろ姿を鷹合・湯里(鷹甘の青龍・d03864)は物陰から見ていた。
    「餡入り生八ツ橋は餅に入らないようですね」
     語尾ももちぃではなくはしぃだったりするし、おそらくお餅のご当地怪人とは別の系統なのだろうと確信しつつ湯里はそうめんをすする。昼食なのか、湯里の前には一人用の流しそうめん機が稼働中であり。
    「さて、どこから手をつけたものはしぃか……、む、何やつ?!」
     考え込んでいたご当地怪人ががばっと湯里の方を振り返ったのは、次の瞬間。
    「何だ、流しそうめん機はしぃか……てっきりくせ者でも潜んでいたかと思ったはしぃ」
     物陰の更に奥に引っ込んだ湯里には気づかず、流しそうめん機だけ目にとめたそれは興味を無くしたように再び背を向け、湯里は難を逃れたのだった。

    「全く、危ういところでした」
     いつもの笑顔のままそう語り終えた湯里へ鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)はとりあえずツッコんでもいいと尋ねた。
    「なんで流しそうめん機だからでサラッと流されてるの! 明らかに不自然だよね?」
    「一応気づいては居たようでしたよ? 立ち去る時に『って、何故流しそうめん機があるはしぃ!』という声が聞こえましたから」
    「あー、一応おかしいとは気づいたんだ……って、ワンテンポ遅れて……あー、ご当地怪人ならそう言うこともあるの……かなぁ?」
     表情を変えずツッコミに応じた湯里の説明に半ば無理矢理のように自分を納得させた和馬は、それでそのご当地怪人を何とかすれば良いんだよねと問う。
    「ええ、ただ――」
     エクスブレインが不在の為、例のご当地怪人らしき人物が完全なダークネスか闇堕ちしかけの一般人かはわからないとのこと。
    「あー、それじゃあ一応説得はした方がいいのかな」
    「そうですね」
     闇堕ちした一般人を救出するには戦ってKOする必要がある為戦闘は避けられないが、人の意識に呼びかけることで戦闘力を削ぐことは出来る。優位に戦闘を進めるという意味でも、相手が完全なダークネスかを確認するという意味でも説得は有効だろう。
    「おそらくあの生八つ橋怪人はまだ廃工場に居ると思いますし」
     接触自体は難しくない。まだ日も沈みきって居らず、廃工場には窓もある為明かりも不要だ。わざわざそんな場所に足を運ぶ物好きが居るとは思えず、人避けもきっと不要。
    「それで湯里姉ちゃん、戦いになった場合の能力はわかる?」
    「そうですね……ご当地ヒーローのサイキックはおそらく使ってくると思いますが、WOKシールドのサイキックに似たものも使ってくるかも知れません」
     がばっと振り向いた時、開いた大きな八つ橋を手の甲に盾のように装着していたのだとか。尚、八つ橋は他にも何枚か組み合わせる形でビキニアーマーよろしく怪人の身体に装着されていたのだとか。
    「あー、そのあたりなんかご当地怪人っぽいね」
     割とアレな恰好が想像されるが和馬がここで納得してしまうのは慣れか。
    「いずれにしても、放っておくわけには行きませんし」
    「そう、だね。えっと……」
     向き直った和馬は君達に協力と同行を乞うたのだった。


    参加者
    鷹合・湯里(鷹甘の青龍・d03864)
    アルゲー・クロプス(稲妻に焦がれる瞳・d05674)
    イヴ・ハウディーン(春火・d30488)
    牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)
    晴紗季・こより(高笑いするふぁいあーばにー・d36380)
    華上・玲子(鏡もっちぃこ・d36497)
    祭木・井荻(中学生デモノイドヒューマン・d37809)
     

    ■リプレイ

    ●恐るべし生八つ橋
    「この生八橋……ひっ! 服を侵食して……!」
     戦く鷹合・湯里(鷹甘の青龍・d03864)が見たのは、己の身体を這いながら布地を消して行く生八つ橋だった。巫女服の袴も袖も八つ橋が触れた場所から取り込むかの様に消失し、代わりに申し訳程度の生八つ橋を素肌の上に残して行く。
    「私も生八橋ビキニアーマーにされてしまいました……」
