
●夕暮れ時の教室にて
「そ、そう……ですか……」
「はい、ですから……っと」
フリル・インレアン(中学生人狼・d32564)と会話していた倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)は、足を運んできた灼滅者たちと挨拶を交わしていく。
メンバーが揃ったことを確認した上で、説明を開始した。
「フリルさんの予想をもとに調査した結果、ラジオウェーブのラジオ放送が確認されました」
このままでは、ラジオウェーブのラジオ電波によって生まれた都市伝説が、ラジオ放送と同様の事件を起こしてしまう。
「そうなる前に、対処しなければなりません」
ラジオ放送は、次のようなものだった。
――魔法少女と使い魔と。
人々の欲望がひと所に集いゆく、夜を迎えた繁華街。ほろ酔い気分で歩いていたサラリーマンの男性は次の店へと向かう途中、近道をするために裏通りへと入り込んだ。
店もなく、玄関口もほとんどない。表通りの喧騒もあまり届かない、街灯も乏しい、ないないづくしの裏通り。足早に通り抜けてしまおうと速度を上げ……。
「……ん?」
前方に人の気配を感じ、小首をかしげながら歩調を緩め目を細めた。
影が少女のものであるとわかった時……その少女がフリフリの衣装……俗に言う魔法少女のような衣装に身を包み、可愛らしい杖を携えている。けれどどこか精気のない目をしているのを認識し、足をとめていく。
「……お嬢ちゃん? どうしてこんな」
「来たわね悪者!」
半ばにて言葉を遮られたこと、何よりも叩きつけれた言葉を前に、男性は驚く様子を見せた。
「わ、悪者って……いきなりなんて」
「ごちゃごちゃと言い訳しない! 夜の繁華街、ひと気のない裏通り……こんな場所を通るのなんて、悪者か哀れな被害者以外にはいないわ! どうせ、無防備に入り込んできた女の人にあんなことやこんなことをしようと思ってたんでしょ!」
「そんなことはない!」
畳み掛けられるに連れて冷静になってきたのだろう、男性は怒鳴りつけていく。
少女は怯まない。
「ほら、そうやってムキになるのが何よりの証拠。いいわ、私が懲らしめてあげる! 行くわよ、ネオトマリ!」
「あいよ……まったく、使い魔使いが荒いんだから……」
足元に黒猫を……使い魔を呼び寄せて、男性へと襲いかかった。
後ずさる男性の瞳の中、使い魔の瞳はらんらんと輝いていて……。
「……これが、ラジオ放送の概要になります」
幸い、赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の調査によって、都市伝説を発生させるラジオ放送を突き止め、ラジオウェーブのものと思われるラジオ電波の影響による都市伝説が発生する前に、その情報を得ることができるようになった。
「続いて、今回の都市伝説への対処法について、説明しますね」
葉月は地図を広げ、繁華街の裏通りを指し示す。
「都市伝説の部隊はこの、繁華街の裏通り。時間帯は夜九時以降で……街灯に乏しく、その時間帯は誰も近づこうとはしないだろう通りになりますね」
その時間帯に裏通りを歩いていけば、都市伝説は出現する。
姿はフリルをふんだんに用いた衣装を着込み可愛らしい杖を携えている魔法少女と、黒猫の使い魔の二体だ。
「一見、魔法少女が主軸で使い魔がサポート……そのような言動をしてきます。しかし、それはフェイク。実際は、使い魔が魔法少女を操っている……そんな関係のようです」
実際、魔法少女が先に倒れた場合、使い魔は姿を消す。そして、その場合は都市伝説を討伐したことにはならず、条件を満たせば再び出現してしまう。
その為、使い魔から倒す必要があるだろう。
「それから……魔法少女の側は、使い魔に操られている状態。あるいは説得を……心の奥底にあるだろう正義を震わせることで使い魔の支配から脱し、弱体化する可能性があります」
そうなれば基本的に使い魔のみを意識していれば良いだろう状態になるため、戦いを楽に進める事ができるようになるだろう。
「最後に、具体的な戦闘能力について説明しますね」
魔法少女。戦法は攻撃一辺倒で、杖を操る。
