フンドシ締めて! ソイヤソイヤ!

    作者:芦原クロ

     気温が高い、とある浜辺へと、灼滅者たちを連れて来た春日・葎(インフィニティ・d24821)。
    「祭りの盛り上げ役に、命を懸ける……」
     葎が説明し始めた瞬間、一般女性の悲鳴が聞こえた。
    「いやー! 変態!」
    『ソイヤソイヤ! って、誰が変態だ!』
    「だってその恰好! 変態よ!」
    『……ぬう。女子にはフンドシの良さが分からないか。まあ良い! ここからすぐ近くの村で祭りが……って、居なくなっているだと!?』
     一般女性は脱兎のごとく、逃げてしまった。
     残された男は、良く見れば顔だちが整っていて、体つきもたくましい。
     が、残念なことに、フンドシ姿だ。
     男はなにも無い場所から、大きな和太鼓を出現させ、激しく打ち鳴らす。
    「ああ、やはり都市伝説になっていたね。彼が、祭りの盛り上げ役に命を懸けるお祭り男の都市伝説だ」

    『ソイヤ! ソイヤソイヤ! 今日は祭りだ! ……ぬ? そこの若者たちよ、俺になにか用か? もしやフンドシを締めたいのか?』
     灼滅者たちの視線に気づき、男は和太鼓を叩くのを中断する。
     どう言葉を交わそうかと迷っていた葎が、一瞬で、フンドシ姿に変わった。
     驚き、絶句する葎の様子に気づき、男は葎の服装を元に戻す。
    『フンドシを締めたくなったらいつでも言ってくれ! ソイヤ! ソイヤッ!』
     どうやら強制的にフンドシを締めさせようという気は、無いようだ。
     祭り男の熱気とフンドシ姿が、主に女性から恐れを抱かれ、都市伝説化したのだろう。
    「どうだろう、みんな。彼と一緒に和太鼓を叩いたりして、盛り上げてみるのは。フンドシは恥ずかしいかも知れないね。……そ、ソイヤッ」


    参加者
    ギルアート・アークス(極彩の毒猫・d12102)
    戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)
    春日・葎(インフィニティ・d24821)
    フェイ・ユン(侠華・d29900)
    旭日・色才(虚飾・d29929)
    切羽・村正(唯一つ残った刀・d29963)
    エリザベート・ベルンシュタイン(勇気の魔女ヘクセヘルド・d30945)
    ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)

    ■リプレイ


    「こういうノリは血が騒ぐわぁー。ま、楽しみましょ」
     いつでも着物を脱げる状態にしている、ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)。
    (「フンドシ……か。俺に着こなせないものなどない。すなわち、太鼓も使いこなせるということだ」)
     旭日・色才(虚飾・d29929)は、余裕たっぷりの雰囲気をまとっている。
    「ああっ……褌姿を晒すのだけは……!」
     さきほどフンドシ姿になり、鼠蹊部をさらしてしまったのがショックだったのか、早くも崩れ落ちている春日・葎(インフィニティ・d24821)。
    「りっつん頑張ろうぜ! 今日の俺は勝負下着で気合入ってるぜぃ!」
     そんな葎を励ます、ギルアート・アークス(極彩の毒猫・d12102)。
    「男性陣の雄姿を楽しみに!」
    「エリザちゃんがノリノリだ」
     カメラを持参し、嬉々としているエリザベート・ベルンシュタイン(勇気の魔女ヘクセヘルド・d30945)に、フェイ・ユン(侠華・d29900)が楽しそうに笑う。
    「祭りか。ならばこちらも相応の装備で行くとしよう」
     基本的に肌を露出しない戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)が、服を脱いだ。
     祭りの正装、と考えていたのだろう。
     久遠は既にフンドシを締めていた。
    「さあ、フンドシをよこしやがれぇっ!!」
     切羽・村正(唯一つ残った刀・d29963)は、いさましく声高々に、要求。
     望んだ通り、村正はフンドシ姿に変わった。


