白くて不定形のアレなやつ、とろろモッチア登場

    作者:聖山葵

    「このとろろでお尻を痒くしてしまえば、かいてあげるふりをしてわたくしも合法的に男性のお尻を触ったり揉んだり出来ますもちぃねぇ」
     その危険な発言を聞いた瞬間、黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)は凍り付いたように固まった。普通に考えれば、一目散に逃げ出すべき変態発言である。だと言うのに、どこかで聞き覚えのある一人称が足を止めさせてしまった。
    「はっ。今のは、まさか……いえいえ、ありえませんよね」
     我に返るなり、頭を振ると、物陰から顔を出し声の方を覗く。
    「えっ」
     そこにあったのは、白い、人が一人か二人すっぽり入ってしまいそうなとろろで出来たスライムもどきであった。

    「つまり、その白いスライムのようなものを何とかしたいと?」
     倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)に尋ねられたいちごは視線をそらしつつ、ええと答えた。
    「語尾からすると相手は餅のご当地怪人だと思うのですが……」
     例によってエクスブレインが不在の為、闇もちぃしかけの一般人なのかただのダークネスなのかがわからず、わかっていることは一つ。
    「男性のお尻が好きであるということです」
    「変わった趣味の方のようですね」
     語るいちごの瞳はなんかすわっていた、そして緋那は動じずコメントする。
    「このままでは――」
     罪もない男性が犠牲になってしまう。それは避けねばならない。
    「ですから、説得してそれから戦闘を挑もうかと」
     闇もちぃした一般人を救出するには戦ってKOする必要がある為戦闘は不可欠なのだが、人の意識に呼びかけることで弱体化させることが出来る。弱体化すれば救出可能かも知れないという目安になるし、試みて損はないだろう。
    「説得するならとろろ餅を持って行けば話のとっかかりになると思います」
     もしくは誰か男性を生けに、もといサクリファイスするか。
    「ちょ、今言い直しても犠牲になってましたよね?」
     思わずぎょっとするいちご、性別的には一応男性の筈である。もちろん、女性が男装して囮になると言う手もある。この場合のは、ばれてしまえば囮としての効果を保てるか未知数であるが。
    「おそらく、あのご当地怪人はまだ遠くには行っていないと思います」
     幸いにもいちごは気づかれる前に引き返せた為、とろろスライムもどきは目撃されたことにすら気づいていない可能性がある。
    「それから、周囲に人気はなかったので人よけの用意も要らないと思います」
    「接触自体は目撃現場に赴いて周辺を捜索するだけでよい、と?」
     緋那の確認へいちごは首を縦に振ることで肯定し。
    「戦闘になればご当地怪人ですからご当地ヒーローのサイキックに似た攻撃をしてくると思います」
     そして、不定型な外見からしてとろろを影業の様に扱うのではないかといちごは予測を立てた。
    「いずれにしても、犠牲がでるのは避けたいですね」
     君達に向き直った緋那は尋ねた、協力をお願い出来ますか、と。


    参加者
    辻堂・璃耶(六翼の使者・d01096)
    深杜・ビアンカ(虹色ラプソディア・d01188)
    墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)
    保戸島・まぐろ(無敵艦隊・d06091)
    緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)
    黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)
    過岩・りんご(デリシャスなビーナス・d37725)