アビリティは追撃のマジックミサイル、複数人の防具をも切り裂くヴォルテックス、避けることを許さぬ轟雷。
使い魔は援護役で、護符に似た力を操る。
アビリティは導眠符に似た催眠波動、五星結界符に似た魔導結界、防護符に似た治療と身体強化。
「最後になりますが……この情報は、ラジオ放送から類推される能力になります。そのため、可能性は低いのですが、予測を上回る能力を持つ可能性があります。その点を留意し、行動して下さい」
以上で説明は終了と、葉月は締めくくる。
「正義の心。それが、誤った方向へ進んだまま戻れない……そんなことのないように、どうかよろしくお願いします。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 新堂・桃子(鋼鉄の魔法つかい・d31218) |
![]() フリル・インレアン(中学生人狼・d32564) |
![]() アリス・ドール(絶刀・d32721) |
![]() アメリア・イアハッター(ロマン求めて空駆けよ・d34548) |
![]() 栗須・茉莉(助けてくれた皆様に感謝します・d36201) |
|
●正義をかたる者
陽の光が失われれば、世界に冷たい風が吹きすさぶ五月の頃。人で賑わう繁華街とは対象的に、点在する街灯の他に頼りとなるものは存在しない裏通りを前にして、栗須・茉莉(助けてくれた皆様に感謝します・d36201)は静かに語りだす。
それは、陽気に太鼓と叩き戯れている雷様の物語。人と戯れることも望んでいるけれど、その強すぎる力が人の命を奪ってしまうというお話だ。
内包する力に当てられたか、人々が裏通りから遠ざかるよう。
準備は整った。灼滅者たちは意気揚々と、裏通りを歩き始めていく。
行き先を手持ちのライトで照らし、危険がないかを確かめて。少しずつ遠ざかっていく街の喧騒を耳にしつつ、新堂・桃子(鋼鉄の魔法つかい・d31218)が語るのは今宵の都市伝説に関すること。
「アニメで出て来る魔法少女の都市伝説だね。最近は魔法少女も戦うこと前提になってるみたいだけど、メルヘンチックな魔法で変身したりお悩み解決したりは流行らないのかな?」
探せばあるかもしれないけれど、今のところ主流ではない物語。そして、今宵の都市伝説も戦いによって正義を示す魔法少女。
否。彼女は使い魔の力によって、歪な正義を強要されている魔法少女だ。
アメリア・イアハッター(ロマン求めて空駆けよ・d34548)が小さな息を吐き出していく。
「私も魔法使いの端くれとして、使い魔の一匹は欲しいところだけど……操ってくるのはいやねぇ」
「そうですね。私にもいたら一緒に戦ったり、一緒に遊んだりとても楽しいのでしょうけど……」
瞳を伏せ、フリル・インレアン(中学生人狼・d32564)はため息一つ。
「この都市伝説さんのように、どちらかが一報を操るという関係は違うと思います。一人では半人前かもしれませんが、二人で力を合わせたら一人前。いえ、それ以上の力を発揮できるのが魔法少女さんと使い魔さんとの関係だと思うんです」
うんうんと、頷いていく仲間たち。
「だから、使い魔さんをこき使っちゃいけないと思います」
けれど半ばにて小首を傾げ、今回の手合は最初から邪悪な使い魔なのではないかという意見が出た。
「ふぇぇ、使い魔さんが魔法少女さんを操っていたんですね」
そんな風に和やかな会話を行いながら進む中、灼滅者たちは前方に気配を感じて立ち止まる。
視線の先、黒猫を引き連れているフリルたっぷりの衣装を魔法少女……都市伝説・魔法少女と使い魔とが佇んでいた。
「待ちなさい! こんな夜中に、こんな暗い道を通って何をしようというの!」
耳を貸さず、アリス・ドール(絶刀・d32721)はスレイヤーカードを引き抜いた。
「……」
光が輝き、姿を変える。
バイザーをした騎士姫の姿へと。
一呼吸の間を置いて、真っ直ぐに魔法少女を見つめ返した。
「……儚き光と願いを胸に……闇に裁きの鉄槌を……」
もっとも、鉄槌を下すのは魔法少女に対してではない。
灼滅者たちは即座に臨戦態勢を取っていく魔法少女を牽制しつつ、使い魔への警戒を強めていく……。
