「……みんな、ここだ」
白石・作楽(櫻帰葬・d21566)に連れられた灼滅者たちは、とある山中の古びた神社へとやってきていた。
この近辺では、こんな噂が囁かれていた。曰く、今年の夏を先取りしたかのような気候によって蠅が異常成長し、人々を襲うのだという。
「その噂によって都市伝説が発生したようで、住民がたびたび巨大な蠅の被害にあっているようなんだ」
そして噂によると、蠅はこの寂れた神社で大繁殖し、新たな住処を求めて人里へとやってくるのでは、などと言われている。実際に蠅に襲われたという事例も、この神社の周辺で起きていた。
幸いなことに死者は出ていないが、被害者の証言から推測するに、現れる蠅は数もサイズも次第に増しているようだ。このままでは、いずれ大事になってしまうだろう。
「蠅が出現する時間や場所は、残念ながら一定ではないようだ。だから確実に遭遇するには、蠅たちの根城になってるというこの神社しかないと思う」
そう考えた作楽は、仲間たちを連れてこの神社へとやってきたのだ。
「ただ一つ気になるのは、この噂話の広まり方だ……」
荒唐無稽な噂話が瞬く間に広まり、都市伝説にまでなった背景には、タタリガミの存在があるのではないか――作楽はそんな危惧を抱いていた。
この都市伝説を生み出したのがタタリガミだとすれば、ここを本拠地にしている可能性は十分にある。
もしそうであった場合、威圧してタタリガミの撤退を促すか、それを許さず灼滅を狙うかの選択に迫られるだろう。
「とはいえ、心配していても始まらないからな。ひとまずは、その巨大な蠅とやらの灼滅を考えよう」
そして作楽は、噂話から推測される都市伝説の戦闘能力について話し始めた。
「襲われた人の言葉では、蠅の猛烈な羽音によって昏倒してしまったらしい。それに、複数人でいても同様の被害が出ているようだ」
よって少なくとも、何らかの効果を伴う範囲攻撃には警戒しておく必要があるだろう。
「それと直近の事例によると、蠅の体長はこのくらいで、5、6体で現れるらしい」
作楽が両手を広げて、蠅のサイズを示してみせた。およそ30cmほどだろうか。
「――と、今わかっているのはこのくらいだ。この都市伝説だけならまだいいが、もしタタリガミまでいると若干厄介だな」
そんな作楽の言葉に、灼滅者たちは厳しい表情で神社を見据える。
「それでも、臆するわけにはいかないな。この街の人々を守るためにも、小煩い蠅は一掃しなければ」
作楽の力強い激励に、仲間たちもたちも大きく頷くのだった。
参加者 | |
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アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814) |
桜之・京(花雅・d02355) |
槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877) |
セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000) |
黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809) |
ニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖・d35780) |
●
作楽に連れられ、神社へとやってきた灼滅者たち。
去っていった作楽の後を引き継ぎ、都市伝説の姿を探して参道を進む。
「一般人がいるようなら退避させなくちゃ、と思っていたのだけど……。さすがにこれだけ寂れた神社だと、普通の人はより付かないものね」
この社にだって、祀られたカミサマがいるでしょうに――周囲の様子を注意深く探りながら、そんなことを呟く桜之・京(花雅・d02355)。草が青々と茂る石段の様子は、彼女の言う通り平生の人通りのなさを物語っていた。
「確かにここの神様は可哀想だけど、巻き込まれる一般人がいなくて済む――と思えば、悪いばっかりでもないぜ」
京の言葉に応じる槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)。お気に入りのおでん缶を手にし、戦いの前の腹ごしらえとばかりに頬張っている。
「それに、この事件で亡くなった人がいないというのも幸いですの。ここで事件を早期に解決できれば、きっとこの神社の神様も喜んでくれますわ」
黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)の口調は穏やかだが、内には強い思いが秘められているようだ。それは悪を憎み、人々を守るというヒーローとしての矜持である。
「とにかく、厄介な都市伝説は速やかに退治してしまいましょう。ただでさえ食中毒が起こりやすい季節だっていうのに、巨大蠅にたかられるなんて冗談じゃないもの」
もちろん、糸を引くタタリガミがいるなら、そちらも一緒に――毅然とした表情のアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)。元々生真面目な彼女だが、伝え聞いた今回の都市伝説のおぞましさに、尚のこと気を引き締めている。
「そうだな、勝手に都市伝説を作って、自分を強化するという特性は実に厄介だ。この場にいるというなら、尻尾を掴めるうちに潰しておかないと」
普段と同じく、鳥人間の姿は崩さないセレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)。己の宿敵に対する意識を、常に持っていたいという彼女なりの戒めである。
「蠅を貪る祟り神――彼の者の喰らう『蠅』は、正しく負の感情に相違ない。されど『神』とは既知の範疇。未知なる事柄――恐怖とは離れた物体。故に不要と解く」
そう語るのは、未知なる恐怖を求めるニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖・d35780)。そんな彼にとって、人の想念から生じる都市伝説も、それを喰らうタタリガミも冒涜の対象に過ぎない。故に消し去るのである。
各々の思いを胸に、参道を行く一行。そして彼らが境内に足を踏み入れると、それに呼応するように、どこからともなく大きな羽音が聞こえてきた。
灼滅者たちを取り囲むように、周囲の林から6体の蠅が出現する。有り触れた生物が、巨大になったというだけで、あまりにもおぞましい怪物に変貌していた。
それでも灼滅者たちは怯むことなく、現れた都市伝説との戦闘を開始する。
●
「虫って、こうして巨大になると余計に不気味よね……。ちょっと『絆のベへリタス』を思い出すわ」
そう言うアリスは、しかし落ち着いた様子である。
「Slayer Card、 Awaken!」
宣言と共に、淡い白光を放つサイキックソード『白夜光』を解き放つアリス。そして空中に十字架を出現させると、数体の蠅へと破邪の光線を見舞った。
光線を受けながら、蠅は反撃とばかりに羽音を響かせながらアリスへと向かってくる。
「――おっと、させねぇよ!」
狼の姿をした影と共に疾駆する康也。その影は『他者を守る無慈悲な牙』という、彼の心のシンボルである。
「どんな攻撃を仕掛けてくるのかわからないからな、まずはタフな俺に任せとけー!」
仲間は決して傷付けさせない――と、アリスと蠅の間に割って入る。心身を苛む羽音を耐えながら、康也は半獣化した片腕の爪で、眼前の蠅を斬り付けた。
「さすがに、このサイズの蠅は遠慮したいですの……」
白雛も、敵の羽音の攻撃から仲間を庇う。敵の不気味さと羽音の攻撃に表情を歪めながら、だが物怖じすることなく十字架型のモノリスを掲げた。
「さぁ……断罪の時間ですの!」
黒と白の炎を全身から吹き上げ、手にした武器へと纏わせる白雛。幾重もの光線を乱射するモノリスで、数体の蠅をまとめて薙ぎ払う。そして同時に、自らが受けた攻撃の特性を冷静に分析する。
「この羽音……こちらを惑わすもののようですわ。皆様、気を付けて!」
蠅たちの攻撃は、それだけに留まらない。何体かが、高速で飛び回りながら前衛の灼滅者たちに体当たりを仕掛けてくる。さらにその飛行によって、自らの能力を高めているようだ。
「……なるほど、連携しながらこちらに効率よく催眠をかけるという戦術か。虫のくせに厄介なことをしてくるじゃないか」
魔術文字が刻まれた愛槍『ツグルンデ』を手に、魔力を高めるセレス。そして槍を振るい、固まっていた二体へと冷気の魔法を見舞った。
そして前衛の仲間が受けた負傷を、交通標識を携えた京が癒やす。黄色の標識のサイキックで、仲間たちに催眠がかかるのを防いだ。
仲間の回復をしている最中にも、京は周囲を警戒しながらタタリガミの姿を探している。だがそれらしき姿は見当たらない。
そんな状況に退屈しているのか、あるいは真の敵の出現を待望しているのか。ニアラは、女学生の姿をしたビハインド『隣人』に仲間を守らせながら、蠅たちから距離を取っていた。遠距離から、影の刃で蠅の一体を狙い撃つ。