     村正の目の前に、和太鼓が出現する。
     鍛えたたくましい肉体を、まったく恥ずかしがらずに披露し、太鼓を叩き始める、村正。
    『良いぞ若者よ! 気合いがみなぎっているぞ! ソイヤ!』
     太鼓を叩く技術は無いものの、村正が気合いでカバーしていることは伝わり、男は更に大きな掛け声をあげる。
    「ふっ、祭りの言霊か……なかなかイカしているじゃないか。甦威夜、甦威夜!」
     厨二病の色才は、フンドシ姿で、掛け声を漢字にしている。
    「追い山での太鼓は地元の男にとっては誉だ。いずれその場に立ちたいと思う以上、負ける訳にはいかん」
     フンドシ姿で、上にハッピをまとう、久遠。
    「すごいな……村正さんも、色才さんも、久遠さんも……なんて男らしいんだ」
     心の底から、素直に憧れの目を向ける、葎。
    「りっつん俺も! 既に俺は締めてきているからなにも怖くない!!」
     ズボンを勢いよく脱ぎ捨て、フンドシを見せる、ギルアート。
     ギルアートのフンドシはビビットカラフル。
     派手でカオスなそのフンドシを、どこで入手したのかと、ツッコミが入りそうなレベルだ。
    「祭りは神事だもの、全力でやらなきゃね。褌は特に拒否らないわ」
     ウィスタリアがそう言った瞬間、フンドシ姿に変わった。
    「ギルさんと、ウィスタリアさんまで!? 僕の肉体はそこまで晒せるほどではないから……」
     自分以外の男子は全員、フンドシ姿になってしまったことに、やや焦り始める葎。
    「晒して恥じるような身体などしていない!」
     普段は女性と間違われるほど、女装を好むウィスタリアだが、性根はやはり男子。
     堂々と言い切り、細マッチョまではいかないものの、引き締まった体をさらけ出す。
    「褌は六尺か……分かってるね、兄さん」
     フンドシは六尺派のウィスタリアが、都市伝説に声を掛ける。
    『六尺は良いぞ! 気も引き締まる! しかし越中のほうが良いなら、若者たちよ、いつでも言ってくれ! ソイヤッ』
    「うわぁ……なんかすごいね……でもちょっと楽しそうだし、悪い人じゃないのかな?」
     様子をうかがっていたフェイが、友人のエリザベートの隣で、男性陣を見守る。
    「ボクは自分で持ってきた法被を着て、太鼓をたたくみんなを応援するね。褌は、日本の由緒正しい恰好ってやつなのかな。……お尻丸出しだ」
     フェイは友人の村正や色才に目を向け、2人の尻を見てしまい、顔をほんのりと赤らめる。
     それでも、友人だから見やすいのか、ちらちらと目がいってしまう、フェイ。
    「僕は自前の法被姿で太鼓を叩くね。祭り男さんは見目も中身も男前な上に、己が信念を以って行動している。思わず尊敬するな……」
     和太鼓を出してもらった葎は、素直な感想を言葉に出す。
    『俺が男前に見えるのなら、そう思える若者も男前だ! 相手は自分の鏡だと、よく言うだろう? ソイヤッ』
    「いや、僕は、その……体も鍛えていないし……見せられる程鍛えたいけれど……」
     自分の細身体型に不満が有るのか、日々スクワットやダンベルなどで鍛えている葎だが、効果は今ひとつのようだ。
     もじもじして、言いにくそうに言葉を紡ぐ葎に、男は和太鼓を叩くのを中断する。
    『若者よ、俺が言えることは少ない。なぜなら、ほぼ祭りを盛り上げることしか考えていないからだ!』
     男は豪快に笑ってから、葎の肩を励ますように叩く。
    『だがこれだけは言える。近道した先に、真の漢は存在しない! 恥じることなど無い。昨日より今日、今日より明日と、少しずつ成長してゆくのだ。少しずつ、自分の良いところを磨きあげ、努力を続け、真の漢に近づいてゆく! まずは共に太鼓を叩き、掛け声をあげ、汗を流そう、若者よ!』
     葎の前に和太鼓を出現させ、バチを手渡す。
     大きくて重たいバチを受け取った葎は、緊張しながら一度だけ、和太鼓を思いっきり叩く。
     力強く、漢気あふれる音は、まるで暗い気持ちをすべて吹き飛ばすかのようだ。
    「こういう太鼓叩いたこと無いんだけど、兄さん教えてくれる?」
     ウィスタリアが問うと、男はバチの持ち方や叩く角度などを、丁寧に教えてくれる。
     叩き方を知らない他の仲間たちも、簡単だが、分かりやすく丁寧な説明を聞いていた。
    「この気を感じてしまえば、触発されずにはいられないな……甦威夜、甦威夜……!!」
    「色才くん楽しそう……やっぱり何だか楽しそうだし、ボクも太鼓を叩こうかな。和太鼓を叩くのって初めてで上手くできるか分からないけど」
     叩き方を覚えたフェイが、色才に合わせるように和太鼓を鳴らし始める。
    「こういうのってきっと気持ちの方が大事だよね?」
    『その通りだ、若者よ!』
     フェイの言葉に反応し、男は太鼓の音に負けないぐらいの大声を出す。
    「盛り上がって来ると、褌っていうのもカッコよく見えて来るね。やっぱり、次はボクも褌で……。いやいや。男の子たちは皆似合っているよね」
     あわてて首を横に振り、言い直す、フェイ。
    「ふんどしは女性用も有るみたいね。でも今回は男性陣の雄姿を楽しむのが目的だから」
     フェイに教えながらも、やはり着用は拒む、エリザベート。
    「エリザ! フェイ! フンドシを着ないのか! 无名もフンドシにならないのか! 勢射矢、勢射矢!」
    「え、褌? 流石にそれはちょっと……」
     セイヤ、と掛け声をあげる色才の言葉に、フェイとエリザベートが拒否をする。
     フェイは、ビハインドの无名がフンドシ姿になっていないか、さり気なく確認していた。