●使い魔の支配者
「やっぱり悪人じゃない。行くわよ、ネオトマリ! こいつらを懲らしめてやらなくちゃ!」
「あいよ……まったく、使い魔使いが」
「いくつか言いたいことがあるんだけど」
会話半ばにて、桃子が切り込んだ。
「……何?」
「通りすがった人に問答無用で襲いかかるのは正義じゃないんじゃない?」
何らかの理由で急いでいるなど、裏通りを通る理由は色々ある。少なくとも、悪いことばかりではないことは確かだ。
もっとも、魔法少女は肩をすくめていく。
「問答無用じゃないわ。ちゃんと聞いてるわよ。でも、誰も彼もが言いよどんだり怒ったり……心にやましいことがなければ、疑われても心穏やかでいられるはずよね」
「そういいたい気持ちもわかるけど……」
桃子は魔法少女の瞳を真っ直ぐに見つめて反論した。
「でも、言葉を間違えれば、何もなくても怒ったり戸惑ったり、そういうことはあるんだよ。だから、言葉を選ばないままの投げかけじゃ、人の心は見えてこない。人々を守るために正義を行使するのは立派だと思う。でも、だからこそ、色々と考えていかなきゃいけないんじゃないかな?」
「そんな必要はないわ! 何せ、悪はどこにでもいる、たくさんいる。芽が出るたびに潰していかなきゃ、人々の生活が脅かされるだけよ!」
語る魔法少女の声音に迷いはなく、瞳が揺れる様子もない。ただ、どことなく精気が失われているように……正気ではないように思えるのは、決して気のせいではないだろう。
さなかにも使い魔は駆け回り、アリスに向けて符を投げつけてきた。
刀身が異常に長く硝子のように透けている大太刀で両断し、アリスは大太刀を横に構えていく。
一方、アメリアは符がもたらす影響を払うためにアリスを光で照らしていく。
治療を終えると共に、虚空に魔力の矢を浮かべている魔法少女へと向き直った。
「相手の話を聞かずに勝手に悪と決めつけ、いきなり殴りつけるのがあなたの正義?」
「……何が言いたいの?」
見つめ返され、アメリアは語った。
「人を笑顔にする。私はそれが正義だって思ってるわ。勿論それは私の中の正義だけど、胸を張ってそう言える。あなたは今の自分の正義を誇ることが、本当にできて?」
「もちろん」
悩む素振りを見せず、迷う気配すらなく、魔法少女は胸を張り魔力の矢を解き放ってきた。
右へ、左へと跳び回り、アメリアは魔力の矢を避けていく。
全てを避けた上で、アメリアは魔力の矢が突き刺さった後を残す地面に視線を走らせた。
「……」
最初にアメリアがいた場所を中心に、同心円状に広がっている矢の後。恐らく、アメリアの動きを追いかけた結果なのだろうけど……。
「……大丈夫、届いてる。私たちの声も」
幅が大きく、中にはアメリアがステップを踏んでいない場所もあった。
態度には現れずとも、心の何処かでブレーキがかかっている様子が見て取れた。
だから……。
小さな吐息を漏らすと共に、アリスが魔法少女に向き直る。
バイザーの輝きを向けながら、淡々と語りかけていく。
「……魔法少女は……人に笑顔と希望を与える子なの。……今のあなたは……誰を笑顔にしているの?」
「もちろん、平和の暮らす人々よ! 悪が滅びれば、人々は笑顔になるわ!」
「……でも……あなたは……平和に暮らしていた人も傷つけている……」
繁華街へと顔を向け、続けていく。
「……思い込みだけで……何もしてない子を傷つけるのは……正しいことじゃない……ただの暴力だよ……」
「そんなことない! 悪い奴は自分が悪い奴だなんて言わないもの、だから」
言葉を待たず、アリスは魔法少女に歩みよった。
魔法少女が口を閉ざす。
構わず手を掴み、震えるその熱を両手で包み込んでいく。
「……魔法少女なら……自分の本当の気持ちで……守りたいものを守って……」
「……だから、私は……」
魔法少女はアリスの手を跳ね除けて、虚空に向かって杖を掲げた。
「……あれ?」
魔力は虚空へ向かい、霧散する。
慌てた様子で再び掲げるけれど、魔力が何かの形をとることはない。
目を見開く魔法少女を見て、使い魔が盛大なため息を吐き出した。