そうして、未だタタリガミの姿が見えない中、灼滅者たちは慎重に都市伝説と対峙していた。
だが敵は稚拙ながら連携を取りつつ、さらに癒しの効果のある羽音で互いの負傷の回復までしている。
灼滅者たちも、催眠効果を警戒しながら戦っているため、一進一退の持久戦となった。
それでも、地力の差によって情勢は着実に傾きつつあった――。
「――敵はどうやら、中衛の二体を優先的に回復しているようですわ」
敵の体当たりを躱しながら、大鎌を振るい無数のギロチンを放つ白雛。敵の動向を注視していたことで、その連携には偏りがあることを看破したのだ。
「確かに、催眠をかけたいなら中衛重視になるのも頷けるな! ならひとまず、そいつらからぶっ飛ばしてやろうぜ!」
白雛の言を受けて、同じく前衛の康也もジャマーと思しき二体へと攻撃を仕掛ける。縛霊手で結界を構築し、二体の動きをまとめて妨害した。
「それじゃあ、そろそろ詰めさせてもらおうかしら」
アリスが周囲に放った符『風鳴・改』が、蠅の動きを封じる。そして結界に締め上げられ、二体の蠅が耳障りな断末魔と共に消滅した。
「――ふむ、諸君らのような者を撃退できる程度には育っていたと思ったが、そう上手くはいかないものだな」
残る蠅へと向かっていた灼滅者たちだが、突如現れた人影へと一斉に振り向く。
●
現われたのは、グレーのスーツを纏った痩せぎすの男。一見するとただの人のようにも見えるが、放たれている威圧感は、男がダークネス――タタリガミであると如実に告げていた。
「思ったほどの成果ではなかったとはいえ、これでも丹念に作った怪奇。消し去られてはたまったものじゃないのでね、回収させてもらうよ」
そんなタタリガミの言葉に、果たして主の贄となるためなのか。残る蠅も灼滅者たちへの攻撃を止め、空中で待機している。
「……やはり現われたのね、タタリガミ。思えばこうして相対するのは、初めてかもしれないわね」
(「タタリガミにも、流れるものはあるのかしら。私の好む赤を見せてくれれば、嬉しいのだけれど」)
そんなことを考えながら、同時に京はタタリガミの動きにも注視していた。逃走する素振りを見せるなら、その退路を断たなければ、と考えていたのだ。
「ようやく敵の数を減らせたというところで、まさか創造主まで出てくるとはな」
鳥の顔を微かに歪めて、苦々しげな表情を作るセレス。もっともそれは本心ではなく、敵を油断させるための演技である。槍を構えながら、タタリガミの次の行動に注目する。
「祟り神――。貴様が蠅を繰るならば。我が脳髄に寄生させ給え。貴様が神たる所以を、我が精神に刻み給え。貴様の存在を嘲笑すべき。貴様の輪郭を哄笑すべき」
朗々と告げるニアラ。それはタタリガミへの挑発のようで、またただ本心を語っているだけにも見えた。
様々な表情を見せる灼滅者たちを見据え、タタリガミはしばらく思案する。そして嘆息と共に肩を竦める。
「……どうやら私の到来すら待ち兼ねていたようだな。口惜しいが、ここで諸君らと事を起こせば、私もただでは済むまい」
それは即ち、タタリガミの撤退の意思を表わしていた。
灼滅者たちはタタリガミを取り囲むと、退路を断つべく間合いを詰める。
「――心意気はよいが、私にばかりかまけていていいのかね。諸君らの相手は、私だけではないはずだが」
包囲されているにも関わらず、タタリガミは臆することなく、使い古されたメモ帳を取り出して見せた。
「諸君らはもうしばらく『それ』と遊んでいたまえ。次にまみえる時には、もっと出来のいい怪奇をご覧にいれよう」
言うなりタタリガミは、自身の周囲に瘴気のようなものを放った。それと同時に、待機していた蠅たちが一斉に攻撃を仕掛けてきた。
タタリガミの攻撃に苛まれ、思わず飛び退く灼滅者たち。そして次の瞬間には、もうその姿は神社から失せていた。
そして残された蠅は、先程までの連携攻撃から一転、ただ闇雲に攻撃してくる。恐らく、撤退のための時間稼ぎを命じられたのだろう。
「……逃がしてしまいましたわ。とにかく今は、この蠅の灼滅を優先しますの」
白雛は悔しそうにそう言うと、十字架の銃口を解放する。そして手近な敵へと、冷気の弾丸を射出した。
「この小うるさい蠅どもめ、突然何如にも蠅って感じに鬱陶しくなったな! それにあのタタリガミ、次に会った時は絶対ぶっ飛ばす、覚えてやがれ!」
仲間たちへと襲い掛かる蠅へと立ちはだかり、白く輝く炎を吹き上げる康也。彼の怒りに呼応し、より白く明るくなっているのである。周囲の敵へ、その炎を浴びせかけた。