    「くっくっくっくく、これでお揃いはしぃ。さて」
     布というか生八つ橋面積の少ない際どい湯里の姿を見てさも愉快そうに笑ったご当地怪人はパチリと指を鳴らし。
    「はぁ、はぁ、はぁ」
    「へへ、うへへ」
     合図に現れたのは見るからに危ない目つき、顔つきの男が数名。
    「我が戦闘員達よ。そいつの相手はお前達がしてやるはしぃ」
     怪人が指示すれば飢えた獣の様に男達は湯里へと襲いかかる。
    「ひっ! な、何をするんですか! そ、そこはダメです! いやっ、やめてぇ!」
     抵抗しようとするも、多勢に無勢。
    「アッー!」
    「盗ったぞーっ!」
     抗いようもなく戦闘員達に埋もれた湯里の足が跳ねる中、戦闘員の一人が高々と戦利品の一人用流しそうめん機を掲げるのだった。
    「……と言うことがあるかも知れませんし、気をつけましょう」
    「って、どこから出てきた飢えた戦闘員ーッ!」
     いつもの笑顔で文字数をガッツリ使った湯里の仮定に鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)はとりあえずツッコんだ。
    「でもエクスブレインの方は居ませんし、想定外の事態が起きても不思議ではありませんよ?」
    「や、確かにそうだけどさ」
     情報不足であるという一点においては確かに正しいが、ツッコミどころが多すぎた。
    「そもそも、今回がこういうのは初めてって人も居るんだし」
     言いつつ視線を向けた先にいたのは、祭木・井荻(中学生デモノイドヒューマン・d37809)。
    「おーほっほっほ。初めましてですの」
    「初めまして……祭木と申します。至らない点が在りますが、宜しくお願い致します」
     と、高笑いしつつ自己紹介した晴紗季・こより(高笑いするふぁいあーばにー・d36380)を含む面々と顔合わせの時丁寧に頭を下げた井荻が変な誤解をしては拙いと思ったのか、だが。
    「へ? ちょ、あ、アルゲーさん?!」
     次の瞬間、むにゅんと柔らかい感触を感じた和馬は振り返り、そこに自分へ胸を押しつける様にして抱きつくアルゲー・クロプス(稲妻に焦がれる瞳・d05674)を認めて上擦った声をあげつつあたふたする。
    「……和馬くん、そろそろ目的地ですし」
    「あ、うん。ごめん」
     アルゲーからすれば胸の大きな女性が好きと勘違いしている思い人が胸の大きな同行者に注意を向けた事に危機感を覚えたのかもしれない。大胆な行為に自分で顔を赤くしつつも、言外に注意喚起を促すためだったとすれば、和馬は素直に謝罪し。
    「ふむ」
     視界の中に廃工場を認めた華上・玲子(鏡もっちぃこ・d36497)は足を止めて腕を組む。
    「アッシュなんやらが倒されたみたいなり。しかし」
     何が言いたいのか、ナノナノの白餅さんが固唾を呑んで見守る中、玲子は頭を振る。
    「ヒーローには平穏無事な日常を守る役目があるなり」
    「ナノ」
     だからこそ行かないといけない的な言葉でも期待したのか、白餅さんは一声鳴き。
    「一度言ってみたかったなり」
    「ナノ~」
     台無しにした発言にずっこける。
    「っ、可愛いナノナノちゃんの純情を弄ぶなんて……」
     この光景に憤るこよりを見て後ずさる灼滅者が約一名。イヴ・ハウディーン(春火・d30488)からすると一瞬即発のこの状況は怖いのだろう。
    「どうしてこうツッコミどころの多い流れになるんでしょうね」
     クールに一連の流れの傍観者となっていた牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)は淡々とツッコミ始めた。

    ●接触
    「近いですね」
     工場内に足を踏み入れれば漂い始めた肉桂の香りにみんとはポツリと漏らし。
    「今回は、八つ橋怪人なりか? 怪人は色々といるなりな」
     たしかに八つ橋のご当地怪人は珍しい気がしますねと玲子に相づちを打ったアルゲーは足を止める。視線の先にいたのは廃工場の設備を確かめるビキニアーマーを着た何者か。
    「……しかし一人でリフォームするつもりなのでしょうか」