    「あなたもわたしもソイヤッソイヤッ」
     バチをカンカンと叩きながら、ギルアートは灼滅者たちの周りを軽やかに、ぴょんぴょんっと跳ねて回っている。
    「ソイヤ! ソイヤ!」
     ギルアートのあおりが効いたのか、最初は小さな声だったが、葎は次第に大きな声になってゆく。
    「ソイヤ! ソイヤッ!」
     フェイも負けず、大きな声を出しながら、和太鼓を叩く。
    「村正、漢達の力を魅せてやろう……! 往くぞ! 心音を奏でてやる! コンビネーションだ……!」
    「よーし、準備はいいな? こっからドンドコ盛り上げていくぜぇ!」
     色才の呼び掛けに村正が応じ、激しいリズムを2人で刻む。
     どちらかがリズムを変えれば、もう片方が瞬時にリズムを合わせるという、息の合った叩き方をしている、村正と色才。
    「ソイヤソイヤッ! ほらほらりっつん! もっと大きな声で! あ、りっつんも褌にしてあげてー」
    「臆せず声をあげて祭りに参加する事は、何て気持ちがいいのだろう……遠くから祭事を見ていた幼い僕に教えたいくらいだよ。ソイヤ! ソイヤ!」
     ギルアートが男に頼むと、一瞬でフンドシ姿にされてしまった葎だが、高揚感からか気にならず、掛け声を続ける。
    「一打一打に魂を込める。お前の魂の響きを聞かせてみろ」
    『望むところだ! ソイヤッソイヤッ』
     自前のバチで和太鼓を叩く久遠の言葉に、男はあっさりと乗ってしまう。
    「やるな。ばってん、そげん事で俺の魂は震えん」
     興が乗ると方言が出てしまう久遠は、魂を込めて力強く、太鼓を打ち鳴らす。
    「どげんした? きさんの魂はそん程度ね?」
    『く……っ!』
     久遠が問うと、男は悔しげにうめく。
    「褌初めて締めたけどけっこー付けてる感なくて、すっげー快適なのな! 俺びっくり!」
     ギルアートは、根負けしそうな男の近くで、フンドシの良さを語る。
    「それでいて色んな布でお洒落も意外と楽しめるなんて、キテるね! ブームキテるね!!」
     おだてて、都市伝説の気分をあげまくろうと、もくろんでいたギルアートの作戦通りに男は姿勢を正す。
    『……良し! まだまだ盛り上げてゆくぞ! ソイヤッ!!』
    「サウンドシャッターは一応、用意はしておいたけどね。無粋な気もするし、必要なさそうなら使わないに越したことはなかったんだけど」
     どんどん盛り上がり、迫力のある重低音が響きわたっている為、一般人が見物に来るのを防ごうと、ウィスタリアはサウンドシャッターを使用する。
     フンドシ姿になった為か、ウィスタリアは男言葉になっていた。
    「それでこつたい。さあ、もっと魅せてみんしゃい」
     久遠がダイナミックに腕を振り、男は久遠の音に合わせて和太鼓を叩く。
     筋力や体力がかなり必要となる叩き方を、久遠と男はそろっておこない、音は一糸乱れぬものとなる。
    「争わず相手の音に合わせる。そん後に共に音を響かせる。これが日本伝統の和の響きたい」
     ドドン、っと同時に打ち終え、リズムを揃えた久遠は、まさしく男前だ。
     男は呼吸を乱しながらも、満足げに笑みを見せる。
    『若者たちよ、1つ頼みが有る。俺を、倒してくれ! そうすれば最高潮に盛り上がるだろう!』
    (「都市伝説とは幾多の出会いと別れを繰り返してきたけれど。素敵な人ばかりだったから、毎回、寂しい……気持ちだな。もうお別れだなんて」)
     男の要望に対し、葎は寂しげな表情になる。
     そんな葎の胸中に気づいたのか、いないのか、ギルアートががっしりと肩を組む。
    「ソイヤソイヤッ! 望み通り最後まで盛り上げちゃおうぜ!」
    「ギルさん……」
     ギルアートの明るさが、葎の迷いを払ってくれる。
    「大丈夫か? ならば、仕上げに掛かろうか」
     気持ちの整理を待っていてくれた久遠が、紺青の闘気をまとう。
    「我流・間破光耀」
     淡く輝く紺青の闘気が、敵を目掛けて、久遠の両手から素早く放たれる。霊犬の風雪は、指示通り回復役にまわった。
    「勇気の魔女ヘクセヘルド、ここに参上ッ!」
    「折角仲良くなれたのに……でも仕方ないんだよね。……村正くん!」
     エリザベートの攻撃にフェイと无名が続き、フェイの呼び掛けに応えて村正が地面を蹴って飛び出す。
    「この熱を!! てめぇに叩き込むッ!!」
    「貴様の心意気に打たれた……というやつか、太鼓だけに……ふっ」
     カッコ良く、うまいことを言う色才。
    「……封印されし絢爛なる魔獣よ、我が力として顕現せよ! 熱い漢の意地、見せてやるか……!」
     村正の攻撃に合わせようと、色才はカードの封印を解く。
    「ソイッ、ヤーッ!!」
    「獄炎に……焼かれろ」
     異形巨大化した片腕で、敵を思いっきり殴って吹っ飛ばす、村正。
     敵が吹き飛んだ位置を知っていたかのように、謎のカッコイイポーズをキメつつ、色才は激しい炎の蹴りを浴びせる。ウイングキャット、クロサンドラの鈴は色才の指示通り動いた。
    「盛り上げのクライマックスか。文字通り命を懸けるその姿に、敬意を表して華々しく散らしてあげる。……派手にやろうぜ、なあ?」
     ウィスタリアの足元から伸びた影が、藤の花のような形で敵を覆い、ダメージを与える。
    「こんなに楽しませてもらったのに、申し訳ない……サイキックで攻撃させてもらうね」
    「頑張るのっ! ソイヤソイヤッ!」
     拳銃を構え、敵を銃撃し、味方を援護する葎。
     ギルアートは霊犬、戒の六文銭射撃と同時に攻撃を叩き込む。
    『ありがとよ、若者たち……これにて終了だ!』
     都市伝説の男は満足げに微笑み、和太鼓をドン! っと一度大きく鳴らし、完全に消滅した。