「……とは言え実際のところ、こちらも負傷が溜まっていたんだ。あのまま戦っていたら、どうなっていたことか」
向かってくる蠅を蒼色の防御用ナイフ『エアリアル』で牽制しつつ、槍による冷気を見舞うセレス。そのつららに貫かれ、蠅の一体が絶命する。
「主は逃げたというのに、律儀なものね。汚らわしき悪霊の裔。一匹残らず念入りに、潰してあげるわ」
銀色の粒子状のオーラ『銀沙』を両手に集中させるアリス。そして放たれる白銀の一撃が、さらに一体の蠅を貫いた。
「真の闇から目を背ける祟り神よ。貴様は実に愚かしき物体と解す。いずれ我が闇で、真なる怪奇というものを理解させるべき」
ほとんど対話らしきものもなく去っていったタタリガミを、心底嘲笑するニアラ。その感情を叩き付けるかのように、猛烈なジェット噴射と共にバベルブレイカーを打ち込んだ。
傍らのビハインドも主に続き、霊力を込めた拳を蠅へと見舞う。
「……残念だわ、私の心を震わせるような時間が得られなくて」
そしてそこへ、サイキックを込めた京の歌声が見舞われる。力ある歌声に蝕まれ、蠅は金切り声と共に消滅した。
●
残る一体の蠅へと、白雛は影の刃と共に飛びかかった。
「本当の悪は取り逃がしてしまいましたが、これでもう蠅に襲われる人はいなくなりますわ。小さな悪も、見過ごしませんの!」
漆黒と純白の火花を撒き散らしながら、影の刃を一閃する。そうして、巨大な蠅の都市伝説は、完全に消え去ったのだった。
――都市伝説を灼滅した彼らは、傷を癒やしてから帰還することにした。
隙を突いてタタリガミが襲ってこないかと警戒していたが、そのような様子はない。本当にあのまま、何処かへと去ってしまったようだ。
周囲の安全が確保されたところで灼滅者たちは、不幸にも事件の現場になってしまった神社に参拝しておくことにした。
「大切な神社を、一度は不浄な輩に占拠されてしまって、カミサマも嘆いているでしょうからね。お参りぐらいしていっても、バチは当たらないでしょう?」
そう言って、きちんと礼に則り参拝する京。
「バチどころか、御利益があったりしてなー。……どうかあのタタリガミを、この手でぶっ飛ばせますように!」
逃がした敵へのリベンジを誓い、盛大な拍手と共に祈願する康也。おでん缶を供えて行こうかとも思ったが、こうも人通りがない神社では、かえってゴミになってしまうかもしれない――などと考え、若干気が引けていた。
「そうですわね、槌屋様。今回のような事件を、また今後もどこかで巻き起こすのかと思うと、私も我慢なりませんわ!」
康也に習い、彼のダークネスの断罪を固く誓う白雛であった。
「……遍く神は総て人間の被造物――否、人造物で在る。即ち、既知の範疇であり、最も崇高な未知の恐怖には及ばぬと解く」
そうしてあらゆる神格を冒し涜すニアラには、参拝など無縁のもの。とはいえ、今回のタタリガミは彼にとっても看過できぬものである。彼にとっては、人間の副産物に過ぎぬ祟り神など、完全否定されるべき対象である。
「……ただ、タタリガミというダークネスには注意が必要だわ。自ら噂を伝播して都市伝説を生み出し、それを糧とすることで力を得るなんて、本当に厄介。あのタタリガミも、次に会う時はさらに強力になっているでしょうね」
学生でもあり、灼滅者でもあり、そして今では母でもある。それら全てを、これからも全うしていけるだろうか――思わずアリスは、そんな不安を覚えてしまった。だがそれでも、彼女は進むしかない。この幸せな日々を守るためにも。
そんなアリスの言葉に頷きながら、セレスは腕組みしつつ何事か考え込んでいた。
「今回のようなタタリガミの事件も、ラジオウェーブの影響を受けているのかな。
それに、七不思議の蒐集、集めて完成させて力を強化という点、刺青羅刹の刺青と似ているような……。考えすぎか?」
学園が力を付けつつあるとはいえ、まだまだわからないことは山積みだ。今回のような敵を取り逃さないためにも、もっと知り、そして強くなることが必要だ――そんなことを考えていた。
帰り掛けの参拝によって、各々が抱える種々の思いを、今一度堅固なものにした灼滅者たち。これからも続く戦いの日々に向けて、帰路へとつくのだった。
作者:AtuyaN |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年6月1日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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