    ■リプレイ

    ●大人になるって悲しいことなの
    「この人、口調とか声の感じからすると、また妹のそっくりさん……?」
     自分の言葉をいえまさかですよねと頭を振って否定した黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)への反応は様々であった。
    「あー、うん、まただね」
     心情を言語化したならそうなりながらいちごを眺める墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)は多分またりんごシリーズなんだろうなぁと思っていたし。
    (「なんというか、まぁ、その……いちごさん、ファイトっ」」
     その確信は他の面々も同様だったかも知れない。緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)は声には出さず密かにエールを送る。つまり、概ねそっくりさんであろうと見なしていたのだ。
    「それはさておき、また妙な性癖の餅が現れましたわね」
     桐香がちらりと見たのは、同行者であり胸を揉むのが好きなモッチアになりかけていた過去を持つ、過岩・りんご(デリシャスなビーナス・d37725)。
    「はぁ……楽しみです」
     りんごは燃えていた。吐息すら微熱を帯びる程の渇望はこの先で待つナニカに向けられているのだろう。もちろん同じ闇もちぃと言う境遇にあるのであれば、話にある白いスライムもどきと化した何者かを助けようと言う気持ちはあった。
    「滾る気持ちが抑えきれません。速く向かいましょう」
    「そうですね」
     真剣な表情故にか、内包する欲望に気づくことなく倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)は相づちを打ち。
    「目的地はどちらですか?」
    「今回も……なのね……。これが大人になるってことなのかしら……」
     目撃現場を緋那が情報提供者に問う中、深杜・ビアンカ(虹色ラプソディア・d01188)は言葉の一部を省略しつつ夕日を眺めて嘆息した。
    「実は私、とろろを食べたことがないんですが、そ、そんなに痒くなるものなんですか……?」
     黄昏れるビアンカの様子に自体を重く見たのか、辻堂・璃耶(六翼の使者・d01096)は周囲に尋ねる。そもそも、不穏なことを目撃されたソレが口走っていたのだから無理はなく。
    「尻餅をつく……、って、意味は違うよね……?」
    「とりあえず、いちごセンパイとまぐろちゃん、囮頼んだわ」
     白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)も不安そうに自分のスパッツへ視線を落とす一方、ビアンカの口から出たのは答えとは別の言葉。
    「……そっか、男の人が狙われるみたいだし、今回は私、大丈夫だよね……?」
     囮の誰かなら顔をひきつらせても仕方のないその言葉は早苗の気を少しだけ楽にしたらしい、いや。
    「それにしても、最近すっかり暑くなりましたね……。ついついノースリーブに短めのスカートで来てしまいましたけれど……」
     ポツリと漏らした璃耶もちらりと自分のスカートを見てから言葉を続ける。
    「まあ、囮役のいちごさん、まぐろさん達がいらっしゃいますし……後ろに控えてますから大丈夫ですよね」
     もう一度大丈夫ですよねと繰り返す様まで含めて、ここはフラグ立て選手権会場かと錯覚させる状況だったが、誰も指摘はせず。
    「胸がないのがこんなところで役に立つとはね」
     男装した自分の胸に目を落としていた保戸島・まぐろ(無敵艦隊・d06091)は被っていた野球帽のつばを掴んで位置を調整すると、行こうかと残る囮役の面々に呼びかけた。そう、気づけば一同は目撃現場近くまで辿り着いていたのだ。