     戦闘が終わると、都市伝説の能力でフンドシ姿になっていた者たちは、元の服に戻っていた。
    「ふっ、中々に愉しめた宴だったな」
     謎のカッコイイポーズをビシッとキメている、色才。
    「最高にいい汗かいたぜ……ありがとよ」
    「いい汗もかいて気持ちいいね。こんな都市伝説ばかりならいいのになぁ」
     かいた汗をぬぐい、消滅した都市伝説に礼を言う村正に、頷いて見せるフェイ。
     エリザベートは、カメラの確認をしている。
    「太鼓、か……」
     久遠は周囲を確認しつつ、残る余韻に、少し浸る。
    「和太鼓は何気に凄い音出るって分かってはいたけども、打つ側に回ると迫力が段違いだわ」
     丁寧に畳んでおいた着物をしっかりと着つけ直し、久遠の言葉を拾う、ウィスタリア。
    「ふぅ……やり切ったぜ。あばよ」
     ズボンを穿いてキメ顔でその場を立ち去るギルアートだが、フンドシの布を完全にしまいきれず、それは腰のあたりからヒラヒラと風に揺られている。
    「少しでも盛り上げる一助になれていたなら、嬉しいな」
     思い切り太鼓を叩けて、葎は爽快な気分になりながら、美しく青々と広がる空と海をまっすぐに見つめた。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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