    「やはり飢えた戦闘員達が」
    「無いから! それはもう良いから!」
     蒸し返しかけた湯里にツッコミ担当の誰かは声を抑えて叫ぶという器用な真似をし。
    「それはそれとして、今回はもっちあとは別格か?」
     そうめんを啜りつつ不審なビキニアーマーの人影の方をイヴが見れば、何をやってるんですかとツッコむ。
    「だ、だって流しそうめん機があるからさ、つい」
    「ああ、これが話にあった……しかし、流しそうめん機でやり過ごせるとは……いやなんで流しそうめん機?」
     イヴの弁解に湯里の忘れ物をマジマジ見つつもツッコミを入れてしまったのは無理もない。
    「それよりも今は、あちらを何とかするのが先ですわ」
     だが、自分達がすべきは別のこととこよりは人影の方を示す。
    「時が過ぎ去るのはあっという間。わたくしもバニースーツを求めて旅に出ていたら一年が過ぎて終いましたわ」
    「きっとこのバニースーツを探す旅という部分もツッコんでは拙いのでしょうね」
    「脱線するのは確実、かな」
     何とも言えない表情でツッコミ二名がアイコンタクトし。
    「そう言えば、同行して下さる和馬さん可愛いらしいですわね」
    「え゛」
     ツッコまなかったのに何やらターゲッティングされた片割れが硬直する。
    「あら、残念。……中学生。そう、中学生でしたわね」
     小学生ならアタックしたものをと続けたことで反射的に和馬を抱きしめたアルゲー共々振り回された形だが、振り回した方は気にもとめず。
    「御託はここまで。さ、闇落ちの一般人さんを助ける為、助太刀致しますわ」
     鏡餅しか興味のない何処かの方のお手を煩う必要もなくてよと続ければ、良い度胸なりと呟いた玲子はならとご当地怪人を指さす。
    「どっちが早く説得出来るか勝負なり!」
    「おーっほっほっほっほっほ、安い挑発ですけれどノって差し上げますわ」
     何だか一つの闘いが始まろうとする中。
    「生八ツ橋は確かにいいですね。そのままもよし、何かを巻いて食べるもよし」
    「そうはしぃよ」
    「そうですね、八つ橋はいいですよね。あの香りも味わいも。ええと、お茶のお代わりはいかがですか?」
    「おっと、これはありがとうはしぃ」
     ご当地怪人は既に接触していた湯里やみんと達と馴染みつつお茶の時間を満喫していたのだった。

    ●そして説得、戦闘へ
    「江戸時代、京都で作曲の日々を送っていた検校は、日頃からものを大切にし――」
     八つ橋効果であっさり警戒を解いたご当地怪人は井荻の知識に勉強してるはしぃなと感心して見せる。
    「おーっほっほっほっほ、そう言う訳で八つ橋自体は京都の高名なかたが物を大切にする心から生まれた有り難い食べ物ですの。着目点が良いですわね♪」
     むろんそれは井荻の知識だけにとどまらない。余り人前には出ない性格の井荻が八つ橋について話し始める前にも幾人かが話題に出していたし、井荻の話もこよりが高笑いしつつ引き継ぐとそのままご当地怪人への賞賛に繋げつつ高級生八つ橋を渡し。
    「生八つ橋は昭和30年代に生まれ、40年代以降広く知られ――」
     今度はイヴが語り出す。後に回ったのは、玲子達の勝負のとばっちりを恐れてのことか。
    「八つ橋とはまた違う意味でお土産の巨搭だぞ。怪人姉ちゃんえらいな」
    「そ、そんな褒めても何もでないはしぃよ」
     とは言いつつも悪い気はしないようでご当地怪人の声には喜色が滲み。
    「それを広めようとすること自体は素晴らしい事だと思います。ですけど……そんな手段でいいのですか?」
    「え?」
     みんとの投げた問いに振り向き、固まる。
    「……八つ橋は美味しそうですが工場で作るのは大変そうですね、どうするのですか?」
     そこにすかさずアルゲーも問いかけ。
    「そ、それは……」
    「こう、生産工場とかの記載は厳しいですし勝手に廃工場改装して作るのは……」
    「……その情熱は見事だと思いますが、勝手に工場を改造したりそれで世界征服を企んだりして八つ橋に悪いと思いませんか?」
     いきなり問いただされるのが想定外だったか、たじろぐご当地怪人へ二人が更に言葉を続け。