    ●おや、ご当地怪人の様子が
    「私とまぐろさんはともかく、緋那さんはちょっと苦しそうですね、胸……」
     苦笑するいちごに緋那は問題ありませんと応じて見せた。
    「……、囮役みんな、どうかご無事で」
     ハラハラしつつ見守る早苗の視界の中で三人は路地裏を奥へと進み。
    「あ、あれです」
    「なっ、もちぃ?!」
     おそらく両者が相手を認識したのはほぼ同時。
    「ともあれ、驚いてるようですし今の内です」
     穏便に近づいて話しかけましょうといちごは促す。
    「……すぐさまとろろかけられてお尻揉まれる予感しかしませんが」
     もちろん、そうフラグになる一言を付け加えるのも忘れない、だが。
    「どちらが受けで攻めですもちぃ?」
    「えっ」
     驚きから復活したご当地怪人が投げかけてきたのは、とろろではなく問いだった。
    「まさか男性が複数連れ添って通りかかるなんて僥倖ですもちぃわ」
     嬉しそうに身を捩るとろろスライムもどきはそれではと身を屈め。
    「ええと、とろろ餅を持って来」
     流石に危機感を覚えたか会話すべくいちごが切り出そうとした瞬間、噴出したとろろが放物線を描きまぐろ達目掛け振ってきたのだった。
    「ち、ちょっとまって! すごいわちゃん、胸だめぇ、私味方だからぁぁんっ!?」
     ちなみにこの段階で何故かりんごに襲われた由希奈が甘い声を漏らしつつ身を捩っていたが、りんごからすれば由希奈は母親認定した相手だからきっと仕方ない。
    「あら、大変もちぃ。痒くなるでしょうからかいてあげますもちぃね」
    「にゃっ?! や、やめっ……っ」
    「な、なにさわってるんだ!!」
     白々しいことこの上ないとでも言えばいいのか。痒くなったかどうかを確認することもなく嬉々として不定形の身体から少女のモノである腕を生やし、怪人はいちごやまぐろのお尻を狙い始め。
    「ああ、そちらの方は申し訳ありませんけれどもう少し我慢して下さいもちぃねぇ。腕は二本しかありませんもちぃし」
    「お尻くらい自分で掻けますからー?!」
     申し訳なさそうに緋那へ謝る間も攻防は続いていた。
    「そうは言いますけれど感触がわかるのとわからないのとでは同人誌に書き起こした時の出来が変わってくるもちぃわ」
    「や、同人誌って」
    「はっ、いちごくんの助けを求める声が聞こえる!?」
     若干困惑した様子のとろろスライムもどきの言にいちごが言葉を失う中、りんごに甘えられたままの由希奈は顔を上げ。
    「そこまでですわ!」
     割って入った桐香は言う。
    「とりあえずまぁ、合法的に触りに行くというその姿勢嫌いじゃありませんわ! 私だって常日頃、いちごさんをいかにして胸の谷間に挟むか考えてますもの!」
    「桐香さん?!」
    「合法、いい響き……でも頂けないのは、そのやり方ですわ!」
     そのいちごさんが思わずお尻を守るのも忘れて叫ぶも、聞こえていない様であり、どこかうっとり賭しつつも頭を振るとビシッととろろスライムもどきに指を突きつける。
    「女は度胸! 堂々と襲ってその責任をとるべきかと! ましてや闇の、ダークネスに落ちてからやるなんて……女のプライドというものは!?」
    「も、もちぃ、責任……」
     この瞬間、桐香の言葉は確かに怪人をたじろがせた、ただ。
    「そうですもちぃね。わたくしが間違ってましたもちぃ。痒くさせたなら責任を持って治るまでお尻に薬を塗ったり揉んだりしないといけませんもちぃね」
    「いえ、桐香さんはそう言う事を言いたかったのでは無いと思いますけど」
     斜め上な解釈に犠牲者その1がツッコミを入れ。
    「そもそも、いつまで触ってるのよ!!」
     堪忍袋の緒が切れたまぐろはいよいよ演技を投げ捨てた。
    「あんたが触ってたのは私のお尻よ!! よくも女子のおしりを触ったわね!!」
    「なっ、そんな」
     ご当地怪人にとってまぐろの暴露は衝撃が大きすぎたのだろう、硬直したかと思えば白スライムもどきはぐにょりと沈み込んだのだ。
    「わたくしのBLが、新しい本のアイデアが……」
    「変わった趣味の方のようですね」
     痒みを堪えた緋那のコメントはどことなく聞き覚えのあるもので。
    「というかとろろ好きなら、人にかけないでちゃんと食べま、わぁっ」
     ともあれ、動きが止まった今こそチャンスと見たいちごはもがきつつも注意しようとしたところでとろろに滑ってバランスを崩し。
    「ちょ、なんかかゆい!! かゆいかゆい!! えっ」
    「危」
     倒れ込む先にいたのは、服にかかったとろろが染み込んで痒くなり始めていたらしいまぐろ。そして、もう一人の囮。
    「「きゃあああっ」」
     上がる悲鳴、結局いちごはやらかしたのだ。支えを求めた右手が緋那の胸のサラシを剥ぎ取りながら一緒に服の襟から胸元にかけてを破り、もう一方の手はまぐろの胸を掴み損ねてどうしてそうなったかわからないがまぐろのお尻をお鷲掴みにし。
    「いちごさんとまぐろさんと緋那さんが大変なことになってますわね!? ちょっとまぐろさん、いちごさんは私の……って、とろろ滑」
     この惨状にもぶれなかった桐香が駆け寄ろうとして転び。
    「あんっ」
    「わわっ、すみませんっ」
     気持ちよさそうな声を漏らし喘ぐ桐香の胸からいちごは慌ててサラシがからまった右手を離そうとする。
    「いちごさんはなんだかすごい……素質? 体質ですのね。 あ」
     りんごは羨ましそうにトラブル現場を眺めていたが、すぐに気づいた。
    「こうしてはいられませんわ。あの様子ではお尻だけでなく胸も痒くなっているかも知れません。この日のために鍛えた技で……こう、とろろ攻撃を受けて痒がってる人を思う存分揉む……いえ、掻いて助けてあげませんと」
    「わ、わざわざ他人の手を借りずとも、その、お……お尻や胸ぐらいはご自分で掻くことができると思います……!」
     あまりにも欲望だだ漏れなりんごに璃耶がやんわりと言ってみるが、効果があったかどうか、ただ。
    「い、今なら……」
    「あっ」
     注意が逸れたのは由希奈にとっての好機だった。密着したりんごの身体を何とか引き剥がすことに成功したのだ。