「やれやれ、こんな言葉に惑わされるとは……見込み違いだったか」
「え……ネオトマリ、何を……」
「君をマリオネットにするのはもうおしまい、ってことだ」
使い魔の言葉半ばにて、アリスの鞭剣がその体をさらい壁へと叩きつけた。
「……なら……消えて……」
「悪い使い魔さんにはお仕置きですよ」
フリルが影を解き放ち、使い魔の体を飲み込んだ。
即座に闇を突き破り、使い魔は塀の上に着地する。
「くっ。だが、お前たちに負けるような僕じゃない。彼女はもう使い物にならないけど、その分……」
「だまりなさい! 少女の正義の心を利用する……それが使い魔のやること!? 使い魔だって言うんだったら、もうちょっと可愛くサポートでもしなさいな! 恋路の応援とか、あるでしょ!」
アメリアが思いを叩きつけながら、交通標識を掲げ仲間たちに浄化の加護を施した。
たとえ立場が入れ替わっていたのだとしても、魔法少女と使い魔の役割は変わらない。魔法少女という軸がなければ、使い魔のサポートも大きな意味は持たない。
灼滅者が攻め込めば、途端に使い魔の守りは瓦解する。
やがて立ち上がることすらできなくなった使い魔の元に、茉莉は帯を差し向ける。
「魔法少女を操る使い魔なんて許せません」
帯が使い魔を突き上げた時、茉莉はウイングキャットのケーキに視線を向けた。
「ケーキ、お願い!」
頷き、帯の上をかけていく。
勢いをつけたにくきゅうパンチで、使い魔を塀へと叩きつける!
「ば……馬鹿な……」
使い魔は悪魔へと変貌……否、回帰した上で、闇の中に溶けるようにして消滅していく。
そんな戦いを介入することもできずに見守っていた魔法少女は、固く杖を握りしめ……。
●魔法少女の心根は
茉莉は静かな息を吐きだして、魔法少女へと向き直った。
「後はあなただけ。大丈夫、なるべく痛くしないように……」
「……ううん」
魔法少女は首を振り、顔を上げた。
「来て、全力で。私の心根を叩き直して。そうしたら、きっと……」
その瞳には、強い光。
茉莉は頷き、氷の塊を撃ち出した。
導かれるようにケーキが魔法を放つ中、フリルの影刃が後を追いかけていく。
「あなたも、頑張ってください!」
「……うん!」
氷の塊を受け、魔法を弾き、影刃を右肩に食い込ませた魔法少女は、空に杖を掲げていく。
生み出された竜巻が、前衛陣へと向かってきた。
けれど力はない竜巻だと、桃子が中心を突っ切り魔法少女に肉薄する。
「覚悟してね、いっくよー!」
懐へ入り込むとともに足を振り上げ――。
「せーのっ!」
キックを放ち、魔法少女の杖へとぶつけていく。
小さな音を立て、杖は砕け散る。
支えを失った魔法少女は、その姿を薄れさせていく。
満足した表情を浮かべていく魔法少女に、アリスは告げた。
「……さようなら……正義の魔法少女……また会えたら……今度は一緒に戦おうね」
「……うん!」
笑顔の端に煌めきを。
言葉には曇りのない輝きを。
魔法少女は優しい風に抱かれて、星の狭間に消えていく……。
静寂の訪れた裏通り。各々の治療を行いながら、アメリアは空を仰いでいく。
「私も使い魔欲しいなー。や、今回みたいなのは嫌だけど……」
互いに正しく絆を結べたなら、それはきっと気高き力となる。
未来を夢見るためにも、まずは今を乗り越えよう。
茉莉が周囲を見回し、提案する。
「それでは、後片付けを……」
「うん!」
元気良く頷く桃子は、若干だけれど散らかってしまっている地面を見回した。
テキパキと作業をこなす中、フリルは額の汗を拭っていく。
「これで安心、ですよね」
全てをもとに戻すことはできないけれど、この場所を通る者たちのために可能な限りの片付けを。平和な日々を過ごしていく人々が、怪我をすることなどないように……。
| 作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2017年5月22日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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