    「さっきの美味しい御茶と生八つ橋は最高だったよ。でも、怪人のままだと良さは広められないなり」
    「そのままのあなたで広めることにこそ価値があるのではなくて?」
    「は、はしっ」
     人に戻るようにと諭す流れに怪人は後ずさる。
    「共存し鎬を削りあい、正々堂々戦った末に勝利を得る……それがご当地品の本懐でしょう」
     何をしても良い理由にはならないと言うことか。
    「ぐっ、ええい、誰も彼も! この身体を手に入れる邪魔をするというなら許さないはしぃ!」
    「おーっほっほっほ、追いつめられてダークネスが表に出てきた様ですわね」
    「……あの高笑い、気に入らないなり」
     激昂する怪人を前にこよりが勝ち誇れば、玲子はムッとしつつポツリと漏らし。
    「いよいよか。和馬兄ちゃん、今回もポロリ要員宜しく!」
    「ちょ、ポロリ要員じゃないからーっ!」
    「何、慌てて否定するんだよ」
     あんまりなリクエストに条件反射で叫ぶ和馬をイヴはジト目で見る。
    「なんか状況に馴れて来たのか、ツッコミもマンネリ化してるぞ」
    「や、マンネリ化って」
    「『少年……悲しいぞ。人はチャレンジ精神があってこそ成長するのだ』あの先輩ならきっとこう言った筈だ」
    「あのー、もしもし? 私は置いてきぼりはしぃか?」
     続く指摘に顔をひきつらせた少年に腕を組んだイヴは誰かを真似するかの様に頭を振り、蚊帳の外にされた怪人が思わず構えを解いて声をかけ。
    「……和馬くん、すみません」
    「あ、ううん。気にしな――」
     服破り付きの攻撃を更に前にリクエストしていたアルゲーは思い人の言葉が終わりきる前に続ける。
    「次は破かれても良い服を着てきますね」
     と。恋する乙女は新たな誤解をしたらしい。
    「まさかご当地怪人ではなく鳥井さんが……」
     誤解は連鎖し、今度は湯里が和馬から距離を取る。
    「それでも、服破りなんかに絶対負けたりしません!」
    「ちょ、それフラグ、じゃな」
    「だから、私を無視するなはしぃっ!」
     全力で混沌だった。誤解する一部女性陣、誤解を解こうとする風評被害者、叫ぶご当地怪人。
    「ええい、もう埒があかないはしぃ、こうなったら実力行はしゃべっ」
     業を煮やし、生八つ橋の盾を構えようとした怪人は、突然飛んできた液体に悲鳴をあげる。
    「な、何はしぃ?! や、八つ橋ビキニアーマーが溶け」
    「すみません、ですが……私はあなたを救いたい」
     軽いパニックに陥ったご当地怪人に謝罪しつつも井荻は視線を逸らさず殲術道具を向ける。一度決めたことは貫き通す、故に空気に流されなかったのだろう。望むのは、闇堕ちしかけた目の前の人物の救出のみ。
    「ん~、しっかし何故か皆キワモノ衣装か姿だよな、この手のご当地怪人。これは……グローバルジャスティスの罠か? ちがうな」
    「言ってることとやってる事が、めちゃくちちゃばっ」
     イヴが首を傾げ、アーマーの溶けた箇所を手で隠そうとした怪人を見つめ自己解決すれば、怪人は横手から繰り出された突きに吹っ飛ばされ。
    「そこ、考えるより身体を動かすなり」
     イヴに注意したのは、捻りをくわえた突きを放ったばかりの玲子。
    「おーほっほっほ、既に闘いは始まっていますわ。謝る必要はなくてよ? さ、このままドンドン行きますわ」
     高笑いしながら帯を射出して追い打ちをかけ。
    「これはもう、ツッコミは諦めた方が良いのかも知れませんね。私達も続きましょうか、知識の鎧」
     苦笑したみんとはビハインドに呼びかける。
    「っ、おのはしゃばっ」
     だが、弱体化した上に現在進行形で灼滅者達から攻撃されていた怪人からすればたまったものではない。
    「……とにかくここで止めさせてもらいます、和馬くん」
    「あ、うん」
    「ぐぎ、ちょ、ちょっと待、はしべっ」
     服破りが好きという誤解を解かれたアルゲーと解いた和馬も加わる流れにフルボッコにされつつあった怪人が制止の声をあげようとするも突き立てられた高速回転する杭によって遮られ。