    ●いつもの
    「いちごくん、今行くよっ!」
     ご当地怪人の被害者から既にとらぶる的な意味で加害者になってる気もしたが、それはそれ。由希奈は愛しい人を助けようとご当地怪人達の方へと駆け出した。
    「っ、邪魔はさせませんもちぃ」
     だが、これを唯一の男性の強奪と見た白スライムもどきはとろろの表面を波打たせると牽制のとろろを放つ。
    「アレにあたったら肌が大変な事に……、うん、避けなきゃ……!」
    「ひゃぁぁぁぁっ!?」
     無差別に灼滅者達を襲うとろろの雨を見て早苗は回避行動に移るも自分から突っ込んで行く形になった由希奈には避けようもない。
    「うぇぇ、髪の毛も顔も白いとろろまみれ……あれ、何でいちごくん目をそらしてるの?」
    「いえ、その……そんなことより皆さんを守らない、とぉ?!」
    「いちごくっ」
     気まずげな表情のまま、身体を起こそうとしたいちごと慌てて支えようとした由希奈の両者がとろろで足を滑らせ。
    「……んむぅっ!?」
    「ちょっと複雑ですもちぃ」
     男同士のそれが見たかったのだろう。生じたハプニングキスに怪人はぐんにょりし。
    「うっ、く……痒……で、でも、掻きむしったらお肌によくない……っ」
    「か、かゆい! 水! 水!」
     巻き添えを喰った形の璃耶が身もだえする中、ビアンカはとろろまみれの日傘を投げ出すと水を取り出して被るも。
    「しまった……白だから透けちゃう……」
     待っていたのは濡れ透けと言う結末。
    「ど、どこか洗い流す場所を……あ、ビアンカさん私にも水を、っ」
     それでも初めて経験する妙な触感と痒みから脱する術を探していた璃耶にはまだマシに思えたのだろう。水を分けて貰おうと近寄り、ずるりと滑る。
    「きゃあ!?」
     傾いで行く身体が倒れ込む先に現在進行形で絡まる犠牲者達とビアンカが居たのはもはやお約束だろうか。
    「すみまっ」
    「センパイ、何度目よ!?」
     ビアンカは激怒した。濡れて透けた白ワンピースのボタンは何処かに飛び、謝る誰かに襟を掴まれたせいで片胸が零れ出てしまってるのだ、これで怒らない方がおかしい。例えビハインドのアリカに叩かれ、お仕置きされている真っ最中であろうとも。
    「ん゛んぅ」
     どこから取り出したか人によっては罰ゲームになりそうな味のお菓子を口に流し込むという報復手段をとり。
    「く、痒……痒いのにかけな……あ、う」
     仲間の下敷きになって身動きが取れずとろろまみれになったまま痒みに襲われ続ける璃耶の手は震えながら握ったり開いたりを繰り返す。惨事の片隅は謎の犯罪臭がした。
    「ああ、みんなが大変な事に……えっ」
     難を逃れていた早苗も思わずそちらに目をやり、ふいに肩を掴まれる。
    「わ、私は男じゃないよ!」
    「ええ、わかっていますとも」
     男でなければ大丈夫という油断があったのだろう。ただ、早苗を捕まえたのはご当地怪人ではなく凄い方のりんごだったのだ。
    「本当は女性よりは男性がいいのですけれど、いちごさんはちょっと細すぎますわね」
     獲物をキープしたまま相変わらずとらぶっている誰かさんを横目でちらりと見ると視線を戻し。
    「ちょ、ちょっと……」
     きっと早苗が襲われたのは行きがけの駄賃というか妥協の結果。
    「さて、他の方も癒やしてあげませんと」
     嫌がられたところで早苗を解放するととろろまみれになって絡み合う仲間の元へ向かう。
    「いい加減にしなさいよ!! 男だから合法も何もないんだからね!! あんたがやってることはただの痴漢だから!!」
     丁度まぐろが身を起こし、怪人に説教している所であった。
    「もちぃ、そうは言われましても、そこにお尻があったら愛でるのは仕方ありませんもちぃよねぇ」
     端から見れば謎の理屈であったことだろう、だが。
    「わかりますわ」
     わかってしまう人がやって来てしまったのだ。
    「では取引と参りませんか? わたくしは受けではありませんが、胸を揉ませて頂けるなら」
    「お尻を揉んでもいいもちぃと? 取引成立ですもちぃ」
     いや成立するなよと言うべきか。
    「惜しむらくは相手が男性でないことですわね」
    「そうもちぃわね、複雑もちぃ」
     需要と供給、謎の意気投合を見せた二人に他の面々が置いて行かれる中。
    「目を覚ましなさーい! 元に戻ったら好きなだけセンパイのお尻揉んでいいから!」
    「わかりましたもちぃ!」
     ビアンカの放った一言に怪人は脊髄反射で応じ。
    「うっ、頭が……ぐぬぬ、良くも邪魔をしてくれたもちぃわね」
    「追いつめられてダークネスが表面に出てきたようですね」
     豹変する白スライムを見て緋那はポツリと漏らす。
    「それは、いいから……私の上から退」
     顔を赤らめ身じろぎする璃耶はそろそろ誰かが助けた方が良いのではないだろうか。
    「ErzahlenSieSchrei?」
    「こうなったら実力行も゛べっ」
     危ない扉が開きかかったところで突如、重しの一部が璃耶の上から退く。スレイヤーカードの封印を解いた桐香が焔に包まれた足で蹴り飛ばしたのだ。
    「よく、も……」
    「ごめん……、今度こそスパッツを守りたいから! え?」
     ヨロヨロ身を起こす怪人に謝り、早苗が歌い出せばここまでのドタバタが負荷になっていたのかスパッツはパッツンとはち切れてずり落ちた。
    「何で?!」
    「っ、そんなにお尻を揉んで欲しいのですもちぃ?」
     白スライムもどきの注意が当然の様に逸れるがそれは失敗だった。
    「もぢゃばっ」
     上半身だけ起こした璃耶が殲術道具で斬ったのだ。
    「く、力が出な……」
    「いいわ、私があんたを鍛え直してあげる!! 助かったら学園に来なさいよ!! いいわね!!」
     説得が効いていたのだろう蹌踉めく怪人に呼びかけるとまぐろは炎を宿したギガ・マグロ・ブレイカーを振り上げ。
    「ここで終わらせるわ」
     矢をつがえビアンカは天星弓を引き絞る。
    「もぢゃば」
     視界に映るのはお仕置きを一時中断し真面目に戦うアリカに怪人が霊障波を叩き込まれる光景。
    「も、もっとお尻も゛」
    「あ、やっぱりそっくりさ、って、ちょ」
     彗星の如き強烈な矢で射抜かれたそれはとろろスライム部分を崩壊させながら傾ぐと人の姿へ戻りつつお約束の様にいちごの方へ倒れ込んだのだった。

    ●きっと腐ってる
    「うえー……、お洋服どうしよ……」
    「うぇぇ、どろどろ……」
     戦いが終わり、早苗と由希奈はほぼ同時に悲鳴をあげた。共通するのはどちらの服もとろろで汚れていること違いがあるとすれば由希奈の方が汚れ具合が酷いことだろうか。
    「ちょっと服とか整えないと……ぅ」
    「ねぇ、これどうしよう……?」
     手鏡を覗き込んだまま由希奈が急に顔を真っ赤にして俯く一方で早苗はとろろまみれになって落ちているスパッツにやった視線を仲間達に向ける。救いを求めたのだろうか。
    「まったくひどい目にあいましたわ。さて、アリカさん、私が合流したからには安心してくださいませ」
     だが、視線の先にいた桐香は未だお仕置き続行中のアリカに声をかけているところであり。
    「大変ですねぇ」
     惨状の例外なのはクリーニングを用意してきて自分は汚れを除去したりんごくらいだろうか。
    「ああ……ずるい」
    「わたくしは受けではありませんので」
     ふふと笑ったりんごはそのまま倒れた少女の元へ。
    「う……わた、くしは……」
    「気が付かれたようですわね」
     呻きつつ目を開けた少女に微笑みかけると、桐香とアリカに挟まれた形のいちごを示す。
    「さ、約束ですからねぇ。好きなだけどうぞ」
    「あ」
     おそらく、ビアンカが説得の時に叫んだ言葉のことだろう。
    「そう言えば、そうでしたねぇ」
    「ちょ……と、ところで、何岩りんごさんなんでしょう……?」
    「かゆうま、ではなく花有岩・りんご(かゆいわ・りんご)と申しますわ」
     顔をひきつらせ、何とか誤魔化そうとするいちごに少女は答え笑顔でにじり寄る。結局いちごのお尻は犠牲になったのだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年5月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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