    「おっとそうだった、アンタの名前とか聞いてなかったな」
    「この状況で答えてる余裕、なん、はばばっ」
     杭を引き抜いたイヴに抗議しようとした怪人の身体にみんとが射出した帯が突き立つ。
    「う、く……はしんぶっ」
    「餅の系統は違えど、ご当地仲間には代わりないなり! 戻ってくるなり!」
     ジェット噴射を伴うアルゲーの一撃に蹌踉めく怪人、ではなくその少女に残された人の意識に玲子がエールを送り。
    「しかし、まさか華上と仕事をすることになるとは思いませんでしたわ」
     次の攻撃のタイミングを見計らいつつ、玲子の声を聞きつつこよりは呟く。
    「……ステロも攻撃をお願いします。このまま」
    「はしゃっ」
     視界の中で、アルゲーの指示を受けたビハインドが霊障波をたたき込み。
    「諦めないで下さい。いま、助けます」
     励ましながら井荻は影を操る。
    「うぐっ」
     絡み付く細長い影が怪人から手足の自由を奪い。
    「お還りなさい、貴女の在るべき場所へ……!」
    「しまっ」
     怪人の瞳に映ったのは孤高の竹箒『晴耕雨読』を振りかぶり肉迫してくる湯里の姿。
    「はしゃばっ!」
     殴り倒され傾ぐ怪人。溶かされ、光の刃で斬られ限界を迎えていたのだろう。殴打の衝撃で接合部の外れた八つ橋ビキニアーマーはボトボトと倒れ込む本体より早く地に落ち。
    「えっ、アッー!」
     少女が人に戻り行く中、アーマーの残骸を踏んづけて滑った湯里もまた派手に転倒したのだった。

    ●おかえりなさい
    「……これで大丈夫ですね」
     持ってきた予備の服を倒れた少女に着せると、アルゲーは思い人にもう良いですよと声をかけた。
    「さてと、起きたら趣味とか名前聞かないとな」
     少女の傍らにしゃがむイヴはスカウトする気を隠そうともせず。
    「生八つ橋~♪ 京都に言ってたっぷりと食べたいなりよ」
    「ナノ」
     説得中の蘊蓄やら何やらの影響か、ポツリと漏らす玲子の横で白餅さんが鳴き。
    「ですが、無事救い出せて良かったです」
     ちらりと横たわる少女を見た井荻は安堵の息を漏らした。
    「んっ……」
    「あ、気が付いたか」
    「うちは……どないしはりましたん?」
     少女が意識を取り戻した事に気づいたイヴは嬉々としてこれまでのいきさつを説明し。
    「それは世話になってしまいましたなぁ、うちの名は、八橋・かなで(やはし・かなで)」
     小鳥を模した小物集めが趣味だと質問に答えた少女の前に今度はこよりが進み出て問う。
    「学園に来て生八つ橋を一緒に食べませんか?」
    「おう。そうそう、かなで姉ちゃんが来てくれるなら歓迎するぜ?」
    「ほな、お言葉に甘えさせて貰いましょか。ただし」
     生八つ橋は自分が提供すると少女は言った。
    「こんなんで恩返しになりはるとは思わしませんけど」
     感謝の気持ちを表したいと言うことなのだろう。灼滅者達はそのまま撤収の準備へと移り。
    「……っと、どうやら無事だったようですね」
     一人、物影にしゃがみ込んだ湯里は置いたままにしていたそれを拾い上げる。
    「あ、それって」
    「はい、流しそうめん機です。大切な頂き物ですからね」
     和馬の言葉に頷いた湯里は大切そうに一人用の流しそうめん機をしまい込み。
    「そう言えば、流しそうめん機でやり過ごせた謎が結局残ってしまいましたね」
    「あー、だよね」
     みんとの言葉にそう言えばと頷く和馬の背中にはぴったりとくっついたアルゲーの姿。顔が赤いのは思い人が服破り好きという妙な誤解をし、誤解が解けたからなのか。窓から差し込んだオレンジの光が歩き始めた灼滅者達を染め、微かにアルゲーの赤面を誤魔化した。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月23日
    難度:普通
    参加:7人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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